重装傭兵ロドス入り   作:まむれ

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Ep.20-灯紅酒緑-


 

Ep.20-灯紅酒緑-

 


 

 観光都市シエスタを巡る一連の流れは終息した。黒曜石を利用し、自然へ払うべき敬意を無くした愚か者が乱掘したせいで、五桁に及ぶ命が失われる事態も避けられた。

 仕事で上塗りされた休暇はその分だけ延長が認められ──結果としてロドス本艦に滞在していたエフィが合流できたのは喜ぶべきことだろう。

 

「眼福ってやつだな」

「えぇよーくわかりますよ。エイヤフィヤトラ嬢の水着は実に美しい」

「サングラスのいらない身体にしてやろうか?」

「理不尽がすぎませんかね!?」

 

 陽光で輝く水の外側、綺麗な砂浜の一角をロドスアイランドは貸し切りで利用していた。市長からロドスへ事件解決報酬の一つとして、シエスタでも最上級の場所を借りる事が出来、各々が自由に夏を満喫している。今年が“この”シエスタの最後だからなのか気持ち大きめに羽目を外しているオペレーターの姿も少なくない。

 隣に座る男がエフィへ邪な視線を投げていたため、少し本気で忠告しつつ他のオペレーターを見るように窘める。エフィ以外にも今回の功労者であるプロヴァンスやスカイフレア、最初は渋っていたがグラニを邪険にすることも出来ずにずるずると来てしまったスカジ姐さん。セイロンお嬢様とシュヴァルツは優雅にティータイムと洒落込み、俺は少し離れた場所でミッドナイトと一緒になって海を見て目の保養をしていた。

 

「ミッドナイト的にはあれ、どう思う?」

「いいですね……」

 

 俺が指を向ける先にいるのはプロヴァンスだ。黒い布地の三角ビキニの上から両肩が見える薄地のシャツを着て、クリアバッグにビーチ用の道具を詰め込んだものを横に置いてアイスを食べている。水着というものは普段見られない素肌や太腿、実り豊かな双丘へと目が行きがちになるが、プロヴァンスの尾はそれらを押しのけてより主張していた。

 熱気と陽射しで溶けて崩れそうになったところを慌てて持ち上げ、アイスに口付けして舐め揚げる傍らで、尻尾の方はバランスを取らんとしているのか左右に揺れている。

 

「あれは間違いなく過去最高の手入れをしていますね。俺の目は誤魔化せません」

「自慢する程だからな、肌と同じかそれ以上に手入れしてるだろ。ちょっと暑そうな気はするが」

「それが良いんですよ、近くに居れば汗を振り落とす時に飛散する水滴が絵になりますよ」

「そこまでは聞いてねぇ」

 

 どこかうっとりとした表情をするミッドナイトはただの変態だった。付き合い方を改めようかな……

 

「……これは失礼」

「じゃああっちはどうだ?」

「あれもいいですね……」

「それしか言ってねえじゃねぇか」

 

 次に目を向けたのは海に近いところ、パラソルの下にシートを敷いてぼんやりと海を見つめるスカジさんの姿。自らの髪に近しい白のオフショルダー型の水着をチョイスしつつ、ある部分によってもたらされる負担を和らげるために首から青い布が伸びて支えている。横にあるドリンクに手を伸ばし優雅に寛いでいると思いきや、グラニがやってきて慌てて帽子を掴んで海へ向かう姿に思わず笑って、ミッドナイトがどうして笑うのか聞いてきた。

 

「傭兵の間じゃ厄災なんて言われてた姐さんが、ロドスじゃただの一オペレーターってのが面白くてな」

 

 グラニは良い理解者になるだろうと勝手に期待をかけていた。とある村で起きた騒動で武器を交えた以降、姐さんは小さな騎兵をやたらと気に掛けるようになり、騎兵の方は言葉少なな仲間の事を理解しようと歩み寄っていた。姐さんが取られたと思う反面、新たな理解者のお陰でロドス内に少し馴染んだ気がする様子を見て嬉しく思う自分がいる。姐さんは凄い。そして、お前らが思うよりもずっと優しいんだぞと思っていた事が周知出来てうれしいんだ。

 

「夜のロドスで独りを謳っていた美女が陽光の元で休日を友人と居るのは、素晴らしい事だと俺は思いますよ」

「同感だな」

 

