正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
──アラバスタの“英雄”、サー・クロコダイル氏、七武海の称号を剥奪!
──秘密結社の企みを海軍将校が阻止する!
世間を賑わせるその一面記事を出したのは世界経済新聞であった。
そのニュースは海賊と世間に大いに驚かせた。王下七武海の海賊、サー・クロコダイルと言えば七武海発足当時からの古参であり、知名度、実力、素行ともに政府から信頼を得ており、海賊の世界においても評判の海賊だ。
海賊を狩る海賊としての使命を十全に果たしており、彼がいたアラバスタ王国、サンディ島付近の海域は他と比べても圧倒的に海賊による被害が少なく、政府は彼を信用して海軍を配置していなかった。
しかし、そんな男が事件を起こしたのだ。
アラバスタ王国は数年前より内乱で国が荒れていることで有名だったが、その内乱の糸を引いていて、国を奪おうと秘密結社を組織して暗躍していた──その主犯こそがクロコダイル。
新聞にはそのことも詳しく書かれている。アラバスタ及び、
だが政府にとって不都合な情報だけは、多額の金を世界経済新聞社の社長、“新聞王”モルガンズに渡すことで包み隠した。
すなわち、政府がまんまと騙されていた大事件を解決したのは“海賊”ではなく、海軍の人間だということにしたのだ。政府の信用が著しく下がるような真実を民衆に知らせる訳にはいかない。
ゆえに、クロコダイルの企みを阻止した海賊のことを知る者は政府内においても少ない。だが──
『麦わらの一味船長“麦わらのルフィ” 懸賞金1億ベリー』
『麦わらの一味戦闘員“海賊狩りのゾロ” 懸賞金6000万ベリー』
当然、世間に知られるような大きな事件がないまま急激に跳ね上がる懸賞金を見て何かを察知する者や、裏の情報に通じてる者はそれを知ることになる。完全に隠し通すことは不可能だ。人の口に戸は立てられない。
だが政府もそれは承知していた。知る者は知っていればいい。真相が広まることはない。
それよりも議論すべきことは幾つもあるのだ。
『イェ~~~イ!! 政府のみんな盛り上がってる~~? 毎日毎日辛気臭い顔で正義の話し合いしちゃってる~~? あはは♪ そんな悩みの多いあなた達に、最高にプリティーな女の子からプレゼント!!!』
「…………」
──聖地“マリージョア”。
その中心にあるパンゲア城、権力の間には世界政府の頂点に立つ5人の老人──“五老星”の姿があった。
だが彼らは皆、一様に険しい表情を浮かべている。
幾つもの事件があったため、そうなるのも必然だが、1番大きな原因は、机の上に置かれたTD……“
音を記録することの出来るTDは音楽業界などで用いられている物であり、政府に送られてきたその貝からは一人の少女の声が音楽と共に聞こえてくる。
『あなた達が差し向けた正義のヒーロー“
「…………」
五老星は眉根を寄せながらもその声を聞き、TDの隣にある箱の中身に目を向ける。
そこにあるのは元海軍大将であり全ての海兵を育てた男とも言われた男の生首だ。
表情は正に失意と悲しみに満ちており、どれだけ凄惨なものを見たかが窺える。
『いやほんと勿体ない。ゼファー程の実力者を殺させるなんて酷いよあなた達!! 命は大切にね!! ぬえちゃんとの約束だぞ♡ ……というわけで、キュートなダークヒーロー“N”ちゃんからのメッセージでした!! ──さて、ここからは告知!! 96枚目のニューシングル!! “アンノウン☆ヒーロー”が来月発売します!! 政府のみんなには特別、一足早くに視聴させてあげるね♡ それじゃ行くよ~~~!!! ダークヒーロー!! ぬ~~~えちゃ~~~──』
「…………」
