重装傭兵ロドス入り   作:まむれ

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Ep.15-率先励行-

 ロドスアイランドにある訓練室の一角はとあるオペレーター専用のものとなっている。

 オフの日でも最低六時間を鍛錬に費やす彼女のため、設けられたそこに一人の招待客の姿──要するに俺なのだが、今まさに生命の危機を感じて顔を引きつらせていた。

 

「大丈夫よ! 私なら寸止め出来るから! ほらほら押し返さないと!」

 

 いやそういうことではない。自分の持つ盾を伝う断続した衝撃と火花、盾の影を僅かにはみ出た刃は凶悪の一言で全て表せるものであり、何より俺の恐怖を駆り立てるのはその駆動音。大型獣の咆哮と比べても、遜色ないプレッシャーを感じる。武器の持ち主であるブレイズの好戦的な声と合わせて耳から入る音が俺の心臓を握って離さない。

 足に込める力を更に増やし、連動して両腕に全身全霊を込めて押し上げるようにすれば、合格と言わんばかりに立ち塞がるもの全てを両断してきた彼女の武器が離れていく。

 

「うんうん、始めた頃よりずっと強くなってる。その調子ね!」

「な、なあそれ……刃を回転させるのは必要なことなのか?」

「何言ってんのよ、実戦感を少しでも出さないと──ね!」

「勘弁してくれ!!」

 

 ブレイズの周囲に立ち昇る白煙。彼女が己のアーツを解放した証であり、それを纏って地を蹴るブレイズの速度は先ほどより一段早い。反応は間に合ったが力を行き渡らせる前に受けてしまったために態勢を崩される。

 

「あ、やっば」

「──おい?」

 

 間の抜けた声と共にちり、と足に走る痛み。振り下ろされた刃が盾を滑り、地面に突き刺さるまでに俺の足を掠って訓練服がずたずたにされ、焦げた匂いが漂ってくる。ブレイズによるアーツで服が刃に触れた瞬間に燃やされていなかったら服が巻き込まれて大怪我どころでは済まなかっただろう。

 にへらと表情を崩すブレイズを見れば、加減を間違えたなこの野郎と状況を察した。

 

「……」

「……」

「ま、大丈夫よね」

「ふっざけんなこのアマァ! いやすみません助けてくれドクタァ!」

 

 思わず罵声を口に出せば、ニッコリと無言で更に速く走りだすブレイズに、流石にヤバイと思ったのか監視役のドクターが乱入してめちゃくちゃ止めてくれた。

 当然、ブレイズには有人訓練時の制限がかけられた。

 

 


 

Ep.15-率先励行-

 


 

 

「あっはっはっはっは! あなた、そんな理由であの時無理を通したの!?」

「……俺にとっちゃ『それ程』の理由だったんだよ」

 

 身体のあちこちから発せられる鈍痛に耐えながら、夜のバーで酒を呷る。隣の席にはいつもの戦闘衣装から私服に着替えたエリートオペレーターのブレイズが豪快にエールを飲み干していた。

 龍門の一件以来、目を付けられた俺はたまにブレイズに捕まっては対火力の防御訓練を課せられ、その度に足腰と肩腕に痛みを植え付けられている。模擬戦からの感想会が終わったあとは、こうしてアルコールを摂取して身体の痛みを騙くらかすまでがセット。模擬戦はともかく、ブレイズは遠慮のいらない相手だから今みたいに飲み交わす時間は嫌いじゃない。

 今話していたのは丁度、俺とブレイズが無線越しに邂逅した時の出来事。その延長線上の事だ。詳しく話すと長くなるが、まあそれは置いといて。

 

「ま、そういう男はキライじゃないよ私」

「どーも」

 

 嫌いじゃないが、嬉しいかどうかはまた別問題。都合四杯目となるグラスを飲み干し、マスターに捧げれば、心得たよう商売道具を手に取る。

 

