大きな事件が終わった後であれば尚更に。
これはロドスアイランドに籍を置く一人の傭兵の日常。
オペレーターエインウルズの華麗なる日常-開幕-
Ep.13-水滴石穿-
「ねーねーこの姉ちゃんかみの毛めっちゃきれいだな!」
「でっかい剣めっちゃかっこいいじゃん! すごーい!」
「ちょっと……! ああそんな服を引っ張らないで!」
「この帽子ぼくもほしーい!」
とある昼下がり、ロドスアイランドの一角で繰り広げられていたのは喜劇だった。数人の子供が群がる先にいるのは白金の髪を漂わせ、困惑するスカジさんの姿。
オペレーターや一般職員には威圧感を剥き出しにして関わらないようにしているスカジさんだが、作戦が終わってドクターへ報告が終わった帰り道、『偶然』遭遇した子供達を相手に同じような事をするわけにもいかず。俺に助けを求めるような視線を注いでくるが、多分気のせいだろう。
スカジさんと付き合いは長いが、以心伝心が出来るまでに至っていない。もしかしたら俺の考えがあってるかもしれないけどいやーちょっとわからないなーという意味もこめて首を捻っておく。
「あなた、本当に……!」
「駄目ですよスカジさん、子供の前で怒っちゃあ」
「覚えていなさい、絶対に」
「こわ……」
恨み言を呟いているが、少なくとも今のところは被害が来ないので貸し出された端末をそっと取り出してこのお祭りを記録している。無論、逐次録画終了してデータを転送するのも怠らない。万が一子供を飛び越え端末を破壊しに来た時におじゃんになりましたでは怒られてしまう。
そう、貸し出された端末やデータを転送なんて言った通りこれはさる人物に頼まれて起こした行動──いや頼まれていたのは事実だが今目の前で起きているのはあくまで偶然。
子供達とスカジさんがわちゃわちゃしているのを見ながら、数日前にドクターから呼び出されたあとの一幕を思い出していた。
「スカジさんの噂についてどうにかならないかって? ドクター、それについては俺もどうにかしたいとは思ってますけどね」
ドクターに指定された時間は多くのオペレーターが寝静まった深い夜の時間だった。許可を貰って執務室の窓に肘を置き、外に向けて煙草の煙を吐き出す。ロドス本艦の明かり以外は月光しかない荒地で、煙草の火は良く映える。
「難題だというのは理解しているよ。けれどこれもロドスを円滑に動かすために必要な事なんだ」
最初こそ交流を避ける姿と謎に包まれた出自から悪評すら立っていたが、そこはアーミヤが頑張って取り除いたそうだ。結果、悪評こそなくなったが相変わらず近付き難い雰囲気と、チームを頼らない戦い方に合わせて埒外の力の持ち主の要素が全て合わさって人が寄り付かなくなってしまった。他のオペレーターが連絡事項を伝える時に委縮して支障が出る事があるため、いよいよどうにかしようと思い立ったらしい。
とはいえそれはドクターの考えであって俺個人としては、はいそうですかと頷いて安請け合いするには気が進まない。
「彼女が一人を好んでいるのもわかる、それに何かしらの理由があるのもね」
「それを知っててなおやるんで?」
「余計なお節介なのは百も承知。けれど知っているかい?」
「何を?」
「彼女が甲板で一人きりの時に口ずさむ歌、ちょっと悲しいんだ。だからちょっとくらいは挑戦してもいいだろう?」
と意気込んだはいいものの良案が浮かばずに時間だけが過ぎていき、最終手段として俺を呼びだしたのが今日の面談の真相だ。
なるほど確かに、言葉ではこちらを突き放すスカジさんだが仕掛けられた腕試しへ律儀に付き合ってくれるし、昏倒した集団を一人が目覚めるまでわざわざ待つ、何よりも俺の突貫に幾度となく武器を構えてくれた。
今までは俺も最低限の一線を引いてきた。けれどドクターがこう言っているなら、スカジさんへ二度目に挑んだ時のように冒険してみるのもいいかもしれない。
煙草を咥え、一息に肺へ煙を送った後に夜の闇へ煙を一気に送り出す。ぼろぼろになった先端を携帯灰皿へと落とし、取り出した時の半分未満の長さになった残骸を念入りに潰してから仕舞う。
「いいですね、俺もそれに一枚噛ませてもらいますよ」
「結構、それじゃあ今から共犯者だ」
「今まで引き受けた依頼の中でも五指に入る難易度かもなぁ」
「報酬は君が欲しがりそうなものを用意しておいたさ」
そう言ってドクターが放って来たのはとある施設のチケット。確かにそれなりの報酬にはなっている。「アーミヤには言い含めておく」とご丁寧に付け加える辺り俺の懸念にしっかり気付いているようで心強い。
それを頭の上に掲げ、ひらひらさせながらドクターを見て笑みを浮かべる。
「こんなもん用意してるとは準備がいい」
「頼める相手が君以外にいなかったからね」
いやまあ、これで俺以外に適任がいるのならばそれはそれで何があったのか気になって仕方がないのだが。
「機材はこちらで用意するから逐一──」
「俺単体だとスカジさんも慣れてるでしょうし、何か外的要因を──」
引き受けたからには全力で。この夜、ドクターの執務室から光が消える事はなかった。
余談だが朝になって起きて来たアーミヤに二人して散々に怒られた。「ちゃんと寝ないと仕事の効率が下がるんですよ!」って本当に厳しいな。
あれからドクターと話してる後ろから気配を消して近付いたら首の皮一枚斬られたり、ミッドナイトがスカジさんを口説きに行って一言で切り捨てられたり、今まで一人で挑んでいたのを連携が大事だからと知り合いの腕を掴んで複数人で挑んでみたり……どれもが上手くいかず、やっぱ駄目だと匙を投げかけた時ロドスにいる子供達がスカジさんに興味を示した。
