正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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戦う音楽

 その島は、音が止まない町だ。

 あらゆる楽器が音色を奏で、のど自慢の多くが歌声を響かせ、踊りに自信のあるダンサーがステップを披露する。

 陽気な住民に誘われるように、島を訪れる船乗りもまた、その祭りへと諸手を挙げて参加する。

 

 ──偉大なる航路(グランドライン)、カーニバルの町“サン・ファルド”。

 

 一年中祭りが行われ、多くの催しやイベントがひっきりなしに開かれるその町に誘われ、この島にやってきた海賊がいる。その名は──

 

『勝負あり~~~~~!!! 第1回ライブバトルコンテスト、“サン・ファルド杯”決勝トーナメント3回戦!! 勝ったのは泣く子も黙る“四皇”百獣海賊団副総督!!! 新世界からやってきた最強のアイドル!!! 優勝候補筆頭!! “妖獣のぬえ”~~~~~~!!!!』

 

「イェ~~~~~イ!!! みんなありがとう~~~~~~!!!」

 

「オオオ~~~~~~!!!」

 

「キャ~~~♡」

 

「CUTE!!」

 

「UNKNOWN!!」

 

 屋外に開かれた特設ステージ。司会用のお立ち台を中心に、2つのステージが左右に置かれたその会場は歌にダンスにパフォーマンス。その全てを競う“サン・ファルド杯”のリングでもあった。

 そして、その片方のステージでぴょんぴょんと飛び跳ねながら大勢の観客やファンに手を振るのは、見る人が見れば震えが止まらない程の凶悪海賊──“妖獣のぬえ”だった。

 

 

 

 

 

「はぁ~~~~~~最っ高だね!! この町!!」

 

「あい!! ぬえ様最高でした!!」

 

「ふふふ~♡ でしょ~? まあ当然ね!!」

 

 町のとあるカフェテラスを貸し切りにして、私は串焼き肉を堪能する。周囲には大勢の海賊達──私の部下達がいて、先程のライブに感激したと感想を告げてくれている。当然のことだが、やはり褒められるのは嬉しいものだ。

 だが中には、そこまで盛り上がっている様子のない相手もいるので、私はそっちに声を掛けた。

 

「? ぺーたんはどうしたの? まだエース捕まえられなかったこと引きずってるの?」

 

「いや……別にそういう訳ではねェんすけど……ぬえさん。なぜこの島に?」

 

 百獣海賊団の飛び六胞。ページワンことぺーたんは何やら釈然としない様子だった。どうやらなぜこの島に立ち寄ったのか、それが気になってる様だが、そんなのは決まっている。私は言ってやった。

 

「そりゃあライブコンテストが開催されてるって情報を掴んだからよ!! となれば、世界一のアイドルである私が参加しない訳にはいかないでしょ?」

 

「分かってないわね、ぺーたんは」

 

「ムハハ!! エンターテイメントを理解出来ねェなんて可哀想な奴め!!」

 

「我がグラン・テゾーロに比べればステージは質素としか言えんがな……とはいえ、参加しない手はないだろう」

 

「お前らには聞いてねェよ!!! つーか、なんでこんなとこに集まってんだ!!!」

 

 ぺーたんは周囲の席に座る私達……私以外を見て言う。ブラックマリアにクイーン、テゾーロと隙のないメンバーだが……一体何を興奮してるんだろうか。

 

「そんなことより、次はクイーンの番じゃない?」

 

「お、もうそんな時間か。よし野郎共~~~~!!! ショーの時間だ!! 行くぜ~~~~!!! FUNK!!!」

 

「FUNK!!」

 

「私の出番はその次か……フン。金のない愚民共に、本当のショーというものを見せてやろう」

 

「ぬえさん。次のショーでは、こういう演出を……」

 

「おお、いいねぇ~♪ それじゃブラックマリア、他の子達もまた楽器とバックコーラス、お願いね♡」

 

「はい!!」

 

「…………本当にショーコンテストのためだけに全員集まってきたってのか……」

 

 ぺーたんが困惑した様子で私達を眺めている。ん~まあ言わんとしてることはわかる。過剰戦力だもんね! 大看板1人に飛び六胞が2人。そしてテゾーロ。ジョーカーは先に荷物を置きに鬼ヶ島に帰っていったが、入れ替わるようにやってきたのがその3人だ。ぺーたんはそのまま残った。

 この面子なら戦争が出来るし、国も容易に落とせる。……実際、海軍がかなり警戒したみたいだが、今海軍は新世界で赤髪海賊団相手に手一杯らしい。なんともまあ忙しそうでご苦労なことだ。

