正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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黒腕

 ──この海で、()()を見たら何を措いても逃げろ。

 さもなくば真の恐怖を知ることになるだろう──そう最初に言ったのは誰だったか。

 だがこの“偉大なる航路(グランドライン)”において、それは恐怖の象徴であった。

 

「……!! 報告!! 11時の方向に赤色のUFOが!!」

 

「!! 来たか……総員!! 戦闘準備!! 全方向を見張れ!! 少しでも怪しいと思ったものはどんな些細なものでも報告し、あるいは自己の判断で対処しろ!!!」

 

 そう……UFOとは、正体不明の飛行物体であり……同時に、この海で最も恐い生き物が現れる予兆だ。

 歴戦の将校であっても警戒せざるを得ない正体不明の生物。

 その到来は、どんな猛者も気づかない。

 

「──随分と老けたわねぇ」

 

「!!?」

 

 自ら船首に立ち、周囲を警戒していたその男──ゼファーの背後から少女の声が響き渡る。

 

「ゼファー先生!!」

 

「先生!! 報告します!! 空にUFOが複数……」

 

 誰もがその少女に得体の知れない恐怖を抱く。

 空に浮かぶUFOを操り、生き物も無機物も得体の知れない何かに変え、人に恐怖の種を植え付ける正体不明の怪物にして海賊。

 

「まあでも勘は鈍ってないみたいだけどね~。態々こんなところまでやってきて……ご苦労さま♡」

 

「……そういうお前は全く見た目が変わらねェようだな……!!! “妖獣のぬえ”……!!!」

 

 海軍本部の元大将“黒腕のゼファー”率いる海賊遊撃隊の前に現れたその少女──百獣海賊団の副総督である“妖獣のぬえ”は数十年前から変わらない容姿とその笑みで告げる。

 

「ふふふ~♡ 可愛い私と会えて嬉しい? ……でもまあ私も嬉しいよ。態々戦いに来てくれたんだもんね?」

 

「!」

 

 そう言ってぬえは空に不規則な動きで浮かぶUFOを動かして、列を作らせる。

 それは道標だった。相手を恐怖の底へと落とすための。

 

「私と戦いたいならついてくるといいよ♪ この先はアラバスタ近海の離れ島。人は住んでない──全力で殺し合うにはうってつけの場所でしょ?」

 

「……ゼファー先生」

 

「…………どういう風の吹き回しか知らねェが……いいだろう。そこがお前の墓場だ」

 

 罠の可能性を考え、副官であるアインもまたその名を呼んでどうすべきかと判断を仰いだが……ゼファーの勘はそれを罠ではないと告げていた。

 故に数秒の黙考の末、ゼファーはそれに頷き、船の進路をUFOの道標に合わせた──この人を苦しめる害獣を、死地へと送るために。

 

 

 

 

 

 アラバスタ王国、ナノハナの町は俄にもざわつき始めていた。

 原因はこの国が数年前より纏い続ける内乱の気運……ではない。

 とあるレストラン内で目撃された、とある海賊のせいだ。

 

「聞いたか。“白ひげ”のとこの海賊らしい……」

 

「スモーカーって海兵の名も聞いたことあるぞ……!!」

 

 人々はひそひそと小声になりながら遠巻きに彼らの顔を窺う。レストランの中では2人の男が対峙し、今にも一戦交えようという気配があった。

 

「──で? おれはどうすりゃいい……?」

 

「大人しく捕まるんだな」

 

「却下。そりゃゴメンだ」

 

 背中に正義の二文字と特殊な十手を背負う男──スモーカーは海軍本部大佐として男に捕まることを促す。

 だが背中に“白ひげ”の髑髏を背負う青年──“火拳のエース”は不敵な笑みを浮かべてそれを断った。当然だ。海兵が現れたからといって、大人しく捕まる海賊はいない。

 それに加え、青年は自信があった。目の前の凄腕の海兵が本気で捕らえに来ても、それをいなせる自信が。

 

「……おれァ今別の海賊を探してるとこだ。お前の首なんかにゃ興味ねェんだがな……」

 

「じゃ見逃してくれ」

 

「そうもいかねェ」

 

 そしてスモーカー自身も、相手が一筋縄ではいかないことを理解していたし、言ったように目の前の男の首に興味はない。

 だが彼は退かなかった。口に咥えてる葉巻から出る煙と同じく、右腕を煙にしながら──

 

「おれが海兵でお前が海賊である限りな……!!!」

 

「……つまらねェ理由だァ……楽しくいこうぜ」

 

 海兵としての矜持を見せて戦闘態勢を取るスモーカーと、それを見た上で余裕の表情のエース。2人の様子は正反対だった。

 そして今にもスモーカーが行動を起こそうとしたその時。

 

「──ロケットォー!!!」

 

「ぐあァ!!!」

 

「を!!?」

 

 ──不意に、スモーカーの背後に何かが高速で飛来し、激突した。

 あまりにも突然の出来事に自然(ロギア)系であるスモーカーが衝撃にうめき声を上げ、エースも目を剥いて驚きながら同じく建物の壁を何軒も貫きながら吹き飛ばされた。

 

「ぎゃああーっ!!」

 

「うは──っ!!! メシ屋だ!!! ハラへったー!!!」

 

 そしてそれを図らずも為した男──モンキー・D・ルフィはそれを全く気にすることなくカウンターに座り、食器を鳴らしながら飯を催促する。

 

「おっさんメシメシメシ!!!」

 

「……ああ。でも君……逃げた方が」

 

 店の客や見物人が口をあんぐりと開け、店主が汗をダラダラと流しながらも、パニック状態が飽和したのか、それともプロとしての矜持なのか、手元だけは料理をきちんと作り、それを麦わら帽子を被った客に対して提供する。

 

「うっっっっめ~~~~~~~~っ!!! なんてうめェメシ屋なんだここは!!!」

 

