輪廻と遡行【魔法少女ふるで☆りか】   作:夢遊の残骸

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烏 【視点-古手梨花】

記憶をなぞりながら、見つめる文字の群れにまるで集られているかのような疲弊。

 

目を凝らし続けたからだろうか、目の奥に鈍痛のような重たさを感じる。

 

雛見沢の歴史。

 

戦時中の出来事や風土に関する資料は洗いざらいに目を通したけれど、遡った記憶との相違点は大凡、無い。

 

彼処が滅ぶに至った経緯に関しても。資料館で確認したあのおどろおどろしい記録と同様。

 

ガス災害による村の壊滅。

 

…細かく目を通しても、私が知るカケラの一部と大差がない。

 

…ただ一つだけ、気になるとしたら。

 

 

 

園崎魅音の行方不明。

 

彼女は災害から生存している。

 

その後に行方不明となったのだけれど。

 

…私が殺された後。

 

何が起きたのか、誰がどうなったのか。

 

私は其処を観測できていない事に気付く。

 

つまり。

 

私は自分の死後を知らない。

 

…当たり前だけれど。

 

数々の輪廻を経てきたけれど、其の全てのカケラの死後を私は知らない。

 

…私は、園崎魅音の行方不明の理由を…知らない。

 

 

 

魅音。

 

人一倍、繊細で少女らしい一面を宿す"鬼"。

 

気前の良い立ち振る舞いと情熱的な内面。

 

…私たちの、部長。

 

 

 

何十年も経った今や、彼女の行方不明の理由も…其の結果も知ることなど到底出来ないけれど。

 

それでも尚、気になる事に他ならない。

 

 

 

 

 

…遠い、遠い記憶だけれど。

 

寒空を眺めながら回想に耽っていた。

 

いつか、この様に…いや、もっと冷たい雛見沢で。

 

彼女と雪だるまを作った。

 

村の話し合いの合間。

 

退屈を凌ぐ私を見かねて彼女は

 

一緒に…遊んでくれた。

 

 

 

 

見滝原の冬は未だ雪が降らないみたい。

 

「…此の辺りは、結構雪が積もるのかしら?」

 

「全然?道路が凍る程度だよ。…これまたどうしてそんな事を聞くの?」

 

「…なんでもないわ。」

 

 

 

クリスマスや年末に彩られ始めた公園の装飾が、真冬を示す。

 

其の傍らにて人々は其々に、日常の一コマを描いて歩む。

 

 

 

 

 

いつも。

 

"普通"が余りにも遠くて。

 

…それだけが欲しくて。

 

あんなに戦っていたのに。

 

 

 

 

 

「難しいわね。」

 

「…そりゃそうだよ。"たった一つの何十年も前の事"と"千年もの輪廻"を比較して…更に其の中の"たった一つ"を見つけ出さなくちゃいけない。…駄馬には此の位しか思いつかないんだわー…。」

 

「現存する情報だけでは無理があるわ。…それに、其の情報自体も正しいとは限らない。」

 

 

 

"古手梨花の契約"という目的があるのであろうけれど、それでも尚此処まで親身になり私の置かれた状況を打開しようと模索する彼女はやっぱり、格好良くて。

 

利用すれば良い物を、真正面から解決へと突っ走らんばかりで。

 

…彼女の性質だろうか。

 

…不思議と、疑えない。

 

 

 

 

以前の私なら、どうせ…とすぐに諦めて葡萄酒に手を染めていただろうか。

 

 

 

冷え切った手を

 

擦り合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーふるで りか。

 

汚れきったその上履きを履こうとは思えないけれど、一目で分かる。私の足のサイズとぴったりと合うのだろう。

 

雛見沢から持ち帰った其れを眺めながら。

 

迫る孤独と閉塞感に身を捩る。

 

 

 

吐き気。

 

 

 

頭の中に巡る 部活メンバーの顔 声

 

そして彼らの死

 

自らの死

 

腹を裂かれる感触

 

痛み

 

繰り返す、繰り返す、繰り返す、失敗。

 

 

 

 

 

 

 

暁美ほむらが 鷹野三四の 様で。

 

 

 

 

 

