「ドクターは俺を疲れ知らずのロボットかなんかと思ってるに違いない」
「その話は聞き飽きましてよ」
「エインなら安心だよねって送り出したけど」
「俺の盾は壊れかけだって断ったんだ。そしたらマッターホルンの盾を持ってきたんだぜ」
本当に度し難い、人権という言葉を戦場に置いて来たんだろうな。そうでなければシエスタの陽気に中てられて良識が黒く焼けたか、頭の中がロックに汚染されてしまったか。愚痴をこぼしながらも不安定な地面を注意深く見ながら歩く。
今回の任務は万が一のために観光客達を避難させる時間を稼ぐ事と、噴火を抑えるために元凶を探しに行くこと。プロヴァンスと道案内のセイロンお嬢様、そしてスカイフレアの三人を守るのが俺に課せられたお役目ってわけだ。
その酷使っぷりに不満だらけだが、シュヴァルツが別行動の中で俺がセイロンお嬢様に着いていくって知った時の顔は見ものだったな。騒動が終わった後の未来を差っ引いても後悔しないくらいには満足出来た。
「そもそもあなた、行く気は満々だったのに私がいると知った途端微妙な顔を浮かべたの、覚えていますわよ」
「ああいやちょっと、スカイフレアが悪い訳じゃねえんだけどよ……夢見が悪かった時の事をまだ覚えててな」
「まあ! あなたの夢の中で私がどんな事をしたのか、気になりますわね!」
「その話はいいだろ……で、噴火の原因になっているオリジムシってのはどこに?」
「そんな焦らずとも、見ればわかるくらいには大きいはずですわよ。オリジムシが群れで住処を作るなんて上位の存在がなければ出来ませんもの」
スカイフレアは聞きだそうとして、俺が頑なに言わないのを察したのか空中に指で円を描いて説明を続ける。黒曜石を主食とする変異オリジムシの動き、過剰な採掘によって餌がなくなり行き場を求めて動く群れ、飢餓と怒りが充満する個体たちを束ねる存在の示唆。
「────ッ!」
正に応えるかの如く、洞窟の奥から巨大な音が木霊したのはその時だった。
「このような音を出すくらいには、大きい体躯をお持ちですわ」
「スカイフレア、一つ聞いておきたいんだが」
「何をですの?」
「果たしてそんな存在と敵対した場合、俺は役に立つか?」
俺の疑問を聞くと、スカイフレアは顎に手を当てて考え込むが、答えが出るのはすぐだった。
「おそらく、周囲には無数のオリジムシがいますから、それらを処理する役割が出来るはず」
「デカいオリジムシの攻撃を受け止める事は?」
「遠距離からの攻撃ならば大丈夫かもしれません。が、接近して近距離でとなると、その盾で溶岩を堰き止める自信がお有りなら止めませんわ」
「回避に専念する」
「懸命だね」
となると、別の問題が出てくるな。この場にいるのはセイロンお嬢様、プロヴァンス、スカイフレア、そして俺の四人。これでなんとか出来るのだろうか。しかも、俺はただの木偶の坊でセイロンお嬢様は道案内と回復が本職、効果的な攻撃を出来るのが実質二人しかいない。
「そんな相手に私達だけ……大丈夫かしら」
「俺も不安になってきたな」
「何を仰いまして? この私、スカイフレアがいるのだから大丈夫ですわよ。いくら変異個体とて所詮はオリジムシ、私のアーツでちょっと手傷を追わせて巣穴に返せばいいだけですの」
そう言ってスカイフレアは穂先が刺突できる形状のアーツユニットを鳴らす。その言葉を疑う人物はここにはいない。セイロンお嬢様も、ドクターから事前に情報を聞いてスカイフレアが如何に優れたオペレーターかよく言い聞かされていた。無論、アーツ使用時の彼女の近くに立つのは推奨されないことも。
暑さが徐々に強くなる洞窟を更に進み、ぽっかりと緩やかな下り坂の向こう側へ広大な空間が見え出した時だった。
「あ、あれが、変異したオリジムシ……? 下の方に居ますわ!」
セイロンお嬢様の指す先に、それは居た。
「周囲の温度が更に上がってきますわね、あれほどのエネルギーを一個体が持つなんて……」
「あれがムシだって!? あんなの動く火山って言った方が正しいよ!」
脈動する体躯、岩石のような皮膚に走る真っ赤な線を辿ると、小さな太陽かと見紛うくらい明るい部分が根元になっていた。地面を這い、動くたびに溶岩らしきものをまき散らす姿は巨大生物の名に恥じない威圧感があり、とても俺が役に立つとは思えない程であった。
「スカイフレアさんや、何か言い訳は?」
「分析と考察の時間が足りなさ過ぎたんですわ! たかだかオリジムシと思っていましたけれどここまでなんて誰が予想出来て!?」
