正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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怪物頂上決戦

 頂上戦争の発端となった白ひげ海賊団2番隊隊長ポートガス・D・エースの解放に、戦場である海軍本部マリンフォードは湧いた。

 

「エースが解放されたァ~~~~~~~!!!」

 

「うおおおおおおお~~~~!!!」

 

「早くそこから逃げろ!! エース~~~~~!!!」

 

 その反応の多くは当然、白ひげ海賊団であり、劣勢に陥りながらも思わず顔を綻ばせ喜びの声を大きく上げる。

 だが喜びの声だけではないのも必然だ。

 

「元帥殿……!!」

 

「……! 構わん!! 目の前の敵だけに集中しろ!!」

 

「……!!」

 

「エース……!!」

 

 白ひげ海賊団と一時手を組んだ海兵はその多くが複雑そうな表情を浮かべ、対応を迷わせたが元帥センゴクの鶴の一声で再び意識を目の前の敵だけに集中させる。

 サカズキなどは歯を噛み締め、苦渋に満ちた様子で戦いに戻り、反対にガープなどは家族が解放され、それを捕らえなくてよいということに我慢できず、口元にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 そして次に来るのは問題の“敵”の反応だ。

 

「あ~~……もう解放されるんだ。雑魚の気配には気づかなかったなぁ……いやぁさすがだね!!」

 

「チッ……面倒な……!!」

 

「ハ~ハハハマママママ!! なァに構いやしねェさ!! どうせここから逃げられやしないんだからねェ!!」

 

「ああ!! どっちにしろ逃しはしねェ!! 皆殺しにしてやる!!!」

 

 海賊同盟側の反応はシキが僅かに舌打ちし、眉根を寄せる以外はそれほど問題ではないという様子であり動じてはいなかった。

 だがその誰もがエースに対しての狙いがある。捕らえるか殺すかの違いはあれど敵意を抱いており、ここから逃してやろうとは微塵も思っていない。

 そしてその戦場の多くから視線を集めるエース当人は──呆然としていた。

 

「…………」

 

「お、おい!! 何をしてるガネ!? 解放してやったんだから早く私を連れてここから逃げるガネ!! ここにいたら死んでしまうぞ!!」

 

 Mr.3が慌てながら逃げる様子もなく自身の両手を見て止まっているエースに声を掛ける。

 自分は逃げていいのか。逃げられるのか。仲間と兄弟、多くの人に助けられ……戦えるのか。

 エースは目の前に広がる地獄を見てやや判断に迷う。己の取るべき行動を。

 だがそうやって考えながらも、取った行動は考えた末でのものではなかった。取ったのは──咄嗟の行動だった。

 

「うあああああっ!!!」

 

「……! ルフィ!!」

 

 主戦場となる広場の一角、そこで己の弟が倒れたのをエースは目撃した。相手は先程まで自分に勧誘と脅しを仕掛けてきていた大海賊“金獅子のシキ”だ。

 

「錠からは抜けられちまったからな……こうなったらさっさとお前を半殺しにしてあいつに脅しかけねェとなァ!? 腕の1本や2本は覚悟してもらうぜ!!」

 

「痛ェ!! ちくしょう……!!」

 

「……!!」

 

「あ、おい!! 待つガネ!!」

 

 エースはそれを見た瞬間、動いていた。

 考えている暇も余裕もない。この地獄すら生温い戦場ではその迷いが命取りであり、エースは本能から戦うことを選んでいた。

 

「ルフィに……!!」

 

 エースはMr.3の呼び止めすら耳に入らず、処刑台から跳躍する。彼の右腕は既に炎へと変化しており、その照準は弟を傷つけ見下ろす金獅子へと向いていた。

 

「おれの弟に──手ェ出してんじゃねェよ!!!」

 

「!!」

 

 その右腕はシキを殴りつけ、地上へと叩き落とす。シキが体勢を立て直していたが、その間にエースはルフィの前に、シキの前に立ち塞がっていた。

 

「……!! ジハハハハ……!! 中々やるじゃねェか!! それでこそロジャーの息子だ!! 仲間にする価値がある!!」

 

「うるせェ!! おれの親父はロジャーじゃねェ!! “白ひげ”ただ一人だ!!!」

 

「エース~~~!!!」

 

