正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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招集

 ──聖地“マリージョア”。

 

 重要な会議に使われるパンゲア城内の一室、円卓が置かれたその室内では“海軍本部”という三大勢力の一つにも数えられる巨大な組織の重鎮達が集まり、会議を行っていた。

 

「──つい先日、空いた七武海の席に着いた“黒ひげ”マーシャル・D・ティーチがその実力と知名度を示すために持ち寄った手土産……その処遇について賛成か反対か……どちらでもない者もいるだろうが、構わない。今は忌憚なく意見を聞かせてくれ」

 

 その議場を取り纏め、居並ぶ将官に真剣な表情で意見を問うのは海軍本部元帥“仏のセンゴク”だ。

 円卓に座るのはセンゴクを含め僅か数名。センゴク、そしてこの場にはいないガープと共にロジャー時代から活躍する伝説の海兵の一人、“大参謀”おつると中将の階級に属する海兵が4名程。誰もが難しい表情を浮かべている。

 だが残る3人の反応、その内に秘める意見は分かりやすかった。──まず声を上げたのは高級感のある赤いスーツの首元から刺青を覗かせた威圧感のある男。

 

『海軍本部大将 赤犬(サカズキ)』

 

「わしゃあ賛成じゃ。放置すれば、海軍にとって……いや、世界にとって害になる男。生かしておく価値はないじゃろう、のォ……!!」

 

 “徹底的な正義”を掲げる海軍内の過激派、タカ派の筆頭とも言える男。海軍本部最高戦力である男の一人の言葉に、彼に慣れている筈の海軍中将でさえ、ゴクリと唾を飲み込む。味方ながら、その海賊に対するぶれない態度は頭が下がると同時に、恐ろしくも思う。

 必要とあらば一般人や味方にすら手に掛ける男の厳つい声色は、反論を躊躇わせるのに充分な声だろう──しかし、それに意見する者が一人いた。

 

『海軍本部大将 青雉(クザン)』

 

「そんなことすりゃあ……間違いなく戦争になる。おれは一先ず、反対だ、センゴクさん……必要であることは認めるが……犠牲も大きく、覚悟がいる。もう少し新世界の動きも見るべきだ」

 

「……ああ。デメリットも多いことは確かだろうな」

 

 アイマスクを額に掛け、だらんと長い手を膝に突きながらも、赤犬と同じく海軍本部の最高戦力の一人はその行いについて反対の意を表する。“ダラけきった正義”……一見、怠惰でしかない、当人だけが意味を理解するであろうその掲げた正義の意志に従って。

 しかし、それにはやはり赤犬からの強い返答があった。彼の険しい目つきが青雉を睨む。

 

「何をなまっちょろいこと言うとるんじゃあ……!! クザン……!! 海賊は根絶やしにするのが海兵としての役目じゃろう……!!」

 

「殺すなと言ってるんじゃねェよ、サカズキ。殺した後を考えろっつってんだ。……仮に処刑を決めて戦争をして、それに勝って、その後はどうする? 面倒なことになるのは明らかだ」

 

「ならあの悪の有害因子を生かしておけとでも言うつもりかァ……!!! さきほど覚悟と言うちょったが、覚悟が出来ちょらんのは貴様だけと違うんか!!?」

 

「そうじゃねェよ……!! 戦争するって言うなら、そのための準備ってもんが必要でしょうが……!! 戦力だけなら整うかもしれねェが、おれが言いたいのはその後の……民間人や海兵の命と安全までも含めた準備だ……!! 他の四皇の動きもある……いざ戦争を始めたはいいが、より大きな犠牲が出たんじゃあ海兵として締まらねェだろうが……!!!」

 

「フン!! その犠牲が海賊の……それも巨悪を消すためなら必要なことじゃろうが……!!! ましてや海兵なら、軍の敷居を跨いだ時点で命を落とす覚悟は出来とる筈じゃ……!!!」

 

「誰もお前みてェに()()()()()奴ばかりじゃねェんだよ……!!! サカズキ……!!!」

 

「何じゃとォ……!!!」

 

 大将2人が互いに睨み合い、強く意見をぶつけ合う。見張りの衛兵などは身体を震わせ、歴戦の中将でさえ顔を青ざめさせる程の迫力だ。並の胆力なら割って入ることなど出来やしないが、この場においては何人もいた。声を上げたのはもう一人の大将だ。

