正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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理想郷

 バロックワークス社の最後にして最大の作戦──“ユートピア”。

 それはこのアラバスタ王国に眠るある強大な軍事力を手に入れるための壮大な作戦だ。

 そのため招集されたバロックワークス社のオフィサーエージェントは最後の指令を全うするために国王軍と反乱軍──100万を超えるうねりが激突する首都アルバーナへと向かう。

 だが……計画には不測の事態が付き物だ。

 このアルバーナにいる勢力は今、大きく分けて6つ。

 反乱軍を迎え撃つ国王軍に、首都を攻め落とさんとする反乱軍。そしてその戦いを煽るバロックワークス。

 その戦いの真実を知り、王女の願いを聞いて反乱を止めるためにやってきた海賊──“麦わらの一味”。

 己の正義を為すためにやってきた海軍。そして──

 

「あっはっはっはっは!!! さすがに壮観ね……!!!」

 

 宮殿前広場の建物の屋上から見える光景に、心底楽しそうに笑う少女──ぬえ。

 その怪物が率いるのはこの戦いにただの祭り感覚で参加しに来た“百獣海賊団”だ。

 

「国王軍に反乱軍……!! 200万人以上の人間が殺し合う戦場……ふふふ♡ ここでライブなんてしたら楽しそうね♡」

 

「ぬえさん!! 準備出来ました!!」

 

 怒れる200万のうねりは地響きや砂塵となり、この砂の大地を揺るがす。

 それを余す所なく見物するための準備を整えた彼らは、少女と共に戦場を眺めた。

 だが……彼らが眺めるだけで終わる筈がない。

 

「ご苦労様!! ほら、あなた達も参加する前に一度、よく見ておきなさい!!」

 

 ぬえは言う。この光景こそが我々が望む世界なのだと。

 

「これだけ多くの生き物が殺し合う……これほどの楽園を見れることは中々ないわ」

 

「すごい数ですね!!」

 

「そう、かなりの数よね♡ 滅多に見られるものじゃないけど……でも、それは今だけよ」

 

 そう。これだけ大規模な戦いが珍しいものとして語られるようになるのも今だけ。

 なぜならこれから先の時代、彼らが世界を握った時──それは珍しいものではなくなるのだから。

 

「あなた達……新入り達も覚悟しなさい!! この光景が世界中で見られるようにするのよ!! これから先、100万や200万程度じゃない……世界中の人間が暴力に手を染めるか、恐怖に怯えるかを選ぶことになる!!! あらゆる場所で戦争が行われ、力によって何もかもを掴み取れる暴力の世界!!! それが私達の目指す世界よ!!!」

 

「ウオオオ~~~!!!」

 

「最高だァ!!!」

 

「ゾクゾクしてきたぜ……!!!」

 

 彼らは皆──“力”を求めて海賊になり、かつては海賊王を目指して遥々新世界まで航海してきた無法者達。

 そんな彼らが夢見るのはやはり無法の世界だ。世界政府の作るつまらない法もルールもない。強き者だけが全てを手に入れる暴力の世界。

 最強の百獣に負けた彼らは一度は挫けたが……その自らを折った圧倒的な強さに憧れを懐き、忠誠を誓うことで自らも獣の群れと化す。

 

「今はまだそのための準備を行う時よ!! 世界中を戦争に巻き込むための鍵が1つ!! この国に眠ってる!!! 私達はこれからそれを獲りに行くわ!!!」

 

 そして彼らは知恵のある獣。目的のためには手段を模索し、それまでの時を耐え忍ぶ事もできる。

 暴力の世界を作り上げるために必要な鍵──それこそがバロックワークスも狙いをつける最強の軍事力なのだ。

 

「ページワン!! バオファン!!」

 

「はっ!」

 

「あい!!」

 

 獣達を統率する幹部──真打ちの内の2人にぬえは命じる。

 

「あなた達は部下を引き連れて戦場で適当に暴れてきなさい!!」

 

「あい!!!」

 

「わかりました」

 

「ま、休憩を兼ねた撹乱みたいなものだけど……注意してね? 雑魚ばかりとはいえ、少しはマシな奴もいるし……特にページワンにとっては因縁の相手もいるみたいよ♡」

 

「! ……必ず捕まえてみせます」

 

「やり過ぎないように程々にね♡ 他のみんなも皆殺しはしないように!! 殺しは1人500人くらいまで!!」

 

 暴れてこいと命令し、誰もがそれを快く了承する。

 むしろ制限を掛けられること自体が残念にすら感じるほど、獣達は血気盛んなのだ。

 

「みんないってらっしゃい!! 祭りを楽しんできてね♡」

 

「はい──よしお前ら!! 行くぞ!!!」

 

「ウオオオ~!!!」

 

 この戦場は彼らにとって祭りのようなもの。

 暴れるのに理由はいらないとでも言うように、彼らは意味もなく破壊と殺戮を撒き散らしに向かった。

 そしてこの場に残ったのはたった2人だった。

 

「ドゥラーク。あなたは私と一緒にここで待機よ。様子を見て歴史の本文(ポーネグリフ)を回収しに行くわ」

 

「ええ。それは構わないけれど……場所は既にわかっているのかしら」

 

「勿論よ♡」

 

 残ったのはぬえ。

 そして真打ちの1人であり、百獣海賊団の考古学者を務めるドゥラークだ。

 歴史の本文(ポーネグリフ)という最重要の遺物をアラバスタ王家やバロックワークスから奪い取るためにぬえと共に行動する。

 そこまではドゥラークも承知の通りだ。……しかし、ぬえのその行動には疑問を呈した。

 

「……わかっているのなら、先に取りに行ってしまえばいいのでは?」

 

「あはは、尤もだね。確かに、さっさと取りに行った方が楽だけどさ。後から取りに行く楽しみだってあるのよ?」

 

「……楽しみ、ね」

 

 その言葉にドゥラークは息をつく。碌でもないことを想起してしまうのだ。

 何しろドゥラークが百獣海賊団に入ってもう20年以上。百獣のやり方はわかってしまっているし、ぬえが()()言った時に良いことなど起こった試しがない。

 その証拠に、今もぬえは部下達に命令し、何の意味もない人殺しの許可を出した。

 百獣海賊団の、ぬえの目的は歴史の本文(ポーネグリフ)。それ以外にないはずであり、その隠し場所もわかっている。

 だというのにぬえはそれを後から取りに行くと決め、ページワンを始めとする血に飢えた獣達を戦場へ解き放つ。

 撹乱だと言っていたが、そんなことはそもそもする必要のないことなのだ。ぬえがその気なら、さっさと歴史の本文(ポーネグリフ)を回収して去るだけ。ものの数分で片は付く。

 なのにそうしないというのは趣味でしかない。彼女たちは血が見たいだけなのだ。新入りの新人研修という目的もきっと建前か、もののついででしかない。

 しかもその目的のために得てくる情報は出所がわからないことも多く、それがまたこの妖怪の得体の知れなさを加速させている。

 この悪辣さと正体不明さで何百万……いや、数え切れないほどの人間が恐怖に染まった。

 

「そうそう、楽しみ楽しみ~♪ だからそれまではここで戦場を観戦するの」

 

「……だからここに映像を?」

 

「そうよ。鳥か何かに見える私のUFOに映像電伝虫を付けての戦闘観戦♡ ほら、くっきり見えてるでしょ?」

 

『いいかチョッパー!! 男には!!!』

 