 

 

 

確実に阻害してくるであろう彼女の確固たる敵意と…決意が。

 

悍ましい。

 

不安だ。

 

 

 

 

 

 

腹痛。

 

ぐるぐると頭の中を這い回る嫌悪、苦痛。

 

気持ち悪い。

 

 

 

 

 

 

「梨花。」

 

一頻りの嗚咽を終えてお手洗いから出ると。

 

なぎさがあからさまに眉を下げて私を見つめる。

 

「…御免なさい、少し…具合が悪くて…」

 

心配させまいと紡いだ言葉を気にも留めず、彼女は私の頭を撫でた。

 

「…何と戦っているのかは分からないのです。でも。

 

独りで、抱え込まないで欲しいのです。」

 

 

「…ありがとう。けれど…大丈夫。」

 

…これは、見栄っ張りだろうか。

 

プライドだろうか。

 

それとも、不信?

 

それとも、諦め?

 

彼女に何を告げれば良いか分からず、唯只管に…大丈夫、と告げる事しか出来ずにいて。

 

見兼ねたのか。なぎさの淡い苦笑がくすり、と漏れた。

 

「言いたくないのなら、言わなくても良いのです。でも…なぎさは。」

 

「いつだって梨花の味方なのです!」

 

 

 

 

「家族、なのですから。」

 

 

 

 

…思い出す。

 

"過去という新たな記憶"に頭を支配されていたせいか。

 

"今の家族"がどれだけ私を想って、どれだけ私を救っているか…其れを私は、少しだけ…忘れていた。

 

其れは単に…私というイレギュラーの参入を世界が都合良く収束させただけの成り行きかもしれない。

 

其れでも関係ない。

 

彼女は、そして"両親"は。

 

紛れもなく私を…案じ、大事に思い、力になってくれている。

 

…その情と愛に私は、不信や壁を感じるべきだろうか。

 

…答えは、知っていた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、なぎさ…此の世界が…偽物だとしたら。貴女は信じてくれる?」

 

なぎさは少しばかり目を細め、そして天井を二度程見上げたりと…悩んだ挙句。

 

「…ちゃんと説明してくれるなら、信じるのです。」

 

其の笑顔は取り繕ったものではなく。

 

優しさに満ちた、表情。

 

「…私も偽物で。此の世界も偽物で。…本当は…」

 

貴女と私は出会う筈もなくて。

 

 

 

 

そう告げようと、唇を合わせた瞬間。

 

 

 

なぎさの脚を啄もうとする、烏。

 

室内に烏が居る訳もないけれど…其れが何なのか、察しがつくと同時に。

 

私の背筋に冷たい、鋭利な恐怖と警戒が迸る。

 

…悪魔の使い。

 

黒翼と不気味な面に身を装う烏が彼女を今にも啄もうと嘴を尖らせている。

 

…生憎、彼女は気付かないみたい。

 

何か、そういう…魔法が働いているのだろうか。

 

暁美ほむらの能力を知る由も無い私には憶測しかできないけれど。

 

…私が語りかけた"事実"を暁美ほむらはどうやら、察しているみたい。

 

「…なんて。やっぱり今度にするわ。」

 

暁美ほむらの使いを尻目に…私は撤回を余儀なくされる。

 

「…梨花。」

 

不安だろうか、寂しそうに私の名を呼ぶ彼女に申し訳なく…そして、憤る。

 

"困った時は仲間に相談する"

 

彼と誓った言葉が脳裏に過ぎる。そして

 

其れを叶えられない現状が…胸をぎゅうっ、と締め付ける。

 

烏の使い魔達が姿を消した事で、少しばかり緊迫は薄れたけれど…私は未だ、其の胸元をどくん、どくんと強く跳ねさせていた。

 

動悸にも似た、苦痛にも似た、鼓動にて。

 

「其の時が来た時に。また話しましょう?おやすみなさい、なぎさ。良い夢を。」

 

自室に向かう私の背中になぎさの小さな声で

 

「おやすみなさい。」

 

と。見守るように、告げられた。

 

 

 

…やっぱり悪魔も私を、許さないみたい。

 

…アイツのように。

 

 

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