 ということで、サン・ファルドで行われるビッグイベントに飛び入り参加することにしたのだ。音楽界、ショービジネス界にとっても、私やテゾーロなんかは大人気だし有名だしね。出るしかない。

 町の住民も、凶悪な海賊がやってきたことに少しは怯えたが、ショーコンテストは普通に大盛りあがりだった。そういう気質なのだろう。ドレスローザに少し似ている。海賊でも、見世物として面白くて楽しめていれば気にならないのだ。

 むしろ有名な海賊を見れるとあってか、より人が集まってる。ふふん。これも私の人気ゆえよね。期待に応えてあげなくっちゃ。

 

「やせちまったらモテすぎるから♫ あえてやせないタイプの♫」

 

『“FUNK”!!』

 

「あ、クイーンのショー始まったね」

 

「クイーンは相変わらずのようですな」

 

「まあ決勝は私にクイーンとテゾーロのどっちかになりそうだね──あ、そうだぺーたん。せっかくだし、バックダンサーとしてショーに出る?」

 

「……い、いや、それは……」

 

 クイーンのショーが人垣の向こうで始まるのを遠目で見ながら、ぺーたんにも気を使ってショーに出るかと尋ねるが遠慮してしまう。足手まといになっちゃうから嫌なのかな? そんなこと気にしなくてもいいのになぁ。ま、出たくないなら無理に出させることもないけどね──ん? 

 

「…………」

 

「? どうかしましたか? ぬえさん」

 

「……んー、ふふふ♡ もしかしたら、次のステージは面白いことになるかもね♡」

 

「……? それはどういう……」

 

 なんでもなーい♡ と、ブラックマリアの疑問を私は肉を再び口に含むことで打ち切る。ネタバラシしちゃったらつまんないもんね♪ でも私ってラッキー♡ と、陰から私を見ていた相手を、敢えて私は無視することにした。

 

 

 

 

 

 広場にある建物の陰に隠れてある海賊達を眺める男もまた、海賊だった。

 彼は航海の途中、やってきたこの島にとんでもない大物がいることに興味深そうに顎を撫でる。

 だがその手の関節は2つあった。

 メガネにヘッドホンをつけたその男に、男の部下達は頭に疑問符をつけて声を掛ける。

 

「アプーさん、なに見てるんですか?」

 

「──面白ェ奴ら見つけたぜ」

 

「は?」

 

「ほら、見てみろ」

 

 男は建物の陰からそれを見るように部下に言う。指を指し、カフェテラスに座る一団を見せると、彼らの顔が青ざめた。

 

「!! あれって……百獣海賊団……!!?」

 

「ああ。四皇の一角。しかもありゃあ“百獣のカイドウ”の兄姉分としても知られる“妖獣のぬえ”だな。周りの連中も飛び六胞って奴だ」

 

「な、なんでそんな大物がこんなところに……!?」

 

「さあな。ショーコンテストに参加しに来ただけじゃねェか?」

 

 確か参加者に名前があった筈だ。それに、今ステージでは同じく百獣海賊団の大看板が歌って踊っている。その可能性は高く思えた。

 しかしそんなことよりも何よりも部下達は大物相手にビビって船長である彼に進言する。

 

「アプーさん逃げましょう!! あんな奴ら相手にしちゃあ……」

 

「落ち着け。あっちもショーコンテストに参加しに来たんなら、意味もなく暴れるようなことはしねェ筈だ」

 

「それはそうかもですが……!!」

 

「バカだなァ……おめェら、せっかく向こうが音楽でやりに来てんだぜ? ならこっちも“音楽”で挑むしかねェだろ」

 

「えっ……まさか……!!」

 

 ビビる部下達の前で、男は面白そうに口元を歪める。“音”と書かれた服を着る彼は、この年に海賊になり、億超えの賞金を掛けられた話題の海賊。

 

『オンエア海賊団船長“海鳴り”スクラッチメン・アプー 懸賞金1億9800万ベリー』

 

「それに……敵は怒らせて逃げるに限るぜ!! ついてこい!!」

 

「アプーさん!!?」

 

 そうしてその海賊、アプーは部下達が戸惑う中、その場を離れてイベントのセッティングへと向かっていった。

 

 

 

 

 

「さーて、次は準決勝ね!!」

 

「頑張ってくださいぬえさん!!」

 

「応援してま~す!!」

 