 そして今も──この怪物によって彼らの戦いは覗かれている。

 戦場に飛ばしたぬえのUFO。映像電伝虫が付けられたそれらに認識を阻害するぬえの能力を埋め込み、戦場の幾つかを覗き見る。

 さしものぬえも見聞色によって数百万の動きを完全に把握することは難しいのだろうし、個々人を見分けることも難しいのだろう。

 ぬえが言うには見聞色で個々人を見分けるにはその相手がよっぽどわかりやすくなければ無理だと言っていたし、距離や数が増えるにつれて精度も落ちてくるのだと言う。

 更に未来を予知するほどに精度を高めると、遠方の気配を察知出来る見聞色の距離は短くなるし、意志が介在しない不測の事態は察知出来ないなど、ぬえの極まった見聞色も万能ではないらしい。

 だがこうしてUFOを少し工夫して使うことで、ぬえは更に詳細な情報を得ることが出来ていた……が、今回のこれはおそらく、情報を得るために行ったのではない。

 

『死にな長っ鼻!!! “モグラ塚ハイウェイ”~~~!!!』

 

『……た!!! ……たたとえ……!!! しぬし……ぬ死ぬ程……!!! おっかねェ敵でもよ……!!』

 

「おお~~!! 盛り上がってるねぇ!!」

 

 態々取り付けた映像電伝虫からの映像を届ける即席のモニター。

 そこに先程から映っているのは戦闘だ。それも、件の麦わらの一味とバロックワークスのオフィサーエージェントが戦っている映像。

 

『……ぱ……ぱぽえ……オーペエ……勝ち目のねェ……相手だろ……う……ともよ……!!!』

 

 1つ目のモニターは砂漠を映している。

 そこで戦っているのは長い鼻の男に動物(ゾオン)系の能力者と思わしき不思議なトナカイ人間。

 相手は大男、4tバットを振り回すMr.4とモグモグの実のモグラ人間であるミス・メリークリスマス。

 その戦いを映す映像を前に、ぬえはまるでスポーツ観戦でもしているかのように酒とつまみを片手にやんややんやと楽しそうに声を上げている。

 

『Mr.4!! 構えな“4tバット”!!!』

 

『フォ──!!』

 

『行くよ!! “モグラ塚”……!!!』

 

 そしてその戦いは今まさに終盤。

 モグラ人間に足を掴まれた鼻の長い男が、高速でバットを構える男の元に運ばれる。

 

『“4番交差点”!!!!』

 

『ウソップ~~~~~~~~~!!!!』

 

「わーお!! えげつない攻撃~~~♪」

 

 顔面を4tのバットでフルスイング。

 頭の骨が砕け散り、脳みそがぐちゃぐちゃになって当然の攻撃だ。今の一撃で、長鼻の子は死んでしまっただろうとドゥラークは冷静に判断する。

 だがその判断は早計だった。画面の中で、その男が立ち上がる。

 

『……男にゃあ!!! どうしても……戦いを避けちゃならねェ時がある……!!!』

 

『な……!!! お前まだ……!!!!』

 

「!」

 

『仲間の夢を笑われた時だ!!!!』

 

「ひゅ~♪ カッコいいねぇ!!」

 

 ドゥラークは驚いた。その少年が立ち上がり、敵へ啖呵を切る姿に。

 

『“必殺ウソッチョ”──“ハンマー彗星”!!!!』

 

 そしてそのまま戦闘を継続させ、機転によってそのまま勝利してしまったことに。

 

「あはははは!!! いやぁ~~~すごかったねぇ!!! 普通のガキっぽいのに、4トンのバットで頭フルスイングされて立ち上がるって中々才能ありそうじゃない?」

 

「…………確かに凄いけれど……まさか、これが楽しみ?」

 

「の1つかなぁ♪ ふふふ、面白いでしょ? 時間が来るまではこれを肴にお酒でも飲んで過ごすの。ただ待つのも暇だしね!!」

 

 楽しそうにその戦いを観戦し、感想までも口にするぬえ。

 確かに見る価値のある戦いだ。それはドゥラークも認められる。

 しかしここで分かるのはぬえの質の悪さだ。ぬえが次の映像に目を向ける横で、ドゥラークは改めて理解する。

 

『がっはっはは!! 口程にもナ~~~イっていうのはまさにア~ンタのことねい。もう起き上がる力もなあ~~い? 海の一流コック!!!』

 

「あっはっは!!! やっぱマネマネの実最高~~!! まあ私も似たようなこと出来るけどね!!」

 

 次に見た先はコックと呼ばれた金髪の男と、白鳥のコートを着た大柄なオカマ、Mr.2との戦いだ。

 外見を変えることの出来るマネマネの実の能力で仲間の姿に変身し、攻撃を躊躇させるという戦法で優位に立つMr.2を見て、ぬえは腹を抱えて笑っている。

 だが再び戦況は五分五分に戻り、Mr.2が再び新たな攻撃手段でコックを攻め立てる。

 

『一点に凝縮された本物のパワーってヤツはムダな破壊をしないものよう!?』

 

「おっと耳が痛いね。私もカイドウもムダな破壊しまくっちゃうからなぁ。前に六式を試しで使おうとした時なんてメチャクチャ周りのもの壊れちゃったしね!! あはは!!」

 

 だがその命懸けの戦いを見て、やはりぬえはそれを笑い、楽しむのだ。

 それが意味するのは……ぬえは、人の大事な物を懸けたその決死の戦いですら“娯楽”として消費している事実。

 

『“仔牛肉(ヴォー)ショット”!!!!』

 

『“爆弾白鳥(ボンバルディエ)アラベスク”!!!!』

 

「おお~~!! どっちも蹴りで連打し合って最後にキメるのカッコいいね!!」

 

 コックとMr.2の戦いが決着し、ぬえが手放しでそれを褒める。

 しかしだ。ぬえにとってはこの程度の戦いはいつでも壊せる。

 いや、この戦いだけではない。この地で起きている戦いをこの国ごと全て破壊することだって可能だろう。

 だがそうしない。そんなことはいつだって出来ることであり、必死になってそんなことをする必要はない。

 何しろ彼らはぬえにとって、面白い見世物を提供している芸人だからだ。

 

『これでも泥棒やってた8年間……どんな死線も1人でくぐり抜けてきた……その辺の小娘達と一緒にされちゃたまんないのよね!!!』

 

「あーそういえば昔は私も結構やってたなぁ……でも泥棒ってバレないようにやるってなるとスリルがあって楽しいんだよねぇ。成功した時も中々達成感あるしね!!」

 

 また新たな戦い……不思議な棒を手に戦う女と、トゲトゲの実の能力者であるミス・ダブルフィンガーの戦いが始まってもぬえは観戦を止めない。

 

『痛くも……カユくもないわこんなの……あんたにあのコの痛みがわかる? それに比べたら……』

 

「おお~~いいねぇ。血も滴る良い女~♪」

 

 ……事情を概要でしか知らないドゥラークにさえ、彼らがどれほどの想いで戦っているかは推察出来る。

 そこに込められた感情の熱量は……意志の強さはここまで伝わってくるからだ。

 ──しかしぬえにとっては“茶番”だ。

 

『……フン……さっさとおれに斬り傷でもつけてみろ。受けてばかりじゃおれの体は斬れねェぞ』

 

『生憎だがお前にはおれが鉄を斬る勇姿は見せられそうにねェ……』

 

「スパスパの実強いねぇ……あれで覇気覚えたら体が黒刀化して結構強そうだし、どっちも伸びしろありそう♪」

 

『おれが鉄を斬る時は……お前がくたばる時だからな……!!!』

 

『……もっともだ……』

 

