重装傭兵ロドス入り   作:まむれ

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Ep.22-日居月諸-

 賭け事はやるもんじゃない、というのが俺の感想だった。

 

「いやあ、非常に残念です。俺が負ければオーキッドさんを四六時中口説けたのに」

「その欠片も残念に思っていなさそうな声は止めたほうがいい」

「ああ同意するぜ、俺の手が滑って良い男を口の裂けた化け物にしちまう」

「今日のオペレーターエインウルズは実に運がありませんでしたね」

「歪んだ育ち方をしたロボットを綺麗真っ新にフォーマットするのも追加だ」

 

 俺、スポット、ミッドナイト、CASTLE-3の三人で暇つぶしにとポーカーを続けていたがやたらと負けが込んでいた。全勝負通して俺の手はストレートまでしか出ないって呪われてんのか。

 結局負け越してその中から一番負け数の多い俺が罰ゲームを受けるわけだが。

 

「オペレーターチェンはどうです?」

「いや流石にそれは上半身と下半身が泣き別れするだろう」

「エイヤフィヤトラ嬢は面白みに欠けますしねえ……」

 

 こいつらが放り投げたトランプを回収して片づけているが、一体俺に何をさせる気なのだろうか。チェンにやったら恐ろしい目に遭う事という時点でもうヤバい。

 

「おい、命に関わる事だけはごめんだからな」

「俺達はそんな薄情に見えるか?」

「この間ミッドナイトが負けた時、いの一番に頭の上にリンゴ乗せてカタパルトの訓練標的にしようって言いだしたの誰だったかな?」

「カタパルトはちゃんと射った」

「俺の目の横10cmにピタリでしたけどね!?」

「絶対わざとだったよな」

 

 けらけらとスポットは笑うが、まあつまりはそういうことだ。敗北者の命は危険に晒さない代わりに死ぬ思いはするかもしれない。

 

「よし、エインウルズ。スカジさんに膝枕してもらってこい。俺達がその瞬間を写真に撮るから」

「エイヤフィヤトラ嬢ではあまり面白みがありませんからねえ。頼めば彼女はやってくれるでしょうし」

「こいつらマジで言ってんのか?」

「オペレーターチェンを選ばなかった辺りが我々の親切心を感じ取れるはずですよ」

「お前のサブアームをへし折って二度とゲーム出来ない身体にしてやるからな?」

 

 


 

Ep.22-日居月諸-

 


 

 

 あいつら絶対面白がってやがる。なるほど確かにロドスでスカジさんと一番親しいのが俺なのは間違いない。次点にドクターとグラニ。ただし親しいには種類があり、この場合はあいつらが期待するような方向でないのは明白だ。ただなんというか、スカジさんはそれでも頼めばやってくれそうなのが申し訳ない。

 

「殴らないで聞いて欲しいんですけど」

「その前置きはいったい何かしら」

「膝枕って知ってます?」

「もしかしてあなた、私を馬鹿にしているの?」

「違うんですよ! ちょっと寝付けが悪くてですね」

 

 もちろん嘘である。いやちょっとシエスタで悪夢を見たような気がしなくもないが記憶がないので悪夢と言っていいかどうかも怪しい。

 ロドスの艦上で、温い夜風に当たりながら月を見上げていたスカジさんは、すっと目を細めたが仕方なさそうに両足を広げて腰を落とし──いわゆる女の子座り──

 

「……しょうがないわね、ほら」

「えっ」

「どうしたの? 私だって鬼じゃないのよ」

 

 そんな簡単に了承するなんて思わないじゃん? もちろんお邪魔するが。

 こうしてスカジさんに触れる機会はあんまり無かった気がする。身の丈程もある大剣を気軽にぶん回してトーチカや守備陣地を整地していく剛力を見せる割には、手も腕も女性らしい柔らかさを持っていたが膝の方も侮れなかった。日夜ドクターを眠らせるために科学的に進化するロドス製寝具よりも遥かに心地が良い。気を抜けばそのまま夢の世界へと潜れる程のフィット感と安心感。

 

「どう、かしら」

「良い夢が見れそうです」

 

 白磁の手が俺の頭をなぞり、目だけを上に向ければ暗い夜の闇でもわかる赤い目と繋がる。甲板で歌っている姿を何度も見る度に感じていたが、スカジさんは夜が良く似合う。頭を下げているせいか、銀の雨が俺の顔に降ってくるが不快感はなく、そっと指を通せばなんの抵抗もなく滑る。

 

「手触り、いいでしょ? 私の数少ない自慢なのよ髪は」

「俺の口より滑らかです」

「それは褒め言葉になってない」

 

 心外だと言わんばかりに頭を叩かれ、髪を首の後ろでまとめて背中に回し、それでも垂れるぶんは耳にかけて俺にかからないようにする。しまった、俺の口の方が滑らかだったか。

 

「すみません、でもとても綺麗ですね」

「そうよ、維持するにも大変なんだから」

 

 語るわ語るわ、俺には到底理解できないヘアケアーの数々。もちろん、入ってくるそばから逆方向へと聞き流して凌いだ。髪に頓着するならば己を守る盾に気を配るべきだしな。

 

「ちょっと、聞いてるの?」

「聞いてますってば」

「流れるように嘘を付けるのは尊敬するわ」

「そんな、照れますって」

「褒めてないわよ……まったく、あなたは……」

 

 回りくどい言い方が駄目、人の神経を逆なでするのが得意、話は聞かなくて自分本位で他人の事を考えない、デリカシーもない、逃げ足が早いのは良い事だけど日常でもそれは駄目。