 ドクターに聞く限りでは、今までワンマンだったのが作戦中に出来るだけ仲間に合わせようと努力している素振りが見えるとか。

 

「次はあちらでしょう? グム嬢のワンピース」

「いや違う。あっちだ、なあ、なんであいつがここにいるんだ?」

「なんででしょうねえ」

 

 俺が眉を顰めながら見る方に居るのは龍門近衛局のチェンだ。あいつも紆余曲折の末に龍門ではアンタッチャブルな存在になったが、傍らにいる女性が確か近衛局の職員だから良い塩梅に着地出来たのだろう。問題は、ここがロドス貸し切りであってあいつは部外者のはずだという事。

 

「それはねえ、ロドスにはまだ在籍している事になってるからだよ」

「……ドクター、気配を殺して後ろに立つのはやめてくれ」

 

 急に後ろから声が聞こえてきて、二人してぎょっと仰け反って振り向けば真夏の中でもフルフェイスに制服を着たドクターが立っていた。

 

「ごめんねえ、ちょっと癖になっちゃって」

「その癖は早く直した方がいいぞ。相手によっては物理的に分身するハメになる」

「相手は選んでるさぁ」

 

 なお悪いわ。

 

「ま、それはともかく席は残してあるしこっちにいる間は色々助けてくれたしちょっとくらいはね」

「それくらいならいいけどよ」

「釣れないねえ、あの時はケルシー相手に啖呵切った癖に」

「それは俺も気になりますね。噂話しか聞こえてきませんし」

「っやめろドクター! あれは俺の中で無かった事にしたい記憶なんだよ本当に……」

 

 もうこのネタで揶揄われるのは何度目になるだろう。あれはちょっとチェンが気に喰わなかっただけで他意は決してないのである。

 

「ちなみにチェンだけど、シエスタからまたロドスに乗るからね」

「はっはっは……マジ?」

「大マジだとも」

「はーーーー…………結局一月くらいで戻って来たな」

 

 ビーチチェアに倒れるように寝そべり、目を覆う。また三分の一の確率で逆さ鱗を触るチキンレースが始まるかと思うと憂鬱で仕方がない。

 

「というわけでごめんねミッドナイト、あんまり話したがらないんだよエインウルズは」

「友が言いたくない事は聞かない主義ですので大丈夫ですよ」

「お前のそういうところ、本当に助かってる」

「素直に褒める辺り重症ですね」

「エインさーん! 一緒にご飯食べませんかー?」

 

 げんなりしている俺を呼び止めるのはエフィの声だ。砂を蹴り、とてとてと横まで走ってきてしゃがみながら俺の顔を覗き込む。

 

「ああ、そうだな……なんか無性に食いもん食べたくなってきてよ……」

 

 人、これをやけ食いと言う。腹筋に力を入れ、一息に起き上がって額を拭う。ミッドナイトが投げてくれた水筒をキャッチして、ドクター合わせて二人に一言告げてエフィの横に並んで歩く。

 ちらりと視線を下に向けると、水着姿のエフィが目いっぱいに広がる。ワンピースタイプでトップにフリルのついた水着、色気を求める訳でなく、可愛らしく着こなそうとシンプルなものを選んだのは俺的にもポイントが高い。ってか、俺と買い物行った時にこんなもんを購入した記憶がないだがいつの間に買ったんだ。

 

「水着、良く似合ってるぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 いやほんと、これで際どい水着だったらどんな顔をしていいかわからなかったからな。心からの褒め言葉と一緒に頭を軽く撫でる。

 

「向こうでイフリータちゃんがお肉とか野菜とか焼いてくれてるんですよ!」

「ちゃんと焼けてんのか? 宿題と始末書はよく灰にしてるから、焼きすぎてないか不安だ」

「それ、本人の前で言っちゃ駄目ですからね?」

「もちろん、本人の前で言っちゃ駄目な事は本人の前で言わねえよ」

「つまりそれ以外の場所では言ってるってことじゃないですか!」

 

 ばれてーら。太陽に照らされて熱くなった砂を踏み、砂浜を歩く。

 

「例えば、今回の特異オリジムシが私みたいなんて言ったり、してましたよね? 私知っているんです」

「?????」

 