告知と共にイントロが流れ、歌が始まるというところで──カチッ、と五老星の一人が歯を噛み締めてTDの殻頂を押して再生を止める。5人共、一様に頭を抱えたり、ため息を吐いていた。
「……まったく“妖獣”め……」
「あの女の厄介さは変わらんな……」
「それどころか“百獣”の勢力共々、年々脅威は増すのみだ」
「少し迂闊だったか。やはりゼファー程度では相手にはならないか」
「ゼファーは近年、独断専行が目立っていた。元々使いにくい駒ではあったが……それを差し引いても戦力が減ってしまったのは痛いな」
五老星は口々に、今回の一件に対する私見を述べる。彼らには世界政府の今後の動きを決めるため、話し合わねばならないことが幾つもあり、“妖獣のぬえ”……“百獣海賊団”という脅威への対策をどうするかというのも議題の一つだ。
「“赤髪”と“白ひげ”の接触は下手に動かない方が良いだろうが、こちらも別の意味で下手に動いては危ない相手だ」
「“百獣”を刺激すれば、思わぬ被害を被るだろう。かといって、放置も出来ん相手だ」
「今は水面下でやり合う他ないだろうな」
「これ以上、勢力が拡大されても困るが、縮小されてしまっても困る」
「引き続きCPに一任する他あるまいが……ゼファーの件で海兵に動揺と百獣海賊団に対する悪感情が高まっている。また妙な独断専行がなければよいがな」
彼らは常に冷静に意見を述べる。行動や指針がブレることもない。
世界政府を維持するに当たって、三大勢力の均衡を維持することは最重要事項と言っても過言ではない。
七武海の一角が落ち、“四皇”の内、赤髪と白ひげが接触するという時に百獣にまで構ってはいられないというのもある。
世界一の戦力を持つとも謳われる百獣海賊団との争いなど、政府としては考えたくない事態だ。
しかし放置は出来ない。だからこそ、ゼファー率いる海賊遊撃隊に海域の調査を言い渡したが、まさか直接対峙して争ってしまうというのはほんの僅かに誤算でもあった。
ましてや死亡するところまで行くとは……よほど妖獣を怒らせたか、あるいはそういう気分だったのか。妖獣の行動の理由など考えても仕方がないことだ。
できればあまり刺激したくはなかった。何しろ政府としても百獣海賊団はビジネス的な繋がりがある相手だ。
正確には百獣海賊団が実効支配しているワノ国や彼らのナワバリから供給される大量の武器や兵器を王下七武海の一人にしてドレスローザの国王、天竜人とも繋がりを持つドンキホーテ・ドフラミンゴを通して取り引きを行っているため、直接取り引きしている訳ではない。
とはいえ武器の供給が止まるのは困る。この大海賊時代、海賊や革命軍と戦うための武器は幾らあっても足りない。
世界政府において百獣海賊団の武器・兵器のシェアは既に3割を超えているのだ。その供給が止まるのは政府としても困る。なくなれば、その3割をどこからか調達しなくてはならなくなるのだ。後ろ暗いことをするのは避けられない。
「今は早急に七武海の席を埋めなければ」
「報告では“黒ひげ”なる者が名乗りを挙げていると言っていたな……」
「白ひげの一団から逃亡した男……“黒ひげ”マーシャル・D・ティーチか…………」
「果たしてクロコダイルの後釜になり得るか。今のままではただの名もない海賊だ」
「早急に決めねばなるまいが……今しばらくは様子を見ることとしよう」
やはり悩みは三大勢力。その内の一角、七武海の穴埋めが先決──そう結論づけた五老星はウィンクした少女の写真が写るその手配書を一瞥し、衛兵に送られてきたTDと首を片付けさせた。
元海軍大将にして全ての海兵を育てた男、ゼファーの死は政府内、主に海兵達に衝撃を与えた。
「そんな馬鹿な……!!」
「あのゼファー先生が!?」
「誰に……一体誰にやられたんだ!!?」
