11:11 AM 5-3 近衛局員を集合させてロドスより出発
07:40 PM 5-7 近衛局より620m東でチェンが演説
11:20 PM 5-9 近衛局ビル2Fにて作戦会議
04:21 AM 5-10 ロドスアイランドの増援到着
五章時点で読み取れる時間軸。なんだこの強行軍!?
あとざっくりカットした理由は近衛局ビルの構造がわからないからです。ほんま、地図くれないかな……
展望デッキを除いて近衛局の制圧自体は時間がかかったものの比較的簡単に終わった。徘徊するレユニオンがただ歩き回っているだけでこちらから仕掛けない限り反応がないため、複数のグループに別れて少し小突いて捕縛するだけで済んだからだ。あとはチェンが指揮官を討伐したあとと、増援の部隊と共同で別館や外のレユニオンを片付ければ終わる──はずだった。
「どうなってやがるこいつら!」
「あの人達燃えながら向かってきますよ!?」
「あいつら炎タイプだったのかもしれねぇな!」
きっかけは隠れていたレユニオンの狙撃手と、指揮官らしき人物が放ったアーツのようなもの。それが発動してから倒れていたり拘束されていたレユニオンだけでなく、内外の歩く死体のような奴らまでが凶暴化して暴れ始めたのだ。
オマケにこいつら、力は強いわ倒しても倒しても起き上がってくるわアーツを受けながら突進してくるわで非常に厄介な存在になっている。現に今も、エフィの炎弾で服を燃やしながら俺の盾をがんがんと敵が叩いてくる。
「エインさん!」
「わりぃ助かる!」
横合いから別のレユニオンが殴りかかって来たところを、エフィがアーツを当てて吹っ飛ばす。普通ならあれで意識を刈り取れるはずだが、すぐに起き上がってくる光景をもう何度も見ている。
近衛局の隊員も奮戦はしているが、いかんせん数が多すぎる上に頑丈でいたちごっこにしかなっていない。この階にいたレユニオンだけでこの有様だから、階段で下の階から登ってくる敵を足止めしている隊員達や、下層階で入口を守っている部隊が決壊したらどうなるか考えたくない。
突然、今まで力任せに殴るだけだった敵が武器を捨てて盾を掴んできた。咄嗟に振り解こうと盾を押すが、更にもう一人も同じ様に抑えてきて上手くいかず、その場で一瞬止まってしまう。
頭上に影がかかる。はっと顔を上げれば、得物を大きく振りかぶるレユニオンの姿。妖しく目が光り、どう見ても正気を失っている顔がにやりと笑った気がした。
「ぐ──!」
頭に感じる衝撃が、身体を伝って一瞬視界がブレ、戦闘による喧騒が遠くなる。盾を握る手から力が抜けそうになり、膝が地面に落ちた。
緩むな、確かに痛みは酷く頭から流れる血で視界の一部が赤くぼやけているが経験がないわけじゃない。そう自分を叱咤して、身体に力を込める。
俺に痛打を与えたレユニオンは満足そうにもう一撃と振りかぶっているが、それは致命的な隙であった。
炎の波がそいつを焼き、更に火炎弾を撃ち込まれる。エフィによるアーツの攻撃だ。後方から俺だけでなく見える範囲の味方に支援火力を送り続けた結果、一瞬俺への援護が間に合わなかったのだろう。俺の名前を呼ぶ声には悔恨が混じっているのが聞いてとれる。
「おおおお!」
二人がかりで掴まれていた盾だったが、その拘束は緩んでいる。有効打を与えた事に関する気の緩みと、仲間が真横で致命傷を負った事の動揺か。果たしてそれを感じる程理性があるのかわからない。だが推測できる理由はそれくらいで、そもそも俺にとっては都合が良いので何が原因かはどうでもいい。
ファルシオンを抜き、右側で掴んでいる男の指を力任せに斬り落とす。すぐに再生するかもしれないが、この瞬間は拘束している力が一人分更に減ることになる。
「ッらぁ!」
盾をそのままスイングすれば、呆気なく敵の手が離れ、丸見えになったそいつの身体を蹴飛ばして距離を取る。
「俺を殺したきゃもっと力の強い奴を連れて来いってんだ」
「だ、大丈夫ですか!?」
「これくらいなんてことねぇ、そんな事より敵から目を離すなよ?」
エフィがいるところまで下がると、すぐに隊員がカバーに入り、俺の抜けた穴が塞がれる。その隊員へ火力支援を行いながら、エフィは心配そうに俺を見た。思えば、初めて会って道中護衛してからロドスに加入して今まで、怪我らしい怪我を目の前で負わなかった。
そんな俺がどっかから引っこ抜いて来たような鉄の棒を頭に叩きつけられ、頭から血を流しているのだからエフィとしては気が気でないのだろう。
昔はこれよりもっと酷い負傷をしたことがある。両腕があらぬ方向を向いていたり、肩の少し先から半分くらい切れて血が出ながら千切れかけたとか。それに比べればこんなもの軽傷だ。
とはいえ、この状況が続けばいずれ押し負けるのは目に見えている。なんとかしなければいけないが……
「くそっ! こいつは硬い奴だぞ!」
「
「こっちは柔い! 成長する前に急いで無力化しろ!」
「それが出来たら苦労しませんけどね!」
隊員が応戦している通り、全員が全員硬い訳ではない。源石が身体を突き破り、異形となったような存在は現状の装備でも倒せない程だが、そこまで症状──と表すのが正しいかはわからない──が進んでいないやつはそれ程でもない。例えば俺が相手していたのはまだ人間の方で、指を斬り落とす事が出来た。これがヤバい方になれば指ですら鉄のような硬度で、盾を持ちながらとか周囲を見ながらの応戦では表面に傷を付けるので精いっぱいになってしまう。
