エイヤフィヤトラことエフィの機嫌はここ最近大変によろしくなかった。
というのも、相棒とも言える重装のオペレーターが他人に現を抜かしていたからである。例えば龍門近衛局に所属していたやり手のオペレーター、例えばロドスでも上位に位置するエリートオペレーター、例えばロドスで他人に距離を置かれていたが最近になってちょっと親しみやすさが見えてきた前衛オペレーター。ご丁寧に全員女性、全くだらしない。
当時は一緒にいるのが当然だったのが、ここ最近は別行動ばかりで朝昼夜のどこかでご飯を共にするくらいしかない。
「そ、それで十分じゃないの……?」
「ぜっんぜんですよ!」
対面に座るオペレーターのムースが純粋な疑問を呟くが、それに対する答えは怒り混じりの叫び。あまりの勢いにムースがびくりと身体を縮こまらせる。
「あ……ご、ごめんねムースちゃん」
「いいよ。ふふ、エフィちゃんってば、お兄ちゃんを取られたみたい」
「お兄ちゃん……確かにそうかも? ロドスじゃあ、ずっと一緒だったし、この前もメイリィちゃんとそんな話したんですよね」
ただ、件のオペレーターを思い浮かべてお兄ちゃんと呼ぶとしっくりする反面、違うのだと思ってしまう部分もあった。安心して背中を任せてくれる心地よい信頼と、何があっても自分はアーツをただ敵に当てればいいだけの自信。
「でも、うん、エインさんは私の相棒なんですよ。ただお兄ちゃんって言うにはぁー……」
言葉を一旦切り、そのまま続けようとエフィの声が喉を通る前に、ドアが勢いよく開かれる。二人が音の方向を向けば、息を切らせた天災トランスポーターにしてロドスオペレータープロヴァンスの姿。
「エ、エインウルズのやつ、今度は別の女を引っ掛けようとしてるよ! 次はペン急のモスティマさん!」
エフィは激怒した。必ず軽率短慮のエインを除かねばならぬと決意した。右手に杖を、左手に手錠を。ムースは何かに祈るように胸の前で十字を切り、プロヴァンスはいつもはやれやれと仕方なさそうに動くエフィの様子が今日は怪しい事に気付いてたらりと冷や汗を零した。
「だからさ、誤解なんだよ」
「……違うもん」
違わないだろうが。喉元まで出かかった言葉を寸でのところで飲みこむ。ペンギン急便に所属しながら各地を放浪する天災トランスポーターにして攻撃目標周囲の敵を纏めて拘束出来る天才術師のモスティマ。そんな彼女がロドスに来ていると聞いてその実力を見せて貰おうと(かなり強引に)約束を交わしてそれを果たそうとなった時、横から出てきたエフィにがしりと腕を掴まれた。
モスティマとの先約があるからと言っても聞かず、むすっとしているのはいったい何故なのか。皆目見当もつかない。……いや、本当は解っている。龍門事変の後半にエフィをロドスに置いてから帰ってきた俺は大怪我して療養、その後は少し気まずくなって会話が少なくなったり、誤魔化すように他のオペレーターとばかり交流してエフィをないがしろにしていたのが、いよいよ返ってきたのだろう。
ちなみに、モスティマは困り果てた俺の顔と威嚇するようなエフィの顔を性格の悪そうな顔で交互に視線を向けたかと思うと、『後で返してもらうからね』と半オクターブくらい高い声をわざとらしく投げ捨ててどっかへ歩いて行った。そのせいでエフィの機嫌が更によろしくなくなったのだが、俺から言えるのは一言。地獄に落ちろロクデナシ。
「なあ、自慢じゃないが俺は今まで女の一人すら出来なかったんだ」
もちろん、嘘である。大口の依頼を完遂した日は歓楽街に足を運んだ事もあったし、遠征した時は現地でその場限りの関係を持ったこともある。そんな意味では嘘だが、しかし身持ちの意味なら決まった女性は今まで出来た事もないので嘘ではない。
「なるほど、ロドスに就職したからこうやって美人のオペレーターに声をかけているんですね」
「断じて違う」
「あ、女の子なら誰でも良かったんでしたっけ?」
「どうしてそうなるんだ……」
ずんずんと進むエフィにされるがまま、やがて到着したのはロドスのカフェテラスだ。無言で座るエフィに、俺も対面に座って言葉を待つ。
「その、すみません突然」
「気にするな、そうする程だったんだろ?」
「……最近、お兄……エインさんと話す機会がなくて、なのに他の人ばっかり構うから、ごめんなさい」
とりあえずとお互いに飲み物を頼み、それで喉を潤して少しばかり無言の時間を過ごしたあと、両手をテーブルの下に潜り込ませてか細い声を出しながら目線を下にやるエフィの顔は不安に彩られていた。その頭が痛くなる言い間違いは後できちんとお話するとして、心当たりがありまくりなので首をゆっくりと横に振ってエフィの言葉を否定する。
「いや、俺こそ悪いな。龍門で頑張った事にもお返し出来てねぇし」
「……! た、確かに! そうですよエインさん。私、その報酬を受け取ってません!」
助け舟ではないが、前々から俺の気になっていた事を言えば、きちんと意図を理解して乗ってきてくれる。
「エフィがなあ、酒でも飲めれば簡単だったんだが」
「あ、それ知ってます! お持ち帰りするお話ですよね」
はずだったのが突然雲行きが怪しくなってきた。いったい何故だ。
まあいい、落ち着け。俺は分別のある大人なのだ。
「で、今度は誰に吹き込まれた?」
「先輩です!」
「アイツをロドスアイランドから叩き出せ!」
反射的に、そう口にしていた。エフィが先輩と呼ぶのはただ一人、ロドスアイランドの要にして総指揮官のドクターのみ。エフィに余計な事を教えた報いを受けさせたくなるが、それを実行するには立ちはだかる壁が高すぎて採算が取れない。脳内でヘルメットの下にイイ笑顔を浮かべるドクターに渾身の右ストレートをぶち込んで精神を落ち着かせる。
「あのな」
「はい?」
「ここじゃそんなこと出来ないから」
「………………」
沈黙は肯定と受け取って良いか?
