正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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お察しください。初期のワンピースに四皇並の海賊をぶちこんでみました。それではどうぞ


東の海の

 ──この世で最も平和な海と言えば、きっと()()()()()()

 

「ふわぁ……はふ……ねむ……」

 

 長閑な過ごしやすい気候は私の眠気を誘発させてくれる。

 だがそれだけでない。この……“東の海(イーストブルー)”がどうしても退屈なのは、

 

「うわああああ~~~!! 逃げろ!! 殺される──っ!!」

 

「な、なんなんだあの化け物共は……!!?」

 

「も……もう訳が分からねェ……助けてくれ……!」

 

「降伏する……!! だ、だから命だけは……かはっ……!!」

 

 ──世界で最もレベルの低い……“最弱の海”だからだ。

 

「……はぁ……楽なのはいいけどさ。こうも簡単じゃなんか気が抜けちゃうな……」

 

「う、うわああああ──っ!!? ゆ、UFOだァ!!?」

 

「ど、どうなってんだァ!? あんな少女が、空を飛んで──ゲフッ!?」

 

「……いや……驚くのは分かるんだけどさ……」

 

 はぁ、と溜息をついてこの海のあまりのレベルの低さを嘆く。

 東の海(イーストブルー)にあるとある町をいつもの様に襲うことにした私達ロックス海賊団だが……とにかく相手が弱いし、そこに住んでる人達も平和慣れしてるのか、大したことはしてなくても驚くし腰を抜かし、命乞いをする。

 途中、近くにある海軍支部の軍艦が偶然立ち寄っていたので皆殺しにした上で沈めたが、海兵も弱い。士気もめちゃくちゃ低く、戦う前から皆絶望して諦める。いや、確かにうちの幹部とか船長見て腰抜かす気持ちは分からなくもないけど、どんなに弱くても海兵だし、海賊と戦う覚悟を決めて入隊した筈。だというのに私達のマークを見ただけで腰が引けるとか……勝てないと分かってても挑んでくる本部の海兵との温度差を凄く感じる。他の海の支部よりも酷い。海兵すら平和ボケしている。

 なら海賊はどうだと思うかもしれないが、海賊もありえないくらい弱い。素人がナイフと銃を持っただけってレベル。幹部とか船長クラスになってようやく“偉大なる航路(グランドライン)”にいる海賊の1船員クラスってところだ。これの何が酷いって私にすら勝てない。私、海賊見習いなんだけどな……この海の平均賞金額は300万ベリーにすら届かないほどだし、もはや海賊っていうか“海賊ごっこ”でもしてるんじゃないかって思ってしまう。

 そして……今のように、町民とかそこに住む人々はもっと酷い。人間ってこんなに肝が小さくて弱かったっけ? と思った。

 うちの船員には私を含めて多数の悪魔の実の能力者がいるが、ちょっとその能力を見せただけでも死ぬほど驚く。恐怖する。私もちょっとUFO……はまあまだ驚くのは分かるけど、ちょっと飛んでただけでなんか怖がられた。もう一度言うが、飛んでるだけでだ。普通の人間でも鍛えれば空中ジャンプくらい出来るっていうのに、飛んでるだけで驚かないでほしいよね、まったく。

 しかしそこを守る海兵が弱かろうと、町民が弱くても、町を襲うことは確定しているし、船長の命令通りに略奪とそこそこ程度に殺しに励む訳だが……それもまた張り合いがないのだ。まさにベリーイージー。適当にやっててもクリア出来る。そう……例えば、こんな風に建物の陰からいきなり現れて、

 

「……ぎゃおー! たーべちゃうぞー!!」

 

きゃああああああっ!!? ──うっ……」

 

 ──ほらね。……って、さすがに気絶まで行くのは予想外……というか失礼ね……可愛い女の子が出てきただけなのに。よっぽどこの状況を怖がってたのかな。うーん……この女の人はいいや。放置しよう。町だと目撃者とか脅威を伝える人を残さないと駄目だから殺しすぎると怒られるし。

 それに……今は私の相方の怒りを鎮める方が先だ。

 

「──なんだこの弱ェ奴等は!!!」

 

「! っと。カイドウ」

 

 民家の中から金棒を持ったカイドウが非常に怒った様子で出てくる。さっきまでも相当イライラしていたが、これはいつもより凄まじい。ちょっと声の大きさで鼓膜にビリビリくる。何をそんなに怒ってるんだろうと、私はふわふわと近づき、

 