 自分をぶっ飛ばすという偉業を讃え、ロジャーの息子としての価値を改めて見出して笑うシキに対し、エースはそれを全力で否定してシキを睨みつける。

 戦いはまだ終わってはいない。未だ窮地の中にいることを理解しているエースはすぐに立ち上がったルフィに対して声を掛ける。

 

「まだ戦えるか、ルフィ!!!」

 

「ハァ……ハァ……勿論だ!!!」

 

「ジハハ……なんだ、兄弟でおれとやろうってのか?」

 

 シキに対し、ルフィとエース。2人の義兄弟は揃って戦闘態勢を取る。

 だがその2人に対し、背後から襲いかかろうとする者がいた。その巨大な影がルフィとエース達に接近を気づかせる。

 

「──おれを無視出来るのか?」

 

「ジャックだ!! やべェぞ2人共!!」

 

 古代の生物、マンモスに変身していたジャックが長く太い鼻に覇気を纏わせて2人を薙ぎ払おうとする。危険を声に乗せて知らせた白ひげ海賊団の船員が焦りを覚える。ジャックとはそれだけ手強く危険な相手だ。

 

「──そなたこそ、わらわを無視出来るつもりか!?」

 

「!!」

 

「ハンコック……!!」

 

 だがそのジャックの鼻を防ぐ者がいた。

 同様に長い足に覇気を纏わせ、蹴りで受け止めたのは“海賊女帝“ボア・ハンコック。

 百獣海賊団に与する筈のハンコックの謀叛とも言える行動にジャックは眉をひそめ、ルフィはその行動に感謝するように名前を呼んだが……ハンコックには応えるだけの余裕がない。

 

「くっ……重い……!!」

 

 それはジャックの攻撃が想像以上に重く、強かったからだ。

 ハンコックは大看板や飛び六胞の実力、取り分け若いジャックや他の者達の実力をよく知っていたが、その彼女が知る実力よりも格段に強くなっていた。

 ゆえにハンコックはそれを受け止め、僅かな後退で留めてみせたが、その額には僅かに汗が垂れ、余裕をなくしている。

 そしてそんなハンコックを見下ろしながらジャックは冷徹な声を飛ばした。

 

「ハンコック……金獅子だけならまだしもおれ達の邪魔をするとは……裏切ろうってのか?」

 

「……! ……裏切ってはおらん。男など、敵も味方も同じというだけじゃ……!!」

 

「…………」

 

 ジャックの問いに対し、ハンコックは理由を告げずに取り繕った無理な言い訳を返す。たとえ気づかれていたとしても、本当の理由を言える筈もなかった。

 それに完全に裏切るというのもマズいため、曖昧にするしかないのだ。完全に裏切ってしまえば、いざとなれば愛しい彼だけは助命することができなくなってしまう。

 何しろハンコックの見立てでは、既にここから白ひげ海賊団と海軍本部が劣勢を覆すことなど不可能──いや、既に敗勢と言っていい状況の筈だ。

 白ひげ海賊団の目的であったエースの解放を成した今でもそれは変わらない。

 

「ルフィ!! どうにかここを切り抜けるぞ!!!」

 

「わかった!!!」

 

「ジハハハ!! 兄弟揃って威勢が良くなったな……!! それに見積もりの甘さもそっくりだ!! お前ら程度が……このおれから逃げられると思ってんじゃねェよ!!」

 

 百獣海賊団には……カイドウとぬえには、決して勝てやしないのだから。

 

 

 

 

 

 エースを解放したことで揺れる海軍本部マリンフォードの、その上空1万メートル。

 そこには現在、空島が位置していた。

 

「おい!! 弾が切れたってよ!!」

 

「よし、それじゃあ次、こっち運ぶぞ!!」

 

「重傷者運んできたぞ!! 医療班、治療してくれ!!」

 

「はい!!」

 

 その空島は本来、新世界“ワノ国”付近に浮かぶ空島であり、百獣海賊団のナワバリでもある島だった。

 “(ダイアル)”を養殖し、それらを使った武器工場が建てられているその空島はカイドウとぬえの手によってマリンフォード上空まで運ばれ、この戦争における前線基地となっている。

 ゆえに切れた弾薬を運んだり、重傷者を治療したり、戦線の推移を監視して報告したりと様々なことを行っていた。

 

「おい、“火拳のエース”が解放されたぞ!!」

 

「ギャハハ!! 面白ェ!! そんなことしても無駄だってのによ!!」

 

