正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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海賊無双

「ママが行ったぞ!!」

 

「おれ達も続くぞ!! 手筈通り、まずは周りの海兵と白ひげ傘下の海賊を狙え!!」

 

「行け!! チェス戒兵(じゅうへい)!!」

 

 マリンフォード湾港、東側の広場に踏み入るのはビッグ・マム海賊団。その異質な軍団に、海兵達は慄く。

 

「なんだ!? お菓子!?」

 

「それによくわからない生き物が沢山……!!」

 

「狼狽えるな!! ビッグ・マム海賊団は“ビッグ・マム”も含め“超人系(パラミシア)”の能力者が多い!! 全部能力に寄るものだらァ!!」

 

 不思議な能力の数々にどう対処していいかわからない海兵達を、何人かの中将が発破をかけて士気を留める。

 だが中将とはいえ、ビッグ・マムの兵隊や幹部──大勢の子供達の対処には苦慮してしまう。

 

「“クリームモンスター”!!」

 

「“魔人斬(マジギレン)”!!」

 

「フフ……対処出来るものならしてみるがいい……ペロリン♪ ──クラッカー!!」

 

「ああ……!! 準備は万端だ……!! ──前進!!」

 

「……! なんだ!? 同じ顔が大勢いるぞ!!」

 

 シャーロット家の長男ペロスペローの指示により、1人の男が複数となって現れる。まるでバーソロミュー・くまの見た目をした人間兵器パシフィスタの様に、その屈強な兵士達は1人の男によって操られ、海兵に攻撃を加え始めた。

 

「うわあああっ!!」

 

「あれは……“将星”だ!! “千手のクラッカー”!!!」

 

「兄達ばかりに任せてはいられないな……!! 絞り尽くしてやる!!」

 

「! あの巨大な女は……!!」

 

「“将星スムージー”!!」

 

 ビッグマム海賊団の最高幹部“将星”と呼ばれる者達が動き始める。足の長い女──スムージーが周囲の人間から水分を絞りながら巨大化しつつ斬撃を繰り出し、その前方にはクラッカー。それも複数のクラッカーがそれぞれ海兵達を蹴散らし、チェス戒兵と共に広場の戦線を少しずつ押し進めて行く。

 だが戦線が押されるのを海兵も黙って見てはいない。海兵の列から飛び出てきた長身の男は即座にその全てに応対した。

 

「“アイスタイム”」

 

「!? ──青雉だ!!」

 

「クザンさん!!」

 

 海軍本部の最高戦力の1人、大将“青雉”。自然(ロギア)系、ヒエヒエの実の能力者である彼は前に出ていたチェス戒兵とクラッカーの軍団を一斉に凍らせてしまう。

 そのとんでもない能力、戦闘力は周知の物であり警戒に値した。ビッグ・マム海賊団の猛者達も思わず眉根を寄せる。

 

「クラッカー兄さん!!」

 

「……“千手のクラッカー”が複数いるという情報は聞いたことがねェが……どれが本物だ?」

 

 海軍の情報ではクラッカーは手足や物を増やすことが出来る能力者だと聞いていたが、今目の前にいるのは複数のクラッカーだ。奥の手にしても不自然過ぎると青雉は眉をひそめる。

 

「まァ……全部凍らせて砕いちまえば済む話か……」

 

「……!!」

 

 そう言って、青雉は再びクラッカーやシャーロット家の子供達を氷漬けにしようと動いた。あまりこちらに掛り切りになる訳にもいかない。早急に片をつけると。

 

「さっさと……、──!!?」

 

 ──だが、その動きは読まれていた。

 青雉は不意に飛んできた黒い物体──炎と武装色の覇気が纏わせてあるそれを受けて吹き飛ぶ。すぐに身体を流動させて避けようとしたが、完全には避けきれずに口元から僅かに血を流す。そうして体勢を即座に立て直し、見上げた先にいたのは青雉も知るビッグ・マム海賊団の猛者。

 

「“さっさと終わらせる”──と、お前は言うが……それを許す訳にはいかないな」

 

「……“将星カタクリ”~~……!」

 

 シャーロット家の最高傑作とまで言われた10億超えの怪物、シャーロット家次男“将星カタクリ”が飛ばした腕を元の形に復元し、青雉と対峙する。

 そして同時に青雉は気づいた。この男が、未来を読んで攻撃をし、己の発言をも読んでいることに。

 

