重装傭兵ロドス入り   作:まむれ

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Ep.25-咽元思案-

 基本的に俺は尻尾が好きだ。

 フェリーンに多く見られるコンパクトで可愛い尾、ヴイーヴルやサヴラのように滑らかで引き締まった尾も素晴らしいが、なんと言ってもヴァルポやループス、一部のクランタのようにそこそこ大きくて両手で抱えられるような尻尾が好きだ。

 

「ステイ、ステイだ。意味はわかるか? オペレーターレッド」

「…………」

 

 最初に言っておくが、俺は好みの尻尾だからって相手が誰であろうとほいほいモフろうとする節操なしではない。触れていいかどうかちゃんと交渉はするし、スズランやシャマレのような子供相手では自分の名誉のために我慢だってする。

 つまり、だ。このフード付きの赤いコートを着たループス族に手を出す程勇者では、断じてないって事を言っておきたい。

 

 俺の後ろではプロヴァンスが尻尾を抱きながら震えている。尻尾を触らせてほしいとレッドにお願いされたらしいのだが、そのレッドが現れた場所がプロヴァンスの背後にピッタリだから、悲鳴を上げてしまった。そりゃあだれだって真後ろに突然気配がして耳元で声が聞こえりゃ驚くわな。

 

「レッド、意味わかる」

「よし、偉いぞ。だがプロヴァンスの尻尾は駄目だ」

「何故?」

「ありゃ俺のだ」

「僕の尻尾は僕のものだけど!?」

「……でももふもふ尻尾、レッド、もふもふしたい」

 

 この言葉を聞いた時の衝撃たるや、同志にしかわかるまい。ロドス内でも姿を見る事は稀で、あの女狐が担当して作戦に出しているオペレーター。ループス族の職員や他の強者が挙って警戒を払うと噂されているのが、ちょっと残念そうにしているのがとても意外だった。

 彼女も一人のもふもふ好きに過ぎないのだと知った俺に出来ることと言えば。

 

「ついてこい、ちょうど良い相手を知ってる」

 

 

 


 

Ep.25-咽元思案-

 


 

 

 コンマ以下も見逃すまいと集中する視線の先で、レッドと金色の騎士が激しい戦闘を繰り広げている。

 凄まじい身体能力を駆使し、障害物の壁面どころか天井すらも蹴って三次元機動を行い、全方向から攻撃を仕掛ける。その一撃一撃が正確無比で強力、かつ絶妙な意識の隙間を狙って突いているのが見てとれた。

 これが並のオペレーターであれば一桁秒も保てばいい方だろう。かく言う俺もタイマンでどこまでやれるか考えて絶望的な予想しか出来なかったし、チーム戦なら一回武器を交えたら後方に抜けられてゲームオーバー。それを鑑みれば、もう三十分近く戦闘行為をしている金色の騎士がどれほどの実力を持ち得ているのか考えるまでもなく。

 

 件の金色の騎士……と言うには装備している胸当てやショルダーガード、手甲や盾の外周部などは無骨な銀の色でそれ以外は真っ黒なレザー装備──ロドスによって魔改造されたせいでそこらの金属鎧より遥かに頑丈──に身を包んでいている。

 ではどこが金色なのかと問われれば、その力強い眼と、育ちの良さを感じてしまう程綺麗な髪だ。

 

 ニアール。それが騎士の名前であり、今もまた真後ろから空中を走るレッドの短剣を片腕でいなした実力者だ。

 ロドスで最も総合能力が高いと噂され、作戦メンバーに名前があるだけで出撃前に勝ちを確信するくらいにはオペレーター達から信頼を寄せられる人格者。

 

 そんな彼女にレッドを引き合わせた理由は、もちろん尻尾だ。

 器量よし気立てよし、ついでに尻尾もよしなニアールさんは、訓練で挑発混じりに尻尾を握ってやると息巻いた俺を容赦なくたたき伏せた。

 

『好きなだけ握らせてやろう。私に勝てれば、の話だが』

 

 ちなみにクランタ族にとって「尻尾を握る」とはお前の心を奪ってやる、悪い虫は俺が追い払うという意味になる。攻撃全部を正面から受け止められ、小手先のフェイントもそれごと純粋な力で無意味にされたので大言壮語も清々しい程だった。

 

 閑話休題。とかく、その言葉を覚えていたのでループスのが良いと渋るレッドに食わず嫌いはよくないと説き伏せてニアールさんにけしかけたのである。

 