「どうしたの? そんなに怒って……気持ちは分かるけど、この海の人間が弱いのはいつものことじゃん」

 

うるせェ!! おれの話を聞け、ぬえ!! さっきおれがここの2階に見えた若い海兵を殺そうと追いかけてたら……」

 

「あ、海兵まだ生き残ってたんだ。戦う前から怖くて逃げたのかな……それで? 殺したけど弱すぎたって話? それならいつものことで──」

 

「違う!! おれは殺してねェ!! この野郎……勝手に死にやがった!! 階段で足を滑らせやがってな!!」

 

「え? いやいや、そんな馬鹿なことが……」

 

「本当だ!! 頭を打って気がついたら死んでやがった!!! クソが……なんでこんなに脆い……!! ムカつくぜ、この海はよ……!!」

 

「え、えー……そんなことあるんだ……」

 

 階段から足を滑らせただけで死んだという海兵の話をカイドウから聞いて、私は若干引く。なんか似たような話を聞いたことあるような気がするけど、幾らなんでも脆すぎない? 海賊になってから……いや、そのちょっと前から分かったけど、人間って思ったよりも頑丈だからね。ちょっと刺されたり斬られたくらいじゃ死なないし、大砲の弾一発くらいなら子供でも即死はせずに耐えられる。爆弾とかも食らったところで大したことないしね。

 打撃とかも多少の殴る蹴る、凶器で頭を殴られてもちょっとくらいなら大丈夫。3階、4階くらいの高さくらいなら多分、子供でも死なないだろうし、きっとその海兵は病弱で死にかけだったんだろう。もしくはよっぽどの虚弱体質かどっちかだ。じゃないと階段で落ちたくらいで死ぬ筈がない。

 

「やりがいがねェぞ、ぬえ!! こんなアリにすら劣る雑魚共、幾ら潰したって強くなんてなれねェ!!」

 

「私に言われてもなー。この海だと期待するだけ無駄だろうし、休日だとでも思ったら?」

 

「ざけんじゃねェ……!! くそっ!! おれは海賊ごっこがしてェ訳じゃねェんだぞ……!!」

 

 うーん、すっごい荒れてる。まぁ、私はたまにはいいと思うけどね。船長の目的を考えるとこれほど恐怖を与えるのにうってつけの海はないし、“南の海(サウスブルー)”ほどではないが、日頃の疲れを癒やすにはもってこいだと思う。私でも戦わずして恐怖を与えられるし、そうやってビビる相手を見るのは……中々に面白い。

 しかしカイドウにはお気に召さないようだ。さて、どうやって宥めようかなー。このままだとまた船員の誰かに突撃しかねない。もう酒でも飲んでうやむやにしようかな、と私は木箱の上に座りながら足でトントンと何気なくリズムを刻んでいると、

 

「──ギハハハハ……随分と荒れてるじゃねェか、カイドウ」

 

「あっ、船長」

 

「! お頭……!」

 

 その時、路地裏から歩いてきたのはロックス海賊団の頭──ロックス船長だった。彼は荒れているカイドウを見て楽しそうに声を掛けてきた。

 

「血気盛んなお前のことだ。やっぱ“東の海(イーストブルー)”はつまんねェか?」

 

「……おれは……もっと強ェ奴をブチのめしてェんだ、お頭……!」

 

「おーおー、やる気だな。ちょっとくらいなら気を抜いてもいいんだぜェ? お前もそう思うよなァ? ぬえ?」

 

「え? あー……そうですね。ここなら略奪も制圧も楽に済むし……」

 

「おいぬえェ!! てめェ、何寝ぼけたこと言ってやがんだ!! お前もこんな退屈な海より、“偉大なる航路(グランドライン)”でやり合いてェだろ!?」

 

「別にいいじゃん。まあ、確かに面白いのは“偉大なる航路(グランドライン)”だけどさ。ずっとこの海にいる訳じゃないんだし、あんたもちょっとくらい我慢しなさいよ」

 

「バカ言ってんじゃねェ!! やりてェことを我慢する海賊がどこにいるってんだ!? アァ!?」

 

「そりゃそうだけどずっと我慢してろなんて言ってないでしょうが!! 海賊やるならちょっとくらい策略とか計画の為の回り道とかの重要性も理解しなさいよ!! 子供じゃあるまいし!!」

 

「おれもお前もガキだろうがァ!!」

 

「自分で言うな!! 普段はそれ言われるの嫌がってる癖に!!」

 