「ああ……ありがとう……でも君……」

 

 麦わら帽子の青年は店主の注意など聞きもせず、一心不乱にメシをかっ込み始める。

 そんな時だった。店の中にまた新たな男が足を踏み入れた。

 

「ここか──おいお前ら!!! そこまでだ!!!」

 

「!!」

 

「?」

 

 店の中へ入るなり、強い口調で声を発した男に店の客が再びざわつく。

 白と緑に分かれた帽子──角が生えており、これまた白と黒に分かれたマスクをした目つきの悪い男の登場に驚きもしなかったのは食事を続けるルフィだけだった。

 だがその店内の状況を見てその男──Mr.6ことページワンは目を細める。

 

「いねェだと……?」

 

 店を見渡した上で呟く。そう、どこにもいない。そのお目当ての人物が。

 まさか部下共がいい加減な報告をしたのかとも思うが、確かにこの店からは強い気配を感じたのも確かだった。全くの嘘とは考えにくい。

 見れば店の壁が壊れている。そこから逃走を図ったか──そう思い、歩みを進めようとしたところで、多少はマシな気配を感じてその人物を見る。

 

「! お前は……」

 

「……?」

 

 つい先程手配書を確認したから分かる。

 店のカウンターに座って食事をこれでもかと頬張る男は“麦わらのルフィ”。

 懸賞金3000万ベリー。東の海(イーストブルー)出身の海賊だった。

 だがページワンの呟きとその姿を見てもルフィは頭に疑問符を浮かばせるだけで食事をやめもしない。店がこんな状況だというのに呑気な男だった。

 

「……(いや、それともこいつがまさか火拳を……?)」

 

「……ばべばぼまべ? (誰だお前?)」

 

 ──いや、そんな訳がない。

 そこそこの覇気は感じるが、それでも火拳に通じるような強さでないのは明らかだった。

 今ここにいるのは偶然騒ぎに巻き込まれたが、呑気にも食事を続ける間抜けなルーキー海賊が1人。それだけだ。

 ぬえさんにも出会っても手を出さないように言われているし、ここは無視しよう──そうページワンが考え、火拳を追おうとした……またその時だ。

 

「フザケやがっ……!!」

 

 壊れた壁の奥の奥の奥から起き上がり、住民に礼儀正しくお辞儀をした青年がずかずかと店へと戻ってくる。不意打ちを仕掛けてきた男が誰かとその面を拝むために。

 だが店へと戻り、そのカウンターにいる男を見て──あるいは戻ってきた男を見て、男たちは驚きを顔に表現した。

 

「ル……」

 

「!!」

 

「! 見つけ──」

 

 三者三様の驚き。

 

「おい!! ル……」

 

 そして真っ先に表情を喜びに変え、声を掛けようとした青年の頭が別の者に掴まれ地面へと叩きつけられる。

 

「麦わらァア!!!!」

 

「ウゲ!!!」

 

 海軍本部大佐“白猟のスモーカー”が麦わらに向かって吠えるように前に進み出てくる。

 それを麦わらのルフィは黙って見ていた。

 ──そしてお目当ての火拳のエースが突然海兵によって地面へ引き倒されたことに面食らったページワンもまた、その状況の中立ち尽くす。

 

「やっぱり来たかこの国へ……」

 

 ──バクモグガツガツボリボリサクサクムシャムシャ。

 

「食うのをやめろ!!!」

 

 海兵が目の前にいるのにも拘わらず食事を続けるルフィにスモーカーもさすがにツッコミを入れる。

 そしてその間にページワンは目の前の海兵に気づく。海軍本部の大佐──それも自然(ロギア)系の能力を持つ海兵ともなれば海賊の間でも名は知られているのだ。

 

「! ばもぼいもめうい!!! なんべばんべもばぴぴ(あの時のケムリ!! 何でこんな所に!!)」

 

「!! 野郎……!!!」

 

 そしてルフィもまた、ローグタウンで会った強い海兵を思い出し、途端に食いカスをスモーカーに向かって飛ばしながら慌てふためく。

 その予期せぬ行動にスモーカーが怒りを覚えた直後、ルフィは目の前にあった食事を全て口に詰め込み、店主には伝わらないごちそうさまの挨拶をすると、その場から逃走を図った。

 

「待てェ!!!」

 

「──ぐお!!」

 

 そしてその突然の逃走の経路にいたページワンは、麦わらの勢いに僅かに身体を逸らした直後──スモーカーに殴られて身体をくの字に曲げる。

 あまりにも不意打ちの出来事。それほど効かないにしても、ムカつくことには変わりない。

 

「あの海兵……!!」

 

 麦わらの男のことしか見えてねェ……!! その舐められっぷりにも怒りを覚え、火拳を叩き潰す前にあの海兵から潰してやろうかと思った直後──

 

「待てよルフィ!!! おれだァ!!!」

 

「がふっ!!?」

 

 今度は起き上がったエースに背中から踏みつけられ、レストランの床に顔面を叩きつけられてしまう。

 

「……食い逃げ……」

 

「……ページワン様!!?」

 

「一体何が……!!」

 

 思わずMr.6と呼ぶことも忘れ、床と熱いヴェーゼを交わすページワンに驚愕したのは騒ぎを見て店に入ってきたページワンの部下のウェイターズ達。

 だがページワンはすぐに起き上がった。彼は恐竜の能力者だ。この程度でノックアウトされる筈もない。

 

「くっ……あの野郎共……!!! フザケやがって……!!!」

 

 ただ怒りだけを覚え、ページワンはすぐにエースを追って足を動かす。

 ルフィとスモーカーは見えなかったが、エースの後ろ姿は見えた。だからページワンはそれを視界に捉えながらその名を呼ぶ。

 

「待ちやがれ“火拳”!!!」

 

「ああ……!? 誰だってんだこんな時に……!! って、げっ……」

 