「窓だ! 窓から落とすしかねぇ!」
「もうやってる! が……結論から言えば相当上手くやらないと掴まれたまま一緒に落ちる!」
「隊長も複数の狙撃手と肉塊のせいでどうにも決め切れていないようだ……!」
目元を擦り、口まで流れてきた血を舐める。感染者の咆哮と隊員の悲鳴。死者はかろうじて出ていないが、それも時間の問題だ。内外共に数える気も起きない敵の姿と有様は、増援部隊がよほどの重装備と沢山の人員を連れてこない限りは援護の期待すら出来ない。
「っぶねえ!」
目の前で態勢を崩され、巨体の感染者に圧し掛かられようとしている隊員を見て慌ててフォローに入る。念のため回復術師のところまで戻りたかったが、やはりそうもいかないようだ。
ただただ力と数に任せた攻勢。敵は後方から術師が援護する事もなく、全員が何度倒しても立ち上がって肉弾戦を仕掛けてくる。通常ならば一蹴出来る群れが、恐らく痛覚がないというだけで呆れる程有効な戦術へと変わっていた。
「す、すまない助かった!」
「礼はいいから早く下がれ! 怪我治してきたら敵さんのおかわりやるからよ!」
「エインさん! 正面から二人来ます!」
「くそったれ、こんなとこで化け物に殺されるなんて冗談じゃねえぞ!」
道中で休憩を何度となく挟んではいるが、チェンの部隊についていって二日近く戦闘を繰り返している。エフィは最近まで一般人だったのかと疑う程良くやってくれているが、俺も含めてどこまで体力がもつかわからない。終わりの兆しすら見えない現状に、くそったれとしか言えない無力感が辛かった。
「もうすぐです、間もなく龍門近衛局に到着します」
「別に助ける必要はないんじゃない? アーミヤちゃんを置き去りにした奴なんか、もう少し苦戦してほしいくらいだし」
轟々とエンジン音が鳴り響く機内で、二人の女性が会話をしていた。一人の女性は不満を隠せない声で事前に説明された作戦を否定するが、小柄な少女──アーミヤはたしなめるように首を横へと振った。
更に続けざま、フルフェイスのメットとそのうえから制服のフードをすっぽりと被って素顔を隠した存在が不満げな女性を宥める。
「駄目だよブレイズ」
「ドクターの言う通りですブレイズさん。それに、あそこにはロドスのオペレーターもいるんですから」
「えぇ! ドクターとアーミヤちゃんを見捨てた奴に協力してる人がいるの!?」
それは出撃前に周囲から散々説得されて渋々やってきた女性、ブレイズにとっては信じられない事であった。オペレーター達にとってアーミヤはただの上司というだけでなく、結束や尊敬などを抱く仲間でもあった。この素顔を隠した存在、ドクターも記憶を失ってはいるが自分の命を預けるに足る指揮能力を持つ優秀な仲間かつ鉱石病の治療のために必要な希望であることは今も昔も間違いない。
それをレユニオンの精鋭が蔓延る廃墟に置いたまま龍門へと戻った事は一億万歩譲れば納得できずとも頑張って理解しようと思えるが、その龍門をレユニオンの手に落としたのは頂けない。ブレイズにとって、今から行う事はそんな彼女の尻拭いなのだと感じてしまうのである。
「私達がチェルノボーグで戦っている間に入った傭兵、だそうです」
「え、えぇ……そんな新人をこんなところに? ケルシーってば酷くない?」
「先生によれば、戦闘能力はお墨付きだそうですけど……」
「つまりその新人を助けに行くって事さ。頼むよブレイズ」
「……そんな念押ししなくても、命令ならちゃんとやるから」
二人からこうも注意されれば、ブレイズも別の意味でまた不満だ。ロドスの栄えあるエリートオペレーターを自負する彼女は、一度引き受けた命令を私情で無碍にしたりはしない。
ましてやこうしてロドスに加入したばかりのオペレーターを見捨てるなどどうして出来ようか。
ブレイズが武器の最終チェックを終えたその時に目的地へ到着したのか、正面の壁でしかなかった部分が上へと持ち上がり、外の明るさと同時に強い風が機内へと流れ込んでくる。
「チェンに置いてけぼりにされた事は気にしてないさ、さあ行こうブレイズ!」
「ここでチェンさんを死なせてしまっては、ロドスの努力が無駄になってしまいます」
「もう! わかったってば! 降下の姿勢に注意して、熱流から離れたら駄目だからね!」
近衛局とその周辺のレユニオンがどうなっているか、協力者から事細かに報告を受け取ったアーミヤは展望デッキがどうなっているかわかっていた。だから何か覚悟を決めたようなチェンへ無線を通じて行為を止めさせ、その身に宿る特別なアーツを詠唱して解放する。黒い帯のような何かが降り注ぎ、怪物と化したレユニオンの動きが困惑するかのように止まった。それは明確なチャンスだった。
「行くよ!」
「はい!」
その瞬間、三人はパラシュートも身に付けず、ペイロードから空中へとその身を躍らせた。展望デッキまで40ⅿの高さ、万が一そこへと着地出来ないと地表まで一気に激突のコース。
だがそうはならなかった。チェンを苦戦させた狙撃部隊の矢も軌道を逸らし、数多いるレユニオンの怪物がいる展望デッキへ──その一部ごとレユニオンを爆砕する大技を使いながら──無事に降り立った。近衛局奪還作戦は、最終局面へと入る。