正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

117 / 173
死地

 “海軍本部”マリンフォードのオリス広場は地獄を生温いと形容出来るほどの過酷な戦場と化していた。

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

「もうダメだ……!! おれ達は皆海賊に殺されるんだ……!!」

 

「っ……弱音を吐くな!! 我々が諦めたら、一体誰が“悪”を倒すのだ!!」

 

 広場に追い込まれ、背水の陣を敷くことになった海兵の奮戦は続いている──が、しかし、それでも周囲の海賊達の進撃は少しずつ彼らの心を蝕み、限りある士気を下げていた。

 だが負ければ自分も仲間も家族も……罪無き者が皆死ぬことを理解している心弱き彼らは死にたくない思いで身体を動かす。皮肉にも、海賊達の恐怖と絶望が彼らを辛うじて生かしていた。

 しかしだからといって、戦況が好転する訳はない──“四皇”の脅威は留まることを知らなかった。

 

「おいアイツ!! あの場に割り込んでどういうつもりだ?」

 

「ギャ~ハッハッハ!! 死んだぞあの麦わら帽子の野郎!!」

 

「それよりムサシお嬢様がいるぞ!!」

 

 そして、その大激戦の中心である場所に、無謀にも飛び込んだのは弱冠17歳のルーキー海賊──“麦わらのルフィ”であり、誰もがその行動を“イカれている”と評する。

 だがそれも当然だろう。何しろ彼が対峙するのは世界の頂点。“海賊王”に最も近いとされるこの海の皇帝達。

 

「ハ~ハハハマママママ!! お前がガープの孫かい? おれ達に啖呵を切るなんて、命知らずなところはそっくりだね!!」

 

「ジハハ!! 全くだ!! あのインペルダウンを抜け出してここまで来るとは面白ェ!! ……それにロジャーのガキにガープの孫とくれば……こりゃあ嫌でも()()()を思い出しちまうぜ!!」

 

「ほら見て見て!! あの子が“麦わらのルフィ”だよ!! カイドウ!!」

 

「知ってるさ。報告で聞いた……クロコダイルを消してエニエス・ロビーを落としたっていうガキだろう……!!!」

 

「そうそう!! ということで──はい!! カメラちゅうも~く!! こちらにいるのは最近世間を賑わせてる超新星の1人!! “麦わらのルフィ”だ~~~!!! イェ~~イ!! パチパチパチ~~!!

 

 四皇──“ビッグ・マム”に“百獣のカイドウ”。

 そして彼らの元仲間である“金獅子のシキ”に、カイドウの兄姉分である“妖獣のぬえ”。

 怪物達が揃ってルフィを見たその瞬間、ルフィは背筋に寒いものを感じたが、その本能から感じる危機感を強い意志で無理矢理せき止める。

 エースを助けるためにはここを突破しなければならない。だったら──

 

「エースは……絶対に助ける!!! お前らの相手をしてる暇なんてねェ!!!」

 

 ──諦めるという選択肢は彼に存在しない。

 ゆえに彼はその激戦のど真ん中を真っ直ぐ突っ切ろうとした。

 

「“ギア2”!!」

 

「!」

 

 足を踏み出す瞬間、ルフィは全身の血液の流れを加速させ、身体能力を急激に上げる技“ギア2”を使って攻撃を避けることに専念することに決める。そのスピードは六式の“剃”に匹敵する超人的なもの。

 だがこの戦場において──その速さは圧倒的なものではなかった。

 

「さて、それでは早速インタビューしてみましょう!! ──四皇を初めて目の当たりにした今のお気持ちは?」

 

「!!? お前……!!」

 

 ルフィがその場の敵を全て振り切ろうと移動した時、ぬえはルフィの目の前に逆さのままぴったりと張り付いており、どこから取り出したのかマイクをルフィに向かって差し向けていた。

 それに驚き、ルフィはすぐに方向転換をしてぬえを振り切ろうとするが、ぬえはルフィの前から離れない。

 

「ダメだ、振り切れねェ……!!」

 

「そりゃあ……ねぇ? そんな()()んだからのんびりインタビューする時間もあるってものよ」

 

「……!! お前、海賊だったのか!!」

 

「はーい!! 可愛い可愛いぬえちゃんで~す♡ 前にも言った通り、世界一のアイドルで……海賊よ!! あはは、まあ海賊は言い忘れてたけどね~~!!」

 

「っ……!! じゃああの時のUFOは……!!」

 