 クイーンのライブにテゾーロのライブと次々にコンテストは続き、再び出番がやってくる。次は準決勝。

 これに勝てばクイーンかテゾーロが相手で優勝が決まる──ま、優勝は私に決まってるけどね♡ 世界一可愛い私が負ける筈がない。歌もダンスもビジュアルもパフォーマンスも全てが完璧なのだ。モブなど軽く一捻りにしてやろうと、私は部下達の声援を受けながら楽器やバックダンサーを担当する部下達と共にステージへ上がる。

 

『──さあ!! 次はとうとう準決勝!! 司会は引き続き、ブルーベリータイムズ社所属!! ギターも弾ける新聞記者!! ロッキー・ハッタリーがお送りするぜベイベ!!』

 

 2つのステージの間には司会者を務めるのはサングラスを掛けた金髪の男。ギターを手にして鳴らし、観客を盛り上げている。……何でも良いけど、知ってるような気がするようなしないような……いや多分知ってるんだけど……何だったっけなぁ……ま、思い出さなくてもいいとは思うけどね。どうでも良い相手だ。

 

『まず一人目!! 準決勝に駒を進めたのは、あの“四皇”!! “百獣のカイドウ”の兄妹分!! 懸賞金30億を超える怪物!! しかし見た目は可愛い最強アイドル!! 最初見た時は不覚にも自分、チビッてしまいました!! “妖獣のぬえ”~~~~~~!!!』

 

「あはははは♪ みんな~~~~!!! 今日は歌いに来ただけだから、楽しんでいってね~~~~♡」

 

 そして出番だ。司会者のマイク越しの声に合わせて私もステージ上に軽やかにジャンプして上がる。色鮮やかなUFOに囲まれながらの登場だ。ステージに上がったら声を上げてウィンク。そして大歓声。ふふふ、またファンを増やしてしまったかな~? 相手には悪いけど、今回も私の独壇場ね!! 

 

『そして二人目は──えー、諸事情により、準決勝に勝ち上がったバイアン氏が棄権しまして……』

 

「え~~~!?」

 

「何だと~~!?」

 

 ありゃ? もしかして不戦勝? えー、それだとつまんないなぁ。後2回は歌えると思って色々準備してたのに。ファンが驚き、ブーイングをしているが私もしてしまいそうだ。こらー! もっと歌わせろー! 棄権なんて許すなー! 

 

『ですが会場の皆様ご安心を!! 飛び入り参加の特別ゲストが参加を快諾してくれたぜ!!』

 

「特別ゲスト?」

 

「誰でしょうね」

 

 私やブラックマリア、会場の皆が頭に疑問符を浮かべる中、司会のロッキーはギターを一度鳴らし、私のいる場所とは逆側のステージを指した。照明がその場所を照らす。司会の声と共に現れたのは──

 

『という訳で妖獣のぬえと戦うのはこの男!! 突如この海に現れた手長族の超スーパールーキー!! オンエア海賊団船長!! 懸賞金1億9800万ベリー!! “海鳴り”スクラッチメン・アプ~~~~~~~!!!』

 

「アパパパパ!!! チェケラ~~~~~!!!」

 

「!!?」

 

 軽やかにステップを踏みながら、自分の身体や頭を長い手で鳴らしてステージに上がってくるのは司会の言う通り、海賊スクラッチメン・アプーだ。ん~? 態々ここで私に絡んでくるの? 一体どういうつもりなのか。

 

「YOYO!! おめェさんが妖獣のぬえって奴だな?」

 

「……見たらわかるでしょ? 可愛いんだからさ♡」

 

「おっとこいつは申し訳ねェ!! 別にアンタに喧嘩売りに来たんじゃねェんだ。ちょっとしたご挨拶って奴でYO。これでもあんたのファンなんだ。TDだって持ってるぜェ、アッパッパ!!」

 

「──へぇ? ありがと♡ 殊勝だね。まあ別に、今日は本当に歌いに来ただけだから良いんだけどさ。楽しくやりましょ♡」

 

「そりゃ勿論だ♫ あんたとは気が合いそうだぜ♫」

 

 そしてアプーは私に話しかけてくる。しかも好意的に。……まあ私はさっき休んでる時に気づいてたけどね。それでどこかで絡んでくるかなと思ってたけど、ここでくるのかぁ。ちょっと生意気で人を小馬鹿にする感じは透けて見えるけども──

 

「ぬえさん」

 

「手出しちゃダメよ、ブラックマリア。あなた達も、今日は歌いに来たんだからね♡」

 

 とはいえ構わない。アプーの態度を見てブラックマリアや周囲の部下達がどうするか──手を出していいのかってことを目線と呼びかけで聞いてくるが、私は構わないと伝える。挨拶だって言ってるしね。TDを持ってるファンと聞いて嬉しくなったが、それは本当だろうか。本当なら多少は大目に見てやってもいい。嘘だとしたらちょっと迷うけど……どの道、本当に今日は歌いに来ただけだしね。多少の態度の悪さは海賊なのだから構わない。ウチは細かい礼儀とか割と緩いからね! そんなことでは怒らないのだ。