「……喋りたくないなら喋らなくても構わない。おれの家族に手を出すな」

 

「喋ろうと思った時点で伝わるから喋らなくても良いのは楽だが……戦いは楽出来そうにねェな。こりゃあ……」

 

 先に少しでも戦力を削っておきたかったんだが、と青雉はそう言うつもりの言葉を引っ込めて楽は出来ないと告げる。青雉とカタクリが激突し、それを中心にビッグ・マム海賊団と海兵の戦闘が激化した。

 

 

 

 

 

 マリンフォードの西側の湾港は、血気盛んで多くの角を生やした海賊達が突撃を始めていた。

 

「ぐっ……ダメだ!! 止めきれん……!!」

 

「防衛陣を再構築だ!! ラインを下げろ!!」

 

「黒い角の連中に気をつけろ!! 妙な能力を持ってるぞ!!」

 

 海兵達はその海賊達の突撃を迎撃しようと試みるが、程なくしてラインを下げねばならないと指示し、動き始める。

 やはり“四皇”一の武闘派──あの“百獣海賊団”が相手ともなれば、純粋なぶつかり合いでは戦線の維持もままならない。

 

「行け!! 薙ぎ倒して皆殺しにしろ!! “プレジャーズ”!! “ギフターズ”!!!」

 

「ギャ~ハッハッハ!!! 了解ですジャック様~~~!!!」

 

「おれ達の能力を見ろ~~~!!」

 

「なんだこいつら……笑ってやがる……!!」

 

「なんだこの能力者の数は……!!? しかも全員動物(ゾオン)系だと……!?」

 

 しかもその謎の“笑う戦闘員”や謎の変型を見せる“動物(ゾオン)系の能力者”達が海兵達の士気を下げる。

 とはいえ押されている訳にはいかないと、やはりこちらも海軍中将などの実力者を中心に百獣海賊団の戦闘員の迎撃に当たる。

 

「“指銃”!!」

 

「ぐああっ!!」

 

「怯むな!! 白ひげ海賊団を先に潰すまで何とか戦線を維持しろ!!」

 

「ダルメシアン中将!!」

 

 百獣海賊団の多くの能力者と同じく動物(ゾオン)系の能力者であるダルメシアン中将や巨人族の海兵らも合わせて何とか百獣海賊団を迎撃しようとする。

 だが他の戦線とは違い、大将がいないのが手痛く響いた。

 

「お前ら!! せっかく良い能力手に入れたんだ……!! 思う存分暴れろ!!」

 

「ええ、ササキさん!!」

 

「おい、お前らもササキに遅れを取るな!! 進んで出来るだけ多く殺るぞ!!」

 

「は!!」

 

「!? あれは……ササキにフーズ・フーか!!」

 

 多くの“ギフターズ”と呼ばれる戦闘員を従えた男2人──元々それぞれの海賊団の船長でもある“真打ち”。その中でも最強と称される“飛び六胞”らと元々の部下として従える戦闘員が海兵達をなぎ倒す。

 だが背後からはまた別の存在が海賊達を狙う。政府の人間兵器、パシフィスタの軍団だ。

 

「パシフィスタ!! 百獣海賊団を狙え!! 挟み撃ちにして追い込むぞ!!」

 

「あら……横入りなんていけずね」

 

「マリア姐さん。やっちゃいますか?」

 

「ええ、好きなだけ♡ 今日はお座敷やお酌をしたり、現場で手を動かす仕事じゃないわ。思う存分暴れて踊る日よ!!

 

「はいマリア姐さん!!」

 

「!!?」

 

 だがそのパシフィスタもまた別の部隊によって迎撃される。パシフィスタも性能は悪くはないが、百獣海賊団の戦闘員は肉体のスペックが普通の人間、そこらの兵士よりも遥かに強く、パシフィスタを一撃で倒してしまう者も多くいた。

 

「なんだこのガラクタ!! どけ~~~!!!」

 

「っ……!! アイツは……“うるティ”か!!」

 

 そしてそのパシフィスタを指揮する科学戦闘部隊の隊長、戦桃丸はパシフィスタを頭突きの一撃で粉砕し、真っ直ぐ向かってくる相手に警戒し、覇気を込めた。相手もまた戦桃丸に気づいて再び構えを取る。

 

