正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
人類の科学技術の進歩は近年、特に目覚ましいものがある。
だが、新たな発見や技術は人々の生活の向上に真っ先に結びつくものではない。
何しろこの大海賊時代──求められるのは戦うための兵器だ。
ゆえに世界政府は優れた科学技術を持つ科学者を捕らえ、海賊や革命軍と戦うための兵器開発を行わせた。
その兵器開発を行っている部署が海軍科学班であり、そのトップに立つ男が“世界最大の頭脳を持つ男”──Dr.ベガパンクである。
その科学力は500年先の未来に到達する域にあると言われている天才科学者。
生物の血統因子の発見に始まり、海楼石を利用した発明、人工生物、あの悪魔の実の伝達条件の解明や、物に悪魔の実を食べさせる技術も全てベガパンクの研究成果によるものである。
これにより海軍の海賊の討伐、捕縛に多大な貢献をしているが……その画期的な発明の数々を利用しようとする者は多く、必ずしも政府にとって有益な成果を得るとは限らない。実験の失敗による犠牲や、技術の流出なども起こっている。
その昔、科学班にいたとある男によって強化された悪の軍隊“ジェルマ66”。1年前には科学班のNo.2であった男による実験失敗によって1つの島が丸々滅んでしまう事件もあった。
前者は世界政府加盟国であるため政府の明確な敵という訳ではないため、今なおその科学技術を駆使して戦争屋としての地位を確立している。
そして後者もまた、とある男によって利用されようとしていた。
何しろその科学班No.2であった科学者は危険な兵器開発に長けており、人格も非道であった。当然、島1つを滅ぼして捕まった後もその能力でまんまと逃げおおせ、姿を隠すために敢えてその汚染物質で埋め尽くされた島に舞い戻り、そこにいた実験用の囚人達を騙しつつ、再び研究を始めようとしたのだ。
だが研究には金がいる。後ろ盾もいる。研究そのものに金がかかるのは勿論のこと、その研究によって生み出される成果を誰かに買い取って貰わねばならない。
そして研究がより危険で旨味の多いものであればあるほど、狙われる可能性も高くなるが、海軍を頼る訳にもいかない。
だがそこでその2つを買って出た男がいたのだ。それこそが──
「──フッフッフッ……!! シーザー・クラウンだな……!!」
「!!」
「そう怯えるな……お前にいい話を持ってきた……!! おれがお前の後ろ盾となり、そしてお前の研究によって生み出される兵器の数々……それらをおれが仲介して取引してやる!!
それこそが王下七武海の1人“天夜叉”ドンキホーテ・ドフラミンゴである。
彼は七武海としての地位と世界政府加盟国であるドレスローザ国王としての地位を利用し、新世界の裏社会で最も信頼ある
彼のビジネスは多くの海賊や国家、世界政府にまで及んでおり、強い影響力を持つ。世界政府すら動かせる力を持つドフラミンゴは後ろ盾にもうってつけであった。
そしてドフラミンゴにとっても、多くの金を生み出す存在として科学者、シーザー・クラウンは価値があった。
ドフラミンゴの取り引き相手の中で最も巨大な存在、それを怒らせず、喜ばせることが出来る材料をシーザーは持ち合わせていたのだ。
「──先程実験してみせた毒ガスを始めとした兵器群に加え……これを食えば戦闘員の強化が叶う……!!」
『シュロロロロ!! そうだ!! これこそおれ様の天才的な発明品!! 食べればランダムで動物の力が手に入る人造悪魔の実──“
その取引先の本拠地でドフラミンゴとシーザーは相手に向かってプレゼンを行っていた。ドフラミンゴは目の前で、シーザーは映像電伝虫の中でその相手を前にその発明品の凄さを伝える。
ドフラミンゴの手にあるのは果皮の模様が円形のリンゴにも似た果物。悪魔の実に似ているが、それはまさしく悪魔の実なのだ。ただし──人造の。
そう、シーザーの作った発明品とはこの人造悪魔の実“SMILE”。
ベガパンクの発見した血統因子の応用を成功させて生み出した画期的な発明品である──が、それは口にせず、シーザーはその果実の凄さを仰々しく語る。