 だが──()()()()()()()()()()()()()()

 

『それでは互いに挨拶が済んだところで……準決勝!! スタートだ!!』

 

「ウオオオオオオオオオオ!!!」

 

 司会者の合図と共に、互いに音楽を鳴らす。相手のアプーはDJスタイルでヒップホップ。こっちはワノ国スタイルを取り入れたロック調のポップ……だがまあ私は全ジャンル行けるからね。ヒップホップに変えてもいいが……なーんか、アプーの動き、怪しいよね~♡

 

「! 見ろ!! あいつ……!!」

 

「自分の身体から音を出してるのか……!?」

 

 そう、アプーは自らの身体から音楽を鳴らしている……が、それは別にボディーパーカッションの様なことをしている訳ではない。

 頭を叩けばシンバル。胸を叩けば太鼓。歯を鍵盤に変えてシンセサイザー。

 

「なんだあれは……」

 

「オイオイ!! 身体から音を鳴らすとは……なんてファンクな野郎だ!!」

 

「そういう問題か……?」

 

 手を弦楽器。腕をクラリネットにも変えて演奏──身体の各部を、楽器に変えて演奏しているのだ。

 そりゃ観客も、テゾーロやクイーン、ページワンだって驚くし困惑する。私だって知ってるとはいえ、実際に見たのは初めてだから驚いているのだ。

 

「YO♫ YO♫ YOYOYO♫ 届いてるかこの音楽(ミュージック)♫ 聞こえてたらステイチューン♫ 封獣ぬえェ♫」

 

「……聞こえてるよこの音楽♫ 何か用かなスクラッチメン・アプー♫」

 

 そしてその音楽は中々悪くない。

 まあ私には劣るとはいえ、中々良い音と歌だ。パフォーマンスも、身体を楽器に変えるという珍しい能力を使ったことで、オーディエンスの注目を集めている。

 だからという訳ではないが、私もちょっとジャンルを変えてラップ調にアプーに問いかける。ウチの音楽隊は優秀だから私のちょっとしたサインですぐに音楽や曲を変えることが出来る。打ち合わせと違っても問題ない。

 問題があるとすれば……そのルーキーの生意気さくらいだ。

 

「エッビッバーリー!! 聴いてけ“戦う音楽(ミュージック)”♫」

 

 そして私は、敢えてそれを見極めて堪能しようと笑みを浮かべてそれを待つ。アプーが手首の弦楽器を鳴らし──

 

「スクラ~~~~~~~~ッチ!!! (ボン)♫」

 

「!!?」

 

 その瞬間。私でも捉えきれない速度でその衝撃を受けた。

 

「ぬえさん!!?」

 

「なんだ!!? 急に吹き飛んで……!!」

 

 私の身体が衝撃で僅かに浮き上がり、横に吹き飛ぶ──が、私は空中ですぐに体勢を立て直す。

 今のは……殴られたね。多分だけど。ちょっとその技、私知らないんだよね。原理とかわかってないから、見極めようとしたんだけど無理だった。

 周りはまだ驚き戸惑っている。何が起こったのか理解出来ていない。その間にアプーが再び──

 

「“(シャーン)”♫」

 

「……!!」

 

「ぬえさんが……血!!?」

 

「バカな……!!」

 

「なっ……何ィ~~~~~~!!?」

 

 ──斬撃。その攻撃で私の肌が()()()()()()。やはり見切れない。

 そして私がアプーの能力について観察している中、外野では私の身体から血が流れたことに驚いてる者が大勢。それだけ信頼があるってことなんだけど……皆大げさだなぁ。私にだって赤い血は流れてる。ちょっと腕に斬り傷が出来たくらいでそこまで狼狽える必要はない。斬れたと言っても本当に微量、軽くリストカットしたくらいの切り傷だしね。

 ……だがまあ驚くには驚くよね。私の身体に傷をつけるとは……もしかして概念的な攻撃なのかな? 

