正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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隙あり

 戦争が行われるマリンフォードからの映像を中継し映しているシャボンディ諸島は騒然としていた。

 

「海軍本部と“白ひげ”の戦争じゃねェのか!!」

 

「“百獣”に“ビッグ・マム”……加えて“金獅子”まで戦争に参戦するなんて……!!」

 

「このままじゃ海軍は負けちまうんじゃねェか!!?」

 

「世界はどうなっちまうんだよォ!!!」

 

 海兵、市民、記者、海賊──その誰もがこの世のものとは思えない戦争の光景に恐怖し顔を青ざめさせ、明日の世界を思って不安を感じる。

 本来なら、意図的な映像電伝虫のトラブルによって戦争の様子は映さない予定だった。

 だがしかし、“妖獣のぬえ”が映像電伝虫を奪い細工したことでその過激な戦争の様子は余さず人々の目に届けられた。

 そして当然──次世代を担う“超新星”もまた、その映像を見逃す筈がない。

 

「……海軍もここで終わりか……?」

 

「あの人達は見せつけようとしてんのさ。“世間”と“海賊達”に……世界が海賊の物になる瞬間をなァ……!!」

 

「“白ひげ”は生ける伝説だが……相手は海軍本部だけじゃねェ。あれだけの戦力差じゃ勝ち目は……」

 

「“海軍本部”生存確率──」

 

「南無」

 

「こんな状況じゃ……アイツは……!!」

 

「……船を出すぞベポ!!」

 

「アイアイキャプテン!」

 

 彼らもまた、これから来るであろう“海賊の世界”の鼓動を感じ取り、時代の終焉を固唾を呑んで見守る。

 映像では海軍が“白ひげ海賊団”を包囲するための作戦を発動したところだった。

 

 

 

 

 

 兄エースを救うため、戦争に乱入した麦わら帽子の少年モンキー・D・ルフィは混沌とした戦場の中、処刑台に向かって真っ直ぐ走っていた。

 

「ハァ……強そうなのがエースの方に行ったな……向こう、大丈夫かな!?」

 

「ありゃあ“金獅子”じゃルフィ君!! 20年前にインペルダウンで史上初の脱獄を果たした伝説の海賊!!」

 

「海軍もエースボーイの処刑を決めた以上、海賊に殺させることはナッシブル!! 今は早く広場へ上がるしかないわ!!」

 

「ああ……海軍の戦力が分散してる今が、エースを助ける好機だ!!」

 

「よし!! 今なら邪魔がいねェ!! 上にいけるぞ!!」

 

 ルフィの傍らを走るジンベエ、イワンコフ、ムサシの言葉を耳にし、ルフィは腕を伸ばして広場の縁を掴み、上へと登ろうと試みる。だが──

 

「わ!! ──なんだ!?」

 

「壁ェ!!?」

 

 突如、広場への道を防ぐように氷の下から分厚く巨大な壁が押し出てきてルフィの腕を弾き、白ひげ海賊団の行く先を阻んだ。

 

「囲まれた!!!」

 

「何のマネだァ──っ!!」

 

 そしてその壁は湾内を囲むように現れる。海賊達が攻撃を加えてもビクともしない鋼鉄の壁だ。

 

「さっきから言ってた“包囲壁”ってのはこの鋼鉄の防御壁の事か!!!」

 

「戦わねェ気かァ!!? 海軍──っ!!!」

 

「砲口が全部こっちを狙ってる!!」

 

 白ひげ海賊団がその壁を前に立ち止まる。この壁があっては広場へは辿り着けないため、どうにか壊そうと試みるがやはり壁はヒビ一つ入らない。

 海軍としてはその包囲壁によって白ひげ海賊団を湾内に閉じ込め、一網打尽にしようというのが本来の作戦。

 そしてそれを作動させれば少なくとも白ひげ海賊団と金獅子海賊団の脅威を一時的に留めることが出来ると目論んだが……それらは不完全であり、そして直ぐには始められないものだった。

 

「おいどうなってるんだ!!! 完璧に作動させろ!!!」

 

「……それが包囲壁があのオーズの巨体を持ち上げきれず……!! どうやら奴の血がシステムに入り込みパワーダウンしてる模様で……!!!」

 