「ああ!! 白ひげ海賊団の奴らも海兵もどうせ逃げられやしねェんだ!!」

 

 そして島の中心には鳥カゴの外から戦場を映す映像電伝虫の電波が届けられ、戦争の様子を中継しており、それを見て囃し立てて笑う者も多い。

 プレジャーズと呼ばれる常に笑っていることが特徴の戦闘員もいるが、それら以外でも彼らは笑っている。

 彼らは確信していた。この戦争で勝利するのは自分達だと。

 

「おい、来たぞ」

 

「! よし、運べ!!」

 

 そして島の中には多くの補給物資や工場だけではなく、巨大な鏡が設置されていた。

 だがそれは元々この島にあった物ではなく、この戦争に参戦するに当たって用意された特注品であり、物資や人員を行き来させる上で最重要の物だった。

 何しろ……鏡は能力を使う上で必須の物なのだ。

 

「──ああ、来ましたね」

 

「ウィッウィッウィ!! 兵も物資もけが人もどんどん運びな!! 好きなだけ移動させてやるよ!!」

 

 鏡の中に、物資を持った人が入っていく。

 そうして入った先には紫色のねじ曲がった空間。複数の鏡がある世界。

 鏡と鏡の間を移動することが出来る“鏡世界(ミロワールド)”。

 空島から物資を運び、百獣海賊団とビッグマム海賊団の船へそれらを運ぶ──その鏡の世界の中には兵站を担当する責任者である百獣海賊団の真打ちと鏡の世界を自由自在に移動出来るビッグマム海賊団の大臣、“ビッグ・マム”の娘がいた。

 

『百獣海賊団真打ち“止水のソノ”』

 

「出前の寿司も来ましたし……そろそろ定時ですよね? どうでしょう。これから飲み会など」

 

『シャーロット家8女シャーロット・ブリュレ ミラミラの実(鏡人間)』

 

「いいねェ。寿司を肴にお酒を……って何言ってんだい!? 戦争中だよ!?

 

「残業反対……」

 

「……よくサボれるねェ……ウチならママに殺されてるよ……」

 

「カイドウ様はあれでかなり真面目な方なので……最低限やることやって結果を出してれば理不尽な制裁とかはないんですよねー……」

 

 顔に痛々しい傷跡を持つ大女、ブリュレが地面に畳を敷いて寝転がり、部下の持ってきた寿司を食べている気怠げで身長8メートル程の人魚の美女、ソノの様子と言動に軽く呆れる。

 後方の指揮を取り、物資の補給などに従事する2人は百獣海賊団とビッグマム海賊団の共同作戦。この戦争において重要な役割を担っていた。

 現在マリンフォードはドフラミンゴの“鳥カゴ”により隔離状態にあるが、百獣海賊団とビッグマム海賊団は互いの船に置いた鏡からブリュレの能力で“鏡世界(ミロワールド)”を中継して空島と船を行き来し、人や物の往来を可能としていた。

 そしてそれらは戦争の始まりから密かに行われ続け、勝勢の一端を担う結果を残していた。

 

「それにもう勝つのも時間の問題ですし……そろそろ我々の仕事も終わるのでは? ──むしろ終わってほしい」

 

「……まあそうだけどねェ。たとえどれだけ長引こうとも有利なのはこちらさ!! アタシは楽しみだよ!! 白ひげ海賊団や海兵の生き残りを甚振ってスープの具材にしてやるのさ!! ウィッウィッウィ~~~!!」

 

「ぬえ様やナンバーズが好きそうですねぇ……はぁ……まぁこれ以上、不測の事態がなければいいんですがね……」

 

 鏡世界でブリュレとソノは正反対のテンションで戦争の決着が近いことを感じ取ると、再び自分達の仕事を行っていった。

 

 

 

 

 

「エースが解放されたんだ!! 早く逃げ道を作れ!!」

 

「どうやって!? 逃げ場なんてねェぞ!!」

 

「どうにかするしかねェだろ!! 全滅なんて御免だ!!」

 

 オリス広場の海賊達──白ひげ海賊団の船員、傘下の海賊達はエースが解放されたのを確認すると誰もが撤退するしかないことを理解して声を上げて動き始める。

 既に白ひげ海賊団と傘下を含む海賊艦隊はその数を半分以下に減らし、周囲を完全に囲まれてしまっていた。

 

「ジャキキ~~!!」

 

「ゴキキ!!」

 

「くにゅにゅ~~!!」

 

