靡く黒髪、不気味に吊り上げた口角と。
隈の混じった瞼、人を卑下する眼差し。
私達の関わり合いに何かを勘付いたのだろうか、暁美ほむらの口ぶりはやけに挑発的だ。
自己をはっきりと取り戻した私は、面持ちが違うだろうか。
はたまた何の変化も無いだろうか。
輪廻の先に待ち受けた未来は成功を象った虚妄のようで。
くたびれた心に追い打ちをかける彼女は悪魔其の物で。
…彼女の遡行を知っても尚、私は彼女が苦手なようだ。
やはり彼女は私と似ていて。
何処かで他者を信じていなくて。
仲間に頼ることすら、できなくて。
かつての自分が繰り返した愚行を目の当たりにしているかのようで、苛立つ。
…それでいて。
彼女は仲間の力さえ、頼るどころか裏切り破り捨てて
自らの望む世界を手にした。
…瓜二つのようで、正反対の彼女を見据える。
…誰かの為に遡行を繰り返した彼女は。
自分の為に輪廻を繰り返した私にとって。
…信じられない程に、大きく、不可解で、強くて、狂っている。
今の私にとって。
「えぇ、私達は仲が良いの。…"悪魔さん"。」
冷たくあしらうように告げると暁美ほむらの口角は一層笑みを強めた。
「…そう。バラしたのね?美樹さやか。」
「何の事だか。薄気味の悪いあんたの其の微笑みを見れば、梨花だって勘付いちゃうってーの。」
さやかはあくまで顔を逸らし乍ら、目線を横目に彼女を睨んだ。
…二人の間に起きた事も、さやかが抱いた感情も。
私は憶測できる。
勿論、身を以て体感しない限り理解はできないかもしれないけれど。
…仲間を守りたい気持ちは、私にだって強く強く、確かに在る。
其の仲間が例え…
罪に手を染めたとしても。
「いいわ、古手梨花。貴女に何が出来る訳でも無いのだから、教えてあげる。…貴女の因果の原因を私は知っているわ。其の原因は解らないけれど。」
やけに意味深な言い方をする。
「古手梨花。貴女も時を繰り返したのね。其れも、私を超える程に。」
彼女が手の甲を空に向ければ、黒く濁った光沢を散らすオーブが其の禍々しさを見せつける。
長い彼女の睫毛が妖艶にパチリと瞬きを交えた。
「…それだけでは足りないわ。魔なる私と敵対するには、余りにも足りないわ。…似た者同士、仲良くなりたかったけれど。」
「御免なさい。悪魔と手を繋ぐ程、私は穢れていないの。」
「そう。」
挑発的な彼女の言葉さえ私は嫌悪に乗せて弾き出す。
干渉さえ許したく無いと言わんばかりに。
それに。
「…それに。私には騎士様が就いているわ。勧善懲悪の正義の騎士様が。だから、悪魔の囁きなんて効かないの。」
「あぁ、そう。」
愉快そうにほくそ笑む暁美ほむらはオーブを手の甲に仕舞い込み、背を向けた。
揺れる長い黒髪はやけに、美しい。
「其の騎士様も、貴女も。私の愛の前には余りにも小さいわ。」
モデルを気取った軽やかな歩みにて、暁美ほむらは吐き捨てる。
彼女の後ろ髪から香るローズマリーの甘ったるい香りが風に乗って鼻腔をついた。
「…其の愛が。」
彼女が脚を止める。
「私と、私の仲間の幸せを押し潰すのなら。」
まるで、空気と重力を世界が切り離したかのような静寂が辺りを包み込む。
冷たく、無機質にさえ感じられる私達と暁美ほむらの間の戰栗。
「…貴女を許さないわ。」
そう、告げる。
確固たる意志を以って。
「…仲間。…其の感情は愛よりも美しいのかしら。」
「えぇ。何倍も。」
「………そう。」
内心は晒さない。
彼女の抱いた愛が如何に大きく強大で、荘厳なる感情か。
計り知れないけれど。
私には言える。
否、言わなければならない。
死と不幸を運命に与えられていた私を奥底から引きずり出してくれた、彼らを思う気持ちは。
貴女の愛に負けてはならないのだと。
愚直であろうと。
言わなければならない。
其れが私の記憶であり、
答えでもある。
「…余りにも掛け離れているのね。貴女の時間と、私の時間。」
「えぇ。まるで似ていないわ。」
…運命を打ち破った私と
運命を捻り潰した彼女。
…彼女がいかに辛く苦しみを経たとしても。
私は。
…彼らと手にした世界を手放す訳にはいかないんだ。
…苦しい程に、彼女は。
私には無い愛を見せびらかすかのように。
「好きにしたら良いわ。此の世界は其の"愛"の元に在るのだから。何も怖くないもの。…喩え貴女でも。」
確信的な此方の無力を突きつけた。
「…貴女の幸せを破ってでも。私は…」
言いかけて留める。
「同じよ、古手梨花。…譲れないもの。」
言葉を紡ぎ切れなかった私を見かねてか。
彼女は矢継ぎ早に、告げた。
夕陽がやがて沈む頃。
さやかの溜息は、安堵を示すのか疲弊を示すのか。