ロドスにいる子供達とは暇な時に色々構ったりしていて仲良くなっていたから、子供からしたら「兄貴」の俺が最近追っかけ回してる美人の存在が気になって仕方ないのだろう。マセガキ共めと普段なら小言の一つでも飛ばすところだが、今回に限ってはよくやったと褒めたい。
男の子は「大きな武器がかっこいい」
女の子は「さらさらな髪や肌のお手入れの方法が知りたい」
しかし、興味を示したところであのスカジさんが子供の相手をするとは思えず、こうして帰艦直後に『偶然』遭遇した体で子供達を絡ませることにした。快く協力して引率してくれたレンジャー翁には上質な酒を献上するべきだろうな。
そういう意味も込めて、近くの壁に背を預ける頼りな年長者に頭を下げる。
「ありがとうございますレンジャー翁」
「なに、若人の悩みを解決するのもまた老輩の役目じゃ」
無愛想にしていても離れない子供達を前に諦めたのか、剣を様々な角度で構えて男の子を喜ばせるスカジさんを見て、ロドスでも古参に位置される弓兵は顎に手を添えて興味深そうにしている。
「悪い存在ではないと解っていたが、意外と面倒見が良い」
「流石に今回だけだと思いますけどね」
「ふむ、それは惜しい話じゃ」
「俺が頼まれたのはある程度までの話ですから」
次は女の子からの質問に答えている。といってもスカジさんは特段意識して何かをしているわけじゃないらしく、女の子たちに膨れられて腕や足をぷにぷにされて鬱陶しそうな顔のまま固まっている。こういう愉快な気分をSNSでは「草」と表現するらしい。うん、草。
「……そろそろ止めておくかのぅ?」
「そうですね。目的も達成しましたし、あまり長く世話させたら後が怖い」
手を大きく二回叩けば、スカジさんに夢中だった子供達が俺の方を向く。
「ほらほらあんましお姉さんに迷惑かけんな! 飯の時間だぞ飯の時間!」
「えー兄貴ばっかずるくない?」
「そうだよー、私達ももっとお話したいもん!」
「いいかい? このお姉さんは人と関わるのが苦手なんだ、今回は特別だ特別!」
「「「えー」」」
「えー、じゃない。今度から一緒に任務出る人にスカジさんが戦う姿撮ってもらうようにするから、それで我慢しろー!」
「……ちょっと、勝手にそんな約束取りつけないで」
「群がられるよりはマシでしょう」
「そもそもこれはあなたの差し金よね?」
違います、と言うと嘘をつくことになるのでスカジさんの細まった視線ごと黙殺し、子供を引率して食堂へと向かう。十人近い子供たちと最後尾にレンジャー翁とスカジさんと異色の面子で食堂に入れば、先に食堂でご飯を食べていたオペレーター達が一斉にその手を止める。
あるオペレーターはスプーンを落としかけて慌てて拾い上げ、別のオペレーターは同席していた同僚と呆気にとられて間抜け面を晒す。端っこにいる好奇心の高そうなオペレーターは写真を撮ってニッコニコ顔で端末を操作している。というかメイリィだった。あいつ絶対SNSに投稿してるだろ。
「今日は俺が奢ってやるから好きなもん頼め!」
「いいのか兄貴! カレーにコロッケ付けてプリンは?」
「おうおう許す、たんと食って健やかに育ちたまえ。」
今日の功労者である子供達のご飯くらい持とうと券売機に向かう。カレーにコロッケだろうとメンチカツだろうとデザートにプリンやアイスを付けたって文句は言わせない。
「じゃあ私はこれとこれとこれと」
「……あのスカジさん?」
「お金はあなたが持ってくれるのでしょう?」
「いや子供達の」
「労働の対価は必要だと思うの」
「いや頼みすぎ」
「何か問題でもあるかしら?」
「……なんでもないです」
子供達に向けられなかった分の圧力が全部俺に来ている気がするのは気のせいだろうか。いかんせん、直前の事があるためにこれ以上何かあったら別のところで帳尻を合わせられそうな気がしたため、券売機から吐き出される紙の数から目を逸らしながら甘んじて受け入れる事にした。スカジさんがこんなに食べるなんて今まで知らなかった、作戦成功で貰った給金はほとんど消えました。
| ← スレッド |
| カーディ ↓ @Cardigan_M スカジと子供達の組み合わせ、レンジャーさんもいるんだけど何事!? 皆驚いてる! 07:30 PM・1097年 X月X日・TimeLine Web App 31 リツイート 148 いいねの数 ◇ ♲ ♡ ↑ |
| 龍門近衛局警司@Lungmen_Guard_C・3分 ↓ 返信先:@Cardigan_Mさん どう見てもそこの傭兵が原因ではないのか……? ◇ ♲ ♡ ↑ |
| マッターホルン@Matter_Defender・11分 ↓ 返信先:@Cardigan_Mさん また女子供に振り回されているのですか ◇ ♲ ♡ ↑ |
| LeaderOne@LeaderOne・20分 ↓ 返信先:@Cardigan_Mさん 草 ◇ ♲ ♡ ↑ |
大陸版で実装されているがこっちでは未実装のオペレーターを出したくなったのでオペレーターのネタバレ上等で出しても良いですか?
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いいよ
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どちらでも構わない
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駄目です
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結果を見たい人用