正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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東1番の悪

 ──()()()の怖さを誰もが知っている。

 

 4つの海の1つ。平和の象徴と呼ばれ、懸賞金アベレージ300万ベリーの最弱の海──“東の海(イーストブルー)”ではその海の逸話をまるで伝説のように語っている。

 海賊の墓場と呼ばれる“偉大なる航路(グランドライン)”。

 他の海では考えられないようなありえない事態、摩訶不思議な現象、異常な気候。恐怖するものは沢山ある。

 だがその海で最も恐怖されているのは──とある海賊だった。

 

「そういえばよォ……この間店に来た酔っぱらいがおかしな事言ってやがったな」

 

「ああ──UFOを見たってんだろ?」

 

 海の真ん中に浮かんだ世界で唯一の海上レストラン。

 その厨房では強面のコック達が荒々しい口調で調理を続けながら世間話をしていた。つい先日客としてやってきたおかしな男の話だ。

 

「バカ野郎。あんなの酔っ払いすぎて幻覚を見ただけだろ」

 

「UFOも宇宙人もいる訳ねェだろう」

 

「もしこの店に来たらどうするよ?」

 

「三枚におろして料理してやろうぜ。深海魚みたいなもんだろ?」

 

「違いねェな!! ぎゃーはっはっは!!」

 

 そのレストランのコックは下品で野蛮だが腕は確かなようで、笑いながらも調理は完璧だった。

 UFOなんてありえない、と誰もが口を揃える。4つの海ならそうだろう。

 だが“偉大なる航路(グランドライン)”を知る男たちからすれば……それは笑い話にならない。

 

「──ふん、UFOか……()()()にいるとは思えねェがな」

 

「! 料理長!!」

 

「あ、オーナー!」

 

 一際長いコック帽と右足の義足の初老の男が鼻を鳴らして厨房に現れる。

 オーナーや料理長と呼ばれる通り、彼はこの海上レストラン“バラティエ”のオーナーであるゼフ。元海賊だった。

 

「いやいやオーナー。この海にいるとは思えねェって……それじゃあ他の海にはいるみてェじゃねっすか!」

 

「ああ。“偉大なる航路(グランドライン)”じゃ何十年も前からUFOを見たら逃げろってのが常識だな」

 

「え……」

 

「冗談……っすよね?」

 

 偉大なる航路(グランドライン)から帰ってきた元海賊であるオーナーの言葉は冗談を言っているような雰囲気ではない。元々冗談を言ったりしない男だ。いつもの調子でゼフの口から語られるその手の話はそこらの噂話よりは信憑性があった。

 

「冗談じゃねェ。お前らも、遭遇することはねェだろうが覚えとくんだな……“海でUFOを見たら逃げろ”。逃げねェとこの世で最も恐ろしいものを見ることになるぜ」

 

「え……ええ……」

 

「…………UFOねェ……」

 

 その言葉を聞いたコック達……そして副料理長を務める青年はその話を頭の片隅に置いておくことにした。

 そしてまた別の時。別の場所では──

 

「シャーハッハッハ!! 愚かなる人間共よ!! てめェらは自然の摂理に逆らった!!」

 

 とある諸島のとある町──その島の中心でギザギザの長い鼻を持つ大柄な魚人が笑う。

 生まれながらに人間の十倍の力を持つ魚人。その中でもあの王下七武海、魚人海賊団の頭“海侠のジンベエ”と肩を並べる男アーロン一味の頭、アーロン。

 “東の海(イーストブルー)”最高額の2000万ベリーの懸賞金を懸けられた男は力のままに町を破壊し、人間を痛めつける。

 

「逆らえば死ぬ!! 魚人という至高の種族に逆らった分不相応なバカにはそれ相応の罰を与える!! それがおれの支配下でのルールだ!!」

 

 人間を恐怖させ、力で彼らを支配する。毎月決まった額の奉貢を納めさせ、払えなかったり、反乱の意思があると見做されればアーロンは刑罰を与えるのだ。人間の首を締め、彼らに教え込む。

 

「死んだら意味がねェ。生きてるのが1番良い……だがてめェらにおれが教えてやる!! 死よりも恐ろしい“拷問”って奴をな!!!」

 