「……“妖獣”です……百獣海賊団の目撃情報があったため、その情報を調査する任務に出ていたところ遭遇し、やられてしまったと……」
「っ……なんて、ことだ……」
海軍本部マリンフォード。その報告が行われた会議の場では、多くの将兵。名だたる強者達が揃って表情を歪め、大きく動揺している。
顔を手で覆って目に涙を浮かべる者も1人2人に留まらない。歴戦の海兵なら同胞の死には良くも悪くも慣れているため、死亡報告など冷静に受け止めることが出来るが、ゼファーの場合は話が別だ。
何しろ彼ら海兵にとって、ゼファーとは師であると同時に、親の様な存在でもある。
家族や友人と離れ、この海軍本部にやってきて新兵訓練を受ける。その過程で必ず教官をしていたゼファーに海兵としての心意気や戦いの訓練を受けるのだ。
「ちくしょう!!」
「おいやめろ!! どこへ行くつもりだ!?」
「離せ!! “妖獣”を……百獣海賊団を討ち取るんだ!!」
ゆえにこれは親の死も同然だ。
将官クラスの海兵にはなかったが、それ以下の海兵の中には、しばしば激高して剣を抜き、無謀にも仇である百獣海賊団に挑みに行くと声を荒らげる者もいる。
それらは必死に止められる。四皇の一角“百獣海賊団”はただの一海兵で倒せるほど甘い存在ではない。海軍本部と同じく世界の三大勢力に数えられる一大組織であり、四皇勢力としては戦力だけなら既に“白ひげ海賊団”を超えて最強ではないか? とも噂されているし、ゼファー率いる海賊遊撃隊がぬえ1人に一方的に惨殺されたことからもそれが窺えるだろう。
もっともどの四皇だろうと手を出すならば海軍大将は必須で、バスターコールの倍以上の軍艦と兵を動員する必要がある。その上、それでも攻め入るならば四皇本人の顔は拝めない可能性が高い。挑めばその被害も甚大だ。海軍本部と王下七武海の全兵力を結集して、四皇の一角を潰せたとしてもその隙に他の四皇に狙われるため、手が出せない。三大勢力の均衡とはそのように成り立っており、海軍とて例外ではないのだ。不用意には動けない。
それだけに政府としても四皇を積極的に潰しに行くような行動は許可しないし、海軍の上層部もそれを理解している。……だが理解はしていても感情はまた別だった。
「……どうじゃ? クロコダイルの代わりは決まったか?」
「……一時保留となった。黒ひげという海賊が名乗りを上げてな」
「“黒ひげ”~~~!? なんじゃ、白ひげの関係者か」
「CPの報告だと元白ひげの一味らしいな。……まあ七武海の席はまだいい。こちらは……やはり動揺が大きい様だな」
「ああ、見りゃ分かるじゃろう」
そしてゼファーの死でざわつく海軍本部の建物の一室で、2人の老兵は重く声を掛け合った。
1人はこの元帥の執務室の主、海軍総大将“仏のセンゴク”。海軍で最も高い地位にある元帥。
そしてもう1人。執務室に居座り、せんべいを齧っているのは海軍の英雄“ゲンコツのガープ”。階級は中将だが、その名誉と知名度はセンゴクを凌ぎ、多大な実績と人望を持つ唯一無二の海兵。
この場にはいない“大参謀”おつると合わせて、3人はゼファーの同期であり、実に50年以上の付き合いがあった。
「ゼファーの世話になっていない現役の海兵などほぼおらん。それだけにショックは長引くじゃろうな」
「……ああ。受け止めるにはしばらく時間が必要だろう。葬儀の手配はおつるさんがしてくれるそうだ」
「そうか」
だが2人はその戦友の死に涙を流さない。悲しんではいるが、涙を流すには2人は色んな物を見すぎた。
50年以上、この海で無法者達と戦い、正義の様々な意味と在り方を知り、光も闇も真実も見て、大切な者の死すら経験してきた彼らには戦友の死を冷静に受け止めることが出来てしまっていた。
