正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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脅威

 世界の命運を賭けた戦場、海軍本部マリンフォード。

 その島全体を囲む糸は、その地獄から逃げたいと願う人々を打ち砕く鉄壁の糸だった。

 

「なんだこの柵!?」

 

「とんでもなく硬ェ……!!」

 

「外部との通信が取れません!!」

 

 海賊も海兵も、誰もがその戦場から逃げることは叶わない。外から助けを呼ぶことも出来ない。

 解決するには“暴力”しかない。

 

「フッフッフッフッフッ……!! さあどうする!!? 海軍!! 白ひげ海賊団!! インペルダウンの囚人!! そして天竜人!!! このうねりを止められるか!!?」

 

 全てを閉じ込める“鳥カゴ”を発動した張本人、ドンキホーテ・ドフラミンゴは名指しした彼らを嘲笑う。

 今からここで起きる暴力の嵐。それを止めきれなければこの世の秩序は崩壊する。

 この海に秩序を敷いて君臨し続けた“海軍本部”と“白ひげ海賊団”という2つの大勢力は壊滅し、世界は暴力の渦に巻き込まれる。

 それはドフラミンゴの願う世界の破滅そのものであり、ゆえに笑いが止まらない。

 

「てめェ……!!」

 

「! フッフッフッ……どうした? 憎らしくも思うところのある白ひげの危機が気に入らねェかワニ野郎。白ひげの首を獲りに来たんじゃねェのか?」

 

「……あんな瀕死のジジイ、後で消すさ──その前にお前らの喜ぶ顔が見たくねェんだよ!!!」

 

 元七武海、インペルダウンから脱獄してきたクロコダイルがドフラミンゴに砂の刃を放ち、ドフラミンゴはそれを躱して愉快そうに問いかける。

 だが不敵な笑みを浮かばせるドフラミンゴとは対照的に、クロコダイルの表情は芳しくない──言うなれば不機嫌そうなものであり、まずはドフラミンゴを消してやると威圧的な視線を向ける。

 

「フッフッフッ!! おれを狙ってる暇があったら逃げることをオススメするぜ……自然(ロギア)系の能力者なら“鳥カゴ”からも逃げられるからな……モタモタしてると取り返しのつかないことになっちまうぜ!! フフフッフッフッ!!」

 

「ならてめェを消した後でそうしてやるよ……!!」

 

 殺意と怒気を昂ぶらせ、クロコダイルの鉤爪とドフラミンゴの足から出た糸が激突する。

 “鳥カゴ”を維持しているドフラミンゴを気絶させるか殺すかすればそれは解除される。原理が分からずとも長年の経験や知識を蓄えたものであれば容易に辿り着ける答えだ。

 

「船長!! おれ達も閉じ込められちまったぜ!! どうすんだ!?」

 

「ゼハハ……ああ。この状況はやべェが……チャンスは必ず来る!! しばらく大人しく隠れて怪物共の戦いを眺めることとしようぜ……!! ゼハハハハ……!!」

 

 圧倒的な力を持つ者……それ以外は決してこの戦場から逃げることは叶わない。

 

「キャプテン・バギー!! アンタ、そんないとも容易く外に……!!?」

 

「しかし、外に出ていってどうするつもりだ……?」

 

「きっと何か作戦があるんだ!!」

 

「ぎゃ、ギャハハハハ!! おうそうだ、おめェらしっかり戦え!! おれ様はド派手にこの状況をひっくり返す作戦の準備に取り掛かる!!!」

 

「ウオオ~~!! さすがだ、伝説を生きる男!!」

 

「この状況にも臆しもしない!!」

 

「よし、キャプテン・バギーの準備が終わるまでおれ達はこの湾港を死守するぞ!!」

 

「オオオ~~~!!!」

 

「あ、ああ、そうしろ!! (ふぅ~……危ねェ危ねェ。何とか誤魔化せた。ちょっと寝覚めが悪いがこんなとこにいちゃ死ぬのは時間の問題だ……今の内にどうにか逃げる手段を見つけねェと……!!)」

 

 そしてそれ以外の者達は強制的に戦うことを選ばされる。

 自分の持つあらゆる力を用いて、欲しいものを手に入れるために。

 

 ──だが弱きものは……ただ死ぬのみだ。

 

「ハァ……ハァ……」

 

「うっ……」

 

「スモーカーさん!! ヒナさん!!」

 

 豪傑達が競い、殺し合う闘争の中心では既に幾つもの戦いに決着がつき、主に多くの海兵の死体がそこら中に転がっていた。

 ゆえに身体に斬り傷を作り、倒れる2人の海兵は何も珍しいものではない。

 たとえそれが次代の有望株である海兵“白猟のスモーカー”と“黒檻のヒナ”であろうが──百獣海賊団の上位幹部からすれば他の海兵と同じ様に地面に転がすことは難しいことではなかった。

 

「──威勢良く向かってきたかと思えば……もうお終いか?」

 

「っ……百獣海賊団“飛び六胞”……!! フーズ・フー……!!」

 

 2人の上官を斬り刻んだその男をたしぎは睨みつける。

 百獣海賊団の“飛び六胞”と言えば“大看板”に次ぐ幹部達であり、その中でもフーズ・フーと言えばササキと並んで飛び六胞の筆頭に上げられる男だ。

 スモーカーとヒナは広場に乗り込んできた百獣海賊団を迎撃しようとし、やってきたフーズ・フーに一瞬で斬り伏せられた。

 

自然(ロギア)系の実を食った程度で、ちょっとでもおれに勝てると思ったか?」

 

「……!!」

 

 それが意味するのは──圧倒的な実力の差だ。

 ヒナもスモーカーも能力者。特にスモーカーはモクモクの実を食べた煙人間であり、悪魔の実の系統の中でも最強種とまで言われる自然(ロギア)系の能力者だ。

 一見、無敵に思える自然(ロギア)系の能力者。それらは実際に、4つの海や偉大なる航路前半では無敵と称される。

 だが、“新世界”ではそうではない。

 覇気使いが多い新世界では自然(ロギア)系の能力者であっても、無傷とはいられない。

 能力に胡座をかくような能力者。自然(ロギア)系の能力を無敵と過信し、力のない能力者の命は短い──それが今まさに証明されようとしていた。

 

「こいつらの階級は?」

 

「“白猟のスモーカー”と“黒檻のヒナ”。准将と大佐ですね」

 

「聞いた名だな。ハッ、こっちのは一応将官か。とはいえシケてやがる」

 

「広場には今、中将が残り十数人。白ひげ海賊団の隊長がまだ生き残っています。後は変わり種ですが、インペルダウンから脱獄してきたと思われる大物が何人かおりますがどうします?」