 

『海軍本部大将 黄猿(ボルサリーノ)』

 

「ちょっとちょっとォ~~~二人共、少し落ち着きなさいよォ」

 

「……!!」

 

 縞模様の黄色のスーツにサングラスを掛けた間延びした声の男。三大将に数えられる“どっちつかずの正義”を掲げた彼は2人の仲裁に入る。正反対の価値観、正義を掲げる2人を見続けてきた彼にとって、それは慣れっこだった。

 そして赤犬と青雉もまた、黄猿の声を聞いて僅かに気勢を落とす。そして2人や他の皆の目が黄猿にも向いた。

 

「……ボルサリーノ。お前はどうなんじゃ?」

 

「ん~~~そうだねェ~~~……海賊を処刑することに異論はないけど、今回は事が事だからねェ……他の海賊の動きも気になるところだねェ……そこのところ、どうなんですか? センゴクさん」

 

「ああ。ちょうどその事も伝えようと思っていた。つい先程の報告だが……どうやら新世界で、“カイドウ”と“ビッグ・マム”に小競り合いの動きがあるらしい」

 

「……!!」

 

「カイドウに……ビッグ・マム!!?」

 

「“四皇”の内の2つが……!!」

 

 居並ぶ中将が衝撃に顔を歪める。四皇と呼ばれる海賊の中で、危険な2つの勢力の接触は、新世界の勢力図さえ激変しかねない大変な動きだ。それがなぜこんな時に……と、内心で思ってしまうのは避けきれない。

 だが政府の意向とこれからの動きを鑑みて、センゴクやおつるは──ある意味で好機ではないかとも考えていた。その理由を口にする。

 

「確かに、本来ならこちらも放置は出来ない問題だが……奴らに小競り合いの動きがあるなら、その間は我々にとっても大きな動きを起こすことが可能だ。これからやることを考えるなら、不確定な要素は排除されるに越したことはない……!!」

 

「! それは……!!」

 

「……つまり、海賊同士……潰し合っちょる間に、こっちも別の海賊を潰すってェことですかい……!!」

 

「……なるほどねェ~~」

 

 センゴクの言葉に戦慄した将官ら、そして赤犬の噛み砕いた説明に黄猿は納得する。

 四皇同士の激突は三大勢力の均衡にヒビを入れることになりかねないし、海軍がこれからやることについてもその懸念は大いにある。その隙を突かれる可能性も。

 だが、海賊同士、争い合っているということは、その間は邪魔されることはないとも言える。

 

「元より、戦争に横槍を入れる可能性があるのは“百獣”くらいだが……その“百獣”が“ビッグ・マム”と小競り合いを起こすなら、その懸念はなくなる……そして残る“赤髪”は自ら動くことはないだろう」

 

「……戦争を起こすには、悪くはないタイミングってことか……」

 

 青雉のため息付きの言葉にセンゴクは静かに頷く。青雉には悪いが、この先の海が荒れるとしても、今ならその影響をある程度留めることが出来る可能性は高い。

 それに政府の意向にはセンゴクでさえも逆らえないものだ。処刑はほぼ決定事項であるため、後はそれを納得させつつも勝ち筋を整えることが“知将”とも言われたセンゴクの役目。

 そして実際、戦争になっても有利なのはこちらだとセンゴクは見ていた。微有利……ほんの僅かな差であり、どちらにも転びかねない危ういものではあるが、勝てる可能性も充分にあると。

 それに何より、その戦争を起こしてでもやらなければならない──メリットがこちらにはある。

 ゆえにセンゴクは幾つかの意見、他の中将やおつるの意見も聞き、ある程度話し合った上で……遂に結論を出した。

 

「……いいな? 青雉」

 

「…………ええ」

 

 最後に青雉にも問いかけ、不承不承ながらも納得した、その返事を聞いて告げる。海軍のこれからの動きについて。

 

「では……“白ひげ海賊団”二番隊隊長ポートガス・D・エースの公開処刑を決定する……!!

