暁美ほむらの夢を見た。
彼女の愛は余りにも深くて。
畏敬すべきとも呼べる程の
私がかつて抱いた恋慕など
塵も同然の、深々しい愛。
認めたくないけれど、私は彼女を尊いと思った。
真摯なる崇高な彼女の愛は、きっと誰もが歪で禍々しいとさえ感じるだろう。
…私は、それでも。
彼女の愛は、何にも代え難いとさえ感じた。
彼女の努力。
想い。
疲弊をひた隠し只管に戦った、強さを。
守りたいと。
助けなくちゃ、と。
彼女が"くるみを割った"時、そんな想いで心が溢れかえった。
憧れているのかもしれない。
世界さえも巻き込む程の彼女の愛の深さに。
彼女がそれだけ、人を愛せる事に。
痛みを失った私には、きっと真似できないだろう。
代償を求めた私には、きっと理解できないだろう。
彼女の気持ちが解っても、彼女の強さの意味を知る事は
ないだろう。
だからこそ。
あの時、溢れかえった気持ちはとてつもなく…
慟哭と焦燥と
高揚に滾った。
小さく醜い私でも、神の片棒を担げる事が嬉しくて。
彼女の救済の一端を担える事が、幸せで。
…何の理由もなく彼女を助けたりしない。
私にはそれだけの、理由と意味が合った。
…今となっては、
其の願望が叶わない事が余りにも憎々しい。
私の描く彼女の救済と、彼女自身が望む悍ましい独善的な世界は
余りにも、掛け離れていた。
勿論、正義なる私は全魔法少女の為にも彼女を止めなければならない。
…じゃあ、仮に。
あたしが正義を捨てたとしたら。
暁美ほむらに賛同できるのだろうか。
将又、暁美ほむらに敵対できるのだろうか。
……………。
彼女を憎みたくて
記憶を必死に保っている訳じゃ、無いのに。
…悍ましい悪魔との夢の中は。
やけに喉が渇く空間だった。
「おはよう。」
あどけなさを残す古手梨花の声が聞こえる。
「おはよ。」
僅かに閉じ損ねたカーテンの隙間から朝陽が差している。
けれど室内は相変わらず暗く、遮光に包まれている。
たった一筋、眩しく輝くのは
古手梨花の頬。
「貴女も、嫌な夢を見たようね。」
「…お互いに。」
あぁ、憂鬱。
あんたの寝顔が
悪魔の寝顔と
少し、似ていて。
過ぎ往く車窓の景色の中、悪魔への嫌悪を募らせる。
子供じみた共感を貪る心理が今は我ながら鬱陶しい。
そう感じては口を紡ぐ。
"仲間"に恵まれた彼女が
悪魔に共感できる訳がないような。
…そんな気がして。
「…暁美ほむらは。」
唐突に切り出した梨花。
「私より、強いわ。」
どんな思慮を巡らせたのだろうか、彼女は思考回路の結果だけを告げた。
「…あたしは逆だと思うけど。」
運命を世界ごと捻じ曲げた悪魔よりも
運命に打ち勝ったあんたの方が、よっぽど。
そう思った矢先。
「…ほむらは。」
細めた眼差し。眉を下げて。
「1人で、戦っているのだから。」
…そう。
あいつは1人で戦って"いる"。
未だにだ。
何処の誰があいつを救おうとしても
関係なく、1人で突拍子のない世界を相手に
反旗を翻し、戦って"いる"。
あぁ、どうして。
嗚咽が出そうな程に過剰な苦しみと憤りを感じてしまうんだか。
…あたしは、無力だ。
少なくとも、悪魔にとって。
「けれど。」
…続ける梨花は私の目を見据えた。
「私は、仲間を信じる力を持っているから。」
…どうしてこう違うんだろう。
無力な私を信じ、尽力しようかとでも言わんばかりの
其の熱っぽい眼差しは
悪魔の強さとは真逆の強さであるかのように思えた。
暑苦しいとさえ思える程に。
長く、長く。
沈黙と、思い出したかのような数往復の会話を繰り返し乍ら。
ガタン、ガタンと揺れる車内にて。
互いの経た唯一無二の思考を
ぎこちなく、擦り合わせ続けていた。
辿り着いた見滝原は何処か
やけに、鮮やかに思えた。
「二人で学校を休むだなんて。…随分仲が良いのね。美樹さやか。そして…」
「古手、梨花。」
駅を出た私達の背に投げかけられた声は
相変わらず気味の悪い猫撫で声。
…悪魔の微笑を含んでいる。