 今までの戦いの傷か、歴戦の海賊らしく全身に傷を持つアーロンは血走った目で人間の身体を彼の武器である“キリバチ”で切り刻む。

 だが誰もが気づかない。人間に恐怖を与えるそのアーロンもまた、上位の生き物に支配される恐怖を知っていることを。

 

「生物は皆生まれながらに平等じゃねェんだ!! 弱者は弱者なりに生きろ!! 弱者の生き方ってのをおれがてめェらに躾けてやる!! シャーハッハッハ!!!」

 

 同情の余地は欠片もない。……が、彼もまた、心とその背に傷を負っていた。

 その古傷は消えはしない。一生消えない。

 とある海賊達によって刻みつけられた人間への憎悪と恐怖はアーロンの一生のトラウマであった。

 

 ──そしてまた別の時、別の場所。

 

「海でUFOを見ただァ!!? ハデばか共!! なぜそれをすぐに言わねェ!!!」

 

 東の海(イーストブルー)のとある島に停泊していたハデな格好の海賊達。その中心にいる赤っ鼻の男は宴の最中に聞いた何気ないその話に飛び上がる勢いで驚き、彼らに怒声を浴びせる。

 

「え……どうしたんですか船長」

 

「UFOつっても見間違いでただの鳥だったかもしれねェし、本物だったとしてもそこまでビビるほどじゃあ……」

 

「てめェらは何も知らねェからそういうことが言えんだよ!! クソ……こうしちゃいられねェ……多分こんなとこにはいねェと思うが万が一に備えて……!! 野郎共!! 宴は中止だ!! すぐにここからずらかるぞ!!」

 

「え~~~!!?」

 

「そんなァ!!? バギー船長!! 宴はまだ始まったばかりですよ!?」

 

 懸賞金1500万ベリー。バギー海賊団の船長“道化のバギー”。

 彼が宴の中止を部下達に命令すると部下達が驚き困惑した。なぜUFOを見たと言っただけでそこまで慌てるのか、彼らにはわからなかった。

 だがバギーは知っていた。知っているからこそ自分の身を守るために拳を握って力説する。

 

「ダメだ!! ハデばか野郎共!! いいかよく聞け!! UFOってのはなァ……あの最強生物“百獣のカイドウ”の腹心の“妖獣”の前触れだ!!! 見かけたら近くにいる可能性があると思え!!!」

 

「!!!? か、カイドウって……!!」

 

「あ、あの“四皇”の……?」

 

 その言葉を聞いて東の海(イーストブルー)出身の部下達もまた顔を青ざめさせる。海賊なら知らない方がおかしい名前。

 偉大なる航路(グランドライン)に君臨する三大勢力の一角にして星の数ほどいる海賊達の中の頂点に立つ“四皇”。

 そしてその1人“百獣のカイドウ”と言えばその四皇の中でも一対一なら最強と噂され、陸、海、空……全ての生きとし生けるものの中で最強の生物と呼ばれる大海賊だ。

 そしてその腹心である“妖獣”もまた最恐の生物として恐れられている。

 

「“妖獣”って……確か生きたまま人を食うとかいう……!」

 

「と、とんでもなくでかい異形の化け物だって噂を聞いたぜ……!」

 

「いやとんでもない美人だって聞いたな……思わず見惚れてしまう程の美しさらしい……」

 

「えっ? おれはババアだって聞いたが……」

 

「いや、見た目は女のガキだ。14、5歳くらいの……ってアホかァ!! 話に花咲かせてる場合かハデばか野郎共!! いいからとっととずらかるぞ!!」

 

「は、はいっ!! すみませんバギー船長!!」

 

 妖獣に関する噂話。その正体について話が盛り上がったところにバギーはノリツッコミを行いつつ部下を急がせる。

 まずこんな場所に妖獣が現れる筈がない。ありえないことだと思うが、そのありえないことをしかねないのが妖獣だ。

 バギーはそのことをよく知っている。部下達が噂するその正体についてもだ。

 ──だが真の意味でその正体を知る者はいない。

 この海において、彼女は伝説であり、なおかつ実害を持ち、恐れられる存在だった。

 まるで自然災害かのように。気ままで突発的に現れる彼女の行動を止められる者はいない。

 