「あの飛んでる火球を見るとエフィちゃんが恋しくなってくるよね」
「実はメイヤーの作った生物機械で、中にエフィが乗って操縦してますよって言われても俺は信じるぜ」
「そんな事言ってる間に来ますわ!」
巨躯の周りを蠢く何かが、一斉に俺達へ走ってくる。よく目を凝らせばそれらがオリジムシの塊だとわかるだろう。その悍ましい光景に眉を顰めるが、嫌悪感に馳せる暇はない。
「チームの盾として言っておくが、あれに近付かれたらおしまいだぞ!」
「言われなくても解ってるよ!」
「私もちょっとの焦げくらいなら治せますけど、丸焦げになるとちょっと……」
「それも皆解っていますわ!」
スカイフレアのアーツが進路上のオリジムシを薙ぎ払いながら奥の特異個体を痛めつけ、プロヴァンスの矢が突出してきた虫を容赦なく射貫く。セイロンが熱気を緩和しつつ逸れのオリジムシをアーツで掃討してくれているのでいつの間にか回り込まれる心配もない。
俺はと言えば、彼女らの少し手前に陣取ってオリジムシ達のターゲットとなっていた。というか、それしかやるべきことがない。
「あなた、よくそれで防げますわね」
「結構頑丈な造りにしてるからな。本当は!」
時折飛んでくる燃えている岩を上手く弾きながら、スカイフレアに答える。そらまあ、重装兵の使ってる盾のど真ん中に矢が生えてたら気になるよな。
使えと渡されたマッターホルンの盾を受け取らず、シュヴァルツの矢が生えたままここまで連れて来たのである。上級異鉄とRMA70-24を融合剤で混ぜた逸品は、生半可な攻撃では傷一つ付けられないはずが、あいつは易々と矢を突き立てたんだから恐ろしい。筋力を不正な手段で増強させて馬鹿みたいに改造したクロスボウを撃ってるとしか考えられない。
「──────ッ!!!」
「なんか攻撃が激しくなったぞ! エフィの機嫌が悪い時にそっくりだ!」
「その言葉、エイヤフィヤトラさんが聞いたらどう思うか楽しみですわね」
「虫の居所が数日悪くなるからやめてくれ!」
「ちょっと! 言葉遊びをする前にきちんとターゲットを取ってくれないかな!」
取り巻きが倒された悲しみかスカイフレアやプロヴァンスによる攻撃で傷を負った怒りか、より攻撃が激しくなってくる。具体的に言うとエフィが龍門でドローンを落としきった時みたいな感じで炎岩を乱射しだした。あれよりは大分マイルドな連射速度だが、威力の方は大分ハードだ。弾いてステップを踏んで、避けてまた弾く。
盾に岩がぶつかる度に腕が軋み、地面にぶつかって欠けた岩が俺の身体を徐々に傷付ける。やってる事はシエスタでシュヴァルツ相手にした時と同じだが、その時と違って仲間がいるから詰んではいない。
「エインウルズ様は私に少し感謝するべきだと思いますわ」
「さっきからずっと感謝の念しかありませんよセイロンお嬢さ、ま!」
そして何より、こうして水のアーツを用いた回復術が飛んでくる。
特異個体が近づくにつれて強くなる熱気を和らげ、俺が傷を負ったのを見るや即座に治療され血の流出を抑える。減らず口を叩きながら舞踏会に参加し続けられるのはセイロンお嬢様のおかげと言っていいだろう。
「スカイフレア、徐々にだが距離が縮まってる、手を打たないとじり貧だ!」
「ダメージは与えているはずですのに、随分しぶといですわね」
「こうなったら全力の一撃を与えるしかないよ!」
「私に良い考えがあります、プロヴァンス、しっかり合わせなさい!」
背後でのやり取りの後、空気の流れが変わっていくのを感じて俺も意識を切り替える。
「よし、周囲のオリジムシは俺とセイロンお嬢様が抑えておくから頼むぞ!」
「勝手に決められるのは困りますっ」
「出来ないのか?」
「それは、出来ますけれど……」
「じゃあ決まりだ! 『鈍間な虫けら共よ、お前らの欲しい食い物は俺の後ろにあるぞ!』」
腹に力を込め、声帯を振るわせる過程でアーツを乗せる。そうすればオリジムシ達が一瞬動きを止めたあと、一斉に俺だけを見て身体を蠢かせる。モテる男は辛いって事がよくわかる光景。しかし、それが俺の仕事だ。
スカイフレアが一撃の準備をしているため処理しきれなくなったオリジムシが迫ってくるが、近づいてきたものは特異個体の攻撃に巻き込まれるようになったため想像よりは楽に守れている。
弾いて避けて、ステップと同時に剣を抜いて斬りつけて、オリジムシの悲鳴が奏でる。炎岩を受けさえしなければいいため、別のオリジムシの突進はわざと受けて数歩後ろに下がりながら攻撃の密度が許容量を超えないように意識。即座に飛んでくる治療アーツに感謝しながら後ろに下がった分だけ進む。
