「今までの任務は訓練みたいなもんで今日は実践なんだ、エイヤフィヤトラは経験が足りない」
「実戦経験はいつか必要ですよ? それが今日ってだけじゃないですか」
「あのなぁ……今回のは中等部の子供が大学の実験をするってくらい無謀なんだよ」
「それだったら私は適任です! なんてったって飛び級で大学に行きましたから!」
なんとかロドスに返そうとする俺とあの手この手でこちらを言いくるめようとするエイヤフィヤトラ。お互いが全く譲らず、結果としてチェンやホシグマさん達を少しばかり待たせることになった。
「ロドスに来る途中の戦闘とは訳が違う、自分の意思で、故意に人間を殺す事になる。お前を子供扱いしてる訳じゃない、対等な仲間だと考えているからこそ、ここで潰れてほしくないんだ」
「対等な仲間だと考えてくれるなら、素直に『力を貸してくれ』って言うべきじゃないですか?」
「馬鹿言え、相手は暴徒じゃない。幹部に統率された、軍隊みたいなもんが相手なのに言えるか」
「尚更です」
「強大な敵と当たれば、強力なアーツを使わせてしまう。鉱石病が、悪化する……」
「……それで、仲間を守れるならばやります」
情に訴えようと危険性を訴えようとしても駄目、両肩に手をかけて少ししゃがみこんで顔を寄せ、目を逸らさないようにして鉱石病を持ち出しても、強い意思を表すかのように目を合わせてきて退いてくれない。
「すまないが我々には時間がない。エイヤフィヤトラ、だったか。私とコイツの指示を聞くならば同行を許可する」
「おいてめぇ」
いよいよ痺れを切らしたのか、会話の外側からチェンが割り込んできた。その内容は自分にとって許せるものではなく、エイヤフィヤトラの肩を掴んでいた手を離して掴みかかる。しかし、チェンはその抗議を意に介さないかのように振り払い、麾下の部隊へと出発の令を飛ばしていた。
「すみませんエインエルズ、しかし隊長の言う通りなのです」
「そりゃあ解ってるがよ……」
「それに、貴方にとっても悪い話ではないはずです。勝手に後ろからこそこそついて来られて敵に襲われるより、きちんと連れて行って自分で守ってやればいい」
確かにホシグマさんの言うことには一理ある。これだけ頑固なエイヤフィヤトラを、説得もそこそこに放置していったらそれこそ最後尾に並んで歩いてきてもおかしくない。その存在に気を取られ、部隊の歩調が乱れて余計な被害が増えてしまう事だってあり得る。
要するに、ついて来られた時点でどうしようもなかった。時間もなければ説得材料もない、チェンに協力しろと命令された以上ここで言い争って不興を買うのもよくはない。
本当に仕方がない、と息を吸ってそのまま見せつけるように長く吐き出す。
「さっきの女な、チェンって言うんだがあいつと、特に俺の指示に絶対従えよ」
「はい、もちろんです!」
「俺を見捨てて逃げろと言えば必ず逃げろよ?」
「逃げてまた戻ります」
「頓知を利かせる必要はないんだが??」
ともあれ、なし崩し的にではあるがエイヤフィヤトラを連れながら龍門へと足を踏み入れることになった。少数精鋭、五十人前後の規模で会敵を避けながら侵攻するので周囲の警戒や足音への配慮でガリガリと体力が削られるが、どうにか道を進んでいく。
特筆すべきはエイヤフィヤトラの能力だろう。少し壁から顔を覗かせるだけで、遮蔽物へ完全に隠れていない限りは敵が頭や手を出しているだけで存在を感知する。健常者では出来ない芸当により、迂回か撃破をスムーズに行う事が出来た。それによって瞬く間に進行した俺達は、かくしてある部分で足を止める事になる。
「ここは……倉庫か?」
「ああ、我々の仲間がここにいる」
「そして情報も」
固く握られた武器、チェンはともかくホシグマさんもどこか焦っているようだった。しかし、コンテナや建材等が意図的に動かされたような跡をそこかしこに見受けられる場所に仲間とは……十中八九救出に来た仲間を嵌めるための罠だろう。
それは二人も解っているらしく、ホシグマさんが先行して突入し、炙りだされたレユニオンを俺達が包囲撃破する作戦が立てられた。
何人いるかもわからず、雑兵だけとは限らない危険な賭けだが、強固に反対するチェンをそれでも構わないと説き伏せ、ホシグマさんは建材を吹き飛ばして突入していった。
「三分後に我々も動く。各員、しくじるなよ」
「≪了解!≫」
視界の先にはホシグマさんの暴れる音と姿が、映画のように映し出されている。仲間を守るために盾を扱うタイプにありながら、それを攻撃にも転用してレユニオンを蹂躙していくその姿。それでも次々と現れる雑兵、時には術師がコンテナを吹き飛ばして質量攻撃を放ち、その隙を遮二無二突っ込んでくるレユニオンが掴み取ろうとする。