 

「白ひげの隊長か脱獄囚だ。中将をこれ以上殺っても手柄としては薄い。そっちを探して狙え」

 

「は!!」

 

「っ……!! あなた達は……!! 人を……正義を……一体何だと思ってるんですか!!!」

 

「! やめろ、たしぎ……!!」

 

 フーズ・フーとその部下らしき者達の会話を聞いたたしぎが頭に血を上らせて刀を手に斬りかかろうとする。地面に倒れたスモーカーが制止の言葉を掛けるも、たしぎは止まらない。

 

「やあああああっ!!」

 

「ああ? なんだこのガキ」

 

「あぐっ!!」

 

「たし、ぎ……!!」

 

 スモーカーと同じく地面に倒れたヒナがたしぎを心配し、掠れた声を上げる。

 フーズ・フーに斬りかかろうとしたたしぎだがその刀はフーズ・フーの身体に当たる前に逆に首を掴まれて苦悶の表情を浮かべたまま吊り上げられる。

 戦闘とも呼べない。圧倒的な実力差によって制されたたしぎの手から刀が落ちる。スモーカーとヒナはそのまま殺されてしまうかと思い、何とかもう一度立ち上がろうとどうにか出来ないかと思考を回したが、その前にフーズ・フーがたしぎの手から落ちた刀を目敏く見つける。

 

「ん? そっちの刀は業物か?」

 

「はは、少々お待ちを…………ああ、はい、さすがはフーズ・フー様。これは良業物の“時雨”でございますね」

 

「悪くねェな。よし、奪っとけ」

 

「はっ」

 

「……!! それは……私の……んぐっ!!?」

 

「黙ってろ。お前みたいな女でガキ……それも弱い奴には勿体ねェ。──おい、ちなみにこいつは?」

 

「はい。ええと…………すみません。データにはないようで。おそらく尉官か、それ以下かと思われます」

 

「雑兵か。なら()()になるな」

 

「あ……あ゛ァ……!!」

 

 首を締められ続け、苦痛の声を絞り出されるたしぎの目の前でフーズ・フーの部下がたしぎの得物である刀“時雨”を手に取り、更にフーズ・フーが不穏なことを口にする。その言葉をたしぎは聞き逃さなかった。苦しみに悶えながらも商品という言葉の意味を問うようにフーズ・フーに視線を向ける。

 

「刀の礼に教えてやろうか?」

 

 するとフーズ・フーは意外にもそれを教えてやろうと口元をニヤリとさせる。そしてたしぎに向かって小声で告げた。

 

「この戦争で海兵は皆殺しの予定だが……まあ結果生き残っちまう奴もいるだろう。そういうのは全員──奴隷にするつもりでな

 

「!!?」

 

 たしぎの顔が青褪める。それを見てフーズ・フーは更に意地の悪い嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

「特に尉官以下の雑魚は生かしておいて危険も何もねェし、心を折るのもそう難しくもねェ。だからそういう連中は()()()()に落としてやっておれ達の利益になってもらうのさ……!!」

 

「……!!」

 

「っ……フザけたことを……!!」

 

 フーズ・フーの足元で転がった状態のスモーカーが悪態をつく。彼の身体は動かない。フーズ・フーの部下が彼の持っていた海楼石入りの十手を奪い、それをスモーカーに押し付けているのだ。生殺与奪を握られたその哀れな男をフーズ・フーは嘲笑う。

 

「天竜人の奴隷売買を見逃してるお前らがよく言うぜ。別にいいだろ? 実質天竜人の奴隷だった海兵が誰の奴隷になろうがよ……おい」

 

「はっ」

 

 フーズ・フーはたしぎを部下へ渡し、そのままその場から立ち去ろうとする。ここは戦場。殺すべき相手も手柄も幾らでもある。あまり長いことじっとしてはいられない。

 だが最後にフーズ・フーはたしぎにこう言い捨てた。

 

「お前みたいな雑魚には戦うなんて無駄なことは似合わねェな。精々良い再就職先を斡旋してやるよ。そっちの方が向いてるだろ? お前みたいな女にはな……!!」

 

「……!!」

 

「最後に歯向かう気がなくなるように絶望させてやる。ほら、見てろ──上司の最期の表情だ」

 

「……!!?」

 

 そしてフーズ・フーが、スモーカーとヒナの身体に──刀を突き刺す。

 たしぎはそれを見ていた。自分にとって最も身近な2人の上司が……()()()()()

 

「んん゛ー!! ん゛ー!!!」

 

「女と刀は持ってけ。おれは次の獲物を探す」

 

「は!! ご武運を!!」

 

 猿轡を付けられながらも涙を流し、声は出せず、じたばたと踠くたしぎは何も出来ない。

 フーズ・フーとその部下はそのたしぎにとって大切な人達を殺しながら、しかし何の感慨もない作業のようにたしぎを縛りつける。

 

「覚えときな……この世界では女だろうがガキだろうが関係ねェ──強い方が勝つんだよ……!!!

 

 それが百獣海賊団が掲げる純粋にして究極の理。完全な実力主義。弱者に人権はなく、生きるか死ぬかすら決められない。

 戦場ではこれからの世界を象徴するかの様な光景が幾つも作り上げられていた。

 

 

 

 

 

 海軍本部、王下七武海の政府側は劣勢。そして窮地に立たされていた。

 10万人いた海兵は急激に数を減らし、もはや半分以下であり、重要な戦力であった筈の七武海もまた、1人が居らず、1人は脱退、1人が死亡し、2人が離反した今では残りは2人しかいない。

 その内の1人、世界最強の剣士“鷹の目のミホーク”は健在であり、襲いかかる海賊達を僅かな笑みと共に次々に斬り伏せている。

 だが残りのもう1人、“暴君”バーソロミュー・くまは──今まさにその役割を終えようとしていた。

 

「!!」

 

 その特殊な機械の身体。頑強な巨体が細くて白い綺麗な足で蹴り飛ばされ、地面を転がる。

 それは彼女の一方的なショーだった。

 

「どういうことだ!!?」

 

「くま!! なぜ攻撃しない!!?」

 

「まさかくままで裏切ったのでは……!?」

 

「そんな筈があるか!! “暴君”くまに意識はない!! 今やただのサイボーグ!! 意志なく海賊達と戦うだけの人間兵器なのだぞ!!」

 

 それを見ていた海兵達は信じがたい、訳の判らないことが起こっていると誰もが疑問しながらもその原因をどうしても割り出せない。

 右方から広場に攻めてきた百獣海賊団。その相手を務める強力な兵器となるはずのくまは、相手となったその女性に全く歯が立たない。

 