 センゴクが早く包囲壁を作動しろと叫ぶ。完全に包囲する筈の壁の一つがオーズの巨体を持ち上げきれずに穴が空いていた。

 だが壁が完全に作動していても、作戦を行うことは出来ない。何しろ──

 

「海軍と戦争してると思い出す……!! おれ達が独立する切っ掛けになった()()()をよ……!!!」

 

「……!! その時に死んでおれば良かったものを……!!! 邪魔ァしおって……!!」

 

「ウォロロロ!! 文句があるならそこのガープに言うんだな!!! ──おいガープ!! あの時おれ達を殺せなかったことを後悔させてやる!!!」

 

「っ……言われんでも、もう充分しとるわい……!!」

 

 今は作戦の要の一つであった赤犬がカイドウに掛かりっきりになってしまっていた。

 空を行く巨大な龍であるカイドウが暴れ回っている今、赤犬を動かして白ひげ海賊団の足場を奪うことは出来ないが、かといって手をこまねいている訳にもいかない。

 

「……!! 湾内の“白ひげ”に最低限注意しつつ、広場にいる海兵は“百獣海賊団”と“ビッグ・マム海賊団”の迎撃に注力しろ!!!」

 

「はっ!!」

 

 センゴクは“白ひげ”の相手を包囲壁と大砲に任せ、海兵の戦力を一度左右から迫る2つの海賊団に向けることを決める。

 ここで急いで白ひげを倒す必要はないと判断したのだ。白ひげの相手は放っておいても背後の金獅子海賊団や広場にいる“妖獣”、“ビッグ・マム”が勝手にやる。万が一の時には別の方策に舵を取ることも出来る。

 ゆえにエースとは無関係に海軍を滅ぼそうとする3つの海賊団を相手にすることが優先だとセンゴクは思考し、そのように戦略を組み替えた。──ゆえに白ひげには粘って貰わねば困るが、この混沌とした戦場で全てを上手く運べる筈もない。

 

「──クイーン様!! 準備完了しました!!」

 

「よォ~~し!! それじゃあ湾内の白ひげ海賊団目掛けて──撃てェ!!!」

 

「!!?」

 

「ぎゃあ!!」

 

「痛ェ!! 撃たれた!!」

 

 湾内で広場へ乗り込むためオーズの道に向かうべきだと判断した白ひげ海賊団だが、左方の壁の上から弾幕が降り注ぎ、傷を負う。UFOの弾ではない。全て実弾だったが……それもまた普通の弾ではなかった。

 

「寒い……!! 何だ、こ、れ……!!?」

 

「ギャー!!? 何すんだお前!!」

 

「感染……!? しまった……!! “疫災" か……!!!」

 

「──ム~ハハハ!!! そうだ!! 3番隊隊長!! “ダイヤモンド”・ジョズ!!!」

 

「……!! “疫災のクイーン" ……!!!」

 

 弾を撃たれた白ひげ海賊団の船員達は突如として身体に冷却異常をきたして苦しんだかと思うと正気を失い凶暴化し、周囲の人間を無差別に襲い始め、またそれに触れた者もまた同じ病に感染する。

 そのような不可思議なウイルス兵器を使う奴はこの戦場に1人しかいない。弾が飛んできた方向をジョズが見上げると、そこには予想通り、大勢の銃を持った部下と共に百獣海賊団の大看板であるクイーンが立っていた。

 

「“疫災(エキサイト)弾”だ!! どれだけ屈強な猛者も──病には勝てねェ!! よ~く知ってんだろ? 何しろ……お前らの船長が病気だからなァ!!! ムハハハハ!!」

 

「ギャーハッハッハ!!」

 

「っ……!! オヤジをバカにするな……!! 降りてこいクイーン!!!」

 

「ムハハ、バカめ。お前らは全員、その湾内で感染(うつ)しあって死ぬんだ。おれが降りて相手する必要もねェ!! お前ら家族なんだろ? 精々最期まで一緒にいてやれよ!! 感染(うつ)るがな!! ムァ~~ハハハ!!!」

 

「あの野郎……!!!」

 

「ジョズ隊、長……逃げて……! おれ達、もうダメ、だ……!! 触れたら感染しちまう……!!」

 