 自分の弟を見つけて追いかけないといけないというそんな時に、自分を追いかけてくる何者か。

 海兵か誰かかと思って僅かに顔だけで振り返ると──そこにいたのはこの海で最も危険な連中の幹部。

 

「っ……なんでこんなところにいやがんだ……!!」

 

 さすがのエースもその追手には苦い顔を浮かべる。

 海兵も面倒だが、厄介さではこちらの方が面倒だと思いながらも身体を火に変え、前方に見えてきたルフィとスモーカーの間に割って入る。

 

「逃がすかっ!!! “ホワイト・ブロー”!!!」

 

「“陽炎”!!!」

 

「!!?」

 

「え!?」

 

 スモーカーの煙の拳──それを炎によって防ぎ、エースは弟達を背中に立ち塞がる。

 

「──てめェか」

 

「やめときな」

 

 それを見たルフィ達も立ち止まる。スモーカーもまた立ち塞がる相手には警戒し、足を止めざるを得なかった。

 何しろ相手は“白ひげ海賊団”。それも炎の能力を持つ自然(ロギア)系の能力者。

 

「お前は“煙”だろうがおれは“火”だ。おれとお前の能力じゃ勝負はつかねェよ」

 

「……! 誰なの……!? あれ……」

 

「エース……!?」

 

「変わらねェな──ルフィ」

 

 身体から炎を立ち昇らせながら言うエースと、その姿に気づいたルフィ。

 2人の兄弟は数年ぶりに言葉を交わす。

 だがゆっくりと話をしている暇はなかった。──海兵達の背後から、“百獣”の軍団が迫りくる。

 

「──どけ雑魚海兵共!!!」

 

「……!!?」

 

「スモーカー大佐!!?」

 

 煙となったスモーカーの身体が、横腹を後ろから殴られ、建物を貫通して吹き飛ばされる。

 不意打ちの一撃。それにも驚いたが、何よりもそれを見た者達──主にその知識のない海兵や麦わらの一味を驚かせたのはその結果そのものだ。

 

「今度は誰だ!!?」

 

「おいおい……!! ケムリ野郎が吹き飛んだぜ……今度はどんなびっくり人間だ!?」

 

「……? あの顔……どこかで……?」

 

 ルフィを追いかけて現れた煙の能力者である海兵に、突然それを防いだ身体を炎にすることの出来るルフィの知り合いらしい男。そして煙になれる海兵の身体を打撃で吹き飛ばした謎のマスクの男に麦わらの一味は騒然とする。

 ビビだけはその顔を見て訝しげに頭を捻っていたが、考え込んでいる時間はなかった。

 

「チッ……これじゃ話もできやしねェ……おいお前ら逃げろ!! こいつらはおれが止めといてやる!!」

 

「エース……わかった!! 行くぞっ!!」

 

「え!? 何あいつら、誰なの!?」

 

 エースの言葉に一瞬、何かを思ったルフィだが、その兄の言葉を信頼してその場は任せることに決める。仲間の困惑をよそに逃げるぞと指を指すルフィに仲間達もまたその場から走り去る。

 残ったのはエースに海兵。そして……ページワン率いる百獣海賊団の面々だった。

 

「……変装してるみてェだが、おれの目は誤魔化せねェぞ。お前ら……“百獣海賊団”だな?」

 

「!!?」

 

 エースの言葉に海兵達、そして周りでそれを聞いていた住民達が顔色を変える。

 

「ひゃ、百獣海賊団!!?」

 

「ほ、本当にあいつらが……!!?」

 

「新世界の海賊が……なんでこんなところに……!!?」

 

「……チッ、あっさり言っちまいやがって……」

 

 途端に恐れを懐き、腰を抜かす者まで現れる周囲の反応にページワンはため息を吐いた。

 何しろ今の自分達はMr.6とその部下のミリオンズ──バロックワークスの一員として変装しているのだ。

 ゆえに百獣海賊団のシンボルの描かれた物は全て外し、戦闘員の服装も革パンやマント、ビキニアーマーなどではなく、この国で手に入れた適当な服装を身に着けている。

 だがエースはページワンの顔を見てすぐに気づいた。ページワンもまた、エースに対しては素性を隠そうともしていなかったが……ここまで言われてしまっては仕方ない。

 

「……やる気か? “飛び六胞”だったか……悪いがそのレベルなら2年前に一度戦ってる。今のおれを相手にするなら少し不足だ」

 

「小紫のことか……あの新入りがおれ達のレベルだと思われちゃ困るな……!! それをここでわからせてやる……!!!」

 

 そして両者共に覇気を纏わせ、戦闘態勢を取る。炎に対して構わず突っ込んでいくページワンに、どうにかしてそれを撒こうと考えるエース。

 

「……!! 白ひげに百獣……!? 一体この国に何があるってんだ……!!?」

 

「スモーカー大佐!! ご無事で!!?」

 

 そしてページワンに吹き飛ばされたスモーカーも口から血を吐き出しながらも何とか立ち上がる。スモーカーの身を案じ、しかし海賊達を捕まえようと職務に則り武器を構えた海兵達には、大勢の海賊達が立ち塞がる。

 

「おい野郎共!! 海兵共の相手をしろ!!!」

 

「了解だ!! ページワンさん!!」

 

「ギャハハハハ!! 戦闘だ~~~!!」

 

「ハハハ……!! てめェら誰を相手にしてんのかわかってんのかァ!!? こっちは“百獣”だぞ!!」

 

「っ……!!」

 

 人を害する武器を嬉々として手に取り、海兵相手に暴れられることを喜ぶ百獣海賊団の戦闘員。

 本部の海兵とはいえ人間だ。それに彼らは東の海(イーストブルー)で勤務していた海兵達。

 新世界の海賊相手、それも“百獣”が相手ともなれば恐れを抱くのも当然だった。

 そしてその間に、新世界レベルの実力を持つ2人が腕を黒く硬化させ──遂に激突する。

 

