正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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バロックワークス

 秘密犯罪会社バロックワークスとは、主に“偉大なる航路(グランドライン)”の前半で活動する非合法の組織だ。

 社員数は約2000人。本社をサンディ島“アラバスタ王国”に置いており、主な活動は賞金稼ぎ、盗み、破壊工作、諜報、暗殺。

 そして社訓は“謎”。社員は互いをコードネームで呼び合うのが原則で、出自を明らかにしたり、詮索することは禁じられている。

 社長はMr.0。王下七武海の1人であるサー・クロコダイルが素性を隠して運営しており、その下にいる幹部──エージェント達はMr.にナンバーを付けた名を持ち、同じくエージェントである女性とのペアで活動をする。

 Mr.5以上のエージェントは“オフィサーエージェント”と呼ばれ、そのほぼ全員が悪魔の実の能力者であり、その異常とも言われる強さを以て重要な任務を遂行する。

 そしてそれ以下──Mr.6からMr.12までを“フロンティアエージェント”。一般社員であるミリオンズと呼ばれる部下達を率いて偉大なる航路(グランドライン)の入口で資金集めなど様々な仕事を行う。

 Mr.13とミス・フライデーのペアは任務失敗の仕置人であり伝達係でもある動物のペアなのでそれらには含まれない。

 そしてその会社の最終目的が“理想国家の建国”であり、より具体的に言うならば“アラバスタ王国の乗っ取り”である。

 

「──とまあ、会社説明はこんな感じ♪ 質問ある?」

 

「…………いや……あるっちゃあるが……聞きたいのは会社のことより、なんでこんなことするのかってことなんだが……ぬえさん」

 

「ぬえさんじゃないっ!! 今の私はフロンティアエージェントのトップ!! ミス・マザーズデーよ!! そしてあんたはMr.6!!」

 

「……ミス・マザーズデーさん。どうしてこの組織へ潜入を……?」

 

「んー理由は幾つかあるけど~……1つは、内乱を利用して新人教育でもしよっかなーって思ってね♡」

 

「ああ……だから部下も連れて来いと……」

 

 アラバスタ王国の海岸で、ミス・マザーズデーである私は、Mr.6と名乗るぺーたんことページワンに経緯とこうなるに至った理由を説明すると、彼はそれでも終始困惑しきりだったため、楽しくやれるようにもう少し説明してやる。岩場に待機している連れてきた部下達を見て、

 

「そういうこと~♪ ほら、最近結構新入りも増えてきたじゃない? だから新人歓迎会も兼ねた旅行兼戦争を楽しませてあげようかと思ってね!! ──あんた達だって暴れたいでしょ!!?」

 

「ウオオ~~~!! 勿論だ!!!」

 

「ギャーハッハッハ!! 最高だぜぬえさん!!!」

 

「内乱の国をもっとメチャクチャにしてやろうってことっすね!!」

 

 連れてきた部下達──総勢500名の部下達が私の呼びかけに答えて盛り上がる。そしてその内訳を教えてもらうために、私は更に声を掛けた。

 

「やる気ばっちりだね♡ ──バオファンちゃん。連れてきた部下の内訳は?」

 

「あいよ~~~!!!」

 

 私がその名を呼べば、近くの高い岩場の上から元気のいい返事が返ってくる。

 その声の持ち主はまだ若く、幼い少女だ。私と背丈がそれほど変わらず、頭から二本の角が生えていて、顔を1つ目が描かれた紙で隠しているその少女は若くてもウチの幹部であり、カイドウと私のスケジュール管理を行っているソノの後輩。

 

「ぬえ様の招集によりキング様が編成した戦闘員~~~約500名!! その内訳は~~~~!!」

 

 そしてその少女は岩の頂点から手足を広げ、能力を使って滑空して落ちてくる。得た能力の習性なのか、高いところが好きな少女であり、装いはワノ国の衣装。丈が短く、太もも丈の可愛い花柄の振り袖に、風と書かれた巨大な団扇を背中に背負う少女が地面へと降り立ち、履いている下駄の音を強く響かせる。

 

『百獣海賊団“真打ち” バオファン(ムササビのSMILE)』

 

「ウェイターズ300名!! プレジャーズ180名!! ギフターズ20名!! そして真打ち3名!! 飛び六胞ページワン様が率いる軍団ん!! 締めて503名!!! 以上です!!!」

