輪廻と遡行【魔法少女ふるで☆りか】   作:夢遊の残骸

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生誕 【視点-古手梨花】

 

「…………。」

 

「……………。」

 

数多なる教材と歴史的資料を持ち寄った私と美樹さやかは、いつしか沈黙を築いて文字列に向かい合うばかりだった。

 

例えば縄文時代。

 

例えば戦国時代。

 

いや、他にも…日本史だけに留まらず世界史の分野にも手を広げたけれど。

 

「…無謀だわ。仮にも私は小学生なのに。」

 

「…ごめん。賢いもんだからてっきり、思い違いをしてたみたい。」

 

「…そもそも日本史だなんて、世界史だなんて、知らないに等しいの。私が習ったのは未だ"社会"だわ。」

 

「…あたしもさ、元々は大して勉強してたワケじゃないの…すっかり忘れてたわー…女神のカバン持ちだからって、付け上がってたかなー…」

 

詰まる所、私達は知識がなく…そして互いの世界の出来事どころか、自分の世界の事すら学習不足である事に気がつく。

 

そもそも私なんて、小学生なのだから…例え1000年の時を経たとは言え、学問に関しては其れ相応。

ジャンヌダルクの件に関しては何かの物語を経て微塵程度に記憶していただけ。

圧倒的に、私の世界との相違点とを擦り合わせる為の知識が私には無かった。…そして彼女もまた。

 

「魔法少女の関わっている事象でない限り、あたしもただの中学生だわー…頭が痛くなってきた。」

 

世界の始終に関わった彼女も所詮、他の事に関しては中学生と同等…否、彼女には悪いけれど、私と大差ないようにすら感じられる。

 

「…休みましょう。突発的過ぎたわ。」

 

溜息を交えながら図書館内の静寂の中、机に腕を寝かせて其処に側頭部を預ける。

彼女も同じ様に、私の真向かいにて腕と頭部を寝かせる。

 

向かい合った眼差し同士が憂鬱を示して交差する。

 

「…クレオパトラの死因は?」

 

「知るワケ無いでしょ…。」

 

「あの人も…」

 

「魔法少女ね。…無理だわ、覚えていない。」

 

「オクタウィアヌスに追い詰められて、自害した。此の書籍も、私の見た記憶も…そうなんだけど。」

 

「…オク…?その人に関しては聞いたことも無いわ。」

 

仕方のない事だけれど、自らの無知に自暴自棄気味に答える。

 

「市姫の死因は?」

 

「…其のお兄さんの事しか、習っていない筈だわ。」

 

「…比較ができないんじゃ進まないや。…ごめん、此の案はもしかしたら…。」

 

「御免なさい。」

 

そうして、再び2人の無言は暫く続く。

 

倦怠感と静寂、手詰まりによる切迫。

 

…それにしても。

 

 

 

クレオパトラ、ジャンヌダルク、市姫、なんて。

 

やはり彼女の言葉から察するに世界は魔法少女によって大きな変動を与えられてきたみたいで。

 

…当たり前のように私達が使っている此の言語や技術も、もしかしたら。

 

…魔法によって産まれたのではないかとすら、感じてしまう。

 

そして、此の感情さえも。

 

「私が分かる事があればいいのだけれど。」

 

「あったところで、其れが相違点につながるワケでも無いし…」

 

「…其れは言わない約束の筈。」

 

キリがないと諦めては元も子もない。

 

けれど、気分が滅入っても仕方のない現実が今ここに間違いなく存在している。

 

…私の生存する世界線の特定。

 

余りにも無謀で途方も無い挑戦は地道過ぎて、先の見えない苦行だ。

 

「…アンタが知ってる事かぁー…」

 

ショートヘアをさらりと目元から掻き分けた彼女が天井を向いて、指をとんとんと机に向けて優しくリズムを刻み弾く。

 

 

 

 

「雛見沢の歴史を…調べよっか。」

 

さりげもなく彼女は告げたけれど。

 

…冷静で、確実に聞こえた。

 

最も的確に私の知識量で此の世界と私の世界との相違点を洗い出せる方法だと、気付いた。

 

…仮にも私は雛見沢の巫女だったのだ、ある程度の歴史を知っている。

そして、滅ぶキッカケすら…"幾つも"知っている。

 

何より千年生きた小学生には其のくらいしか、知っている事が無かった。

 

「そうしましょう。」

 

途端に、力の入らない気怠い身体に急激にアドレナリンが這い回る。

突破口を見つけた私の情熱だろうか、唐突に冴え切った脳がバッ!と私の上体を起こす。

 

「おぉ!?…随分やる気だね、梨花。」

 

そう告げた彼女の微笑みは相変わらず朗らかで暖かい。

 

水色を宿したさやかの髪がふわりと此方の鼻腔を擽る、清涼感。

 

「…何も出来ずにウズウズしていたの。…役に立ちたいわ。私の希望を叶える為だもの。」

 

そうと決まれば話が早い。

図書館の資料を調べる為に私はタッチパネルへと歩みを進める。

 

ゆっくりと其の後ろを尾いてきた彼女が腕を此方の肩から鎖骨に巻き…体重をかけた。

 

「重たいわ。」

 

「失礼だってーの。」

 

タッチパネルへと淡々と文字を打ち込んでは検索結果を眺める私の顔…其の傍から顔を覗き込ませて画面を見つめるさやかの吐息が擽ったい。

 

「…近いわ、離れて。」

 

「調べ過ぎて怠いんだって。」

 

「知らないわ。お互い様でしょう?」

 

やはり彼女は私よりも体温が高くて。

 

暖房の効いた図書館内でも、若干の寒さを覚えていた私には…良いカイロ代わりになる事は紛れも無い事実。

 

 

 

検索後に幾つか関連のある資料を見つける事が出来たので、私は其の書籍へと向かう。

 

其の際に振り払うようにしてさやかを跳ね除けては

 

「あたしはあっちを見てくるー。」

 

と、やけに切り替えの早い彼女はそそくさと別の列へと消えゆく。

 

…そろそろ夕暮れ。

 

図書館が閉まるまでに…何か一つ、有力な情報を得たいところだけれど。

 

雛見沢の歴史なんて、国内規模で見てしまえば余りにも小規模で重要性が低い。

 

オンライン上にも大した情報が無いくらいだ。

 

期待値は薄いけれど…やれる事をやるしか。

 

該当した書籍を幾つか集めては、元いたテーブルに歩み寄り…それらを置いて見定める。

 

少しでも、"此の世界"の雛見沢を知れれば。

 

今日は其れで良い事にしよう。

 

其れ程に。

 

 

 

さやかと過ごす時間もまた

 

 

 

…大切で、心地好い。

 

 

 

 

「梨花ー?あたしが探してたヤツってどれだっけ?」

 

 

 

………駄馬の世話は面倒だけれど。

 

…嫌いでは、無い。

 

 

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