「うわあああああ~~~!!」

 

「クソ……!! 誰か止めろ!! このままじゃ船がなくなっちまう!!」

 

「この柵……ビクともしねェぞ!! 船があってもこの柵をどうにかしねェと逃げられねェ!!」

 

 加えて、マリンフォードの周囲にある船の多くは百獣海賊団のナンバーズや船からの砲撃によって沈められていく。

 そして船があっても島を囲む鳥カゴをどうにかしなければ逃げることは叶わず、白ひげ傘下の海賊達はただ何も出来ず次々と数を減らしていった。

 それは屈強な白ひげ本隊の海賊ですら例外ではない。

 

「“ブリリアント”……“パンク”!!!」

 

「!!」

 

 白ひげ海賊団3番隊隊長“ダイヤモンド”・ジョズが身体の半分をダイヤに変えて高速の突進を相手にかます。

 その威力は鋼鉄すら砕き、七武海クラスの実力者でさえダメージを免れない凄まじいパワーとスピードだ。

 だが……その突進は小さい影に容易く受け止められ、動きを止める。そこにいたのは──小さい怪物だ。

 

「“ダイヤモンド”・ジョズ……その名に恥じない悪くない攻撃だけど……その程度じゃ私は抑えきれないわよ!!」

 

「……ウ!!」

 

 ジョズの突進を正面から受け止めた怪物──“妖獣のぬえ”が不敵な笑みを崩さず、その手に持った三叉槍でジョズの身体を突き刺すと、力で押し返し、そのまま思い切り顔を踏みつけて地面に叩きつけた。

 白目を剥き、血を吐いて潰されるジョズにぬえは槍を引き抜いて言葉を贈る。

 

「安心して。あなたご自慢のダイヤの身体も、きっちり私を彩る飾りとして有効活用してあげるからさ♡」

 

「ムハハ!! そりゃあいい考えだぬえさん!! その無駄にデカい身体ならきっと大量のダイヤが取れるぜ!!」

 

「ジョズ隊長~~~!!」

 

「っ……ダメだ!! “妖獣”が止まらねェ!!」

 

「ジョズ隊長もやられちまった!!」

 

 圧倒的な数と個の力によって白ひげ海賊団の隊長もやられ始め、海賊達に焦りが見え隠れする。

 それに対し、海賊同盟側にはまだ余裕があった。

 

「後の隊長達は任せたわよ、クイーン。私はもっと楽しい場所に行ってくるからさ……!!」

 

「おう!! 任せてくれ!! 残りは適当に処理しておくぜ!!」

 

「クソ……おれ達は残り扱いかよ……!!」

 

「フザけんな!! 舐めやがって……せめて“大看板”の一人だけでも仕留めてやる……!!」

 

「協力して倒すぞ!!」

 

「おお!!」

 

「ムハハハハ!! バカめ!! てめェらが組んだ程度でおれ達は倒せねェし、ここからも逃げられやしねェんだよ!!!」

 

 広場の中心にぬえが行くのを見送り、大看板のクイーン率いる部隊に白ひげ海賊団と海兵らが果敢に挑んでいく。

 そしてそのぬえが行く先は──やはりこの戦場で一番の激戦が繰り広げられるその舞台、戦場の中心地だ。

 

「──お待たせ~~!! 主役の登場だよ~~!!」

 

「おう、遅ェぞぬえ」

 

「ママママ!! じきに終わるところだからねェ。もう来ないのかと思ったよ!!」

 

 その中心にいる四皇──カイドウとビッグ・マムがぬえを出迎える。

 ぬえは自然とカイドウの斜め上辺りのポジションに滞空して収まり、横目で会話しながら4人の怪物達と対峙した。

 

「あー……確かにこれはもう終わりそうだね。でもまあ終幕にはやっぱ私という世界一のアイドルが必要不可欠よ!! ラストシーンは全員できっちり戦って……そしてとどめを刺して盛り上げていかないとね!!」

 

「相変わらず変なこだわりがあるねェ……!!」

 

「こいつはいつもこんなもんだ……だが異存はねェ!! 終わらせてやる!!」

 

「……!!」

 

