重装傭兵ロドス入り   作:まむれ

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Ep.29-平安一路-

 突然だがドクターが過去に飛行装置を使ってアカフラまで旅に行った事を覚えているだろうか。テラの奥地、移動都市と比べれば未開もいいところのジャングルに住まう民。休暇だって言って飛んでったのに帰ってきたら新顔数人ゾロゾロ連れてきて、ピカピカだった飛行装置はボロッボロってんだから面白いよな。付いていったブレイズ諸共減給処分もらってるし、良い酒が飲めたよ。

 で、だ。その数人の新顔がまた問題だった。なんせ都会のルールを知らない奥地からやってきた野生の住人だ。そこらにいる傭兵崩れの方がまだ奥ゆかしさがある程の喧嘩っ早さを持ってるもんだからしばらく医務室が盛況になったのは言うまでもなく。

 

 ちなみに一番割を食ったのは俺だろう。

 おかしいよな? ブレイズが子分作っててそいつが上下関係をはっきりさせるべく俺に強襲仕掛けてきた時はため息が止まらなかった。そいつを地面に叩き伏せたら次はLancet-2を姉様呼ばわりする奴に「兄弟子!」とか言われたからもう限界よ。なんでだよ。俺がいつLancet-2に弟子入りしたんだよ。むしろLancet-2に悩みの抜け穴を教えてあげたんだから俺が師匠だわ、敬え。

 

「ふふ、兄弟子は煙に――いや、Lancet-2姉さまも確かに恩人だと言ってたしな、師匠……はクロージャ師匠が既にいるから、あなたは兄さまと言ったところか」

 

 それは違うから決して人前で言うなよ。頼むから。

 どうしてそうなったんだろうな、疲れたと言って訓練場の床で寝転ぶユーネクテスの尾を磨くように触りながらそんな事を思った。

 見た目からは想像し難いすべすべの手触り、ザウラと違って弾力のある柔らかさ、これはこれで夏場の抱き尻尾に向いているのではなかろうか。俺はクランタとかヴァルポとか、そっちのもふもふっとしてる方が好みなんだが手触りという一点に限ってはフィディアの尾は素晴らしい、こればかりは認めざるを得ないだろう。

 

 


 

Ep.29-平安一路-

 


 

 

「それでユーネクテスさんを口車に乗せて尻尾を触ったんですか?」

 

 口車に乗せたなんてとんでもない。むしろLancet-2直々に恩人だって説明してもらったんだ。

 そう弁明してもソファに座るエフィは納得してくれない。キャプリニーってのは服に収まらない程の尻尾を持たないから中々理解できないかもしれないが、基本的に尻尾を露出させている種族ってのは合意さえ取り付ければいくら触っても問題ないのだ。

 そりゃあな、ちょっとマッサージみたいな触り方したら他人に誤解されるワンシーンが出来上がるのは当然だろうが、大事なのは合意の上で触ってることだ。俺が今までに一度でも無断で尻尾を触ったことがあったか? そもそもユーネクテスなんか付け根まで開けっ広げにしてるもんだから逆に注意したわ。

 首を傾けてエフィに問いかけてみれば、難し気に眉を顰めて頷いた。

 

「それは、そうですけど……」

「まあそうだろ? ただ俺に唯一の誤解があるとすればそのあとにトチ狂ったヤツが「エインウルズ兄さま」とか呼び出したことだ」

 

 きっとアカフラでは何も考えず好きなことだけをしてきた弊害だろう、訓練場でそれはやめろって言った数時間もしないうちに食堂で呼んだんだぞ? 「Lancet-2姉さまが恩を持つあなたを兄さまと呼ぶのは当然のこと」って何がなんだかわからなかった。ここはロドスアイランドってとこであってアカフラじゃねえんだぞ。メイリィのポカのせいで俺は名誉を汚されたのに、この上ジャングルの泥まで塗りたくられるって、そんなことあっちゃダメだろ。

 

 エフィは相も変わらず悩んでいるようだった。杖の先から出した炎のアーツを器用に操り、○だったり×だったり△だったりと記号を作っている。あれが×で止まった時が俺の命日になるのだろうかと思うと気が気でない。

 

「で、でも、女性の身体にそんな気軽に触るのっていけないことだと思うんですよ私は」

 

 ×印から川の流水のように伸びだした炎がちろちろと俺の首元を撫でる。

 最初は大人しい子だったんだけどな、いつの間にか元気が有り余る育ちざかりの少女になれたようで。さりげなく行っているアーツ操作も、もはや達人の域にまで到達している。これだけ近いのに炎の熱さを全く感じないのもヤバい。『炎』という現象にはありえない程の低温、常識を捻じ曲げていると言ってもいい。

 こういうの見るとね、俺もエフィに負けてられないなって思うわけよ。

 

「えへへ、沢山練習しましたからね!」

「ああうんそうだな。出来ればその成果を俺に向けて発表するのは止めてほしいんだが」

 

 そう頼み込めば渋々と杖を振り、俺の周りを流れていた炎が霧散する。エフィはきちんとしているので真っ黒の時しか説教は飛んでこない。難点はその線引きがエフィの価値観によるので俺の基準でやると飛び越えてしまうことか。

 

「ところで、怪我はもう大丈夫なんですか?」

 

 怪我? と今度は俺が首を傾け、ややあってあの事かと記憶を引き出すことに成功する。

 俺たちはすれ違い続ける生物であるからして、形式上はブレイズ小隊に名を連ねている俺は訓練中、不幸にも黒塗りの作業プラットフォームに体当たりを貰ってしまったのである。