 

 その選択は、海軍にとっても大きな覚悟を経た上での決断だ。

 “四皇”の一角、白ひげ海賊団。その船長を務める世界最強の男“白ひげ”エドワード・ニューゲートは……仲間の死を、何より許さない。

 つまりこの処刑が引き起こすものとは……処刑を敢行する海軍本部と、それを許さないと押し寄せる白ひげ海賊団の激突──戦争だ。

 

「直ちに“王下七武海”に招集を掛けろ!!!」

 

「はっ!!!」

 

 世界政府に属する“王下七武海”も招集する──“三大勢力”が激突する未だかつてない大規模な戦争。

 

 ──悪く思うなよ、ガープ。

 

 センゴクは心の中だけで、その戦争の引き金となる男の身内に謝罪する。口に出す訳にはいかないし、止める訳にも慈悲をかける訳にはいかない。

 戦友に対する慈悲は、この会議の場に呼ばないことにあった。海軍元帥として、センゴクは正しい決断をする。

 

「世界中の海兵に通達し、戦力を集めろ!! これは我々にとっての分水嶺であり……後には退けない戦いだ!!!」

 

「はっ!!!」

 

 そしてこの時の世界政府と海軍本部の決断により、引き起こされる事件の名を、後にこう呼ぶ。

 

 ──“頂上戦争”と。

 

 

 

 

 

 “伝書バット”と呼ばれるコウモリがいる。

 それは政府が使用する連絡手段であり、主に外部にいる誰かへ何かを通達する際に使われる。

 そしてその誰かとは海賊であり、何かとは……主に“王下七武海”への加入を打診するものだ。

 つまり伝書バットとは政府が海賊と連絡を取らなければならない際に使う連絡手段。電伝虫を使えば、少ない可能性ながらも盗聴される恐れもあるため、重要な連絡をする時にはこれが用いられる。

 だからこそ、王下七武海に所属する海賊達には伝書バットにより手紙が届けられた。その内容は──“白ひげ海賊団”二番隊隊長“火拳のエース”の公開処刑に際し……白ひげ海賊団と海軍本部の戦争に、政府側の戦力としての強制招集命令だ。

 

「ほう……政府にしては思い切った決断だ」

 

 その尋常ならざる内容の手紙に、各人が見せた反応は様々だ。

 ある者はそれを見て、感嘆し、素直に招集に応じることを決めた。

 この世の頂点とも呼べる者達の闘争は、暇潰しにはもってこいの事件だと──世界最強の剣士はその最強の黒刀を出し惜しみせず、戦いのため政府の中枢へと向かう。

 

「こりゃあとんでもねェ事件だ……!! どうするんです!? ご主人様!!」

 

「……こいつァ断れば称号剥奪の強制招集命令だが……こんな脅しがなくても、白ひげと海軍本部と王下七武海の戦争は面白ェ……戦争となれば死体が山程手に入る!!」

 

「なら参戦するので!?」

 

「ああ……あの“麦わら”のせいで……せっかく集めた戦力が減っちまった!! いずれ……新世界に戻って海賊王になるためにも……海軍本部の精兵と白ひげの屈強な兵士の死体は役に立つ……!! キシシ、キシシシシ……!!!」

 

 そして、とある海賊に敗北したばかりのその大男もまた、戦場の死体目当てに戦争への参加を決める。

 目的は特殊だが、断れば七武海の称号が剥奪される強制招集命令とは、いつもの居なくても構わない形だけの任意招集とは違って重いもの。

 勝手気ままな海賊達とはいえ、七武海に所属することを選んだ海賊達は利に聡い。政府上層部の考えでも、ゴネる者は出ようが、最終的には全員集まると予想されていた。

 ──だが、中には利に流されない者も存在する。

 

「わしァ反対じゃ!!!」

 

 聖地マリージョアで、居並ぶ海兵や衛兵達に怒声を浴びせる魚人の大男。

 世間一般には海賊嫌いの海賊として名の通ったその男は、最も協力的に参加してくれるとの予想を覆し、聖地までやってきた上で猛反対だと自らの意見を告げる。

 

「あの人が万が一戦争で死んだら、どれほどの被害を生むか……!!! あんたほどの男が、それを分からん訳があるまい!!!」

 

「……必要なことだ。それより、考えは変わらないか?」

 

「くどい!! わしは反対じゃ!! どうしてもエースさんを処刑すると言うなら、力尽くで止める!!!」

 

「……! 仕方あるまい……奴を捕らえろ!!!」

 

「はっ!!!」

 

「オオオオオ~~~~!!!」

 

 マリージョアで海軍元帥のセンゴクに直談判したその男は、海兵相手に大暴れをした上で捕らえられ、大監獄“インペルダウン”へと送られた。

 そして、その招集にいい加減に答える者もいる。

 