「アーミヤかケルシーか、酒場にカメラはなくとも通路のどっかにはあるんだから、酔いつぶれた相手を俺の部屋まで連れてってみろ。次の日には艦内放送で呼び出されるぜ。『重装オペレーターのエインウルズさん、至急執務室まできてくださーい』ってな」
「……あれ? たまにエインさんって呼びだされてるような」
すっと目を細めるエフィにげんなりする。ほろ酔い気分でロドスの下層を散歩していたらケルシーとバッタリ出くわしたような気分だ。毎回毎回俺の言った通りの理由で呼び出されているならとっくにロドスの甲板で逆さまに吊るされてるか、男性オペレーター達にやっかみで俺一人相手に40人くらいでフクロにしてきているだろう。
「俺は重装の中でも対アーツ装備を持っているからなあ……マッターホルンの奴はカランドからの出向だから、それよりは動かしやすいって急に作戦に駆り出される事があって」
「あー……」
疲れた声で明後日の方を向けば、エフィも思い至ったようでなんとも言えない同情の声が漏れる。
ここらへんはドクターも悩みのタネだそうで。更に厄介なのがカランド貿易のトップかつ名家の当主であるシルバーアッシュ。あっちこっちに出せば痛くもない腹を探られるが、戦闘力はロドスで上から数えた方が早い実力で替えの利かない戦力なのだから自分の中で誘惑と戦うのが大変だとかなんとか。
エフィにしても、強大な能力と引き換えに鉱石病の症状が深いためにおいそれと引っ張り出す事も出来ず。契約のせいでエフィを出すには俺も一緒に連れていかなければならないため、毎度毎度ドクターがそれとなくお伺いを立ててくるのは流石に笑ってしまうが。そこらへんに関してはドクターを信用しているから文句は言わないんだがな。
「確か、エインさんってロドスでの最速昇進記録持ちでしたっけ?」
「それなら確かこの間モスティマに抜かれたんじゃなかったか。そもそも俺の昇進はあの時の一回だけなのに対してモスティマはすぐに二回目まで行ったしなあ」
思い返すのは龍門事変の時。啖呵を切った俺にケルシーは言い返せず不愉快な顔をする一方、ドクターは面白いと言わんばかりに一室に連行して作戦開始三時間前までオペレーター達が経験してきた戦闘記録を延々と見せられた記憶。
『充分な能力があるオペレーターには作戦中、ある程度の裁量権を与えるんだ。所謂【昇進】というやつなんだけど、これを君にね』
『そうでもしないとケルシーは納得しなさそうだったから。だから、大量の作戦記録を君に見せる必要があったんだよね。実力は充分あるみたいだし』
閲覧中に少しでも集中していなさそうな雰囲気を見せると鬼の形相(推定)で睨んでくるドクターは、とても記憶が欠落している存在とは思えないスパルタっぷりだった。きっと、記憶と一緒に人間性も欠落したんだろう。
実はドクターから昇進しないか! ほらもっと活躍出来るようになるからさ、大丈夫予定は開けられるから! と熱烈なアピールがかかったりしているが、そこは法外な対価を要求してのらりくらりと交わしているところだったりする。具体的にはD32鋼や融合ゲル、ナノフレーク等々上級素材を惜しげもなく使った最硬の盾と、RMAなんちゃらや希少な異鉄を使ったアーツ補助を兼ねた片手剣の装備。あとはついでに金。理不尽だと声を荒げていたが、これ以上使い勝手を良くされるのは困るのだ。
「それで、話を戻すんだが」
まあ、そんな過去はともあれ。
「今度出掛けるか、近いうちにシエスタ行くって話も出てるし、それ用の服でも買いに行かないとな」
「それなんですけど、私はロドスで休んでいようかと思って」
「マジで?」
「人が多い所はあんまり好きじゃなくて……人混みに呑まれて逸れたら大変ですし」
「そうかあ」
「あとは、シエスタの火山が気になってるので、データを送ってもらって眺めたいんです」
「……ああうん、なるほどな」
忘れがちだがエフィは元々火山関係の研究を進めるために治療すべくロドスへやってきた。本来ならばその足を以てシエスタの火山へ赴き、心行くままにフィールドワークと洒落込みたいのだろうが……残念ながら夏の祭典真っ最中であるシエスタには大量の観光客もやってくる。そんな中で現地を歩き回るのは大変なのだろう。
気にしていなさそうな言動とは裏腹に曇った表情を見て俺はふと思い立った。ロドスがシエスタに到着するのは祭りの最中から終わりまで。であるならば、終わり際なら人も多少は少なくなっているし、少しくらい強引に連れ出すのも悪くない。
「……それに、私がこっちに居た方が良い気がするんです。なんとなく、ですけど」
か細く呟かれた言葉は意図的に無視する。なんとなく呟かれた割には不穏な影を感じ取り、面倒事が起きませんようにと心の中で祈りをささげた。
今回の独自設定:エフィは人混みが苦手。まあ目が悪いし体温感知出来る中で知り合いを見失いそうな群れの中ともなれば多少はね?
大陸版で実装されているがこっちでは未実装のオペレーターを出したくなったのでオペレーターのネタバレ上等で出しても良いですか?
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いいよ
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どちらでも構わない
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駄目です
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結果を見たい人用