海軍元帥と海軍中将として、彼らは今やるべきことを粛々とこなすしかない。他の海兵の様に恨みを募らせ、やり場のない怒りに悶えることもない。
「ゼファーも相応に衰えてはいたじゃろうが……それでもやられたのは相手が悪かったからじゃな。相手が百獣海賊団でも、カイドウやぬえじゃなければ生き残ることは叶ったじゃろう」
「……“赤髪”と“白ひげ”の件やクロコダイルの件もある。バカな真似はさせんようにお前も見張っておけよ。ガープ」
「わかっとるわい」
ゼファーを慕っていた海兵が仇討ちに走るなどのことが起これば、それこそゼファーは悲しむだろう。そうならないように気をつけなければならない。
一方で、組織としても今は七武海の一角が落ちたことで均衡が不安定だ。いたずらに兵を動かす訳にも失う訳にもいかないという組織のトップとしての懸念もあった。
この“正義”の二文字を背負い、海賊と戦っていく以上は悲しんでいる暇もあまりない。足を止めれば、それだけ犠牲になる人も多くなる。多くの海兵が動揺しているなら、それを引き締めることも上の役目であった。
「……そうだ。少し話を変えるが……ガープ。クロコダイルを倒したこの男は……お前の親族だな?」
「ん……? ああ、そういえば言っておらんかったか!! ぶわっはっはっは!! クロコダイルを倒すとは、さすがはわしの孫!!」
「言っとらんかっただと!!? ガープ貴様~~~!!!」
ゼファーの件で少し暗い空気だった部屋が一気に騒がしくなる。七武海を倒した“麦わらのルフィ”は海軍の英雄モンキー・D・ガープの実の孫。そのことが、政府上層部にも周知された日だった。
「──やはり、政府内はクロコダイルの事件のこととその穴埋め作業で慌ただしくなってるわ」
「ま、そりゃそうだよね~♫ ……で、私の曲の感想は? 何か言ってた?」
「残念ながら聴きもしなかったようで」
「それは許されないなぁ。そのうちまたマリージョアでライブ開いてあげないとね──あーむっ♡」
──“
百獣の旗を掲げる船の上で、私は美味しいワニ肉のステーキを頬張る。アラバスタで獲ってきたバナナワニのものだ。肉にしては少し甘味があって中々美味しい。
やっぱりステーキはレアに限るよね! と思いながら話す相手はウチの大看板の一人“戦災のジョーカー”ことステューシーだ。
船に寄ってくるのは珍しいが、どうやら“上”から引き続き、百獣海賊団の監視と諜報の仕事を頼まれたため、報告ついでに船に寄り、このまま一緒に帰ることにしたようだ。
宴会中のため、船の上は少し騒がしいが、私達の周囲にはお酌をしてくれる女性の船員が数人いる程度なのでそれほどうるさくはない。そんな中で歴史の本文とその中の情報を手に入れた美酒に酔っていた。肉を食い、グラスを呷った後に言うのはやはり先の件のことだ。
「それにしても、本当にあのクロコダイルが3000万程度の海賊にやられるとは思いませんでしたわ。幾らあの海軍の英雄の孫とはいえね」
「報告聞いたでしょ? 私もこの目で見たけど本当にこの“麦わら”が倒したのよ♪ あはは!! それにしてもさすが、ガープの孫って情報はやっぱ知ってるのね」
「ええ、勿論。クロコダイルを倒したことで、“麦わらのルフィ”の素性を洗い出すようにとお達しがあったので。必要とあれば、共有しましょうか?」
「ん~、どうかな? 私も結構知ってるよ~♡ 例えば……ガープの孫ってだけじゃなく、あのドラゴンの息子ってのも知ってた?」
「!!?」
「……!! それは……」
と、言ってひらひらと見せるのは先日更新された“麦わらのルフィ”の手配書だ。額が大きく更新されて1億ベリーになっているし、相棒の剣士“海賊狩りのゾロ”も手配されて6000万ベリー。ようやく海賊として箔が付いたってところかな?