「フフフ……呆気ないわね♡」

 

「!!」

 

 ──それどころか反撃もせずに一方的に嬲られ続けている。

 相手は百獣海賊団の大看板“戦災のジョーカー”だ。謎の多い相手だが、それでもその実力は悪名高く、一切油断の出来る相手ではない。

 だが戦闘にすらならない。くまが、ジョーカーに対して一切の戦闘行為を行わないためだ。

 ゆえにジョーカーの前でボロボロになったまま立ち尽くすくま。それを見てジョーカーは微笑を浮かべた。

 

「何だか虐めているようで悪いわね。……とはいえ、さすがは“ベガパンク”といったところかしら。くまの肉体を素体にしているからか、かなり頑丈ね」

 

「…………」

 

 くまは何も口にすることはなく黙ってジョーカーの前に佇んでいる。攻撃どころか防御も回避も行わない、まるで故障でもしているかのような振る舞いのくまに海兵達は戦いながら文句を口にする。

 

「どうしたってんだ!!?」

 

「まさか本当に故障!?」

 

「……!! 何をやっているくま!! 目の前の敵を攻撃しろ!!」

 

 だが海兵達の言葉にくまは耳を貸さない。その条件は満たされていなかった。

 ゆえに黙ったままのくまにジョーカーは口元に手を添えて可笑しそうにする。これほど可笑しいことはないと言うように、意識のないくまを嘲笑した。

 

「定められた命令を忠実に実行し、それ以外は何もしない……まるで奴隷ね……♡」

 

「…………」

 

「フフ、以前までのあなたなら“的を得ている”とでも言うかしら。苦労がないのは良いけれど、何の反応もないと虐めても面白味がないわね」

 

 既にボロボロで、いつ動作を停止してもおかしくない機械の身体。特殊な合金で出来たその身体も、四皇の最高幹部の攻撃を何発も食らえば耐えられる道理はない。

 後一発か二発程度で沈む──そう結論づけたジョーカーは敢えて今起きている不可思議な現象のヒントを口にする。

 

「人間兵器“パシフィスタ”。くまの肉体をベースに幾つもの武装を備えた改造人間。その中でもあなたはニキュニキュの実の能力を備えた最も優秀な兵器になった。予め生みの親であるDr.ベガパンクや政府の科学班。海軍元帥に大将。政府高官やCPの職員……あるいは天竜人の命令を受けるようにプログラムされ、世界中の海賊や凶悪犯罪者の顔をインプットされているため、正確に敵と味方を判別し、攻撃が可能……フフ、さすがの性能よね」

 

 そう、これほど高性能で政府に都合のいい兵器はない。

 特にその本人、七武海であるくまの戦闘力を幾らでも好きに使える。裏切る心配もなく、戦場にあってこれほど強力な兵器もない。誤射の心配だってない。

 だがその性能の良さとくまの意識を残さなかったことが仇となるのだ。

 

「どんな変装だろうと能力による偽装だろうと……()()()()()()()()()()

 

 ジョーカーは言いながらも、ようやく肩の荷が下りるような心持ちだった。

 何しろこれまで、機械の目には細心の注意を払っていたからだ。

 どれだけ人の認識を操作して騙せてはいても、機械だけは騙せない。

 機械に認識がないため、ジョーカーの正体を隠しているその能力の影響が及ばない。それはずっと前から言われていることであり、ジョーカーがスパイをする上で最も注意していたこと。

 だからこそ──人としての意識を持ちながら、機械の目と判断を持つ以前のくまには一切近づいてこなかった。

 

「その苦労からようやく解放される……」

 

 だが幸運にも、くまはその人としての意識を手放し、完全に政府の操り人形となることを選んだ。

 その真意は定かではないが、結果としてジョーカーはくまの機械の判断によって攻撃をされていない。

 防御も取らず、回避もしない。ただ目の前の相手に痛めつけられている。主人からの命令を待つ奴隷のように。

 

「でも安心して♡ あなたは利用価値がある。一旦動作を停止させるだけで完全に壊しはしない……!!」

 

 この戦闘カードが決まった時点で、くまの運命は決まっていた。

 ジョーカーがその場から消える。消えたように見える。六式の“剃”を扱う要領で、剃以上の爆発的な脚力で踏み込みながらも静かにくまの懐に入る。

 そうして放つのは一度動作を停止させるため、外部をこれ以上無駄に破壊しないために、内部に衝撃を与える六式の奥義。それをジョーカーのアレンジで放つ必殺の技。

 

「壊さない程度に手加減してあげる……!!」

 

「!!? あの構えは……!!!」

 

 両の拳を合わせるその技の構えを偶然見た海軍中将が驚く。

 

「“獣王銃”!!!」

 

「!!!」

 

 くまの肉体の内部に凄まじい衝撃が加わる。

 手加減されたものとはいえ、人1人を殺すのに十分以上の威力をもつその技は“くま”という兵器の動作を完全に停止させた。

 

 ──そしてそのほぼ同時のタイミングで、また一つの戦いが決着を見る。

 

「わーいわーい♡ わらわ勝った~~~!! ぺーたん褒めて褒めて~~~~♡」

 

「褒めねェよ!! ──よし、こっちもあらかた終わった。お前ら残らず運べ!!」

 

「はい!!」

 

「褒めろよ!!!」

 

「っ……!! おめェら……パシフィスタを手に入れて……ハァ……何するつもり……だ…………」

 

 砕かれたマサカリとその持ち主は額から多量の血を流し、骨を砕かれて倒れる。周囲には幾つもの人間兵器。それらを倒した百獣海賊団の“飛び六胞”うるティとページワンの姉弟が部下に指示を出し、パシフィスタを船へ運ばせる。

 それを感じ取ってかジョーカーもまたくまを回収するように部下に命じながら告げるのだ。

 

「世界を平和にするためには戦争を起こし、血を流す必要があるのよ。フフフ……これからは私達がちゃんと使って上げるわ……“平和主義者(パシフィスタ)”とこの兵器に名付けたあなた達の様に。これから世界中で巻き起こる戦争のためにね……!!!」

 

「ウオオ~~~!!! ジョーカー姐さ~~~ん!!!」

 

 ──王下七武海バーソロミュー・くまを含む政府の人間兵器“パシフィスタ”が百獣海賊団の手に堕ちる。

 

 そして戦場の内、広場以外のほぼ全域を海賊連合軍に制圧され、続々とそこにいた戦力が広場へと集結する。

 