 

「ん~503名ね。よしよし、報告上手くなったねバオファンちゃん♡」

 

「てへへ、ありがとうございまーす!!」

 

 癖っ毛のバオファンの頭を撫でてあげる。ウチは小さくても有能で活きの良い幹部が多くて助かる。

 フーズ・フーやササキみたいな元々他の海賊団の船長をやってたけどウチに加入した元海賊団の船長組は基本的に即戦力で上昇志向の高い子が多くて良いけど、小さい子供の時からウチにいるようなジャック、うるティ、ページワン、そしてバオファンみたいな生え抜き組も私達の英才教育のおかげか、成長が早くて強い子が多い。おまけに私やカイドウを特に慕ってくれてるしね♡

 

「ナンバーズは連れてこなかったんだ?」

 

「いや、あいつらはここじゃ目立つんで……」

 

「キング様も同じことを言ってました!!」

 

「あ、そうなんだ。それは残念だね。久しぶりに()()()したかったのに」

 

「……あれは隠密には向かないわ」

 

 と、私がここにいないナンバーズのことを残念そうに呟くともう1人──他の戦闘員とは違った格好をした幹部が現れる。

 目元だけを隠す黒い仮面に、黒のロングコート。内側の服は深いスリットの入った丈の長いエメラルドグリーンのドレス。角付きの帽子を被ったその美女は、特殊な事情を持つウチの真打ちだ。

 

『百獣海賊団“真打ち”ドゥラーク 懸賞金2億3000万ベリー』

 

「──それで、態々私まで呼ばれた理由は何かしら」

 

「やーん、ドゥラークったら相変わらず無愛想♪ クールなのもいいけど、せっかく美人なんだからもっと笑って笑って!! ウチは笑いの絶えない楽しい海賊団なんだからさ!!」

 

「ギャハハハ!! そうですぜドゥラークの姐さん!!」

 

「……笑うことしかできない貴方達と一緒にされても困るわ。──それで、理由は?」

 

 おや、どうやらプレジャーズの賑やかしがお気に召さないようだ。うーん、もう結構長いことウチにいるってのに、ドゥラークはクールでお人好しだねぇ。別にプレジャーズは嫌々食べさせた訳じゃないのにさ。皆リスクを理解しながらも自分の意思で食べたんだから同情するのは失礼だよねぇ……ま、それはともかく理由を知りたがってるみたいだし、教えてあげよう。

 

「理由は~~……この国にある例の物を回収しようと思ってね~~♪」

 

「! まさか……この国に“歴史の本文(ポーネグリフ)”が?」

 

「ぴんぽんぴんぽ~ん!! 大当たり~~~♪ この国に来た理由の1つはその歴史の本文(ポーネグリフ)でーす!!」

 

 私がヒントを口にするとそれだけでドゥラークは答えを言い当てる。ま、ドゥラークが呼ばれて例の物と言えばそれしかないよね。少なからず驚くのは無理もないけども。

 

「なるほどね……しかし、回収すると言うなら私がここまで出てくる必要もないのでは? 帰ってからでも、それは読めるわ」

 

「う~ん、それはそうだけど……それは別にいいじゃない? ほら、たまにはお外に出たら良いことあるかもだしね~~♪」

 

「…………別にそんなことは望んでないのだけど」

 

 ドゥラークは静かな声でそう言う。相変わらず陰があるなぁ。ミステリアスでクール。部下の男から人気があるのも頷ける──ま、私の方が人気だけどね!! 

 

「ならぬえさん。つまりクロコダイルとこの国の内乱……そのどさくさに紛れて歴史の本文(ポーネグリフ)を奪い取るのが目的ってことでいいのか?」

 

「大体そんな感じ~♪」

 

「……理解したが……でもなんで俺がMr.6とかいう訳のわからねェ弱そうな奴を騙って──」

 

「あ、忘れてた!! ──こらあんた達!! 今の私は世界一可愛いぬえちゃんじゃなくてバロックワークスのアイドル、ミス・マザーズデーなんだからそう呼びなさい!! そしてあんた達は私達の部下のミリオンズよ!!」

 

「はっ!! 了解しました!! Mr.6様!! ミス・マザーズデー様!!!」

 