 私とカイドウは気がつけば怒鳴り合い、至近距離で睨み合う。このバカ……別に私だって面白いことを我慢する気なんてないし、退屈は嫌だけど、それはそれとして楽しめばいいじゃない! こうやって弱いものいじめするのも、それはそれで意外と楽しめるっていうのにさ! 強さへの欲求が強すぎて、まだ娯楽というものがまだ分からないのだろうか、この男は。

 

「ギハハ……面白ェが、その辺にしときな。兄妹同士で喧嘩なんてするもんじゃねェ。特に今は──()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

「……どういう意味だお頭」

 

「こらカイドウ。まず目の前で喧嘩しちゃったことを謝るのよ。というわけですみません……それで、気を抜けなくなるっていうと……?」

 

 喧嘩寸前。今にもカイドウの金棒と私の三叉槍が振るわれようとしたタイミングで、ロックス船長は意味深にそう告げてくる。気を抜けなくなるっていうのはどういう意味だろう。また何か事件でも起こすのかな? 

 そう思っていたが、ロックス船長は路地裏から出て大通りに。そして海の……正確には、多分、沖の方を見ながら言った。

 

「ギハハハハ……!! お前らの期待通り、面白くて退屈しねェことになりそうってことだよ!!」

 

「それは……」

 

「…………」

 

 ロックス船長のその言葉を聞いて、私達の表情にも真剣なものが現れる。ロックス船長がこうやって何処かを見ながらそう言う時は、決まって何かが来るのだ。

 故に私もカイドウも、まさか、と思う。そしてその直後、それが正解だと言わんばかりに船員の声が届いた。

 

「ハァ……ハァ……ろ、ロックス船長!!」

 

「!」

 

「ギハハ……やはり何か来やがったか……どうしたァ!! そんなに慌てやがって、大型の海王類でも現れたか!?

 

 船員はいつもと違い、慌てている様子で船長を呼ぶ。怪我とかはないが、顔が若干だが青褪めていた。彼だって一船員でも歴戦のロックス海賊団船員。そんな彼が慌てるほどの事態が起こっていると、私は推察する。

 ロックス船長はもっと正確に何かが来ることを予想しているようで、不敵な笑みを浮かべている。何が来ても跳ね除けることが出来る船長だからこその余裕の笑みだ。そんな船長の様子に僅かに落ち着いたのか、船員は息を整えてからそれを告げた。

 

「違うんだ船長……見張りに出してた偵察用の船がやられた……海軍の軍艦に……!!」

 

「へェ……そうか。ってことは本部の海兵だな。数はどうだ?」

 

「数は5隻です……!」

 

「ご、5隻!?」

 

「! ほう……中々多いじゃねェか。連中、ヤマでも張ってやがったか? そうでもなきゃそれだけの数で本部の海兵がこんな辺境にいるはずもねェ……ギハハ、運の良い野郎だぜ……!!」

 

 海軍。それも本部の軍艦が5隻。その事実に思わず声を出してしまう。船長の言うように、中々の数だし、普通じゃない。こんな東の海の辺境まで本部の海兵達が集まってくるなど、それこそ私達の居場所を掴んでいたとしても不可能だ。

 海軍の本部は“偉大なる航路”にあり、4つの海にまでやってくるには“赤い土の大陸(レッドライン)”を越えねばならず、その速度は私達がシキのフワフワの実の能力で“凪の帯(カームベルト)”を渡る速度より遅い。居場所も行き先も分かっていないのにロックス海賊団に追いつくことは不可能だ。それこそ、本部の海兵と戦うのは偶然出会う場合と、こちらから海軍基地を襲撃する場合だけ。それ以外は海軍基地を除いて、海で出会う時は多くても3隻程度だ。それくらいなら問題なく沈めてきた。

 だが今回は、見張りに出してたロックス海賊団の船員がやられる程の強さであるらしい。たかが見張りで下っ端と思ってはいけない。うちの船員はどんなに弱くても懸賞金3000万から5000万クラスはある。全然弱くない。実際の懸賞金はそれよりも上だったりする。ロックスの船員というだけで危険度が跳ね上がるため、懸賞金は少なくとも5000万くらいは上乗せされるらしい。

 それが幾ら多勢に無勢とはいえ、あっさりやられた。ということは、今までの海兵よりも手強いということで、

 

「それで、乗ってるのはどこのどいつだ!! ギハハ、大将でも乗ってたか!?」

 

「いえ!! 中将だったそうです!! そ、それも……()()()()()()()()()()()()()……!」

 