『百獣海賊団“飛び六胞”ページワン 懸賞金5億1000万ベリー』

 

『白ひげ海賊団二番隊隊長“火拳のエース” 懸賞金5億5000万ベリー』

 

「てめェは見つけ次第、始末するか捕らえろってカイドウさんに言われてる……!! 大人しく捕まりやがれ!!!」

 

「どいつもこいつも……会うなりそれか。悪ィが人を待たせてるんだ、お前らの相手をしてる暇はねェ!!!」

 

 

 

 

 

 ──“アラバスタ王国”近海の小島。

 

「さ、ここでいいかな? ──それにしても久し振りだね~♪」

 

「……お前と懐かしむような良い思い出は1つもない」

 

 辺りには何もない。強いて言えば多少の草がある程度の平面の大地の上で、ゼファーとぬえは対峙する。

 その体格はまさに大人と子供。巨漢のゼファーに対してぬえはそこらの町にいる少女と背丈も見た目も変わらない──が、その実力と悪辣さは言語に絶する。

 

「え~~!! そんなこと言わないで語り合おうよ~!! 今じゃ昔話が出来る相手も少ないんだからさぁ!! ほら、昔は良かったよね!! 皆イキイキとしてたしさ!!」

 

「……昔も今も変わらねェ。海賊というクズ共が世に蔓延ってやがる……てめェらはどうしようもねェ害獣だ」

 

 そしてそれを感じさせないのもまた妖獣の恐ろしさだ。その実物……可愛らしい少女の見た目をしているぬえには誰もが油断をする。女のそれも子供相手を本気で殴りつけられる者は少ない。善人であればあるほどその傾向がある。

 

「ん? そうかな? あなたにとっては──妻と子供が生きてて、教え子をまだ死なせてない昔の方が良かったんじゃない?」

 

「……!!」

 

「! 貴様……!!!」

 

 ──この躊躇なく地雷を踏み抜く性根もそうだ。

 妖獣は他人の気持ちを考えない──否、考えた上でそうするのだ。

 悪気がなく悪を為す相手より、悪気があるほうが可愛げがあるとも言うが、それにも限度というものがある。

 人の気持ちを慮った上で、ぬえという妖怪は自らのエゴ……人に恐怖を与え、自らが面白いと感じることのために動く。

 略奪、破壊、拷問、虐殺……時には人の助けになるようなこともあれど、やはりその多くは身勝手で悪辣なもの。

 まさに獣の所業だ。ゼファーがかつて認めた信念ある海賊達とは違う。

 信念はあっても、その信念は到底認められない唾棄すべきものなのだ。

 ゆえにここで殺さなければ、そのツケは次々に回ってくる。

 

「そんなに年老いて腕も斬られちゃってさ。いやほんと──」

 

「──黙れ!!!」 

 

 ゼファーは右腕の義手──スマッシャーを構え、ぬえを憎々しげにサングラスの奥から睨みつける。

 この相手は自身の右腕を斬り落とした海賊よりも強大で凶悪だ。全力を賭して絶たねばならない。

 

「御託はいい……!! 今日、おれはお前を地獄に落としてやる……!! このおれの命に代えても……!!!」

 

 だから何の犠牲もなく倒せるとは思っていない。

 ゆえにゼファーはここで己の命を使う気であった。何をしてでもこの怪物を殺す。その決意をもってここにやってきたのだ。

 ──だがぬえは。

 

「え? あなた何言ってるの?」

 

 首を傾げ、小馬鹿にするようにぬえはけらけらとゼファーの決意をささ笑う。

 

「あなた1人で私を倒せる訳ないじゃない。やるならあなた達全員……ま、それでも私を殺すなんて不可能だけどね──それがわからないなんてよっぽど耄碌しちゃったのね」

 

「……!!」

 

「っ……貴様……言うに事欠いてゼファー先生を愚弄したな……!!」

 

 ゼファーの決意を笑った相手に、彼ら──ゼファーについて行き、密かにゼファーが止めようとも一緒に戦うことを決意していた海賊遊撃隊に所属する海兵達も怒りを見せる。

 

「おっと」

 

「!! ビンズ!!」

 

 その怒りは行動になって表れた。

 海兵の1人──ゼファーの右腕を斬り落とした海賊の襲撃の生き残りである副官ビンズは奇妙な踊りと共に地面から植物を生やし、ぬえを強く締め付けて拘束した。

 

「モサモサ~~!! ゼファー先生への侮辱……!! 断じて許すまじ!!! その命を以て償ってもらう……!!!」

 

「ええ……!! 貴様は存在自体が罪深い……!!!」

 

 そしてもう1人──副官のアインが手に不思議なエネルギーを溜めてぬえへと“剃”を用いて近づき、ビンズの“モサモサの実”の能力で拘束されたぬえへと触れる。

 

「“モドモド”!!」

 

「!」

 

 それは“モドモドの実”の能力。

 触れた対象を12年若返らせるという能力であり、これによってアインは多くの海賊を子供の姿にして戦闘能力を低下させた上で捕らえたり、あるいは何度もその力を使って存在を消滅させてきた。

 危険な力であり、多用は避けているが相手が相手なだけにアインはこの力の使用を躊躇わない。少しでも戦闘能力を低下させるために、そしてあるいは存在を消すためにアインはそのエネルギーをぬえに触れさせた──しかし。

 

「──あー、それがモドモドの実の力って奴ね~♡」

 

「!!? なっ……!!」

 

 ──それは意味を為さなかった。

 ぬえの姿は一切……何一つ変わっていない。

 歳を取ってない筈がない。そんな生物はありえない。存在しない。

 しかしやはり……ぬえは本当に歳を取っていないか、老いても見た目が変わらないのか。

 俄には信じがたい結果にアインは動揺した。それはビンズや他の海兵も同様だった。

 