しかし何分数が多い。ちらほらと横を抜けていくオリジムシが出てきて、その度にセイロンお嬢様とプロヴァンスの援護が途切れて傷が増え、その度に休暇中だったはずなのに何でボロボロになっているんだろうと悲しくなってくる。
「私が、無尽蔵に回復と攻撃を出来ると思っていたら、大間違いですわ!」
「じゃああとどれくらいならいけるんだ!」
「も、もうあんまり余裕はありませんの!」
「上出来でしてよ、お二方!」
息切れを起こしかけてるセイロンお嬢様の声をかき消すように、上機嫌だろうとわかるスカイフレアの褒め言葉。
次の瞬間、特大級と言って間違いない大きさと、セイロンお嬢様の援護の上からでもわかる熱気を持つ火炎弾が俺の頭上をフライパスして、特異個体の体表面にある円形に光る部分へと狙い違わず直撃する。ともすれば洞窟が崩れてしまうのではないかと心配になる程の衝撃と轟音を発しながら、その一撃は確かに特異個体の命中した。着弾の衝撃で舞った煙が晴れた時、その部分が大きく抉られて苦しそうに呻く特異個体の姿が見えた。
「──しっぽ!」
「これで、どうだぁ!」
プロヴァンスの目に紫炎が揺らめく。アーツ使用時に現れる副次的な効果で、それがある間は視力がよくなる、と彼女の言だったが、その紫炎と同じ色の軌跡を残しながら、抉られた傷へ数本の矢が勢い良く突き刺さった。
「────ッ…………」
特異個体が歩みを止め、延々と波状攻撃をしかけてきた群れが特異個体を守るように後ろへ下がっていく。
「どうですの……?」
「オリジムシ共が退いてったのが答えだ」
訝し気に群れを見るセイロンお嬢様を安心させてやるために、洞窟の端へと腰を下ろす。ずっずっと、再び動き出した特異個体の進行方向はさっきまでと真逆。つまり作戦成功を示していた。
「今度こそ疲れたぞ俺は。帰ってでかいベッドに身を委ねてぇ」
「私も、シュヴァルツと紅茶を飲んでリラックスしたいですわ……」
「ああっと、エインウルズ。君は後ろ向きに歩いた方がいいよ」
緊張状態が解けたらどっと疲れが襲ってきた。黒服共とシュヴァルツから始まりシティホールでの残党狩りとここまで連戦続きだったせいだ。一時の疲労は医療オペレーターのおかげで無視出来るだけで、なくなった訳ではない。なんだったらここから動きたくないから誰か運んでくれないかとすら思える程疲れた。
そこへプロヴァンスがとんでもないことを言うから俺の機嫌が少し悪くなった。整地された道ならいざ知らず、洞窟の中はデコボコしていて疲労困憊の中でそんな芸当は出来ない。
「疲れた体になんて無体な事を」
「スカイフレアの服がぼろぼろなんだ。スカートがちょっと焼けてて……」
「共に戦場を潜り抜けた仲間相手に、そんな事は気にしませんわよプロヴァンス。お気遣いだけ受け取っておきます」
「助かるぜスカイフレア、殴られてでも俺は前を向いて帰るつもりだった」
「そんな野蛮な事はしませんの、やる時はきちんと焼くのが、私のモットーですわよ」
最近会う女、どいつもこいつも思考回路が蛮族過ぎてタイムスリップした気分になる。
俺もスカイフレアも、お互い制服がボロボロで無惨な姿を晒している。横に並んで歩いていると目が合い、お互いがお互いの有様を一通り確認したあと、スカイフレアがしゃん、とアーツユニットを鳴らして俺に向けて来たからお疲れさまの意を込めて盾を軽くぶつけ返した。
「苦労しますわね、お互いに」
「休暇中に駆り出されるのはこれきりにしたいね」
俺は聡明だったので、後ろでアーツ攻撃に専念していたスカイフレアの服がボロボロだった理由を揶揄ったりはしなかった。
大陸版で実装されているがこっちでは未実装のオペレーターを出したくなったのでオペレーターのネタバレ上等で出しても良いですか?
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いいよ
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どちらでも構わない
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駄目です
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結果を見たい人用