輪廻と遡行【魔法少女ふるで☆りか】   作:夢遊の残骸

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生命 【視点-古手梨花】

 

鹿骨歴史資料館。

 

田舎町にしてはやけに大きく、其の造形も立派に煉瓦仕立てで物々しい。

けれど、人の出入りはやはり少ないようだ。入場口には特に客の影は伺えない。

受付に佇む中年の男性は物珍しそうに私達を見て。

 

「何処から来たんだい。」

 

そう、嗄れた声で訛りを滲ませつつ、告げた。

 

「見滝原です。」

 

さやかが告げると、その男性はどこか嬉しそうに。

 

「都会の方だねぇ。どうしてまた此処に。社会勉強かい?」

 

と、笑みを見せながら告げる。

 

「ボクは…まぁ、そんな所なのです。」

 

さやかがすぐに答えなかった1秒間の沈黙を経て私は口を開いた。

 

「そうかい、偉いね。ゆっくり見ていっておくれ。…気分が悪くなったりしたら、声をかけてくれて構わないよ。」

 

男性は眉を下げながら優しく、"忠告"してくれた。

 

その口ぶりから察するに、楽しい場所とは決して言えないだろう。

寧ろ。

 

入場した私達は案内マップを前に佇む。

 

「広そうね。順路になっているようだし、せっかくの機会だわ。全体を回りましょう。」

 

「オッケー。…静かだね、此処も。」

 

「そうね。観光客なんて、余り居なさそうだもの。」

 

声のトーンを落とし気遣いながら会話をしても、微かに残響する。

その声に混じり、二人の足音がこん、こん…と館内に響く。

地元の人間が訪れるような場所でもない。かと言って観光客も中々居ないのだろう。

 

恐らく二人きりの館内は、恐ろしい程に寂寞を纏い。

まるで誰も寄せ付けたくないとでも言わんばかりだ。

 

傍らには江戸時代の書物や刀等が飾られてある。

甲冑がガラス越しに此方を見つめているようで、落ち着かない。

 

其れ等にも勿論、趣はあれど、目的ではない。

一瞥する様に眺めつつ、其のゆっくりとした二人の歩みは進み往く。

 

「…なんだか、様相が変わってきたね。…あ、ねぇ…梨花。オヤシロ様だって。…何々…?ふんふん。」

 

さやかが足を止めつつ指を指したのは祭具殿なるものに保管されていたらしい、鍬や神楽鈴。

いわゆる神具であろうか。

 

其のガラスに貼り付けられた説明パネルによると、古手神社に存在していた祭具殿に保管されていた物らしい。

 

…やはり、どこか懐かしく。

 

まるで私も扱ったことがあるかのような、錯覚。

 

古手の血筋故だろうか。

 

恐らくかなり古い物であろうにも関わらず、損壊は特に見受けられない。メンテナンスがしっかり成されているのだろうか。

 

じっくりと隈無く観察してしまう私を尻目に、さやかは沈黙を経て他の箇所にも目を向ける。

 

「…此れ。あたしも、なんか知ってる。…アイアンメイデン、だっけ。怖…。」

 

彼女が見つめる其の拷問具は、仏を象ったようなフォルムの箱だ。

人が入れる程度の大きさで、内側には針が無数に敷き詰められており、その扉を閉めると同時に中の人間を損壊するように設計されている。

 

「…道理で、あの男性が心配する訳ね。」

 

其のグロテスクな説明文に苦笑する私達は、案外…まじまじと其の造形を眺めていた。

 

続けて歩みを進める。

只ならぬ雰囲気を感じながら。

此処には凄惨な歴史が飾られてある事をしかと、覚悟して。

 

次いで私達の目を奪った一角には

 

 

雛見沢連続怪死事件

 

 

と書かれている。

 

 

未だに犯人不明の連続怪死事件について。

其の具体的な内容こそ余り記述はされていないものの、鬼隠しという逸話との関連性についてが言及されていた。

 

誰かが死に、誰かが消える。

 

其の胡散臭く気味の悪い事件はやはりどこか聞き覚えがある。

 

ざわざわと、胸の奥で蠢かれるような、気味の悪さを帯びて。

 

「…実際に起きた事だもんね。…単純に馬鹿馬鹿しいって、言えない所がまた…。…怖。」

 

目を細めてにわかには信じ難いと言わんばかりに、怪訝を漂わせるさやかが其の文字列に飽きたのか、歩み始めるも。

 

「…あぁ、ごめん。もう少し読んでたい?」

 

奔放ながらも細かな気遣いを見せる其の愛嬌に。

私は彼女に信頼を置いているのだと、改めて気付かされる。

 

「ありがとう。大丈夫よ。」

 

けれど、わざわざ口に出す程、私は愛嬌が良くない。

…今は。

 

その理由は視界の先に見える一室と、その入口上部の壁に貼り付けられた文字列。

 

 

雛見沢大災害

 

 

…私が欲しい情報があるとするならば。

 

恐らく、此処だろう。

 

私の先祖が関係している、災害。

 

…私が居た…と思われる、雛見沢を消滅させた、原因。

 

分校の中で見た上履きを思い出す。

 

ふるで りか。

 

私があの場所に居た事を示す証。

 

「行きましょう。」

 

「ん。」

 

相変わらず静寂に包まれた館内は、私達を取り囲み監視しているかのようにすら、感じられた。

 

 

「…ッ、酷い…。」

 

さやかが嗚咽交じりに漏らす。

 

ブルーシートに覆われた人型。

 

トラックの荷台に詰め込まれた、大量の遺体。

 

遺体と遺体の隙間からはみ出す、機能を失った他の遺体の腕。

 

死後硬直だろうか、不自然に手指を歪にしたまま虚空を見つめる、"元"有機物。

 