「“足空独行(アシガラドッコイ)”!!!」

 

「“ウル頭銃(ズガン)”!!!」

 

 戦桃丸の掌底が、相手の女の額と激突し、周囲に衝撃波を撒き散らす。

 僅かに押され、苦悶の表情を浮かべた戦桃丸は即座にマサカリに手をかけた。

 

「! わいの覇気が押されて……!!」

 

「あァ!!? てめェの覇気なんか大したことねェよ!! 邪魔だ!! 私はぬえ様の応援に……!!」

 

「姉貴!! 湾内には入るなって言われてただろ!! おれ達はこっちだ!!」

 

「あれ、そうなの!? だったらカイドウ様に続くぞ!! どけ!! マサカリ野郎!!」

 

「チッ……面倒な……!!」

 

「気をつけろ!! “飛び六胞”と“大看板”が出てきたぞ!!」

 

 恐竜の能力者。動物(ゾオン)系の古代種。そのパワーと耐久力は並の動物(ゾオン)系を遥かに上回る。さしものパシフィスタもやってきた恐竜の一撃を受けて叩き壊されていた。

 そして海兵が多くいるマリンフォードの湾港先の戦場は──

 

「メイナード中将!!」

 

「っ……おのれ“ジャック”!!」

 

「何としても止めろ!!」

 

 ギフターズと共に前に出たマンモスの能力者。百獣海賊団の大看板“旱害のジャック”が1人の中将を叩き潰し、戦線を押し上げた。味方がやられたことで歯を食いしばり、狙いをジャックに定める海軍本部中将オニグモ。

 しかしそれは割って入った別の者によって止められる。そこにいた大看板は1人だけではないのだ。

 

「──ジャックばかり狙ってていいのかしら? フフフ♡」

 

「!? 貴様……!! “戦災のジョーカー”……!!」

 

 赤いドレスに身を包んだ美女が瞬時に足を振り上げる。そこから発せられる技は海兵や政府の諜報員などが使う体技。

 

「“嵐脚”……“紅蓮”!!!

 

「!!」

 

「うわァ!!!」

 

 通常の“嵐脚”では考えられないほどに鋭く速い赤の斬撃がオニグモの右腕を斬り落とし、他の海兵をも巻き込む。付着した返り血をその白い指でぺろりと舐め、大看板“戦災のジョーカー”はジャックの隣に戻って微笑んだ。

 

「悪いわね、ジャック。獲物を獲っちゃったみたいで」

 

「いや、問題ありません。殺せる人間は()()()()いるので」

 

「それもそうね。それじゃあ──死体の山を築き上げてあげましょうか♡

 

「……! くっ……!!」

 

「オニグモ中将!!」

 

「“災害”が揃い踏みとは……さすがにまいる……!!」

 

「くそ……撃て!! 何としても止めろ!!」

 

 右手を落とされ、断面を左手で押さえて片膝を突くオニグモをその背後の海兵らが震えた声で呼ぶ。

 だが状況は良くならない。海兵も──そして、白ひげ海賊団も。

 

「オヤジ……!! ルフィ……!! 皆……!!」

 

 そしてその戦況を、エースは処刑台の上から全て見ていた。

 地獄の様な光景。悪夢の様な戦場。一秒一秒経つ毎に、人が死んでいく。

 それも全て、自分のせいで……自分が発端で起きてしまったものだ。心が苦しく、息もどこか不思議と苦しい。

 センゴクは指示を矢継早に出していてエースの様子を見る余裕はない。ガープもまた、下に降りて何かを準備していた。

 エースはただそれを見るだけ。何も出来やしない。ただ自分を責め、そして仲間や家族がこれ以上傷つかないようにと願うしかない。

 

「ジハハハハ……!! 随分な様だな……!!」

 

「!?」

 

「……!! シキ……来るなら来い……!! 私が相手をしてやる!!」

 

 エースに向かって天から話しかけてきた声。それは“金獅子のシキ”のものだった。

 それに同じく気づいたセンゴクが服の裾を捲くり上げ、戦闘態勢に入る。大将がそれぞれ対応出来ない今、自分が指揮官だからと手をこまねいている余裕はない。自分も必要とあらば出ると、シキを強く睨みつけた。

 

「落ち着けよセンゴク!! 逸らずとも、お前らは全員始末してやる。それよりも……おれは()()()に用があるんだ……!!」

 