「コビー!! ダメだ、どうにかして逃げよう!! ここにいちゃ死んじまう!!!」

 

「ヘルメッポさんだけ逃げて……!! 僕が……何とか時間を稼ぐから……!!」

 

「あらあら……ダメじゃない可愛いボーヤ達。こんな危ない戦場に出ちゃったら危ないわ。殺されちゃうわよ♡」

 

 あまりの状況に臆し、逃走を試みた未来ある有望な若者達の前。マリンフォードの街中にさえ、百獣海賊団の“飛び六胞”ブラックマリア率いる部隊が侵入している。

 海賊連合の強力な幹部を止められる者が少なく、戦場で被害が出続けていた。

 

「いい加減にしないとキレるぞ小紫……!!」

 

「怒りたいのはこちらの方ですよ……!! 貴女達兄妹はいつもいつも勝手で……!!」

 

 広場でムサシと小紫が剣撃を互いに打ち合い、鋼の音が連続して響き渡る。

 押しているのはムサシの方だが、それほど実力が離れている訳でもなくなおかつ小紫のタフさは百獣海賊団内でも語り草になるほどだ。互いに決定打がなく、その場で戦いを続けることになる。

 

「“弾斬丸”!!!」

 

「……!!」

 

「! この技は……イゾウか!!」

 

 だがそんな時、小紫を狙った覇気の籠もった銃弾が飛来し、小紫は一度防御を強いられる。

 その技を見てムサシはすぐに気づいた。これは白ひげ海賊団の16番隊隊長、イゾウの助力であり、白ひげ海賊団の主力がそれぞれ戦場を突破しようと動いていることを。

 

「ムサシ!! お前は先に行け!! こっちは引き受ける!!」

 

「! ……ああ!! なら任せた!!」

 

「……!!」

 

 ゆえにムサシは自分に出来ることをするために先へ進もうとするが……ムサシを捕らえようと考えるものは小紫だけではない。

 

「ムサシお嬢様だ!! 行け、お前達!! 捕まえろ!!」

 

「ムサシお嬢様~~!! お嬢様を捕まえることは敵を殺すことと同じくらい手柄になるぜ!!」

 

「ガハハハ!! 大人しく捕まれ~~~!!!」

 

「……!! ババヌキにポーカーにホールデムか……!!」

 

 立ち塞がるのはムサシも顔を知る百獣海賊団の真打ち達。飛び六胞には劣るが、1人1人一々相手にするには面倒な強さを持つ彼らに加え、彼らの指示でギフターズまでもが襲い来る。

 倒すことは不可能ではないが、そんな余裕はないと空に飛び上がろうかと思ったその時だ。

 

「──伏せろムサシ!!」

 

「!!?」

 

 ムサシの背後からライフルやピストルの弾が飛来し、刀や鈍器が百獣海賊団のギフターズ達を僅かに傷つけて動きを止める。

 そうして現れた者達の姿に、ムサシだけでなく処刑台にいるエースまでも表情を変えた。

 

「お前らまで……!!!」

 

「……!! お前達、こんな場所まで来るとは……死んでも我は知らんぞ!!!」

 

 その2人の言葉に、やってきた者達は1人ずつ答える。

 

「ああ、知ってるさ」

 

「おれ達程度じゃ命はないってことはな……!!」

 

「エースさんに付き合って無茶には慣れてるとはいえ……これほどの戦場は今までなかったですからね」

 

「全くだぜい、エースの旦那。海賊マニアでも震え上がるほどの戦場に来ちまうなんて」

 

「ああ、馬鹿野郎だ。お前は本当に……!!」

 

「グルルル……にゃーん!」

 

「だがな……エース。おれは……おれ達は、お前のためなら命なんて惜しくはねェんだ!!! お前に誘って貰った時から……おれ達は全員お前のために死ぬ覚悟は決めてる!!!」

 

 そこにいたのはエースとムサシを除いた──エースの仲間達。

 白ひげ海賊団に入る前からの付き合いである20人と一匹。エースの旗の下に集った行き場のないアウトロー。

 

「お前は絶対に死なせない!!! エース!! おれ達はお前を絶対に助けるぞ!!!」

 

『おおお~~~~!!!』

 

「デュース……!! お前ら……!!!」

 

 元スペード海賊団の船員。デュース、コタツ、イスカ、スカル、ミハール……エースの最も長い付き合いである仲間達がエースを救い出すために揃っていた。

 

 ──だがその一方で、また別の縁で巡り合う2人がいる。

 

「小紫とやら……なぜ()()()をお前が持っている!!?」

 

「…………」

 

 ムサシの代わりに小紫の相手を買って出たイゾウは小紫に向かって銃口を突きつけながら尋常ではない剣幕で問いを投げる。

 イゾウには看過出来ないことだった。だからこそ小紫の相手をムサシの代わりに引き受けた。その真偽を確かめるために。

 だが小紫はしばらく無言で、ややあってイゾウの激情とは反対に静かに答える。

 

「……貴方には()()()()()ことです」

 

「関係ならある!! その腰の刀は間違いなく大業物“閻魔”!!! そしてお前が手に持つのは“外無双”!!! その二刀共……我が…………」

 

「我が?」

 

「っ……!! 大切な者達の刀だ!!!」

 

 小紫に言い淀んだ部分を聞き返され、悩んだ部分をすぐに答える。元の関係性、その一つはイゾウにとって言うことは出来ないものだ。

 侍は二君に仕えない。何しろ彼の仕えるべき相手は、今や“白ひげ”なのだから。

 ゆえに筋を通して関係性をそう口にする。たとえ、心の中ではかつての主を同じくらいに大切に思っていたとしても。

 そしてその大切な者の刀を、なぜ目の前の海賊が持っているのか。それがどうしても無視出来なかった。

 

「……大切な者達、ですか」

 

「ああ、そうだ!! 事と次第によっては──」

 

「……その大切な者達とやらは、自分の愛刀を見知らぬ誰かに……ましてや私達の様な外道に渡すような者達でしたか?」

 

「……!! それは……!!」

 

 イゾウの言葉に差し挟み、逆に問いかける小紫。

 その問いにイゾウはまたしても言い淀んだ。確かに、そんな人達ではなかったからだ。

 悪名高い百獣海賊団の幹部に、自らの愛刀を渡す筈もない。侍にとって、刀はそう簡単に手放せるものではないからだ。

 だが、それが今、実際に目の前の相手の腰にあるということは──

 

「まさか……!!」

 

「──私の腰にこの刀があること……それが答えになりませんか?」

 

「……!!」

 