 ルフィは前にぬえに会った時──その直前でUFOを見かけたことを思い出す。

 今、戦場の空に多く浮かんでいるUFOはその時に見かけたものと同じであり、ぬえが能力により生み出したものだと推測出来る。何の能力かはわからないが、ルフィはそれを理解した。

 だが今はそれはどうでもいい。エースを助けることが最優先だ。相手をしている暇はない。

 

「それで“四皇”を見た印象はどう? 勝てそう? それとも……絶望しそうかな?」

 

「……!! うるせェ!! 今はお前の相手をしてる暇はねェんだ!!」

 

「あはははは!! 確かに、エースを助けたいんだもんね~? まあそれなら急げばいいんじゃない? もっとも、助け出してここから逃げるには力不足だと思うけど♡」

 

「そんなこと、お前が勝手に決めるな!!」

 

「はいはい、私は邪魔しないからご自由にどうぞ♡ 周りはどうか知らないけどね──ほら、後ろ来るよ?」

 

「!!!」

 

 ぬえが後ろを指差したその刹那、ルフィの顔を長い足が蹴りつけた。そのスピードはルフィよりも遥かに速く、瞬間的にはぬえよりも速い。

 そしてそれほどの速度を出せる人物はこの場に1人しかいなかった。ぬえは自身もその蹴りを躱しながら、背後からも襲いかかってくる海兵の攻撃を躱して彼らにからかいの言葉を向ける。

 

「あーあー、寄ってたかってか弱いルーキーや美少女に群がって……!! 撮影会でもしたいのかな!!」

 

「“麦わらのルフィ”はともかく、あんたはか弱くも何ともないでしょうが~……!!」

 

「全く……不意打ちも通じないなんて面倒な娘だね」

 

 ぬえの前に立ち塞がる2人の海兵。1人は大将“黄猿”ことボルサリーノ。もう1人は細身の老婆であり、こちらも誰もが知る海兵の1人であった。大将だけでなく歴戦の女傑を目にし、ぬえは楽しそうに笑う。

 

「“大参謀”ことおつるちゃんは一応初めましてかな? 初対面でいきなり洗おうとするなんて酷~い♡ でも一々洗わなくても私の心は綺麗だから洗う必要はないよ!!」

 

「心配する必要はないよ。あんたの心はもう、洗っても手遅れさ……汚れすぎて、洗っても落ちやしないよ……!!!」

 

「! ……へぇ、言うじゃない。そこまで言うなら覚悟は出来てるよね?」

 

「!」

 

 幾つかのUFOを新たに生み出したぬえの口元が三日月に歪む。獣の目は既に次の標的を見定めていた。

 

「“紫鏡”」

 

「“妖獣”が増えた!!?」

 

「また面妖な技を……!!」

 

 海兵達が見る先、ぬえが紫色の巨大な鏡を二枚、出現させたかと思うとぬえの姿が2人に──そして4人に増える。

 4人に増えたぬえは全く同じ姿をしながらも、それぞれ独立した動きで槍を構え、宙に浮かび、口を動かし、

 

「ふふふ♡ 次はあなた達の番♡」

 

「ちょっとは粘ってよね、じゃないと退屈だしさ♡」

 

「カイドウもやっと火がついてきたみたいだし、私もそろそろ戦果を挙げないとね♡」

 

「ええ、私達の野望のために──」

 

 そして、4人のぬえがそれぞれ口端を歪め──

 

『ゼファーを殺った時と同じ様に……皆殺しにしてあげる!!!

 

「……!! 来るよ!!」

 

 ──死を宣告し、それと同時にボルサリーノとおつる率いる部隊が襲いくる4人のぬえの相手を始めた。

 そしてそれとほぼ同時に戦場で新たな動きがまた生まれた。

 黄猿に蹴り飛ばされたルフィを援護しようとするジンベエ、イワンコフ、ムサシの内、前者2人は即座にルフィの元へ駆けつける。

 だがもう1人は、その場に留まって縁ある者と数年ぶりに対峙していた。

 

「ムサシ……!! ようやく会えたな……」

 

「っ……言っておくが、我はまだ戻る気はないぞ……!!」

 

 金棒を肩に構えた恐ろしい風貌の巨漢──“百獣のカイドウ”とムサシは視線を交わし合う。腰を低くし、刀は構えている。襲いかかられてもいつでも対処出来るように。

 その行動はムサシに考えがあってのことだ。

 何しろカイドウをほんの少しでも止めることが出来る者は、この場においてムサシしかいない。ムサシ自身もそれを自覚するからこそ、ムサシはカイドウの前に立ち塞がった。──エースを助けるための時間稼ぎをするために。