「生憎と……」

 

「!!」

 

 ぬえはその動揺をにやにやと笑いながら眺め、そして力を軽く出して植物の拘束から抜け出して言う。

 

「──私、永遠の14歳だから♡ そんな力、何度使っても無駄なのよね♡」

 

「くっ……!! モドモド……!!」

 

「っ……モサモサ……!!」

 

「待て!! アイン!! ビンズ!! 退け!! 不用意に手を出すな!!!」

 

 それは恩師であるゼファーを侮辱された怒りから来るものなのか、アインとビンズは先程と違って明らかに隙のないぬえに向かっていく。

 それをゼファーは止めた。隙を突いて攻撃するならともかく、不用意な特攻は致命傷を負いかねないものだと彼は知っている。

 ゆえに制止を掛けたが……その声は少しばかり、遅かった。

 

「──はいざ~んねん♡」

 

「あ……」

 

「っ……!!」

 

「アイン!!!」

 

 ──アインの胸に三叉槍が突き刺さる。

 それはあまりにも一瞬で……そしてあまりにも呆気ない。

 若くして海軍中将にまで昇りつめたアインは決して弱くはない。油断もしていなかった。

 強いて原因を上げるなら──

 

「ちょっと弱すぎかな」

 

 ──相手が()()()()

 胸に刺した槍を抜き、ぬえは倒れるアインをつまらなそうに見下ろす。

 ゼファーはそれをゆっくりと見ていた。

 また止めることが出来なかったと。

 以前と同じ。また海賊に教え子を奪われた。

 

「っ~~~……お前達は……!!!」

 

 ゼファーは声を詰まらせる。

 なぜ……なぜ“正義”は報われないのか。

 

「お前達は……なぜ罪なき人を……!!! そう簡単に殺せる……!!! どうしてそんな酷いことが出来る!!! そうやって……どれだけの人間を殺して来たんだ!!?」

 

 なぜこの世は悪が栄える。

 この海は正義を為す者になぜこんなにも厳しく、苦しい思いをさせるのだ。

 大海賊時代……海賊はなぜこうも大事なものをあっさりと他人から奪えるのだ。

 身体を軋ませ、怒りと失意に胸を震わせながら問いかける。あのロジャーの時代から生きる悪辣な海賊達の頂点とも言える怪物に、その理由を問うた。

 だがその答えは──

 

「──あなたは今まで食べてきたパンの枚数を覚えてるの?」

 

「……!!!」

 

 ──理解不能なものだった。

 ぬえという怪物にとって、人に恐怖を与えることは日々の食事に等しい何ら変哲もない日常なのだと。

 

「だって生きてるんだからしょうがないと思わない? 生き物って他の生き物を食べたり害さないと幸せに生きていけないんだしさ。私としても、モドモドを()()()()使う気がないこの子を生かしておく必要はないし──ああ、それとは関係ないけど私、これでもちょっと解せないというかちょっとイラッとすることがあってね?」

 

「黙れ……!!! もう……貴様の声をこれ以上聞きたくはない……!!!」

 

 話が通じないイカれた獣。

 見た目は人間の少女でも発言、行動は畜生のそれだ。もはや何を言っても無駄であり、何を言われてもその価値観が理解出来ることはない。

 

「いやほら、あなた達って私を殺すために派遣されてここに来てる訳だけどさぁ……ちょっと本気度が足りないというか……ひょっとしてあなた達って私のこと、舐めてない?」

 

「……もう黙れ。貴様の言うことは何一つ理解が出来ん……!!!」

 

 スマッシャーを構え、覇気を込める。海楼石で出来たこの兵器は能力者を相手取るには絶好の武装だ。

 この不快な獣を駆除するために対能力者に特化した自分達がやってきた。断じてこの妖獣を侮ってはいない。

 

「いや、ここにいるのが……例えばカイドウだったら、あなた程度じゃ済まないでしょ? 軍艦ならバスターコールかそれ以上の数で、それを率いるのは最低でも大将くらい──まあガープとかならまだわかるんだけど……今ここに来てるのは実際にあなた達だけ」

 

 わかる? と、そう言ってぬえはその瞳を人の物から獣の物に変えた。

 

「──この程度で対処出来るって……私のこと、相当舐めてると思わない?」

 

「……!!!」

 

 ──ぬえの気配が変わる。

 その場に怪しい気配が空気が充満する。嫌な空気が首筋を撫でつけ、背筋を震わせる。

 それは覇気。それも覇王色の覇気だが、ぬえのその得体の知れない雰囲気が混じったそれは、例えるならば“妖気”にも等しいものだ。

 気の弱い者であれば失神し、耐えたとしても恐怖する。

 この世に本物の妖怪がいるとは思わないが、もしいるとすればそれを目の前にした時はこういう気配を感じるのだろうと歴戦のゼファーにさえ思わせるもの。

 その気配を纏わせながら、ぬえは唇を三日月の形に変えて彼らに囁く。

 

「侮られるのって有利だし、人を騙すのも私は好きだけど……舐められるのって嫌いなのよね。海賊としての面子もあるしさ」

 

「……!! これは……!!?」

 

 周囲に黒い霧が漂っていく。

 それはその島全体を覆い、特にぬえの周囲はぬえの姿が視認出来なくなるほどに濃くなっていく。

 見えるのはその輪郭だけだ。ゼファーと海賊遊撃隊の面々は本能が警鐘を鳴らし、全力で警戒態勢を取る。

 だがぬえはそれを見てけらけらと笑った。彼女には彼らの恐怖が手に取るように分かるのだろう、彼らの恐怖をせせら笑う。

 

「だから……今回は特別サービスとして──()()で戦ってあげる」

 

「!!?」

 

 ──弱き者は死に、強き者は生きる……この世はただそれだけだ。

 少女の在り方、そしてその姿はそれを象徴したもの。

 