「ガープ!! “ゲンコツ”のガープか!!! ギハハハハハハ!! そりゃ面白ェ!! おめェらが負ける訳だぜ!!」

 

 ガープ。ロックス船長が大声で呼んだその名を聞いたうちの船員達の顔つきが一瞬で変わる。

 

「ガープ!? あのガープがこんな海にまで来てんのかよ!?」

 

「ガープか……」

 

「あの野郎が来てんのか……!! くそっ、なら今日という今日はブッ殺してやる! おれァあの野郎に仲間達と一緒に半殺しにされたんだ!!」

 

 ある者は驚き、顔を青褪めさせ、ある者は怒る。白ひげなどはその名前を呼んで厄介だと言わんばかりの表情をしていた。

 それほどに、ガープという海兵の名前は海賊にとっても有名。勿論だが、私も知っている。海賊になってからも、その噂は幾らでも聞こえてきた。

 

「ガープ率いる軍艦が沖に5隻か……ギハハ、こりゃ一戦交えねェと逃げられねェな……」

 

「どうすんだお頭!?」

 

「ギハハ、バカみたいに慌てんじゃねェよおめェら。このおれがいるんだ。ガープだろうと海軍大将だろうと突破してやるさ……!! それより問題はおめェらの方だ!! 向こうは軍艦5隻に本部の海兵がざっと4000人ってところだ!! 別におれ1人でも問題はねェが、そっちはおめェらでやれ!! おれの足を引っ張んじゃねェぞ野郎共!! 本部の海兵共を、この東の海(イーストブルー)の藻屑にしてやれ!!!」

 

「お……おおッ!!!」

 

「ギハハハハハハ!! そうだ、それでいい……!! こういう時が来ることは初めから分かってんだ……!! 精々、遊んでやるとするさ……!!」

 

 ロックス船長が部下の士気を高め、寒気がするほどの笑みと戦意を昂ぶらせている。

 そんな船長についていけば大丈夫。誰もがそんな思いを抱き、私もカイドウも含めた皆が船に乗り込み、沖から“凪の帯”の方角へ船を走らせる。

 予め、海軍もそれを予想していたのか、軍艦5隻もそちらに向かって迅速に船を走らせ、やがて見える距離にまで到達する。

 

 ──かくして、海軍本部中将……新世界の海賊にすら怖れられる“ゲンコツ”のガープ率いる軍艦5隻との海戦が……この平和と最弱の海で始まった。

 

 

 

 

 

「抵抗は無駄だ!! お前達は既に包囲されている!!!」

 

「ハッ! お決まりの文句をありがとうよ!! そう言っておれ達に向かってきた海兵は皆海の藻屑に消えていったぜ!! お前もそうなってみるか!? なァ、“ゲンコツ”のガープさんよォ!!!」

 

「ふん! 言ってみただけだ!! どうやら噂通り、口先だけはいっちょ前みたいだな、ロックス!! 言っとくが、貴様が今まで逃げられたのはおれと出会わなかったからだ!! 今日こそはお前とそこの無法者共を全員沈めてやるから覚悟しろ!!」

 

「それはこっちのセリフだぜ、ガープ!! てめェ、今までおれと出会わなくてよかったなァ!! 今まで平和で楽しかっただろうよ!! おれがいない海はそれだけで天国だろうからなァ!!!」

 

「ぐぬぬ、よく口が回る……!! おいお前達!! 戦闘準備だ!!!」

 

「はっ、ガープ中将!!」

 

「ギハハ、おい来るぞ野郎共!! 戦闘準備だァ!!!」

 

「行くぞォオ!!!」

 

 東の海の海上で、ロックス海賊団とガープ率いる軍艦5隻は睨み合い、そして戦闘が始まる。

 互いに舵を取り、風上を取りながら接近。軍艦は包囲してくるが、こちらは包囲から抜けようとしながらも、抜けられないことは分かっているため、初めから何隻か沈めてから“東の海”をこのまま脱出する方針だ。

 まあ全部沈められるならそれに越したことはないし、ロックス船長も戦闘前と今にああ言いはしたが、バカ正直に全員相手にしてやることもないと、先程言っていた。

 半分程度沈めてガープさえ倒せばそれでいいと。

 とはいえ、相手が本部の海兵とはいえ、それを馬鹿正直に受け取る船員はいない。

 その方針は守るとしても、全艦沈めるつもりで戦う者ばかりである。……ぶっちゃけ、私にとってこの戦場は中々キツいんだけどね……。

 