「え……?」

 

 思わず、エースは間の抜けた声を漏らす。シキが用があると言って目を向けたのはエースの方だった。

 一体自分に何の用があるのか。まさか、処刑を待たずして己を殺しに来たのかとエースは苦い表情を浮かべ、センゴクもまた、いつ襲いかかってきても対応出来るようにと警戒を崩さない。

 そんな中、シキは単刀直入に口にした。愉快そうに笑みを浮かべ──

 

「“火拳のエース”!! お前には“才能”がある!! ここで死なせるには惜しい!! おれ様の右腕になれ!!!」

 

「!!?」

 

 堂々と、()()()()()()()()()()──勧誘をしてみせた。

 

 

 

 

 

 白ひげ傘下の海賊がいる後方に、突如として現れた生き物に海賊達は目を訝しんだ。

 

「なんだあの珍獣達……!?」

 

「金獅子の船から出てきたぞ!!」

 

 金獅子のシキがその能力で浮かばせた船団。その内の一つが氷の大地に激突し、壊れた船の中から大勢の獣が現れる。

 どれも見たことのない珍種であり、なおかつ凶暴で人間を容赦なく襲うそれらの珍獣に対処をする中、白ひげ傘下の海賊達は金獅子の船にいるとある男に気づいた。

 

「ん!? あいつは……Dr.インディゴか!!」

 

「ピロピロピロ……!! 驚いたか!? これがシキ様から指示を受けた私の20年の研究の成果だ!!」

 

「ウホウホウホ!!」

 

 金獅子の船の船縁に立ち、傘下の海賊を見下ろして笑うのは白衣を着たピエロの様な男と服を着たゴリラだった。

 Dr.インディゴと呼ばれるその科学者は、20年以上昔、大海賊時代以前を知る海賊なら知っている。シキの側近の男であり、隣のゴリラと共に地上の海賊達を嘲笑っている。彼は手元に持つ何かの薬品を見せつけ、

 

「“偉大なる航路(グランドライン)”においても希少かつ特殊な植物!! “I.Q”から作り出した“S.I.Q”!! これを投与された動物は戦闘的な進化を遂げ、凶暴に人を襲うようになる!! その力は……そこらの生温い海賊なら捻り潰せるほどにな!!! やれ!! スカーレット隊長!!」

 

「ウホ──!!」

 

「っ……!! あのゴリラの指示で動いてんのか……!?」

 

 氷の大地に送り込まれた凶暴な珍獣達は、“スカーレット隊長”と呼ばれたゴリラの遠吠えによって的確に海賊達を襲う。

 海賊達はそれを的確に見抜いた。金獅子の船は空にあり、空には幾つものUFOが浮かんでいて危険だが、やるしかないと銃や大砲を構える。

 

「おれ達をそこらの海賊と一緒にするんじゃねェよ!!」

 

「ピロピロピロ!! 袋の鼠となったお前らなど取るに足らん!! 皆ここで死ぬのだ!! “ケミカルジャグリング”!!

 

 Dr.インディゴの手から緑色の丸い気体が幾つも生み出され、地上の海賊達へと投擲され、爆発を引き起こす。珍獣達が迫って来てるのもあり、これを突破することは難しい。

 だがどちらにせよ下がる訳にはいかない。エースを救出するまでは、前へ前へ進むことしか出来ないのだ。

 

「ぬう!!!」

 

「!!?」

 

「え……!!? 急にバランスが……!!」

 

「わァ!! 地面が傾むく!!!」

 

 そして突如──戦場の多くでバランスを崩して転ける者達が続出した。

 海賊も海兵も囚人も、誰もがその傾きを感じ、並の者は転倒してなおも転がり続ける。

 

「オヤッさんには近づくなァ~~~~!!!」

 

 その揺れの正体と対処を知る白ひげ海賊団の者達は弁えて避難をする。

 だがそれを知らない者達は驚いた。目を疑う光景。これは地面の揺れ、地震どころでは収まらない。

 

「地震どころじゃねェ!!!」

 

 波が起こり、船が傾き、地面も揺れる。

 “白ひげ”が両手で宙を掴み、それを思い切り引っ張ったことで起きた天変地異の様な現象に誰もが驚く。

 

「島ごと海も!!! 傾いてるんだ!!!」

 

 世界を壊す力が猛威を振るう。

 

「うわあああああっ!!」

 