「蛇姫様……どうします?」

 

「…………返答を。“招集には応じる”とな」

 

「あら姉様。参加するの?」

 

「──()()()()()()()()

 

「やっぱり」

 

 微笑を携えたその絶世の美女の冗談めかした返答に、その妹達はくすくすと笑う。

 彼女たちは世界政府も男も嫌い。弱く品のない男と、醜さの極みとも言える世界政府を見下している。断れば称号剥奪という脅し文句でさえ通じない。

 なぜなら彼女達は生まれながらの戦士であり、その頂点に立つ女傑は自らの強さを疑わないからだ。政府が、醜い男達がどれだけ国に押し寄せようとも、返り討ちにしてやるだけだと不遜な態度を崩さない。

 

「──蛇姫様!!」

 

「! ……なんじゃ騒々しい」

 

「すみません!! ですが連絡が……!!」

 

「……連絡じゃと?」

 

「は、はい……その、相手が──」

 

「……!!」

 

 政府への返答なら済ませた筈。だと言うのにやってきた使いの者に煩わしさを感じた女傑。

 しかしその直後……連絡の相手が誰かを伝えられると、表情を一変させ、僅かに顔を青ざめさせた。

 彼女達は世界政府の支配から脱したが……未だ圧倒的な“力”による呪縛からは抜け出せずにいた。

 たとえどんな命令であっても、従わなければならない。従わなければ──破滅する。

 だが女傑は自らを騙した。相手に大恩がある。その事実を従わなければならない理由にして、その日も女傑は鬱屈した思いを懐きながら連絡に応じた。

 そしてまた別の場所でも──

 

「──若。海軍の“強制招集”命令が……」

 

「ああ……知ってるさ……フフ、フッフッフ!!」

 

 男は笑う。既に知っているその招集命令を受け、新しい時代が近づいてきていることに。

 

「フッフッフッ!! さあ始まるぞ!! 力ある者だけが……!! 本物の海賊だけが生き残る世界!! 手に負えねェうねりと共に……豪傑共の“新時代”がやってくる!!! フフフフフッフッフッフ!!!」

 

 新世界の怪物共の手綱を引くと豪語する男は、これから始まるであろう新時代に高笑いを続ける。

 そして中には次の時代を作ると豪語する者もいる。

 

「ゼハハハハ!!! さあ……計画は万全だ……!!! 成り上がって作ってやるぜ……!!! オヤジにかわって……次の時代をなァ!!!」

 

 ──三大勢力の一つ。巧妙に海を生きる“王下七武海”は、監獄に送られた一人を除いて招集命令に応じる姿勢を見せた。

 だが、時代のうねりをいち早く感じ取った彼らもまた、知らない。

 その戦争はただの序章であると同時に……予想していたものを大きく上回る最大の戦争になることを。

 

 

 

 

 

 ──新世界、“ワノ国”。

 

 新世界に広大なナワバリを持ち君臨する海の皇帝“四皇”。

 その一角、“百獣海賊団”の本拠地でもあるその国は騒然としていた。

 

「おい聞いたか!?」

 

「ああ聞いた。カイドウんとこの戦力が全員集まってるんだろ?」

 

「何か重要なイベントでもあるのかもな。でなきゃ、こんなに仕事は回ってこねェ」

 

 将軍、黒炭オロチのお膝元であるワノ国の首都、花の都では巡回をしている侍の集団、“見廻り組”が団子を食いながら上から聞いた話を口にする。

 普段は百獣海賊団の構成員と共に花の都の統治に必要な見回りや見せしめを行うのだが、今現在、構成員の大部分は鬼ヶ島に集結しており、ワノ国本土を離れている。

 それに加えて空に浮かぶUFOもまた、数を少なくしていた。そのため、オロチ配下の見廻り組やお庭番衆が多く駆り出されているのである。

 

 ──そしてそれは鬼ヶ島にほど近い、百獣海賊団の重要施設がある兎丼の郷も同じだった。

 

「一日少しも働かず~♪ 一日3食当たり前~♪」

 

「ハァ……ハァ……」

 

「365日毎日がお休み~♪ 働く日は0~♪」

 

「ゼェ……ゼェ……」

 