 ただの斬撃なんて私には効かないし、刀だって私の白くてすべすべの肌には刺さらない。鎌鼬、例えば嵐脚なんかも私は覇気で防御しなくても斬れることなんてないのだ。覇気を込めようが関係ない。私達の体は鋼鉄などよりずっと耐久力があるのだ。斬れるとしたらカイドウや赤髪とかの四皇か……あるいは鷹の目くらいだ。

 だからそれらの圧倒的な力以外では傷つかない私の肌の耐久力を、少しでも突破してくるということは、それは物理的な攻撃ではなく、悪魔の実の能力で概念的な攻撃をしていると推測出来る。まさかおでん並みの流桜を持ってる筈がないから消去法でそれだ。

 そしてそういう物理的な法則を無視してくる系の能力は厄介だ。例えば、バリバリの実のバリアなどはどれだけ強力な物理的な攻撃を繰り返したって壊れない。それはバリアが何も寄せ付けずに通さないという理屈の能力であるからだ。昔、私やカイドウがどれだけ本気で殴っても壊れなかったんだからそれは間違いない。

 そしてこのアプーの音の能力も、おそらく同じ理屈の能力。推測でしかないけど、特定の音を聴いた相手に特定の現象を起こす能力……とかかなぁ。音を聴いた時点で能力の発動条件がクリアされて、衝撃や斬撃などの特定の現象を対象の体で引き起こす……相手がどれだけ硬かろうが関係なく最低限、固定のダメージを負わせるような能力とも言える。うーん、考えれば考えるほど理屈というか概念的な能力っぽくてずっこいなぁ。面白い。

 

(ドーン)♫」

 

「!!?」

 

「え~~~~~~~!!? ぬえさんが爆発したァ!!? 演出かァ!!?」

 

「……!! あいつの仕業なのか……!!?」

 

 そして今度は爆発。やはり、音を聴いた時点で発動は確定なのかな。それなら耳を塞げばいいだけだけど、耳と両手を塞げる能力って考えると悪くないし、遠距離からの奇襲、不意打ちにも使える。タイマンでも集団戦でも中々使えそうな能力だ。まあ、ヘイトは高まりそうだけどね……と、考察してる場合じゃなかった。

 

「ア~~~~ッパッパッパ!!! チェケラァッ~~~!! ──とまあこんなところで音楽対決はいいだろ。普通に戦っちゃ敵わねェだろうし、こっちはトンズラこかせてもらうぜェ~~~~!!」

 

「! おい!! 奴を逃がすんじゃねェ!! 捕らえろ!!」

 

『ええっ!!? 不可思議な現象の連続!! そして……あれ!? じゅ、準決勝は!!?』

 

「大丈夫ですかぬえさん……!?」

 

 演奏を止め、やるだけやって逃走を図るアプー。んー、相手をからかって怒らせるだけ怒らせて逃げるとか、中々に良い趣味をしてるみたいだね。私もそれは理解出来る。

 ただ……私から逃げられると思ってるのだけがマイナスだね♡

 

「よくもぬえさんのライブを……!!」

 

「わ、マリア姐さんが変身を……!!」

 

「クイーン様!! 奴は港の方に!!」

 

「逃げられると思うなよォ~~~!! 新作の病原体(ウィルス)を試してやる!!」

 

 ブラックマリアやクイーンも戦闘態勢に入って落とし前をつけさせようとしている……が、私はそれを差し止めた。

 

「あんた達……手ェ出すんじゃないわよ……!!」

 

「っ……!! ぬえさん……!!」

 

「せっかく私に手を出す度胸のある相手が現れたんだから……ちゃんと私が相手してあげないとね……♡」

 

 私が爆発したのとアプーが逃げたのを見て、それを追いかけようとしたクイーンやページワン、ブラックマリアなど、全員に手を出すなと命令する。皆が一斉に動きを止める間、私は屋根を伝って既に見えない位置にまで移動したアプーを見聞色の覇気で捉える。逃げ足も早いし、身のこなしも軽い。普通に戦っても結構出来そうだ。

 私は指で自分の右腕に出来た僅か数センチの斬り傷をなぞり、付着した血を舌で舐める。ふふふ、久し振りに血を流した。能力によるものとはいえ、中々楽しい相手だ。

 そんなアプーを捕らえるべく、私は地面に着地した足を踏みしめ、()()で飛びかかった。

 

「さーて、出航準備は事前に済ましてあるし、このまま行きゃあ逃げられるな」

 

「──良い能力だね。60点あげる♡」

 

「は? ──!!!」

 

 呑気なことを言っていたので、アプーの顔面を殴って叩き落とす。ちょっと強すぎて地面割れちゃったけど……これは一撃かな? 