 それを見抜いているのかいないのか、カイドウはムサシを数秒、黙ったまま見下ろしたが──

 

「……だが、今はバカ娘の相手をしてる暇はねェんだ──おい野郎共。ムサシを捕まえて適当に船にでも放り込んでおけ」

 

「わかりました!!」

 

「! 待て……!!」

 

 しかし、ムサシの覚悟を他所にカイドウはムサシから視線を切って再び海軍の方へ向かっていく。ムサシがそれを追いかけようとするが、その道を百獣海賊団の戦闘員達が塞いだ。彼らはカイドウの命令を受け、ムサシに向かって迫真の表情で告げる。

 

「ムサシお嬢様!! お戻りを!! 戦場はカイドウ様やぬえ様が暴れて危険ですので!!」

 

「お前達……!! 今すぐそこをどけ!!!」

 

「な、なりません!!  カイドウ様のご命令です!!」

 

 ムサシをお嬢様と呼ぶ百獣海賊団はムサシに対して戦意も見せず、丁重に扱おうと言葉遣いを丁寧にしながら説得を口にしたが、対するムサシはそのことを苦々しく思いつつ、変型をした。

 

「どかねば……どうなっても知らんぞ……!!!」

 

「うわァ~~!!? お待ち下さいお嬢様!! 変身して何をする気ですか!!?」

 

「そうです!! 我々はお嬢様に危害を加えるつもりは……!!」

 

「我の邪魔をするなら“敵対”すると同じだ……!!! お前達も知っているだろう……我はそう簡単に捕まりはせんし……敵対するなら容赦はせんぞ……!!!」

 

 ムサシの見た目が人のものから獣へと変化していく。

 それは体長5メートルほどの巨大な白い虎だった。百獣海賊団であれば誰もが知るその能力。動物系、ネコネコの実の幻獣種である能力を、ムサシは発揮する。

 

「“凶風”……!!」

 

 ムサシの言葉と共に風がムサシを中心に荒れ狂う。

 龍が雲を生み出して空を飛ぶように、虎は風を生み出すことが出来る──新世界、“ワノ国”において幾度となく風害を巻き起こしたその凶事の風が百獣海賊団に襲いかかった。

 

「“禍津風”!!!」

 

「ぎゃあああ~~~!!!」

 

「や、やめて下さいムサシお嬢様~~~!!」

 

「いいからどけ!!! 邪魔するなら容赦はせんぞ!!!」

 

 竜巻が海賊達を吹き飛ばし、ムサシはその間を縫って先へ進もうとする。

 四皇の一角、百獣海賊団の戦闘員とはいえ、下っ端ではムサシを相手にすることは難しかった。

 

「どうすれば……!!」

 

「──どいていて下さい」

 

「!」

 

 だがそれを見かねて奥から現れた武者がそれに待ったを掛ける。鬼の様な兜や鎧に身を包んだ武者は刀を抜き、ムサシに向かって一足で間合いを詰めた。

 

「“河童流”……!!」

 

「! 小紫か!!」

 

 ムサシも見聞色で攻撃の気配を感じ、見知った顔に気づくと、即座に人獣型に変化して刀を抜いた。迎え撃つ技はその相手と同じ、ワノ国に昔いた侍から受け継いだと聞く流派。それをお互い、強い流桜を込めてほぼ同時に放つ。

 

「「“鬼怒川(きぬがわ)”!!!」」

 

「!!!」

 

「小紫様!!」

 

「お嬢が全く同じ技で返したぞ!!」

 

 互いの剣と覇気がぶつかり合い、鋼の音と覇気の音が混じった轟音を響かせる。自身の技を全く同じ技で返されたことに、百獣海賊団の“飛び六胞”小紫は仮面の下から苛立ちの混じった冷ややかな声色を飛ばした。

 

「お久しぶりですね、ムサシお嬢様。相変わらず、人の猿真似が得意なようで……」

 

「小紫……!! お前も我の邪魔をする気か!!?」

 

「勿論。貴女の捕縛は、カイドウ様から直々に私に言い渡された勅命ですので」

 

「……!! そうか……だが今は余裕はない……!! 悪いが“組み手”の時の様な手加減は出来んぞ……!!!」

 

「手加減されては困ります。貴女もまた、私が超えるべき相手なのですから……!!!」

 

