重装傭兵ロドス入り   作:まむれ

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三章-ロドスアイランドもふもふ特集-
Ep.23-盗人上戸-


「頼むよプロヴァンス!」

「そ、そんな事言われても……!」

「お前のせいで俺がこの前エフィにどれだけ気まずい感情で接するハメになったか、わかるだろ!?」

「知らないよ!」

「後生だ頼む!!」

 

 


 

 

「はぁ~~~初めて見た時から手入れの行き届いた素晴らしいものだと思っていたが……」

「そ、そう思うなら、いやらしい手つきを止めたらどうかな?」

「は? 俺は100%純粋にもふもふを味わっているが??」

 

 拝み倒した。それはもう拝み倒した。前々から何かの機会に一度は触ってみたいと思っていたのだ。

 天災オペレータープロヴァンス。紫色が特徴な彼女は得物のクロスボウで弱った敵を見逃さないが、この瞬間だけは俺が彼女を見逃さない。

 そもそも毎度毎度俺が女性に声を掛ける時、こいつが休暇だったりすると半分くらい楽しんでエフィを召喚されるのである。それによって生じた損害のいくらかぐらいは回収させてくれてもいいだろう。

 と、言う訳で恐らくロドスでも一番であろうプロヴァンスの尻尾をもっふもふさせてもらっている。これは俺が彼女の護衛役を何度か引き受けて荷物持ちをしていたこともプラスに働いたのだろう。少しだけならばと言質を取ることが出来た。

 

 俺の盾と同じくらい雄大、立派な毛並み、顔を埋めれば夏の快晴の下で干した布団顔負けの気持ちよさ。この美術に目を引かれない男がいるだろうか? もし、我こそはと名乗り出る男がいたら是非出てきてほしい。

 現物を目の前に、如何に毛並みが素晴らしいか、如何に触り心地がよいか、俺達を抱擁する移動都市とは違った頼もしさを感じる尾に感嘆の息を漏らすだろう事は確実だ。

 

「ちょ、ちょっとぉ何してんのぉ!」

「うるせぇ! 俺は今忙しい!!」

 

 ちなみにここ、酒場である。定期的に模様替えする艦内酒保は、その時々でバーだったり居酒屋だったり高級料理店の装いだったりと自在に姿を変えるのだが、今日の装いはありきたりな大衆酒場だ。

 壁にはつまみや酒の種類が書かれたメニュー板がずらりと並べられており、カウンター席以外は粗削りな木製のテーブルと背もたれのない簡素な椅子、適当にやりましたと言わんばかりの無機質な鉄の黒い床。深酒するからと店の片付けを引き受けた俺と呼びこんだプロヴァンス以外は誰もいない貸し切り状態だ。

 さっきの要素に加えて酒に酔った現状に心のどこかで、酔いが醒めたら大変だなあと他人事な自分が投げやりになっているが、今の俺は無敵なので何も聞こえない。だってもふもふしてるし。尻尾に包まれてるし。

 よく手入れされた薄紫の大地へ指を差し込み、すすすっと根幹に沿って指を動かす。ここで注意なのが、指を押し付けてはいけないことだ。マイスターに頼んだ特注品を手にした時がごとく、手を震わせてゆっくりと、偉大な大地へ一歩を踏み出すように歓喜しながら繊細にタッチする。

 

「ヒッ、な、そんな的確に……!」

「疲れた時に抱き枕になんねぇかなこれ、最近こき使われ過ぎてつれぇんだよ」

「く、ボクはこんなの、に屈したりは」

 

 週一とまでは言わないから、一月に一回くらいは(尻尾を)抱かせてほしい。ああくそ、こんな、莫大な報酬よりも手を伸ばしたくなるようなものがあるとは。金? 名誉? いやいや、そんなものでこれが買えるならば世の中苦労しないし戦争はなくなるし俺は田舎に骨を埋めてる。

 毛の一本一本に至るまで指に引っかかることのない滑らかさ、注視しても見つけられない枝毛、この大きさなのに一本すらないとはどれほど入念に見ているのか。誰に誇るでもなくメンテナンスに手を抜かない、プロヴァンス(の尻尾)がどれ程素晴らしく魅力的かを語るにはロドスが狭すぎるくらいだ。

 

「君、はどこかで触り方のレクチャー、でも受けたのか、い?」

「我流だ。一端の傭兵はこっちの扱いも覚えないと、夜が大変だからなぁ」

「さいっ、てい!」

 

 言葉は強気に聞こえるが、その意気が行動に反映されないのであれば意味がない。痛くない程度にきゅっと握り、少しばかり横へ手を横へ揺らした後、一気に揺らした分を戻す。

 こうして撫でていると気付くが、プロヴァンスの尻尾は中々に感度が良いらしい。それを素直に褒めてやれば、俺の方へ振り返って心外だと否定した。

 

「君の、せいなんだからね。全く、ふだんはこんな……」

「そう言っても尻尾は正直なようだな、見ろよこんな、俺に身を寄せてくるんだ」

「く、悔しいけど、君の触り方は今までで一番なんだよ」

「なら俺の提案、飲んでくれるよな?」

「月一は、……でも……」

「ほう?」

 

 熱っぽい吐息がプロヴァンスから漏れる。何かに悩むように、視線を四方に泳がせては口元をひくつかせ、諦めたのか何かを思っているのか、強く瞼を閉じて続きを声に出そうとして──

 

「エイーン、ちょっとアンセルくんが呼んでたん、だけ……ど…………?」

 

 Q.今の状態を客観的に述べよ(10点)

 A.色っぽい表情の天災トランスポーターと少女が兄と慕う男性がその天災トランスポーターの立派な尻尾を酒を飲みながら弄りまわしている。

 