『能力が宿る確率は10分の1で、副作用として怒りや悲しみといった感情が失われ、笑うことしか出来なくなるが……それでも得る力は絶大!! しかも幾らでも生み出せる!!』
「フッフッフッ!! そう、これがあれば全て能力者の最強の海賊団を作ることだって夢じゃねェ……!!!」
「…………おおう」
ドフラミンゴも悪どい笑みでウリ文句を口にする──が、相手からの返事は空返事……フラフラで話を聞いているのか怪しいものだった。
「……どうだ? この取り引きは──」
「──うおおおおおおおお~~~~~~ん!!! なんであのバカ娘は帰ってこねェんだよォ~~~~~!!!」
「…………(泣き上戸か……面倒な)」
鬼ヶ島の屋敷。その拝殿でドフラミンゴは目の前から飛び散る涙の雨を内心、鬱陶しそうに微動だにせずに受け止めた。
だが表情には出さない。目の前にいるのは“四皇”の中で最も危険な男、最強生物と称される百獣海賊団総督──“百獣のカイドウ“なのだ。
「今日は楽しい金色神楽だってのに……!! あのバカ娘……よりによって白ひげのジジイのところに行きやがって……!!」
「…………」
「しかも白ひげのジジイまで庇いやがって……おいぬえェ!! おれァどうすりゃあいいんだよ、うおおおおお~~~ん!!」
そしてもう1人──同じく怒らせてはいけない最恐の妖獣が泣きじゃくるカイドウの隣で酒を呷っていた。
明らかに不機嫌そうな顔を浮かべるその少女は百獣海賊団副総督──“妖獣のぬえ”。
四皇カイドウの兄姉分であり、こちらもどうやら酷く酔っ払っていた。カイドウの呼びかけにぬえは鬱陶しそうに返す。
「ぬええええええ~~~~ん!!! ぬえええええええ~~~~ん!!!」
「ッ……!! うっさい馬鹿カイドウ!!! こっちは考え事してんだから大きい声出すんじゃないわよ!!!」
「うおおおおお~~~ん!!! なんて酷ェこと言うんだ……!! どいつもこいつも……!! おれの味方はどこにもいねェってのか……!!?」
「うるさいなぁ……愚痴ならほら、そこにミンゴとシーザーいるから聞いてもらったら?」
「!?」
『!?』
ぬえが目の前のドフラミンゴと映像電伝虫に映るシーザーを指して告げると、名指しされた2人はビクッと身体を跳ねさせ表情を硬くした。
「そうだな……よし……お前ら、聞いてくれるよな?」
『え……あ、ああ!! 勿論だとも!! (話が通じねェ……が、ここは頷いておかねェとマズそうだ……!!)』
「……聞かねェ筈がねェだろう? (……まあいい……取り引きの話は機嫌の良い時にした方がいいからな)」
カイドウの圧の籠もった問いかけに画面越しのシーザーも直接対面しているドフラミンゴも頷く他ない。
機嫌を損ねれば取り引きなどすぐに水の泡だ。それは文字通り、海に沈められてしまうことだってありえる。
なら話すだけ話させて機嫌を良くしてもらった方がいいし、貴重な情報だって得られる。
ゆえにシーザーは緊張したが、ドフラミンゴは落ち着いて聞く態勢を取った。カイドウが涙を流しながら話し始める。
「おう……それがな……少し前のことなんだが──ウチの娘が家出しやがってよ……!!」
──それはここ1年の話だった。
“火拳のエース”率いるスペード海賊団がワノ国から出航し、白ひげのナワバリに入った。
それは無謀なルーキーの性なのか、自殺行為に等しい馬鹿な行動ではあるが、この海ではさほど珍しいことでもなく気にするほどのことでもない。
──そこに自分の娘がいなければ。
「おれの首を取りてェってのはどいつだ? 望み通り、おれが相手してやろう……!!」
大海賊“白ひげ”エドワード・ニューゲート。
かつて海賊王ゴールド・ロジャーと幾度と死闘を繰り広げ、この海で最も“
「おれはひとりで構わねェ」
「ぎゃああああああ!!」
「お前ら!! ……“炎上網”ッ!!」
“四皇”に数えられる怪物に海賊歴1年ちょっとの若者が敵う筈がない。
スペード海賊団の船員達は薙刀の一振りであっという間に吹き飛ばされ、悲鳴をあげた。