 “疫災”の異名の由来ともなったウィルス兵器で湾内にいる白ひげ海賊団の一部が奇病に侵される。感染はその病にかかった者達が自ら広めてしまうため、このままでは湾内でパンデミックが起こってしまう。

 だが逃げ場所は限られていた。後方には金獅子海賊団。周囲は包囲壁に囲まれており、湾内も幾つかの敵によって危険な状態。空にはUFOもある。

 更には、青筋を立てるジョズのいる左方の反対、右側にはまた別の“災害”にマルコが対峙していた。

 

「ぎゃあああ~~~!!」

 

「熱い!!」

 

「やべェ、離れろ!! 炎が広がって足場がなくなる!!」

 

「畜生!! キングの野郎……!!」

 

 その炎は氷上に広がり、次々と足場が溶けてなくなる。

 それを為しているのは空を飛ぶ2人の炎の内の1人。赤い炎を撒き散らして戦うその男に、青い炎を纏って戦う男が湾内の惨状を見て憎々しげに口元を歪める。

 

「チッ!! “疫病”が……さっさと広場に突入しねェとマズいよい……!!」

 

「同情するぜ。あのバカの兵器の餌食になっちまってな……!! 止めに行かねェのか?」

 

「それもしたいが……お前を放置する方が危険だよい!!」

 

「賢明な判断だな……!!」

 

 互いに会話を行いながらも戦闘を休めはしない。“不死鳥”と“プテラノドン”。特殊な力を持つ動物(ゾオン)系の幻獣種と圧倒的なパワーとタフネスを持つ古代種。それもどちらも飛行が可能な能力の戦いは、本人達の実力もあり他の者では立ち入ることの出来ない高度な空中戦となっていた。

 

「おれに炎は効かねェよい!!!」

 

「炎は下の雑魚共を掃除するためのものだ。お前は再生出来なくなるまでおれが念入りに斬り裂いてやる……!!!」

 

「……! 人型……!!」

 

 キングが炎を広げたが、不死鳥であり元々炎を纏うマルコには効かない。その炎は白ひげの部下を襲うためのものであり、事実、氷上ではまだ小規模ながらも“火災”が起きている。

 それを止めようとマルコは飛翔し、高速でキングの元へ迫ったが、キングの方もプテラノドンの獣型から人型に戻り、その巨体に見合った大きさの刀を抜いた。マルコもそれを見抜き、目を細くしてそれに対応しようと構える。同時にキングの刀が煌めいた。

 

「!!」

 

「!? 斬撃か……!!」

 

 キングが刀を振り、真下のマルコに向かって巨大な斬撃を飛ばす。マルコが直前でそれを見切り、受けるのではなく躱すことを選んだ。

 

「うお~~~!!? なんだァ!!?」

 

「キャプテン・バギー!! 上からの斬撃で氷が斬れちまった!!」

 

「落ちる!! 足場に気をつけろ!!」

 

 その斬撃は地上の氷にまで届き、湾内の氷の右半分を真っ二つに斬り裂いてしまう。──だがその結果を見てキングは嘆息した。満足の行く結果ではなく、その黒い翼で滞空し、攻撃を仕掛けてきたマルコの蹴りを刀で防御し、再びプテラノドンに変型して飛翔する。

 

「受けてればそれなりに再生力を削れたが……やはりお前を殺るには少し時間がかかりそうだ……!!」

 

「お前こそさっさと倒れろよい……!!」

 

「……フン……おれとお前の決着がつくより先に、ぬえさんがお前のとこの船長を討ち取っちまいそうだがな」

 

「!!? まさか……!!」

 

 キングの言葉にマルコの表情が一瞬強ばる──その「まさか」と思う瞬間、実際に“白ひげ”とぬえは戦っていた。

 

「随分と衰えたわね……“白ひげ”!!」

 

「ゼェ……ナマ言ってんじゃねェぞアホンダラァ!! おれのどこが衰えたって……!!?」

 

「衰えてないって言うつもり? あはは!! それは無理ってものよ“白ひげ”……!! 私が強くなったのを差し引いても……昔のあなたはもっともっと……それこそ今の私達に劣らないくらいに“化け物”だった……!! それは誰だって知ってることよ……!!!」

 

