重装傭兵ロドス入り   作:まむれ

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Ep.18-墜茵落溷-


 

Ep.18-墜茵落溷-

 


 

 

 俺にとって計算外だった事は二つある。

 一つは黒服だけを足止めするつもりでシュヴァルツが残るとは考えなかった事。これのせいで足止め出来る時間が大幅に減るだろうと舌打ちをした。

 もう一つは、その割にシュヴァルツが手を出してこない事。黒服に指示を飛ばすが積極的に殺しに来ない。ここが町中で周囲を破壊しないように気を遣っているとしても、利き腕を庇えるくらいの傷しか負ってないのは奇跡だとしても有り得ない。

 

「随分と手を抜いてるじゃねえか。本気出すまでもないってか?」

「今の私は殺し屋ではありません。多少傷は深くとも生きて捕らえなければならない」

「コーヒーに角砂糖何個入れたらそうなるんだか気になってしょうがないね」

 

 飛んできた矢を弾き、合間にやってくる黒服を斬って態勢を崩し、跳躍して背中を盛大に踏みつけて意識を奪う。こちらも会社勤めな都合上、不用意に殺しては不味いから同じ立場と言えよう。──その手加減もここで打ち止めだ。最初は倒してもすぐに補充が出てきた黒服だが、おかわりの気配がない。ドクターの方にかまけているにしても時間がかかり過ぎる。推測になるが丁度ドクターに救世主が現れたのだろう。それもどれくらいかはわからないが敵を一掃出来るくらいには強い味方が。

 

「貴方こそ、急所は避けて殺さずに無力化しているではないですか」

「俺は今就職して傭兵じゃないんだよ」

「その口からは皮肉か罵声しか出ない貴方を雇う場所があるなんて、世界は広いものです」

「おいおい、女への口説き文句だってしっかり出るぜ」

「不貞を働いた時の言い訳の方が淀みなく出せそうですが」

「残念と言うべきか幸運と言うべきか、そっちは披露する機会に恵まれなくてな」

 

 会話をしながらも戦闘は続いていく。と言っても現状はほぼ詰みと言って良い。警棒による打撲と些細なアーツの被弾、あとは避けきれなかった矢や爆発で削がれた肉がほんの少し。それらも積み重なれば体力の消耗も大きくなる。

 大前提として装備が万全でないから反撃が出来ない。機動力もあちらさんが上回るから距離も詰められないし、じりじりと建物に寄ろうとしても即座に進路を防ぐ形で飛んでくる。嫌らしい動きは昔から衰えているどころか洗練されてんな。

 

「随分とかっこよくなりましたね」

「素材が良かったのかもしれねぇな」

「ええ、私の矢は良質な鋼材を使用した特注品です」

 

 そういう意味じゃねえ。反論する前に新しい矢が飛んでくる。

 体力の温存を狙って最小限の動きで避けようとすればそれが地面に刺さった瞬間に爆発したりするし、それを警戒して大げさに避ければただの矢だったり。性格の悪さがしっかり反映された攻勢を繰り返されたために選択はほとんどない。刺さったと同時に耳障りな音と共にコンクリート片が巻き上げられた光景を見て今度は予想が当たったなと他人事のように思う。

 

「そこまでにしてもらおうか」

 

 突然、意識の埒外から誰かの声が飛んできた。図ったかのようにシュヴァルツと顔をそっちへ向ければ、2m近い巨漢の老人の姿がそこにあった。

 

「あまり若者を虐めるのは感心しない」

「あなたは」

 

 俺に殺意を振りまくシュヴァルツですら、全神経をその老人に向けてしまう。強者特有の威圧感を一直線に向けられているのだろう、そんなことをされれば誰だってそうなる。

 一方で、俺の方がシュヴァルツより近い場所にいるにも関わらず、威圧感の欠片も感じない見事な制御。これがロドスで戦闘訓練をしたくないオペレーターランキングをぶっちぎりで一位を獲得した貫録。

 

「ヘラグ爺さん、あんたにとっちゃ俺もシュヴァルツも若者だろ」

「せっかく助けようとしたのにその言葉、少しは感謝と敬意を以て迎えても良いとは思うが、どうかね」

 

 老いを一切感じさせない佇まい、青色基調に肩の部分が黒い制服はロドスではなく過去に所属してた診療所のもの。巨躯が携えているから相対的に小さく見えるが実際は長く大きい武骨な剣を鞘に納めて腰に吊るしている。

 ロドスでも五指に入る実力者の名前はオペレーターヘラグ。

 

「もちろん、酒場で一番高い酒を奢りましょう」

「常々思うが、酒類は通貨の代わりにはならないのだよ」

「それでは別のものがいいんで?」

「他のものにしろとまでは言ってないだろう」

 

 いやまあこれでなんとか助かった。ヘラグの爺さんが来てくれたならば安心だ。少なくとも優先順位はしっかりしているオペレーターで、この騒ぎの中心を見誤らない男ではない。黒服を予備含めて残らず病院送りにしてドクターを助けた後、改めて俺を助けに来たに違いない。

 

「……なるほど、ここは私の負けということですか」

「理解が早いのは、老骨にとっても助かるよ」

「お戯れを。負けはしないまでも勝つことが出来ない敵に歯向かう程愚かでないだけです、……ミスターヘラグ」

「それで良い、貴女は長生きするだろうな」

 

 シュヴァルツがクロスボウを下げ、それの追随するように柄に乗せていた手をヘラグ爺さんが下げる。

 