 海賊狩りのゾロ……東の海(イーストブルー)で名を挙げた元賞金稼ぎの剣士と、こちらも西の海でかつて“殺し屋”の異名を取った賞金稼ぎ……Mr.1との戦いだ。

 ドゥラークはこれでも20年以上百獣海賊団に所属し、それまでも海に出ていた身であり戦闘は素人ではない。かつての名を捨てた上で百獣海賊団で真打ちとなり、2億を超える懸賞金を掛けられるくらいの実力はある。

 その目から見ても両者の戦いはレベルが高い。覇気こそ扱えていないが、覇気を除いた実力的には真打ちにもなれる強さだ。

 

『何で立ってる……あれだけ斬られて……あれ程の落石を避けたのか……!!?』

 

「! これは……!!」

 

「うん──覇気使ってるね。あはは、まあ絶体絶命の窮地にこそ目覚めるからね~~♪」

 

 だが……やはりそれも茶番。

 彼らにとって必死の生存闘争も、ぬえはまるで演劇でも見るかのように楽しんでいる。

 

『一刀流「居合」……“獅子歌歌(ししそんそん)”!!!』

 

『“微塵斬速力(アトミックスパート)”!!!』

 

「キタ~~~~!!! カッコいい!!!」

 

『──礼を言う』

 

 ──人のリアルな想いを()()にしている。

 ぬえは悲劇も喜劇も同じくらい好むし楽しむ。

 これがただの小説などの物語であればその感性は普通のものだろう。

 しかしこれは現実。だからこそ──ぬえは災厄なのだ。

 現実すらも自分の楽しみのための玩具であり、腹を満たすための餌に過ぎない。

 百獣の理とはエゴの塊であり、つまるところそういうことなのだ。

 海賊であれば誰もがエゴの塊だろうが、その中でも百獣は人の事情など考えないし、考えた上でも他者の権利を犯し尽くす。極めて悪辣だ。

 

『七武海が相手となれば』

 

『卑怯などとも言っておれぬ』

 

『我ら四人で』

 

『カタをつけさせて』

 

『貰おうか』

 

『……ずいぶんと人気者らしいが……お前ら……見逃してやるから家へ帰れ』

 

「ツメゲリ部隊ねー……んー……やっぱり“偉大なる航路(グランドライン)”の国って言っても楽園じゃこの程度がエリートって悲しくなるなぁ……」

 

『そうはいかん。我らには退けぬ理由がある!!』

 

『理由……?』

 

『お前が本当にこの反乱の元凶ならば……』

 

『!! ……そのアザ……!!! まさかお前達……!!?』

 

 やはり人を人扱いしない彼らに古代兵器の力を渡すのは……。

 

『やつら……!!! “一時の力”を得るために……命を削る水を……“豪水”を飲んでいる。もはや……数分の命……助からぬ!!!』

 

『──クハハハハハハ!! 勝手に死ぬんなら……おれが手を下すまでもねェよな?』

 

『戦うこともせんのか……』

 

「あはははははは!!! そりゃあ言ったらそうなるでしょ!! 言わなきゃ戦ってはくれたかもしれないのに、ほんとに間抜けだよ!! これじゃあ!! あはははは!!」

 

 ……今のところ、決定的な部分だけは誤魔化して避けることが出来ている。今回もまた誤魔化すことが出来れば──「ドゥラーク!!」

 

「!」

 

「さっきから呼んでるんだけど? ……というかさっきからちょいちょい話しかけてるのに無視して……会話くらいしてくれると助かるんだけどなー?」

 

「え、ええ……ごめんなさい」

 

 気がつけば、ぬえがこちらを向いて不満顔になっていることにドゥラークは気づく。そしてしまったと言わんばかりに軽く頭を振る。考え事をするあまりにぬえを意識から外すなど危険極まりないことだ。その間に何をされるかわからないというのに。

 

「……ま、いいけどね。それよりも──映像の方はちゃんと見てる? さっきから上の空であんまりまじまじと見てないみたいだけど」

 

「そうね……ごめんなさい。ちゃんと見るわ」

 

「いいよ♡ ほら、今はこっちに集中して見てみて♪」

 

「ええ。わかった──わ……」

 

 ぬえにすんなりと許されながらもそう促され、映像を今度はしっかりと目に映す。今はクロコダイルがチャカという戦士を倒し、反乱軍のリーダーであるコーザという青年がやってきたところ。

 先程から王女様や国王の悲痛な声が続く中──ドゥラークはふと、映像の中にいる1人の女性に遂に気づいた。

 

「えっ……?」

 

 ドクン、ドクンと心臓が高鳴る。

 まさか、という思いはある。見間違いではないのか、と。

 だが見間違う筈もない。20年前もそうだったし、今も……20年経った今でも一目でわかる。そこに映っているのは──

 

『困惑してるみたいね……簡単よ? あなたがイメージできる“最悪のシナリオ”を思い浮かべればいいわ』

 

「ロビン……!!!」

 

「ふふふ……♪」

 

 ──20年前に別れた一人娘(ロビン)の姿だった。

 

 

 

 

 

 アラバスタ王国、首都アルバーナの宮殿前広場は国王軍と反乱軍が大規模にぶつかり合う主戦場となっていた。

 

「国王軍を倒し、宮殿を攻め落とせ──!!!」

 

「反乱軍を迎え撃ち、王国を守れ──!!!」

 

 彼らは皆、一様に国を想い、戦っている。

 だがその戦いこそが国を滅ぼすことになるということに気づかない。

 しかし、もはや多くの国民にとってどうしようも出来ない戦場の中で、真実を知っており、この場をどうにか出来る存在が幾つかある。

 戦場が俄にもざわつく。戦乱の狂気により、大きな騒ぎにはならないが……戦場の一角は、明らかに異常だった。

 

「何だお前ら──ぎゃあ!!?」

 

「味方じゃないのか!!?」

 

「反乱軍か……!?」

 

 宮殿前広場の一角では、王国軍の兵士ではない兵に蹂躙されていた。

 王国軍はその普通よりも戦闘慣れしており、遥かに屈強な兵を相手に歯噛みする。反乱軍も、かなり手強いと。

 だが困惑しているのは反乱軍だった。なにせその兵達は、王国軍の兵士ではないにも拘わらず、反乱軍の兵士にも同様に矛を振るってきているのだから。

 

「ギャハハハハ!! 死ね~~~!!!」

 

「なんだこいつら……笑って……!?」

 

「“グリズリーネイル”!!!」

 

「ぐああっ!!?」

 

「何だあれは……!!?」

 

 戦場の中で今、最も暴れているのがその兵士達。

 常に笑っている不気味な兵士や、人間とは思えない異形の力を使う兵士。それらが寄り集まっている軍団は、少ない数ながら多大な被害を撒き散らしていた。

 だがそんな中、兵士を殺すことに注力することなく、周囲を探し回っている男がいた。

 

「さて……どこにいやがる……!?」

 

 砂塵が舞い、視界が利きにくい戦場で兵士をあしらいながら周囲を見渡すのは百獣海賊団の飛び六胞──ページワン。

 王国軍にも反乱軍にも目をくれず、彼はただ一人の標的に狙いをつけていた。

 それはすなわち──数年前に百獣海賊団の本拠地にまで侵入し、幾つかの被害をもたらしてカイドウの怒りを買った一人の海賊……“火拳のエース”のことである。

 彼を探して叩きのめし、カイドウの前に連れていくこと──これが今、ページワンが注力していることだ。

 

「チッ……闇雲に探しても見つからねェな」

 

 だが、すぐには見つからない。

 そもそもこのアルバーナには今、200万近い人間がいる。幾ら見聞色があるとはいえ、その大量の人間の中から一人を見つけ出すことは難しい。見聞色とて万能ではないのだ。

 ゆえに何かしらの方法を考えなくてはならないとページワンは思い……そうしてとある集団を見つけた。

 