「感謝してよね? ()()姿()を見せるのはカイドウ以外だとあなた達が初めてなんだから……!!」

 

 輪郭が変化していく。

 全体的に身体が少し大きくなり、手足に当たる肘と膝先の部分が虎のように変化し、蛇のような尾が伸びている。変わった形の赤と青の羽の形は変わらず、髪は僅かに伸びて炎のように揺らめいていた。

 

「な……なんだ……あれは……!!?」

 

「ば、化け物……!!」

 

「……!! 怯むな!! ただの動物(ゾオン)系の変型だ……!!」

 

 そう、それは言ってしまえばそれだけのもの。

 だがその恐ろしさ、異形さは動物(ゾオン)系の中でも異質であり、比類なきもの。

 そして何よりも……その力は先程までの少女の姿より格段に強い。

 

「この姿を見せたからにはあなた達には死んでもらって、私の正体不明と恐れを取り戻さないとね」

 

 黒い霧の中で、ぬえの赤い獣眼が海兵達を捉えて輝く。

 

「鵺の恐怖を忘れた人間よ!!! 正体不明の最恐生物(わたし)に怯えて死ね!!!」

 

「!!!」

 

 そして彼らは知る。

 最恐生物の何たるかを。なぜ彼女が四皇の二番手でありながら数十億という懸賞金を掛けられているかを。

 だがその危険度は圧倒的に過小評価であることを。彼らは知り──その代償として死という恐怖に落とされた。

 

 

 

 

 

 ナノハナ外れの海岸には一隻の海賊船が停泊していた。

 

「兄ちゃん!?」

 

「さっきの奴は……お前の兄貴なのか!?」

 

「ああ。おれの兄ちゃんだ」

 

 麦わらの髑髏を掲げる海賊──麦わらのルフィとその仲間達は先程町で見た顔にそばかすのある青年の話に花を咲かせていた。

 その話の内容は、エースという名の青年は船長ルフィの兄であり、3年早く海に出て海賊となったことや、昔は生身であったのにルフィは一度も勝てないほどの強さを持つなど、ルフィが笑みと共に語るもの。

 だがその話が一通り終わったところで、彼らはその遅さに違和感を持ち始める。

 

「エースの奴、遅いな~~~……」

 

「……まァあのケムリ野郎が相手なら幾らお前の兄貴でも撒くのに手間取るのかもな」

 

「ああ。それによくわからねェ連中までいやがったしな」

 

 ルフィの呟きに彼の相棒である“海賊狩りのゾロ”、そしてコックのサンジが所見を述べる。この一味の腕っぷしトップ3の彼らの目から見ても、エースの強さは確かなものなのだろうと見ていた。

 だがその相手──身体を煙に変える海兵と、それを殴り飛ばした謎のマスク男もまた実力者だろうと見ており、その二者を相手にするなら少し時間が掛かるのも当然だった。

 一味とビビにはやるべきことがある。いつまでもここで駄弁っている訳にもいかないため、そろそろどうすべきかという雰囲気が流れ始めたその直後。

 

「──ハァ……よっと」

 

「! エ~~~~ス~~~っ!!」

 

「よう」

 

 船の縁へと飛び乗ってくるその男──エースを見てルフィは嬉しそうに声を上げる。エースもまた久し振りに見る弟の姿に笑みを零し、弟の仲間に対しても礼儀正しく挨拶をした。

 だがそのまま話をするにはエースの状態を無視は出来ない。船医であるヒトヒトの実を食べたトナカイ、トニートニー・チョッパーが声を上げる。

 

「怪我してるぞ! 治療を……」

 

「ああ、お構いなく。まあこんくらいはかすり傷だ、ハハ」

 

 エースの身体に幾つかアザと切り傷があるのを見てチョッパーはそう言ったが、エースは笑って気にすることはないと気遣いを拒否する。実際、それほどマズい状態という訳ではないし、エースも平気そうにはしていた。

 

「……手練だったのか?」

 

「あー……まァな。ちょっと撒くのに手間取っちまった」

 

「エースが怪我するなんて強ェんだなァ……知り合いなのか?」

 

「ん……いや、一応初対面だ。Mr.6とか名乗ってたが……」

 

『Mr.6!!?』

 

「?」

 

 ゾロとルフィの質問に何気なく告げたエースの答えに一同が驚愕する。特にビビった様子なのは一味の狙撃手であるウソップと航海士であるナミだった。ナミはその相手取る組織に最も詳しいビビに対して質問する。

 

「る、ルフィの兄貴と互角に戦うような奴がMr.6!!?」

 

「ビビ! さっきの奴のことは……!!」

 

「いいえ!! Mr.6はあんな見た目じゃないわ!!」

 

 ビビは否定する。ビビの記憶の中にあるMr.6とは見た目が違いすぎるし、その強さも本当ならありえないことだ。

 

「Mr.6はフロンティアエージェントのトップ。勿論、弱くはないけど……それでもMr.5やMr.3に比べたら実力は圧倒的に劣るわ……!!」

 

「……なるほど。説明がつかねェな……おれァてっきり、もっと上のNo.(ナンバー)の奴かと……」

 

「……確かに、私はMr.1のペアには会ったことがないからないとは言い切れないけど……でもあの人がMr.1なら、エースさんよりもボスの正体を知ってる私達の方を狙う筈……」

 

「ああ。そもそも向こうはおれ達のことはもう始末したと思いこんでる筈だ……どこからか……この間会ったMr.2って奴からバレたとしても、刺客を放つにはあまりにも早すぎる……」

 