「ぐ……!!」

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

 カイドウ、ビッグ・マム、ぬえの目の前にいるのは誰もが血を流し、息を荒くしている4人だ。

 白ひげ、ガープ、センゴク、サカズキ……全員が世界最高クラスの実力者であり、一筋縄でいかない怪物達。

 だがしかし、それも2人の四皇を相手にすれば劣勢を強いられる。

 未だ武器を構え、戦闘態勢を崩してはいないが、未だ余裕のあるカイドウとビッグ・マムに対し、彼らの表情には焦りと痛み、ダメージから来る疲労が色濃く表れていた。

 その上、ぬえが現れたことで更に絶望的な状況に陥ってしまう。手を組んだことで多少は粘れて戦えてはいるが、このまま戦えば、多少は粘れたとしても敗北は必至である。

 

「オヤジ!! ダメだ!! もう戦線が保たねェ!!」

 

「センゴク元帥!! 海賊達の侵攻を抑えきれません!!」

 

「…………」

 

「……仕方あるまい……」

 

 だからだろう。この絶望的な状況において、白ひげ海賊団と海軍。2つの組織の頭である2人は同時にある結論に達し、少ない可能性ながらも生き残るための道筋を思い描いた。

 

「オヤジ!! 早く逃げねェと──」

 

「……よく聞けおめェら……!!」

 

「!」

 

 覚悟などとうに決まっている。

 愛する家族を守るため……白ひげは乱れる息遣いを、臓器から溢れ出す血液を必死に抑え、家族へ告げた。

 

「これから伝えるのは……!! 最期の“船長命令”だ……!!!」

 

「!!?」

 

 その言葉に白ひげ海賊団は一気にどよめいた。

 

「最期ってちょっと待てよオヤジ!! 縁起でもねえ!!」

 

「そんなもん聞きたくねェよォ!!」

 

「一緒に新世界へ帰るんだろ!!?」

 

「オヤジ……!!」

 

 その背中に誰もが声を掛ける。

 最期だなんて聞きたくない。信じたくない。

 エースは助け出せたのだ。後はここから逃げるだけ。エースも助け出せたのだからオヤジもまた一緒に逃げられる。

 誰もがそんな夢想を思い描き、白ひげの背中へ声を掛けたが……白ひげは振り向くことなく、その最期の船長命令を告げた。

 

「お前らとおれはここで別れる!!! 全員!! 必ず生きて!!! 無事新世界へ帰還しろ!!!」

 

「!!?」

 

「オ……オヤジィ!!?」

 

「ここで死ぬ気か!!?」

 

 白ひげの声が戦場へ、白ひげ海賊団の耳に伝わる。

 だがその動揺や悲嘆にも目を向けず、白ひげは家族を守るために力を振り絞った。

 

「おれァとうに死んでる時代の残党だ……!!! 新時代におれの乗り込む船はねェ……!!!」

 

「……! 避けなさい!! ドフラミンゴ!!」

 

「!!?」

 

 カイドウやビッグ・マムらに対峙しており、白ひげが地震の力を拳に込めたのを見てぬえは大声で注意する。

 地震の力を放ったのはカイドウでもビッグ・マムでもぬえでもなく……この戦場を隔離している張本人、ドフラミンゴの方だった。

 

「……!! 死にかけのジジイが……!! そんな見え見えの攻撃、避けりゃあ済む話だ……!!」

 

 だがドフラミンゴも焦り、白ひげに悪態を吐きながらもその攻撃を避けて難を逃れようとする。

 そこでしかし、ドフラミンゴの足を捕らえたのは……砂を纏う鉤爪だった。

 

「……だったら避けさせねェよ……!!」

 

「……!! てめェ……ワニ野郎ォ!!」

 

 クロコダイルの支援にドフラミンゴが額に青筋を立てる。回避は……間に合わない。白ひげの拳が迫り、

 

「!!!」

 

「行けェ!!!! 野郎共ォ~~~!!!」

 

 そしてぬえの注意も間に合わず、不意を突かれてドフラミンゴは白ひげの地震の力が直撃してしまう。

 地震の衝撃はドフラミンゴに血を流させ、吹き飛ばすだけでは飽き足らず、背後の要塞にも亀裂を入れて破壊してしまうほど。

 その瞬間、空と島を覆う柵が収束していく。

 

「鳥カゴが消えた……!!」

 

「これで逃げられる……のか……!!?」

 

「でもオヤジを放ってなんていけねェよ!! オヤジ~~~~!!」

 

「船長命令だ……!! 行くんだよ!!」

 

「オッサン!!」

 

「オヤジ……!!」

 