『珍しい組み合わせだな、エインウルズ』

『レッドが尻尾を触りたいらしくてな』

『もふもふ、ループスのが、いい』

『クランタ族だって負けちゃいないってさっき言っただろうが。また同じ事言わせる気か?』

『うぅ、プロヴァンスのもふもふ』

『…………なんだこれは』

『とまあそんな訳でな、勝てば好きなだけ尻尾触らせてくれるんだろう?』

『どんな訳だ』

 

 これで引き受けてくれたニアールさんは本当に良い人である。

 最初は乗り気じゃありませんと態度で表すが如く緩慢な動きだったが、単調な動きを繰り返していたレッドが一瞬で背後に回って頬に掠り傷をつけた瞬間から変わった。

 

「躾のなっていない飼い犬に道理を教えるのは飼い主の仕事だと思うが、今日は私直々に行ってやろう!」

 

 盾ではなく、愛用の鈍器を用いて伸びきった剣の腹を叩き、左手で態勢の崩れたレッドの腕を掴んで嗜虐的な笑みを浮かべたかと思うと、逃れようともがくレッドの身体に容赦ない膝蹴りを突き刺した。

 

「うっへえ……容赦ねぇ」

「ニアールさんって本当に強いよねー」

「部隊の指揮も出来るし本人の戦闘力も高いし、隙がないぜ本当に」

 

 日課も終えて暇だと言うことでついてきたプロヴァンスが、目の前の模擬戦を見て何度も頷いている。

 欠点らしい欠点は探した限り見つからず、この手の人物にありがちな頑固さも持ち得ず、突飛な理由を受け入れて相手してくれる度量もある。重ねていうが、ニアールさんは本当に良い人だ。

 

 そんな良い人は今、レッドの腕を掴んで離さずに二発三発と追撃の殴打でダメージを重ねている。

 それでもレッドは足に仕込んだ暗器でニアールさんの腕を狙い、回避のために力が緩んだ隙を突いて振り払った。

 

「まだやると言うのか」

「もふもふのため、当然」

 

 とん、と優しく大地を蹴る音がした。

 正面からの突撃、ニアールさんの振るう鈍器の下を潜るように低く低くとしゃがんだ姿はまるで蛇のようだ。

 ただし、それを潜り抜けた先は鉄壁の盾が待っている。盾は基本的に守るための装備で、種類にもよるが取り回しはあまりよろしくない。だが剣や槍、斧などと違って対近距離に限り面での攻撃が出来る。武器で進路を誘導し、懐に潜り込んできたところを盾で押し潰す。単純故に生半可な実力では避けきれないそれを。

 

「マジか!」

「そんなのアリなの!?」

 

 再度の跳躍。空中で前転して回避しながら、ニアールさんの腕を掴んで重心を得てから身体を捻って放つ蹴撃。

 曲芸師が披露する芸術のような身のこなしに二人揃って驚愕の声をあげるが、その間にニアールさんは腕を振り上げ、難なく凌いでいる。

 

 ──いや、そこまでレッドは考えていたのだろう。気がつけば、レッドの足は音もなく天井を蹴っていた。

 訓練用の短剣を逆手に持ち、重力に身を任せたまま一閃。

 

「狙いは良い」

 

 観戦してる第三者もレッドの姿を一瞬見失っていた。であれば目の前で相対するニアールさんも同じはずだと思っていたが、本人は首を狙った完璧な一撃を、メイスを首もとに構えてしっかりと防いでいた。

 着地したまま一足に距離を取るレッドの顔は芳しくない。

 

「が、しかし『良すぎた』な。訓練だからと言って正直に狙ってくるのは遠慮のし過ぎと言うものだ」

「──くっ」

 

 出来の悪い生徒へ言い聞かせるかのような優しい声のニアールさんと対照的にレッドは悔しそうに睨みつけていた。

 それから数分。短剣を壊され、それでもなおと徒手空拳で果敢に挑んだものの全てをいなされて、レッドは訓練場の床に大の字で倒れ伏していた。

 

「も、もふもふ」

「一応そこそこに痛めつけたはずなのだが、その言葉がまだ出てくるのか……だがまあ、中々良い訓練になった」

 

 武器を地面に突き立て、満身創痍でなお初志を忘れず手を伸ばすレッドに呆れているのか感心しているのか。判別するには難しい顔でニアールさんはレッドを褒める。

 

 で、

 

