重装傭兵ロドス入り   作:まむれ

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Ep.14-青天霹靂-


 

Ep.14-青天霹靂-

 


 

 

 エフィはオペレーターとしても優秀で、既にロドス内でも替えの利かない存在であると認知されている。組んだ相手は数知れず、その度に駆り出される俺はチームになったオペレーターがエフィをベタ褒めしているのを見聞きし、腕を組んで何度も何度も首を縦に振る人形になってしまう。

 不自由な視界のせいで少し手間取る事もあるが、それで文句を言うような奴がいた時には例え護衛依頼の相手だろうと舌打ちを止められないくらいには大事に思っている。

 最初は同情や罪悪感で手伝いをしていたのは間違いない。けれど色んな依頼や近衛局奪還作戦を経て、エフィはただの少女から誇るべき相棒になったのは紛れもない事実だ。

 

「なんか、お兄さんみたいだよねえエインは」

「あ、それわかります! 私、作戦中の待機時間とかエインさんがなんでもやってくれるんですよね、過保護なぐらいですよ!」

「いや俺は兄になったつもりはないけどな……?」

 

 いやまあ確かにちょっと道が険しいところは背負って行こうかと提案するし、備品を落として破損するのはともかく、拾った時に手を切ったりするかもしれないと考えて割れ物は全部俺が扱うからご飯から水分補給時まで全部俺がしっかり手渡しをしている。だからって兄なんて評されるとは思わなかった。あと過保護ではない。

 こんな扱いを受けるのはロドスに馴染んできた証だろうか。エフィの面倒を見始めてからロドスにいる子供達の遊び相手、更にドクターと酒を飲みすぎて一緒に叱られたり。隙あらば美味しい依頼を先取りしようと目をぎらつかせ、日常的に戦闘していた傭兵時代よりは遥かに平和に過ごせている。実際、今もエフィとメイリィの三人で一緒に昼飯ついでの世間話をしているが、昔だったら考えられない事だった。

 

「メイリィが妹だと俺は何回スチュワードの奴に頭を下げなきゃいけないかわからないな。ああ、そういやお前が製造ラインの機械をぶっ叩いて壊したせいでその時の管理補佐だったグラベルさんに謝りに行ったなあ?」

「藪蛇だった!」

「リターニアでの作戦後、アドナキエルとメランサ、更にスチュワードを無理矢理連れて氷点下の中『これがそりだよー!』って言ってはしゃぎ回って風邪引いたのは誰だっけ?」

「はい、本当に、ごめんなさい……」

 

 あとはあれとこれとと責めるなら両手の指を折り返してもなお足りない。それをつらつらと諳んじてやれば、耳をぺたんと伏せて居心地悪そうにフルーツオレを飲むメイリィ。その横でエフィは口に手をあててくすくすと笑う。

 

「そういうところですよエインさん。それだけ迷惑を被っても、結局見放さないじゃないですか」

「こいつを放し飼いにするとアンセルとスチュワードの胃が死ぬんだよ。こいつが何かやらかして俺が拳骨落とす度に、あいつらはホッとするんだぞ」

 

 アンセルにはその背負わされた苦労の重さから酒の一杯でも奢りたくなるが、スチュワードの方は自業自得だ。いや、ロドスに来た経緯から理解は出来るんだがそれとこれとは別問題。そうやって甘やかしたツケが回り回って別の場所で返ってくる。

 それに付き合わされるのは決まって俺なのは何の因果なのか。そんな苦労を善人だらけのロドスアイランドの誰かに背負わせるなど傭兵であっった俺ですら思え………………………………まあ、どうにもならない時が来たら投げてもいいな。メイリィと仲を深めるというのは、こういうことである。

 

「ま、それらを考えれば妹にするならエフィかメイリィのどっちかって質問された時は簡単だな」

「私を見捨てないでよおにいーちゃーん!」

「だから俺は兄じゃねぇ」

 