 ドフラミンゴが気を失ったのか、鳥カゴが消えていく。

 白ひげが咄嗟に放った──否、家族を逃がすために密かに狙いをつけていたドフラミンゴへの攻撃が通り、彼らの逃げ道を作る。

 

「あーあー……さすがに白ひげの一撃には耐えられないかぁ……せっかく注意したのに……これは後でオシオキだね」

 

「ドフラミンゴの野郎……!! 油断しやがって……!!」

 

「それで逃げられるつもりかい!? 逃しやしねェよォ!!」

 

 ぬえが呆れるように嘆息し、カイドウはせっかくの包囲網の一部が崩れたことに苛立ちを見せる。

 だがそれだけで逃げられるほど甘くはないとビッグ・マムは怒りの形相を浮かべながら白ひげ海賊団に告げた。

 しかもそれだけではない。最期の命令は1人ではなく……もう1人、発言する者がいた。

 

「赤犬!! 青雉!!」

 

「!」

 

「センゴクさん……!?」

 

 海軍総大将、元帥の“仏のセンゴク”は白ひげに続いて告げる。

 それもまた彼の覚悟、この先の未来を守るための命令だった。

 

「海軍本部元帥として命令する!! お前達も生き残った海兵を率いて戦場から撤退しろ!!!」

 

「!!?」

 

「センゴク元帥!! 何を……!!?」

 

 今度は海兵が困惑する。

 撤退すると言いながら、指揮を大将2人に任せる。

 それが意味するところは……彼もまた、白ひげと同じ覚悟を決めたということだ。

 

「殿はおれ達が引き受ける!! 全海兵は撤退し……生き残れ!!!」

 

「それは……!!」

 

「っ……しかし……!!」

 

 そう、センゴクはここで死ぬ気であった。

 海兵を逃がすために、彼らの当惑を無視してセンゴクは未来へ言葉を遺す。

 

「ここでおれ達が死んでも……次世代を育む若い海兵が生き残れば“正義”は滅びない!! 世界の秩序と正義を守るために……!! 決断し、行動しろ!! “海軍本部”!!!」

 

「!!!」

 

 全ては若者たちの未来を……正義を守るために。

 センゴクは自分の命を使って彼らを逃がす腹積もりだ。

 そしてセンゴクの隣に立つ彼もまた、覚悟を決めて目を据わらせる。

 

「……わしには逃げろと言わんのか? センゴク」

 

「……お前は言っても聞かねェだろうが。ガープ」

 

「そりゃそうじゃ。よくわかっとるな……!!」

 

「ふん……何十年の付き合いだと思ってんだ……!! わかるに決まってるだろう……!!」

 

 センゴクとガープ。大海賊時代以前からこの海で海賊相手に戦ってきた2人は肩を並べ、ここで最期の仕事をすることを決める。

 センゴクは昔のような荒っぽい口調で軽口を叩き、ガープもまた変わらぬ態度でそれに応じる。

 そして2人は白ひげに再び並んで拳を握ると、不敵な笑みを携えてみせた。

 

「だが……まさか最期に海賊と……いや、お前と共闘することになるとはな。“白ひげ”」

 

「ああ。おれも思いもしなかったが……最期なんだ。こういうのも悪くねェだろう……!!」

 

「もはや海軍と海賊も関係ないわい……!! 未来を守るために戦うだけじゃ……!!」

 

 そして3人の伝説は怪物達を止めるため、正真正銘の死地へと臨む。

 

「白ひげ……てめェ、まだ戦ろうってのか!!?」

 

「ああ……ずいぶん長く旅をした…………決着(ケリ)つけようぜ……カイドウ!!!」

 

 

 

 

 

 天地が揺らぎ、正真正銘最期の戦いに臨む伝説の怪物達。

 グラグラの実の能力を全力で使い、家族の未来のために戦い、声を上げる“白ひげ”に、その息子達が涙を流しながらそれを止めようと慟哭する。

 

「オヤジィ~~~~っ!!!」

 

「オヤジを置いてくなんていやだ!!! 一緒に帰ろう!!!」

 

「船長命令が聞けねェのか!!! さっさと行けェ!!! アホンダラァ!!!」

 

「! グ……おお……!!」

 

「カイドウ!!」

 