「聞きたいんだけど」

「なんだ」

「あなたはどうして強くなりたいの?」

 

 ブレイズの疑問と同時に、マスターが眼前にグラスを戻してくる。ジンをベースにドライベルモットを合わせ、軽くかき混ぜたソレをカクテル・グラスに注いだ後、宝石の如くカクテルオニオンを添えたもの。一口含めれば辛みが口内に広がり、喉を少し焼く。

 そうして、一拍置いてから言葉を出す。

 

「護りたいものが出来たからだ」

「ほー」

「口に出すと恥ずかしいなこれ」 

 

 酒が入っていなければ絶対に言わないだろう言葉だった。

 傭兵時代は命を天秤にかけ、名誉と金銭を追い求めていた。それがロドスアイランドに迎合し、沢山のオペレーターや子供達と接していくうちに自分の中での優先順位が変わっていく。天秤の反対側に乗せるのは今まで乗せていたものより遥かに重い仲間の命、今のままではいつか天秤を壊して台無しにしてしまうと龍門で思い知った俺は、ブレイズとの実戦的訓練を渡りに船だと思っている。

 より厚く。より硬く。目に入る全員とは言わないまでも、仲間ぐらいは護りきれるようになりたい。

 

「いいわねー男の子って」

「男の子って年齢じゃねぇがな……」

「男の子は何歳だって男の子よ。若さってやつ」

「俺よりはブレイズの方が若いと思うが」

「まあそうかもしれないけど……でも、私は生き急いできたから」

 

 そう言って遠くを見るように目を細めるブレイズは、普段からは想像出来ない雰囲気だった。……全くどうして、ロドスでは難のある奴ばかりと親交を深めてばかりな気がする。予備隊A4のひたむきな若さが恋しくすらある。

 

「何言ってんだ、あの女狐に比べればオペレーターのほとんどは若いだろうが」

「ケルシー先生に殺されるわよ」

「ロドスの全てに盗聴器でも仕掛けてたらそうだろうな。けれど、流石の女狐もそこまではしてねぇはずだ」

「どうかしらね」

「ここは神聖なアルコール広場だぜ? 天災だって邪魔出来ない聖域なんだ」

 

 ブレイズの中にあるケルシーへの評価はさておき、ブレイズだって見る感じはまだまだ若い。もしかしたら俺よりもずっと、だ。

 そんなやつが、過去に思いを馳せながら自分は若くないと宣う。そこに、どれほどの苦労と困難があったのかを邪推するのは簡単だ。邪推と解っていても、緩くなった口は止められない。

 

「いいじゃねえか、お前は間違いなくイカれた奴だが……それでも信頼も信用も出来る」

「私がなんとかするからバッドガイ号がいる上空1000mから飛び降りろと言われたら?」

「………………………………俺と目を合わせて頷いてくれたら、まあ情けない悲鳴をあげながらでもやってやる」

「相当考えたわね今」

 

 当たり前だろ。

 

「俺の盾に誓ってもいいぜ」

「覚えておくからね」

 

 こんな事を聞くなんてブレイズもまあまあ酔っているに違いない。偏見なのは間違いないとして、このまま一緒に訓練して俺の実力が一定ラインを超えれば、その時は引き摺って飛び降りるのがブレイズだ。

 で、なんの話をしてたっけと聞けば、「戦う理由よ」と答えてくれる。

 

「ああそう、それだそれ。根無し草の俺にとっちゃあ随分な衝撃でなあ」

「惚れた女のために?」

「ほれっ……あのなあ」

 

 あまりにも直球な表現に思わずグラスを落としかけ、きちんと握ってから呆れた事を示すために溜息をして首を振る。

 

「エフィだけじゃねえ、予備隊A4だってそうだし、鉱石病に罹りながら笑顔で過ごすガキどもも、故郷を一番自分は二番に考えて板挟みになった女も、まだまだ若いのにロドスを背負う黒兎も、馴れ合い過ぎていつの間にかな」

