重装傭兵ロドス入り   作:まむれ

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Ep.10-剛毅果断-

Date:unknown 07:20 PM

670m east of L.G.D.Headquarters,Upper Factor St.,Upper Lungmen

Weather:over cast

 

 

 近衛局のビルを前に、チェンが部下たちに演説をしている。近衛局のビルを背景に戦意を高揚させる局員たちだが、その中にホシグマさんの姿はない。

 

 太古プラザ制圧も終わりかけた時、一つ下の階から大量の爆薬を用いた攻撃。一部が吹き抜けだからこそ出来た爆破攻撃は、狙い違わずチェンを捉えた。建物が崩れるのではないかと危惧する程の揺れを感じる中、瓦礫と一緒に落ちていくチェンだったがその横にエメラルドグリーンの糸が追随していくのが見えた。

 


 

Ep.10-剛毅果断-

 


 

 慌てて階段を下りて見えてきたのは盾と膝をつくホシグマさんと、その前で群がるレユニオンを斬り捨てるチェンの姿。ホシグマさんの方は至る所に裂傷が刻まれ、息も荒々しくああしているのもやっとに見える。

 

「隊長!」

「ああ、思ったより早かった」

 

 俺達を見つけ、安堵の息を吐くチェンを援護せんと、一緒に降りて来た局員が援護射撃でレユニオンを一人ずつ倒していく。結構な数を倒したと思っていたが、下層階にはこれほど潜んでいたのかと思う程の数が残っていたようで、チェンとホシグマさんが爆発に巻き込まれたのは不幸だったが転じて残党を炙りだせたのは幸いだろう。

 

「何かしらの傷を負ったかと思ったが……まさか無傷たあどういうこった」

「ホシグマが守ってくれた。最初は私もホシグマも瓦礫の下だったのだがな、こう、ホシグマが瓦礫を支えてくれていて」

「ああ、いや詳細を聞きたいわけじゃあねえんだ。お前、そんなテンション高い奴だったか?」

「────すまない、少しおかしかった」

「いや俺はいいけどよ……」

 

 小声で「*龍門スラング*」と呟くチェンをひとまず置いておき、次にしゃがんで顔を伺うようにしながらホシグマさんへと声をかける。

 

「そっちは大丈夫そうじゃ、なさそうだなぁ」

「はい。でも悪い気分ではないですね」

「ホシグマ、余計なことは言わないでくれるな?」

「いいではないですか。あれほど情熱的な言葉を聞けたのは幸運でしたよ。録音してロドスに送りつけてみたいと思う程には」

「*龍門スラング*」

「それは俺も聞いてみたいが、まだ作戦中ってのが残念だ。事が終わったら、ロドスに来て話してくれよ」

「えぇ、必ず」

 

 憮然とするチェンを置き去りにして、ホシグマさんは嬉しそうだった。怪我を負った事も気にしていないかのように、楽しそうに悪態を付くチェンを見ている。

 

「ホシグマ、その怪我と疲労では後方に下がった方が良さそうだな」

「チェン! 意地悪したのは謝罪しますから……」

「自分でもわかっているのだろう?」

「……少し休めば大丈夫です」

「身体はな、だが疲労は無視できまい」

 

 若干の間、立ち上がったホシグマさんだが足は覚束なく盾も持つのがやっとのように見える。これから向かう場所の事を考えれば、チェンの判断は正しい。ここまで負傷してしまえば、逆にお荷物になりかねない。

 

「本当に小官抜きで行くつもりですか?」

「そんなに心配するな、私を信じてしっかり休んでいろ」

「わかりました……ロドスのお二人に頼むのは気が引けますが、チェンをよろしくお願いします」

 

 なおも言い募ろうとていたが、譲る気はないらしい。その空気を感じ取ったホシグマさんは少し落胆したあと、こちらを向いて少し頭を下げた。その雰囲気は正にやるせなしと言ったようで、言葉通りこんなことは頼みたくないという本音がありありと醸し出されていた。

 本丸を前にしての脱落、友人の背中を誰かに託さなければならない歯がゆさと、ロドスへの後ろめたさの両方が混ざっているのは間違っていないだろう。

 

「ま、出来る範囲でな」

「ホシグマは私の母親か……?」

 

 さもありなん。それからメディックが到着するまでの間、ホシグマさんからチェンへの小言とも言えるアドバイスが延々と流されたのを後から来たエフィとニヤニヤしながら聞くことになる。

 

 


 

 

「不気味だと思わないか?」

「それはどっちの話だ。ふらふらと歩くだけみたいなレユニオンか、素直に力を貸してくれと頭を下げたお前の話か」

「……エインウルズ、貴様はどうしてそうなんだ。数年前に盾をケーキのように切り分けた事をまだ恨んでいるのか?」

「冗談だよ。悪かったって」

「エインさん、少しは真面目に出来ないんですか……?」

 

 近衛局への潜入は予想より遥かに簡単に完了した。偵察隊が先鋒を務めた数十名から成る精鋭は、ここに至るまでただの一度も戦闘をしていない。単純に隊員の練度がずば抜けているだけなら手放しで賞賛出来るが、そうとも言えない理由が別にあった。

 

「それは部下も言っていた。だがこうして近衛局に入りこめた以上、気にしている暇も余裕もない」

「あれはいったい、なんだったのでしょうか」

 