その直後、エースが炎の壁を自らの背後に作り出した。
「船長!!」
「エース船長ォ!! なにすんだよ!!」
炎の壁の向こうで仲間が声をあげる。
だがエースにとってはそれでいいのだ。エースは自らの本能に従い声を絞り出す。
「お前ら逃げろ!!」
「…………」
そのエースを白ひげは訝しげに見下ろす。
「なんだ……今更腰がひけたか……」
ここまで来といて逃げるのかと。白ひげは落胆の表情を覗かせた。
「仲間達は逃してもらう……!!」
そしてエースはそんな白ひげを睨み返し、己の意思を口にした。
「その代わり……おれが逃げねェ……!!!」
敵は四皇。遥か高みの怪物。
それに挑みかかったのは自分だ。そして、自分は船長だ。
自分だけは逃げる訳にはいかない。一度挑んだなら絶対に退かない。目の前の怪物が仲間を追わないように──逃さない。
その姿はかつてこの世の全てを手に入れた男と同じだ。
「ハナッタレが。生意気な……」
「うォオああァアアア!!」
白ひげは己を恐れず特攻してくる火の玉小僧を見て、小さく笑う。
だが鎧袖一触だ。白ひげには敵わない。
白ひげの手加減した攻撃でエースは地に伏し、エースの本気の攻撃は軽くいなされる。
しかしそれでも──エースは何度も立ち上がった。
「グラララ……まだ立つか……いま死ぬには惜しいな小僧」
「…………!!?」
惜しいとはどういう意味だ、とエースが怒りに満ちた表情で言外に聞き返す。
そして白ひげはエースが怒ることを承知で言った。
「まだ暴れたきゃ、この海で、おれの名を背負って好きなだけ暴れてみろ……!!」
そうして、エースに向かって手を差し伸べながら──
「──おれの息子になれ!!!」
「…………!!!」
その瞬間……エースの頭に血が上った。
「フザけんなァ!!!」
エースの身体が自然と前に出る。
白ひげは最後にそう言って、死なない程度に打撃をお見舞いしようとした……その直後だ。
「──隙あり~~~!!!」
「!」
「!?」
白ひげの真上から1つの影が飛来し、二刀の刀を振り下ろそうとした。その姿を見てエースは叫ぶ。
「おい……ムサシ……!! お前……逃げろって言っただろ……!!」
「聞くと思うか!! この白ひげと相対する絶好の機会を我が逃す筈がないだろう!! ──さあ白ひげ!! 次は我が相手だ!! 大人しく
「…………お前は……」
いきなり不意打ちをかましてきたその少女を見て、白ひげは何かを思う。
その姿と言動に知り合いを思い出したのだ。
「いざ尋常に!! 勝負!!」
「…………おい小娘。勝負する前に聞かせろ。おめェ……まさか……」
「我が刀の錆になれ~~~!!!」
「ッ……話を聞け!! アホンダラァ!!!」
「ウアア~~~!!? ウ……殴ったな……? この美少女天才剣士の頭を……!!」
「……なんだってんだ」
真剣な戦いの場である筈だが、そのムサシという少女が参戦した途端、ペースを乱されてツッコミの手を入れてしまう。
だがそれもまた、ある少女を思い出せるものであり、白ひげは考えた。そして考えた上で結論を出した。
──とりあえず、両者とも気絶させて船へ運ぼう。
話はゆっくりとその後、幾らでも出来る。
「凄まじい力だが……このくらいなら最強剣士になる予定の我は耐えられるぞ……!!」
「! ……
「おおおおおおお!!!」
ゆえに白ひげは虎の様な姿に変身したムサシという少女を満身創痍のエースと合わせて叩きのめし、船へと連れて行き捕虜とした。
──だがその行動がまた話をややこしくする。
エース達スペード海賊団とムサシが白ひげ海賊団に挑みかかり、完膚なきまでに敗北した。
そして負けた彼らは牢にも鎖にも繋がれない捕虜となり、白ひげ海賊団で一飯の恩を返すためにそれぞれ働き始めた。
だがその中でエースとムサシだけは白ひげに挑み続けた。
「おいおい……なにやってんだ、おめェ。気ィつけろ!! こんな夜中によ……」
「……!!」
ナイフを手にエースは白ひげに夜襲をかけた。
だが蚊でも追い払うかのようにあっさりとエースは叩きのめされる。
鼻血を出して驚愕するエースの側に、赤い瞳の少女が近寄った。そして耳打ちする。