「乗っかるのが早ェよてめェら!!! ……というかぬ……ミス・マザーズデーさん。あんたのその格好は……?」

 

「あ、これ? ふふふ♡ こういう格好も可愛いでしょ~♡」

 

 私はページワンに指摘された自らの格好、可愛い私の姿を見せつけるようにくるりと一回転。

 今の私は日焼けして小麦色の肌に踊り子の格好をしたアラビアンぬえちゃんだ。

 

「ふふーん♡ あなた達を待ってる間、暇だったから肌を焼いてこの国に似合うようにイメチェンしてみたのよ♪ 似合うでしょ?」

 

「似合ってます、ミス・マザーズデー様!!」

 

「……つまり隠密行動をするための変装で──」

 

「可愛いですミス・マザーズデーさん!!」

 

「へへへ~♡ いやそれほどでも…………あるけどね!!! よし、ノッてきたからいっちょライブしよう!! ぬえちゃんのアラバスタ主要都市ツアー開催でファンを増やしちゃうんだから!!」

 

「ハイハイぬえさん!!」

 

「世界一の可愛さ!! ぬえさんキュ~~~ト!!」

 

「隠密行動だろ!!? お前らもコールしてんじゃねェよ!!!」

 

「……大変そうね、貴方」

 

「黙れドゥラーク!!」

 

「ちなみにぺーたんが選ばれたのは消去法~~♫ うるティちゃんとかは来たがってたけどペアになるのは男性と女性だから無理で~~♫ フーズ・フーとかササキは他の仕事があったみたいだからね~~~♫」

 

「……! (畜生!! なんでこんな時に限って暇なんだおれ!!)」

 

「暇暇ぺーたん!! 暇人ぺーたん!!」

 

「あァ!!? 誰がぺーたんだ!!! ムカつくコールしてんじゃねェよ!!! 殺すぞ!!!」

 

「すみません……」

 

「い、いやぬえさんの歌にはコールしねェとなんで……」

 

「世界でも有数の文明大国アラバスタ……その王家はかつて地上に残った20人の王の1人……それがなぜ歴史の本文(ポーネグリフ)を……?」

 

「てめェはなに冷静に考察してんだ!!」

 

「ツッコミを入れないと気がすまない性分なの?」

 

 おっと。ぺーたんのツッコミで部下達が萎縮してる。──まーぺーたんも若いけど飛び六胞になるだけあって強いし、一般の戦闘員やギフターズとはいえ怖がるのは当然だよね。

 

「……それで歴史の本文(ポーネグリフ)を手に入れるために隠密行動するのは理解したけど……それならそのバロックワークスから任された仕事……この船の管理は放棄すると?」

 

「当然~~♫ あのワニガキくんの任務をバカ正直にこなす必要はない♫ 他の社員や海軍の目を誤魔化すためのカモフラージュ♫ つまり──正体不明!!」

 

UNKNOWN(アンノウン)!!」

 

「……つーかこれ、ダンスパウダーを使うための降雨船だよな。ウチにも似たものがあるぞ」

 

 と、ぺーたんが海岸に停めてある船──バロックワークス社の人工降雨船“フール号”を見て言う。ダンスパウダーを使って雨を降らし、風下には干ばつの被害を与えるための船。ぺーたんの言うように、ウチにも同じ用途の物があるため、見ただけですぐわかる。

 

「それにしても……世界的に製造、所持が禁じられてるダンスパウダーを使って、国民の印象操作をするなんて……クロコダイルは随分と趣味の悪いやり方をするのね」

 

「あはは♪ それって私達への当てつけかな~?」

 

「! そういうつもりでは……」

 

「ま、別にいいけどね~♡ 海賊なんだもん。趣味が悪かろうが、世界的に禁止されてようが私達からしたら関係ない。聖人じゃないんだからどんなに酷いことでもやると決めたらやるってことね」

 

 海賊が社会のルールを守る必要なんてない。卑怯という言葉もない。好きにやりたいことをやるのが海賊だ。

 だから使えるものを使って欲しいものを手に入れようとするクロコダイルは、少なくともそこらの海賊ごっこをしてるルーキー達に比べれば本物の海賊だ。

 ただ七武海ってのは大変だよね。政府から禁じられてるからこそ隠れて使わないと称号も危うくなる訳で。私達もダンスパウダーは使ってるし、一応取り引きなんかは他の非合法のブツと合わせて隠して行ってるけど、別にバレたところで……って感じだし。政府も今更ダンスパウダーくらいで私達とバチバチにやり合うことなんてしないしなぁ。