 “白ひげ”の地震の力と覇気を込めた薙刀の一撃をぬえは槍で受け止めてみせる。一見、互角にも思えるその光景だが、“白ひげ”は僅かに息を乱し、額に汗を滲ませており、対するぬえはそのような様子は一切見られなかった。明らかに“白ひげ”は万全ではない。それは“白ひげ”自身も仲間も承知であることだ。老いと病に侵された身体は日々衰えており、毎日の薬や点滴がなければ生きることもままならない……それを今日まで毎日騙し騙しで生きてきたが、“白ひげ”はここに来て己の寿命が近づいてきていることを感じ取っていた。

 ──そしてそれは過去の“白ひげ”を知り、強い見聞色を持つぬえもまた知るところである。

 

「“義心のグリーンUFO襲来”!!!」

 

「……!!」

 

 ぬえが左手を前に出すと、宙から生まれた緑色のUFOとその弾幕が“白ひげ”を襲う。

 “白ひげ”はその弾幕を何とか防ぎ、UFOを落としていたが、その対応にキレはない。余裕という状態ではなく、何とか防いでいるようにぬえには見えていた。

 

「昔のあなたなら、こんな弾幕なんて苦にもしなかった」

 

 ぬえは笑いながらも、どこか寂寥感を感じさせる声色で告げる──戦いの最中ながら、ふと思い出すのは40年近い昔のことだ。

 

『ほら見て“白ひげ”!! そして食らいなさい!! 新技のUFO!!』

 

『誰が食らうかアホンダラ!! そんな小せェハナタレUFOの弾なんざどれだけ食らっても傷一つ負わねェよ!!』

 

『可愛い女の子にハナタレとか言うな!! “白ひげ”のアホー!!』

 

 かつて“白ひげ”という男はこの世で最も強大で凶悪な海賊団の一員だった。

 仲間殺しの絶えないその凶悪な一味の中で、仲間殺しや必要以上の悪逆を許さないという立場を崩さなかったのが“白ひげ”であり、その圧倒的な力に一味の殆どは“白ひげ”のいる前では仲間殺しはしないようになった。

 

「“平安のダーククラウド”!!!」

 

「っ……黒い霧か……!! だがこんなものが……!!」

 

 “白ひげ”はぬえが生み出した黒雲と弾幕、目眩ましにもなるそれらを薙刀の一振りで払う。

 そしてその中にいたぬえが白ひげの近くに迫り、槍を構えているところが見えた。それを防ごうと、白ひげは薙刀を返し、再び思い切り横薙ぎに振り払う。だが──

 

「!!?」

 

「“紫鏡”」

 

 その攻撃はぬえの身体に当たり……しかしぬえの身体からは血の一滴も出ずにその場でかき消える。

 晴れた黒雲の中、白ひげの懐に偽物ではない本物のぬえが潜り込んでいた。

 

「昔のあなたなら……こんな子供騙しに引っかかることもなかった」

 

「……!! (しまった……!!)」

 

 薙刀を戻すのが間に合わない。防御も回避も出来なくなる……一瞬の隙。

 だが今のぬえにはそれで充分だった。再び過去を思い出しながら、ぬえは右手に持ったその三叉槍に武装色の覇気を強く流し、槍をくるくると高速で車輪の様に回転させる。

 

『こうして姿を隠して……今よ“白ひげ”!! カイドウの仇!! 隙あり~~~!!!』

 

『隙なんてねェよ!! こんなもん子供騙しだ!!』

 

『痛いし酷い!! む~~……いつか絶対一本取ってみせるからねっ!!』

 

『生意気な……やれるもんならやってみやがれ。百年経ってもお前にゃ無理だ、ぬえ。グララララ……!!』

 

「……あなたは昔と比べ物にならないくらい衰えた。今のあなたじゃ海軍相手にボロボロになって死ぬだけ。どうせそうなるなら……今の内に私が殺してあげるわ」

 

「っ……ぬえ……!!」

 

「──()()()よ、“白ひげ”」

 

 覚悟を決め、獣となった赤い瞳が“白ひげ”を捉える。

 強い武装色とぬえの能力により帯電した三叉槍が雷の様な激しい音を鳴らしながら構えられ──その必殺の一撃は放たれる。

 

「“雷獣八卦”!!!」

 

「!!!!」

 

 ──ぬえの槍が白ひげの胸を貫いた。

 

 

 

 

 