「うわあっ!! 立ってられねェ!!」

 

「くっ……あの化け物ジジイめ!! 島の動物達が……!!」

 

「フッフッフッフッ!! 何てデタラメなジジイだよ!!」

 

「町が崩れる!!」

 

「ルフィは無事か……!?」

 

 全ての場所で影響が出る──が、白ひげの前にいる者達は別だった。

 

「あはっ♡ そのメチャクチャな能力は衰えてないみたいね!! でも飛んでる私には通用しないわよ!!!」

 

「ああ……知ってる……!!」

 

 “妖獣のぬえ”が空を飛び、白ひげの能力の揺れの影響を受けずに攻撃を加える。ぬえの周りに青いUFOが生み出された。それらが列をなしてレーザーを放つ。

 

「“正体不明”……“哀愁のブルーUFO襲来”!!!

 

「……! むん!!」

 

「っと!!」

 

 だがその青いUFOの群れの半分以上を、白ひげは地震のパワーを込めたパンチ一撃で叩き落とす。くるりと弧を描くように宙を移動し、その衝撃から逃れたぬえが口元に笑みを浮かばせる。

 

「あははっ!! やってくれるねぇ!!」

 

「こんなオモチャでおれを殺せると思ってんじゃねェぞ……!!」

 

「まああなたはそうだろうね!! ──でもあなたの家族はそうじゃないっ!!」

 

 白ひげの言葉をぬえは認めはする。確かに、白ひげはこの程度のUFOで仕留められる存在じゃない。

 だが、白ひげの家族、仲間達は違った。空からの脅威、UFOによる空中からの弾幕攻撃は確実に相手に出血を強いるし、そうでなくとも足を止められる。

 白ひげがUFOを破壊したり、ぬえに意味がなくても地面を揺らしたりするのは仲間を守る意味合いもあった。それをぬえは看破し、そろそろもっと悪い状況にしてやろうと笑う。

 

「仲間を気にして勝てるほど、今の私達は甘くはないわよ!!」

 

「……!! おれのやり方にケチつけんじゃねェよアホンダラァ!!」

 

「あはははは!! やっぱり白ひげは変わらないね!! でもどこまで守れるかな!! ──さあ出てきなさい!!!」

 

「!?」

 

 ぬえが飛び上がり、百獣海賊団の船団の方に指示を出す。そうして出てきた集団に、白ひげも海軍も、他の海賊達も百獣海賊団以外は目を見開いた。

 

「ウソだろ……!!」

 

「さっきの“オーズ”級にでかいのが何体もいるぞ!!!」

 

「!? またオーズの子孫か……!? なんで百獣海賊団にいやがる……!!?」

 

 海兵、そしてそれを欲しがっていた七武海のモリアが顔を青くする。

 島の西側。軍艦を幾つも破壊し、パシフィスタを叩き壊して現れたオーズに酷似した怪物軍団。その名をぬえは呼んだ。

 

「さあ“ナンバーズ”!! 食事の時間よ!!!」

 

「ジュキキ~~!!」

 

「くにゅにゅ~~♡」

 

「ハチャ~~~!!」

 

「ナギギギギ!!」

 

「ゴキキ~~!!」

 

「ジャキキ!!」

 

 巨人族の数倍は巨大な体躯を持つ角の生えた怪物達は百獣海賊団の戦闘員“ナンバーズ”。

 オーズの大きさや姿と酷似するのは当然、その正体を“ビッグ・マム”が羨望の目で見ながら口にする。

 

「あれかい……カイドウが“政府の研究施設”から買い取ったという“古代巨人族”の失敗作……!! いいね…………」

 

「怪物具合では貴様とそう変わらんだろう……」

 

「!」

 

 そしてその横から世界一の斬撃が襲いかかる。ビッグ・マムは己の海賊帽、魂が宿り、剣にも変化する“ナポレオン”でそれを受け止め、不気味に口端を歪めた。

 

「“鷹の目”~~……!! お前ほどの男でも、おれの邪魔するなら容赦しないよ……!!」

 

「容赦する必要はない……おれも存外に、この戦場を楽しんでいるからな……!!」

 

「ハ~ハハハ!! そうかい!! だったらそのまま楽しんで死にな~~~!!!」

 