 

「Mr.6とミス・マザーズデー……フロンティアエージェントのトップの任務はこのフール号を政府やアラバスタの人間にバレないように隠し、管理することが任務だったってことね。──ま、今は私達だけど♡」

 

「政府にバラしちまえば七武海の称号はなくなり、海軍がクロコダイルを捕らえにくる……そうすりゃクロコダイルが国を乗っ取ったところで意味はねェってことか」

 

「バラさないけどね♡」

 

「えっ……なら一体どういう風に……?」

 

 てっきり、隠密行動すると言ったのだから絡め手でクロコダイルを陥れるとでも思ったのだろう、ページワンが意外そうに頭に疑問符を浮かべる。他の連中、頭の良いドゥラークでさえ同じ様子だ。

 だから私は改めて、この国でやること……そして、クロコダイルと敵対している今回の一件の最重要人物達の話をする。

 

「ふふふ~♡ 今、クロコダイル……Mr.0の正体とバロックワークスの企てを知る組織は、私達と()()()()だけよ」

 

「……? その組織ってのは?」

 

「これよ」

 

 私は荷物入れに使ってるUFOの中から一枚の手配書を取り出し、ページワン達に投げ渡して見せてあげる。

 彼らはそれを見ると、驚くこともなく、むしろより一層困惑気味に首をひねった。

 

「……“麦わらのルフィ”?」

 

「麦わらの一味……知らない海賊ね」

 

「ま、そうよね~。──バオファンちゃんはわかる?」

 

「あーい!! ええっと……麦わら麦わら……」

 

 バオファンは服の裾からメモの束を取り出し、それらに目を通して確認していく。そこには幾つもの海賊の名が書かれているのだろう。しかし──

 

「ごめんなさい!! ちょっと載ってないです!!」

 

「謝る必要もねェだろ。当然だ。たかだか3000万の雑魚海賊、一々憶える必要もねェ」

 

「ギャハハ!! 弱っちそうな顔だ!!」

 

「これで3000万ならおれ達でも1億は固いぜ!!」

 

「ハハ、政府もとうとうイカれちまったか?」

 

 当然、私達が3000万程度の海賊を──知ってる筈がない。

 ウチじゃ3000万なんて一般戦闘員かギフターズ、あるいは真打ちにもなれるだろうが、その中でも相当下位。元海賊団の船長や名のある強豪海賊が多いウチの真打ちだと懸賞金額で舐められることだってある。

 だが重要なのは懸賞金の額よりも実際の強さなのは言うまでもない。私は軽く注意してやる。

 

「こらこらあなた達。見た目で判断しちゃダメでしょ?」

 

「! あ……す、すみませんっ!!」

 

「フン……バカ共が。ウチにいりゃ見た目は強さと何の関係もねェとわかる筈だろうが」

 

「す……すみません」

 

 麦わらのルフィの手配書の顔を見て笑ってたギフターズ以下、ウチの戦闘員達も私に注意されるとハッとしたようにバツの悪そうな様子を見せる。笑顔がデフォのプレジャーズも無言で汗を掻いていた。

 さすがにぺーたんを始めとする真打ち以上の3名は理解していたため、見た目でどうこう言うことはない。──とはいえ、舐めきっていることには変わらないけどね。ぺーたんが注意したのはあくまで見た目で強さを測るなということだ。

 

「それで、この海賊団がなぜクロコダイルの裏の顔を知って敵対しているのかしら」

 

「うーん、なんでも、この国の行方不明だった王女様がバロックワークスのミス・ウェンズデーとして潜入してて、偉大なる航路(グランドライン)の入り口で任務に当たってたところ、この一味と遭遇して同時に王女様が潜入してることがクロコダイルにバレて、刺客を送り込まれたところ、一味がそれを救って国まで送り届けることとクロコダイルを倒すことを了承したらしいわ」

 

「人助けですか?」

 

「裏があるに決まってる。助ける義理がねェ。大方、狙いはクロコダイルの首か、歴史の本文(ポーネグリフ)か、別の物か……」

 