「どうでしょう? ここは下がりますが、すぐにお嬢様の居場所を突き止めます。その時は私の命を以てでも取り戻す」

 

 こっわ。

 

「我々の名誉のために言っておくが、箱入りのお嬢様を言葉巧みに操ってこの土地をどうにかしようと考える程、ロドスアイランドは切羽詰まってはいないのだよ」

 

 一般人ならそれだけで殺せそうな眼光の前でも、嘆息だけで物ともしない。我儘な娘に言い聞かせるように、ヘラグ爺さんは優しさを乗せた声でシュヴァルツを諭す。

 

「何故そう言い切れる? 私はそこの男が所属している組織と言うだけでマイナスなイメージが離れない」

「この女性に何をしたのかねエインウルズ」

 

 スッと爺さんの目が細くなる。冗談じゃねえ、そんなキラーパスをされても困る。

 

「仕事終わりのチキンディナーを食べ損ねる原因になったぐらいしか心当たりがありませんね」

「何度かね」

「意地悪はやめてくださいよ。あいつより俺の方がコース料理を手放した回数は多いんですよ」 

「……もう一度貴女に言っておこう。ロドスアイランドはそこまで切羽詰まっていない」

「そうかもしれません。ですがお嬢様は? 旦那様があらゆる手を使い、心血捧げて作り上げたこの都市を、お恨みになっていて行動しているかもしれないのです」

「今日一番面白いジョークだな、センスがある」

 

 握る手に力が入っているのか、クロスボウが小刻みに揺れている。殺意の裏で、間違いなくシュヴァルツは苦悩していた。あのお嬢様がそんな鬱屈した感情を抱えているかもしれない情報は初耳だが、聞いたところで俺達の行動が変わる訳でもない。

 これは大分偏見なのだが、箱入りにしては俺のジョークにおっかない返しをしてくるくらいに肝が据わっているあのお嬢様が、そんな性格には見えない。嫌いなものをどうにかするならもっと強引にやるんじゃないかと思える。

 

「エインウルズ、少し黙っていなさい」

「口が滑りました」

「いつもそうではないか、上級砥石で磨いた源岩塊の表面と良い勝負だ」

「ヘラグ爺さん、あいつの思い込みと決めつけでドクターは疑われて扇動者扱いされ、挙句に俺は海水浴も出来ない身体にされて新品の水着も駄目にされたんですよ?」

「それ以上岩塊と競争するつもりなら、医療担当をガヴィルにしてあげよう。すぐに泳げるようになるぞ」

「泳ぐのが海じゃなくて三途の川になりそうですがね!」

 

 いや本当に、堪ったものではないのだ。あちこち傷だらけ、自慢の盾はクロージャにお願いしてまた直してもらわないといけない。この日のために買った水着は武器磨き用のタオルにリサイクルした方がマシ。これで嫌味の一つも言わない人間がいたらそいつは余程のお人好しかただの馬鹿だろう。

 ましてや、こいつにやられっぱなしで終われなど嫌なのだ。やられたままでいられ────不満げな俺の顔から内心を読み取ったのか、シュヴァルツにぶつけているであろう『圧』が俺にも向けられた。

 こうなれば俺は引き下がらなければならない。ヘラグ爺さんは温厚ではあるが、優しい訳ではない。そもそも助けてもらった身分でベラベラと口を回すのはよくないしな。

 まあ多少は嫌味も言えたし頃合いだろうと肩を竦め、口に手を添えて右から左へ動かして噤む。

 

「茶番は終わりましたか? 結論だけ言ってくれれば私は助かるのですが」

「……わりぃ爺さん、これだけは言わしてくれ」

「何かね?」

「結論を急くのはお前とセイロンお嬢様、どっちが伝染(うつ)されたんだ?」

()いてはないです、充分待ちました」

「少し離れていたまえ。話が進まない」

 

 


 

 

「セイロンお嬢様とシュヴァルツは一回話し合うべきだな」

「あなたに言われずとも、解っております。そのための作戦なのです」

 

 ところ変わってとあるホテル。セイロンお嬢様が取ったホテルも、俺達が取ったホテルも追手に抑えられている可能性も考えると戻れないために別の新しいホテルだ。

 箱入りお嬢様は姉のように慕っていた護衛の血に塗れた過去を知り、ヘラグの爺さんから不幸な行き違いがある可能性を伝えられた。賞賛すべきは、その心の強さ。沈んだ期間はごくわずか、ドクターが寄り添ったとはいえ即座に立ち直ったのは生来から持つものであろう。

 

「時にドクター」

「なに?」

「アーミヤにはこの事報告したのか?」

「はっはっは」

 

 ドクターの反応で全てを察した。終わった後で共犯として怒られなければいいなと願う。

 

「エインウルズは、大丈夫なの? 盾に目印生えてたけど」

「まあ大丈夫だろ、シュヴァルツ並の実力者が居たら話は別だがな。休暇から駆り出された他のオペレーターもいるし、俺の盾が必要とは思わねぇ」

「でも着いてくるんだね」

「乗りかかった船からは降りないタイプなんだ、龍門でもそうだったろ?」

「間違いないね」

 

 後に報告書を出す時、これがフラグだったなと思い返す事になる。

 

 

大陸版で実装されているがこっちでは未実装のオペレーターを出したくなったのでオペレーターのネタバレ上等で出しても良いですか?

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