 

「ウゥ……!!」

 

「ん……あはっ♡ 手加減したとはいえ、気絶してないなんてやるじゃん!! うんうん、耐久力も合格だね!! ならこのまま──」

 

 と、私は3色のUFOを生み出して、空から顔を青ざめさせたアプーを見下ろしながら“遊び”の開幕を告げる。

 

「音楽勝負……続けよっか♡」

 

「……!!!」

 

 ──“弾幕ごっこ”の時間だ。

 

 

 

 

 

 アプーは初めて、圧倒的な“力”というものを……“現実”を思い知った。

 海に出て、好き勝手にノリよくやる日々。敵はからかって怒らせておちょくる。負けることはなかったし、捕まることもない。

 自分が面白ければいいし、これからも自分のノリを貫き通せると思っていた。たとえ“四皇”が相手でも。

 

「──ほらほらもう終わり? もっと踊って踊って♫」

 

「ゼェ……ハァ……ハァ……!!」

 

 だがそれは大きな間違いだった。

 四皇“百獣のカイドウ”の兄姉分にして百獣海賊団の副総督。一見、少女にしか見えないが、その獣の様な赤い目と纏う雰囲気は得体の知れない怪物そのもの……目の前にいるのはそんな存在だ。

 “妖獣のぬえ”にちょっかいを掛けたことを後悔する。攻撃という名の挨拶を仕掛け、逃げ切れるかと思えば一瞬で追いつかれ、今はただ嬲られている。

 

「“DANCE”♫ “DANCE”♫ ステップして躱して~~~~~♫」

 

「……!!」

 

 音楽勝負と言う名の一方的な拷問とも言っていい。

 既にアプーは己と相手の圧倒的な力の差を思い知っていた。逃げることは不可能とわかり、そこから少し戦ったが……こちらの攻撃で相手は全く怯むこともないし、倒れる様子もない。攻撃は当たっているのに、ダメージを負ったように感じられないし、なんなら攻撃を止めた今では回復しているようにも思える。

 そしてその気になれば一発で沈めることも出来るだろうに、それをしない。最初に見せたような圧倒的なスピードやパワーを封印している。

 その代わりに何をしているかと言うと……弾幕だ。

 

「ボルテージ、アゲアゲで行くよ~~~~!!! 次の曲!! “正体不明”!! “くねくねフォークロリズムダンス”!!!」

 

「ウッ……!!」

 

 空から飛来するのは色とりどりの光弾で構成される弾幕。一定時間ごとに広がり方を変え、被弾する度にこちらにダメージを与えてくる。

 それをアプーはただ躱し続けるだけの時間が続いている。ぬえが踊りながらポーズを取り、曲のタイトルらしき技名を言うと、今度は白くて長い謎の生き物のような何かがくねくねと曲がりながらこちらに殺到してくる。不規則な攻撃の動きに被弾し、だが足を止める訳にはいかないとそれを何とか避ける。

 先程からずっとこの調子であり、このままでは体力が保たない。いずれは足を止めて蜂の巣にされてしまうだろう。流れている音楽を聴いている余裕もない。

 

「もうダウンかな~? こっちはまだまだ踊り足りないんだけど?」

 

「……っ!!」

 

 ──化け物。端的に言って、それだ。

 四皇本人ではないのに、この強さ。格が違う。

 加えて周囲にはもう敵しかいない。住民は皆逃げたし、仲間は全員もう倒れている。いるのは百獣海賊団の幹部を含めた軍勢だけだ。

 このままでは死ぬ。勝てない。面白くない。そう思った時の自分の行動は早かった。

 

「こ──降参だ降参!! 降参する!! だからやめてくれ!!」

 

「! ふーん…………ま、いっか。それじゃあやめてあげる!!」

 

 言うと、ぬえは一瞬つまらなそうな表情を浮かべたが、すぐに明るい笑みを浮かべて弾幕を止めた。

 思ったよりもあっさり止めてくれたことに戸惑いつつも、未だその恐ろしさは完全には消えていない。近付いてくるぬえに後退りしそうになる足を押し留め、百獣海賊団の他の連中が近づいてくるよりも先に釈明をする。

 

「ハァ……ハァ……わ、悪かった!! 人をおちょくるのが癖でよォ~~!! 怒ったらどうなるかってのを見たくて、出来心でやっちまったんだ!!」

 

「へぇ~そうなんだ!! うんうん!! その気持ち、私もわかるよ!! あはは、嬲っちゃってごめんね? 私、格下で楽しめない相手との戦いだとこうやって別の事で楽しもうとしちゃうからさ」

 

「あ、ああ……」

 

「ぬえさん!!」

 

 アプーが地面に両膝を突いて謝罪をする。その背後から、ウチの部下達がやってきた。クイーンを始めとする幹部が集まってくる。テゾーロも一緒だ。

 

「終わったか……ぬえさんにしちゃあ周囲の被害は少ない方だな……」

 