 ゾロの勘違いにビビがその可能性は低いと言い、サンジもまたリトルガーデンで自らがMr.3を騙って報告したことを理由に解せないと述べる。

 だがやはりバレていたとしたら、そしてそのMr.6と名乗る人物が本当にバロックワークスの手先なら、なぜビビ達を狙わないのか。

 Mr.6が本当にMr.6であったとしても不可解。そうではない別のNo.の……仮にMr.1だとしても不可解。

 そして組織の者ですらなかったとしたら……なぜMr.6を名乗っているのかという新たな疑問が浮上してくる。

 バロックワークスの存在は政府ですら掴めていない筈なのだ。それを知る謎の人物……ここに来て更に得体の知れない相手に対する不安が渦巻く。

 

「……よくわからねェけど、どっちにしろブッ飛ばせば良いんじゃねェのか?」

 

「……相手が社員ならそれでも構わないけど……もし、相手が第3勢力なら……余計な敵を増やすことに……!!」

 

 そしてルフィの細かいことなど考えずにブッ飛ばすという提案もビビによって否定される。

 その謎の人物“Mr.6”の正体が判らないことには迂闊に手を出すことも出来なかった。

 

「……あー、ちょっといいか」

 

「!」

 

 と、そこで話を見かねて声を上げたのはエースだった。

 彼は何か思案顔になり、首をひねり迷っていた様子だったが、何かを危惧してか少し真面目な顔で問いかける。

 

「話したくなきゃ構わねェんだが……ルフィ。お前ら、一体誰と喧嘩しようとしてんだ?」

 

 エースのその質問に、ビビの許可を得た一味はその経緯をエースに説明する。ルフィの兄であり、白ひげ海賊団に二番隊隊長。素性も知れており、信頼出来る相手だというのは明らかだったため、話すことに問題はない。

 仮にバロックワークスの刺客に狙われてもそれを跳ね除けることの出来る強さを持つ人物でもあるのだ。

 

「……なるほどな。七武海のクロコダイルが国盗りね……」

 

 そして説明を聞くなり、エースは再び事実を呟きながら思案する。

 海賊が国の王になるなど、何の冗談だと言いたいところではあったが、実例は幾つもあることをエースは知っている。

 国王の立場を持つ七武海の海賊は確か2人ほど存在したし、それ以外でもエースの所属する白ひげ海賊団と同格の海賊の中にはそういった海賊もいる。

 ゆえにありえないことではないが……海賊が国盗りをするということは、そこに何らかの“裏”が、目的があるに決まっていた。

 加えて先程エースが交戦した相手までこの国にいるとなると……。

 

「……しょうがねェ──ルフィ」

 

「ん? なんだ?」

 

 エースは意を決して口にする。自分にも大事な目的はあるし、これは弟の冒険だ。どんな苦難であってもそれはルフィの冒険であり、兄であっても別の海賊団である自分が手出しする必要はない。七武海と戦うというなら戦えばいい。

 だが……こんな偉大なる航路の前半で、弟とその仲間があの連中に危害を加えられるかもしれないともなれば……放置は出来なかった。

 

「そのMr.6の正体に、おれは心当たりがあるし、ちょっとした因縁もある」

 

「うん」

 

「だからそいつらだけは……おれが面倒見てやる。しばらく行動を共にしても構わねェか?」

 

「──ああ、いいぞ!!」

 

 そうしてルフィのあっさりとした承諾により、エースはほんの少しだけ麦わらの一味と行動を共にすることにした。

 

 

 

 

 

 ──ナノハナの外れの入江。

 

「クソ……火拳の野郎……逃げやがって……!!」

 

 そこにいたのは普段と違う格好の百獣海賊団の面々。

 町で騒ぎになってしまったのを見かねて一度人気のない場所まで退避したページワンとその部下達が砂漠を越えるための準備を行っている。

 後は戦闘によって多少負傷した者達の治療だ。彼らが如何に強者とはいえ、相手が相手なだけに戦闘で全くの無傷とはいかなかった。

 

「ページワンさん!! あんた、随分と炎を食らってたが治療は……?」

 

「ああ、問題ねェ……放置してたら水ぶくれになりそうだが……それも直に回復する……!!」

 

「その程度!!?」

 

 先程の戦闘で何度も“火拳のエース”の炎をその身に食らったページワンだが、火傷の傷も軽度で済むほどのタフさを自然と見せつけ、下っ端達を驚愕させる。

 ギフターズ、そして本物の悪魔の実の能力者と比べても、動物系古代種の力を持つページワンの耐久力と回復力は普通ではなかった。

 

「だが火拳の野郎を仕留めきれなかった……クソ……失態だ」

 

 だがその力をもってしても“火拳のエース”は仕留めきれなかったのだ。

 白ひげ海賊団の二番隊隊長にして、元スペード海賊団の船長である男の強さは知っていたし、その評判は新世界の海にも轟いている……が、そんなことはここでは関係ないことだ。

 相手が四皇やそれに準ずる実力者であったのならまだしも、たかだか隊長、それも自分と歳の近い相手であれば仕留めきれないのは失態でしかない。

 自分達は百獣の一員。敵は必ず叩き潰してその力と恐怖を叩き込むのが使命だ。

 それが出来ないのは失態なのだ。カイドウやぬえが気にしなかったとしても、それに甘えることはプライドが許さない。

 

「どうします? 捜索しますか?」

 

「……いや、砂漠越えの準備を続けろ。探しても見つかる可能性はもうないに等しいだろうからな……」

 

「はい!!」

 

 そして一度取り逃がしたのなら見つかる可能性は低い。

 それに今の任務はあくまで別にある。エースを見つけて捕らえることは手柄にはなるだろうが、それに目が眩んで仕事をしくじる方がありえないことだ。

 

「それで、ぬえさんへの報告はどうします?」

 

「! ああ……だが戦いが長引いてる可能性もある。終われば連絡は向こうから──」

 

「──私のことを呼んだ~~!!?」

 

「!! ぬえさん……!!」

 

 報告について部下へ指示を出そうとした直後、不意にぬえが岩場の影から現れる。

 相変わらず神出鬼没な人だ、とページワンは軽く汗を流す。見聞色の覇気をそこそこ鍛えたくらいでは、ぬえの存在を察知することは難しい。

 