 エフィの顔も戸惑いと恐怖で埋め尽くされている。確かに俺から見てもあれは恐ろしかった。ぼろぼろの戦闘服と半ばから寸断された剣やパイプ、割れた瓶などを持ち、どこを見るでもなく無表情で身体を曲げて歩く、どう見てもおかしい集団の姿。周囲を警戒するでもなく、ただただ幽鬼のように闊歩する彼らは複数のグループに別れて近衛局へ進軍する俺達を気に掛ける事はなかった。それどころか、明らかに視界に入っているにも関わらず武器を上げる事なく、素通りしていく。

 龍門のシンボルも一つとも言える近衛局の前でこれなのだから、到着した全員が安堵よりも警戒を先に抱くのは至極当然だろう。

 そしてもう一つ、エフィに言われてから警戒するようになった事がある。

 

「チェンさん」

「エイヤフィヤトラ、どうかしたか?」

「気のせいかもしれないのですが……」

 

 不安そう杖を両手で握りしめ、こちらをちらりと見やるエフィに強く首肯して先を促す。

 

「誰もいないはずなのに、誰かいるような気がするんです」

「なんだ、それは?」

「私、目は悪いのですが代わりに人、いえ、生物の温度を感じ取ることが出来るんです」

「それはまた便利な能力だな」

「それでその、時折見えないのに温度だけ感じる事があって……」

 

 それは勘に近いものだった。近衛局の隊員と混じっていてエフィの中でもはっきりと確証が取れないもので、時折集団から外れてはどこかへ行くものがあること、周囲がそれらになんの疑念も抱かないこと、注意深く見ていたらその後ぱたりと起きなくなった事。全てをチェンに伝えたエフィは一歩後ろに下がった。

 

「本来なら早く言って欲しかったが……」

「す、すみません」

「いや、余計な事を言って混乱させたくなかったのだろう? すまない」

「チェン、お前いつからそんな気配りが……」

「私だって成長するさ。それより、信じるならば敵は隠密能力に特化した存在がいるということになる」

 

 チェンはそれを全て信じているようだった。他の局員から不審な点があったとして似たような報告を受けていたらしい。曰く、何もないところで喋り声がしたり、敵を追って先の曲がり角が一直線にも関わらず見失ったなど。更に言えば、内部に居るレユニオンが外の連中と同じように亡霊のようにふらふらとした挙動であることも。

 敵の中に姿を隠せる敵がいる事を今知れたのは、もしかしたら大きいかもしれない。

 

「どこから攻撃を受けてもいい様に心構えをしなければならんな。敵が展望デッキに居を構えているのは聞いていただろう」

「ああ、どっからどう見ても罠だろこれ」

「だとしても、我々はそれを正面から打ち破らなければならない。私に任せろ」

「何言ってんだお前。隊員か俺らを連れて行かないと危ないだろう」

「チェンさん、それは……私達も一緒に行きます!」

 

 あまりにも無謀な行動。エフィもほぼ同時に顔をあげ、一歩踏み出してチェンの顔を見る。罠だと解りきっているところへ、自分一人で乗り込むのはいくら強くても危険が過ぎる。

 確かにチェンはいけ好かない奴で俺の話も聞かず問答無用で牢屋にぶち込んだ人でなしだ。けれど今日は半日も戦場で肩を並べて戦った戦友でもあるのだ。ホシグマさんに頼まれた事もあって見殺しになど出来ない。

 

「意外だな、貴様がそれ程熱心に私を心配するとは」

「俺の血は青でも緑でもないんだ、心配なんて当たり前だろうが」

「昔の貴様からは想像も出来ない言葉だ」

「エインさんは少し捻くれてるんですよ」

「少し……?」

 

 あれこれと言い募り、ついでに報告に来たらしき隊員も巻き込んだがチェンは頑として曲げようとしない。

 

「嬉しい話だが、私だって勝算が無いわけではない。危なければ撤退もするし、何より私が周囲に気を使わなくて良い」

「足手纏いはいらねぇってか?」

「曲解しないでくれ……詳しくは言えない。けれど決してそんな悪く思っているわけでなく、必要な事なのだ」

 

 どうあっても考え直してくれない。これ以上は時間の無駄だと悟った俺は両手を挙げて降参する。溜息を吐いて、処置なしと首を振った。

 

「わかったわかった、後でホシグマさんに何か言われたら助けてくれよ」

「……約束ですからね、チェンさん。私達は仲間なんですから」

「あぁ。無事に終わったら飯を食いに行こう、私の仲間と共にな」

「今から終わった後の約束をするのは死ぬ前兆だぞ」

「それは物語の話だろう? ここは龍門近衛局だ、そうはならんさ」

 

 部隊は動く。さび付いたドアの音の先は埃が積もった非常用通路だ。ここからチェンは展望デッキへ、俺達は最上階を攻略してチェンの援護と、背中を守らなければならない。

 最後にもう一度と同行を願い出た隊員もいたが、結局変わらず、チェンは光の先へと姿を消していった。

 

「さて、俺達もやるぞ。死にそうになったら割って入ってチェンを笑うためにもな」

「今回の事で気付きましたけど、エインさんって本当に面倒くさいですよね」

「エフィも言うようになったなぁ……」

 

 ロドスに来た当初、エインさんエインさんと後ろを付いて来た少女はもういない。戦場を共にくぐり抜け、遠慮がなくなった少女はすっかりと俺の相棒になっていた。

 それを悲しいと見るべきかどうかについては、悩ましい話だった。

 

 

 

 

 

 

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