 “妖獣”の槍の一撃は“白ひげ”の胸を貫き、衝撃が宙を穿ち、天に穴を空けた。

 そしてその瞬間を見ていた全ての者の意識がその瞬間に奪われる。

 白ひげ海賊団、海兵、王下七武海、インペルダウンの脱獄囚、シャボンディ諸島の市民、記者、海賊──その多くが血相を変え、百獣海賊団、ビッグ・マム海賊団、金獅子海賊団もまたその瞬間を確認して思い思いの表情を浮かべた。

 

「オヤジィ~~~~~~~~~!!!」

 

「“白ひげ”……!!」

 

「おっさんが……!!」

 

 戦場で白ひげ海賊団の船員、傘下の海賊達の声が響き渡り、そうでない者もまた、伝説の海賊“白ひげ”が刺されたことに驚愕した。

 

「オヤジ……!!」

 

「戦場では隙を見せた方から死ぬ。当然の事だ……!!」

 

「!!? キング……!! てめェ……離せ!!」

 

 “白ひげ”が刺されたその瞬間に意識を取られ、その場に急行しようとしたマルコだが、その隙を突いたキングがプテラノドンの巨大な嘴でマルコを捕まえ、広場へ向かって高速で急降下を始める。マルコは何とかその場から脱しようともがくが、キングの怪力からは逃れられない。

 

「心配するな。お前も“白ひげ”と同じ場所に連れて行ってやる!!」

 

「! クソ……!!」

 

「!!!」

 

「マルコ隊長!!」

 

 キングが速度を落とさないまま広場へと激突し、広場に亀裂が走り、戦塵が舞う。それを見ていた一部の白ひげ海賊団の海賊達がマルコの安否を心配して声を上げた。

 だがやはり多くは“白ひげ”に意識を向けている。空に浮かぶカイドウもまたそれを見て鼻を鳴らした。

 

「……直に死ぬか……“白ひげ”……これで“白ひげ海賊団”も終わりだな。あのジジイが死ねば後は大したことねェ。全員死ぬのも時間の問題だ……」

 

「カイドウ様!! 報告します!!」

 

「! バオファン」

 

 龍になって広場の海軍と戦っていたカイドウの元に、虹色のUFOの上に乗ったバオファンが近づいて報告をしてくる。“白ひげ”の負傷とは関係がない、戦況の報告だ。

 

「現在、西側!! ジョーカー様とジャック様が海兵を蹴散らして予定通り広場へと到達します!! 東側、カタクリ様率いるビッグ・マム海賊団は大将青雉の抵抗を受けて予定より侵攻が遅れている模様!!」

 

「リンリンの奴が相手しねェからだ。あのババア……青雉を甘く見やがって……!!」

 

「ビッグ・マム様は現在、湾内で“鷹の目”と交戦中の模様です!! 付け加えて、金獅子海賊団は予定通り、白ひげ海賊団の後方を包囲してます!!」

 

「わかった。お前はまた戦場の監視と報告を“上”で続けてろバオファン!!」

 

「了解です!!」

 

 カイドウがそう命じるとバオファンは虹色のUFOに乗って雲の上へと消えていく。するとカイドウは大勢の海兵が倒れる広場へと人型になって降り立った。

 

「ここでお前らが滅んでも、お前らは称賛されるだろう──何十年……何百年とこの海の平和を守って、ご苦労だったな……!!」

 

「カイドウ……!!」

 

「っ……オヤジが……!!」

 

 広場には未だ多くの海兵がいるが、楽観出来る者は誰一人いない。

 処刑台の上ではセンゴクが顔を険しくし、エースが顔を青褪めさせる。広場にはサカズキを中心に多くの海兵がカイドウに対峙するが、誰もがUFOとカイドウの攻撃で少なくない傷を負っていた。

 だが対するカイドウは──未だ無傷だった。

 

「……“ロジャー”が死んで22年……“白ひげ”が直に死に……その息子ももうじき死ぬ……!!」

 

 多くの海賊、海兵の屍の中、“死”が蔓延する戦場の中心で、カイドウは不敵な笑みを浮かべて海軍を讃える。

 これまでよく生きてきたと、その“生き様”と、これから見せるであろう“死に様”を迎えさせてやろうとカイドウは金棒を肩に構える。

 

「次はお前達の番だ……!!!」

 