「……まさか、もう戦いが……? 相手はあの元海軍大将だった筈じゃ……」

 

「あー、そうだね。もう()()()()()──ほら」

 

「うおっ!!?」

 

 ぬえがどこからともなく取り出したその人間の頭部を見て、それを渡された新入りの部下が驚き戦慄する。……驚いたのは新入りだけではなかったが。

 

「ん~~~~っ!! いやぁ、この間のドラゴンとの戦いは不完全燃焼だったし、久し振りに本気の本気で戦ってみたんだけど、思ったより粘ってくれなくてさぁ。やっぱり多少強くても体力が衰えてる老人はダメだね。こっちはその意地に期待して一日くらいは粘ってくれるかなーって期待してたんだけど、結局すぐに終わっちゃった♡ ──あ、冷たいお水ちょうだーい」

 

「へ、へいっ」

 

「…………」

 

 ページワンが座っていた近くの木箱の上に足を組んで座り、部下に水を要求するぬえを見て誰もが畏怖する。

 ぬえが沖に戦いに出たのは僅か数時間前の出来事だが、その数時間で元海軍大将を含む海軍の精鋭部隊を皆殺しにするその圧倒的な強さは、やはり力を信奉する百獣海賊団であれば誰もが恐れ、憧れ、尊敬するものだ。

 そのムチャクチャっぷりも含めて、ページワンはよく知っている。姉と共に、小さい頃から百獣海賊団の中で育ったのだ。姉などは特にカイドウとぬえを親のように慕っているし、ページワンも尊敬している。……振り回されてため息が出ることもあるが。

 

「えっと……ぬえさん。この首はどうします?」

 

「大事に保管しといてね~♪ 後でマリージョアに着払いで送るんだからさ♡ 手紙の文面は何にしようかな~? 今の内に考えとかないとね!!」

 

「……ぬえさん。少し報告が……」

 

「ん? どしたの? ──あっ! もしかしてあのエースと会って交戦でもした? そしてここにいないってことは取り逃がしたとか?」

 

「! ……申し訳ねェ……その通りで」

 

 先程のがっかりしたような言葉の内容とは裏腹に、機嫌が良さそうなぬえにページワンが報告をしようとすると先んじて報告の内容を当てられる。

 見聞色で先読みでもしたのか、それとも本当にただ当てたのか、考えてもわかりっこないため、ページワンはただそれを認めて謝った。

 だがそれに対してぬえはけらけらと笑うのみで──

 

「あはははは!! いやいや全然いーよ!! ぺーたんはまぁまぁ強いけどエースもそこそこ強いしね!! 失敗するのもしょうがないって!! どんまいどんまい♪ 次はがんばろー!!」

 

「次は必ず仕留めてみせます……!!」

 

 やはりぬえは失敗を責めなかった──が、それは百獣海賊団にとって珍しい光景でもない。

 勘違いされやすいが、百獣海賊団は敵や身内以外には残虐でも、海賊団に所属する部下……特に強者に対して理不尽な制裁やお仕置きなどはない。基本的にカイドウもぬえも部下の失敗を責めることはないのだ。するとしてもよっぽどの失態で酔った状態であればあるが……それでも基本殺したり拷問したりするようなことはないと言える。

 軽く痛めつけるようなお仕置きがあるのは特に真面目な大看板のジャックくらいのもので、それ以外は精々口でなじる程度。それで充分なのだ。

 誰もがカイドウとぬえを尊敬し慕っているし、今の地位に胡座をかいて堕落や失敗をよしとするような奴は百獣海賊団には存在しない。

 弱く、下の地位であれば強くなり、上位の地位に。

 強さを得て、上位の地位を得てもまた更に強くなり、カイドウとぬえのために。

 

「オーケーオーケー!! それじゃあ次はアルバーナへレッツゴー!!! 準備を急げー!!!」

 

「はいっ!!」

 

 ──力を得てなお力を求め、破壊と恐怖のために突き進む。

 休むことなき進撃はまだ始まったばかり。血を欲しがる獣の群れは更なる血の匂いに釣られ、陰謀渦巻く内乱の中心地へと向かった。




麦わらの一味→エースと初顔合わせ。ついでに百獣とも
ビビ→思い出せませんでした
スモーカー→覇気でまた殴られる。一発KOじゃないだけマシ
エース→ページワンと戦闘。何気にうるティと同い年。百獣海賊団からはかなり目をつけられている。そしてルフィ達と行動を共にします。アニメ版かな?
ぺーたん→エースと海軍と戦闘。百獣海賊団は向上心高い奴多いよね。
ドゥラーク→次回は涙なしでは見られない
ビンズ→ゼファーの教え子で生き残りだった。死亡。
アイン→死亡。モドモドの能力はぬえちゃんに通じてはいるので5回くらい使えばちゃんと消滅させられる。
ゼファー→ぬえちゃんと戦闘して死亡。長時間の戦闘が出来ない縛りは無謀でした。ちなみに後でまた尊厳破壊というか死体蹴りがあります。好きなキャラなのに……
ぬえちゃん→部下だけを残して1人ゼファー達を迎え撃ちに行った。舐められてると感じたので本気の本気で惨殺するために人獣型を披露したぬえちゃんも可愛い。

今回は繋ぎということでこんなところで。次回はアラバスタ編終わりまでやります。ドゥラークさんが職場見学をして号泣したり、ぺーたんがアルバーナで暴れてワニワニパニックが起きたり、ぬえちゃんがまた可愛かったりです。

それと、Twitterには告知したのですが、PCがぶっ壊れて執筆環境の復旧に少しかかります。一週間から10日前後を見てるので、次回の投稿は少し伸びてそれくらいになることをご理解いただければと思います。

感想、評価、良ければお待ちしております。
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