「──ふわぁ~~……この海、眠くなるなぁ……」

 

 平和で静かな海の真ん中で、UFOの上で寝転がり、空を見上げてあくびをする何かがいる。

 

「お腹空いたなぁ……どこかで腹ごしらえしなきゃ……ん~~……バラティエってどっちだっけ?」

 

 その何か……彼女の行動は良くも悪くも誰にも予測出来ない。

 かつては“変災”とも呼ばれたその少女はUFOに乗って海の上を行く──その目的もまた正体不明のままに。

 

 

 

 

 

 “東の海(イーストブルー)”で人知れず、快進撃を続ける一味がいる。

 

「効かないねえっ! ──ゴムだから」

 

「!!? バ……そんなバカな!! アタシの金棒が!!!」

 

『アルビダ海賊団船長“金棒のアルビダ” 懸賞金500万ベリー』

 

「探してるのはこれ?」

 

「うげっ!! おれの体達(パーツ)っ!!」

 

「はっはっはっはっは!! さすが泥棒っ! 後は任せろ!! 吹き飛べバギー!! “ゴムゴムの”……」

 

「やめろああああ~~~っ!!!」

 

「“バズーカ”!!!」

 

『バギー海賊団船長“道化のバギー” 懸賞金1500万ベリー』

 

 東の海(イーストブルー)では珍しい悪魔の実を食べた男も──

 

「“ゴムゴムの”……」

 

「おれの計画は……絶対に狂わないっ!!!」

 

「必殺“火薬星”!!!」

 

「“鐘”!!!」

 

『クロネコ海賊団船長“百計のクロ” 懸賞金1600万ベリー』

 

 策略に長けた狡猾かつ残忍な男も──

 

「おれは最強の男だ!!! 誰もおれに逆らうな!!!」

 

「ここはおれの死に場所じゃねェ!!!」

 

『クリーク海賊団海賊艦隊提督“首領(ドン)・クリーク” 懸賞金1700万ベリー』

 

 50隻の艦隊を率い、全身に数百の武器を仕込む東の海(イーストブルー)の覇者も──

 

「居たくもねェあいつの居場所なんておれが全部ぶっ壊してやる!!!」

 

「下等種族が……!! てめェら人間如きに……このアーロンパークが落とせると思うなァ!!!」

 

『魚人海賊団“ノコギリのアーロン” 懸賞金2000万ベリー』

 

 復讐と怒りに囚われた凶暴なサメの魚人も──誰もがその悪事や企みを阻止された。

 その海賊達を倒したのはたった5人の海賊団であり、その一味の船長である1人の少年。その名を──

 

『海賊“麦わらの一味”船長モンキー・D・ルフィ 懸賞金3000万ベリー』

 

 その手配書は彼がアーロン一味を倒して数日後、すぐに全世界に向けて手配された。

 麦わら帽子を被り、カメラに向けて手を広げて笑うその少年の顔……一見普通の少年にしか見えないが、3000万という懸賞金を懸けられたれっきとした犯罪者であり、それだけのことをしでかしたのだろうと東の海(イーストブルー)の民衆も海兵も海賊も……多くの人々が畏怖する。

 だがその中で、その手配書を見て愉快そうに笑う者がいた。

 

「──あはは♡ う~ん……さすがだね。海に出てまだ一ヶ月も経ってないだろうにいきなり3000万……うんうん♪ これは将来有望だね!!」

 

 無人島の岩場。岩の上に座り、レストランで貰ってきた弁当を食べ終えたその少女。

 黒いワンピース状の服に黒いニーハイソックス。赤い瞳を持ち、その背中からは変わった形をした赤と青の羽を持つ小柄な少女だ。

 こちらも一見、ただの可愛らしい少女にしか見えなかったが……その周囲は恐怖と血の匂いで染まっていた。

 

「んぐはぐ……ん~♡ 興味本位で食べに来てみたけど来て正解だったね♡ 時間があったらまた食べに行こうかなぁ?」

 

「ウオオオオオ!!!」

 

「ま、それ以外は退屈だけどね。ふわぁ~~~……──あ、まだやってたの?」

 

