輪廻と遡行【魔法少女ふるで☆りか】   作:夢遊の残骸

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パラドクス 【視点-古手梨花】

 

早朝。行き交う人々も居ない。

 

静寂を微かに切り裂くのは、私達の呼吸。

 

冬の寒気に真白の吐息を浮かべ。

 

大きく目を見開いたほむらの表情を見るに、彼女もきっと。

 

私が貴女の過去を、遡行を、記憶を見た様に…貴女も私の過去を、輪廻を、カケラを…見たのでしょうね。

 

悪魔に告げる言葉なんて、見つかるわけもない。

 

いえ。

 

貴女は。

 

「…此れじゃ、貴女が悪魔だなんて

「喋らないで。」

 

告げる私の言葉を跳ね除けるかの様に。

 

私の肩を押して突き飛ばす、ほむら。

 

 

 

貴女を憎むべきだと。

 

貴女を敵なのだと。

 

そう思っていた。

 

そう思わなければ、ならなかった。

 

 

 

…けれど。

 

貴女は仲間なんかじゃない。

 

私に何をしてくれる訳でもない。

 

其れでも。

 

貴女は。

 

幸せになる権利があると。

 

客観なんて、どうだって良くなる程に。

 

私の主観は貴女には幸せになる権利があるのだと。

 

そう、感じてしまった。

 

生々しい、感触。

 

貴女の感情。

 

まどかへの畏敬と、恩義と、愛。

 

其れは狂気的で、執拗で、異常で、感情的で、

 

でも、私にはよく分かる。

 

彼女を救いたくて繰り返した気持ちが。

 

 

 

…其れも。

 

貴女は、己の力で彼女を救い出した。

 

…此の世界をも犠牲にする程の

 

大きな大きな力を自ら、手に入れた。

 

其の遡行を以って。

 

 

 

誰かに救いを求め

 

仲間を信じ続けた私の力とは

 

異質。

 

いえ。

 

厳密には私には何の力も無いような、ものだわ。

 

貴女と比べたら。

 

 

 

其れ程に貴女は

 

本当に

 

本当に

 

頑張ったのね。

 

 

 

大半の時間を、諦めと呪いに費やした千年の魔女は

 

全ての時間を女神へ捧げ尽力に努めた貴女に

 

…劣る、ような気がして。

 

 

 

でも、でも。

 

「私は、貴女の気持ちが分かるわ。私だけは…!」

 

 

 

 

 

 

 

暁美ほむらの黒髪は、美しく靡く。

 

…彼女がかつて結っていた癖が、其の髪には未だ残っている。

 

 

 

 

 

 

「…分からないわ。」

 

「………っ、え」

 

「貴女は仲間に助けを求めた。其の結果、信頼を得て…共に戦って。宿敵を打ち破った。運命に勝ったの、貴女は。」

 

「………あ、貴女は…其れを…!」

 

「私は仲間に助けを求めた事もあったけれど、誰も信じてはくれなかったわ。何度も何度も。何度も何度も何度も。あぁ、そもそも仲間なんて私には居なかったのかもしれないわね。其処の正義の騎士さんも、他の魔法少女も。…私はまどかを助ける為にどれだけ尽くそうと、どれだけ戦おうと誰の協力も得られなかった。だから…利用したの。"仲間"を。

いい?貴女は仲間を信じ続けた。私は仲間を信じられなかった。寧ろ、信じてもらえなかった。」

 

「貴女は"仲間"と運命を"打ち破った"。」

 

「私は"1人"で運命を"捻じ曲げた"。」

 

「…勘違いしないで頂戴。貴女の過ごした輪廻と私の過ごした遡行はまるで違うの。単なる共通点は"繰り返した事"だけ。…不愉快だわ。」

 

 

 

 

立て続けに。

 

静かで落ち着いた彼女の声色の裏腹には、余りにも複雑に拗れた感情が幾つも幾つも渦巻いているのだろう、矢継ぎ早に紡がれた言葉達は直情。

 

 

 

…私はどうしたいのだろう。

 

今更、悪魔に敵意を向ける事を躊躇しても。

 

私の雛見沢へ戻りたいという願望は叶えられる訳でも、捨てられる訳でもないと言うのに。

 

目の当たりにした彼女の真実と記憶は、私にとって…

 

「尊いと、思うわ。」

 

「…………そう。」

 

「貴女と私は確かに、同じようで違うのかもしれないわ。…共感でも同情でも無いの。…仲間に救って貰える未来があるのだと、希望と事実を知った私だから言える。其れすらも投げ出して…貴女は手段を見出した。私にとっての大きな力である…"希望"も"絆"も不要にして。…貴女は彼女を救い出した。…"愛"で。」

 

「……………。」

 

「…貴女の其の"愛"を。私は叛逆だと、咎められない。」

 

「…悪魔だなんて、思えない。」

 

 

 

 

 

 

「…けれど、今は…。引いて。貴女もご存知の通り、私は"仲間"を信じているの。貴女と今は戦いたくないわ。」

 

 

 

 

 

 

「…どうかしてるわ。」

 

 

 

 

 

 

 

そう告げる彼女は背を向けて。

 

肩から其の背中の倍以上に広がる黒翼を広げ、翔ぶ。

 

風圧に片目を閉じ乍ら、彼女の背が朝焼けに向けて小さく成り往くのを見届けつつ…ふわりふわりと、舞う漆黒の羽に目を奪われた。

 

…彼女にあんな事を言ったって。

 

何も変わらないのに。

 

…私は何が目的であんな風に…。

 

…彼女に取り入って敵対を解こうとした?

 

…彼女の叛逆を止めようとした?

 

 

 

…違う。

 

…話したかった。

 

 

 

私は未だ嘗て会ったことの無い、境遇の似た彼女に伝えたかった。

 

…彼女にはまるで違うと言われてしまったけれど。

 

…私は。

 

彼女が悪魔だと思えないと。

 

貴女は悪魔等ではないと。

 

其の所業から犠牲や弊害が発生するとしても尚、

 

貴女は悪いのでは無いと。

 

伝えたかった。

 

其れは、私が未だ所詮人間だからかもしれない。

 

 

 

 

 

ねぇ。こんな時。

 

貴方だったらどうするのかしらね。

 

 

 

 

圭一。

 

 

 

 

 

 

 

…彼の顔を思い浮かべると、やっぱり私は雛見沢にどうしても戻りたいと…決意の感情を奥から取り寄せた。

 

 

 

其の為には…あの"悪魔"さんもどうにかしなくてはならないわね。

 

そして其の悪魔をどうにかする為には。

 

「さやか…!しっかりして…っ。」

 

貴女の力が必要なの。

 

…信じてる。

 

だからどうか。

 

負けないで。

 

 

 

焦る手元に苛立ち乍ら、急いでスマートフォンに指を走らせる。

 

…こんな時ばかり、頼って御免なさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もしもしィ?珍しいじゃん?あんたから通話だなんてーーー」

 

「古手梨花よ。助けて。さやかが倒れたの。…お願い。」

 

 

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