旧興宮。
鹿骨市鹿骨中央という区域の別称らしい。
何十年も前にその地名は変わって、鹿骨市内の地域は鹿骨北、鹿骨南…等、非常に分かりやすい地名になったみたい。
…旧興宮駅はローカル線かしら。此処からのアクセスを踏まえると新興宮駅行きになりそうね。
そんな事を考えながら…私はスマホ越しに興宮の街並や、施設情報。
土地柄を眺めていた。
けれど…やはり鹿骨、旧興宮…と分かっても。
私の家がわかる訳でもなくて。
うーん、と一息漏らしながら私はメモアプリを開いた。
…そうだ。災害。
災害が合った事が分かったとて、私の知りたい情報にはきっと辿り着けないだろうとは思う。
けれど…少しでも、何かを思い出すきっかけさえ、せめて。
そんな藁にもすがる懇願を抱きつつ、"鹿骨 災害"と調べてみた。
竜宮新聞社
雛見沢大災害から約70年…数々の不審点と消えぬ傷跡、鬼隠しの謎とは
1ヶ月前
雛見沢大災害。
…雛見沢。
その文字を確実に見たことがある。
「ひな、み、ざわ。」
音読してみると…なぎさが寝惚けて はい と返事した。
あなたは百江なぎさでしょう。
…多分。…いや、間違いない。
絶対だ。私は雛見沢という言葉を口にした事がある。
確信すら持てる。そのくらい、私はこの言葉に馴染みがある。
…少しだけ、何かに近付いた気がしたものだから…私はそのニュース記事を迷わず、タップした。
雛見沢大災害から約70年…数々の不審点と消えぬ傷跡、鬼隠しの謎とは
犠牲者約2000人、約70年前に発生した雛見沢ガス災害。
当時、駆けつけた自衛隊が目の当たりにした光景は、余りにも悲惨だったという。
山のように搬送車へ積まれた遺体、死後硬直によって異質な表情を浮かべたそれらに吐き気を催した隊員は少なくなかった。
それは鹿骨市雛見沢(現:鹿骨市鹿骨北)という寒村集落での出来事だった。
村人のほぼ全員が死亡し、唯一の生存者であった女子学生もまた、間も無くして死亡している。
(中略)
そんな大災害が恐れられた理由は他にもあった。
この地域では年に一度、綿流し祭という催し事が開かれていたのだが、その日に毎年、殺人事件が起こっていた。
その猟奇的かつ、未だ未解決の殺人事件は当時、鬼隠しなどと銘打ってメディアの興味を強く惹き…
(中略)
…私はこの事件を、知っている。
…知っている…!!
ドクン!ドクン!と胸が高鳴るのが分かる。
スマホを握る手がガクガクと震え…呼吸すらも荒くなる。
気が狂いそうだ。落ち着こうにも落ち着けない。
私は今"思い出している"
何を思い出しているのかは分からない。
けれど、確実だ。
"身に覚えがある"んだ…!!
漠然とした記憶の再起に冷や汗が止まらない。
これが動悸と呼ぶべき現象だろうか、私はとても平常とは思えない精神状態に陥っている。
分かる…!
鬼隠し
綿流し
雛見沢
大災害
殺人事件
心当たりがある。具体的には分からない。70年も前の事が何故思い当たるのか、分からない!
けれど、確実に!
私に深く関係しているんだ…!
そう、脳が警笛を鳴らしている!
雛見沢大災害から約70年…数々の不審点と消えぬ傷跡、鬼隠しの謎とは
そしてガス災害が起きた当日も"殺人事件"は起きていた。災害最中の事故とはとても言い難い現場だったと言う。
殺害現場は古手神社と呼ばれ、雛見沢の人々が崇め奉る聖なる場としての役割を担っていた。
その境内付近にて神社関係者の少女が腹部を著しく破損し、野鳥に貪られた見るも無残な姿で発見されたのだと言う。
とてもガスの仕業だとは思えない、明らかな殺人事件。その犯人や目的は70年経った今も判明しておらず…
ねぇ。
…古手、神社。
私の中の確信は、確定に近付きつつある。
この記事が本当なら…いや、仮に作り話だとしても。
私に。少なくとも古手には確実に関係している。
何より。古手神社関係者の殺害…それも災害と同時に。
…母に聞いた話だ。これだ。これだ!
これが私のひいおばあちゃんの死因に違いない!!
災害時に亡くなった、と言われているひいおばあちゃん…
きっとこの少女が…。
…少女。
若くして亡くなっている、とは聞いたけれど。
子供を産んでいなければ、勿論、代は続かない筈。
…?
確実に、確実に…関係ある筈なのに。
事実に辿り着けないもどかしさが私に焦燥感を与えていた。
少女にも関わらず、出産していた…?
其れは流石に考え辛い。冒涜的で、インモラルが過ぎる。
殺されたのはひいおばあちゃんに当たる訳ではない、と考えた方が辻褄が合う。
けれど…この災害で亡くなったのは恐らく、間違いないだろう。
私の家系的にも、先祖に神社の存在があっておかしくない。
寧ろしっくり来るくらいだ。
…行きたい。
古手神社を、見てみたい。
気付けば深夜12時を回っている。いつもならとっくに寝ている時間だ。
けれど…私はとても寝れるような状態ではない。
冴えきった目はギンギンに開き、脳はアドレナリンを噴き出している。
記憶が取り戻せるかもしれないんだもの。
もう少しだけ、夜更かしを許して欲しい。
そう考えながら…検索欄に古手神社と、入力しようとした矢先。
スマホの画面上部に現れたバナーと、振動。
夜遅いのに。
…美樹さやかから、メッセージが届いた。
"梨花、もう寝てるよね?ごめん!見る頃には朝かな。ちょっと話したい事があるから明日、別の所で一旦待ち合わせない?"
…急だった。
…現実に引き戻される。記憶は逸早く取り戻したいけれど、今、私には仲間だっている。そう焦らなくても、冷静に確実に情報を集めて分析していけばきっと、私なら記憶に辿り着ける筈だ。
大体、12時を過ぎても起きているのはマズい。
私はさやかからの連絡を機に、一先ずの中断を選択し。
"わかったけれど、何の話?"とだけ返して布団の中へ。
"起きてんの!?お子ちゃまの癖に!!会ったら話す!"
と自分から送ってきた癖に雑多な返事が返ってきたところで…アドレナリンが冷めてきたのか、私の瞼は段々と閉じられていくのでした。