 ばれてーら。

 いや待て、何故エフィがそれを知っている。酒場で脱力していたらラテラーノ人に銃を突き付けられた気分だ。くそっ誰がバラした。あそこにいたのはスカイフレアとプロヴァンスとセイロンお嬢様の三人。ありそうなのはセイロンお嬢様からシュヴァルツに漏れて、そのままフェリーン族の皮を被った天災が面白半分にエフィにチクったルート。

 しかし一番有り得そうな可能性が実は一番有り得ないのだ。戦いでは脳筋で撃って殺せばいいとしか考えてないゴリラのような女だが、それは戦闘に至る過程で相手を詰ませているからこそだ。つまり頭はきちんと回る。そんな奴が勝ち確になった時点で俺にざまあ見ろと言わんばかりのツラを見せに来ていないのはおかしい。よってセイロンお嬢様ではない。

 

「エフィ違うんだ」

「なにが違うんですか?」

「これは不幸な誤解なんだよ」

「『エフィの機嫌が悪い時にそっくりだ!』って言ってた事のどこが誤解なんです?」

 

 俺はシエスタの空を仰いだ。

 

「……誰に聞いた」

「プロヴァンスさんが言ってました、エインウルズったら酷いよねーって」

「あの尻尾ほんと許さねえ」

 

 俺があいつに何したって言うんだ。絶対に仕返ししてやる。俺はやると言ったらやる男だ。傭兵は舐められたら終わりの世界、絶対に面白半分でエフィに報告したであろうプロヴァンスには何かしら御礼をしなければ気が済まなかった。

 

「悪気はなかった、特異個体が燃える岩を連続で飛ばしてきたからつい身近なもので例えちまったんだよ」

「口が軽いのはエインさんの特権ですもんねー」

「褒める時は心から褒めるし、過ちはきちんと認める。誓って言うけど悪意があったわけじゃない」

「でもちょっと面白いと思ったんですよね?」

「…………そんな事はないさ」

「嘘ですね」

 

 ぴしゃりと言いのけるエフィの顔は笑顔だった。ただし随分と可愛らしくないものだが。その後もつらつらと元の笑った顔を取り戻そうとあれこれ言い募るも聞き流された。

 そうこうしているうちに数個のグリルとそれを囲うようにオペレーター達が立つ場所までやってきた。

 

「イフリータちゃーん、私達のお肉はありますかー?」

「エーフィーっ! オレサマにかかりゃこんなんチョチョイノチョイってやつだぜっ。おっちゃんも、肉食うか?」

「俺はおっちゃんじゃねえ」

 

 笑顔で串を差し出すイフリータ。その腕には鉱石病患者に良く見られる身体に浮かぶ結晶が数カ所見えていた。

 黒曜石が鉱石病に効くという話はなんの根拠もないとドクターやアーミヤ社長は言っていた。だがシエスタの民はそれを信じていて、結果としてここでは鉱石病患者はあまり差別を受けずに肌を晒す事が出来る。騒ぎの首謀者と動機を知っている身からすれば、皮肉な話だと思う。鉱石病を見捨てた人間の言葉が巡り巡って鉱石病の人間の助けになっているとは。

 

「あ、エインさんにお肉はあげなくていいですよ。これとこれと、あとこれ。私に酷い事言った罰です」

「ん、ヒドイ事言われたって? オレサマ、肉じゃなくておっちゃん焼いた方がいいのか?」

「自分で焼くから大丈夫ですよイフリータちゃん」

「お、おう……? ならいいケド……じゃあおっちゃんは野菜食べる係な!」

 

 聞き逃した事にするには随分と物騒なやり取りがあったが、問い詰める前にイフリータから野菜がこんもりと盛られた皿を押し付けられる。ピーマンタマネギニンジンとネギ、どれもこれもイフリータが嫌いな食べ物ばかり。

 

「に、肉は……?」

「ないですよーだ!」

「うっそだろ」

「自業自得ですからね?」

 

 正にけんもほろろ、諦めた俺は悲しみにくれながら野菜を食べる。火もよく通っていてたれも絶妙な美味しさ、きっとこれに肉があればもっと美味しかったんだろうな。肉、食べてぇなあ……

 




投票者数24→41
ぼく「????????????????」(宇宙猫の顔)

いやほんと感想評価ありがとうございます! これ程の数が入ってくると思わず狂喜してました。

大陸版で実装されているがこっちでは未実装のオペレーターを出したくなったのでオペレーターのネタバレ上等で出しても良いですか?

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