「! あれは……確か麦わらの……」

 

 宮殿前の広場の中で宮殿にほど近い場所に、ぬえが言っていた麦わらの一味とこの国の王女と思わしき女が集まっている。何か相談しているようだったが、ページワンにはそれはどうでもいいことだ。

 だがしかし、こうも思う。

 

(……そういえば、火拳の奴は麦わらの知り合いみてェだったな……)

 

 数日前に港町で会った時、火拳のエースと麦わらのルフィは何やら以前からの知り合いの様であり、親しく言葉を交わしていたように思える。どういった知り合いなのかはこの際どうでもいいが、親しい知り合いであれば、火拳のエースを捕捉するのに使えるかもしれない。

 

(ぬえさんには、麦わらの一味には手を出すなと言われてるが……)

 

 バロックワークスという七武海のクロコダイルが密かに運営している組織を潰すのに使えると、麦わらの一味には見かけても手を出さないように指示があった。

 だが向こうから来る分には相手をしてもいいとも言われている──ただし、殺すな、とも。

 

「!? てめェは……!!」

 

 つまりだ。

 こうして向こうがこちらに気づいた今であれば、多少荒っぽく聞いても問題ないということ。

 

(見たところ、戦闘を終えた後だ。本当にバロックワークスのオフィサーエージェントとやらを倒したみてェだな……七武海の幹部ってのは思ったよりレベルが低いのか?)

 

「Mr.6だったか……!!」

 

「いやそうじゃねェ。Mr.6を名乗る何者かだ。ちゃんと聞いてやがったのか? クソマリモ」

 

「うるせェ!! ハァ……だが……こいつまで相手にしてる暇はねェぞ……!!」

 

「お、おい!! ゾロ!! サンジ!! 急げ!! 10分以内に何とかしなけりゃ、砲撃が……!!」

 

「……砲撃?」

 

 ページワンは眉根を寄せる。鼻の長い男が言う砲撃というのは、一体何のことだと。

 だが考えてすぐにそれを頭から消した。ページワンにとってはどうでもいいことだ。砲撃とやらも。彼らの事情も。この国も。

 

「チッ……しょうがねェ……協力なんざしたくねェが……!!」

 

「言ってる場合じゃねェな……秒殺だ!!!」

 

「!」

 

 ページワンは3本の刀を腰に差す剣士と金髪で特徴的な眉毛の男が突っ込んできたことに気づく。どうやら彼らは大技を自分に繰り出そうとしてるようだ。

 

「“鬼”……!!」

 

「“羊肉(ムートン)”……!!」

 

 ──だがページワンは()()()()()()

 

「“斬り”!!!」

 

「“ショット”!!!」

 

「!!」

 

「ウオオオオ!!? さすがにこれならやったか!!?」

 

 鼻の長い男──ウソップが2人の技の迫力、勢いを見てそう叫ぶ。

 麦わらの一味でも船長ルフィに次ぐ2人の大技を同時に受けて、さすがに無傷とはいかないだろうと。

 だがしかし、その違和感に真っ先に気づいたのは、他ならぬ技を繰り出した2人だった。

 

「──あ~~いきなり攻撃しやがって……ウザってェ雑魚共が……」

 

「っ!!?」

 

「なに!!?」

 

「ウソ!!? あの2人の攻撃を受けたのに……!!」

 

「ぎゃあああ~~~!!?」

 

「ええええ~~~~!!? の、のの能力者かァ!!?」

 

「……!! やはり違う……Mr.6がこれほど強い訳ない……!!」

 

 ゾロとサンジ。麦わらの一味の主力であり、先程バロックワークスの主力を倒して合流した2人。

 激戦の後ということもあり、全開という訳にはいかないだろうが……だが、それを置いても目の前で起きた事が信じられなかった。

 サンジの蹴りが腹に当たり、ゾロの斬撃も肩口から胸に掛けてぶち当たった筈だ。

 しかしそれは──ページワンの肉体に受け止められた。

 しかも無傷。そのことに、ナミ、チョッパー、ウソップ、ビビ、と2人の強さを知る誰もが驚く。

 そしてその反応を見たページワンは鼻を鳴らし、自らの用件を伝えようと口を開く。

 

「フン……おいお前ら」

 

「! な、ななななんだァ!? 言っとくが、おれには8千人の部下が──」

 

「用があるのは“火拳のエース”だけだ……奴の場所を教えろ!! 教えねェと──」

 

 ページワンはウソップの言葉を無視して言う。8千人の部下などいる訳ないし、いたところで構わない。いても全員叩き潰せば済むことだ。

 だが麦わらの一味には手を出せない。殺すことはできない。だから脅しの内容を考え、ページワンは告げた。

 

「……お前ら、どうやらこの国の人間が大事らしいな……」

 

「っ……それが何!!?」

 

「簡単なことだ。教えるまで、そこら中にいるこの国の人間を──()()()に殺し回る」

 

「……!!?」

 

「何を……!! そんなこと、絶対にさせない!!」

 

 麦わらの一味がその脅しに驚き、しかしビビが言うようにそんなことはさせないという意志の籠もった目を向ける。ページワンはそれを真っ向から受け止め、ニヤリと笑った。

 

「なら戦ってみるか? 少しくらい痛い目を見た方が、口も軽くなるか……」

 

「野郎……!!」

 

「舐めやがって……!!」

 

 ページワンの上から目線の言葉にサンジとゾロが目を細め、歯を噛みしめる。挑発に乗ってぶつかって行こうとしたその時──ナミが止まるよう声を上げた。

 

「待って!! 今戦ってる暇なんてないわよ!! 早く砲撃手を探さないと時間が……!!」

 

「っ……!! そうだった……!!」

 

 既のところで踏み止まる2人。確かに、時間は後10分しかない。

 倒すにしろ10分程度では難しいだろうし、倒せたとしても時間の浪費だ。

 

「どうした? 死にたくねェのならさっさと言え!!」

 

「くっ……!!」

 

 だがエースの居場所など、彼らは知らない。

 何しろこのアルバーナに入る時点で、エースはこのMr.6という謎の人物を止めるために別行動をしているからだ。

 その人物が今、こうしてここで自分達の邪魔をしてることに、ゾロなどは何をやってんだとエースに対する文句を心の中で呟くが……だが、そんな時だった。

 

「──おれなら……」

 

「ん?」

 

 ページワンの頭上に、影が差し、その影の元が足を振り下ろした。

 

「ここだァ!!!」

 

「グオ!!?」

 

 ページワンが蹴り飛ばされる。すぐに体勢を立て直したが、そのダメージと覇気はページワンにとって目当ての人物であることを表していた。

 

「おお!!? さすがはルフィの兄貴だ!!」

 

「……ったく……後は任せていいのか?」

 

「ああ。すまねェ。こっちも探し回ってたんだがそっちが先に出くわすとは……後はおれが始末つけさせてもらう!! ほら行け!!」

 

「エースさん……!!」

 

「ああ!! よし行くぞ!!」

 

 そして麦わらの一味の面々も、その登場に顔を明るくし、あるいは息をつく。

 ページワンを軽々と吹き飛ばした男は“火拳のエース”その人だった。

 麦わらの一味の退路を確保し、立ち上がるページワンに対峙するエースは去っていく彼らを背に、目の前の敵からの声を聞いた。

 

「見つけたぞ……火拳のエース……!! てっきり、逃げ帰ったのかと思ったぜ……!!」

 

「全く……しつこい連中だぜ。こんなところまで来やがって……何もこんな内乱の国でまで戦わなくたっていいだろ?」

 