 向かい側の席から飛び降り、靴でドリフトを決めながら抱きつこうとするメイリィの頭を掴んで阻止、露骨に嫌そうな顔をしながら兄呼びを否定する。エフィに言わせれば律儀にこういう茶番に付き合うからなんだろうが……いや一回拒否したんだよ。その時の拒否されることをまるで想定していなかったかのような捨て犬顔見たらこう、罪悪感が凄い。計算でやってるなら捨て置けるが、残念な事にメイリィはそこまで頭が回らない事をわかっているからそうもいかない。

 

「ほんと、そういうところですよね」

「言うなよエフィ、俺が今一番よくわかってる」

 

 もっと言えば、メイリィが同じ様に重装クラスのオペレーターであることもある。地に足をつけ、敵の攻撃を全て受け止めるタイプの俺と、受け流しをメインにして重装と銘打ちつつも機動性で敵を翻弄するタイプのメイリィ。俺が持っていない価値観と思想で、キッチリと成果を上げているから尊敬できる相手に慕われて邪険に出来るだろうか。いやない。

 

「実際、私は長女で下の子達を前にしっかりしなきゃって思ってたから、お兄ちゃんがいるって思うと悪くないかなー」

「お兄ちゃんじゃないが」

「わかりますよメイリィちゃん。私は一人っ子でしたから、尚更思います」

「二人とも俺の声聞こえてないな?」

 

 だからまあ、口ではこう言いつつもまんざらでもないと思う自分がいるのは否定できない事実だ。

 

「弟や妹達を連れまわしてた頃が懐かしいー」

「リターニア行った時は作戦行動前後の時間少なくて里帰り出来なかったしな」

「メイリィちゃんは大家族ですもんね」

「そ、兄弟姉妹の数は私含めて五人だもん」

「俺が一番驚いてるのはこいつが長女ってとこでな、その割には落ち着きがなさすぎるんだ」

「ち、違うよー! 下の子達見る時はしっかりしなきゃって気を張ってたけど、今はそうじゃないでしょ? だからその分気の緩みが……ゆるみ……、こわした備品が……あれとこれと……うぅ、言い訳が出来ない……」

「ちょっとエインさん、虐めちゃ駄目ですよ!」

 

 人聞きの悪い事を言うな。周囲を見渡して知り合いがいないか確認しつつ、滅相もないと肩を竦める。俺としては破壊的な一撃を起こす前に直してほしいとメイリィを思っての事だ。そう、ほんのちょっと周りを見てくれるようになれば俺としてはもう、言うことがない。

 優秀だがコミュニケーションと決断力に若干の難がある隊長のメランサを公私で引っ張り、鉱石病に感染した友人を見捨てずロドスの門を叩いてここまでやってきた。どれ程予備隊A4のメンバーがメイリィに手を焼こうと嫌わず笑顔なのかと言えば、それ以上に皆がメイリィを好きだからだ。本人に自覚は欠片もないだろうが、三人の鉱石病患者の心を救っているから、アンセルは羨ましそうにこいつを見る。間違いなく、メイリィは予備隊A4の柱なのだ。

 と言う事を掻い摘んで話してやれば、さっきまでしょんぼりしていたメイリィはぱあっと顔を輝かせ、尻尾をぱたぱた振ってはしゃぎ始めた。

 

「あくまで俺個人の意見だからな?」

「わぁーかってるってー! 私、色々助けられてばっかりだから少しでも返せてるなら、良かったなって!」

「あ゙ー若者っていいなあ……」

「おじさんみたいなこといいますねぇ」

 

 いやいや、予備隊A4やエフィ達に比べれば俺なんておじさんである。愛だの恋だの友情だのに全てを賭けられる程情熱を持ったお年頃ではない。自分の信念に従って、気に喰わない事に関してだけ抗える老いぼれだ。例えば馴染みの良く飲みに行く傭兵が鉱石病にかかったとしよう。メイリィと同じように現状打破のためロドスを見つけるまで根気強く付き合えるかと問われれば最終的にNoと答える。

 

「気になったんですけど、エインさんは兄弟や姉妹っていなかったんですか?」

 