「この野郎……落とし前つけさせてやる……!! ぬえさん、こいつの処遇は!?」

 

「私らが集まってるところで喧嘩を売るなんて、度胸のある奴だねぇ」

 

 クイーンとその部下達が私達の周囲の町──弾幕で破壊され、ボロボロになった通りを見て被害は少なかったと言う。うん、実際少ない。結局アプー相手への弾幕を撃ってたくらいだしね。近接戦で暴れたり、獣型で暴れると島が滅んじゃうからさすがにそれは自重した。

 そしてページワンなどはアプー相手に落とし前をつけると言って憤慨中。余談だけど、ぺーたんってこういうところやっぱうるティちゃんに似てるというかやっぱ姉弟だなぁって感じる。どっちもカイドウや私に敵対する相手だと頭に血が上りやすいというか、キレて噛みつきに行く辺りとかね。ブラックマリアは煙管を手にアプーを見て皮肉染みた褒め言葉を述べていた。テゾーロはただ見てるだけ……まあとりあえず、処遇から告げないとね。ぺーたんが怒ってるし。

 

「ほら落ち着きなさい。処遇は決まってるからさ」

 

「一体どうするおつもりで?」

 

「まあいつものよ。──アプー」

 

「!」

 

 私はアプーに告げる。アプーは肩で息をしながら出血している右肩などを押さえた状態で顔を青ざめさせていたが……私達はそんなに厳しくない。どんな相手であっても水に流す。

 

「私達の傘下に入りなさい。ウチはいつでも戦力になるなら大歓迎!! 楽しいイベント盛り沢山の楽しい海賊団よ!! あなた、DJも出来るみたいだしね♡」

 

「ハァ……ハァ……アッパッパ……なるほどな……戦力になる奴は殺さねェって情報は本当の話か……」

 

「お、よく知ってるね!! まあそういうこと~。あなた度胸もある上そこそこ強いし、ウチに入れば悪いようにはしない。実力主義だから強くて役に立つなら相応の地位はあげるわ♡」

 

 ──さあ返答は? 

 私の勧誘を受け、何かを思っていたアプーだったが……その後の返答は淀みなく、聞いた私の口元をニヤつかせた。──ふふふ~♪ “最悪の世代”、一人目ゲット♡

 

 

 

 

 

 ──司法の島“エニエス・ロビー”陥落!! 

 

 ──海賊“麦わらのルフィ”とその一味!! 世界政府へ宣戦布告!? 

 

 その日、新聞に書かれたその記事は全世界へと響き渡り、多くの民衆、海兵、海賊を驚かせた。

 懸賞金3億ベリーの海賊“麦わらの一味”の名は瞬く間に世界中の人々に知られたのだ。

 

「うっはァ~~!! この船最高だァ~~~~!!!」

 

「最高だァ~~~!!!」

 

「芝生もふかふかだ~~~~!!!」

 

 そして新しい船を手に入れ、水の都W7を出航した麦わらの一味は次の島“魚人島”を目指す。

 だが、航海にはアクシデントが付き物だった。

 

「ん……? あれはもしや……」

 

 空を行く影は不意にその船と掲げられた海賊旗を視界に見た。麦わらの一味の殆どが気づいていない。

 

「ん? なんだありゃあ……」

 

 そして最初に気づいたのは……居眠りをしながら見張りをしていた男、懸賞金1億2000万ベリー“海賊狩りのゾロ”だった。

 だが気づいた時には既に遅い。その影は一直線に麦わらの一味の船“サウザンド・サニー号”に向かってくる。

 

「見つけたぞ~~~~!!!」

 

「!! どわっ!!?」

 

「なに!?」

 

「なんだ敵襲かァ!?」

 

 正確には、1人の男に向かってだ。

 仲間の1人が突然声を上げたことで、彼らは一斉に何事かと視線を向ける。

 芝生の甲板に墜ちてきたのはロロノア・ゾロともう1人。二刀を持った特徴的な格好の女剣士だった。

 

「フハハハハ!!! ここで出会ったが100年目!!!」

 

「……!! 何なんだてめェは!!?」

 

「うおっ!!? 空からマリモとキュート女剣士!!?」

 

「なんだァ~~~!!?」

 

「誰だお前!?」

 

 ゾロに襲いかかり、刃と刃の応酬を繰り広げる女剣士に、目をハートマークに変えて喜ぶサンジ以外の皆が驚き、一体誰だと身構える。

 だが彼らは次に、その二本の角を生やした女剣士からとんでもない言葉を聞いた。

 

「懸賞金1億2000万ベリー、ロロノア・ゾロだな!?」

 

「そうだが……てめェはなんだ!!?」

 

「我か? 我の名は……そう!! ロロノア・ムサシ!! 貴様の……娘だ!!! パパ!!!