 ちょっと前にポンコツとか量産してバッドガイ号から大量に落としてやろうとか言ったのが拙かった。高さ160cm程度の鉄塊が爆発の衝撃を後ろに回して飛んでくるなんて可能性を欠片も考えちゃいなかった俺は、横から突入してきた兵器のおかげでエグイ吹っ飛び方をしたらしい。

 

 らしいと言うのはブレイズの声に反応して咄嗟に盾を割り込ませる事が出来たところで記憶が飛んでいるからだ。くそっ、そりゃあ「悔しかったらいつでも性能発揮してみろ」とは言ったけど誰が流星になれつったよ。お礼に発煙弾を全て抜いて破棄しといた。

 ともかく、そんなことがあって訓練は一時中断されて意識を失った俺は医務室に運ばれ、改造を施した犯人二名は顛末書の作成を余儀なくされ、ThermalーEXとは和解した。なんだよ、結構出来るやつじゃねーかと。

 

「わ、わかりません……何がどうしてそうなったんですか?」

 

 俺の周りの傭兵とかはそうだったんだけどな、基本やられる奴がわりぃんだ。命を奪うまではやらねぇ代わりに強い勢いで小突かれたり頭からビールを浴びせられて酒のつまみにされたりな。「命があってよかったな」って煽り散らすまでがセットなんだ。ましてや今回は俺自身が挑発した身であるかして、それなのにいざやられたらふざけんなってのは道理が通らねえだろ。あいつは実力を示した、俺は報復行為をした、ほら解決だ。

 エフィには中々わからないだろうけど、男ってのは拳を交えて解りあう事もあるんだ。ぺらぺらと頭を使って言葉を振りかざすよりは肩の先についてる手を握り締めて口と脳を直結させて吐き出した方が早い事もある。あいつは拳ないから身体ごと飛んできたけどな。

 

「でもエインさんは口を回す方が得意ですよね?」

 

 酷い風評被害だった。俺はわかってますよと頷くエフィにしっかりと言い聞かせる。

 あのな、早い事もあるってだけでまずは対話が大事なんだよ。戦った方が早いけど後始末が大変だろ? 医療チームのお世話になるのもそうだし、ボコボコにした訓練場を直す整備課の苦労だってある。翻って、会話でお互い納得出来たらどうだ? お互い怪我もしなければ備品を壊すこともないし他人に後片付けを手伝ってもらうこともない、やっぱ言葉なんだよ。俺たちは言葉を交わすことで文明を築き成長させて――

 

「ほら、そうやって喋るじゃないですか」

 

 それを言われたら俺は口を閉ざすしかない。しかし喋れないよりは喋れるほうがマシなのは確かだ。

 

「私、最近少し危機感を持っているんですよ?」

「……危機感?」

「そうです! このままではエインさんがいずれセクハラでロドスからいなくなってしまうんじゃないかって」

「酷い風評被害だろ!」

 

 二回目は流石に声を張り上げて無罪を主張する。おまけに変わって消えたはずの話がまた戻ってきた。

 傭兵は引き際を弁えるのが大事な職種、そんな不名誉な退艦理由でいなくなる事は断じてありえないと言える程度に立ちまわっているつもりだ。

 いや、まあ、そのなんだ。ロドスは人材が豊富だからな、ちょっとばかし魅力的な奴が多いのは認めよう。しかして俺は歴戦を自負する傭兵、死線は超えていないはず。

 

「最初の面倒見が良いお兄さんだったエインさんはどこへ行ってしまったんでしょう……」

「幻覚、だったんじゃないか?」

「本当に幻覚だったなら私はこうやって流暢に会話していませんよね?」

「そりゃあ相対しているからな」

「そういう意味じゃないんですけど」

 

 じゃあどういう意味だ、と言いかけてなんとか言葉を飲み込む。

 

「私にも尻尾があればエインさんを満足させられたはずなんです」

「……ごめん、後遺症か知らねえけど耳が悪くてさ、なんだって?」

私にも尻尾があれば――

「オーケイわかった、それ以上は言わなくていい」

 

 ……もしかしなくても、エフィは嫉妬しているのだろうか。最近は機会があってオペレーター達の尻尾に触れる事が多くなっていたからな。プロヴァンスやレッド、ユーネクテスに他のオペレーターをもふっとした記憶は新しい。「わ、私の尻尾も触ってください!」なんて初々しい子もいた。

 ただなあ、男は手入れを怠ってる事が多いからそこから指導しなきゃいけねえんだよな。プロヴァンスとペアで男どもを集めて講習会を開いたこともある。

 そちらにかまけて相棒と過ごす時間を疎かにしてしまったのは言い訳出来ない。この間ちびめーちゃんに焼かれかけたのもわからなくもないな。

 

「悪かったって、次に接舷した時はぱーっと遊びに行こうぜ」

「それで毎回毎回傭兵さん達に挨拶周りするから本当に遊ぶ時間は減ってるんですけどね」

「ドクター達に掛け合って二日」

「……」

「三日、三日な、貰ってやるから」

「……いいですよ、約束ですからね?」

 

 無言の圧力程怖いものはない。確か、とロドスの航路を頭の中で反芻し、次の都市がどこだったか思い出す。

 クルビアのとある移動都市、あのレイジアン工業が居を構えるところと言えばその規模も想像出来るだろう。

 なんにせよ、溜め込んだ金を吐き出す場所としては申し分ないわけで。現地でどうやってエフィの機嫌を取るか今のうちから考えることにした。

 

 

 

 

 

 

大陸版で実装されているがこっちでは未実装のオペレーターを出したくなったのでオペレーターのネタバレ上等で出しても良いですか?

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  • どちらでも構わない
  • 駄目です
  • 結果を見たい人用

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