「もふもふさせてくれエフィ」
「えぇ? エインさん、何のこと……」
ある日の夜更け、そろそろ眠ろうかという時間になってエフィの部屋を訪ねる者がいた。時間を考えてほしいと思いつつやる気ない声と共に扉を開けば、そこに立っていたのは良く行動を共にするエインウルズだった。
挨拶もなく開口一番に真剣な表情でお願いしてくる姿には冗談の欠片も感じ取れず、エインウルズの必死の懇願に困惑で返す。
「頼む! 俺はもうもふもふが足りないんだ!」
重ねてのお願いに、エフィはやっと困惑から逃れて冷めた視線を送ることが出来た。
もふもふ、とは彼の好みである尻尾を思う存分触りまくる行動であり、つい最近に友人であるプロヴァンスが顔を赤らめて謝ってくる程の手練手管と絶妙な言いくるめによって他に数名の犠牲者が出ている。
過去の出来事を思い出して少々不機嫌になったエフィは、平坦な声で切実な望みを切り捨てる。
足りないとはなんなのか。知らないと思っているようだがここ最近オペレーターや職員の尻尾を触ってにっこりする姿は複数の通りすがりに目撃され、それが更に数人を経由してエフィの友人の耳に入り、日々の雑談の中で「そう言えば」と伝えられるのでエインウルズがどこで誰のもふもふをもふもふしたのか全て筒抜けだった。
「私にはエインさんを満足させられるような尻尾はないんですけど……」
そして、これは全く悲しい事実だった。
キャプリニーのエフィには、クランタ族やループス族などにある立派な毛並みのソレがない。覆すことの出来ない種族の壁がある。それすら忘れてしまったのだとしたら、何回目かの折檻で
というかエフィに御立派なそれが生えていたら、冗談ではなくエインウルズを笑う話が半分にまで減少する。
「何を言ってんだ?」
「え?」
まるでドクターが丸一日の休みを貰えた日のように、エインウルズはさっきまでの熱意が嘘のようにきょとんとして指先をエフィへ向けた。
「あるだろ、エフィにだってもふもふが」
「え、えぇ!?」
あった。
およそ生物学的にあり得ない、テラを護る巨大樹と言っても過言でないソレがゆらゆらと主張をしていた。
当然だがエフィに心当たりがあるわけもなく、思考はクエスチョンマークで埋め尽くされる。肩の高さまで腕をあげ、肘を曲げて左右に体を捻りながら視線を落として確認しても、消えることなくちょっとした子供くらいはありそうな大きさの尻尾が左右に揺れていて、ますます何がなんだかわからなくなってきた。
「そ、そんなぁ! なんですかこれ!?」
「俺、もう我慢出来ねぇんだよ、なあエフィ、いいだろ……?」
「だっ、いえ、でも……」
わからないこと尽くしの中で、一つだけ明確に脳内ではっきりと判明していることがある。
たぶん、いや絶対。僅かに残る理性以外は上質な肉を前にする、餓えた獣のような眼光を放つ己の相棒に、このまま“はい”と頷けばどうかなってしまう確信。
しかし、その気迫に喉元で言葉がつっかえ、明確に拒絶する事が出来ない。
がしり、と何度か繋いだことのある硬くて大きな手が、エフィの両肩を掴む。重ねて頼む、と続けるエインになんとか首を振ることが出来てのは僥倖だ。
「俺はこんなにもお前を求めているのに」
「も、物は言いようですね?」
「心から思ってる事さ」
そして、あんまりな建前を前に一周回って冷静になれたのもまた、僥倖。
半目になって欲望に正直なエインウルズを睨みつけ、こんなはずじゃあなかったんだけどなあと幸せが1%程度なくなる溜息を地面に落とす。
出会ってから、そしてロドスで一緒に仕事を始めてからも、頼れる背中をかっこいいと思っていたのに。今ではすっかり制御装置の立ち位置に収まってしまった。
余計な邪推をしてからかっていた同僚も、今ではすっかり肩を叩いて同情してくる始末。それでいて、彼は嫌悪されるどころか好意的に捉えるオペレーターが多いから納得がいかない。
「……触りたいんですか?」
「もちろんだ」
エフィにとって驚く事に、今まで存在しなかった器官のはずなのにどうすれば動かせるか手に取るように理解していた。ゆらゆらとふりふりと、左右上下や円を描くように大振りに揺らし、生まれた時から付き合ってきたかのように自在に操れる尻尾。これをお預けというのは……いくらエフィでも惨い事だと思った。
とは言え、好き放題触られるとどうなるか怖いのも事実。大きなソレを胸元に引き寄せ、抱くようにして目だけをエインウルズに向けて。
「しょうがないですねエインさんは…………少しだけ、ですよ?」
「……! ありがとう、エフィ! 優しくするから、な」
自分の尻尾を開放し、相棒に差し出す。今まで誰かに触られた経験は当然ないが、あのプロヴァンスが顔を赤らめていたのだからどうなってしまうのか、優しくするなんて言っているが好みの尻尾があればほいほい口説く相棒が本当にそうしてくれるか確証もない。
何があっても気をしっかり持とうと覚悟をエフィが決め――
「いやあ、ずっと気になってたんだ、エフィの髪って長いしこれもまたもふもふだよなって」
「は?」
「うわめっちゃさらっさらじゃん。手櫛でも全く抵抗なく指が滑るし」
「は?」
まさかの尻尾をスルー! なんとこの男! 世界遺産級の尻尾を無視してエフィの髪を撫ではじめたのである!!