 兎丼の囚人採掘場から少し離れた場所にある森。その森にある巨大な工場は、異様な光景が広がっていた。

 それはそこで働く囚人達が、身体をボロボロにしながら働く姿ではない。それはワノ国では珍しくない光景だ。

 珍しいのは、彼らを監督し、歌を歌いながら指示を出す小さな人間達──百獣海賊団に所属する小人族の集団だ。

 

「代わりに私達が手を動かす~♪」

 

「働くみんなは仕事が大好き~♪」

 

「誰も文句は言わない♪」

 

「文句は言っても大丈夫♪」

 

「決して殺されることはない♪」

 

「笑顔の絶えない職場れす♪」

 

 元はトンタッタ族と呼ばれる人種のはみ出し者であった彼らはとある植物の木の枝を軽やかに行きかい、苦しむ人々に向かって歌を歌いながらサボっている者を見れば痛めつけ、逆らう者は殺してしまう。

 ここは百獣海賊団の最重要施設の一つなだけに、彼らに容赦はない。

 特殊な薬品を混ぜ込んだ水で作った特殊な植物。木々に宿るその水玉模様の果実は、ギフターズを生み出すための笑顔の果実。

 

「でもそれらは全部~~~~?」

 

 小人達の中から一人、角の生えた帽子を被った和服の小人族の少女は部下達の問いかけに合わせて言ってみせた。

 

『百獣海賊団真打ち“SMILE工場長”ダウト 懸賞金1億6800万ベリー』

 

「──全部ウソれす!!!」

 

「やっぱりウソれした~~~!!!」

 

 人工悪魔の実──“SMILE”。

 その果実を作るための工場の責任者が、百獣海賊団の真打ち、ダウトであった。

 だがその彼女もまた、工場の外へと歩いていく。

 

「さあ私はもう行くれすよ!! どこからも()()()()()()れすが……」

 

「えっ!? ダウト様、どこにも呼ばれてないのにどこに行くれすか!?」

 

「そうれす!! まだ今日のお歌の時間も、囚人達の躾けも、SMILEの品質調査も終わってないれすよ!?」

 

「──だってウソれすから!!!」

 

「え~~~~!!? ウソ!!?」

 

「また騙された!! さすがはダウト様れす!! 憧れるれす!!」

 

 小人族がダウトの下手なウソに騙される。最も騙されやすい種族である彼らは悪の道に進んでも騙されやすさは変わっていなかった。

 とはいえその強さは並の戦闘員──ウェイターズやプレジャーズを凌ぐものであるため、囚人に逆らうことなど出来はしない。

 

「さあ行くれすよ!! 鬼ヶ島!!!」

 

「はい!! ──あっ、もしかしてそれもウソれすか!?」

 

「えっ……あっ、違うれす!! それはウソじゃない、間違えた……鬼ヶ島、()()()()()()()!!!」

 

「了解れす!! 船は出しません!!」

 

()()()()って言ってるれしょうが!!! このあんぽんたん!!!」

 

「え~~~!!? どっちれすか!!?」

 

 そうして彼らも含めたナワバリ中の真打ち達が鬼ヶ島へと向かう。

 ワノ国、兎丼の沖合にある島、そこが鬼ヶ島であり百獣海賊団の本拠地だ。

 そして多くの戦闘員と真打ちが続々と集まる中、やはり目立つのはこの6人。

 

「全く、金色神楽でもないのに全員招集ってどういうことで候か? ぺーたん知ってるで候?」

 

「知らねェよ。ぺーたんって言うな。つーかまた変なブームかよ、恥ずかしいからやめとけ」

 

「あっ、ぺーたんにもお揃いの嵌ってるグッズを上げるで候よ♡ ほら、付けてあげるで候♡」

 

「いらねェよ!!」

 

「…………騒がしい」

 

「あァ~~~!!? てめェ小紫!! 誰に向かって騒がしいって言ってんだ!!! ぺーたんに謝れよ!! おい!!」

 

やめろ姉貴!! そもそもおれに言ってねェだろ今のは!! 後だから変なもん付けようとすんな!!!」

 

「付けろよ!!!」

 

「毎度毎度うるさくて敵わねェぜ……おい、ブラックマリア。お前、このクソガキ共追い出せ」

 

「「あァ!!?」」

 

「ふふ、自分でやりな。私としては見てて面白いからねぇ♡ 追い出す理由がないよ」

 