「だから言っただろうエース。普通の不意打ちは通じない。あれほどの怪物なら寝てる時でも見聞色がそれなりに働いてる筈だからな」
「っ……うるせェ。なら何度でも手を変えて襲えばいい」
「──よく言った。よし、それならついてくるがいい」
エースに近寄った少女、ムサシはエースの血気盛んな発言を聞いて諌めたり呆れるどころか、瞳を輝かせ、イタズラ好きの子供のような悪い笑みを浮かべた。そんなムサシに、エースも僅かに冷静になりながら問いかける。ワノ国から出て少しの付き合いだが、ムサシはイカれた言動に反して知恵が回る。何か良いやり方を思いついたのかもしれないと。
「……何か手があるのか?」
「誰に言ってる。天才美少女剣士ムサシ様だぞ? 不意打ちなら簡単だ……まず、白ひげの部屋の真下に位置する部屋に移動し、そこからお前の炎と我の風で──」
「なるほどな……」
ムサシの作戦を聞いてエースも頷く。悪どいが、半ばムキになっているエースの頭では考えつかないやり方だ。
だがそれを聞いていたのは1人ではなかった。──ムサシの背後に、怪物が立っている。
「──洒落にならねェ企てしてんじゃねェよ!!! アホンダラ!!!」
「ぎゃあ!!」
「……!!」
嫌な予感がしたので起き上がった白ひげがムサシの頭を拳で殴る。白目を剥いて気絶したムサシと未だ鼻血を流しながら白ひげを睨むエース。その2人を見て息をつくと、白ひげは再び眠りについた。
だが襲撃は何度も行われ、その度に白ひげは2人を叩きのめした。
──そんな時だった。白ひげの電伝虫が鳴り響いたのは。
『──おれの娘を返せ!!! 返さねェと殺すぞニューゲート!!!』
「チッ……相変わらずうるせェ野郎だ……!! だが……そうか。やっぱりムサシはてめェの娘か、カイドウ……!!」
電話の相手は白ひげと同じ四皇──“百獣のカイドウ”。
通話が繋がるなり一方的に用件を告げるカイドウに白ひげは舌打ちをして面倒そうにその推測が当たったことを告げた。
だが返ってきた返事はまた別の声だった。それは白ひげがムサシを見て思い出した人物だ。
『──こらムサシ!!! そこにいるのはわかってるんだから!!! さっさと帰ってきなさい!!!』
「! ぬえか……やっぱり、ムサシは──」
「──うるさい!! 我はまだ帰らん!! パパからまだ剣も教わってないしな!!!」
「おれを巻き込むな!! おれはお前のパパじゃねェ!!!」
白ひげの横、5番隊隊長の“花剣のビスタ”に絡みながら返事をするムサシを見て白ひげは頭を抱える。このムチャクチャっぷりは確かに親の血だな……と。
『馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!! あんたが誰の子を騙ろうと好きにすればいいけど、自由を許した覚えはないんだからね!!』
「……! 何と言われようがまだ帰らん!! パパから剣を教わって、白ひげ……そう、お爺ちゃんの元で我は世界中の剣士としのぎを削るのだ!!!」
「誰がお爺ちゃんだ!!!」
『おいニューゲートてめェ!!! 人の娘を奪おうとはどういう了見だ!!?』
『ホントよこの誘拐犯!! 身代金でも要求する気!!?』
「違ェよ馬鹿兄妹!!! 妙な勘違いしてんじゃねェ!!!」
段々と収拾がつかなくなってきて白ひげも息をつく。……だが確かに、カイドウの娘という存在は白ひげ海賊団にとっても厄介の種となり得る。
人様の娘をその親が返せと言っているのだから向こうに理があるのも確か。そこまで考え、白ひげはムサシに視線を向けた。
「……おいムサシ」
「! ……なんだ?」
ムサシは僅かに緊張した様子で応える。白ひげがこれから何を言うか、それを感じ取っているのだろうか。
「おめェはどうなんだ。親はこう言ってるが……お前自身は……ここにいたいのか?」
「っ……私……いや、我は……」
普段の不遜な態度とは打って変わってうつむき、何かを考え込むムサシ。
そこには何か苦悩を抱えているように見えた。
そのまごついた様子はまるで親と喧嘩して家出した子供……あるいは迷子になった子供のような、そんな様子だ。