 ──覚悟は済んだな? と、カイドウが海軍に最後通告を突きつける。

 

「終わらせてやる……!!!」

 

「……!!!」

 

 最強生物がその暴威を振るった。

 

 

 

 

 

 “白ひげ”を刺した瞬間、多くの恐怖が身体に流れ込んでくるのを感じた。

 畏怖があり、怒りもある中の恐怖。それは私の活力だ。

 だが今回ばかりはそれほど嬉しいとも思えない。自分にとって、“白ひげ”を超えるというのは一つの感情で表せるほどちっぽけなものではないのだ。

 嬉しくないとは言わないが、決してそれだけではない。

 ただ思うのは──「これで終わりだな」ということ。

 それは純然たる事実である。人間は心臓を刺されて生きてはいられない。どんな怪物であってもそれは変えられない。人間という獣の、生物としての当然の帰結。

 だが──

 

「これで終わりね、“白ひげ”……──」

 

「……これしきで……」

 

「!!?」

 

 ──純粋に驚く。

 口の端から血を吐いたその大男“白ひげ”が言葉を発し、その左腕に地震のパワーを込めている。

 “声”は消えていない。即死ではない。心臓は確かに貫いた。

 だが白ひげという男は確かに、未だ死にかけであろうとも生の活力を発揮していて──

 

「おれを殺せると思ってんじゃねェぞ!!! アホンダラァ!!!」

 

「!!!」

 

 ──槍が、()()()()()()()()()……!!? 

 避けようとして避けきれない。それを回避しようと更に力を込めて槍を無理矢理引き抜く──その直後には食らっていた。白ひげの地震と力と覇気を込めた拳を。

 それは懐かしいものであり、同時に初めての感触だった。

 

「衝撃が届くぞォ!!!」

 

「オヤジィ……!!」

 

「おい、ぬえさんを吹き飛ばしたぞ!!?」

 

「バカな!! 胸を刺されてまだ生きてられんのかよ!!?」

 

 周囲の声が遠く聞こえる中、思い返す。そう、そういえばだ。

 ……そういえば、白ひげに本気で殴られたことって……今までに一度もなかったのかなぁ。

 仲間であった時は当然だが、昔敵対していた時も……思えば“白ひげ”は本気ではなかった。

 本気を引き出せるほど、私達が強くなかったからだ。

 だが今は──衰えているとはいえ、本気で私を殴ってみせた。

 それは“白ひげ”が私を敵と認めた証拠である。

 

「おや……“白ひげ”はまだ生きてんのかい!! 相変わらずタフな男だね!!」

 

「……おれはまだ死なねェよ……!!」

 

 リンリンと“白ひげ”の会話を聞いて思い出す。

 確かに、“白ひげ”はこのくらいで死ぬ男じゃない。

 心臓を潰し、脳が欠けてもこの男はやるべきことを終えるまで命の炎を燃やし続けるだろう。

 偉大な男とはそういうものだ。身体は死んでいても、意志が生きている限り、人は死なない。

 それでも限界はあるのだろうが……“白ひげ”が死んでいない以上、“白ひげ”の限界はここではないということだ。

 

「……いったいなぁ……!!」

 

「ぬえさん!!」

 

 血の溜まりを口からぺっぺっと吐き出して起き上がる。部下達が心配しているが、舐めないでほしい。このくらいで気絶したり戦闘不能に陥るほど柔じゃない。

 

「衰えてるとはいえ、やっぱ破壊力は大したものね……!! あはは……そこそこ効いたわよ……!!」

 

「──それなら助かるねェ~~」

 

「!」

 

 瀕死の“白ひげ”を見て、再び突撃するかどうするかと思ったその直後、聞き覚えのある間延びした声が横から聞こえたため、咄嗟に覇気を流し込んだ腕でガードをする。

 横から光の速度で蹴りが飛んでくる。当然、相手は黄猿だ。私はまた少し吹っ飛び、氷に激突する──が、大したダメージではない。防御もした。私は目の前に立つボルサリーノをからかってやろうと口を開く。

 

「そんなに私に相手して貰いたいの? ふふ、今度は左腕だけじゃ済まさないからね……!!」

 

「そりゃあやり返さないと気持ち悪いからね~~。まあそちらさんは随分、色んなところに恨まれてるみたいだけども……」

 