「そうはいかねェ……!! お前にはウチでやったことの始末をつけてもらわねェとな……!! そのためなら、どんな国だろうと関係ねェな……!!」

 

「……ああ、そうだな。関係ねェことだ」

 

 エースは頷く。確かに、エースと彼ら百獣海賊団のいざこざに、この国は関係ない。

 なにせお互い海賊であり、戦うとなればどんな場所だって戦場になり得る。この国の事情は関係ないし、エースもまた深く関わるつもりもない。

 

「だが──悪いが、ここは弟の仲間の国だ」

 

「あ? 弟?」

 

「ああ。そういう訳で、無駄に暴れてもらっちゃ困るんでな。ここで倒れてもらうぜ──百獣海賊団」

 

「……!! ほざきやがれ!!!」

 

「……!! 来たか……!!」

 

 エースの不遜な言葉にページワンが怒りと共に突進してくる。

 駆ける最中に変身し、その姿にエースは目を細めた。動物(ゾオン)系の変型の1つである人獣型だ。

 それもページワンの場合、凶暴性が上がる肉食の動物というだけではない。通常の動物(ゾオン)系を遥かに上回るパワーとタフネスを誇る古代種の能力者だ。

 

「オオ!!!」

 

「!!」

 

 身体が二回り以上も大きくなり、鋭い爪と牙、そして長い尻尾や鱗が目立つ肉体になったページワンがエースに肉薄する。

 エースは自然(ロギア)系だが、覇気を用いる相手への攻撃は当然受け流せない。体を炎に変化させ、流動的な回避を行うことは出来るが、炎になった状態であっても攻撃を受ければダメージは入ってしまう。

 それに加え、エースはここの広場ではなく、人のいない町の方で戦うために敢えて回避を行いながら下がっていく。その理由は──今まさに起こった。

 

「オオオオオ!!!」

 

「!!?」

 

 広場にある建物の壁まで移動したエースだが、そこにページワンは構わず激突してくる。100メートル近い高さと幅のある建物だったが、そんなことは関係なかった。

 

「!!? おい!! 建物が崩れるぞ!!!」

 

「やべェ!! 逃げろ!!」

 

「うあああああ~~~!!?」

 

 その建物の近くにいた反乱軍や王国軍の兵士はその破壊に気づくが、原因までは気づかない。

 ページワンのエースに見舞おうとした爪の一撃が、建物を粉砕し、その周囲の建物にまで破壊を撒き散らしたのだ。

 兵士たちは建物の崩壊に気づいても、すぐに逃げることは叶わない。ゆえにこのままでは瓦礫に潰されて大事となってしまう可能性が高かったが……その時、今度は火が立ち昇った。

 

「“火柱”!!!」

 

「! なんだ!? 炎!!?」

 

 通常の火事などではありえない炎の柱が立ち昇る現象。それを間近で見た兵士は驚き、目を見開く。謎の炎に助けられたと。

 だがその謎の炎は当然、自然現象などではない。エースがその能力を用いて近くにいた兵士達を助けたのだ。

 自然(ロギア)系の能力者であるエースにとって、ただの建物の崩落など何のダメージにもならないため、放置しても問題ないのだが、エースの心はここにいる人々を見殺しにするのをよしとしなかった。

 

「おい!! ここから離れろ!!」

 

「えっ? いや、あんたは……って、あんたどこかで……?」

 

「いいからどこか別のとこで戦ってろって……」

 

「隙を見せたな!!!」

 

「!!? やべっ──」

 

「オオオオオオオオオ!!!」

 

 そして──そのエースが人を助ける隙を見逃すほど、ページワンは甘くなかった。

 僅かに落ちた瓦礫と元からある砂塵に紛れ、恐竜の怪物が雄叫びと共に爪を振るう。

 その攻撃による破壊はエースのみに留まらない。攻撃を受けたエースはそのままアルバーナにある建物を10棟以上貫きながら数百メートル近く吹き飛ばされる。

 建物の崩落の音が連続し、広場から町の東ブロックまで吹き飛ばされたエースは口から軽く血を吐き、瓦礫の中から立ち上がりながら悪態をつく。

 

「ったく……相変わらずフザケたパワーしやがって……これじゃ人はともかく、町が持たねェじゃねェか……!!」

 

 戦闘に支障はない。が、ダメージは入っている。

 建物への激突は自然(ロギア)系のエースにはダメージにならないため、ページワンの打撃のみのダメージだが、それでもそれなりに効く。

 これが生身の人間であったり、覇気で防御を行えてなかったとしたらこれだけでも致命傷になりかねないパワーだった。

 

「おい!! まさかこの程度でくたばったか!? そんな訳ねェよなァ!!?」

 

「チッ……しょうがねェな」

 

 そして続けて追い打ちを掛けようとやってきたページワンに、エースは口元の血を拭いながら決意する。犠牲を出さないために、エースが出来ることは1つだ。

 

「さっさとケリつけてやる!!!」

 

「やれるもんならやってみやがれ!!!」

 

 炎になったエースがページワンに攻撃を加える。ページワンはそれを耐えながら、エースに向かって再び打撃を繰り返す。

 この内乱の終わりも近い。ならば──それまでに終わらせてやると。

 

 

 

 

 

 ──戦いは終わりを迎えようとしていた。

 

「──ねぇ!! これは一体どういうこと!!?」

 

『……こいつが“歴史の本文(ポーネグリフ)”か。ニコ・ロビン』

 

『…………早かったのね』

 

 バロックワークスのオフィサーエージェントも、残りはMr.0──クロコダイルを残すのみ。

 だがそのクロコダイルに挑んだ海賊モンキー・D・ルフィは再び敗れ、クロコダイルは自らのパートナーが待つ王宮の西……葬祭殿にある隠し階段から地下までやってきていた。

 街は未だ争いの渦。王国軍と反乱軍は戦い、海賊達に王女もまた人々を救うために戦い、人知れずに大物海賊団の幹部2人もまた争っている。

 そんな中──百獣海賊団の真打ち。ドゥラークは映像電伝虫から送られてくるその映像を見て、傍らの少女に必死に問いかけていた。

 そして少女はその部下の様子を見て薄く笑った。

 

「…………どういうことって?」

 

「わかっている筈よ!! なぜここに……あの子がいるの!!?」

 

 ドゥラークは必死にそう問いかける。百獣海賊団の幹部であるドゥラークとしてではなく、画面の中でクロコダイルの隣にいる女性、ニコ・ロビンの母親──ニコ・オルビアとして。

 彼女にとって、これは看過できない事態だった。

 だがその少女、オルビアが最も恐れる百獣海賊団の副総督“妖獣のぬえ”は薄い笑みを崩さないまま、オルビアの問いに答えてみせる。

 

「……なんでって言われてもなぁ……あなたの子供の考えてることなんて、私知らないし」

 

「しらを切るつもり!? 私とあなた達が結んだ協定を忘れたの!!?」

 

 オルビアはちょうど20年前に百獣海賊団と結んだ協定の内容を思い出しながらぬえに怒声を浴びせる。その内容はこうだ。

 

『百獣海賊団に“歴史の本文(ポーネグリフ)”を解読するための考古学者として下る代わりに、娘には一切手を出さない』

 

 それが協定の筈。だというのに、今ここでぬえが娘を観察しているというのは一体どういうことなのか。ぬえを強く睨みつけながらそう尋ねる。

 だがぬえは全く怯むことはなかった。鼻歌でも歌うように、楽しそうにぬえは画面の中を見て笑みを浮かべる。

 

「いやぁ~~忘れてはないけど~~♪ まあまあそれより……ほら、今とっても良いところだし、ちょっと見てみなよ♡」

 