しかしやはりと言うべきか、ドラゴンの息子と言われればさすがのジョーカーも知らなかったのか、驚いた。周りにいてそれを聞いていた部下達も、愕然としている。それほどに、革命軍のボスというのは素性が明らかになっていないのだ。
何しろCPが長年調べても、その尻尾を掴ませない程だ。伊達に世界政府を相手取ってはいない。世界最悪の犯罪者というのは実力も然ることながら、組織運営、防諜に於いても並の相手じゃないのだ。
そしてジョーカーはその事実を私の口から聞くと、赤いワインを口に含んだ後に微笑を携えて頷く。
「なるほど……色々と合点がいったわね。世界的犯罪者のドラゴンは海軍の英雄の息子で、そのドラゴンの息子がこのモンキー・D・ルフィ……確かに、この経歴ならクロコダイルを倒しても不思議と納得してしまう。てっきりぬえさんが麦わらのルフィがやったように見せかけたのかと思ってたけど」
「あはははは♡ まあやろうと思えば出来るけどね!! でもまあ面倒だし、もし麦わらのルフィが失敗するようなら、ぺーたんにやらせてたかなー。私が出張ったのはあくまでゼファーだけだよ」
確かに、ジョーカーの言うようにそういうことも出来なくはない……が、そのための仕込みや演技やらが面倒だし、どの道やる気はなかった。歴史の本文とその中身さえ手に入れれば良かった訳だしね。麦わらのルフィが勝つであろうことはわかってたし。
「この情報、政府には?」
「んー、任せる。教えたところで、あのガープならそのうちうっかり零しちゃいそうだし……ああ、そういえば、海軍はどう? ゼファーを殺したからすっごい動揺してるんじゃない?」
ドラゴンの素性など、今から伝えたところでさほど影響はないだろうから、使い道や伝えるタイミングはジョーカーに任せる。こういうのはスペシャリストに任せて好きにやらせた方が上手くいくものだしね!
それよりも、と私はゼファーを殺したことによる反応を期待しつつ問う。するとジョーカーも笑みを浮かべ、
「ええ。啜り泣く者や慟哭する者が多く、そうでない者も沈鬱とした表情を浮かべていて中々に見応えが♡」
「ええ~~いいなぁ~~~!! 私も見たかったなぁ~~~!!」
「とはいえ、さすがに上層部は落ち着いていたけどね」
「あっ、そうなんだ」
ジョーカーから海軍内の反応を聞いて羨ましくなるが、上の方の連中はそうでもなかったらしい。う~ん、冷徹……って訳でもないんだろうね。単にそういうことも覚悟してる連中だし、大将以上は動揺もないだろうとは思っていた。
後は……ガープとかおつるとかね。古い付き合いだから思うところはあるだろうけど軍属である以上はそうなってもおかしくないし、ましてや相手が私ならそうなるに決まってるし、割と覚悟はしていたんじゃないだろうか。
とはいえ下の動揺と恨みはすごいみたいだけど。
「全ての海兵を育てた男と言われるだけあって、その男を殺したぬえさんと私達に対する恨みが高まってる。今後、海軍を相手にする時は以前よりも面白いものが見れるかと」
「それは楽しみだね♪ 怒りと恨みを募らせ、復讐に走る連中。そういうのを──」
と、私は傍らにあった別の肉から出てきた骨を手に取り、がじりと噛み砕いて飲み込んだ上で言う。
「──返り討ちにするのも、また楽しいのよね……!!!」
「……復讐者の恨みは恐いものだけど、ぬえさんに比べたら形無しね♡」
そう言いながらもジョーカーは赤ワインとは別のグラスに入った赤い液体を飲み干す。──その能力も相手からしたら大分恐いと思うけどなぁ。でも楽しんでるようで良いことだね!