 少女は巨大な槍……当たれば爆発する武器を持った大男の攻撃を受け止め、大きくあくびをする。

 異様な光景だった。重量は1トン。百の武器を身体に仕込んだ大男が槍ごと少女に持ち上げられ、軽く投げ飛ばされる。

 周囲の海賊達も同じだ。剣や銃で少女に傷をつけようとしても、その全てが少女の肉体に弾かれる。

 刃は砕け、銃弾は当たってもその柔肌を傷つけることなく地面へと落ちた。

 

「ハァ……ハァ……うそ……だろ……? おい……!!」

 

「何も……何も通じねェ……!! 首領(ドン)の武力も……総隊長の攻撃も……!!」

 

 海賊達は戦慄する。少女に、一切の攻撃が通用しないことに。

 たとえ負けたとはいえ、彼らが数日前まで東の海(イーストブルー)の覇者であったことは紛れもない事実だ。戦闘が本職であり、何度も死線を越えてきた。

 

「能力者だ……何か能力を使って……!!」

 

「能力~~? ──あはは! 能力なんて、あなた達相手に使う訳ないじゃん。本物の海賊ならともかく、ね?」

 

「黙れ!! おれは……おれ達は東の海(イーストブルー)の覇者!! クリーク海賊団だぞ!!! てめェみたいなガキに負ける筈がねェんだ!!!」

 

 血に濡れ、血を吐きながらも攻撃を加える大男。──だがやはり、少女は小揺るぎもしない。

 

「逃げましょう首領(ドン)!! あ、あいつは化け物だ!!」

 

「もうやめてくれ……!! 助けてくれ……!!」

 

 海賊達が怯え、震え、腰を抜かす。

 屈強な男達がその少女の発する得体の知れない恐怖を恐れていた。

 だが少女の方は普段よりもかなり気の抜けた対応をしていた。恐ろしいことに、少女はこの場において戦意を一切見せていない。

 まるで路傍で泣き喚く犬……否、巣を荒らされて慌てふためく蟻を見るかのように、少女は彼らに視線を向ける。

 

「こんな辺境でお山の大将してるだけなのによくそんなにイキれるねぇ……偶然見つけたからちょっと遊んでいこうと思ったけど……なんかつまらないからもう帰っていいよ」

 

「何だと……!!?」

 

 少女は組んだ足に肘を突いて頬杖を突き、冷めた表情でそう言う。興味をなくしてしまった……そんな意が見え隠れする表情で、少女は素っ気なく告げる。

 

「見逃してあげるって言ってるの。ほら、さっさと船で……あ、そういえば船壊しちゃったんだった。う~ん……でもまあ、東の海(イーストブルー)だし、泳いで別の島にでも行けばいいよね?」

 

「……!!」

 

 明らかに舐めきった……彼らを下に見た言葉。

 その少女の態度に大男が再びブチ切れる。

 

「っ……フザけるな!!! おれは……誰にも負けねェ!!! おれは最強なんだ!!! 海賊王になるのは……このおれだ!!!」

 

首領(ドン)っ!!」

 

 最強は自分。海賊王になるのは自分だ。

 そんな野心を持ち、大勢の部下と数多の兵器、船を持ち、東の海(イーストブルー)の覇者にまで昇りつめた男は少女の言葉にプライドを傷つけられた。

 これほどコケにされたことはない。麦わら帽子を被ったガキにさえ。

 だから声を張り上げ、少女に再び向かっていこうとした。──だが。

 

「──最強?」

 

「!!!」

 

 その瞬間……その場にいる少女以外の全ての生物の背筋が凍りついた。

 少女から向けられた意識。それだけで彼らは思い知った。

 ──勝てない。

 いや、もっと単純に。

 ──自分は……ここで死ぬ。

 

「……へぇ……あはははは……!! そう、そっかそっか。そのつもりなのね♪」

 

 ──虎の尾を踏んだ。

 遥か格上の生物と対峙した時、本能が全力で警鐘を鳴らす。

 その感覚を彼らはたった今理解した。

 

「そういうつもりなら……相手してあげないとね♡」

 

「っ……う、あああああああああ!!!」

 

 少女が立ち上がった瞬間、脇目も振らずに逃げる。

 ──そうやって逃げた1人目の足が無くなった。

 

「ああああああああっ!!!」

 