「ははは、いいじゃねェかフーズ・フー。このガキ共がいる間は昇格争いも楽だろ?」

 

 構成員が集まるライブフロアの真ん中を通り、屋敷へと向かっていく6人の男女。

 彼らこそが百獣海賊団の真打ち、最強の6人──“飛び六胞”だ。

 

『百獣海賊団“飛び六胞”小紫 懸賞金4億2910万ベリー』

 

「下らない……さっさと向かいましょう」

 

『百獣海賊団“飛び六胞”うるティ 懸賞金5億9900万ベリー』

 

「下らない!? 今ぺーたんを下らないって言ったな!! 脳天カチ割るぞ小紫!!!」

 

『百獣海賊団“飛び六胞”ページワン 懸賞金5億6000万ベリー』

 

「だからおれの事とは限らねェだろ……」

 

『百獣海賊団“飛び六胞”ブラックマリア 懸賞金6億1200万ベリー』

 

「それにしても、まさか全員招集されるとはねぇ……一体何の用かしら?」

 

『百獣海賊団“飛び六胞”ササキ 懸賞金6億4400万ベリー』

 

「家族問題ならお決まりの展開になるな」

 

『百獣海賊団“飛び六胞”フーズ・フー 懸賞金7億2800万ベリー』

 

()()じゃねェと良いがな……」

 

 並の真打ち──ギフターズなどでは相手にならない本物の能力者でもある6人を見て、構成員は自然と道を空ける。向かう先はカイドウの屋敷の上階。拝殿となる一室に向かい、程なくして到着するが……そこには彼らのお目当ての人物はいなかった。

 その代わりに彼らを出迎えたのは、百獣海賊団の最高幹部。飛び六胞よりも上位に位置する──“大看板”の4人だ。

 

『百獣海賊団大看板“旱害のジャック” 懸賞金10億ベリー』

 

「遅かったな……」

 

『百獣海賊団大看板“戦災のジョーカー” 懸賞金14億9000万ベリー』

 

「フフフ、労ってあげなきゃ可哀想よ、ジャック。彼らは彼らなりに早く来た……そうでしょ?」

 

『百獣海賊団大看板“疫災のクイーン” 懸賞金15億2000万ベリー』

 

「ム~ハハハ!! ようやく来たかお前ら!! 招集をサボらなかったことだけは褒めてやるぜ!!」

 

『百獣海賊団大看板“火災のキング” 懸賞金18億3000万ベリー』

 

「ようやくか……これでやっと話を始められそうだ」

 

「おやおや……大看板が勢揃い……一体何が始まるの?」

 

 威圧感のある巨漢3人……1人は女性で、背丈は2メートル程しかないが、それでも身に纏う威圧感は誰もが持ち合わせている“災害”と呼ばれる懐刀4人が勢揃いしているのを見て、ブラックマリアは感嘆する。

 だがそれを喜ぶ者は少数派だ。飛び六胞の多くは、この場で自分の上だと明確に認める2人がいないことに眉をひそめる──そしてその中でまず声を上げたのはフーズ・フーだった。

 

「おいキング……カイドウさんとぬえさんがいねェが……まさかお前の招集じゃねェだろうな?」

 

「フン、安心しろ。お前達を招集しろと命じたのはあくまでカイドウさんとぬえさんだ」

 

「……ならいいが……だったらここにいねェのはどういうことだ?」

 

 招集したのはカイドウとぬえ。それを聞いて一応納得したフーズ・フーは続いてなぜこの場にいないのかと問いかける。返答はまずジョーカーが行った。

 

「尤もな質問ね。……まぁ私達が代わりに伝えてもいいけれど……」

 

「だったらさっさと言うで候!! あんまり待たされるとぺーたんがイライラする!!」

 

「してんのはお前だろ」

 

()()()~~~!!?」

 

「…………なら代わりが別にいると?」

 

「ああ。その通りだ──ソノ、バオファン

 

「あ、はい……」

 

「あいよ~~!!」

 

 うるティとページワンが相変わらずのやり取りをしたため、小紫が嘆息して話を進めるとキングが頷いて2人の名前を呼んだ。やってくるのはダウナーでやる気のなさを隠そうとしないダルそうな表情の女性と、顔を札で隠した和服の少女。

 

『百獣海賊団真打ち“止水のソノ" 懸賞金3億6490万ベリー』

 