「! おい、また来るぞ!!?」

 

「! また……!」

 

 船員の1人が軍艦の1つを見て叫ぶ。その船は向こうの指揮官であるガープが乗っている船だった。

 そしてガープは甲板の端に立ち、こちらの船を見て、狙いを定めている。そしてその手には──信じられないかもしれないが、大砲の砲弾が握られており、

 

「“拳・骨”……──」

 

「ウオオオ!! 来るなら来い!!」

 

「馬鹿! カイドウ!! 退避するわよ!!」

 

 カイドウがそれを受け止めようとしていたので、私はそれを止めさせる。しかしカイドウが私の力では動かない。ちょっと!! ヤバいって──

 

「──“隕石(メテオ)”!!!」

 

「!!? きゃあああああ──っ!!?」

 

 向こうの船にいるガープがそう言って砲弾を投げた瞬間──大砲は発射された。

 大砲以上の速度で飛んでくる大砲の弾。そう、今彼は……素手で大砲を撃ったのだ。

 というかヤバい。普通の大砲ならともかく、あんな速度の大砲が直撃したらさすがに船が──

 

「むん!!」

 

「! 白ひげか!!」

 

 と、身の危険を感じた直後、向こうの言葉通り、白ひげがその砲弾を振動を与えて当たる直前に爆発させた。それを見て、私も喜ぶ。

 

「さすが白ひげェ! そこに憧れるわー!!」

 

「いいから下がってろ!! ガープは強ェぞ!!」

 

「あ、はーい! ほら行くよカイドウ!!」

 

「クソッタレェ!! おれが受け止めてやるつもりだったのによォ!!」

 

「ほらほら、殺す相手ならいっぱいいるから他の船にしましょ。あっちはまだ私達じゃキツ──きゃあっ!?」

 

 再び、砲弾が近くで爆発する音。それはまさしく、白ひげが直前で叩き落とした砲弾の音だった。

 そして軍艦から大声が響いてくる。それもやはりガープだ。

 

「白ひげェ!! 久し振りだな!! お前も、今日こそは海に沈めてやる!!」

 

「グララララ……!! やれるもんならやってみな!!」

 

「ふん、たった船1隻、おれの攻撃から守りきれるなら守ってみろ!! 行くぞ──“拳骨流星群”!!!」

 

「!! おい!! おめェらも加勢しろ!! おれはともかく船が危ねェぞ!!」

 

「クソッ……! ガープの野郎、相変わらず滅茶苦茶だ……!!」

 

「普通の大砲の数倍は速度出てんぞ!! 本当に人間かよあいつは!!」

 

「それが何発も……!!」

 

 白ひげと共に船を守るロックス海賊団の船員達。うんうん、しょうがないよね。今日の天気は曇りだけど、目の前からは異常な数の砲弾が大砲の何倍もの速度で実際に飛んできて──ひっ!? 危ない。こっちにも飛んでくる! ちょ、ちょっと別の場所行こう。ここに立ってるといつ砲弾が飛んでくるか分かったものじゃない。

 

「──よし!! 船をつけたぞ!! 乗り込め!!」

 

「おおおおお!!」

 

「うわっ、こっちも来た!!」

 

 反対側を見てみれば軍艦が接舷し、海兵達がこちらに乗り込んできている。しかも、その誰もがさっきまで戦ってた海軍支部の海兵の何倍も強そう。これはヤバいかも……! 

 しかしこっちの味方はそれ以上に恐ろしく頼もしい。乗り込んできた海兵相手にも全く怯まない。

 

「ハ~ハハハマママママ!! 乗り込んできたねェ、命知らずの海兵が!!」

 

「くっ、シャーロット・リンリンか!!」

 

「海軍~~~!! お前達全員、悪いが死んでもらうよ!! 船長命令だからねェ!!」

 

 剣を構える大女、シャーロット・リンリン。彼女はソルソルの実の力だけでなく、あの剣から繰り出される近接戦闘の技も並大抵のものではない。

 

「“威国”!!!!」

 

「!!!?」

 

「うわァァ!!? せ、船体に穴が!?」

 

 リンリンの斬撃が大勢の海兵を吹き飛ばし、軍艦に穴を空ける。うっわ、相変わらず凄まじい威力……久し振りに見た……新世界の海賊くらいにしか使ってなかったから最近は見てなかった。

 だがこれで随分と減った。戦いやすい。

 

「ほらカイドウ!! お待ちかねの敵だよ!!」

 

「うおおおお……!! おれと殺し合おうぜェ!! 海軍!!」

 

「って、言うまでもなく殺し合ってるね……うわっ!?」

 

 カイドウが海兵を金棒で殴り飛ばしてるのを思わず苦笑しつつ眺めていると、私の方にも攻撃が来た。危ないなぁ、もう! 