 ムサシが強い意志を込めた剣撃を振るうと、小紫も僅かに内に秘めた激情を解放してそれを迎え撃った。

 ──だがその戦いもまた、この戦場においては特別目を引くものではない。戦場の中心は次々と新世界の猛者達が凄惨かつルール無用、卑怯も何もない乱入自由の殺し合いを繰り広げている。

 

「“キャンディメイデン”!!!」

 

「!! ペロスペロー……!!」

 

「フフフ、マルコ~~……!! さすがのお前でも、これだけ敵が多いと辛そうだな。同情するぜ──ペロリン♪」

 

 突如、横から迫った飴の拷問器具にマルコは攻撃を受けながらも即座に再生して何とか体勢を立て直す。戦場の東側を突破してきたビッグ・マム海賊団。その中で将星に次ぐ実力者であるペロスペローがマルコに攻撃を仕掛けたのだ。

 だがその次に起こった現象はマルコにもペロスペローにも預かり知らないものだった。──“火災”が広場に広がる。

 

「──“焼灸皇(ヤキュウドン)”!!!」

 

「!!?」

 

 炎の波が多くの海兵を呑み込み、その余波でビッグ・マム海賊団もたじろぐ。ペロスペローも見た。飴が溶ける危険性があるが、それ以上に本来は敵であり、その中でも無視出来ない脅威である“災害”。その筆頭に上げられる大男。

 これほどの火力を生み出せる者はそうはいない。熱気を感じながらも忌々しそうに今は味方であるその男と戦っている相手を見る。その相手は先程まで弟と戦っていた海軍の最高戦力だった。

 

「ハァ……ハァ……」

 

「──誰が手を貸せと言った?」

 

「──フン……手こずってるようだったから気を利かせたまでだ」

 

 火の海となった広場の一角、その中で片膝を突きながら息を乱すのは大将“青雉”ことクザン。

 彼はビッグ・マム海賊団が攻めてくる東の防衛線を部下と共に何とか押し留めていたが、戻ってきたビッグ・マムの手で戦線を押し込まれ、今は目の前に立つ2人の海賊に追い込まれてしまっている。どちらも、四皇の部下の中でも名高い2人──ビッグ・マム海賊団の“将星”カタクリと百獣海賊団の“大看板”キングが互いに横目で悪態を吐きながらもクザンに殺意を向けていた。

 

「……まあいい。お前と長く共闘するのはストレスだ。さっさと終わらせよう……!!!」

 

「こっちのセリフだ。お前はいずれ殺してやるが……今は仕留められる奴を先に仕留めねェとな……!!!」

 

「……!! 全く……少しは手心加えなさいよォ……!!!」

 

 額から血を流し、息を乱すクザンは己と自軍の圧倒的不利を改めて悟る。

 周囲は火の海。氷である自分に不利な戦場。

 炎ごと凍らせることが出来ない訳ではないが、相手が相手なだけにそれをしたとしても不利を覆せる訳ではない。

 そして何よりもマズいのが……自分ですら、一番マシということ。

 戦場は正に“地獄”だ。クザンは別の場所で起こる激闘を感じ取って苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。

 

「“天上の火(ヘブンリーフォイア)”ァ~~~~!!!」

 

「!!!」

 

 ──戦場の中心で、太陽が落とされる。

 炎の化身である“プロメテウス”。それを操り、戦場に大火を叩き込み、多くの海兵を焼殺したのは四皇“ビッグ・マム”シャーロット・リンリン。

 世界最強のババアとも言われる恐ろしい老婆の進撃に、海兵達は慄き、為す術もなく殺されていく──そしてそれを行うビッグ・マムは好戦的な笑みを浮かべて海兵達を見下ろした。

 

「マ~ママママ!!! こんな雑魚ばかりしかおれに寄越さないのかい!!? センゴク!! ガープ!! お前らも降りて来なァ!!! 昔のお礼参りとして殺してやるからよ!!!」

 

「……!! ──ガープ!!」

 

「ああ……わかっとるわい!!!」

 

「!」

 

 ビッグ・マムの進撃を見かねたセンゴクがガープの名を呼べば、ガープは既に広場のビッグ・マムへ向かって跳躍し、拳を黒く染めていた。覇気を込めた拳。言ってしまえばただそれだけだが、その拳はかつて多くの海賊達を地獄へ叩き落とした悪魔の拳──“ゲンコツのガープ”の何よりも強い武器だ。

 

「ビッグ・マム……!! 今更カイドウやシキと組むとは……どういうつもりじゃ!!?」

 