「はぁ……別に私が聞いたからって私が代弁しなくてもいいと思うんですがねぇ……別にキング様が言えばいいと思いますし……」

 

『百獣海賊団真打ち バオファン』

 

「しっかりしてくださいソノ先輩!! ほら、元気良く声を出して!!」

 

「いやぁ……私、大きな声を出したらダメな病でして……というか別にバオファンでも良くないですか? なのでそうしましょう。私、今日は……そうだ、柔術の稽古があるんですよねぇ。だからそちらに出ないと」

 

「今日は休め」

 

「そもそも稽古なんてやってねェだろ、いつも……」

 

「ページワン様、助けてください。あそこに変質者の大男達がいます。あの2人が私を無理矢理働かせようとするんです」

 

「知らねェよ!! おれに振るな!!」

 

「いいから働け、ダメ人魚」

 

「さすが先輩!! すごいダメっぷり!!」

 

 カイドウとぬえの秘書の様な役割を担うソノとバオファンに指示の代弁を頼むキングだが、相変わらずのソノの怠惰っぷりに呆れる者が続出する。

 しかしそれも慣れたもので、キングは背の翼を広げつつ冷静に「働け」と告げた。ソノもため息を吐きつつもそれに従う。

 

「わかりました……では、早速言いますが……まあ簡単なことです。カイドウ様とぬえ様が皆様を、戦力を招集したのは──“戦争”を始めるからだと

 

「!!!」

 

 そしてその言葉はあまりにもあっさりと皆の耳に届き──同時に少なくない驚きを与えた。

 だが大看板の4人は先に聞いていたのか、動揺はない。キングがソノの言葉に頷き、軽く補足を加える。

 

「そういうことだ……先週、外に出ていたカイドウさんとぬえさんから、大看板、飛び六胞を含む全戦力を集め、軍団を編成しろと連絡があった。戦争をするためにな……!!

 

「……相手は?」

 

「それも含めてジョーカーから得た情報も話しておく必要がある」

 

「ええ。直にカイドウさんが帰ってくるから、それまで少し耳を傾けてちょうだい」

 

「えっ、ぬえさんは!? ぬえさんは帰ってこないで候か!?」

 

 これから戦争をすると決めるに至った情報とその相手のことを説明しようとするジョーカーは、カイドウだけが帰ってくると聞いてぬえの所在を聞くうるティに対し、微笑を携えてこう言った。

 

「ぬえさんなら一足早く──視察に行っているわ♡」

 

 

 

 

 

 ──4つの海からリヴァースマウンテンを越えて“偉大なる航路(グランドライン)”に入った海賊達は、世界を半周したところで巨大な壁を見ることになる。

 王下七武海の1人ゲッコー・モリアを倒し、スリラーバークを後にした海賊“麦わらの一味”もまた、とうとうその場所へと辿り着いていた。

 

「“赤い土の大陸(レッドライン)”!!!!」

 

 多くの困難を乗り越え、彼ら9人は偉大なる航路(グランドライン)に入った時のことを思い馳せる。

 

「世界をもう半周した場所でこの壁はもう一度見る事になる…………その時は」

 

『麦わらの一味船長“麦わらのルフィ” 懸賞金3億ベリー』

 

「おれは──海賊王だ!!!」

 

 夢を再びその巨大な大陸へと向かって言い放ち、胸に誓う。必ず“海賊王”になると。

 他の仲間達もその想いは同じだ。必ず自分たちの船長を海賊王にし、自分たちの夢も叶えてみせると。

 

「充分に警戒しなきゃ。ここはもう“海軍本部”と世界政府の聖地“マリージョア”のすぐそばよ…………!!」

 

 そして一味の中の事情通とも言えるロビンがそう言う。あまりのんびりしてばかりもいられない。

 海軍本部と聖地が近いため、いつ海軍の軍艦が現れてもおかしくない海域だ。ゆえに魚人島への行き方を探しながらも警戒する必要があると自身や周囲を軽く戒める。

 

「さて……魚人島への到達手段を探さなきゃ」

 

「とりあえずシャークサブマージ3号のスーパーな機能で手掛かりでも探すか?」

 

 航海士であるナミがログポースを確認し、針が真下を指していることを見て呟く。魚人島は海底1万メートルだと聞いているが、そこまで行くにはどうしたらいいかが判らない。

 そのため、一度潜水艦で海底の調査に乗り出そうとし、一味は各々行動し始める──そんな時だった。

 