「ほら、次はお前だろう、エインウルズ」

「な、何のお話でしょうかね……?」

 

 何故か俺にご指名が入る。

 

「レッドを連れてきたのはお前なのだから、そこで息も絶え絶えなお仲間のために私へ剣を突き立てるべきではないのか?」

 

 いや模擬戦であなたに勝った事は一度もないんですが、と言いかけて口を噤む。

 

「エインウルズ……お願い、レッドに、もふもふを……」

「そうら、懇願しているぞ。それとも、今日から重装ではなく口の軽さに見合った軽装オペレーターになるか? ああ、心配しなくとも面倒な申請などは全て私がやっておくから安心すると良い。私の尾のことも諦めろ」

 

 ギリ、と奥歯が鳴る。

 レッドの弱った目を放置して、同胞が死力を尽くしていたのに俺だけがこのまますごすごと退散するなど、誰が許しても自分自身が許せそうにない。

 いやそんな、見え見えの挑発に引っかかったなんてわけでは決してない。ないったらないんだ。

 控え室から訓練用の装備を一式持ち出し、何度か感触を確かめて強く握る。

 

「上等だぜ……! クランタ族の吠え面も見たかったところなんだよ!!」

「せいぜい足掻け、元傭兵!」

 

 過去に一度も勝利してないからなんなのか、それならば今を記念すべき初勝利の日にしてやればいい。

 訓練の後にレッドとの戦闘を経て多少は疲れているはずだ。卑怯だが誘ってきたのがニアールさんであるならば、容赦などいらないだろう。

 そう、俺が今すべきことはここに連れてきた選択の結果倒れ伏しているレッドに対して、同志として最後まで責任

を果たすこと。

 勝負は今! ここで決める!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

ニアール ○(00:30:14)● エインウルズ

 

 

 駄目でした。

 まるでお仕置きだと言わんばかりに全身を丁寧に殴打され、しかし降参するにはやや物足りない威力なので試合は継続せざるを得ず、物理的に一回り大きくなったのではないかと思い始めた辺りで強烈な一撃を見舞われてレッドの横に転がった。

 

「全く、情けがないな」

「あなたが、強すぎるん、ですよ……」

 

 痛みに耐えながら、途切れ途切れに嘆息するニアールさんに素直な言葉を返す。痛すぎて皮肉を言う余裕もない。

 

 ロドスの戦闘オペレーターは全員が能力測定を受けており、本人の意思によって下された評価を公開するか非公開にするか選ぶことが出来る。

 大まかに六つの項目があり、そこから更に細かい文字の羅列や評価値があるのだが、公開されるのはその大まかな六つのみ。

 その中でニアールさんは、評価《卓越》こそないものの、公開されているオペレーターの中で唯一、全項目が評価《優秀》以上を誇っている。

 レッドの測定結果は見たことないが、それでも一本の短剣でニアールさんと本気でやりあえた事や伝え聞く話を聞く限りでは相当な高評価だろう。

 

 つまり何が言いたいかと言うと、ちょっと疲れている程度じゃあまだまだ足りなかったってことだ。

 

「あー、尻尾な、すまねぇレッド」

「しょうが、ない。ニアールは強い……」

「まったく、何やってんだか」

 

 天井しか映っていなかった視界に上から紫色が割り込んでくる。

 眼だけを動かしてそっちを見るとプロヴァンスが大きく息を吐きながら上半身を倒して俺達を見ていた。

 

「もふもふが……でも、エインウルズの……」

「あのねレッドちゃん、僕の尻尾は僕のものだよ?」

 

 プロヴァンスはレッドの横に座り「だからほら」とレッドの手に尻尾を乗せた。

 

「しょうがないなあって。少しだけだからね?」

「……! もふもふ、ありがとう!!」

「ああ、ちょっ! そんな無造作にしないで!」

「柔らかい、ふさふさ、温かい!」

 

 一瞬で元気を取り戻したレッドがその腕の中にすっぽりとプロヴァンスの尻尾を抱きしめ、嬉しそうに頬ずりしながらわさわさと両手を動かしている。

 

「そんな物欲しそうにしているお前、さては反省が足りないな?」

「まままま、まさかあ!?」

 

 手持ち無沙汰になってなんとなくニアールさんの尾を見ていたのだが、バッチリと見咎められた。

 

 

 

 

 

 

大陸版で実装されているがこっちでは未実装のオペレーターを出したくなったのでオペレーターのネタバレ上等で出しても良いですか?

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