輪廻と遡行【魔法少女ふるで☆りか】   作:夢遊の残骸

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採光 【視点-美樹さやか】

「コーヒー飲めないんだ?やっぱりお子ちゃまだなぁ、梨花は。バニラフラペチーノ、抹茶フラペチーノもあるけど。どれにする?」

 

「苦いのは好きじゃないのです…ボクはアイスティーにするのです!」

 

昨日きゅうべえから聞いた言葉。

目の前の少女、古手梨花に纏わる膨大な因果。

彼が根も葉もない嘘をつくとは思えない。そんな生き物ではないのだ。

彼には感情がないらしい。目的の為にTODOをこなすだけのプログラムのような物。

その為に感情を利用する狡猾さを持っているけど、今となっては暁美ほむらの存在がある以上、出過ぎた嘘や詐称は行なってこない筈。

 

梨花の力は一体どれほどの物なのか。因果とやらを測る能がない私には知りようもない話だけど、もしその"膨大"さが暁美ほむらを上回る…いや、少なからず抵抗できる程度さえあれば。

彼女を仕留めるチャンスくらいは作れるかもしれない。

 

現状、マミさんや杏子、それになぎさは暁美ほむらの正体を知らないし…私の話をどれくらい鵜呑みにしてくれるかも分からない。そもそも…どんな戦いになるかさえ分からない状態だ。彼女達はキーパーソンには成り得ない。今のところは。

まどかはそもそも円環を引き裂かれた存在。彼女が魔法少女になってしまうと…いざ円環の女神と重ね合わせようとしても、上手くいかない可能性がある。その時、私には手立てが残されてないだろう。

 

すると…今の私にとって最も重要なのは、古手梨花。

 

その出で立ちも分からないのに、まどかやほむら同等の因果を持つとされている梨花が、今一番…気にしなきゃいけない存在。

 

けど。彼女もまた一人の人間だ。

そう易々と魔法少女になって一緒に戦え、とは提案できない。

それどころか…下手に魔法少女になると、暁美ほむらの標的になりかねない。

 

…難しい問題だけど。

 

結果的にまどかを再臨させることができれば、再び宇宙の改変が行われる筈。

その結果…私やなぎさはまず、円環の理に導かれる。

きっと、ほむらも。

マミさんや杏子はきっと、戦い続けているんだと思う。

 

でもその時、梨花がどうなるのかが分からない。

 

どうなるのか分からないのに、梨花に戦えだなんて…言えない。

 

だからこそ、彼女の事を知ろうと思った。

 

まどかの再臨、そして再改変を目指す私だからこそ、梨花が改変後にどうなるのか…大凡でも良い、知っておかなくちゃいけない。

 

そう、思った。

 

「さやか?はいなのです。さやか!」

 

「あ"!ごめんごめん。ありがと、梨花。」

 

「相変わらずぼーっと、しているのです。…話って何なのですか?気になっているのです。」

 

先に受け取ってくれていたらしい、私のバニラフラペチーノを差し出してくれた梨花は、呆然としていた私に向けて怪訝さを匂わせながら空席を探して辺りを見回す。

けれど、背が小さい為か視界が悪そうだ。背伸びをして頑張っている様子。

 

「まぁまぁ慌てなさんなって。梨花、あそこ空いてるよ。さっさと座っちゃお!」

 

「Go!なのです!」

 

走る素振りで手を振りながら、しっかり周りを気遣ってゆっくり歩く梨花。私もそれにつられて、歩幅を狭めて小刻みに早歩き。ひと時の戯れだ。

 

そのノリもすぐに終わり、二人は落ち着いて席に座り、私はバッグを膝上に。彼女はランドセルを椅子下の荷物置き用ネットに強引にねじ込んだ。

 

「昨日は眠れた?夜遅くに送ったから、起こしちゃったかもって…やらかしたーって思っててさ。」

 

「構いませんのです!ちょっと調べ物をしていただけなのです。にぱー…」

 

「調べ物?」

 