「人気者にはアンチが付き物だから──ね!!」

 

 私はボルサリーノの言葉に同意しながら、見聞色で読み取った攻撃の気配に従って横から来る砂の斬撃を槍で振り払う。そしてその攻撃をしてきた相手にも声を向けた。

 

「随分と手荒な挨拶じゃない、砂ワニく~~ん♡」

 

「人の獲物を横取りしてんじゃねェよ……“妖獣”……!!!」

 

「あはははは!! 私に喧嘩を売る度胸は取り戻したみたいね!! うんうん、いいよいいよ~!! そっちの方が殺しがいがあるからね~~~♡」

 

 元王下七武海の1人で、インペルダウンでルフィと協力して脱獄を果たしたサー・クロコダイルが私に虫の居所が悪そうな無愛想な顔を向けてくる。乱戦の戦場だし、私は人気者だからしょうがないけど横やりが多い。モテるって罪だね!! 

 そんな訳で、せっかくだし先にボルサリーノとクロコダイルをぶち殺してあげようと思ったが──そんな時に、私の電伝虫が鳴り響いた。私は蛇を操って隙を見せずに受話器を取って返事をする。

 

「なに~~? 今取り込み中なんだけど!!」

 

『ぬえ様!! そろそろ包囲が完了します!! クイーン様の“疫災”とキング様の“火災”が広がっていますのでそこから退避を!!』

 

「あ~~もうそんな時間なんだ。オッケー♪ それじゃあ、続きは広場に上がってからだね!!」

 

「!」

 

 私はボルサリーノとクロコダイルを放って空へ飛び上がり、広場へと向かうことにする。確かに、白ひげとの戦いに夢中で割と周囲を気にしていなかったが、そろそろ海軍の包囲も終わるし、白ひげ海賊団も湾内に取り残されている。余裕があれば今みたいに戦場全体の気配を感じ取れるけど、さすがに老いてはいても白ひげ相手に他のところを見てる余裕はなかったなぁ。──ま、優秀な秘書がいるから問題ないけどね!! 

 

「さーて、瀕死の“白ひげ”と()()()()はどうするのかな?」

 

 広場のカイドウの側へ降り立ちながら、私は湾内に残った彼らがどう来るのかを楽しみにすることにした。

 

 

 

 

 

 “白ひげ”が“妖獣”によって致命傷を負わせられ、その“妖獣”が広場へ移動すると戦場の中心は湾内から広場へと移り変わっていた。

 

「ハ~ハハハ!! 悪いがおれも退かせてもらうよ!! 可愛い子供達の助力をしてやらないとねェ!!」

 

「ジハハハ……そろそろだな……おれも動くか……。──さあエース!! 良い返事を期待してるぜェ……?」

 

「! オヤジ、“ビッグ・マム”と“金獅子”が……!!」

 

「オヤジ!! 湾内はやべェ!! 炎とウイルスで行き場がなくなってる!!」

 

「わかってる……!! 全員、広場へ突入するぞ!! 準備しろ野郎共!!!」

 

「ウオオオオ!!!」

 

 湾内に残るのは“白ひげ海賊団”とインペルダウンの脱獄囚のみ。それ以外の殆どの者達は広場へと上がっていった。

 それを見て白ひげ海賊団は広場への突入を決めるが、そんな中、インペルダウンの脱獄囚。エースの奪還を狙う者達の動きは──

 

「あの穴を通るのは無茶じゃ!! 利用したいのは山々じゃが、少数で通れば狙い撃ちにされてしまう!!」

 

「広場へ到達しても危険過ぎルッチャブル!! 海軍、七武海、“百獣”、“ビッグ・マム”、“金獅子”……その全てを相手にすることになる!!!」

 

「ゼェ……ハァ……でも何とかしねェと……!! あいつら全員、エースを殺す気なんだ!!!」

 

 頭から血を流すルフィをジンベエやイワンコフが介抱する。あまりにも時間がない上、湾内にいてはやられてしまうとあって彼らは焦っていた。

 だがそんな中、ムサシは静かだった。ムサシはしばらく険しい顔つきで何かを考え、覚悟を終えると、同じ覚悟をルフィに問いかけ、方策を示す。

 

「広場への突入方法ならある……!!!」

 

