重装傭兵ロドス入り   作:まむれ

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一章-龍門近衛局奪還作戦-
Ep.06-壊闘乱麻-


 いくら感染のための防護品を用意していようとロドスの任務は常に危険が付き纏う。感染者のみのチームで戦うならばともかく、健常者が混じっていれば加減を間違えた場合とても危険だ。身も蓋もないことを言えば、どちらの場合も『間違った』後の始末が大変であることを考えれば、力を抜く等ということは出来ない。

 

「ま、おめーは良くやれてるよ」

「はは、まあ給金はいいからなぁ!」

 

 昼間から飲む酒は最高である。ロドスアイランド基地地下四階、自分と同じくここに残った傭兵仲間と休日にかこつけて酒を煽ぐ。店員担当がめんどくさそうにこちらを見ているが、アルコールの入った傭兵に申し訳程度の意思表示など子供が作った雪玉以下の火力だろう。

 

「俺はよー、感染者だのなんだのなんて気にしてねーと思ってたんだぜ?」

「俺だってそうさ」

「いーや、こっちはそうじゃなかったって話なんだよこりゃーよー」

「おいおいやめとけやめとけ」

 

 空になったジョッキが丸いテーブルへと叩きつけられて鈍い音がする。ちらりと見れば紅潮した顔の傭兵仲間は、辛気臭い顔で地面へと視線を落としていた。

 彼の言わんとすることを察し、軽い声で制す。その内容はロドスという組織に属する者としてはよろしくないであろうことは想像がつく。ましてや、加入して一月も経っていない身である。それを言えば今後、任務中の連携に支障が出るばかりか基地内での扱いが如何様になるかもわからない。

 口を慎むべき事だからこそ、それに反して軽い声色で制したのだが──

 

「ふと脳裏に過ぎるんだよ、ここで感染者を間違えて殺したら俺も感染者に(そう)なっちゃうんじゃねーかって」

「やめとけっつったろうが」

「いいや言うね! だから自分が恥ずかしいんだ! チーム組んでる奴は俺を信頼してくれてるっつーのに!」

 

 酔った勢いだろう、油を挿したかのように滑る彼の自虐を当分の間聞くハメになる。このような時の酒は大体味が三割程落ちるから勘弁してほしいのだが。

 

「──ってわけよ! その点おめぇは嬢ちゃんとよくやってる」

「はいはい……あ、店員さんすみませんね、酒二つ。お任せで」

「おめー、自分が変わった事に気付いてるか?」

 

 お互いのグラスの中身を見ながら、手を挙げて追加の注文を飛ばす。飲んでいる時に酒を切らした場合、次に出てくるまでが長く感じるので切らしてはいけない。そんな配慮をしていれば、神妙な顔で笑いながら傭兵仲間が俺を見ていた。

 はて、と首を傾ける。何か変わった事はあっただろうか、ここに来る前とそれまでと比べての変化など、感染者への見方くらいだろう。それを伝えれば、おかしそうに彼は笑った。

 

「そりゃあ面白れー! いいね!」

「前と変わらねぇだろ?」

「いやいや、おめー、昔よりずっと声が大きくなってるぞ? 正直、うるさいくらいだ」

「えぇ……」

 

 こちらを罵倒しているにも関わらず弾んだ声と楽しそうな顔。しかし、その顔は何か眩しそうに眼を細めていた。

 

「エイヤ嬢のためだろ? 耳が悪いからって、それで声を大きくして話してる」

「はぁ?」

「金だけを信用出来ないおめーの悪い癖だ。傭兵としちゃ落第点だろーが人間で言えば満点だな」

「花丸は貰えないのか?」

「傭兵にならなかったらもらえたろーな」

 

 お互いに言葉を投げ合って、酒を仰ぐ。傭兵という存在はいつどこでどのように死ぬかもわからないからこそ、今だけを見て生きる。下らない言葉の応酬も、あそこで言い返せば良かったと後悔しないために遠慮がない。