「ハハハ……!! こっちにも“事情”ってモンがあるのさ……ガープ……!! もっとも、これから死ぬお前には知る必要がないことだけどねェ!!!」

 

「っ……厄介な……!!」

 

 “ビッグ・マム”とガープの覇気が激突する。

 かつての力関係はガープが上であったが、今はその力関係も逆転していた。

 だがそれでもその拳は砕けていない。全盛期から衰えていようとも、ガープの意志は衰えず──リンリンの刃を何とかその場で止めてみせる。かつて“海賊王”を何度も追い詰め、あの“ロックス”をも仕留めた“海軍の英雄”の名は伊達ではない。

 ──だがやはり、かつてはガープ1人でも何とか留めることだけは出来た相手も、今は精々1人が限界だった。

 

「サカズキ大将~~~!!!」

 

「……!!」

 

 ──そう、強くなり、力関係を逆転させたのは1人ではない。

 戦場で最も暴れているその男は、今や世界最強の海賊。ただの見習いであり、闇雲に突っ込むだけの少しタフな特攻隊長であったのも今や昔の話。

 

「オオオオ……!!!」

 

「!!!」

 

 だがその戦い方は大きく変わってはいなかった。

 ──それは“暴力の極地”であった。

 

「撃て!! 撃てェ!! 撃ち続けろ!!!」

 

「全員で掛かれ!! 奴の首を取れば戦況も覆せる!!!」

 

 戦場の中心で戦う男に、当然海兵達は群がり、何としてもその命を獲ろうとあらゆる方法で立ち向かった。

 ──だが、それらは全て無意味だった。

 

「刃が刺さらない……!!」

 

「銃弾も……!!」

 

「は、迫撃砲も効かねェ……!!?」

 

 男に防御はなかった。

 だがその身体は傷を負わない。実戦と拷問、幾つもの死地を乗り越え、乗り越える度に強靭になっていったその肉体は鉛玉も鋼の刃も火薬であろうと何も通じない。

 覇気を込めても同じことだ。

 

「……!!!」

 

「っ……あ……!!」

 

 身体に感覚がない訳ではない。攻撃を受けたことは感じられる。

 だがその攻撃があまりにも男にとっては弱かったため、痛みを感じるほどではない──おそらくだが、虫が止まったかの様なか弱い感触なのだろう。不快さを多少感じる程度の貧弱な攻撃。

 それを多く受けた男は彼らに気づくと、その恐ろしい鬼の形相のまま、つい数秒前に別の者をまとめて撲殺し、血の染み付いた巨大な金棒を振りかぶる。

 

「!!!」

 

 男の筋肉が青筋を立て、脈動する。

 その次の瞬間には何人か、あるいは何十人かの海兵がまとめて地面に沈んだ。その中には覇気や六式を修めている中将クラスもいる。

 だがその覇気は男を傷つけるほどでもなければ、男の攻撃を防げるほどではない。

 防御を考えず、ただ近づいて殴り、ただ踏みつけ、ただ叩きつけ──ただ、殺す。

 

「カイドウ~~~~!!!」

 

「! モリアか……」

 

 その単純過ぎる戦闘を誰も止められない。

 

「キシシ、キシ……!! てめェを殺すために、影を集め回ってきたぞ……!!!」

 

「…………」

 

「てめェを殺し、てめェの優秀な部下達の影を奪ってやる!!! そうしておれは……“海賊王”になるのさ!!!」

 

「……てめェが……?」

 

 海兵だろうと海賊だろうとも──

 

「!!!」

 

「……ァ……!!!」

 

 ──復讐者であろうと、それは変わらない。

 

「弱すぎるてめェ如きが……何になるだと……!!?」

 

 世界最強の生物とまで称された海賊……“百獣のカイドウ”は、誰にも殺せない……!!! 

 

「だが哀れな奴だ……おれ達に仲間を殺され、1人生き残っちまったせいでそうなったんだろう。死体好きになったと聞いてるぞ……!!」

 

 そしてカイドウは白目を剥いて気絶しているかつての強敵、しのぎを削りあった海賊ゲッコー・モリアを見下ろし、金棒を振り上げる。つまらない物を見るようにして──

 

「悪かったな……あの時、殺してやれなくてよ……!!!」

 

 謝罪を口にして、金棒を振り下ろし──

 

「詫びに…………()殺してやる」

 

「!!!」

 

 ──いとも容易く……モリアの命を断った。

 既に気絶し、瀕死になったモリアの頭を……金棒で叩き潰す。

 

