輪廻と遡行【魔法少女ふるで☆りか】   作:夢遊の残骸

28 / 31
欠片 【視点-美樹さやか】

梨花に傷がつく前にたどり着けて良かった。

 

…とは言え、偶然の産物だけど。

 

暁美ほむらの所業を探る為に暇を見つけては付け回した甲斐があったもんだね。

 

空を彷徨いながら悪魔を探していたら、遠目に見つけた二人の殺伐とした様子。神妙な面持ち。交差点にて邂逅する不穏。…そして、突きつけられた銃口。

 

本当に突拍子もなく、前兆なく、彼女は実行する。

 

冷静なようで、滅茶苦茶にヒステリックで…大胆で、突発的。

悪魔を名乗るのも頷けるわ。

 

それにしても。

 

古手梨花こそ悪魔と呼ぶに相応しいかもしれない。

 

銃口を前に慄く事もなく、憮然と前を向く其の姿は死さえ恐れぬ死神のようで。

 

「ついてけないわ…あんた達には。」

 

そう、思わず本音が漏れる。二人とも訳が分かんない。

 

 

 

「…どけて頂戴、美樹さやか。」

 

「誰が。」

 

殺伐と。私と悪魔の目線は瞬間足りとも離れる事なく。

 

「…そう。」

 

静かに。彼女が目を細めて怪訝に口角を上げながら…。

瞳の奥を真っ黒に濁らせる。

光沢無く、淀んだ其れは。

 

…やる気だ。

 

そう察知した頃には彼女は、彼女の持つ銃口に突き刺したサーベルの剣先を跳ね除ける様にトリガーを引いていた。

 

 

 

パァン…!

 

案外、銃声というものは軽い音を鳴らすものだ。

だけど、其の衝撃は此方のサーベルを握る肩に軽く痛みを覚える程度には強い。

 

弾丸に弾かれたサーベルを離すまいと、握り締めながら身を反らせる。

 

彼女に"盾を握る時間"を与えてはならないと知りながら。

 

「…このッ…!」

 

死にものぐるいの一瞬、身を反る勢いに任せてもう片腕にてサーベルを具現化し、直ぐに投擲。

 

狙うは彼女の身体では無く、盾。

 

知り尽くした二人の攻防。

 

彼女も勿論、自分の活かすべき能力と其の能力の欠点と隙をよく理解していて。

 

そして…私が確実に其れを防ごうと動くことすら、分かってる。

 

彼女が盾に手をかける仕草こそフェイク。

 

其の証拠に彼女の手にはフラググレネードが握られていた。

 

彼女が銃火器に長けているのも私はしっている。

 

そんな爆発物に痛手を負うつもりはない。

 

彼女が放ったグレネードから咄嗟に離れる。素早く、脚力に力を注ぎ込んで。

 

真下で起こるであろう爆発から梨花は逃げ切れている。問題無い。

 

素早く下半身をひっくり返し、剣戟を交えながら降下する。

 

逃げる隙も、盾を触る隙すら与えない様に。

 

斬りつける。思い切り!

 

「早いわね。あいも変わらず。」

 

やけに余裕を帯びた彼女の声が

 

響く。

 

禍々しく刃を回転させて、四方に鎌を携える球体が彼女の両手から一つずつ…鋭く空気を切り裂いてびゅん、と飛び交う。

 

其れを視界に入れる頃には、私の腕は酷く血を噴き出していた。

 

咄嗟に迸る激痛を抑える為に魔力を注ぎ込む。

抉れた血肉の滴る二の腕に。

 

…彼女はヒステリックだ。

 

…戦闘の技術は無いと勘繰っていた。

 

………容赦も躊躇も失った今の彼女は

 

本当に、悪魔なのかもしれない。

 

私は痛みを消すことしかできないけど、それが一番強い事を知っている。

 

痛みのない攻撃と加虐は余りにも冷徹で、迷い無く。

 

遂行できるものだ。

 

「…そうね、貴女ってそういう人。」

 

やけに落ち着いている声色に苛立つけど、私は黙って後方へとステップを踏み距離を取る。

 

思った様に動かない両腕が足手纏いだ。

 

いっそのこと、切り落としてしまった方が戦えるだろうか?

 

そんな思考に耽りつつ。

 

風のように此方へ飛翔し向かう悪魔の黒翼が羽を散らして朝方の青空を汚した。

 

「しまっ…ッ!!」

 

余りにも早すぎる。いや、彼女が早いのでは無い。

 

案の定、時間だ。

 

痛手を負った僅かな時間の合間に彼女は時間を飛び越えて私の喉元を切り裂いたのだ。

 

私が其の事実に気付いた頃。彼女の白く長い指にはやけに煌びやかに刃を研いだナイフが握られていた。

 

…あぁ、今は痛みを消しているから…苦痛ではないけど。

 

…目の前を。

 

焦点の真下から吹き出した鮮血が気持ち悪い。

 

 

 

 

 

「貴女にとっては致命傷でもないでしょう?」

 

…目を見張る。

 

彼女の眼差しは。

 

悪魔の其れだ。

 

 

 

私の真っ赤な返り血にて彼女の白肌に悪趣味なデコレートが施される。

血塗られた彼女のきめ細やかな頬にびたりと。

 

私は驚いていた。

 

此処まで、悪魔が悪魔に振り切っているとはね。

 

…心底ムカつく。

 

 

 

 

 

 

身体が力を失い倒れていく。

 

伸ばした指先は悪魔の顔へ届かなくて。

 

…ふわりと宙に浮いたような…

 

死はこんな感覚だろうか。

 

 

 

…やたらと呆気ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなぼやける視界の中。

 

 

 

「美樹さやか。…さよなら。」

 

表情こそ伺えないけど。

 

あんたはきっと冷徹に私を見下しながらトドメを刺そうとでもしているのだろう。

 

 

 

救いたかった。

 

…他の誰でも無い、あんたを。

 

 

 

 

私があんたにしてきた事を、償いたかった。

 

あんたの気持ちを少しでも知りたかった。

 

あんたの苦痛を少しでも除きたかった。

 

…全部、全部。

 

あんたの全部を…私は見てしまったから。

 

 

 

そして。

 

 

まだ覚えているから。

 

…あんたを助けよう、って。

 

助けたい、って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させないわ。悪魔。」

 

呆気なく喉を裂かれた私に感知できた其の聴覚上に発生する音声は、恐らく古手梨花の声だろう。

 

聞き覚えのある金属音は…サーベルの音だろうか。

 

 

 

やめなよ、あんたに何ができるの。

 

そう告げたくても開いた喉は血を垂れ流すばかりで声の周波数を奏でるには至らない。

 

 

 

「そう…。私が本当に仕留めたいのは元々、貴女よ。古手梨花。…好都合だわ。逃げもせずに足掻くだなんて。」

 

 

 

あぁ。

 

梨花。

 

逃げて。

 

 

 

そう、告げたくて。

 

薄ら浮かぶ梨花のシルエットに手を差し伸ばした刹那。

 

 

 

 

 

 

虹色に煌めく空間が二人を包む。

 

懐かしいような、新鮮なような。

 

…此れは。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。