 更に言えば、傭兵は賞金稼ぎとは違ったベクトルでお金で生きる。依頼金の額は危険性で、それと自分の実力を鑑みて受注するかどうかを決める。一度受ければ死ぬかどうかの瀬戸際まで完遂しようと努力するし、失敗した場合も出来るだけのケアはする。

 アルコールの摂取で酔った傭兵は、羨ましいと言った。護送依頼の時点で、エイヤフィヤトラに構う必要性は一切なかった。怪我さえ負わなければ、ロドスまで運んで終わりなだけで、最低限の世話だけしていればそれで良かった。けれど、お前は不自由を感じないように出来るだけの配慮をしていた。事前に感染者だと知らされてなお、そこまでしていたのが羨ましいと。

 

「おめー、嬢ちゃんを大事にしろよ?」

「御守りくらいきちんとやって見せるさ、もし悩んでもここには頼れる人間が沢山いるしな」

「ちげーねー」

 

 ゲラゲラと笑って、お互いのグラスを割れんばかりに衝突させる。こうやって朝から酒の席を共にするからには、それ程気の合う相手なのだ。そんな奴からの言葉はきちんと胸に刻み込むのが、同じ傭兵として出来る限りの礼儀だろう。

 

 数日後、龍門へ向かうメンバーへと選ばれたそいつは、レユニオンの凶弾から仲間を庇って死んだ。周りを囲まれ、脱出出来るかどうかの瀬戸際だったから遺体の回収も出来なかった。「今おめーが死ぬと他の奴にも感染の危険があるし龍門の上層部にだって何か言われるかもしれねー、それだけだ」なんて言葉を誰も信じるわけがなく、庇われた奴はその場面を泣きながら伝えてくれた。

 だから肩を叩いて明るい声でそいつに言ってやった。──また一つ、墓地に刻まれる名前が増えただけさ。

 

 

 

 


 

Ep.06-壊闘乱麻-

 


 

 それから数日後、オペレーターに支給された端末から管理者権限を用いて呼び出された。極秘任務、もしくはそれに準ずる連絡事項が発生し、第二ブリーフィングルームへ来いとの事。

 前に立つのはアーミヤとはまた違った形でロドスの頂点に立つケルシー。これから、そんな人物が直々に伝える任務の重要性を覚悟し唾を飲んだ。

 

「作戦を説明しよう。君に来てもらったのは、ドクターと深く交流していないからだ」

 

 重々しく口を開くケルシーだが、その切り口はとても不可解なものだった。とん、と指揮棒でホワイトボードを叩くと、プロジェクターからとある場所の地図が表示された。しかし、その地図は大部分が赤く染まっており、青い部分は一部しかない。その地図に、見覚えがあった

 

「これが現在の龍門の状態だ」

 

 予想通りの場所、だがこれはいったい……と息を飲む。

 

「数日前、我々はチェルノボーグから分離したと思われる移動都市の廃墟を見つけ、そこに偵察隊を放った。そこには数を数えるのも億劫な程のレユニオンが存在しており、龍門付近に存在するという観点と偵察隊が危機に陥っている事からこれを攻略しようとアーミヤとドクターを派遣した。だが、奥深くで敵の精鋭部隊と交戦、生死不明の間にレユニオンの別動隊が龍門を電撃的に襲撃、攻略してしまった。感染者を厳しく隔離していた龍門はもはや存在せず、暴徒とレユニオンが暴れまわる都市へと変わった」

 

 廃墟に関する情報は知っていたが、龍門に関する事は知らなかった。つまるところ、あの廃墟は陽動で本命はこちらだったのだろう。レユニオンが一枚上手だったわけだ。

 

「さて、この大事な時に住処を留守にしていた龍がいるわけだが、君にはその龍に協力して貰いたい。ドクターやアーミヤを見捨てたと宣う龍──彼女の名前はチェン、龍門近衛局特別警察隊隊長、チェン警司だ。正直言って、本当の事ならば業腹モノであるが龍門との約束がある手前同じことをやり返すわけにもいかん」

 