「この一味がクロコダイルと敵対している隙を突いて、歴史の本文(ポーネグリフ)を盗んで行く……そういうこと?」

 

「こいつらで隙が出来るか? 時間稼ぎにもならねェだろ。腐っても七武海だぞ? それとも数でもあるのか?」

 

「……大船団の船長には見えないわね」

 

 私が説明するとぺーたんとドゥラークが麦わらの手配書を見てああでもないこうでもないとやり取りを重ねる。中々聞いてて面白い。そりゃあまあそうなるよね、と思いながら私は足を組み直し、更に情報を付け加える。

 

「あはは!! まあ数はたった6名。王女様を合わせても7名しかいないからねぇ」

 

「少なすぎだろ……それじゃあすぐに潰されて終わりだな」

 

「……よく調べてるのね」

 

「ふふん、でしょ?」

 

 ドゥラークの言にウィンクをして頷く。今この世界で1番麦わらの一味に詳しいのは私だろうからね。なんなら当人達より詳しいだろう。

 そしてだからこそウチの連中の目算は残念ながら外れることになるとわかる。

 

「──ということでクロコダイル含むオフィサーエージェントは()()()()してこの麦わらの一味に任せて、私達は適当に暴れつつ歴史の本文(ポーネグリフ)だけ掻っ攫って行くわよ♡」

 

「……え!?」

 

 私の言葉に誰もが唖然とし、硬直する。

 だけど私はそれを無視して計画についての話を進めた。

 

「ま、多分だけどあの砂ワニくんは負けるだろうしねー。ってことで、まずはこれからアルバーナに行って──」

 

「く、クロコダイルは放置っすか……?」

 

「…………まあたとえクロコダイルがどれだけ上手いこと立ち回っても最悪、直接ぶち殺せば済む話か……」

 

「そうそう。ぺーたんの言う通り~♪ だからあなた達も手間がかからないように麦わらが勝つことを祈ってなさい──あ、電伝虫」

 

 部下達の困惑に対してそう言い捨てると、私の電伝虫が鳴り響いたのでそれを取る。誰かな? 

 

『──もしもしぬえさん? こちらジョーカー』

 

「はいはーい。どうしたの? また何かあった?」

 

『ええ、海軍が動くわ。それも……かなりの大物』

 

「え、ホント!? 誰が来るの? 大将? 大将だったら面白いことになるね~♡ それともガープとか?」

 

 私は電伝虫の相手であるジョーカーの言葉に胸を躍らせる。私達の動きを見て動くなら最低でもそのくらいはないと務まらないし、誰が来ても面白い。だから誰が来るのかと思ったが……その相手は予想外のものだった。

 

『フフ♡ ええ、元海軍大将よ。──“海賊遊撃隊”はご存知かしら?』

 

「! あー、アレかぁ……ってことは来るのは──」

 

 その単語、部隊名を聞いて思い浮かぶ相手は1人しかいない。海兵の中でもかなりの有名人だし、海賊の間でもその相手に恨みを持つ者は多い。何しろその相手はジョーカーの言うように──

 

『はい。元海軍大将にして現在は海賊遊撃隊の隊長──“黒腕のゼファー”』

 

 ──かつては海軍大将を務め、全ての海兵を育てたと言われる伝説の男の1人……ゼファーその人だった。

 

 

 

 

 

 アラバスタ王国、港町“ナノハナ”。

 世界政府加盟国でありながらこの国を本拠地とする王下七武海、クロコダイルへの信頼が高いこともあって海軍が配置されていないこの国で、海兵達の姿があった。

 

「──海賊遊撃隊!? それって確か……!!」

 

「ああ……能力者の海賊を討伐するための遊撃部隊。隊長はあの“黒腕のゼファー”だ」

 

「ゼファー先生ですね。その部隊がここに?」

 

 質問をする女性は腰に刀を差す海兵、海軍本部曹長のたしぎ。

 そしてその質問に答えたのは口に二本の葉巻を咥えた厳つい顔の将校、海軍本部大佐“白猟のスモーカー”だ。

 “東の海(イーストブルー)”ローグタウンから独断で麦わらの一味を捕まえるために、この“偉大なる航路(グランドライン)”までやってきたスモーカー率いる精鋭部隊は、少ない手掛かりからここアラバスタへと辿り着き、麦わらの一味の情報を集めていた。