 朝の混雑する食堂で前日の約束を寝ている間に夢の向こう側へと追いやって、俺の社会的地位をバンジージャンプさせた下手人であるメイリィが俺達を見て言葉を失う。

 俺も開いたドアの音の方向へ顔を向けて、そこに立つメイリィの姿を見て一瞬で酔いが醒めた。第三者から見て、この状況はドクターへの直通電話を使っても文句の言われない場面だからだ。

 鏡がないからわからないが、間違いなく俺はだらしない顔を晒していた。そしてプロヴァンスも、予想ではあるがまあまあ人様に見せられない表情をしていたはず。ディピカも筆を投げるような展開を現実に見てしまったメイリィが処理落ちでフリーズするのも止む無し。

 

「な、な、なぁ……!」

「メイリィ、いいか、声が大きいのは戦いじゃ美徳だが日常じゃ欠点にもなる。だからな、落ち着け」

 

 残念ながら、俺の注意は伝わらなかった。この後どうなったかは語る必要もないだろう。

 時々思うんだが、神様って俺の事嫌いなんじゃねえかな。

 

 


 

Ep.23-盗人上戸-

 


 

 

「違うんだよ、俺だって癖の一つや二つを持つんだ」

「誰に対して言い訳しているんですか?」

「アンセルならわかってくれると思うんだが」

「誰もいなくなった場所でオペレーターの尻尾を堪能する事がですか? 私には難しい世界ですね」

 

 薬品の匂いと染み一つない清潔さが取り柄の医務室で薬の梱包をするアンセルに愚痴るが、その反応は芳しくない。

 なんだかんだ予備隊A4に所属して付き合いが深くなった男、解ってくれると思っていたが見込み違いだったようだ。

 

「……まあそれはさておき」

「ああそうだな、置いておこう」

「診察の結果ですけど、大丈夫でしたよ。以前と変わりなく、です」

「そりゃ朗報だ」

 

 ロドスでは全職員が定期検診を受ける義務がある。今回アンセルに呼ばれたのもそれの結果を伝えるためだろう。

 検査結果の書かれた紙をデスクに置き、ペンで数カ所を叩いてから医療オペレーターらしい愚痴を零す。

 

「ちょっと酒と煙草は抑えてほしいんですけどね、医者的には」

「ドクターから男装を止めろと言われて、お前は止めるかって話だな」

「私は男ですが???」

 

 俺の軽口に、アンセルはこめかみに青筋を浮かべて「なんだったら禁酒を進言したって良いんですよ。ブレイズさんと一緒に」と脅してくる。報復のためならデータを改竄することすら厭わない心意気は認めるがそれをやられると非常に困るから止めてほしい。

 

「いえ改竄するまでもなく、飲酒時の振舞いから当然ですよ」

 

 ……原因を探られた結果、酒が飲めなくなった未来に絶望したブレイズのチェーンソーに細切れされる未来が見えるからだ。

 確かにブレイズはエリートオペレーターで、容姿や普段の性格にケチを付けるところが欠片もない人ではある。

 

 が、ことアルコールが関わってくると普段からは想像もつかないワーストオペレーターに成り下がる。

 何度やっても学習せず泥酔して同席者に迷惑と失言をまき散らし、後片付けを一切しないどころか自分の面倒まで見させる堕落っぷり。

 出身と性根はヴィクトリアだが、身体の頑丈さと好きな飲み物はウルサス帝国の魂を持ったハイブリット。どんなに邪悪な性格を持つ悪役と言えど、あいつを尊敬している人間にはとても見せられない醜態を晒す。

 

 そんなやつが俺の巻き添えでアルコールを禁じられたらどうなるか、メイリィだって想像できる末路を辿るだろう? とアンセルに問う。

 

「艦内で見世物が始まるのはわかります」

「ああそうだろうな、処刑ってのは大衆の娯楽みたいな一面もあったらしいからよ」

 

 俺だって知り合いが私刑で吊し上げをくらってたらジョッキ片手に見に行く。だが、間違っても俺がされる方になるのはごめんだ。ただでさえ多数のネタを提供しているのに、また新鮮な話題など提供したくない。

 

「……わかったよ、少し控えればいいんだろ?」

「それでいいんですよ。いつ壊れるかわからないんですから」

 

 ようやくわかってくれましたか、と笑顔を浮かべるアンセル。クリップボードに挟んだカルテにさらさらとペンを走らせ、机の引き出しから流れるように判子を出して押し付ける。上の棚へと手を伸ばし、青いファイルにボードから剥ぎ取ったカルテを差し込んで元の場所へと戻した。

 

「じゃあこれで本当に終わりです。お疲れさまでした」

「次回も頼むよ、アンセル先生」

 

 薬剤を受け取ってポケットへ乱雑に突っ込み、椅子を元の場所へ戻して医務室から出る。

 それから少しの時間をかけて自室まで向かうと──ドアの横にエフィが立っていた。酒場の片付けから医務室での一幕を終えて、夜も良い時間になっているのに何故こんなところにいるのだろうか。

 

「どうしたエフィ」

「………………」

「エフィ?」

「閉店した後の酒場でプロヴァンスさんに無理を言ったって聞きましたけど」

 

 俺はその一言で全てを理解した。まずは真っ先に踵を返し、ミッドナイトの部屋へと向かう事にしよう。アンセルとの約束? いやいや、酒で身体を壊す前に、今まさに、黒焦げになって命をなくす危機が訪れているのだ。

 

 この後めちゃくちゃ怒られた。

 

大陸版で実装されているがこっちでは未実装のオペレーターを出したくなったのでオペレーターのネタバレ上等で出しても良いですか?

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