 王下七武海の1人、世界最強の剣士である“鷹の目”ジュラキュール・ミホークと“ビッグ・マム”の剣が激突し、尋常ではない衝撃と鋼の音が連続する。──その“鷹の目”との勝負をおあずけにした白ひげ海賊団5番隊隊長“花剣のビスタ”は歯を噛み合わせた表情で走り、呟く。

 

「急いで突破しないとな……!! “鷹の目”が話の分かる男で助かった……!!」

 

 周囲は敵だらけ。白ひげもぬえに止められている。その状況で、更にぬえが呼び出した古代巨人族の集団に、白ひげ海賊団は誰しも焦燥感を覚える。このままではマズい、と。

 

「“ナンバーズ”!! 軍艦と白ひげの船団を襲って足を奪いなさい!! 終わったら後で5億以上もする最高級のお仲間のお肉を食わせてあげるよ~~!!」

 

「ジャキ~~~♡」

 

「ハッチャ♡ ハチャチャ♡」

 

 知性が低く、言葉も満足に喋れない様子のナンバーズは、しかしぬえの命令をきちんと理解すると、嬉々として海軍の軍艦や白ひげ傘下の船を襲い始めた。

 

「マズいな……!! 止めきれん……!!」

 

「くっ……映像を止めたいが、その暇もないか……!! 構わん、“包囲壁”を作動しろ!!」

 

「よろしいので!?」

 

「構わん!! 世間の我々に対する不信感など気にしている場合ではない!! 責任は私が取る!!!」

 

 そしてそれをマズいと思っているのは白ひげだけでなく海軍も同様だった。白ひげ海賊団を湾内に追い詰めて一網打尽にする作戦も、世間の目を考えて、本来なら映像電伝虫の映像が切れてから行おうとしていたものだが、背に腹は代えられない。映像電伝虫をぬえが所持し、UFOに忍ばせているであろう今、それを気にしていては手遅れになるとセンゴクは腹を決めた。海兵達がその指示を受けて包囲壁の作動へ動く。

 

「っ……!! UFOの弾幕で部隊を下がらせるのも一苦労だ……!!」

 

「──まずは数を減らさんとな……!!」

 

 そして、海兵達が下がる時間を作ろうと1人の海兵が動き出す。弾幕に対しては弾幕。処刑台の下で用意させた大砲の砲弾──それらを手に掴み、UFO目掛けて投げつける。

 

「──“拳骨流星群”」

 

「!!?」

 

「……! もう出てきたね……!!」

 

 連続で大砲の玉が高速で飛来し、UFOを次々に破壊していくのを感じ取り、ぬえは目線を向けて胸を躍らせた。さすがにこの状況では、じっとしている余裕もないかと。

 海賊達も慄く。海賊にとって彼は“悪魔”である。

 だが海兵達は沸いた。彼は海軍にとっては“英雄”。“ロジャー”や“白ひげ”と渡り合った伝説の海兵。

 

「ガープ中将!!」

 

「出てきたぞ……!! “英雄ガープ”だ!!」

 

「ジジイ……!!」

 

 海軍本部中将“ゲンコツのガープ”。UFOを砲弾で叩き落とし、彼は1人の海兵として海賊達の前に再び脅威として立ち塞がる。

 

「わしの目の黒いうちは海軍は滅ぼさせん!! やるならまず先に、わしを殺してみろ!! ガキ共!!!」

 

「ガープ……!! てめェも……センゴクも……そこの憎きガキも……!! 諸共消し炭にしてやる……!!!」

 

「!? マズい!! カイドウだ!!!」

 

 ガープがUFOを破壊し、戦いに参加し始めたのを見てか、空を飛ぶカイドウが大口を開けてエネルギーを溜める。海兵達やエースが慄いた。

 

「“熱息(ボロブレス)”!!!」

 

「“大噴火”!!!」

 

「!!?」

 

「うわああああ~~~!!?」

 

「くっ……!!」

 

 だが、その処刑台に向けて放たれた極大の熱線は、大規模の溶岩の噴出によって辛くも防いでみせる。

 しかしそれでも巨大な龍の熱線は完全に防ぐことは出来ず、広場にはマグマと炎が広がり、海兵達を燃やす。しかしその被害を何とか最低限に抑えてみせたのは海軍の最高戦力の1人だった。

 

「サカズキ大将!!」

 

「カイドウ……!! 自殺が趣味らしいが……そんなに死にたいならわしが殺しちゃる……覚悟せえよ……!!!」

 