 

「え……」

 

「は……?」

 

「何……だと……!?」

 

「え~~~~~~~~!!?」

 

 一瞬、唖然とした一味はややあって一斉に海に大声を響かせた。

 

 

 

 

 

 ──そして謎の女剣士、ムサシが麦わらの一味と接触するその一週間の間には、世界を揺るがしかねない事件が幾つも起きていた。

 

「待てよティーチ。探したぞ……!!!」

 

「!!? おお……エース…………隊長……!!!」

 

 偉大なる航路(グランドライン)“バナロ島”ではとある2人の海賊が激突し──

 

「誰にも止められなくなるぞ……!!! 暴走するこの時代を!!!」

 

「恐れるに足らん!!! おれァ“白ひげ”だ!!!」

 

 新世界では、この海の頂点に立つ2人の皇帝が接触し、その交渉が決裂し、天を割る。

 そして──新世界のとある島では。

 

「ハ~ハハハマママママ……!!! 久し振りに掛けてきたと思ったら……どういうつもりだい? ──カイドウ」

 

『そのままの意味だ!! 首を洗って待ってやがれ!! リンリン!!!』

 

「へェ……見習いだったお前たちが、おれを殺れるとでも?」

 

『見習いだったのは昔の話。今も同じ様に思ってるんなら……痛い目見るよ? リンリン♡』

 

 その会話は一組の男女と、一人の女の会話だ。

 互いに知った仲でありながら、関係性は険悪そのもの。今ではどちらも敵対し、隙あらば出し抜こうとしてる間柄だ。

 

「2人だからと調子に乗るんじゃねェよ。いいね、来たらタダじゃおかねェよ。来るなら、死ぬ覚悟をしてから来な……!!!

 

『死ぬのはてめェだリンリン!!! ブチ殺してやるから覚悟しやがれ!!!』

 

『あはははは!! 昔みたいで楽しいね!!! それじゃ、()()()()話し合おうね~♡』

 

 そして……その通信もまた、先の事件と合わせて世界を揺るがす“引き金”となる。

 暴走する時代のうねりは、遂に誰にも止められない海賊達の“新時代”を引き起こそうとしていた。




サン・ファルド→海列車で行けるカーニバルの町
百獣海賊団→戦力過多。皆コンテストに集まってきました。ジョーカーは帰還。ぺーたんは流れで付き合わされた。
ロッキー→GCのトレジャーバトルのキャラ。新聞記者。ギター。神ゲー
アプー→ぬえちゃんと気が合いそうな超新星の一人。一足早く傘下入り。割と恐れ知らずな上に同世代の真面目組からは振る舞いから嫌われてるっぽい人。でもやはり最悪の世代なので結構強い。あと“海鳴り”って異名が何気かっこいい
戦う音楽→耳を塞げば効かなくなる、衝撃や斬撃を飛ばしてる訳ではなく、相手の体にその現象を起こすという能力の性質上、概念的な能力っぽいのでぬえちゃんや四皇クラスの防御力を僅かだが突破出来ると推察。覇気が乗らない分、これくらいの特性はありそう。でもダメージ量はそれほど大きくない。ゲーム的に言えば最低限のダメージを必ず負わせるタイプっぽいかなと。応用が効きすぎるローやルフィの能力。当たればほぼ勝ちなボニー。マムの攻撃すら耐えるベッジや、その他最悪の世代の強さや能力からしても、これくらい強くてもいいのかなと。勿論、未だよくわからない能力なので独自解釈ですが
ムサシ→新たなパパを発見
麦わらの一味→W7出航直後。サニー号を満喫して樽を拾う前。
エースと黒ひげ→バトル開始
白ひげと赤髪→交渉決裂
カイドウとビッグ・マム→話し合い……?
ぬえちゃん→歌って踊って戦えるぬえちゃんはかわいい

補足はこんな感じ。108話だからウルージさん出したかったけどアプーでした。ヒザをついて登場を待つ以外にあるまい……
そして麦わらの一味の旅路というか時系列が結構進みましたが、これについてはこの一味の旅というか日程が激動過ぎて、関われる余裕がないからです。空島終わってから戦争まで残り一ヶ月くらいしかないっぽいので、そろそろ帰らないと戦争の準備があるので……という感じ
あと、何気に文字の演出方法変えた。こっちのがワンピっぽいかな? 試行錯誤していきます。
次回はムサシと麦わら。そして新世界。やべーことになります。お楽しみに

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