 その最悪の想像が頭に浮かぶ。

 まさか、とは思っていた。そんな筈はないと。

 だがムサシの素性もある。もしかしたら、そんなこともあるのかと頭の片隅に思いながらも、そんな筈はないだろうと信頼していた。

 だがやはり、この顔を隠した女は、こいつらは──

 

「おでん様に、河松は……!!」

 

「……ええ、とっくの昔に()()()()()()……それが何か?」

 

「っ……!! お前……!!!」

 

 イゾウが引き金を引いて小紫を狙う。小紫はその怒りを察知し、銃弾を避けてみせると冷や汗をかいて動揺した様子のイゾウに言葉の刃を浴びせる。

 

「そんなに怒ってどうしたんですか? 貴方には関係ないことでしょう」

 

「黙れ……!! ハァ……ハァ……貴様は……おでん様達を……!!」

 

「…………大事だとでも?」

 

「当たり前だ!!!」

 

 イゾウは強い言葉でそう言い切る。その強い想いは本物だと誰にでも分かるほどに。

 だがしかし、小紫はそれでも冷笑した。イゾウの言葉を鼻で笑う。自分に殺気を向けてくる滑稽な男に向かって──

 

「──だったらどうして()()()んですか?」

 

「!!?」

 

 ──イゾウが気圧されるほどの……凄まじい殺気を放った。

 

「それほど大切に……全てを与えてくれた相手……大恩人とも言える相手や仲間を貴方は捨てて別の相手といることを選んだのでしょう?」

 

「っ……何を……!!?」

 

「なぜ知っていると? そう思って動揺しているみたいですが、その疑問には答えません──なぜなら、貴方は()()()だから」

 

 イゾウはこの雰囲気の変わった目の前の敵を見て思う。

 ──こいつは一体何者だ? と。

 まるで本物の鬼を目の前にしているかのような鬼気迫る何かを感じる。覇気、ではあるが覇気にも色々ある。その覇気に込められた感情が濃すぎて一体何なのか判別出来ない。

 怒りや殺気は感じるが、その中にまた別の物が混じっているように感じられる。その正体が分からない。

 

「この刀の持ち主のことを、貴方は大切だと言いましたが……それは紛い物か、あるいはそれほど大した想いではないのでしょうね」

 

「! 何を根拠に……!!」

 

「根拠など語るに落ちています──捨てられるほどのものなら、それほど大切なものであるはずがないでしょう?」

 

「違う!! 捨ててなどいない!!」

 

「貴方がそう思っているだけで実際には捨てているのですよ。しかも、一度捨てた上で今更執着を見せるなど……全く度し難い」

 

 小紫はイゾウのあらゆる言葉と想いを否定する。しかもそれは、単純に言葉の上で否定しているだけのものではない。

 先程からイゾウに向けられる強い感情と合わせて……何やらもっと根深いもののように感じられた。

 

「おまけにそうやって選び取った新たな居場所で……このような愚かな戦に挑むんですね。貴方は」

 

「なに……!?」

 

「愚かにもほどがあります。勝てない筈の……そう、死が見えている戦に挑み、残して死んでいく。仮にあの“火拳のエース”を助け出せたところで、貴方達が死ねば彼は酷く悲しむでしょうね」

 

「……!!」

 

「ですが逆も然り……彼が死ねば貴方達は悲しむでしょう。貴方達の強さでは片方だけでも難しく、両方を選び取ることは到底不可能……どちらを選んでも悲しい……ああ、悲しい……であるならば──」

 

 と、小紫は一度、その手に持つ刀“外無双”を鞘に収め、もう一本の刀に手を掛ける。

 かつてワノ国にいた最強の侍。最強生物に唯一傷をつけたと言われるその刀は地獄の底まで斬り伏せる──

 

「この妖刀“閻魔”を以て……!! 貴方達の悲しい運命に引導を渡してあげましょう……!!!」

 

「……!!!」

 

 ──大業物21工が一振り、“閻魔”。その最強の侍の刀。その特性を知るイゾウは小紫がそれを扱えることに驚いた。

 

「その刀を……使えるのか……!!?」

 

「ええ。尤も完全ではありませんが……これだけ昂ぶっているなら……貴方を殺すには十分に保ちます……!!!」

 

「……!!」

 

 来る……!! と小紫の攻撃の気配を感じ取り、イゾウは即座に回避を決めた。

 受けるという選択肢はなかった。おそらく、()()()()()()

 

「“河童流”……!!」

 

 ──そしてその判断は間違いではなかった。

 

「“鬼怒川”!!!」

 

「!!!?」

 

 先程ムサシと同じく放ったその斬撃は、先程よりも何倍もの切れ味を増し、広場を走った。

 そしてそれは一瞬で包囲壁にまで到達し、その途中にあった白ひげ海賊団の本船、モビーディック号をも両断する──その剣技、大技を見て戦場にいる多くの人間がそれに気づいた。

 

「ほう……」

 

「今のは……小紫か」

 

「あのクソガキ……“閻魔”を抜きやがったな」

 

 広場にいたミホークやキング、フーズ・フーなどの剣士が反応を見せる。特に百獣海賊団の者達はそうなった小紫の方が普段よりも多少強いことを知っている。閻魔を抜いたなら多少は戦果を上げられるであろうことも。

 特に、小紫の師匠とも言える相手はその感情を見聞色で感じ取ってにっこりと笑みを浮かべた。

 

「いいねいいね!! 小紫ちゃんも良い感じに盛り上がってるじゃ~ん♡」

 

「──ぬえさん。東側はほぼ殲滅が終わったそうです」

 

「はいは~い♡ ありがとジャック~!! それじゃ後は広場に追い詰めた海兵を1人残らず頂いちゃおっか!! そっちの満身創痍気味のお婆ちゃんのとどめは任せたよ~!!!」

 

「はっ!!」

 

「ふふふ~♪ もうボルサリーノもキツくなってきたかな~? あなたほど面白くて強い人を殺すのは惜しいけど……もう十分楽しんだし、そろそろ死んどく?

 

「ハァ……ハァ……ほんと、まいったねェ~~……」

 

 ──戦場で多くの海兵が殺され、中将クラスはおろか大将までもが危うい事態に陥り始める。

 海軍本部の兵力は開戦時の10万から既に……4万を切り始めていた。

 

 

 

 

 

 “麦わらのルフィ”と“金獅子のシキ”。

 東の海出身のルーキーと大海賊時代以前の伝説の大海賊。その戦いは終始、後者のペースだった。

 

「おいおい、どうした麦わらァ。お前の実力はそんなもんか?」

 

「ハァ……ハァ……まだだ……!! “ギア2”……!!