 がんがんとホワイトボードを叩いて苛立ちを表すケルシー。なるほど、と呼ばれた理由に得心がいった。自分は確かにロドス加入で一月経っていない。類いまれなる指揮能力と人を惹き付けるカリスマに合わせて伝え聞く功績から、組織内部で彼を慕わない者はほとんどいない。そのような存在を敵の陣地内へ置き去りにしたばかりか、龍門を奪取された挙句に部下を損耗させて数時間意識不明(のんびり寝ていた)彼女に何のしがらみも感じず協力できる存在がどれだけいるか、である。

 

「よって、君にはチェン警司指揮下に入ってもらい、ドクター達が戻ってくるまでに龍門の状況をある程度改善してほしい。」

 

 

 

Date:Unknown 09:13 AM

Lok Tai Chau,Lungmen Harbor Weather:Drizzle.

Operation:Chasm

 

 

「ロドスからの協力はたった一人と言えど嬉しいが、貴様が姿を現した時は私も驚いた」

「ああ俺も、まさか会社勤め一ヶ月目で因縁の相手と肩を並べる事になるとは思わなかったよ」

「そんな奴でも頼らないと手が足りんのが龍門の、そして私の現状だよ。笑うか?」

「今の俺の置かれた状況の方が笑えるだろ」

「ご愁傷さまです、「コードネームはエインウルズだ」……エインウルズ」

 

 無理難題をおしつけられてから一時間も空けず、二刀を構えて部下を整列させる女と、巨大な三角形の盾を持ったオニ族の女性の元に到着する。

 世話しなく動く俺に話しかけてくる職員もいたが、うんざりした顔で「貧乏くじを引いた」と言えば合掌か十字を切られるか、とにかく放っておいてくれた。

 会話の通り、この二人とは面識がある。と言っても、ラブロマンス溢れるようなものではなく鉄と独房の素晴らしき臭気を漂わせたものだが。

 

「とにかくロドスからは俺だけが出ることになった。このままあんたの指揮下に入る」

「盾はホシグマがいるが……今は貴様程度の手も借りたいくらいなんで遠慮なく使わせてもらう」

「あなたの堅さは私も知っています、よろしく」

「ホシグマさん、よろしく頼むよ」

「私に挨拶は無しか」

「豚箱に突っ込んだ奴へ挨拶なんざしたかないね」

 

 とまあお察しの通り、龍門でちょっとした問題を起こした俺は警察から追われることになり、数日逃げ続けたらいよいよ近衛局直々に捕まえに来たのでそのまま御用となった。ちょっと追われてる間に実力の低い警察組織を煽りに煽っただけで住民や器物に被害は与えなかったのに、どうしてだろうか。

 ふと、違和感に気付く。てっきりチェンは俺を見ているのかと思ったが、その後ろ。肩の向こう側からやや下方向へと目線を向けている。

 

「先ほどロドスからは貴様だけと言ったが……その後ろの少女は何だ?」

「……は?」

 

 ケルシー(女狐)が珍しく気でも利かせたのかと思い、後ろを振り向き──

 

「なんで来たんだ」

「エインさんが貧乏くじ引いたなんて周囲に言ってるのを見ちゃいまして」

 

 ロドスで事実上のパートナーであるエイヤフィヤトラがそこに佇んでいた。良く追ってこれたなと嫌味混じりに言えば、体温が見えたからその後ろをずっと走って来たと恐ろしい事を言うし、オマケに用意は最低限しかしてないなんて言うのだから口から「帰れ」と言葉が出てくるのは仕方がない。

 龍門へ出撃する前に、まずエイヤフィヤトラを説得するという任務を完遂しなければならなくなった。

 

 




補足:何故エイヤフィヤトラが追ってこれたのか
最初はロドス基地が龍門から離れたところに待機してたかなと思っていたのですが、5-1の戦闘後シナリオを見てるとハッキリ「龍門接舷区 落蹄州 ロドス七号船室」と書いてあってビックリしました。
移動都市は各区域をバラバラにしたり適当に接合したりするので、つまりそのための場所にロドスくっつけたって事なんですね、たまげたなあ(ストーリー流し読みしてた勢)
なのでエフィが追って来れたわけですね

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