「! 本当か!!? なら──」

 

「ああ。だが……覚悟しろ。“麦わらのルフィ”。広場へ突入すれば……生きて帰れる保証はないぞ!!」

 

「ハァ……ハァ……そんな覚悟、とっくに済ませてる!! 早くしてくれ!!!」

 

「! そうか……ならば行くぞ……!!!」

 

 ムサシが変型を始め、ルフィ達を広場へ運ぶことを決める。

 ──そして、包囲壁の唯一の穴であったオーズがゆっくりと立ち上がり、海兵や海賊達はそれを一瞬、見上げた。

 

「オーズが……!!」

 

「構うな!! そちらに気を留めている暇はない!! 何とか奴らを討ち取れ!!!」

 

「全く……骨が折れるじゃすまない戦場だねェ~~~……!!」

 

「! 黄猿さん!! アレは……!!」

 

 だがその時──風に乗って包囲壁を乗り越えてくる者達がいた。

 それは獣の姿をしており、その背に誰かを乗せている。

 

「あ……!!」

 

「あれは……!!」

 

 その麦わら帽子を被った少年の姿に、一部の者達はすぐに気づく。そんな者はこの戦場に1人しかいない。

 だが彼が降り立つのは世界に名だたる怪物達が一堂に会する地獄すら生温い戦場だった。

 

「! こんなところまで……!! やっぱお前は爺さん似だな……!!」

 

「ドラゴンの息子ォ……!! お前も後で必ず殺しちゃる……!!」

 

「相手にしてる暇はないけどねェ~~……片手間で死んでくれればいいけれど……」

 

 王下七武海に名を連ねる海賊達が周囲に散らばり──海軍本部の三大将。英雄。元帥が正面に陣取り、左右に睨みを利かす。その左右には、世界の頂点に君臨する海賊達。

 

「ん~~~? 誰だい? おまえは……!!」

 

「ジハハ……お前、火拳の義理の弟なんだってなァ……?」

 

 四皇──“ビッグ・マム”シャーロット・リンリンに、その横で宙に浮かぶ金獅子海賊団の大親分“金獅子のシキ”。

 

「! ムサシに……てめェは誰だ?」

 

「──あはっ♡ “麦わらのルフィ”~~♡ いい度胸だけど……ちょ~っとこの難易度に挑むにはまだ早いんじゃないかな~?」

 

 四皇──“百獣のカイドウ”と、その傍らに浮かぶカイドウの兄姉分──“妖獣のぬえ”。

 

「ハァ……ハァ……エースは……誰にも殺させねェ……!!!」

 

「ルフィ…………!!」

 

 そしてそれ以外にも多くの猛者が存在する戦場の中に、無鉄砲にも飛び込むのは──海賊“麦わらのルフィ”。

 息も絶え絶えながら、世界の頂点を意志を持って睨みつけるルフィを処刑台のエースが血相を変えてその名を呼ぶ──戦場のうねりはここに来て最高潮に達しようとしていた。




超新星→今のところは全員が来るとは限らない。南無
クイーン→疫災弾を戦場で使うとメチャクチャになる。使ってる弾は敢えて言葉にしてませんが例のアレです。
キング→マルコと交戦中。原作で見たいであろう対決
白ひげ→胸を刺されたがまだ戦うし戦えます。衰えてもぬえちゃんに出血を強いるくらいの攻撃力もある。
雷獣八卦→雷鳴八卦のぬえちゃんバージョン。槍版とも言う。妖怪・鵺は雷獣であるという説から
バオファン→戦場監視&報告係。カイドウさん龍形態だと電伝虫取れない
クロコダイル→脱獄した時点でアラバスタの時よりは強そう
カイドウ→龍形態で暴れたけど人型になってこれからまた暴れる。未だ無傷
ルフィ→ムサシと共に広場に突入。ノーマルシューターがいきなりルナティックに来た
ぬえちゃん→白ひげを刺して実力的にはもう超えてる。色々と楽しんでたり可愛い。

ということでルフィがエクストラステージというかとんでもないところに突入したところで次回。まだまだ戦争。そろそろ七武海とか黒ひげとかムサシとか小紫とかも出るのかな……? 次回はルフィがどうにかしようとして出来ません(無理ゲー)。お楽しみに。

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