蝿に集られた、液体に汚れた遺体と思われる鎖骨から胸元にかけて。

 

そんな、見るに耐えない凄惨な…生命の終焉達が、写真として…残されていた。

 

 

 

…苦しかった、だろう。

 

…怖かった、だろう。

 

そう、彼らの瀬戸際を想像しただけで…頭が重くなり。

 

胸を抉るように、悲痛を与えられる。

 

きっと。

 

きっと…私に関係する人間も。

 

否、もしかしたらこの写真の何処かに。

 

…思考を巡らせれば巡らせる程に。

 

無力を思い知らされる。

 

確実に、私に関係している筈なのに。

 

彼らを、忘れている。

 

忘れてはいけない筈なのに。

 

忘れている。

 

…私は。

 

罪人だ。

 

何分、その写真を眺めていただろうか。

 

気が遠くなるような。心の中に広く風穴が開いたかのような。

 

この感情は。

 

虚無と、罪悪感だ。

 

 

 

 

「梨花。」

 

私の頬をさやかが指で拭う。

 

その感触は湿り気を帯びていた。

 

 

 

「…ごめんなさい。」

 

告げた謝罪は。

 

さやかにでもあり。

 

彼らにでもある。

 

それ以上、視線を写真に向けても…私は心を締め付けるばかりかと。

そう考えては次に目を向ける。頭の中で、凄惨な写真が未だ…こびりついている。

 

…あぁ。

 

 

 

雛見沢大災害 被災者一覧

 

 

 

散々、覚悟を決めているつもりだったけれど。

 

やはり、いざ目の当たりにすると…躊躇が過ぎる。

 

後戻りできないような、気がして。

 

それでも。

 

思い出さなくてはならない。

 

少しでも彼らの事を思い出したい。

 

知りたい。

 

そして、自分が何者か。

 

其れに近付く為には、避けては通れない。

 

其の無機質な文面に、私は目を向けた。

 

戦うように。

 

敵を見据えるかのように。

 

 

 

 

 

 

富竹ジロウ(本名不明)

昭和58年6月19日、村内にて自殺。

鷹野三四

昭和58年6月19日、山中にて焼死体として発見。

入江京介

昭和58年6月21日、診察所内で自殺。

知恵留美子

昭和58年6月22日、雛見沢大災害の避難中に事故死。

 

 

 

…過ぎる。

 

眼鏡をかけたタンクトップの男性。

 

 

 

…過ぎる。

 

どこか妖しい金髪の女性。

 

 

 

…過ぎる。

 

眼鏡をかけた、お医者さん。

 

 

 

過ぎる。

 

…学校の、先生。

 

 

 

「梨花?」

 

案じているのだろうか、さやかに声を掛けられる。

私は、其れすらもどうでも良いと思える程に、動悸を高ぶらせて、緊張している。

冷や汗が、手の平を湿らせているのが、分かる。

…私は、やっぱり、知っている。

 

 

 

「この人達を…知っているの…!!!!」

 

 

 

竜宮礼奈

昭和58年6月22日、雛見沢大災害にて死亡。

 

 

 

愛嬌の良く、可愛らしい…ベレー帽の似合う女の子。

 

 

 

北条沙都子

昭和58年6月22日、雛見沢大災害にて行方不明。

 

 

 

お嬢様口調が憎たらしい、同居人。

 

 

 

園崎詩音

昭和58年8月27日、収容先の病院にて自殺。

 

 

 

とある姉妹…双子の妹。

 

 

 

…みんな、みんな。

 

仲間だ。

 

…私の大切な、仲間だ。

 

 

 

前原圭一

昭和58年6月22日、雛見沢大災害にて死亡。

 

 

 

…私を救ってくれた、大事な…唯一無二の。

 

 

 

ヒーローだ。

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、死んでしまったの…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

せっかく、思い出せた。

 

ようやく、思い出した。

 

けれど、あなた達は。

 

もう、いないのね。

 

どうして。

 

どうして。

 

どうして。

 

どうして。

 

どうして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古手梨花

昭和58年6月21日、神社にて他殺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ああ。

 

私も

 

死んでるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苦しい、動悸が止まらない、私は、死んでいる、仲間も、死んでいる、みんな、私の、周りの、人は、死んで、いる、無い、居ない、無、消失、遺体、灰、私は、死んだ、死んでいる、死、死。

 

怖い、死にたくない、もう死んでる、じゃあ、今の、私は、この、私は、誰、何。

 

 

 

 

 

 

 

 

「梨花。」

 

 

 

抱き寄せられる。

 

…やけに喉が渇いている。ひゅーっ、ひゅーっ、と喉から切れかけた息が鳴る。

血の香りがする、錆びた鉄のよう。

冷え切った手指、全身から熱を奪われたかのよう。

鼻から、血が出ているみたいだ。

そのせい、みたい。

震えていた。

髪がぐしゃぐしゃで、指に何本も、絡みついている。

目が染みる、渇いた眼球が痛い。

 

「…落ち着いて。」

 

 

 

さやかだ。

 

 

 

あたたかい。

 

 

 

冷えきった私の身体を抱き締めて、暖めてくれている。

 

 

 

「…あんたは此処に居る。あたしが証明する。」

 

 

 

…少し、痛い。

 

 

 

………。

 

 

 

段々と、整ってきた息遣い。

 

収まり往く恐怖。

 

彼女は、私にとって、今、安堵である。

 

 

 

「…ありがとう…。」

 

 

 

力が出ないけれど。

 

私はさやかの背に手を回して、寄せた。

 

…体温を感じる。

 

私は、"居る"。

 

………私は。

 

生きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

園崎魅音

昭和59年8月27日、入院先の病院にて行方不明。

 

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