 

「えっ? どうしてこんなところに少女が……?」

 

 あ、ラッキー。油断してる。なら今の隙に、

 

「“レッドUFO”!!」

 

「!!? ゆ、ゆゆゆUFO!?」

 

「驚いてる隙に……撃っちゃえ!!」

 

「え──ぐあああああっ!?」

 

 よし、1人目! でもこれでやっと1人。気を抜いてる暇がない。他の皆はともかく、私はちょっと気を引き締めないとヤバいかもしれない。他の場所も気になるっちゃ気になるけど、

 

「ジハハハハ!! おれがいることが分かってて海で挑んでくるってェのは沈めてくれって意味だよなァ!!?」

 

「き、金獅子!!? うわァ!!?」

 

「くそっ、フワフワの実か……!! 確かにあれは厄介だ……!!」

 

 あっ、変な眉毛おじさんが空の上で戦ってる。やっぱ海戦だと頼りになるなぁ。相手の船に触れて浮かせればほぼ勝ちみたいなもんだからね。海水も浮かせられるし、能力者対策もできてる。今の所、敵に能力者はいないけど、

 

「“月歩(げっぽう)”!」

 

「! “斬破”!!」

 

「っ……“嵐脚(らんきゃく)”!!」

 

 空中にいたシキの元に空中ジャンプするようにして近づく海兵。それに僅かに目を見開き、シキが刀を抜いて斬撃を飛ばすと、相手も蹴りで斬撃を飛ばして受け止めた。わぁ、すっごい。さすがに初めて見たかな。あれは確か、

 

「ジハハハハ……! “六式(ろくしき)”使いまでいやがるか!! 退屈しねェで助かるぜ!!」

 

「くっ……やはり空中戦では不利か……!?」

 

 そう──確かシキの言うように、“六式”だ。

 海兵や政府関係者が使う体技で、基本の6つの技からなる戦闘術。今しがたやった空中ジャンプの技が“月歩”で、蹴りで鎌風を起こした技が“嵐脚”。その他にも4つの技がある。そう、例えば──

 

「“鉄塊(てっかい)”!」

 

「!! ウォロロロ!! なんだこいつァ……身体が硬ェな……!!」

 

「くっ……見たことない海賊だが、中々のパワーだ……“指銃(しがん)”!」

 

「うブ!!? なんだ……? 今度は痛ェじゃねェか……!!」

 

「! “紙絵(かみえ)”!」

 

 あー……そうそう今みたいに、身体を鉄のように硬くして防御する“鉄塊”や、指で弾丸のように相手の身体を撃ち抜く“指銃”。相手の攻撃を紙の如くひらひらと躱す“紙絵”……これで5つ──って、

 

「カイドウってば何実験体になってるのよ!!? そんな強い奴は他の人に任せておきなさい!!」

 

「──こんな雑魚、おれ1人で充分だァ!! 殴らせろォォオオオ!!!」

 

「っ……“鉄塊”……! ぐっ……!?」

 

「って、あれ……? 意外と押してる……?」

 

 さすがに六式なんて使える連中、カイドウにはまだ早いと思ってたけど……今、カイドウの金棒の一撃が相手の鉄塊を揺るがした辺り、意外と勝負になっている。さすがフィジカルエリートで耐久力だけは滅茶苦茶あるカイドウ。相手の攻撃を受けながら無理やり攻撃してる。心配だが、相手は良い気味だ。ふふん、私の姉弟の力を見たか海軍!! 言っとくけど、幾ら倒しても復活する残機無限みたいな奴なんだからね!! 疲れてやられちゃうといいわ!! 

 

「やっちゃえカイドウ!!」

 

「お前もな、ぬえェ!! そっちにもいったぞォ!!」

 

「“(ソル)”」

 

「え……ひゃあっ!?」

 

 カイドウに応援の声を飛ばし、カイドウの返答が聞こえた直後、背後に嫌な予感を感じて、咄嗟に飛び退く。そうそう、これが六式最後の技で、その場から消えたように見えるほどの高速移動術、“剃”だ。って、言ってる場合じゃないけどね!! 