「……まだ帰りたくはない」
「…………そうか」
まだ、か……、と白ひげはその発言を思う。
どうやら親に対して複雑な想いを抱いているのだろう。完全に親を見限ったようにも見えないが、さりとて親に対して思うところがない訳ではない。少なくともただの反抗期ではないことは確かだろう。
それを汲み取り、白ひげは声を絞り出した。
「……なら満足するまではここにいればいい」
「!」
ムサシの表情が変わる。まさかそう言われるとは思ってもいなかったという表情だ。
だが白ひげからすれば当然だ。幾ら敵の娘だとはいえ、居場所のない子供を放り出すような真似はしない。
ゆえに白ひげは受話器に向かって言った。怒るカイドウと困惑するぬえに向かって。
『おいニューゲートてめェ!!! 何勝手なこと言ってやがる!!!』
『……何を考えてるの?』
「安心しろ。こいつからお前らの情報を聞き出したり、こいつを利用したり、人質にしたりすることもねェし、危害も加えねェ」
『……はぁ?』
ぬえが更に困惑してる様子がその声から目に浮かぶ。
何しろムサシがいれば相当良からぬことだって出来るし、白ひげの言うように利用する方法は幾らでもあるのだ。
だからこそカイドウもぬえもさっさと娘を返せと憤っているのだろう。それは当然の考えだ。
だがそれは個人の、あるいは海賊団としての不利益であるからというだけで、親としては……どうなのか。
「こいつは今あの火の玉小僧連中と一緒でウチの客分だ。居たいなら居させてやるし、誰かが襲ってきても白ひげ海賊団の名に掛けて守っといてやる。──たとえ
「!」
『あァ!!?』
『……正気?』
自分の娘には出来ない。
だが、家出をして自分を見つめ直す間の居場所となるくらいは構わない。
白ひげ自身も考えた結論がそれだ。
「ムサシが帰りたくなったらすぐにでも帰してやる。だがそれまでは……自由にさせてやるんだな」
『フザけるな!!! 人の家の問題に首突っ込みやがって!!! てめェ何様のつもりだ!!!』
「……確かに、お節介過ぎるのはそうだが……最初に関わってきたのはそっちの方だ」
『何だと!!?』
そう、白ひげ自身余計なお節介なのは百も承知だ。
なんなら敵に塩を送る行為にもなりかねない。
だが白ひげは、したいことを我慢する気はない。
エースに何かを見出して受け入れたように……ムサシもまた、その素性が明らかになっても出来る限りは受け入れてやりたかった。
『……私達と敵対することになっても良いって言うの? 白ひげともあろう男が……ムサシ1人のためにあなたの息子全員を危険に晒すつもり?』
「そんなもの恐れるに足らん。おれァ白ひげだ……!!」
『……ふ~~ん……そう』
たとえ百獣が相手でも怯みはしない。それが白ひげだ。
それを改めて聞かされたぬえは受話器の向こうで何かを考えるような不自然な間を取ると、ややあって再び声を出した。
『ムサシ……本当に帰ってくる気はないのね?』
「……アイドルをやめるなら帰ってもいいが?」
『あはは……それは無理ね。ってことは、もう帰ってくる気はないってこと?』
「そういう訳ではない……!! 強くなるためにも、外の海で鍛えてくるだけだ!! 心配せんでも、しばらくしたら帰ってくるわ!! ちょっと長めの家出くらい構わんだろう!!」
『へぇ……強くなるために、ねぇ……』
ぬえは意味深な間とトーンで笑う。ムサシのその発言に何か言いたいことでもあるかのように。
「何か言いたいことでもあるのか?」
『……お土産期待してるね♪ ──それじゃ白ひげ、ウチのムサシをしばらくよろしく~♡』
『あァ!!? おいぬえ!! 何を言って──』
『いいからいいから。それじゃ、ばいば~~~い♪ 身体と裏切り者には気をつけてね~~♪』
ガチャ、と最後にカイドウが異を唱えようとしてぬえが無理矢理別れの挨拶を言って通話を切る。
意外にもぬえの方はムサシの家出に寛容に……なんなら許しを出したかのように思えた。
「……? なんだ……?」
「ふ──ははははは!!! よくわからんが許しを得たぞ!!!」