しかも片手で掬って、もう片手で興味深そうに摘まんでしげしげと見つめている!
無駄……! エフィが決めた覚悟は……! すべて…………! 無駄!!!
「いやそこは流れ的に尻尾じゃないんですかこのばかーーー!!!」
感情の導線が一瞬で燃え尽きて内に秘めた心へ一瞬で
「…………………………」
気持ちの良い朝だった。ぱちりと目を覚まし、しげしげとアーツロッド無しにイラプションした自分の両手を見て、そのまま顔を覆った。
「な、な、な、なんて夢を見ているんですか私は…………」
清々しい朝の空気が台無しになるくらい、羞恥の感情に埋め尽くされて再起動まで十数分ほどかかった。
その日、俺の気分は最高だった。言葉巧みにエリジウムを唆し、ドーベルマン教官が開催する研修への参加名簿にサインさせて送り出したからである。
新人だらけの研修、そこにぽつんと経験者が混じっていればこれ幸いと教官はエリジウムを
これにはCASTLEー3も援護射撃を加えてくれたので、やはり持つべきものは友なのだと深く胸に刻み込まれた。
さて、こんな上質な一日の終わりはどうするか、と考えて最近気になっていた事を片付けようと思いつく。
誰に危害を加えるでもなし、一人の承諾こそ必要だが知らない仲どころかロドスでも一番に知る仲の相手。思い立ったが吉日と相手の部屋へと急ぐ。
こん、こん、こん、とノックを三回。時間的には日も暮れて夕食も食べ終わったであろう時間。けれど寝るにはまだ早い頃合い。ぎい、と扉が開いて部屋の主が顔を出した。
「エインさん……?」
「少し、いいか」
その主は俺の相棒、エフィ。こくり、と神妙に頷いて綺麗に片付けられた部屋の中へと招き入れられる。
夜に訪ねてきたのに文句の一つもなく、ベッドに座ったエフィはちらちらとこちらを見ながら、何かを待っているようだった。
「あのな、お願いがあるんだ」
「はい」
「ずっとこうしたいと思ってきてだな」
「…………」
「その、もふもふをな、させてほしいんだ」
「…………!」
しまった、言葉が足りない。失策を悟るも、通じないはずの意思が通じたかのようにエフィは首を縦に振る
「なんとなく、そんな気がしましたから……」
「お、おうそうか」
女の勘って凄い。ぼんやりとそんなことを思いながらも、解ってくれてくれているならお願いもしやすい。
ぱしんと両手を合わせ、頭を下げて口を開く。
「頼むエフィ! ちびめーちゃんを抱いてもふってもいいか!!」
これこそ俺が最近抱えていた葛藤。『ちび』とエフィは呼んでいるがその実態は結構大きく、エフィが疲れからかうとうと寝ている時に抱き枕替わりになるくらいの大きさがある。
どこからともなく現れるエフィのペット。今は亡き母親から送られたらしそれは、ロドスアイランド技術部をして首を捻る程謎に満ちており、尻尾メインの俺の目を奪わせるぐらいに立派で上質な毛並みを持ち合わせていた。
あれを抱いて寝れば、どんな疲れも綺麗さっぱり漂白されているだろうと思えてしまうもふもふな毛並み、一度味わってみたいと思っていたのだがその機会が訪れる事はなく。よろしいならば直接お願いだと今日の上向き気分のまま乗り込んだわけだ。
「………………はい?」
「いやー、実はずっと気になっててな。あれはまた違った魅力を持っているだろって」
「……………………」
「なあに、ちょっとの熱さなら俺だって我慢できる! いやまあ、エフィがちょっとお願いしてくれればいいんだが」
「………………えぇ、よおおくわかりました」
「ほんとか!?」
よし、と両手を叩いて弾む声。それぐらいには喜ばしい事であり、禁酒でどんよりした夜の時間に差す光明と言ってよかった。
エフィが身体をずらし、その後ろから黒毛の双角獣が小さく鳴きながら歩き出て
「ちびめーちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど……」
ちょっと、と言うにはやけに凛々しい顔だった。俺がもふもふするだけなのに何故、と思う間もなく、『ちびめーちゃん』は俺の足にすり寄る。そっと触れば沈み込む手、体毛に包まれて温かさがダイレクトに伝わってきて心地よい。最初はほんのり程度だった温かさが徐々に強くなって――
「ん? 強く?」
そんな疑問を言葉に出した瞬間、エフィの怒号が部屋の壁を叩いた。
「エインさんの馬鹿ーーー!!」
「なんでだ……あっちぃ!! ちょっと待てエフィなんかめっちゃ熱くなってるんだが!?」
「知りませんよ、もう!!!」
今回ばかりは、彼にも多少同情の余地があると思います。夜に淑女の部屋を訪ねることや、自分の欲求に正直過ぎたのはさておき、複雑な乙女心と“夢見が悪かった”事を見抜けというのは、酷でしょう
他のアークナイツ二次読んでて一番ショックだったのは某ロドスの備品担当スタッフも大変良いものをお持ちだと知ったものの、六章は概ね原作通りに進んだこっちとは世界線が違うのでどうあがいても手が届かない事でした。
大陸版で実装されているがこっちでは未実装のオペレーターを出したくなったのでオペレーターのネタバレ上等で出しても良いですか?
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いいよ
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どちらでも構わない
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駄目です
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結果を見たい人用