「ごめんね~? ここが新世界とかなら五体満足で連れ帰ってあげるんだけど……連れ帰る船もないし、そもそもあなた達みたいな雑魚はいらないし……ここで全員喰ってあげる♪」

 

 ──それは長い悪夢だった。

 獲物が逃げないように足を奪われる。放っておけば死ぬ傷だが、即死は出来ない。

 その間に彼らは地獄を体験した。心は一瞬で折れ、情けなく命乞いをする。

 だが少女は手を休めなかった。

 

「そういえばあなた達、餓死しそうになったんだってね? それじゃあ死ぬ前に食料を得る良い方法を教えてあげる!!」

 

 それもその筈、海賊として喧嘩を売ってきた相手を、海賊である少女は見逃さない。

 海賊王になる。自分こそが最強──その言葉を吐くからには、覚悟しなければならない。

 新世界の獣はその言葉を吐く相手を見逃さない。

 

『百獣海賊団副総督“妖獣のぬえ”』

 

「──美味しく料理してあげるね♡」

 

「あああああああ!!! やめ──」

 

 獣は獲物を食らうことにも、獣同士で獲物を奪い合うことにも容赦しない。

 弱者であるならば、弱者として自覚するべきだった。──彼らは最期に、そのことを思い知った。

 

 

 

 

 

「ん~~~……さてと。お腹もいっぱいになったし、そろそろローグタウンに向かおっかなぁ」

 

 食事を終えて口元をハンカチで拭い、口を濯ぎ終えると、身体を伸ばした。調理器具もUFOの中にしまう。1人でもこうやって荷物を収納出来るのは良いことだ。

 

「私の能力ってやっぱり便利~♪ ──お?」

 

 UFOと共に目的地へと向かおう──そう思い、飛び上がった直後、電伝虫に着信が入ったので飛行はしながら受話器を手に取る。

 

「もしもし~?」

 

『──ぬえさん。おれだ』

 

「え、オレオレ詐欺?」

 

『……キングだ』

 

「あ、キング!! どう? 元気してる? お金はどこに振り込めばいい?」

 

『…………』

 

「あ、今ため息ついたでしょ!! あはははは!!」

 

 けらけらと電伝虫越しに笑ってふざけてみると、向こうでキングが軽く呆れているのがわかった。もう、キングは相変わらず真面目だね。クイーンならノリツッコミしてくれるのに。

 

「それで、何か用?」

 

『……ああ。少し、対応してほしいことがあって……』

 

「え~~? 今は自主的休暇中でこれからビッグイベントを観戦しに行く予定なんだけど?」

 

『カイドウさんが自殺すると言って出かけてしまって』

 

「いつものことじゃん。酔いが醒めたら帰ってくるんだから放っておいたら?」

 

 私が東の海(イーストブルー)まで来てるのを知ってなおキングからの用事の電話が来たから何事かと思ったが、カイドウが趣味の自殺をしようとどこかに出かけてしまったらしい。

 でもこれもいつものことだ。最近は子供のことで悩んでるから酔うとそういう感じになることがたまにある。

 

「私が帰って対応するって言っても帰るころにはカイドウも戻ってると思うし、適当にしてていいよ。何も問題ないでしょ?」

 

『それはそうだが……ぬえさん。あんた、いつ帰ってくるんだ?』

 

「もう数日してドラゴンにでも喧嘩を売ってから帰るつもり~♪ あ、ナワバリ帰ったらそのままライブするから準備もお願いね!!」

 

『……ドラゴン?』

 

 キングが聞き返してくる。やっぱそこ、引っかかっちゃう? まあその部分はカイドウや他の連中にも言ってないしね。しょうがない。ということで今説明してあげようと、私は笑みを止めきれないままに告げた。

 

「革命軍のドラゴンが東の海(イーストブルー)に来るみたいだから待ち伏せして襲おうかと思ってね~♪ ふふふ、楽しみだな~♪ ──あ、カイドウにはまだ言っちゃダメだからね!! 抜け駆けしてドラゴンと遊んできたって言ったらカイドウ怒りそうだし」

 

『……! ……それは』

 