 

「まさかこんな少女までもがロックス海賊団か……しかも見たところ、悪魔の実の能力者……少々可哀想だが、悪の芽は摘んでおかねば……!」

 

「っ……避けられない……!! っ……!」

 

 六式使いの海兵の攻撃に、私は甲板を転がされる。痛っ……少女相手だってのに容赦なく蹴ってくるなぁ……!! 

 

「! “レッドUFO”! そして……“(スネーク)”!」

 

「! UFOに蛇……!? それにあの羽……この少女、一体何の能力者だ……!?」

 

「教えない!! 正体不明がウリなのよ!!」

 

 レッドUFOを呼び戻して弾を撃たせ、その間に蛇も海兵に向かって飛ばす。そして空中へ飛んで逃げた。飛べる海兵の絶対数が少ない以上、こうやって飛んでいた方が相手にする数は少なくて済むし安全だ。

 とはいえ、弾も蛇も普通に躱されてるし、勝ち目は薄い。ダーククラウドで視界を消す? いやでもこの状況だと他の味方の邪魔になりそうで──

 

「──ギハハ……おいてめェ……誰の許可を得ておれの船に踏み込んでんだ?」

 

「!!? お前、ロックス──、……ッ!!!」

 

 だが私が戦いに不安を感じたその瞬間、船長が現れ、海兵の頭を掴んで甲板へ叩きつけた。さっすが船長! 頼りになる! 

 

「ギハハハハ!! この程度の六式使いなんて今更寄越してきてんじゃねェよ!! このおれと一戦交えたきゃ“CP0”か海軍大将でも連れてくるんだな!! もしくは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

「!! 貴様……どこまで知っている……!! ロックス!!」

 

 そしてロックス船長は気絶したか死んだか、その六式使いの海兵をあっさりと海へ投げ捨て、大分近づいてきた軍艦に乗る相手──ガープに叫ぶように話しかける。

 そしてガープもその言葉に驚き……そして軍艦から跳躍した。

 行き先は当然、こちらの船。そして、それを船長が黙って見ている筈もない。

 

「おれァ世界政府の醜さを知ってるだけさ……!! お前ら海軍もそうだろ……なぁ!? ガープ!!!」

 

「!!!?」

 

 ──その瞬間、起きたことは人間の力と常識を超えていた。

 

 船と船の間。空中でガープの拳と、ロックス船長の剣がぶつかり合う。

 だが起きたことはただの鋼と拳の衝突ではない。

 それは……両者の持つ、()()()()()()()()

 

「天が……割れた!!?」

 

「覇王色の激突だ……!!」

 

 そう──曇天の空に稲光が走り、それらが真っ二つに分かたれる。

 天災の如き現象の正体は、両者の持つ覇王色の覇気の激突であり、それらは波を揺らし、船を、空を、天を、世界を揺らすのだ。

 だがこれほどの現象は同じ覇王色というだけでは起きることはない。

 一定以上の実力を持つ者同士でなければこれほどの衝撃にはならない。

 ロックス船長がこれほどの現象を起こすほどの相手──モンキー・D・ガープ。その実力は確かに、他の海兵と比べて群を抜いているだろう。

 だが──それほどの力を以てしても、

 

「──ギハハ……弱ェ……」

 

「っ!! くっ……おおおおお!!」

 

 それを真っ先に感じ取った張本人──ガープは声を上げ、更に覇気と力を込める。

 だがロックス船長は……その凶悪な笑みを絶やさず、ガープを見て……そして、嘲笑っていた。

 

「弱ェ……弱ェなァ……!! てめェ如きじゃ……おれとやり合うのは力不足なんだよ……!! モンキー・D・ガープ!!!」

 

「ぐ──!!?」

 

 ロックス船長が声を大にし、剣に力と覇気を込めたその瞬間──目に見えない程の速度でガープの身体が吹き飛ぶ。

 それはガープを近くの軍艦──ではなく、その奥の軍艦に突き刺し、破壊の跡を残すほどの力だった。

 

「おれを倒すだと……? ガープゥ……! ギハハ……馬鹿な夢見てんじゃねェよ!! おれは世界の王になるのさ!! 世界の王が、ただの一海兵に負けると思うかよ!!? ギハハハハハハ!!!」

 

「が……ガープ中将!!?」

 

「そんな……あのガープ中将が、一撃で……」

 