しかし飛んできたコンテナを片手で持った盾で逸らしたかと思うと、突っ込んできたレユニオンの首を狙い定めたかのように掴み、地面へ盛大に叩きつける。
一瞬、レユニオンの攻勢が止まる。あの馬鹿デカい三角盾を片手で扱うのはまだ良いとして、それでコンテナを弾くなんて人外染みた力を見せつけられれば、怯むのもわかる。だが生き残りたければその間にも攻撃するべきだった。一瞬と言えど止まった敵、その致命的な隙を見逃す程優しい存在ではない。
「まさに、鬼人ってやつだなぁ」
「エインさんと同じ重装オペレーターの分類ですよね……?」
「ホシグマさんと一緒にするのはやめてくれ……ありゃ埒外の存在だよ、チェン共々な」
視力と聴力の悪いエイヤフィヤトラには何が起きてるか詳しくはわからないだろうと戦況を解説しているが、疑わし気な表情をしている。
時折戦意喪失し、逃げ出すレユニオンもいるが包囲下にある以上ロクな連携も取れず隠れる事もしないレユニオンが突破する事など出来るわけなく、次々と捕縛されていく。
こちらが一人取り押さえる間に、ホシグマさんは高く積まれたコンテナの上部に陣取る敵術師をコンテナごと薙ぎ倒し、そうでなくとも敵が潜んでいそうだと感じたのか小さなコンテナを盾で両断する。勘は当たりだったのか、肩付近から綺麗に二等分された構成員の赤に染まった服がちらりと見えた。
「エイヤフィヤトラの眼が悪くて良かったなこりゃ」
「……何か言いましたか?」
「いやなにも」
視力が悪くとも温度を感知するエイヤフィヤトラには、コンテナの影に半分が隠れているからあの無惨な死体は確認出来ないだろう。死体に慣れる必要はあるが、だからと言って惨いものを積極的に見せようとは思わない。
やがて戦闘音が散発的になり、インカムから作戦終了の伝達が流れてきた。つまり、ホシグマさんは宣言通り三分以内に倉庫外の安全を確保した訳だ。
「こっちもクリアだ。行くぞエイヤフィヤトラ」
「ずっとその呼び方ですよねエインさん。いい加減エフィって呼んだっていいじゃないですか」
「わかったよ。エフィ、これでいいか?」
「え……よ、呼ばない事に関してはD32鋼より固かったエインさんがこんなあっさり!? なんでですか……!」
「掃除してない台所の汚れより頑固ってわけじゃねえぞ俺は」
すんなりと呼ばれた事にエフィは杖を落としかけ、まるで別次元でも見ているかのような声を出す。ついでに言うならば、そこまで頑なになっていた訳ではない。あの頃は一定の距離を保つ必要があったからそうしていただけで、その理由がなくなった今はもう拘らなくて良くなったから言われた通り呼んだだけである。
「作戦中はフルネームだと言いづらいってお前も言ってただろうが……」
「今日もここに来るまではずっとフルネームでしたよね?」
「ここからはもう状況が違う。あんなお祭り戦闘したんだ、こっからは敵さんも警戒もより強化するはずだ」
特に、高々と打ち上げられたコンテナとそれの落下音はどこまで伝わったのかわかったものではない。中心部に近付いている以上ここらへんが隠密行動の限界だった。それにしては少々派手にやりすぎだとは思わなくもないが、ここに派遣される敵が少しでも増えてくれれば遊兵化して後が多少楽になる。
綺麗な直方体や立方体だった頃の面影をすっかりなくしたコンテナ群と、力任せに割られてギザギザした断面図を晒す木材を避けつつ、局員と合流する。
倉庫内にはホシグマさんとチェンが入り、他の人員は周囲の警戒。仲間と情報が倉庫内にあって、そこにはレユニオンの罠があった。その仲間が生存している可能性は絶望的、それでもここにきた。チェンの事はいけ好かない奴だと思っているが、その仲間までも嫌っているわけではない。
「無事だと良いのですけど……」
「そうだな」
ホシグマさんが鉄製の扉を咆哮と共にひしゃげさせて中へと入っていく。少し経ってから、チェンが先に出てくる。部隊の集合と目的地の更新、仲間から受け取った情報を無駄にはしまいと考えているのか、声には力が込められていた。
それから一分程後に、血塗れの男に肩を貸しながらホシグマさんが歩いてきた。生来の友人と話すように、戦場には合わない程の穏やかな声で会話をしながら。医師が回復術をかけているが、それでも一向に良くはならない。
「これより情報提供された地点へ向かう」
「……了解」
見えているのはホシグマさんと、担がれた仲間の背中。どんな表情をしているかはわからず、仲間を慮って足取りはとてもゆっくりだ。
その前をチェンと数人が警戒のために先行し、残りが二人の後ろに隊列を為す。もちろん歩く速度を二人に合わせて。やがてホシグマさんが立ち止まり、連動して少し部隊が止まった後、進軍速度は元に戻った。