すぐに本題を切り出しても味気ないかと思って、昨夜…意外にもすぐに返事がきた事を思い出し紡ぐ。

すると梨花はどことなく苦笑を交えたような"にぱー"を見せた。

なんて事ない表情だけど、何となく引っかかってしまった。粗方宿題か何かの話かと思っていたけど。

問いかけ直すとあからさまに、彼女は困惑を示すように眉を下げた。

 

「えっと。後で話すのです!」

 

「え、なんかごめん!言いたくないなら無理にとは言わないよ?」

 

「…気が向いたら話すのです。」

 

気まずい雰囲気を予感して私は焦ったけど。彼女が言葉と言葉の間に置いた暫しの休符は、嫌悪や不快感ではなさそうで。

どちらかと言うと、迷い…のような。そんなニュアンスに見えた。

不思議な存在、古手梨花のことだから…もしかしたら何か抱えているのかも。

とは言え…今話すべきじゃないと、彼女が判断しているのだから無理に探るべきではないし。

そもそも私が話したいと切り出した側。多分、梨花はそれも兼ねて遠慮してるんだろう。

賢い子だ。

 

「んじゃ、あたしが先に話そうかな?って言ってもさ。大した話じゃないんだけど。」

 

「そうなのです。気になっているのです。さやかがボクと話したいだなんて。怪しいのです…」

 

そう言って梨花は目を細めて私をジト目に見つめる。

私は少女を誘拐する変質者じゃない。

 

「襲っちゃうのだー!」

 

「わぁー!」

 

明らかに怖くなさそうに驚いたフリをする梨花。

一頻りの茶番をさておき、私は切り出す。

 

「…手始めに。梨花の事をもっと知りたいんだよね。」

 

「? 急なのです。」

 

そりゃそうだ、急に知りたいだなんて…口説き文句みたいで滑稽だろう。

 

「ていうのもさ、あたしはある事をしようとしていて。それは詳しくは言えないんだけど…ルールを乱す奴が居るんだよ。本来在るべきものを破壊して、自分の思い通りにしたいが為に動く…嫌な奴。」

 

「…具体的に分からないと何とも言えないのです。」

 

「まぁまぁ聞いてよ。そんな悪者を正義の味方、さやかちゃんが一発!お見舞いしてあげよっかなーって考えてる訳。」

 

「喧嘩は良くないのです…」

 

梨花はよく分からない話を聞かされて首を傾げてはいるものの。

自分なりに何かを思考してくれているみたい。

眉をしかめながら私の目を見つめてくれている。

 

「だけどね。簡単な話でもなくて。それをやってしまうと…周りもやっぱり、変わっちゃうんだよね。もしかしたら、梨花も変わっちゃうかもしれない。」

 

私の言葉に反応して。梨花が咥えていたストローが…その中で吸い込まれる飲料の流れを止めた。

 

「その時、梨花がどう変わるのか分からないんだよ。あたし…梨花の詳しい事、あんまり知らないからさ。だから、それを実行する為に…もしくは、実行して良いのか、ダメなのか…考える為に。梨花の事を知りたいんだ。」

 

明らかに梨花はその表情を変えた。

ストローから唇を離し、両腕をテーブルに寝かせて置き。

私の目をじっと見つめている。

その梨花の目は…うん。絶対この子、私より年上でしょ…ってくらいに。

疑問、疑念、憶測、推測、真意を探り、其れが正か悪か見定める。

そんな…圧迫感すら漂わせる…眼差し。

 

暫く…その視姦にも近い眼差しに気圧され気味に見つめ返していると。

 

梨花は漸く唇を開いた。

 

その瞬間。

 

彼女の唇の動かし方、眼差し…つまるところ、面持ち。

手振り、仕草…何もかも。

少女の其れとは思えない立ち振る舞いに見えた。

 

 

 

「…私も。私の事を知りたいの。聞いてくれるかしら?さやか。」

 

 

 

やっぱり、この子は得体が知れない。

 

そして。その変貌した後の古手梨花は。

 

"悪魔"に似た何かを帯びていた。

 

「…聞かせて。梨花。」

 

何故だろう。

この胸の高鳴りは…彼女への畏怖と。

それ以上に何故か、期待を煽られていた。

 

悪魔と相対した時の様に。

 

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