 

 宙に浮かぶシキが地上にいるルフィを見下ろし、挑発する。ルフィは既に何度も地面に叩き落され、今にも倒れてしまいそうな様子だった。

 

「“ゴムゴムの”……!! “JETピストル”!!

 

 だがそれでもルフィは諦めず、体力の限界を超えてなお伝説の海賊に立ち向かった。

 血の流れを速くし、身体能力を上げたルフィの技は通常の技よりも格段に進化する。“ギア2”のスピードは海軍本部の大佐レベルでは見切ることが難しく、六式を極めたCP9の諜報員でさえ、例外を除けば置き去りに出来る速度を誇る。

 

「ジハハ……少しは速くなったか……だがまだ遅ェな」

 

「!!?」

 

 しかしそれでも、この戦場では幾度となく通用しなかったように……シキには通用しなかった。

 

「“斬波”!!!」

 

「くっ……!!」

 

 シキの足──かつて剣士としても一流だった彼の愛刀が振られ、斬撃が飛ぶ。

 通常の六式の嵐脚とは比較にならないほどのその一撃を見てルフィは咄嗟に横に跳んで躱すことを選んだ。そしてその選択は正解だった。先程までルフィがいた地面に亀裂が走る。

 

「ハァ……危ねェな……!!」

 

「ジハハ!! なるほど。その若さにしては良い見切りだ。──だが次の攻撃は凌げるかな?」

 

「……!!」

 

 シキが手のひらを軽く動かし、その能力を発動する。シキが先程から浮いている理由でもあるその能力──フワフワの実の力だ。

 

「!! 何だ!!?」

 

「“金獅子”だ!!」

 

「マズい!! 退避しろォ~~~!!」

 

 ルフィを中心に広場の地面が獅子の形に浮き上がり、彼らを囲う。海兵や海賊、囚人達がその能力を起こした相手に気がつき、回避行動を取ろうとする中、シキは一応の味方の巻き添えなど気にせずに大技を発動した。

 

「“獅子威(ししおど)し”!! “地巻き”!!!」

 

「!!!」

 

 フワフワの能力によって固められた地面の獅子が多くの海兵や海賊を巻き添えにしながら麦わらのルフィを飲み込む。

 

「ぐ、あァ……!! くそっ、どうにか……!!」

 

「麦わらボーイ!! 助けるわよジンベエ!!」

 

「ああ!! すぐに──」

 

「チッ……金獅子の奴……こっちまで巻き込もうとしやがって……!!」

 

「!!?」

 

 地面の獅子にもがきながらも為す術もなく飲み込まれていくルフィを見てイワンコフとジンベエが動く。

 だがその動きは止められた。ジンベエ達の前に立ちはだかった百獣海賊団によって。

 しかもその相手はジンベエも見知った相手であり、面識がなくとも有名な百獣海賊団の“飛び六胞”の1人だった。

 

「“飛び六胞”……ササキか……!!」

 

「ようジンベエ……!! 久し振りだな……!! 以前取り損ねたお前の首……改めて取りに来てやったぜ……!!!」

 

「っ……!! また余計な茶々を入れてくれおって……!!」

 

 百獣海賊団“飛び六胞”ササキ。10年近く昔、タイヨウの海賊団にいた時に出会ったことのある相手が現れ、ジンベエは警戒し、立ち止まらざるを得ない。ジンベエに続いていたイワンコフも同様にそこで止められてしまう。

 

「クワックワッ!! おい見ろ!! 革命軍のイワンコフだ!!」

 

「何しに来たんだ、オカマ野郎!! お目当ての世界政府はおれ達がもう壊しちまうぜ!? カカカ!!」

 

「あなた達もカイドウさんに従ったら良かったのに。革命軍とはいえ強者ならきっと歓迎してくれるわ♡」

 

「黙らっしゃい!! くっ……麦わらボーイ!!」

 

 気づけば周囲には百獣海賊団の真打ちやギフターズ、動物(ゾオン)系の能力者達が数を揃えており、さしものジンベエやイワンコフでもその陣を容易く突破することは出来ない。

 

「ジハハハハ!! さァしばらく痛めつけさせて貰うぜェ……!? 恨むならお前の兄を恨むんだなァ!!!」

 

「う……クソ……!! 抜けられ……ねェ……!!」

 

 シキの能力で大地の中に閉じ込められるルフィ。

 このままエースに首を縦に振らせるための拷問が始まるかと思ったが──それを止めたのは意外な人物だった。

 

「“芳香脚(パフューム・フェムル)”!!!」

 

「!!!」

 

「なっ……!! あれは……“海賊女帝”!!?」

 

 ルフィを捕らえるその地の柱を一蹴りで粉砕し、ルフィを解放したのは政府を裏切り、海賊同盟側についた筈の女傑、王下七武海の1人ボア・ハンコック。

 

「ゲホッ……!! ゼェ……ゼェ……ありがとう……!! ハンコック!!」

 

「……てめェ……こっち側についたんじゃねェのか? このおれの邪魔をするとは……どういう了見だ?」

 

「……!! 黙れ……!! わらわは確かに政府を裏切ったが……そなたの下に付いた訳ではない!! わらわの行動をそなたに咎められる謂れはないわ!!!」

 

「……なるほど……確かにそれは道理だが……邪魔ァするってんならここで殺しても構わねェよなァ!!?」

 

「っ……!!」

 

「お前……」

 

 百獣海賊団の下に付いたのであって決してシキの下に付いた訳ではないと、そう言い張ってルフィを助けるハンコックに、シキは気分を害して殺意を向ける。

 あくまでもシキには逆らおうとするハンコックの動きを、当然他の者達は見ていた。

 

「カイドウさん!! “女帝”がシキの邪魔を……!!」

 

「……放っとけ。どうせ後で始末する相手だ……それより今は海軍と白ひげ海賊団の始末を優先しろ!!!

 

「はい!!」

 

「マママ~ハハハハハ!!! や~っと数が減って来たねェ!! 海軍……!!」

 

 オリス広場の中心。処刑台が真正面にあるその場所で、百獣海賊団の総督“百獣のカイドウ“とビッグ・マム海賊団の船長シャーロット・リンリンは海軍の主力と白ひげ海賊団の主力を相手にこの世のものとは思えない戦闘を今まさに行っていた。

 

「この世の“正義”と秩序は汚させん……!! わしの目が黒い内は……!!!」

 

「ゼェ……ゼェ……“悪”は根絶やしじゃァ!!!