「……でも怒りとか恨みで掛かってくる奴ってたかが知れてるのも確かなのよねぇ……」
「厄介ではあるかと思いますが……ジャックなんかは復讐されないように徹底してるわ」
「組織としては正しいからね。それは大歓迎だけどさ。何しろどいつもこいつも考え無しというか、見積りが甘いんだもん。復讐に目が眩んで、実力の差が分かってないって言うかさ」
グラスが空になったので隣の女の子に新しいのを注いで貰いながら私は軽く呆れるというか息を吐いて言う──そう、復讐に来る奴なんてこれまでに大勢見てきた。
だがそういう連中はいざ戦いになって見れば彼我の実力差を思い知って恐怖し、絶望する。
あるいは理不尽に怒り狂うか、泣き崩れる。
おかしな話だ。それを知って挑みに来たんじゃないのかと。
「読み違いや甘い判断が招くのは“死”。ここはそういう海で、私達はそういう相手よ。だから復讐を成し遂げたいなら、もう少し考えて挑んできてほしいよね。道理とかは……まあ割とどうでもいいけど、単純にこっちとしてはつまらないしさ。挑まれる方の気持ちも考えてほしいよね。雑魚の相手なんて戦いじゃ楽しめないし、そりゃ虐める方に力入っちゃうよ」
「フフ……なら侍などは落第点だと?」
「んー……ところどころ見るべきところはあるけどね。小紫ちゃんとか……でもあの子は私が育てたみたいなもんだし、今のところは微妙かなー」
侍や海兵、海賊と今まで多くの相手と争い、その多くを殺して来たが、ヤケクソ気味になってる復讐者はいじめがいがある一方で、戦いとしては面白くない。
今回のゼファーもそうだったが、どいつもこいつも当たり前のことが分かってないのだ。
「想いや信念……意志ってのも大事だけど、もっと大事なものがあるのよ」
それはもっとわかりやすいものだ。
「戦いの結果は意志や想いだけじゃ決まらない──純粋な“力”。それらを引っくるめた……ただ強い者が勝つのよ!!」
そう、どれだけの想いや意志があろうと力がなければそれは全くの無駄だ。
泣いたり怒ったりするだけで戦いに勝てるなら鍛えることは必要ない。手段を模索する必要もない。勝利するための努力、強くなろうとする行為は全て無意味と化す。
この世はどこまでも無慈悲で残酷で理不尽なのだ。どんなに可哀想でも弱者は死ぬし、どれだけ悪党でも強ければ生き残る。
それを理解らず、そして楽しめない者はこの海で生き残れない。
「弱さは罪……自分の弱さを自覚しないまま無謀な挑戦をしてくるなら、ちゃんとその結果をわからせてあげるのが優しさって奴よね~♪」
「自分の弱さが招いた結果だから受け止めないとってことですね!!」
「そうそう。よくわかってるね~バオファンちゃん♡ こっちの甘いお酒飲む?」
「いただきます!!」
近くに控えていたギフターズの真打ちであるバオファンちゃんがちゃんと理解していたので褒めてあげて甘いお酒を注いであげる。背筋を伸ばしてお酒を受け取る体育会系なバオファンちゃんを見てやはり思う。これらはウチの船員なら子供でもわかることだが、残念なことに今この世の殆どの人間はそれをわかっていない。
「私やカイドウ……リンリンにシキ……白ひげにガープにロジャーに…………昔はそれをきちんと理解してる本物の海賊や猛者達が沢山いたんだけどね~~。今じゃ本物の海賊も少なくなっちゃったなぁ」
「覚悟が足りてない相手が多いということね。ウチだとドゥラークも……」
「ドゥラークも私が思い知らせてあげたからね!! 引き続き、上司として監視よろしくね!!」
「ええ、勿論。カイドウさんも喜んでいましたわ。帰ったらまた、記念の宴会ですわね」
「次の曲のレコーディングもしないとだしね!! そろそろ…………お?」
「? 何か?」
私はなんとなく広げていた見聞色に気配が入ってきたことを感知する。海の上である程度まとまった数からして、おそらく海賊船かな? 海軍ではないと思う。海軍ほど数が多くない。
無視してもいいけど……ちょっと見に行こうかな。私は席を立って空に浮かびながらジョーカーに声を掛ける。
「海賊船見つけたからちょっとちょっかい掛けてくるね!!」
「私達も向かいましょうか?」
「んーん、大丈夫♡ すぐ戻ってくるから針路は変えなくていいよ!!」
「わかりましたわ」
私の自由な行動は誰にも止められない。私はその気配の元になんとなしに近づいてみることにした──どうせ雑魚海賊だろうけどね!