そしてムサシが馬鹿笑いをする中、白ひげは何かに引っかかりを覚えつつ、しばらくの間どういうことかと訝しんでいたが──心当たりと言えば身体のことくらいで、それ以外に思い当たる節はなく、その考えを今は打ち切ることしか出来なかった。
「──そんなこんなでムサシが家出しちゃったんだよね」
「クソッタレ……!!! 思い出したらムカついてきた……!! やっぱり今すぐに白ひげの首をとりに──」
「まだダメだっての馬鹿カイドウ」
私はカイドウの話を引き継ぎつつ、ムサシが家出した時のことを回想した。まあ話としてはスペード海賊団の船にムサシが乗っていって、白ひげに拾われたってことくらいしか話してない訳だけども。
だが考えれば考えるほどに愉快な状況ではある。これでカイドウの言うように、白ひげを討ち取るための弾みがついたのだ。
「……ほう。それは大変だな」
『シュ、シュロロロ……ご令嬢がそんなことに……白ひげ……何と非道な……!!』
ドフラミンゴがサングラスの奥で目を光らせ、シーザーは小芝居を打っている。……どっちも出来れば利用出来るとか考えてるんだろうなぁ……まあ弱いなりに知恵を回してるんだし、褒めてあげないとね。正面から力で叩き潰せないなら策を使うのは賢いことだ。私達だって状況づくりに色んな手を回してはいる訳だしね。
「……だがぬえさん。ムサシの奴がウチの情報を喋ったら?」
「白ひげ相手なら良いんじゃない? どうせこっちから潰すし、そもそも聞こうとしないでしょ。仮に聞いてもああ言った以上は利用してこない。白ひげはそういう男よ。白ひげにしては墓穴を掘ったかもね」
と、私に質問をしてきたのはカイドウと私が座る上座の横、謁見するドフラミンゴを囲むように並んでいる飛び六胞の1人、フーズ・フーだ。
今ここにはカイドウと私、その横に大看板のキング、クイーン、ジャック、ジョーカーが並び、飛び六胞もフーズ・フー、ササキ、うるティ、ブラックマリア、ページワン、小紫と全員が揃っている。
何しろ今日は年に一度の火祭り。楽しい金色神楽。百獣海賊団の全戦力が鬼ヶ島に集合している。
ここにはいないが当然他の真打ちやナンバーズもいるし、傘下や協力者の大物としては、黒炭オロチ配下の侍と忍者、福ロクジュ率いるお庭番衆に、ホテイ率いる見廻組も、都の番以外は勢揃いだし、他にもテゾーロやハンコックなども来ている。
そして何より……今日はシーザーが生み出し、ドフラミンゴが持ってきた人造悪魔の実“
「ムハハ……白ひげを討ち取るなら戦力は必要だろうが、そんな紛い物が本当に役に立つか?」
「お前の絡繰よりはマシだろ」
「あァ!!?」
「あら酷い。確かにベガパンクの発明品に比べれば大したことないけど……キング、貴方言い過ぎよ。幾ら馬鹿でもクイーンが可哀想」
「黙ってろジョーカー。おれに意見するな」
「庇ってるように見えて実はディスられてねェかおれ!?」
「…………」
相変わらず大看板は仲が悪い。まあキングとクイーンがいがみ合っているだけで、ジョーカーはマイペースだし、ジャックは余計なことは言わない。口出ししたら高確率で怒られるから正しい。処世術も極まってきてるなぁ。
「“ギフターズ”とかいう雑魚の話はどうでもいい。それより今年のおれの酒の味はどうだ? 今年は10年に一度の出来だ!! いい仕事したぜ!!」
「お前さん、去年も同じこと言ってたじゃないか……」
「全くでニャン。私の作物に比べたら大したことないニャン」
「恥ずかしいからその語尾やめろ姉貴!!」
「やめろだとォ!!? ……たまにはぺーたんも同じ語尾にするってのはどうニャンか?」
「する訳ねェだろ!!」
「うるせェぞクソガキ共……仕事といえば小紫。てめェ、ちゃんと良いシノギ見つけたんだろうな?」
「…………いえ」
「チッ……使えねェクソガキが……」
そして飛び六胞は相変わらず競争が盛んで活きが良い。仕事にも意欲的だし、向上心もあるから成長が著しい。……フーズ・フーから仕事について聞かれた小紫がなぜか何か言いたそうにしているが、何も言わない。小紫ちゃんなりに空気でも読んでるのかな?