「いままで良く傭兵やってこれたわね、あなた」

「うるせぇ。……ずっと他人事だったんだ。鉱石病を発症した相手への差別は、はっきりと見えなかったからな」

 

 傭兵仲間には確かに鉱石病の奴もいたがそういうのは大抵腕っぷしが強かったから一般人が表立って何か出来る訳もなく、嫌な顔をされる程度だったし舐め腐った同業者は袋叩きにされていた。何度か他人が虐げられている光景に遭遇しても、『当たり前の事』として何も思わなかった。

 でもロドスじゃあ傭兵時代と話が違う。患者を迎えにいくために赴いた先で、住人達から安堵の表情を見せられるのは可愛い方で、酷い時には──いや、酒の席で思い返す事じゃないか。

 

「……私にとっては腹立たしい事よそれ」

「すまん」

「いいのよ、とは言わないけど今はそうじゃないでしょ」

「まあな」

 

 不満を飲みこむような声に、短く同意。

 

「今まで目を逸らしてきた分、しっかりと働いてもらわなくちゃね!」

「もとよりそのつもりだ。もう知らん顔出来ねえよ」

「私がたっくさん稽古つけてあげるわね!」

「俺が死なない程度に頼むぞほんとに!」

 

 感染者のためにではなく、近しい仲間のために。ただでさえロドスの重装オペレーター枠は厳しいのである。エフィの足を引っ張らないためにも今よりずっとずっと強くなる必要がある。

 こうして本格的に強さを求め出したのもロドスに来てからだったか。メイリィもそうだが、ニアールさんやホシグマさん、ノイルホーン等々、俺と同じ盾役で遥かに格上だったり追い越されそうな奴ばかりが目立って仕方がない。怠けていれば一瞬で蹴落とされるような環境だが、これはこれで悪くなかった。

 

「そう言えば、新米ちゃん達にお兄ちゃんなんて呼ばせてたんだっけ」

「なあ、話の前後が全く関係ないんだけどその話いるか?」

「ええとっても。私だってアーミヤちゃんにさ、お姉ちゃんとか呼ばれたいもの」

「いや何同類見つけたみたいな顔してるんだよ、俺は違うからな」

 

 なるほど、幼き少女に似合わぬ責任を背負わせた方から見れば、屈託ない笑顔でそう呼ばれる日があれば、皆が幸せになった後だろうか。だが今の状態でそう呼ばれたいと思うような性癖は持っていない。

 

「ブレイズ、お前そんな願望が……」

「だってそうじゃない。慕ってるドクターは記憶喪失、更に腹の中どころか性根まで真っ黒な政治家連中共と交渉したりしてるのに……頼ってほしいのよ、私は」

「それは……俺から言える事はなんもねえな」

 

 エリートオペレーターの意外な願望から一転、寂しそうにグラスを傾けるブレイズに俺は何も言えなかった。

 アーミヤは充分頼っているように見えるが、それは彼女があくまでエリートオペレーターだからかもしれないし、ブレイズは作戦などの血生臭い事ではなく日常の中でこそ袖を引いてもらいたいのかもしれない。

 まあでも──

 

「いいか、断じて言うが俺はオペレーターにそう呼ばれたいような癖は持ってねぇからな」

「えぇー! つまんなーい!」

「タチがわりぃ……勘弁してくれ……」




一ヶ月経ってたってこれマジ?
というわけでブレイズと絡んだお話。欲しいキャラ引いて自力でプロファイル全開放して酒を飲みながら読みこむのは堪らんよなあ
ところでブレイズ昇進2絵の後ろに書いてある英語を解読したニキがいたらしいんですけど内容が覚悟ガンギマリ過ぎて余計に好きになってしまった……どうしてくれるんや!!!

大陸版で実装されているがこっちでは未実装のオペレーターを出したくなったのでオペレーターのネタバレ上等で出しても良いですか?

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