財宝というのはそう簡単に見つかるものではない。
この大海賊時代。海賊の数は数え切れないが、その大勢の海賊達の多くが求める物の一つが“冨”だ。
海に沈んだ宝をサルベージして手に入れたり、行く先の島々で古い遺跡や洞窟などから宝を探したり。あるいは、他者から奪い取ることも財宝を手に入れる手段の一つだ。
「クソ……この間はハデに失敗しちまったが、今度こそは手に入れてみせるぜ……!!」
──そしてこの“
その船はまるでサーカス団の様な装いであり、船員も曲芸師や大道芸人のような格好をしている。
そんな彼らの船長こそが“道化のバギー”。バギー海賊団の船長を務める赤い鼻が特徴的な海賊だ。
「てめェら、今度はハデに気をつけやがれよ。何しろあの“キャプテン・ジョン”の財宝だ。この間も言ったが、どんな障害があるかわかったもんじゃねェ」
「まあ……この間は島を間違えただけですもんね」
「その通りだ!! 島さえ間違えなけりゃ、財宝があるのは確実!! つまり!! おれ達が宝の山を手に入れることも確実って訳だ!!!」
「なるほど!!! さすがはバギー船長!!!」
「船長!! 宴にしましょう!!」
「ギャハハハハ!! おう!! ここはいっちょ、前祝いとしてハデに騒ぐぞ!!!」
バギーの言にテンションが上がったバギー海賊団は一様に馬鹿笑いをしながら酒に食事に余興にと宴を始める。
“キャプテン・ジョン”の財宝。かつて、財宝の為に残忍の限りを尽くしたと言われる伝説の大海賊の残した財宝の手掛かりを見つけたと豪語するバギーは自信満々な様子で、もはや宝を手に入れることは確定事項で余裕。何の不安もない様子だった。
副船長のモージや参謀長のカバジなど、幹部も揃ってバカ騒ぎをする中、一人、息をついて呆れる美女がいた。
「まだ財宝も手に入れてないってのに……よくそれだけはしゃげるもんだね」
「ギャハハハハ!! 心配すんじゃねェアルビダ!! 場所さえ分かればこっちのもんなんだからなァ!!」
バギー海賊団と同盟を組み、船に同乗している“金棒のアルビダ”はバギーのお気楽っぷりに肩をすくめるしかない。
彼らの標的は因縁ある“麦わらのルフィ”ではあるが、元々財宝好きなバギーだ。道中の宝を無視することはないし、アルビダとしても宝を手に入れること自体は悪くないことだ──本当に手に入れられるのかという呆れがあるだけで。
そしてそんな時だ。バギーの声に反応し、別の者が話しかけてきた。
「キャプテン・ジョンかぁ。アイツの宝、本当にそんなとこにあるかなぁ?」
「ギャハハ!! おうおう、お前も心配性な奴だなおい!! おれが手に入れた情報を信じられねェってのか!?」
「でもアイツ、すっごい狡くてケチで嫌な奴だよ? 同じ船の仲間だろうが誰だろうが、人の大切にしてる物を奪うことばっかり考えててさ。宝の分け前も自分だけ多めに貰おうと悪知恵を働かせてたし。その癖、びた一文と人に宝を寄越さないから部下や仲間からも嫌われてたんだから。水虫の癖に」
「おお、そいつはふてぇ野郎だ!!」
「でしょ? ま、部下からの不満も強さで抑え込んでたんだけど、結局は部下に裏切られて最期は部下に殺されてるんだから笑えるよね!! ただ、それでも部下に財宝を奪われてはないんだからその執念はさすがだよね!!」
「間抜けな野郎だな!! おれ様ならそんなことには…………」
──あれ? と。
しばらく相手と仲良く話し込んでいたバギーはふと、その声と見た目に聞き覚えも見覚えもないことに気づき、そしてすぐに反対の事を思う。聞き覚えも見覚えもある、と。
黒い髪に赤い瞳。見た目は少女で、背中からはこの世の生き物とは思えない特徴的な赤と青の羽が生えている。