「!」

 

『この国の歴史なんざ知ったこっちゃねェ!!! この土地に眠る──世界最悪の“軍事力”のありかをさっさと教えろ!!!』

 

 ぬえが差す画面の中では、クロコダイルがロビンに向かって歴史の本文(ポーネグリフ)を解読しろと凄んでいる。

 だがそれに対し、ロビンは毅然とした態度で──

 

『記されていないわ。ここには歴史しか記されてない』

 

『なに?』

 

「ロビン……!!」

 

 画面の中で、オルビアの娘であるロビンはそれを拒んだ。

 ロビンはオルビアと同じ様に古代文字を読める。オハラの生き残りなのだ。

 だがその解読には、悪しき企みには手を貸さなかった。

 その選択にオルビアはロビンを誇りに思う。母を名乗ることすら許されない罪深い自分だが、それでも母として嬉しく思ってしまう。

 ……だが、ぬえは涙目で薄く笑うオルビアを見て、笑みを浮かべていた。

 そして画面の中では──

 

『……そうか…………残念だ』

 

『!?』

 

 クロコダイルが、ロビンを見て忌々しげな表情を見せると、

 

『お前は優秀なパートナーだったが──ここで殺すとしよう』

 

『!!!? な…………!?』

 

「……!!?」

 

 その驚きは画面の中のロビンやコブラ王だけに留まらず、画面の外のオルビアにまで及んだ。

 ぬえはそれを楽しそうに見ている。画面の中のクロコダイルはオルビアが落ち着くのを待ってはくれなかった。

 

『4年前に結んだ()()()の協定はここで達成された。お前がおれに持ちかけた話はこうだ……“歴史の本文(ポーネグリフ)”のある場所へお前を連れていけば“兵器”の情報はおれにゆずると……』

 

「……え……?」

 

 オルビアはそこで耳を疑った。──協定? 兵器の情報? 

 いやバカな。そんな筈はない。ロビンがそんなことをしている筈がない。

 だが真実は止まらなかった。クロコダイルは饒舌にそれを語り始める。

 

B・W(バロックワークス)社におけるこの4年間のお前の働きは、頭脳・指揮力共に優れたものだった』

 

「──とまあそういう訳で、バロックワークスの副社長、ミス・オールサンデーの正体はあなたの娘、ニコ・ロビンでした~~~!! じゃんじゃじゃ~~ん!! 今明かされる衝撃の真実ぅ!!」

 

「そんな……!! なんで……そんな……」

 

『しかし──!! 最後にお前は口約を破った……!! この国の“歴史の本文(ポーネグリフ)”は「プルトン」の手がかりすら示さねェ!!』

 

「! ロビン!!」

 

 ぬえとクロコダイルの言葉が頭の中で響く。この国を苦しめたバロックワークスの副社長が自分の娘だと聞いたオルビアは、なぜそうなったのかと混乱している状態にあった。

 だがそれ以上に、今は画面の中でクロコダイルに襲いかかられているロビンに目が向く。思わず画面に近づいた。だが画面から画面の向こうへ行ける筈はなく、事態が常に動いていく。

 

『──だがおれはお前に怒りなど感じない。なぜだかわかるかニコ・ロビン……!!!』

 

『ふふ……! ばかね……4年も手を組んでいたのよ!? あなたがこういう行動に出る事くらいわかってたわ!!』

 

『ん!? ……水か……』

 

 画面の中のロビンは懐からフラスコを取り出す。中にはクロコダイルの弱点ともなる液体が入っていた。

 

『! く……!!』

 

『水をかぶればナイフも刺さるでしょう!?』

 

「おーあなたの娘、頑張ってるね~。──でもここまでかな♡」

 

『!!? よけたっ。どこへ!!?』

 

「!! ダメ!! 逃げてロビン!!! やめて!!!」

 

 オルビアはぬえに言われるまでもなくそれに気づき、画面の中に必死に訴えかける。……だが、その甲斐虚しく──

 

『全てを許そうニコ・ロビン。なぜならおれは……』

 

「あ……ぁ……!!」

 

 クロコダイルの鉤爪が、ロビンの胸元を貫き──

 

『最初から誰一人、信用しちゃ……いねェからさ』

 

「ロビン!!!!」

 

 オルビアは画面を見て涙を流す。拳を震わせ、地面へと倒れていくロビンの名を呼ぶ。

 それを見ていたぬえはお酒のボトルを少し傾けながら、オルビアに向かって慰めの言葉を吐いた。

 

「ぷはぁ。いやぁ、お酒が進むね!! でもまあ即死じゃないし、心臓からは微妙にズレてるからまだ生きる道はあるんじゃない? だからほら、泣くのはもうちょっと後にしたら?」

 

 ま、このままじゃ死ぬけどね──と、ぬえは軽くそう言う。

 それを聞いたオルビアはすぐに行動を起こそうとした。崩れかけた膝に力を入れて立ち上がる。

 だが──

 

「あー、ダメダメ。今はまだここにいるの」

 

「っ!! 放して!!! あの子を……ロビンを助けるのよ!!!」

 

 オルビアはぬえに手を掴まれたが、それでもなお助けに行こうとそれを振りほどこうとする。オルビアの手から()()()()()

 

「“満開火花(ファイアブロッサム)”!!!」

 

「!!」

 

 その木々は赤い花を咲かせ、そしてそこから炎を発生させ、ぬえを至近距離で爆破する。そうやってぬえの手から逃れようとした。威力は人を殺すのに充分なものである、オルビアの能力による攻撃。

 だが、

 

「……まさか私に攻撃を仕掛けるなんて……本当にあの子が大切なんだね~?」

 

「……!! あぐっ!!」

 

 ……だがそれでも、ぬえの手から逃れることは出来なかった。

 爆発を物ともせず、ぬえはオルビアを手に捕まえたまま、床にそのまま押さえつける。

 たったそれだけで、ぬえの万力のような力でオルビアは動けなくなる。痛みで表情は険しいものとなった。

 

「それに……植物使いはこの間戦ったし、今はそういう気分じゃないっていうかさ。……まああなたの“ニョキニョキの実”は、あの変な忍者の上位互換だけどもね♡」

 

「うっ……あ……!!」

 

「でも私達があげた能力だからわからない訳ないし、わからなかったとしても私に敵う訳ないでしょ?」

 

 あらゆる植物を生やし、操ることの出来る“植物人間”。それがドゥラークの、オルビアの能力だった。

 20年前にぬえ達から与えられた悪魔の実の能力は、やはりぬえには全く通じない。

 

「……そんなに慌てなくても……あの子は助かるかもだし……まあ助けてあげてもいいわ」

 

「っ……なら、今すぐに……!!」

 

「それはダ~メ♡ 幾ら仲間のあなたの頼みでもね♡ ……それに、あなたに改めて頼まないといけないこともあるし」

 

「頼み……ですって……?」

 

 そうそう、とぬえは上機嫌に頷く。オルビアの前へ屈み、オルビアの顔を両手で掴んで至近距離で目を合わせると、

 

「だってあなた……“歴史の本文(ポーネグリフ)”の内容──私達に教えてないでしょ?」

 

「!!!?」

 

 オルビアは瞠目する。驚きを、顔に出した。

 ぬえは笑顔で、至近距離でオルビアの顔を見ている。怒ってるという風には見えない。だが──

 

「正確には、正しく教えてない、だけどね。……さっき、あなた言ったよね? 20年前の協定を覚えてるかって」

 

「くっ……あっ……!!」

 