 

「下がってろよ息子達……!!!」

 

 海軍本部中将にして海軍の英雄“ゲンコツのガープに海軍本部大将“赤犬”。

 そして白ひげ海賊団の船長である“白ひげ”エドワード・ニューゲートが一堂に介し、同じ場所で戦う。

 

「ウェアアアア!!!」

 

「!!」

 

 “白ひげ”が地震のパワーを薙刀に込めて全力で振るえば、戦場を揺らすほどの衝撃波が百獣、ビッグ・マム両海賊団の船員を吹き飛ばし、更にその両巨頭にも影響を与える。

 

「“白ひげ”……!! お前は良い男だったが……もう死にかけなんだろう!? そろそろ引導を渡してやるよ!!!」

 

「てめェ如きにおれは殺されねェよ……!!!」

 

「言ったね!! だったら受けてみなァ!!!」

 

 ビッグ・マムが動く。白ひげの衝撃波を跳躍して躱すと、剣となったナポレオンに炎の魂プロメテウスを宿らせて振り被る。

 

「“皇帝剣(コニャック)”……“破々刃(ハハバ)”ァ~~~!!!」

 

「っ……!! ぐゥ……!! オオオオオ!!!」

 

 白ひげはそれを辛うじて受け止め、結果としてとてつもない規模の衝撃と破壊が周囲に撒き散らされる。

 雷の様な音とその波は天を貫き、戦場全体、どこから見ても分かるほどのものだが、それが白ひげ海賊団の船員にまで影響を及ぼさないのは白ひげが何とか守っているからだ。

 だが周囲を気遣う余裕はあまりない。一方を抑えられたとしても、他の怪物達が残っていた。

 

「“ビッグ・マム”……!! 背中を見せたな……!!!」

 

『ママ!! 後ろから大将が来てる!!』

 

 大将赤犬ことサカズキがビッグ・マムの背後を狙う。その狙いをビッグ・マムの魂であるゼウスが警告した。

 だがその狙いが上手くいくことはない。彼らもまたビッグ・マムばかりにかまけてはられないのだ。

 

「おれを無視する余裕はねェだろう、赤犬……!!! そろそろてめェにも飽きた……終わりの時だ!!!」

 

「!!」

 

 血に塗れながらもまだ戦う意志を見せるサカズキをカイドウが覇気と殺意を滾らせて襲いかかる。サカズキの顔が青褪めた。もう限界は近い。その攻撃を無防備に食らえば立ち上がることはもう出来ないだろう。

 ゆえに受け止めようとマグマの拳に覇気を流して構えたが、それでも受け止めきれるかは分からなかった。だが──

 

「──合わせろ!! サカズキ!!」

 

「!」

 

 ──英雄ガープがそこにはいた。サカズキに声を掛け、覇気の籠もった2人の拳がカイドウの金棒を受け止める。

 

「“雷鳴八卦”!!!」

 

「!!!」

 

 カイドウの必殺の攻撃がガープ、サカズキの拳に当たって止まる。再びとてつもない破壊の波が轟音と共に周囲に撒き散らされた。

 

「カイドウさんの“雷鳴八卦”が止められた!!?」

 

「嘘だろ!?」

 

 百獣海賊団の戦闘員もその結果には驚く。“雷鳴八卦”で吹き飛ばない相手など彼らは1人しか知らない。

 だがそれも長くは続かなかった。辛うじて拮抗する金棒と拳を見て、カイドウがギロリと彼らを見下ろす。

 

「ガープ……!! お前ももうそろそろいいだろう……!!! 今までの借りを返してやる……!!!」

 

「……!!」

 

 マズい、とガープがそう思った時、カイドウの腕の筋肉が更に脈動する。

 

「ウォアアアアア!!!」

 

「!!!」

 

「ガープ中将!! サカズキ大将!!」

 

 更に膨れ上がったパワーで強引にガープとサカズキが吹き飛ばされ、処刑台前の壁に激突してその部分を崩壊させる。

 10年前や20年前……あるいは36年前ならいざ知らず、もはや単純な身体能力でカイドウに敵う者は海軍にも世界にも──誰もいなかった。それを証明するかの如く、カイドウは暴れ回る。

 

「“白ひげ”……!!! 横やりで悪いが……お前ももう死ぬだろう!!! せめてもの情けだ……おれの手でとどめを刺してやる!!!」

 

「くっ……!!」

 

 カイドウが海軍から白ひげの方へ向き直り、その金棒をビッグ・マムと戦う白ひげへと向ける。さすがにそれはマズいと白ひげも焦り、終わりが頭にチラついてしまう──ここまでか……!? と。

 同じ四皇であろうと全盛期を過ぎた怪物では他の四皇を、それも2人を抑えることは出来ない。

 

「危ねェオヤジ!!」

 

「ムハハ!! おいおいどこに行くんだ!! 一緒に処刑を眺めようぜ!!!」

 

「少々無粋だが……潰せる者はここで潰しておこう」

 

「諦めな!! どの道全員あの世に送ってやる!!」

 

「……!!」

 

 白ひげの隊長、ジョズを含む彼らがその場に現れた百獣海賊団の大看板クイーン。そしてビッグ・マム海賊団の将星スムージー、クラッカーらに止められる。

 もはや絶体絶命だった。白ひげの背中を守れる者は、もはや誰もいない。

 

「──死ね!!! “白ひげ”!!!」

 

「オヤジ~~~~!!!」

 

 カイドウの金棒が白ひげの背中に迫る。ままならなさに震える白ひげ海賊団の船員達の声が響いた。

 

 ──だがその時だ。

 

「……! カイドウ!! 後ろ!!」

 

「! ──!!?」

 

 少し離れた場所で戦っていた百獣海賊団の副総督“妖獣のぬえ”が何かを察知してカイドウの名を呼ぶ。カイドウは他ならぬ兄姉の声に反応して金棒を一度止めようとしたが、それより早くカイドウは殴られた。

 

「カイドウさん!!」

 

「あーあ……さすがに間に合わないか……ま、全然食らってないだろうから良いけど……そこで邪魔してくるのは予想外だったなぁ……!!」

 

 百獣海賊団の戦闘員が、殴られて吹き飛ぶカイドウの名を呼ぶ。注意したぬえは心配はしておらず、ただただ肩を竦めて不意打ちされたカイドウに軽く呆れる。そしてその不意打ちをした相手を笑みで睨んだ。

 

「え……!! なんで……!!?」

 

「どういうつもりだ……!?」

 

 白ひげ海賊団の船員、そして海兵までもその相手に驚く。

 なぜそうしたのか。その行動の意味を、誰もが一瞬計りかねた。

 だがそれが誰かは誰もが知っている。変型し、カイドウと同等の大きさにまでなったその男は、ガープと肩を並べる伝説の海兵であり、海軍という一大組織のトップだからだ。

 