 だがその矢先に本部からの通信が入る。その内容を、改めてスモーカーは白い煙と共に口から説明した。

 

「本部の情報部隊によると……このアラバスタ王国周辺で“百獣海賊団”の目撃情報があったらしい」

 

「……!! 百獣海賊団……ま、まさか、それほどの大物がこの偉大なる航路(グランドライン)の前半に?」

 

 百獣海賊団。その名を聞くと、たしぎもその他の海兵達も一気に冷や汗をかいて険しい表情を浮かべる。たとえ歴戦の将官であったとしても、百獣が動いたとなれば顔を青くしてしまう。

 全海賊の中でも最も恐ろしいと言っても過言ではない海賊団が、なぜこんなところに……と海兵達は困惑するが、スモーカーは冷静だった。

 

「……驚くことじゃねェ。百獣海賊団……特に“妖獣”は神出鬼没の海賊として有名だ。どこにいたっておかしくはねェ」

 

「“妖獣のぬえ”ですか……ローグタウンにも現れたという……」

 

「ああ……おそらく、その調査とあるいは討伐だろうな」

 

 百獣海賊団くらいの大物ともなれば本部もその戦力を出し惜しみはしない。

 最低でも艦隊を差し向け、海軍大将や七武海を向かわせることも多い。

 だが今回は本当にいるかどうか、あるいはその痕跡を捜査するための派遣である。

 いるかどうかもわからないのに大将や七武海は動かせない。そこで海賊遊撃隊に白羽の矢が立ったのだろうとスモーカーはその理由を推察する。

 

「それで、私達も協力を?」

 

「いや、特にそういう指示はねェ。そもそもアラバスタに上陸すると決まってる訳でもねェからな」

 

 近くに来た時、あるいは本当に百獣がそこにいれば同じ海兵として協力することはあるかもしれないが、こちらが百獣海賊団の捜査に加わる必要はない。そのことをスモーカーは部下達に告げる。やることは変わらないと。

 

「おれ達の標的はあくまでも“麦わらの一味”だ……!!」

 

「はい!! スモーカーさんっ!!」

 

 ──もっとも、目の前に現れようものなら海兵としてそれを捕らえる。

 その覚悟は当たり前に持っていた。

 しかし……海賊を捕らえるにはまず見つけなければならない。

 そうしてスモーカー率いる海兵達はアラバスタでの情報収集を始めた。

 

「あの店はやけに騒がしいな……」

 

 ──そしてその甲斐あって……この町には今、海賊が集まっていた。

 

「──ところでおやっさん。こんな奴がこの町に来なかったか? 麦わらかぶった……」

 

 ナノハナのレストラン。そこで騒ぎを起こしたとある青年は、手配書を店の店主に見せつける。

 どうやら探し人をしているらしいその青年に向かって、部下からの報告を受けた彼が店の中へ入る。

 

「“白ひげ海賊団”の二番隊隊長がこの国に何の用だ──“ポートガス・D・エース”」

 

 ──そして同時刻。町の外れではまた別の海賊が、

 

「ぺ……Mr.6様!!」

 

「どうした。トラブルか?」

 

「い、いや!! そうじゃなくて……やべェ奴を見つけちまって……!!」

 

「やべェ奴?」

 

「は、はい。それが──」

 

 と、町の中心の方から慌てて戻ってきた部下の報告をその“Mr.6”と呼ばれた男が聞く。

 そして報告を聞いた途端、男は驚き、目の色を変えた。

 

「何だと!!? おい!! 情報は確かか!!」

 

「はい!! 確かに奴でして……!!」

 

「すぐに案内しろ!!」

 

「は、はい!! こっちです!! 町の大通りにあるレストランでして!!」

 

「よし!!」

 

 男が部下の案内を受けてダッシュする──その相手を叩き潰して捕らえるために。

 ──そしてまた別の場所。

 港の入り口に、一隻の船が着港すると、その船の甲板から飛び降り、町へ向かってまっしぐらに走っていく男が1人。

 

「メ──シ──屋~~~~っ!!!!」

 

「ちょっと待てー!!!」

 