「そっくりそのまま、その言葉を返してあげる──20年前の協定を覚えてる? あなたが私達に協力する代わりに、私はあなたのかわいいかわいい子供に手を出さない。……そう、ちゃんと約束は守ってたのに、あなたの方から約束を破るなんて、それはないよね~?」

 

「うああっ……!!」

 

「まったく……20年も私達と手を組んでたんだからこれくらいわかってほしかったなぁ。あなたの嘘なんて昔っからずーっとバレバレよ」

 

 オルビアはぬえの怪力によって頭を締め付けられ、耐えきれずに声をあげる。なぜそのことがバレたのかと頭の中で思考するが、思考が長く続かない。

 だが何らかの要因で嘘を吐いていることがバレたのだろう。それは明らかだ。

 

「──なーんて」

 

「っ……!? なに、を……?」

 

 だが不意に、パッとぬえが手を離す。

 これから始まるのはぬえの凄惨な拷問。そう思っていただけに、オルビアは困惑する。何をするつもりなのだと。そして嫌な予感しかしない。ぬえがこちらを見て笑みを未だ絶やしていなかった。

 

「こんな痛みくらいで言うことを聞かせられるなら最初からやってる。あなたに言うことを聞かすなら……やっぱり、あなたの()()()()()を壊すに限るよね♡」

 

「っ……!! まさか……!!」

 

 オルビアは、嫌な予感が的中したことを悟る。

 この状況で、追及すること。それが意味するのはやはり、20年前の協定で挙げた条件にもある──

 

「──私、最近ハンバーガー作りに嵌っててね? ミンチにしーてハンバーグ~♫ スライスしーてピークルス~♫ ビッグなパンで、挟んで潰せば“モンスターバーガー”♫ ──ってな感じでね。どっかの海賊団がやってるとこ見たんだけど、ちょっと痛めつけてるだけで全然なってなくてさ。ちゃんと挽き肉にして捏ねて焼きもしない手抜き感満載でね? しかも、ちゃんと食べもしないんだよ? ちゃんと残さず食べるまでが“モンスターバーガー”だよね!! せっかくだし、今度、あなたにもぬえちゃん流のモンスターバーガーを作るところ、見せてあげよっか♡」

 

 ──あなたの娘でね♡

 

「……!! やめて!!!」

 

 オルビアは叫んだ。ぬえの拷問など、あの子に受けさせる訳にはいかない。

 だがぬえはそれを聞いても楽しそうにしていた。

 

「ええ~~? だってあなた、嘘つきなんだもん。ちゃんと教えてくれるとは限らないし……一回くらい、痛い目見た方がいいよね? そうした方が、あなたも絶望して言うこと聞くようになるんじゃない?」

 

「待って!! お願い!! 次は……教えるわ!! あなた達が求める情報も……!!!」

 

「いやいや、今更そういうこと言うの? そういうのって信用ならないっていうか……私達のこと舐めてるんじゃない? ……“歴史の本文(ポーネグリフ)”読めるのは私だけだからやられっこない”とか、頭の良いあなたならそう高を括ってもおかしくなさそうだしさぁ」

 

「っ……そんなことは……!!」

 

 ぬえの言葉は正しかった。オルビアは古代文字を読める世界でたった2人の内の1人である。

 古代兵器を手に入れるにも、“ラフテル”に行くにも自分の協力が必要不可欠である。

 だからこそ、カイドウもぬえも簡単に自分を手放さないとわかっていたし、古代文字を読めるのは自分だけなのだから嘘をついたところでバレることはないとも思っていた。

 しかし、それは甘い見通しだったと言わざるを得ない。

 

「ま、確かにそうなんだけどね。ただの裏切り者なら別に殺してもいいけど、あなたの場合はそうはいかない。私達にとっても、あなたは代えの利かない人材なの。──だからこうしましょう」

 

「…………?」

 

 ぬえは指を立てて告げる。相も変わらない。悪戯好きの少女のような笑顔で、

 

「これからあなたが差す古代兵器の場所に、もし古代兵器が()()()()()……あの子を殺すわ」

 

「!! それは……!!」

 

「ふふ、いい条件でしょ? これでもすっごい優しいよね? だって、あなたが歴史の本文(ポーネグリフ)を読んで、正直にその内容を私達に教えてくれれば何も問題はないんだから♪」

 

「……!! でも!! それだと、もし古代兵器が……何らかの理由でそこになかったら……!!」

 

 オルビアはその懸念を口にする。歴史の本文(ポーネグリフ)の内容を伝えて、古代兵器の情報を彼らに渡したとしても、本当にそこにあるかどうかはわからないものだ。

 

「ん~~……まあ誰かに取られてたり、そこになかったりってことは確かにあるかもね。でも、ない場合はあなたが嘘ついてる可能性もある訳だし……やっぱり処刑だね!!」

 

「そんな……!!」

 

 オルビアは絶望する。それでは、嘘をつくどうのという話ではない。

 本当のことを教えたとしても、そこに何もなかったら──どの道、それは同じことになってしまう。

 

「しょうがないよね。なかったら罪。アウトってことで頑張ってよ。とりあえず、ここの歴史の本文(ポーネグリフ)が“プルトン”の居場所を指してるのはわかってるからさ。後で取りに行くからその時はよろしくね♡」

 

「…………」

 

「あれ? 返事は?」

 

「…………ええ……わかったわ」

 

 オルビアは項垂れて、そして頷く。

 頷くしかなかった。娘の生殺与奪は、この場ではぬえに握られているのだ。

 

『追い詰めたぞ……!! ワニ!!!』

 

『…………なぜ生きてるんだ。殺しても殺してもなぜてめェはおれに立ち向かってくる……えェ? ……麦わらァ!!!』

 

「ほら、向こうはもうクライマックスみたいだし、一緒に見て楽しもっか♪ あなたの娘も、まだ元気みたいだしね♪」

 

「…………ええ……」

 

 ぬえの言うように、画面の中では確かにロビンは生きていて、そしてクロコダイルの元に麦わらのルフィが現れた。

 そこでオルビアは思う。──まるで、ぬえの思うように全てが進んでいっているのではないかと。

 以前からおかしいとは思っていたが、今回は特にぬえの言うように事が運んでいるような気がして不気味でしょうがなかった。

 この怪物は、どこまで糸を引いているのかと。

 

「この戦いが終わったら、歴史の本文(ポーネグリフ)取りに行くからね♡」

 

「……はい……」

 

 そしてやはりこの怪物に娘を関わらせてはいけないと、オルビアは焦燥の中、強くそう思った。

 

 

 

 

 

 ──日は必ず昇り、雨もまた必ず降る。

 

「おれが奪った……? “金”か……? “名声”か……“信頼”か!? ……“命”か? …………“雨”か!!?  クハハハ、何を返してほしい。奪ったものなら幾らでもある」

 

「“国”!!!」

 

 戦いは必ず、終幕を見る。

 

「一端の海賊ではある様だな……海賊の決闘は常に()()()()を賭けた戦いだ。卑怯なんて言葉は存在しねェ……!! 地上で爆発が起こればここも一気に崩れ落ちるだろう」

 

 うねりは止まらない。

 

「死なせたくねェから“仲間”だろうが!!!」

 

「……たとえてめェらが死んでもか」

 

「死んだ時は、それはそれだ……!!」

 

 嵐は止まらない。

 

「所詮てめェの様なかけ出しの海賊が楯ついていい相手ではなかったのさ…………どうしようもねェ事なんざ世の中には腐る程ある……!!」

 

 だが人の夢も終わらない。

 

「おれは“海賊王”になる男だ!!!!」

 