「センゴク元帥が……白ひげの背中を守った……!!!?」

 

「え~~~~~!!?」

 

「センゴク……!!」

 

 海軍本部元帥──“仏のセンゴク”。その人物の行動に誰もが驚く。中には目玉を飛び出させるほど驚く者もいた。

 

「…………」

 

 そんな中で、センゴクは無言を貫く。文字通りの“仏”となりながら、しかしその表情は険しいもの。

 

「おい……!! 処刑台が無防備だ……!!」

 

「今がチャンスじゃねェか……!?」

 

「……!! センゴク元帥!! 処刑台の守りは……!!?」

 

 そして彼らがもう一つ、驚くことがあった。

 それは彼が処刑台を空け、公開処刑をする筈の罪人“火拳のエース”を無防備にしたこと。そしてその守りをどうするのかと問うた海兵に対し──

 

「……必要ない」

 

「え……?」

 

「全軍……目の前の“脅威”にだけ対処しろ!!!」

 

 ──そう言い放った。

 それはただ元帥として、海賊達を迎え撃てという普通の命令に過ぎない。

 だがセンゴクは行動として──無防備な背中を晒す白ひげを狙わず、カイドウとビッグ・マムに戦闘の意志を見せた。

 

「まさか……」

 

「いや……そんな筈が……」

 

 その少ない言葉と行動の意味を、誰もが計りかねる。海兵の多くは困惑した。元帥として、海兵達に迷いを与え、市民を不安にさせるありえない行動と命令だったが……だが、()()()()()()()()()()

 センゴクは海軍を預かる元帥として、()()()()をどうしても発することは出来ない。

 だからこそ、彼は言外に、意図を解りにくく行動で伝える。

 

 ──目の前の“悪”ではなく……“脅威”を倒せ、と。

 

「そうか……」

 

「っ……!!」

 

「まァ……この状況じゃあしょうがねェよなァ……!!」

 

「そうするしか……ないよねェ……」

 

 最初に気づいたのはガープ。そして続くのは3人の大将。

 センゴクの言外の意図は徐々に海兵達に伝わっていく。

 それを苦々しくも受け止める者も多かった。彼らは海兵、そう簡単には手を組めないと。

 だがそれを言葉にしなかったこと。そしてもう1人の言葉が彼らを後押しする。

 

「──野郎共ォ!!!」

 

「!」

 

 そう、その意図に気づくのは海兵だけではない。

 かつて幾度となくこの海で争った同世代の大海賊もまた、その意図に気づき、こちらは大声で告げる。

 

「エースの退路をまずは作る!!! 包囲を形成してる奴らから薙ぎ倒せ!!!」

 

「オヤジ……!!」

 

「その命令は……!!」

 

 白ひげ海賊団の船員達が、誰もがその意図に気づいて戸惑う。その指示は、まるで海兵は狙うなと言っているようなものだった。

 

「……“不死鳥”マルコ……その命令を聞くってのか?」

 

「……ああ。船長命令なら当然聞くよい。お前達もそうだろ?」

 

「ああ……こっちも元帥命令ならしょうがねェ……目の前の……“脅威”を……先に対処しねェとな……!!」

 

「! お前らまさか……!!」

 

「……! どうやら、そのまさかのようだな……」

 

 1番隊隊長のマルコと海軍本部大将の青雉。海賊連合側の戦力に苦しめられていた2人が言い訳の様にそれを口にし、“敵”へと向き直る。大看板のキングは目を細め、将星カタクリは見聞色で未来を見てそのまさかの結果を見て警戒した。

 そして数秒後、彼らは共通の“脅威”へと立ち向かう。

 この絶望を、世界の破滅をどうにか切り抜け、明日を生きるために──

 

『うおおおおおおお!!!』

 

「!!? おい嘘だろ……!!」

 

「海兵と白ひげ海賊団の奴ら、明らかに、()()()()()()()()()()()……!!」

 

「なるほどねぇ……あははっ♡ いいね!! その展開は実現すると思ってなかったよ!! 中々面白いことするじゃない!!」

 

 百獣海賊団、ビッグ・マム海賊団、金獅子海賊団の船員達が僅かに動揺する。ぬえが面白いと評するその結果を、言葉を隠す必要のない誰かが口にした。

 

「白ひげ海賊団と海軍が手を組んだァ~~~~~!!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 ──海賊と海兵。決して交わることのない2つの勢力が、共通する世界の敵。その脅威を打破するべく……“共闘”を成立させた。




ドフラミンゴVSクロコダイル→七武海の戦犯対決
ゼハハハハ→ぶっちゃけ計算外過ぎて冷や汗かいてる
バギー→鳥カゴ脱出
スモーカーとヒナ→死亡。たしぎは売られるそうです。一品限り。眼鏡巨乳の元女海兵です。お買い求めの方は百獣海賊団奴隷売買担当のフーズ・フーまでどうぞ
くま→回収。ジョーカーには攻撃出来ません。ぬえちゃんの能力による隠蔽は機械には通用しない。何気に重要。
獣王銃→六王銃のジョーカーVer。人型で使ってるので全力ではないです。
うるぺー→戦桃丸とパシフィスタ撃破。ついでの捕獲。
コビメッポ奮闘日記→逃走中に巨大な花魁登場。
ムサシとスペード海賊団→真打ちを突破してエース奪還へ動きます。
イゾウと小紫→赤ん坊の頃に会ってるけどさすがに気づかない。小紫は親や家臣からイゾウのことは聞いてます。小紫はキレてると閻魔を抜くので強くなる。
ジャック→ぬえちゃんに加勢。道中にいた人は死にました。
ルフィVSシキ→無理。全快ならもう少し粘れたかもだけど。
ハンコック→ルフィに加勢。言い訳して何とか。
ジンベエとイワンコフ→ササキが乱入。ササキも強いけど、もしかしたらこの戦場で一番勝ち目があるというかマシなカードかもしれない。
カイドウ&ビッグ・マムVSガープ&赤犬VS白ひげ→地獄
センゴク→無言の決断。海軍元帥としてその命令は口には出さない。
ぬえちゃん→ライブが大盛り上がりでにっこりしてる。可愛い。そろそろ相手が……

ということでこんなところで。分量多くなった。2話分あるけどそういうこともある。
次回はまたピンチです。ちょっと希望見せたけどこんくらいじゃ覆せない状況。そろそろまた別の勢力も乱入してくるか……? とりあえず、次回も地獄の戦場の模様をお届けします。

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