「あ……あ……!!」

 

「し、七武海が……!!」

 

 二度、三度、四度──念入りに、何度も金棒を叩きつけ、辛うじて生きているモリアの肉体を死体へと変えていく。

 運良く生きていた、ということがないように、磨り潰すように何度も何度も叩きつけた。

 そうしてモリアの顔面が人の形を留めなくなるとようやく息をついてカイドウは別の敵に向き直った。海兵達が、味方である七武海の死に絶叫する。

 

「げ、ゲッコー・モリアが死んだァ~~~!!!」

 

「貴重な戦力が……!!」

 

 三大勢力の一角であり政府公認の海賊である“王下七武海”。

 その1人が死んだとなれば、幾ら海兵でないとはいえ動揺は大きい。士気も大きく下がる。たとえ本部の海兵と言えどもだ。

 

「“冥狗”……!!!」

 

「!!?」

 

「! サカズキ大将!!」

 

 だが、まだ諦めてはいない。

 頭や口元を血で染めたサカズキはマグマで凶暴な犬の顔を作り、カイドウを攻撃する。

 しかしその攻撃はカイドウの覇気を込めた腕で防がれる。そうして金棒でマグマを弾き飛ばしながらカイドウはサカズキを睨んだ。

 

「ウォロロロ……さすがにまだ息があったか……!!!」

 

「当然じゃあ……!! ゼェ……貴様を……貴様ら海賊を殺し尽くさにゃあ……ゼェ……死んでも死にきれん!!!」

 

 先程、カイドウの金棒を食らったサカズキが戦線に復帰する。海軍本部の最高戦力だ。さすがのカイドウも油断は出来ない戦いが成立する相手。

 だがそれでも、カイドウの優勢は覆らない。そのことをカイドウは鼻白む。

 

「後もう少しは楽しめそうだが……もう趨勢は決してるな。結局、大将も七武海も所詮この程度だ……おれ達には勝てやしねェ……!!!」

 

「勝ちと高を括るのは少し早ェぞ……カイドウ……!!!」

 

「!!」

 

 突如横から──凄まじい衝撃がカイドウに襲いかかる。

 それは衰えているとはいえ、カイドウのパワーに匹敵する破壊力を秘めていた。その正体は、誰もが知っている伝説の男。

 

「“白ひげ”が広場に降りたァ~~~!!!」

 

「悪い!! カイドウさん!! 広場に上がられちまった!!」

 

 “白ひげ”エドワード・ニューゲートが船から広場へ降り立つ。

 先程、起き上がったオーズが白ひげの船を引き上げ、穴に立ち塞がる海兵の陣を無理矢理に突破したのだ。

 海兵と同じく湾内で白ひげ海賊団を一網打尽にしようとしていたクイーンは広場に駆けつけながら大声でカイドウに謝罪する。そのことにカイドウは特に何も言わず、“白ひげ”と対峙する。実に30年振りの再会だ。

 

「久し振りだな“白ひげ”……!! やっと上がってきたか……だがお前もぬえの手によって死にかけだ。その身体でおれの相手は出来ねェだろう」

 

「ナマ言ってんじゃねェ……これくらい、ちょうどいいハンデだ……!!!」

 

 白ひげ海賊団の家族と共に広場に降り立った“白ひげ”がカイドウに向かって啖呵を切る。口の端や胸から血を流している“白ひげ”だが、まだ戦闘を可能とするくらいには生きていた。

 その状態を見て、カイドウは僅かに何かを考えるかのように無言となり──やがて、不敵な表情で口火を切った。

 

「……面白ェ。覚悟は出来てやがるか“白ひげ”……!! お前は昔から甘くてムカつくことも多かったが……そういうとこは嫌いじゃなかった……!!!」

 

 カイドウが昔の事を思い出しながらそう口にする。それは偽らざるカイドウの素直な気持ちだ。

 カイドウにとって“白ひげ”は目の上のタンコブであり、強い癖に甘く気に入らない存在であった。それこそ、若い頃は何度も喧嘩を売り、近年でもいつ殺してやろうかと考えるくらいには。

 だが、一方でその強さと覚悟を認めているのも確かであった。

 

「お前の死に様なら見る価値はある……!! お前は偉大な男だが……最期までそうだとは限らねェからな……あのロジャーのガキやお前の家族を助けることが出来るか……確かめてみねェとな……!!!」

 

「……!! 何をする気だ……カイドウ……!!」

 