「!! ……いいか小僧……この海をより深く知る者程そういう軽はずみな発言はしねェモンさ。言った筈だぞ、てめェの様なルーキーなんざこの海にゃいくらでもいるとな!!!」

 

 夢破れた男と夢を追う男の戦いは──

 

「この海のレベルを知れば知る程に──そんな夢は見れなくなるのさ!!!」

 

「……おれはお前を……越える男だ……!!!」

 

 国を奪う者と守る者の戦いは──

 

「……どこの馬の骨とも知れねェ小僧が……!! このおれを誰だと思ってやがる!!!」

 

「お前がどこの誰だろうと!!!」

 

 海賊と海賊の戦いは──

 

「おれはお前を越えて行く!!!!」

 

 この砂の国で──

 

「“ゴムゴムの”……」

 

「“砂漠の(デザート)”……」

 

 今──決着を見る。

 

「“暴風雨(ストーム)”!!!!」

 

「“金剛宝刀(ラスパーダ)”!!!!」

 

 そしてこの国を襲っていた悪夢は終わる。

 

「秘密犯罪会社B・W(バロックワークス)社“社長”、王下“七武海”海賊サー・クロコダイル──世界政府直下“海軍本部の名のもとに、あなたから“敵船拿捕許可状”及びあなたの持つ政府における全ての称号と権利を──剥奪します」

 

「過去を無きものになど誰にもできはしない!!! ……この戦争の上に立ち!!! 生きてみせよ!!!! アラバスタ王国よ!!!!」

 

 決して語られる事のない戦いが──終結する。

 だが……終わらない悪夢もある。

 

「さーて、これを読んでもらおっか。ドゥラークちゃん♡」

 

「ええ……」

 

 地下の墓標から奪ったそれは、知られぬ過去を記す古代の石。

 決して悪意ある者に教えてはならない最悪の古代兵器。その場所が記されたもの。

 

「勝負はおあずけにしようぜ」

 

「クソ……時間切れか……!! 撤退だ!!」

 

 戦いの終わりを悟り矛を収めた者と、上から呼び止められて撤退する獣達。

 等しく雨が濡らす中、その居場所は今──

 

「古代兵器……プルトンの場所は──」

 

「……へぇ♪」

 

 悪意を持つ獣達によって……暴かれてしまった。

 

 

 

 

 

 そして事件が終われば、海賊達は再び海に出る。

 

「もう行くのか?」

 

「ああ……大分時間食っちまったからな」

 

 人知れず尽力した海賊達の前で、彼は弟とその仲間に別れを告げる。

 話すのは己の事情。渡すのは生命を示す一枚の紙きれ。

 

「次に会う時は──海賊の高みだ」

 

「ああ!!」

 

 そして別れを告げる、その直前で彼は悩む。

 この国にいたとある海賊達のことを伝えるべきか否かを。

 だが考えてすぐに頭を振った。教えたところで何も変わりはしないと。

 彼らには彼らの冒険があり、自分には自分のやるべきことがある。どんな困難だろうとそれをやり遂げるしか道はない。

 

「──あ、ちょっと失礼。こういう奴、見かけませんでしたか?」

 

 ゆえに彼は弟達に何も告げず、自らのやるべきことを成しに再び海に出た。

 だがその同時刻。近くの海では、

 

「──あ、すまない。こういう奴見かけなかったか? 顔にそばかす。体がメラメラと燃える……そう!! ふはは!! そう、そんな奴だ!! そいつはどこで見た!!?」

 

 また別の、彼を追って海に出た者がいたが、彼は気づかない。それが向かう先が、麦わら帽子を被った海賊の一団であることも。

 

 

 

 

 

 “偉大なる航路(グランドライン)”、海上。

 歴史の本文(ポーネグリフ)を積んで、新世界まで帰還する百獣海賊団の船の上で、ぬえはオルビアへ呪詛のように言葉を漏らす。

 

「……それにしても……面白いね♡」

 

「……?」

 

 そしてぬえが言う。こちらの耳元で、まるでこちらの心を折るように、

 

「せっかくあなたの娘が古代兵器の秘密を守ったのに……母親のあなたが()()を暴いちゃうんだからさ♡」

 

「……あ……!!」

 

 ──そうだ。

 娘が守った未来を、歴史を。母親である自分が奪ってしまったのだ。

 古代兵器の情報を、彼らに渡してしまった。

 娘は、それを守って今も生きているというのに。

 母親である自分が。

 

「ふふふ♡ まあそれでこそ私達の“仲間”だよね。これからもよろしく──“悪魔のお母さん”♡」

 

「あ……ああぁぁ……!!」

 

 もう戻れない。

 オルビアは甲板に膝を突き、泣き崩れる。

 結局、20年前の自分の覚悟など浅く、脆いものだった。

 オハラの想いを踏みにじる……それを覚悟して、全世界の人を犠牲にする筈だったのに。

 今は両方への申し訳無さでみっともなく泣いてしまっている。

 娘や皆への謝罪を何度も反復する。今やっと、自分の浅慮をわからされた。

 そして彼女は娘の想いまでも踏みにじってしまったことを自覚し、絶望した。

 

「さーて、また私達の理想に一歩近づいたところで、この国とはおさらばね~♡ さ、お宝も獲ったし、さっさと帰りながら宴会するわよ!!」

 

「ウオ~~!! さすがですぬえさん!!」

 

「ギャハハ!! クロコダイルのカジノから奪った金だァ!!」

 

 だが多くの船員達は今回の収穫に酔いしれ、バカ騒ぎを行う。誰もがぬえを称賛していた。

 

「……それにしても、本当に奴らがクロコダイルを倒すとは……」

 

「びっくりです!!」

 

「あはは、さすがだよね!! ──まあ私の方が凄いけど!!」

 

「いや、そりゃあ……」

 

「当たり前だよね!! 張り合うなんて大人気なかったかな~? あはははは!!!」

 

 そして、悪夢はまだ終わらず、伝染する。

 妖怪少女(ぬえ)は幾つかの収穫を手に砂の国を後にし、また己の欲望を満たすための場所へ向かっていった。




ぬえちゃんと見るエピソードオブアラバスタ→映像電伝虫とUFOって便利!
ウソップ→最近は感覚麻痺してるからアレだけど4トンバットフルスイングで死んでないのはやはり将来性がある
Mr.2→なんだかんだ強いというか、やっぱ能力が便利過ぎる。ぬえちゃんからしたら、マネマネ能力者を見るのは二人目
Mr.1→覇気覚えたら新世界でも充分通用しそうよね。可能性の塊
ページワン→ゾロとサンジの攻撃は効かない。この時点だとインフレキャラ過ぎる
エース→インフレキャラにはインフレキャラ。地味にあの子とすれ違い
ドゥラーク→植物人間。そしてわからせられる。感動的な再会は心が洗われるな……厳密にはまだ再会じゃないけど
クロコダイル→好きなセリフ多すぎる。今見ると過去に何かあったおじさんすぎてね……
コブラ王→ワンピ界最高の王。というか国民の民度が良すぎる。ワノ国とドレスローザは見習ってどうぞ
ぬえちゃん→歴史の本文と古代兵器ゲットだぜカワイイ。まあ厳密にはまだゲットはしてないけど。とはいえ時間の問題。モンスターバーガー(真)も楽しみだね

環境整いました。お待たせしてしまい申し訳ない。
という訳でアラバスタ編は終了。エースがついてきてることによる差異とかを細かく書くと長すぎてやべーのでその当たりは脳内補完お願いします。
次回は世界情勢。五老星と海軍本部に心温まるぬえちゃんのメッセージをお送りします。そして伝説を生きる男も登場します。お楽しみに

感想、評価、良ければお待ちしております。

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