 敵の海兵達がそれを見て、顔を青褪めさせる。よく見れば、手も震えている。──しかし、それを責めることは出来ない。

 味方の私達でさえ、その圧倒的な力には何も言えない。白ひげもリンリンも金獅子も、他の名だたる海賊達も、押し黙るしかない。到底人の言うことを聞くとは思えない連中が、彼の言うことだけは聞く理由。様々な理由はあれど、その根本にあるのがこれ──誰も逆らえない程の圧倒的な強さだ。

 平たく言えば……この強さに誰もが魅せられ、それを可能だと思わされたからこそ、海賊達は彼の船に乗った。

 ガープが僅かに拮抗させただけでも奇跡であり、それでもなおこの“悪魔”の本気は引き出せていない。この“悪魔”には誰も勝てない。この“悪魔”ならこの海の王となってしまう。逆らった者には死が待つだけ。

 ならば──最初からこの悪魔の眷属となってしまった方が良い。

 全員が全員ではない。同じ王の素質を持つ者達はそれほど単純ではない。

 だがそれでも……王の素質を持つ彼らでさえ、彼に物申す事はついぞ出来なかった。

 

「──おいおめェら……何黙って突っ立ってやがんだ?」

 

「!!」

 

 最強の王の素質を持つ男の言葉には、不思議な魔力が宿る。

 聞いただけで、心を震わせるような恐怖がある。悪魔の実の力ではない。そうだったら、どれほど良かったか。

 

「サボってねェで戦いな……! 敵はまだ幾らでもいるぜ……? おれの“支配”の邪魔をする馬鹿共だ……!! そして、お前らの“儲け話”も邪魔するバカどもさ……ギハハハハハ……!! なァ……わかるよなァ!!?」

 

「! はい!! ロックス船長!!!」

 

「今まで通りさ!! おれを知らねェ奴には恐怖を与えろ!!! 従わねェ間抜けは舌を引き千切ってでも忠誠の言葉を吐かせろ!! それでも従わねェ奴には…………生きる権利は与えねェ!!! 地獄へ落とせ!!!」

 

「分かっています!! ロックス船長!!!」

 

「だったらおれの命令通りに忠実に働きなァ!! そうすりゃお前ら全員、おれの支配の中で好きなだけ欲と願いを叶えられるからよォ!!」

 

 その王の言葉に、ロックス海賊団の船員達は奮起する。いや……するしかない。

 どこまでも船長の言葉に忠実に。そして、逆らう者には世界政府にすら牙を剥く。

 世界最強のロックス海賊団は、この船長がいる限り、崩れることのない鉄壁の海賊団。

 個性の集団である彼らも、船長が絶対的な存在である限りは1つの集団となり得ることが出来る。

 ──だからこそ……私はその状況でも戦うしかなかったし、()()()()()、酔っているせいもあると思うが、その言葉にやる気を高められてしまったのかもしれない。

 

「ウォロロロ……!! やってやる……!! おれは……もっと強くなる……!!!」

 

「! カイドウ!!」

 

 カイドウが人型から獣形態──龍に変化する。

 そして空を行き、真っ先に敵の軍艦へと突撃していった。一番奥の軍艦に。

 

「……!! そっちは1人になるから駄目よ!! カイドウ!!」

 

「うおおおお!! 全員、おれが殺す!!! 戦争だァ!!!」

 

「っ……駄目ね……こうなったら何とかするしか……」

 

 空を飛んで味方もいない軍艦に龍形態で突撃していくカイドウに、やむをえずに私はついて行く。確か、1艦に乗っている海兵の数は約800人。それだけの数をカイドウ──いや、私も含めて2人で戦わなければならない。

 隙を見てカイドウを連れ戻すか、味方が加勢してくれるのを期待したいが……ロックス船長の方針だと、全部の艦は沈めない。やはり目撃者を増やし、恐怖を与えるためなのか、いつものように一部の海兵は生かすつもりのようだ。

 だからそこまで期待出来ない。くっ……とにかく、戦うしかないね……! 

 

「“ダーククラウド”!!」

 

「!! 霧が……!?」

 

「龍と謎の少女が船に乗り込んできたぞ!! 迎え撃て!!」

 

「おお!!」

 

「くっ……舐めないで、よ……!!」

 

「おおおおおおおおお!!! 全員くたばれェェ!!」

 

 ──そうして、しばらく2人だけでの戦闘を行ったところで……私の意識は、()()()()()()()()()()




本当はこの先も入れようかと思ったけどこれでも13000文字近くてめっちゃ長いので分割。続きはまた明日。カイドウとぬえちゃん、ちょっとした転機というか、初めてのアレを迎えます。やっぱカイドウと言えばこれだよねって。

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