「さっきから言ってるだろう。()()()()()だけだ……!!! この退屈な世界をよ……!!! ──おい、ドフラミンゴ!! ハンコック!!」

 

「!?」

 

「……!!」

 

 “白ひげ”や周囲に不穏な事を口にしたカイドウは真剣な表情で七武海の2人──ドンキホーテ・ドフラミンゴとボア・ハンコックを呼ぶ。

 戦場で手を抜いてお茶を濁していた彼らはその名指しに身を固くした。何を言われるのかと緊張し、冷や汗を流しながらも黙ってその先の言葉を待つと、カイドウが荒っぽく告げた。

 

「もうチンタラとやるのはやめだ!!! てめェらもさっさと()()()につけ!!!」

 

「……え……?」

 

「い、今なんて……?」

 

「……!! まさか……!!」

 

 カイドウの言葉に海兵に海賊、多くの者が呆気に取られたように驚く。

 一部、勘のいい者達は顔を青褪めさせたが、そうでない者も皆七武海の2人に視線を向けた。ドフラミンゴが不敵な笑みを崩さないまま、静かに言葉を返す。

 

「……もう茶番は必要ねェと?」

 

「ああ、お前も遊んでねェでさっさと始めろ!!」

 

「……通信が遮断されるがいいのか?」

 

「ああ──構わねェな? ぬえ」

 

「へーきへーき♪ 中からは無理だけど、外から撮ればいいだけだしね!! ってことで始めていいよ!!」

 

「……フ……フッフッフッフッフッ……!!! ああ……わかったよ……!!!」

 

 ドフラミンゴが大きく笑い、その手から太い糸を天に向かって放出する。

 

「ん!? なんだアレは……!!」

 

「ドフラミンゴ……!! 貴様……何をするつもりだ……!?」

 

「フッフッフッ……“鳥カゴ”さ……!!」

 

「!!?」

 

 海兵達の問いにドフラミンゴがそう答える。その間にも、糸はドフラミンゴの遥か上空を中心として均等に拡散し、激戦に揺れるマリンフォード全体を覆っていった──まるで“鳥カゴ”の様に。

 そしてもう1人──ハンコックにはぬえの言葉が飛んだ。

 

「ハンコックちゃ~ん♡ わかってるよね~~?」

 

「……!! ぬえ……()()……」

 

「あはは!! そんなに怯えなくても大丈夫だよ!! 私は仲間には優しいからね!! あなたやあなたの()()()()も傷つけたりしないからさ!!」

 

「! …………わかっておる」

 

「!!?」

 

「なに……!!?」

 

 そしてハンコックが、近くの海兵に向かって攻撃を加えた。そうなって初めて、多くの者が気づいて驚愕する。

 

「センゴク元帥!! 外との全通信が遮断されました!!」

 

「……!! 貴様ら、初めから繋がっていたのか……!!! ドフラミンゴ!!! ハンコック!!!」

 

「フッフッフッフッフッ!!! 悪いなセンゴク!! 見りゃわかるだろうが、こういうことだ!! お前ら政府は良い取引相手だったが……心中するつもりはないんでな。おれはこっちに付かせてもらう……!!!」

 

「…………」

 

「て、“天夜叉”と“海賊女帝”が裏切った~~~~!!!?」

 

「そんな……!! 嘘……だろ……!!?」

 

「これじゃあ……七武海のもう半分は敵ってことじゃねェか!!!」

 

 “王下七武海”の2人、ドフラミンゴとハンコックが政府を見限り、海賊同盟側に──正確には百獣海賊団に付く。

 その情報は戦場だけでなくそれを見ていたシャボンディ諸島にも伝わり、海兵だけでなく多くの市民も絶望させた。

 ただでさえ七武海が1人死亡し、1人は行方知れず、1人は脱退。残りは4名だったところに、更に2名の裏切り。

 これで政府側の戦力としての七武海はミホークとくまの2人のみ。海軍と白ひげ海賊団は更に追い詰められたことになる。

 

「さあ“白ひげ”……“海軍”……お前らの死に様を見届けてやる……!!! ここがお前らの“死に場所”だ……!!!」

 

「……!!!」

 

 世界の海を表と裏で守ってきた“海軍本部”と“白ひげ海賊団”。

 その彼らへのカイドウからの死刑宣告は彼らだけでなく、それを聞いている全ての人間に重く響いた。

 

 そしてその時──“麦わらのルフィ”もまた驚き、焦りを感じて再び戦場に向かって行こうとする。

 

「ハンコック……!! あいつもあっちに付くのか……!?」

 