「結局、白ひげを討ち取るために私達は動くのかしら?」
「上手いこと進んだら近い内にやるかもね~♪」
「近い内と言うと?」
「ん~~そうね~~……」
ジョーカーからの質問に私は答える。ジョーカーは政府に流す情報とかも考えないといけないからそういうのは気になるし、早めに知りたいんだろうね。
ということで私は少し考え、指を一本立てた。
「──
「!!!」
その発言に皆が驚く。思ったよりも早いこともそうだが、私の確信を持った発言に驚いている者もいる。
何しろ私がやるって言ったんだから結果はどうあれ、そうなるように動くのは決定してるのだ。つまり──百獣海賊団としては1年以内に白ひげを落とすために動くことになる。
カイドウにも事前に相談して既に決めていた事だ。だからカイドウも酒を呷り、私の発言に追随する。
「そうだ!! 覚悟しやがれ野郎共!! あの白ひげとの戦いは楽じゃねェだろう!!」
「でもそのための布石は打ってるし、そのための戦力も集まってきてる……!!」
私は服の内側から一枚の紙を取り出して言う。
それはビブルカードだ。それも、大切な身内のものである。
こうなったのだからむしろ今の状況は悪くない。ムサシは飛べるし、ヤマトと同じ手錠をつけても構わず鬼ヶ島を出てしまうから手錠をつけてなかったが、結果的には良い方向に転びそうで良かった。
「白ひげの居場所はこれでもう筒抜け……いつでも向かうことが出来る。これで何か不測の事態があっても……白ひげは私達が必ず討ち取る……!!!」
「だがそれは序章に過ぎねェ!!! おれ達は、ドフラミンゴと新たな取り引きを結び、手に入れた
ドフラミンゴとシーザーから得る様々な兵器と人造悪魔の実“SMILE”。
武器と兵器を更に集め、船員を能力者に変えて最強の軍団を作る。
その途中で白ひげを討ち取る。ムサシを取り返すのはその時でいい。
まあ白ひげが私達以外に殺されることもあるかもしれないが……誰が相手でも最終的には私達が必ず勝つ。
──たとえ……相手が“選ばれた存在”であってもだ。
「さて……来年の金色神楽はきっと盛り上がるけど……今年もきちんと盛り上げていかないとね♡」
私は飛び上がり、ライブフロアに出ていく。
ステージ衣装はOK。マイクもOK。ステージもOK。ダンサーもOK。可愛い私を映すための映像電伝虫もOK。
観客は百獣海賊団の構成員2万人とワノ国の侍、忍者衆1万人。
その他──傘下、七武海、協力者。
だが私のショーの本当の舞台は……この世界、そのものだ。
『──さあ!! 今日も年に一度の“金色神楽”~~~~~!!!』
「ウオオオオ~~~~!!!」
「来た!! 始まるぞ!!!」
この会場にいる全ての生物が観客であり、ショーの参加者。
『百獣海賊団の皆~~~!!! 今年は特に盛り上げていくからね~~~~!!!』
「キャ──♡」
「ぬえさ~~~~ん!!!」
参加資格は誰にでもある。
だから……この舞台の中心で踊ることが出来る資格も……誰にだってある。
『まず紹介するのは新たな戦力!!! 人造悪魔の実“
「ウオオ~~~!!!」
「え~~~!!?」
「人造悪魔の実ってどういうことだ~~~!!?」
そう、私が主役とは限らない。
邪魔するのは自由だ。
『そして不幸にも力を得ることが出来なかった笑う戦士!! “プレジャーズ”!!!』
「ギャハハハハ!!!」
「え~~~!!?」
「それもよくわかんねェ~~~!!?」
私達が気に食わない者達は立ち向かってくればいい。
『そして力を得るチャンスを待つ非能力者のあなた達全員が──“ウェイターズ”!!!』
「え~~~~!!? つ、つまり?」
「おれ達でも能力者になるチャンスがあるってことか!!?」
「うお~~~!! それ、最高だぜぬえさん!!!」
「……何と厄介な」
そんな奴は幾らでもいるだろう。
ワノ国の侍……赤鞘九人男。錦えもん、雷ぞう、菊の丞、狂死郎、アシュラ童子、イヌアラシ、ネコマムシ、しのぶ。
イゾウや日和。そして一応モモの助。
『この世は力が全て!!! 力がない奴は死ぬしかない!!! だからあなた達も、力を求めなさい!!!』
世界政府。海軍。CP。
革命軍もきっと私達に与することはない。