「えへへ~♡ 面白いでしょ? ドラゴンと一対一でやれる絶好の機会なんだから♪ ……まあなんとなく逃げられそうだけど、私も簡単には逃さないつもりだし、期待しててね~!!」

 

『……ええ、わかりました』

 

 ガチャ、と話を終えてキングとの通話を切る。うんうん、キングは話が早い。大体察してくれるし、私やカイドウが指示を出さなくても組織のために良い感じに指示を出して組織を回してくれる。

 おかげでこうやって私も楽が出来る訳だ。

 

「さて……それじゃあ急がないとね~♪」

 

 私は急いでローグタウンへと向かうことにする。手配書が出た今日、もうこの日には“麦わらの一味”はローグタウンへと到着する筈。

 それから何時間か島に滞在して……そこに、私が一度遊んでみたかった相手がやってくる。革命軍の総司令官ドラゴンだ。

 

「革命軍の居場所、全然掴めないし……やり合うならこのタイミングしかないよね!!」

 

 全く、こっちはアジトにしてる島の名前まで知ってるってのに、全然場所がわからないんだから革命軍ってのはさすがだ。政府が中々倒せないのも納得である。居場所がわかったら遊びに行ってあげようと思ってたのに。

 だからこのタイミングなのだ。麦わらの一味をちょっと見に行くついでに、ドラゴンに会って相手してもらおう──そう思って態々1人で東の海(イーストブルー)にまでやってきた。

 まあ結局、麦わらのルフィが旅立つタイミングがわからないので、結構海や島を彷徨ったし、結局は入れ違いになっちゃったけど……でも観光は出来たし、一度食べてみたかったバラティエの食事は美味しかったし、概ね満足だ。

 

「でもメインディッシュはこれから♡」

 

 海賊王になる男の顔を拝み、その父親の力量を見て楽しむ──自分の知識の中にあることと、知識外にあること。その両方が一度に楽しめる絶好の機会だ。

 

「このタイミングで新世界の“四皇”の一味登場~~♪ なーんて、ことしたら私ってどういう風に描かれるのかな~? あはははは♪」

 

 そう、この世界は自分の知識においてフィクションだった。

 だからこそ、自分という登場人物の扱いが少し気になる。序盤から現れる謎の少女として描かれるのか、それとも一味の裏で起きていることとして全く描写されないのか。

 まあ無理矢理関わればいいんだけど……別にすぐ今から関わるつもりはない。今日の目的はドラゴンだ。麦わらの一味と関わってたらそのタイミングが無くなりそうだしね。結構間に合うかはギリギリだし。

 

「このタイミングだとインフレも良いところだもんね、私って♡」

 

 だからまあ、麦わらの一味に関しては今日は顔を見るだけ。今回はその裏でインフレバトルでもしておこう。麦わらの一味なんていつでも会えるし。

 

「ふふふ~♡ 私の楽しみのためにしばらくは泳がせてあげないとね♡」

 

 きっと彼らなら私達のところまで辿り着いてくれるし、そうして私達を楽しませてくれる筈だ。

 

「史上最高の戦争……ふふふ♡ 起こせるように頑張らないとね~♡」

 

 私達が望む“恐怖”と“戦争”に満ち溢れた暴力の世界。

 そして最後まで私達が楽しみ勝つために……私は始まりの街へと向かった。




東の海編→ダイジェスト
アルビダ→今はまだおばさん。変化なし
バギー→伝説を生きる男。情報レベル高
クロ→クロネコ海賊団はワンチャン部下にできそう
クリーク→お察しください。自分でも言ってたけど、情報知らなすぎ
アーロン→アーロン編だけちょっと書こうか迷ったけど、大筋は変わらないのでやっぱりダイジェスト。でも後でまた登場します。
ぬえちゃんの今日の献立→バラティエでフルコース。クリーク海賊団の全食料をステーキやソテー、パスタの具材にしたり、パンに挟んでハンバーガーにしたり。料理上手でお残ししないぬえちゃんはかわいい
カイドウの今日の自殺→海軍艦隊への特攻

原作開始です。開始しましたが、麦わらの一味と絡むのは偉大なる航路に入ってからになります。本格的に絡むのは頂上戦争からで、それまではちょいちょい描写していく感じで。原作の裏では色々やる。
次回はドラゴンと対決です。お楽しみに

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