「うおおおおお~~~~!!!」

 

「うわああああ~~~~!!!」

 

「ぎゃあああああ~~~~!!!」

 

「うっさい!!! なに遊んでんのよ!!!」

 

 船の階段から転げ落ちてくるルフィ、ウソップ、チョッパーにナミが怒りのツッコミを彼らに浴びせる。

 しかし彼らはもみくちゃになり、空を指しながら弁明を始めた。

 

「おいナミ!! UFOだUFO!!!」

 

「UFOだUFO!!!」

 

「UFOがいたんだ!!!」

 

「は……? 何言ってんのあんた達……悪いものでも食った?」

 

「いやマジなんだって!! ほら、あっちの空に──って、あれ?」

 

「あ、いねェ!!?」

 

 ウソップがUFOを見たという場所を指したが、そこには何もいない。鳥が飛んでるくらいであり、ルフィもウソップも驚く。ナミはそれを見て肩を竦めた。

 

「UFOなんているわけないでしょ……そういうのは大抵、幻覚や見間違え、あるいは自然現象とか人為的なイタズラ。つまり錯覚だったりするのよ」

 

「えっ、見間違えだったのか?」

 

「いや……でもあれは確かに……」

 

 チョッパーがナミの言うことに納得しかける。だがウソップは顎を捻りながらさっきのは確かにUFOに見えたと唸る。他の仲間も、どうやらUFOがいるとは思わないようでまともに取り合いはしない。

 だがそんな中、サンジがふと思い出したように口を挟む。

 

「UFOねェ……そういや昔聞いたな。UFOは()()()()()()ってのが通説らしい」

 

「そういえば……私も聞いたことがあるわ」

 

「なんだそりゃ? 宇宙人でも出るってのか?」

 

「いや、それは知らねェが……なんでも、逃げねェと()()()()()()を見る羽目になるとか……」

 

「ヨホホホホ!! 確かに、宇宙人なんて見たら怖くて目が飛び出ちゃいますね!! 私、目無いんですけど!!」

 

「何がUFOに宇宙人だ。アホらしい……おれは船内に戻ってるぞ」

 

 サンジとロビンはその“通説”を知っていると言うが、フランキーはやはりまともに取り合わず、ブルックもいつもの冗談で場を和ませる。いつもの空気になり、UFOの話題をアホらしいと切り捨てたゾロは船内のトレーニングルームへ向かおうと船室のドアを開くが──

 

「へぇ~~甲板はこんな感じか~~♪ うんうん、中々良い船だね」

 

「あ……?」

 

「んん!?」

 

 そこから──1人の少女が出てきたところで、一味の誰も彼もが固まり、困惑する。

 黒い髪に赤い目を持つ可愛らしい少女だ。町中で見ても、特に気には留めないし、驚きもしない相手。

 しかし、なぜこんな場所にいるのか、という意味で彼らが驚くには充分だった。

 

「え……お前、誰だ?」

 

「あ、お邪魔してま~す!! 私は通りすがりのアイドル、ぬえ!!」

 

 ぬえ、と名乗った少女は麦わらの一味の顔を一人一人見て、にっこりと可愛らしい笑みを浮かべると──

 

「私、あなた達のファンなの!!!」

 

「…………ファン?」

 

 ──アイドルで、自分たちのファン。

 その謎の少女ぬえの言葉に、麦わらの一味は一様に、頭に疑問符を浮かべた。




頂上戦争の裏側→今はまだエースが捕まったのが報道された頃。戦争決定
海軍本部→海賊王の息子殺したい
王下七武海→内訳(暇人、死体好き、無敵奴隷、魚類、恋はハリケーン、みんごろう、不眠症)全員参加します。
四皇→白ひげ以外は誰も参戦しない!! ヨシ!!
百獣海賊団→戦力招集戦争準備
麦わらの一味→レッドライン到達。でもデッドラインは超えないようにね(不安)
ぬえちゃん→遂に麦わらの一味と出会う。アイドルなぬえちゃんも可愛いけどファンなぬえちゃんも可愛い(素振り)

と、こんなところで。続きも収めようと思ったけどここで切ります。長いので。一応今回から戦争編で、次回は麦わらの一味とぬえちゃんの会話。……え? カイドウとリンリンの戦いの結果はって? それはまあほら……いつかをお楽しみに!!

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