『最強の私達に与するあなた達もまた強者よ!!!』
海賊。王下七武海。四皇。
後に現れる最悪の世代も。
『富、名声、力……!! 強ければ欲しいものは全て手に入る!!! でも弱くても、私達の下にいれば全て手に入る!!!』
全てを力で──捻じ伏せる。
『あらゆるものを力で手に入れられることの出来る暴力の世界!!! そこで私達は全てを手にする!!!』
卑怯なんて言葉は海賊の世界に存在しない。
使えるものは何でも使う。何でも使え。
『そう──これは“儲け話”よ!!!』
そうでないと──
『私達は──“
「ウオオオオオオオオオオ~~~~~!!!」
「ぬえ様最高!!!」
「カイドウ総督万歳!!!」
……その光景はまさしく、“伝説”の始まりだ。
私が知る伝説ではない。私が作った伝説。
『さあ!! それじゃ歌うわよ!!! 今日はとある海で歌われた伝説のカバーソング!!!』
創作上のお話なんていう、現実感の乏しいものではない。
自分の身で体験する、紛れもない現実の話。
鼓膜が痛くなるほどの声。人の熱狂。野望への情熱。欲望。渇望。
私とカイドウとで作り上げた本物の海賊の一団。
その野望の為なら命も惜しくはないと騒ぎ出す
『楽しんで行きましょう!!!』
自分の目と耳、五感全てで感じるその瞬間に、この場にいる全ての生き物に負けないように歌い上げる。
『──“ウィーアー”!!!』
満面の笑みを浮かべ、私は大声で伝説の始まりを伝えた。
照りつける太陽に白い雲。
どこまでも続く青い海。
空にはカモメが行くその穏やかな海の名は──“
「やー今日は船出日和だなー」
波間に揺られ行く小舟の上には“麦わら帽子”を被った1人の少年。
その少年の冒険……その始まりがこの場所だった。
「グルルル……」
「わっ」
しかしその小舟に乗る人の気配を感じ取ってか、海の底から巨大な海獣が現れ、船を揺らす。
海獣は少年に唸りをあげて狙いをつけていた。
「出たか“近海の主”!!」
その海獣はここいらの海をナワバリにする凶暴な主。
その牙は鋭く、身体は少年の何倍にも大きい。
だが少年は恐れることはなかった。
「相手が悪かったな。10年鍛えたおれの技をみろ!!」
襲い来る海獣に対し、少年は腕を振りかぶり、精悍な顔つきを笑みへと変える。
「“ゴムゴムの”……」
だがその腕の振りは明らかにタイミングも距離も見当違い。
このままでは当たる筈がないものだ。普通の人間なら。
だが少年は──普通の人間ではなかった。
「“
彼が技名を口にした瞬間、その少年の右腕が伸び──その拳が海獣の頬に激突した。
まるで銃のように強いパンチ。
10年鍛えたといった彼の技はその身に宿る“ゴムゴムの実”の力もあり、銃にも勝る武器となっていた。
「よっしゃ行くぞ!!!」
まずは仲間集めと海賊旗。
仲間は10人は欲しいと呟くゴムゴムの実を食べた“ゴム人間”であるその少年の名は──
「──海賊王におれはなる!!!!」
──モンキー・D・ルフィ。
海賊王を目指し、“
ベガパンク→絶対物理的に頭がでかいおじさん(だと思う)
シーザー→人間のクズ。第2のビビ(ビビに失礼)
ドフラミンゴ→SMILE取り引きの受難はまた今度
SMILE→下っ端強化には使える
ヤマト→ムサシへの好感度が下がった
ムサシ→薙刀使いの白ひげをパパにしようとしたけどやっぱビスタがパパで白ひげはお爺ちゃんにすることにした。反抗期?
エース→何気にムサシと仲良くなった
白ひげ→ぐう聖。やっぱ殺さない方が平和だと思いました
カイドウ→ドフラミンゴが全員能力者にしようぜって言ったから出来なかったら殺す(迫真)
ルフィ→原作開始
近海の主→シャンクスの腕齧った魚。強い。……え、ルフィに負けてる? 勘弁しろよ……主だって心臓1つの海獣1匹。いつまでも最強じゃいられねェってんだよ……!!
ぬえちゃん→世界を獲りに行くための布石作りを終えてご満悦なぬえちゃん可愛い
というところで遂に100話。そして原作開始です。
次回からはほんのちょっと原作との差異を描写しつつも割とすぐに頂上戦争まで行くかもです。まあ小話も挟んでいくかもだけども。
では次回以降もよろしくお願いします。
感想、評価、よければお待ちしております。