 エフィから見ればそれは当然の疑問だったであろう。二人が兄という存在に思いを馳せ、俺が言及していなかったのだから気になって聞いてくるのは道理に叶う。

 

「弟がいたよ。今はどうしているのか知らねえが」

「へぇ~なんか、一人っ子ってイメージだったよ」

「まあ、兄らしい事をしてやれなかったからな」

 

 いやはや、お恥ずかしい話である。俺より遥かに優秀で、両親に溺愛されていた年の離れた弟をどうにも好きになれず、辛く当たってよく泣かせては両親に怒られて余計に嫌いになる。今だからこそ愚かだと言えるが、昔の自分はただただ『俺ばかりが怒られるなんて理不尽だ』と不満を募らせていった。

 積み重なった不満が溢れた時、丁度地区に滞在していた傭兵団の積荷に紛れ込んで家出という手段に出てしまった。率直に言って馬鹿であり、そんな子供の面倒を見てくれた往時の団長には頭が上がらない。『鼠一匹紛れ込んでる事に都市から出るまで気付かなかったなんて喧伝したくねえ』だったか。それにしては知りたい事はなんでも教えてくれたし、独り立ちする時には装備一式や金銭の融通まで行ってくれた。団長がいたからこそ今の俺がいると言えるくらいには恩人だ。『ただのガキだからさっさと音を上げて帰らせてくれって言うかと思ったんだがなあ』と月の下で感慨深そうにしていたのを覚えている。

 

「うっ、こ、込み入った事情があったりする……?」

「ねぇよ。ま、弟にしてやれなかった分をロドスのガキ達に対して兄貴面してるって言われれりゃ否定は出来ねえが」

 

 要するにただの代替行為だ。100%の善意からではなく、そう言った面があるのを俺は否定しない。

 

「それでもよけりゃあ、好きに兄扱いすると──」

「ホント!?」

 

 あやっべ。口が滑ったと咄嗟に噤んだが、既にメイリィは乗り気である。エフィの方もジッとこちらを見つめ、

 

「しっかり言質取りましたからね」

「いやなんか流れで言ったけど俺は兄って柄じゃないだろ」

「それはエインさんが決める事じゃないですよね?」

「お? お、おう?」

「そーそー! 私達が決めることだからさー!」

「……まあ予備隊A4の前とか俺達だけの時な。間違っても大勢いるところで言うなよ?」

「えーなんでー?」

「俺の立場が死ぬからだよ」

 

 心底わかっていなさそうなメイリィに俺は懇々と説明してやることにした。一回り以上年齢が離れた相手、しかもオペレーターという立場を同じくする者からお兄ちゃんと呼ばれてみろ。若いは正義で老いは悪、エフィに振り回されて色々不名誉な評価を貰った過去から龍門事変を経て持ち直したのに、また急降下するのはよろしくない。

 それから、ケルシーとチェン、ブレイズやキャッスル3、ミッドナイト等々他にも色んな奴に一ヶ月はネタにされるだろう。

 だから、頼むから俺の言うことを守ってくれ、兄としての最初のお願いだと言い聞かせた。「うんわかったー!」と満面の笑みを浮かべるメイリィに、これから定期的に言ってやれば忘れることもないだろうと算段をつける。

 そして翌日、

 

「おっはよー! お兄ちゃーん!!」

「昨日の話もう忘れたのかてめぇ!!!!」

「あだだだだ忘れてたぁ! アイアンクローはやめてぇ!!!」

 

 綺麗サッパリ忘れたメイリィが朝いちばんに食堂でやらかして俺の名誉は死んだ。死んだ顔を晒した俺はアンセルに胃薬を差し出され、スチュワードに肩を叩かれて同情され、アドナキエルが悪知恵を働かせた結果メランサにも控えめな声で「お兄ちゃん」と呼ばれて完全に地に伏した。

 

 

 

 

大陸版で実装されているがこっちでは未実装のオペレーターを出したくなったのでオペレーターのネタバレ上等で出しても良いですか?

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