輪廻と遡行【魔法少女ふるで☆りか】   作:夢遊の残骸

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廻廊 【視点-古手梨花】

「梨花ちゃんとさやかちゃん…二人きりで旅行に行ったんだよね?」

 

「古手さんと美樹さんって最近、やけに仲が良いわ。」

 

そんな仲間達の揶揄うような指摘に。

 

「そんな事無いのですよ?ボクはみんなと仲が良いのですっ、にぱーっ!」

 

取り繕った笑顔で応える。

 

「昨日は梨花にケーキを奢ったんだー。甘いものが好きだなんて、梨花はおこちゃまだー!」

 

「女の子は甘いものに目がないのです!」

 

極めて和やかに。愉快に。

仲間と談笑を交わしながら歩む帰路は何にも代え難い時間。

 

けれど。

 

今の私にとって、此の経験は。

 

"彼ら"との記憶を思い出させる苦味を含んでいた。

 

 

 

「梨花ばっかりずるいぞ?!あたしにも奢れよさやか!」

 

「なぎさも食べたいのです!」

 

「ざーんねん、さやかちゃんは金欠だから!それに…」

 

杏子やなぎさが楯突き抗議するのを尻目にさやかは眉を下げながら紡ぐ。

 

ふと。

 

香るのはさやかの衣類に纏わり付いた柔軟剤の香り。

 

それと、衣服の柔らかな感触。

 

そして、体温。

 

「梨花はあたしのお姫様だからさー?」

 

絡められた腕が私の胸元を締める。

 

彼女は比較的スポーティに骨格が良く、身長があり…締まっている。

幼い私とは対照的だろう。

気温の低い青空の下では、布団のように暖かく丁度良い。

 

それと。

 

後頭部には具合の良い枕が押し付けられている。

 

彼女をベッドにすれば安眠でもできるだろうか。

 

「お姫様ァ?何言ってんだか!!」

 

呆れたのか、はたまた怒っているのか。

杏子がぶっきら棒に告げると周辺を歩む鳩達が驚いてパサッ、と小さく飛び跳ねた。

 

「じゃ、そんなお姫様と済ませたい用事があるから。あたし達は一旦。」

 

「またねなのですーっ!」

 

背中に受ける視線と…ひそひそと二人の関係を探るような言及が後方を騒がせていたけれど。

 

私とさやかは其の歩みを進める事に一切の躊躇も抱かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…例えば。」

 

「例えば?」

 

橙色に染まる空を。

 

真上に見上げながら…私は問う。

 

彼女は其の侭、スマホの画面に目線を与えた侭に返した。

 

「例えば、私が魔法少女になったら。私は…元の世界に帰れるかしら。」

 

此の世界に何の愛着も無いわけではない。

 

仮初に植え付けられた記憶なのかもしれないけれど、私の主観ではあくまで其れは事実で…過去に起きた事であり、思い出。

 

…"両親"やなぎさ、魔法少女達。

 

そして…貴女の事。

 

此の詰まる胸中を締め付ける程度には…大切に思ってしまっている。

 

されど。

 

私の本来の世界へ、本来の仲間達との日々へ戻りたいと願う気持ちは其れを遥かに上回る。

 

「…どうだろうね。単に世界を改編するだけなら、きっと梨花なら問題なく成し遂げるだろうけど。…あんたの話から察するに…幾つも存在する世界線の中からたった一つのルートに戻らなくちゃいけない。其れを叶える願いがどういうものか、あたしには想像ができないかも。」

 

淡々と。まるで日常会話のように告げるさやかの横顔は、真摯に…されど奔放に。

 

「元の世界に戻りたい、では成立しないのかしら。」

 

「…キュウべえどころか…此の世界が其の世界を認識していない以上。あんたが具体的に時間軸と世界線を操作できなくちゃいけないような。」

 

「…訳が分からないわ…、そんな事出来っこない。」

 

「うん、できない。此の世界を蹂躙する悪魔ですら其れに及ばないよ。きっと、其れができる存在は宇宙に居ない。」

 

頭がどうにかなりそうだ。

 

輪廻の経験こそあっても…私の其れは大半が羽入によるもの。

 

時間と世界線の操作なんて、できない。

 

「強いていうなら。」

 

さやかが徐に口を開く。彼女のスマホの画面は気付けば真っ暗だ。

 

「梨花が生存できた世界線が、どの未来に直通しているのかが分かれば。…此の世界を其の世界にシフトし尚且つ過去に戻る事ができる願いを叶える事で、きっと。」

 

「…そんな。貴女達の時間の事なんて、私には分からない。貴女達もきっと同様でしょう…。」

 

「…そうだね。余りにも、遠過ぎるわー…。昭和なんて、あたし達にとっては古だもん。」

 

「…全くよね。私にとっては…貴女達は未来人なのだし。」

 

二人の溜息が夕焼けに舞う。

 

ベンチの硬さにそろそろお尻が痛くなってきた頃合い。

 

さやかが立ち上がる。

 

ふわりと後ろ髪を揺らしてあいも変わらず透明感に満ちたシトラスミントの香りを纏って。

 

彼女らしくない、繊細な香り。

 

「後はあんたの記憶次第かな。梨花。」

 

「…どういう意味?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「例えば。ジャンヌダルクは梨花の世界では火炙りにされた?」

 

「…えぇ…?確か。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの人も、魔法少女なんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

想像だにしなかった。

 

魔法少女たるものの存在が、そこまで人類の歴史に影響しているだなんて。

 

けれど。

 

其れと此れと…何の関係があると言うのだろう。

 

「…魔法少女ってさ。世界線によって起こしてるアクションが違ったりするの。例えば、死に方。戦い方。其の経路。…色んな世界を見ちゃったあたしだけが分かる事。"円環"を知るあたしだけが分かる事。」

 

沈黙せざるを得ない。息を呑んで彼女の言葉を待つ。

 

其れと同時に私は…美樹さやかという存在の認識を改めている。

 

…彼女は単なる魔法少女でもなく。

 

ましてや、奔放で繊細なだけではないのだと。

 

…世界の始終を観測した、女神の遣いである事を。

 

今、改めて思い知らされる。

 

「…其れはきっと、魔法少女に限らず。人類の歴史の小さな小さな一つ一つが…きっと違う。」

 

「だからさ?…梨花が知っている"世界の出来事"と。あたしの知っている何百何千の"世界の出来事"を照らし合わせてみたら。…梨花の生存する世界の事が分かるかもしれない。」

 

「…無茶だわ。其れは余りにも途方もなくて…」

 

「不確かだね。…でも。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「梨花。あんたの力が無くちゃあたしは悪魔を倒せない。」

 

「そして。あたしが居なくちゃきっと…梨花は戻れない。」

 

「だから。」

 

「やるしか無いよ、梨花。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心を奪われる。

 

彼女の目は…其れだけの経験を経ても尚。

 

無垢に希望を求めて戦おうとする、光沢に満ちた煌びやかな眼差しに思えた。

 

両肩に添えられた手指が余りに強く、そして。

 

美しい。

 

…私はつい。

 

数多の世界線と過去を観測した彼女を前にして尚。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…仕方ないわね。」

 

 

 

千年の魔女として。

 

彼女に負けないように。

 

そして、仲間の元へ帰る為に。

 

 

 

 

「…これからは徹夜も余儀なしかしら。」

 

妖しく笑みを見せてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼りにしてるよ、千年の魔女さん。…此の世界を…変えて。」

 

抱き締められた彼女の体温はやけに、高い。

 

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