「ウォロロロ……!! 面白ェ……どれだけ防いでられるか見ものだな!! やれるもんならやってみろ!!!」

 

 自然(ロギア)系マグマグの実の能力者である海軍本部大将“赤犬”ことサカズキが、マグマの如く殺気と怒気を含んだ目でカイドウを睨む。カイドウはそれを面白いと評し、再び攻撃を加えようとした。

 その横で、攻撃から逃れたシキが舌打ちをする。

 

「チッ……せっかく勧誘の最中だったってのにカイドウの野郎、メチャクチャに暴れやがって……!!」

 

「……!! おれはお前の仲間になんかならねェ!! おれが忠誠を誓ったのは“白ひげ”だけだァ!!!」

 

「ジハハ……いい忠誠心だ……!! だがまァ……お前は必ず仲間になるさ……!! 自ら仲間にしてくれと懇願するようになる……!!」

 

「!! そんな訳──」

 

「そこにいる“麦わらのルフィ”だったか。確か……()なんだってなァ?」

 

「!!?」

 

 そんな勧誘に応じる訳ないと断固とした態度を貫き通していたエースの顔が、一瞬にして青褪める。この男が何をしようとしているかが分かったからだ。エースは動揺し、ニヤついた笑みを浮かべるシキに眉を立てた。

 

「てめェ……!! まさか……!!」

 

「ジハハハハ!!! おれァ敵には容赦しねェ。白ひげも海軍も、全員ここで殺してやるが……仲間は別だ。仲間だからこそ聞ける頼みってもんがあるだろォ?」

 

「てめェ……ルフィに手を出す気か!!?」

 

「おれが直接手を下すことにはならねェと思うがなァ!! ジハハハ……!! さあ、仲間になるってんならお前を助け、ついでに弟1人くらいは助けてやるかもしんねェぜ?」

 

「……!!」

 

 エースが歯噛みする。ここから生きて逃げれるとは思っていなかった。センゴクや他の海兵もそれを許さないだろうが……だが今の状況は百獣、ビッグ・マム、そして金獅子の連合軍の優勢であり、海軍も処刑どころではなくなってきている。即座に処刑を執行する可能性はあるが、それはおそらく白ひげか金獅子か、誰かしらに止められる可能性も高い。

 見方によっては処刑台のエースより、戦場にいるルフィの方が危険は高いように思え、エースはままならなさを感じ、もはや祈るしかない。金獅子の勧誘に応じる訳にはいかないが、ルフィのことを考えると──

 

「ルフィ……逃げろ……!! 来るな……!!」

 

「──ハァ……ハァ……必ず助けるぞ……エース……!!」

 

 ──だがその祈りは届かない。

 

 戦場は熱気と狂気に包まれ、血と硝煙、そして死の匂いが充満する。

 各々の意志は未だ折れず、ゆえに誰もがその死地へと自ら飛び込んでいく──世界の命運を決める“頂上戦争”……!! その戦争の名に、一切の偽りはない……!!! 

 




マリンフォード湾港東→将星を含むビッグ・マム海賊団とクザン。
西側→百獣海賊団。キングとクイーン以外の大看板と小紫以外の飛び六胞。ナンバーズ。海軍はダルメシアン、オニグモ(右腕切断)など。
白ひげ海賊団後方→金獅子海賊団と白ひげ傘下の海賊。
湾内→白ひげ含む白ひげ海賊団本隊、ルフィ、バギー含むインペルダウンの囚人。ぬえ、キング、ビッグ・マム、ミホーク、海兵も多数。
広場→空中にカイドウ、シキ、処刑台付近にセンゴク、ガープ、サカズキ、ボルサリーノ、おつる、エース。
上空→UFO多数と金獅子の船
クイーン→湾内を見て何かを狙ってる模様。準備中
小紫→任務達成のため移動中
ボルサリーノ→UFOを壊しつつ、別の相手に。
その他七武海→相手を選んでる
黒ひげ→?
赤髪→?
ぬえちゃん→戦争楽しんでて可愛い

ということで頂上戦争。登場人物がメチャクチャ多いけど、まだ増えるんだよなぁ……こっからまだまだ戦闘です。次回はルフィ達インペルダウン組にクイーン様やその他含めて色々です。お楽しみに!

感想、評価、良ければお待ちしております。

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