それは20年以上も昔、彼が元いた海賊団で敵対したとある海賊団の少女と同じで──
「うぎゃあ~~~~~!!!? “妖獣”~~~~~!!?」
「あ、はーい。いつもキュートでアンノウン。プリティフェイスにプリティスタイルが自慢の世界一可愛いぬえちゃんで~す!! ──それで、ジョンの奴って財宝の手掛かりをそこらにばら撒くような性格じゃないし、多分自分の身近に置いてると思うんだけど……」
「って、おおい!!! こ、こここっちが驚いてんのに何事もなく会話の続きしてんじゃねェ!!!」
「よ、“妖獣”って……まさか“妖獣のぬえ”!!?」
「ひゃ、百獣海賊団の副総督の……!!」
目をひん剥き、全力で後退しながらバギーは驚き、ツッコミを入れる。
周囲も途端にざわついた。それも当然の反応だ。
バギーと仲良く話をしていた──というより、いつの間にか紛れ込んでいたその少女は明らかにあの“四皇”の一角、“百獣のカイドウ”の兄妹分であり、その2番手として恐れられる大海賊、“妖獣のぬえ”だった。
懸賞金は30億を優に超える正真正銘の怪物。本物の化け物の登場を前に、さしものバギーやアルビダも冷や汗をかき、顔を青ざめさせる。
「ば、バギー船長!! 一体どうしたら……!!」
「え、ええい!! 落ち着けハデ馬鹿野郎共!! いいか!! ここは下手に動かず、一先ず様子を──」
「いえ……あの……サイン会を開いてるんですけど……」
「はいっ!! ありがとっ♪ これ、私のベストアルバムTDだから良かったら聴いてね♡ そこのポスターにライブ公演の予定も書いてあるから良かったら聴きに来て♡」
「あ、はい。ありがとうございます」
「って、なに人の船で愉快に可愛くサイン会&握手会開いてんだコラァ!!! おまけに物販までしてんじゃねェ!!!」
「え~~~ダメ? せっかく近くで見かけたから一曲歌ってファン増やしていこうと思ったんだけど」
「……!! ダメって言うか……それはよォ……」
いつの間にか、即席のテントと長テーブルを設置し、サイン会を開いているぬえを見てバギーは考える。可愛く小首を傾げているが、この妖怪女が暴れればこの船は即座にミンチだ。
(だがここに留まらせておくのも危険だぜ……!! どうにか追い出す方法はねェのか……? だがやはり刺激する訳にもいかねェ……!! どうしたら……!!)
その思考は堂々巡りだ。危険極まりない相手だから、早く帰って欲しいが、かといって機嫌を損ねるような真似は出来ない。
「ねぇ、まだ? もう先に準備しちゃっていい? というかするね!!」
「~~~~~っ!!! ええいクソ!! もう考えるの面倒くせェ!!! もうハデにサイン会でもゲリラライブでも何でも好きにしちまえ!!!」
「あはは!! さすがはバギー!! 話がわかるねぇ!! ──ってことで、ぬえちゃんの不意打ち出張ゲリラライブ!!! ハデに開催しま~~~す!!!」
「うお~~!! よくわかんねェけど盛り上がるぜェ!!!」
──そうしてしばらく、“妖獣”という怪物によるゲリラライブは続き、終始大盛りあがりで宴も続いた。
世界政府→戦力減少。実はドフラミンゴとワノ国を通じて百獣海賊団とズブズブ
海軍→ヘイト値増加
麦わらの一味→空島で色々やってる頃
空島→青海の海賊の事件をガン・フォールが語ってるかもしれない
キャプテン・ジョン→金の亡者。ケチ。水虫……らしい。
キャプテン・バギー→いつもの
ぬえちゃん→ダークヒーローN。新しいシングルも発売。そして遂にアレもゲット
という訳で世界情勢回みたいな感じでした。そろそろ例の戦いも秒読みかもしれません。
次回は遂に超新星の一人が。お楽しみに
感想、評価、良ければお待ちしております。