 オリジムシだってもうちょっとマシな言われ方をするだろうに、俺ときたらなんて散々な言われよう。スカジさんは俺の事をそんな風に考えていたかと思うと涙が止まらない。

 

「ずっと気になっていたけれど、あなたは厄災と言われている私が恐くないのかしら」

「クラッシャーも真っ青の筋力を持つのにどこにも筋肉が見えないのは恐いと思いますけどね」

「……!」

「いってぇ!」

 

 やっべ。

 

「いやまあ冗談はさておき、最初は恐かったですけど何度も付き合ってくれるから悪い人じゃないなって思ったんで」

「最初はすぐに飽きて消えると思っていたもの」

「俺はしつこい性格なんですよ」

「ロドスに来て少し懐かしいと思っていた頃にバッタリ遭遇するとは思わなかったわ」

「懐かしいなんて思ってくれたんですね」

「……毎回の様に顔を合わせればそうなるわよ」

 

 とても意外だった。こちらは一方的でかつ一般常識に照らし合わせれば真っ当とは言えない交流の仕方だったから、それが途切れて幾ばくかしたスカジさんが懐古の念を抱く程度には悪く思っていなかったなど。うっかり口走ったのか、再び月を見て決して俺と目を合わせようとしない。

 

「いい機会だから言うけれど」

「?」

「あなたには感謝してるのよ」

「えぇ!?」

 

 続けられたのはもっと驚愕の事実だった。明日の天気は晴れで、新聞のトップはカジミエージュの腐敗をすっぱ抜いた記事が一面に出るんじゃないかと思ってしまう程だった。

 あまりに驚きすぎて科学を超越した快適さを誇る膝を手放して起き上がる程で、直後に感じた事の無い強力な力に押されて無理矢理元に戻された。

 

「おごっ」

「グラニが私に構うのを見ると、あなたを思い出してね」

「あのちんちくりんが?」

「なんだか懐かしくて。無碍に出来ない内に仲良くなったの」

「それは……よかったですね」

 

 スカジさんとグラニの仲の良さはシエスタでも見た通り。武器に変わってスカジさんが振り回されるのは、長年付き合いのある俺から見れば微笑ましいと言えよう。そう、以前の刺々しさは鳴りを潜め、グラニ以外にもロドスの子供たちも袖にする事無く相手をしている光景を見ると、ドクターの作戦は成功したと確信できる。

 別に一人でいることを選んで、過ごしている事が悪いわけではない。ただ、誰とも仲良くならずにいるのはロドスじゃ勿体ないと思ったから、もっと他の人と仲良くなってほしかった。スカジさんが口にする深い海の底、全てが包まれるような感覚でその癖真っ暗で何も感じる事の出来ない世界。そこから少しでも掬い上げる事が出来たのならと考えただけだ。

 

「きっと、あなたに迷惑をかける。これは予想でもなんでもなくこのままいけば必ず起きる未来なのよ」

「そうですか」

 

 神妙に呟いている下で、俺は心の中で指をいくつも折り始める。あれとこれとそれと、過去のスカジさんにとって俺は厄介ごとだったので数えるにも何往復も折る必要があった。

 ちなみに一番ヤバいなと思ったのは勢い余ってスカジさんの頼んだ飯と酒をひっくり返した事である。その後、五体満足ならいいよねと言わんばかりに痛めつけられた。

 

「…………」

「…………」

「…………あの、それで?」

「あなた、少し鈍くないかしら」

「野良犬の嗅覚より鋭いなんて言われてる俺がですか?」

「初耳ね。……いいえ、きっとそれが“応え”なのね」

 

 何も言わずとももとよりそのつもりであり、お人好しのロドスアイランドもきっと同じだ。花の無い事を言ってしまえば、戦力として手放すなど有り得ないし、源石融合率があり得ない数値を叩きだしたとかで一部の医者が暴走して不祥事にもなりかけたらしい。何より、ドクターとアーミヤ社長がそれを許す人間じゃない。勝手に出て行けば難解なアーツ理論の教科書より分厚い就業規則を振りかざして連れ戻すだろう。

 

「今夜は、ここで寝るといいわ。別に誰にも言ったりしないから」

 

 一等優しく側頭部から頬までを撫でるスカジさんは、俺の返事を待たずに歌いだす。なんの言語か判らない未知の言葉で、それにしては不思議と安心感を得る安らぎのアカペラ。

 うとうとと瞼を閉じたのが、その夜最後の記憶だった。

 

 


 

 

「貴方達、わかっているわよね?」

「………………」

「別に盗み見た事を咎めているわけではないの。ただ──次はない、とだけ」

「……………………………………」

「それから、他言無用よ?」

「………!」

 

 


 

 

 

 

 

 夢を見ていた。青と黒の世界で脱力して漂うだけの心地よい夢。

 上からは光が差し込んでいるからだろう。綺麗でずっと見ていられる青い世界だった。

 下の方は光が届かないからだろう。心まで吸い込まれそうな程、綺麗な黒の世界だった。

 暗闇に魅入られ、瞳の中心に捉え続けてかなりの時間が経ち、飽きかけた時に暗い世界の奥底に何かがいる気がした。よく見れば口もある。本当に微かに、それこそずっと見て目を慣らしていたから見えてきたソレが、四文字の言葉を発していた。

 

 ──ィ

 ──ゥ

 ──ェ

 ──ア

 

 なんと言ってるか、今は良く聞こえない。

 

 

 

大陸版で実装されているがこっちでは未実装のオペレーターを出したくなったのでオペレーターのネタバレ上等で出しても良いですか?

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