 仲間の制止など気にも留めず、麦わら帽子の男はメシ屋へと向かっていく。

 そしてそのレストランでは、海兵の質問に不敵な笑みを以て答える男がいた。

 

「…………弟をね、探してんだ」

 

 ──アラバスタ王国で、陰謀渦巻く動乱が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 ──“偉大なる航路(グランドライン)”、海上。

 

 海の上に浮かぶその船はカモメを掲げていた。

 それはその船が海軍に所属している証である。

 ではその周囲に浮かぶ海賊船と、甲板に転がる血まみれの海賊達の姿は何の証か。

 それは……彼らが強者であり、“正義の味方”である証だった。

 

「──海は見ている♫ 世界の始まりを♫」

 

 海賊船の甲板。

 そこに立つのはたった1人の男だった。

 

「海は知っている♫ 世界の終わりも♫」

 

 甲板に響くのは海に還っていく海兵達を送る……弔いの歌。

 そしてそれを響かせるのは、巨漢の老人だった。

 

「だからいざなう♫ 進むべき道へと♫」

 

 紫色の髪にサングラスを掛けたその老齢の男は海兵だった。

 一度は実戦を退き、若い海兵の育成に全てを捧げようとした老兵。

 

「だから導く♫ 正しい世界へ♫」

 

 だが彼はいかなる理由からか……この戦場へと戻ってきた。

 彼は望んでいる。罪なき人々が、不当に悲しまずにすむ世界を。

 彼は憎んでいる。罪なき人々を苦しめ、悲劇を撒き散らす──海賊達を。

 

「痛み、苦しみ、包み込んでくれる♫ 大きくやさしく、包んでくれる♫」

 

 だから男は戦場へと戻ってきた。

 愛する妻と子を失い、大切な教え子たちを亡くし、己の自慢の右腕がもがれても。

 

「──ゼファー先生」

 

「……どうしたァ?」

 

「逃げ出した海賊達も含め、この船の海賊は全滅しました」

 

「……そうか」

 

 教え子である部下の報告を聞いて、彼は軍艦へと戻る。

 失った右腕に装着された海楼石製の巨大な兵器“スマッシャー”を揺らしながら、彼は船の甲板へと戻り、海賊の手配書を見て眉をひそめる。

 

「……気合い入れろよお前ら……!!」

 

 そこに写っている海賊らしからぬ容姿の海賊……それを討伐するために、彼はやってきたのだ。

 

『海軍本部“海賊遊撃隊隊長(元海軍本部大将)“黒腕のゼファー』

 

「こんな生温い海賊とは訳が違うぞ……!!! 充分に気をつけて掛かれェ!!!」

 

「はっ!!!」

 

 彼らの任務は“百獣海賊団の調査”と“遠征に出ている船の妨害もとい可能なら討伐“。

 そのためにゼファー率いる海賊遊撃隊は船の進路をアラバスタ王国へと向けた。




Mr.6→唯一暇だったから選ばれた。背丈とかも常識的。ツッコミ役。後で姉に付き纏われること確定
ドゥラーク→歴史の本文関連なので呼ばれた。他にも理由があるかもしれないね(棒)
バオファン→かわいい。ソノさんの後輩で秘書
たしぎ→ギフターズ以下
ルフィ→真打ち並(ただし補正有り)
スモーカー→真打ち並(ただし自然系なので覇気無しには一方的に勝てる)
エース→飛び六胞クラス
ゼファー→渋カッコいいおじさん。今はギア4無しルフィに負ける程度なので飛び六胞クラス? 歌ってる歌は『海導』。読みが恐ろしくて海軍の歌には不適切だと思います。
日焼けしたぬえちゃん→踊り子衣装を身に着けることでミス・マザーズデーに。超かわいい

結論、百獣海賊団が来るとインフレ(知ってた)。ギフターズですら並のミンク族は倒せて真打ちだと懸賞金3億超えクラスのミンク族のトップと戦闘が成立するレベルだから弱くても億前後あるって考えたらヤバい。バオファンちゃんでもバロックワークスのMr.1と2以外は無双出来そうで、ぺーたんでクロコダイルと同格って考えるとやっぱり四皇の層の厚さは桁違い。
次回からアラバスタで一悶着ありつつ、割とすぐにアルバーナで決戦。しかし、ミス・マザーズデーが老人虐待。という訳で次回をお楽しみに!

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