「これは想像以上にヤバいッチャブルね……!! 下手しなくても、この世の秩序が崩壊するわ……!!!」

 

「そうじゃのう……!! 事態は悪くなるばかり……!! 海軍が負ける可能性は高くなったが、これでは白ひげのオヤジさんまで負けてしまう!!」

 

「ハァ……ハァ……そうだな……!! 早くエースを助けて、どうにかしねェと……!!」

 

 事態は何一つ好転せず、もはや世界の危機にすら陥っている。

 ルフィはその危機を感じ取りながらも、まずはエースだと足を処刑台へと向けた──が、その前に金色の男が立ち塞がる。

 

「ジハハハハ……!! どんどんと面白いことになってやがるな!! これじゃあ“火拳のエース”も助けたところでお陀仏だ!!!」

 

「……!? なんだお前!! どけ!!! エースはやらせねェぞ!!!」

 

「ジハハ!! 血の気が多いな!! だが口には気をつけなァ。お前の命もあのロジャーのガキの命も、今やおれに握られてんだからよ」

 

「何だと!!?」

 

 ルフィの前に現れた男“金獅子のシキ”はニヤニヤとした笑みを浮かべながらそう言う。

 ルフィに向かって教えるのはシキがエースに語った勧誘の内容と目的だ。

 

「お前の兄に言ってやったのさ……お前の命が惜しけりゃおれの仲間になれってなァ……!!! それで、あまりにも渋るからよ……ここは一つ、軽く見せしめてやろうとてめェを痛めつけに来てやったんだ。ジハハハハ……!! 感謝しな、このおれが直々に出向いてやってんだからよォ!!!」

 

「……!!!」

 

 そしてその発言にルフィは一瞬でブチ切れる。

 疲労の溜まった身体にムチを打ち、ルフィは血流を速くした上で腕を伸ばした。

 

「やれるもんならやってみろよ!!! おれは死なねェし、エースはお前の仲間にならねェし死なせもしねェ!!! お前をぶっ飛ばしてでも……おれはエースを助けるんだ……!!!」

 

「ジハハハハ!!! その言葉、そっくりそのまま返してやる──やれるもんならやってみなァ!!!」

 

 怒りに満ちたルフィの拳がシキの腕に当たって衝撃を与える──死が容易に訪れる戦場の局面は一気に片側へと傾こうとしていた。




速さ→黄猿>エネル>ぬえちゃん>>超えられない壁>>ギア2=剃=杓死 多分こんなもん
おつるさん→ウォシュウォシュの実の戦闘が見てみたいけど技とかもう出てこなさそう
ムサシの能力→東洋の幻獣の虎。敢えて明記しないのはカイドウが東洋龍の能力であるのと同じ感じ。中国の故事では龍が雲を従えて操るように、虎は風を従えて操ると言われます。カイドウの能力が青龍の決まったものではなく、様々なことが出来ることを鑑みて、ムサシの虎の能力も東洋の幻獣である虎を混ぜ混ぜした感じになっております。なので見た目は白い虎ですが、白虎とも限らない能力です。
鬼怒川→小紫の技。河童流は川の名前から取ります。ってことでオリジナル技です。
焼灸皇→焼きうどん
ガープの強さ→昔が化け物過ぎるので今でも白ひげくらいは強いんじゃないかと思ってます。
モリア→やったね、これで仲間に会えるよ()
白ひげ→心臓刺されてるけどまだ生きてるし戦う。頭半分なくなっても即死しない怪物なのでこれくらいは耐える
ハンコック→ルフィ救いたい
ドフラミンゴ→チート技“鳥カゴ”発動。収縮はしない。通信遮断されますが、鳥カゴの外からUFOで映すから一応配信は切れない。さすがぬえちゃん。なおバギーはいつでも出れます。
七武海→残り2人。裏切りだらけ。これは制度撤廃不可避で藤虎もニッコリ。
カイドウ→赤犬やモリアや海兵を金棒でボコボコにしてます。次回も多分ボコボコにします。
ぬえちゃん→フォーオブアカインド発動。ぬえちゃんは可愛いから何人いてもいい。なお相手は地獄を見る。
ルフィVSシキ→次回

とこんな感じ。皆殺しにする気満々の戦争がまだ続きます。次回はルフィVSシキだったり、イゾウとかジンベエが懐かしい人と会ったり、また死者が出たり、そろそろまた新たな勢力が出るかもしれない。次回をお楽しみに。

感想、評価、良ければお待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。