 白ひげの地震の力を込めた一撃でカイドウを思い切り殴りつける。

 先程までは一切効くことのなかったその攻撃はしかし、ここに来てカイドウにうめき声を漏らさせることに成功した。

 全盛期は既に過ぎ、死にかけの老体である筈の白ひげが、受けに回っているとはいえカイドウを殴り飛ばしたことに驚愕したぬえだが、そのぬえにもまた別の相手が肉薄していた。

 

「……! ガープ……!! あなたまで死ぬ気なの?」

 

「決まりきったことを聞くでないわ……!! わしには責任がある……!! かつて()()()()()()()()()責任がな……!!!」

 

「……その借りを返してあげても良かったんだけどね!! でもこうやって挑みかかられると……殺すしかなくなっちゃうよ!!!」

 

「わしもお前を殺す気でいく!!! わしは海兵でお前は海賊……!! 借りがあると言うなら……ここで往生するんじゃな!! ぬえ!!!」

 

「……!! それは聞けない相談ね……!!」

 

 言外に“ある程度の願いであれば聞いてやったのに”と言うように厳しい表情で告げるぬえ。

 ぬえも借りはどこかで返すつもりだったが、“ここで死んでみろ”とまで言われれば是非もない。袂は既に、最初から別れているのだ。無理な願いを言うならここで……せめて自分の手で殺してやるとぬえは本気でガープを殺しに掛かる。

 そしてその因縁の戦いの近くでは海軍の英雄に並ぶ海軍のトップが怪物を相手にしていた。

 

「ハ~ハハハマママママ!! 覚悟は決まったようだねセンゴク!! だが覚悟だけで戦いに勝てるほどこの世界は甘くねェ!! お前ほどの男が知らない訳もないだろうに!!」

 

「……!! おれ達の勝ちと……貴様らの勝ちは違う!! ビッグ・マム!! 一人でも多く、生き延びる数を出来るだけ増やせれば……それだけでおれ達の勝利だ!!!」

 

「ハハハ!! そうかい!! だったら好きにしな!! こっちは1人でも多く殺すだけだからねェ!!!」

 

 生まれついての怪物がその暴威をセンゴクに向ける。センゴクは姿を大仏へと変えて迎え撃ち、出来る限り周囲への被害を留め、怪物をここに足止めするべく戦いを始めた。

 そして各地では白ひげ海賊団と海兵が戦場から逃げるための動きが生まれる。

 

「……! 青雉!! てめェは先に行けよい!!」

 

「! ……いいのか……?」

 

「ああ!! おれならまだもうしばらくは耐えられる!! お前の方は仕事があるんだろ!!?」

 

「っ……すまねェな……この借りは必ず返す……!!」

 

 青雉と共闘をしていた白ひげ海賊団1番隊隊長マルコは青雉を先に逃がすことに決める。

 それは白ひげ海賊団と海兵が共同で撤退するために必要な動きだった。協力し、手分けしなければ逃げることは難しい。

 そのためには青雉には動いてもらわないとならないし、この場の敵をある程度留める必要もある。その役目をマルコは引き受け、代わりに青雉には互いが生き残るために動いてもらうことにした。

 

「……随分とナメられたもんだ……本気でここから逃げられるとでも?」

 

「おれ達をたった一人で足止めするつもりだろうが、そう甘くいくと思うな……!!」

 

 ビッグマム海賊団の将星カタクリと百獣海賊団の大看板キングが揃ってここから逃げられるつもりかとマルコを威圧する。両海賊団の最高幹部、将星と大看板の最強の男2人を1人で倒すことは不可能であり、さすがのマルコも厳しい表情を浮かべる。

 だがそれでもオヤジの最期の命令を守るため、負けじと青い炎を立ち昇らせながら言い返した。

 

「どうあっても逃してもらうよい!! お前らに好き勝手家族を殺させやしねェ!!!」

 

「……家族想いも結構だが……生憎とおれ達を抑えたところで追撃の手は止まねェ……!!」

 

「お前1人なら確かに、それなりに耐えれるかもな……!! だがお仲間の方は満身創痍だ……!!」

 

「何とでも言ってろよい!!」

 

 カタクリの武装硬化した腕とキングの武装色で黒刀と化した刀がマルコに襲いかかる。

 マルコはそれらを受け止め、あるいは再生力で強引にしのいで彼らをこの場に留めることに終始した。

 

「青雉大将!!」

 

「……! 元帥命令だ……敵陣を突破して、まだ残っている軍艦に向かって走りなさいよォ!!」

 

「は、はい!!」

 

 そして海兵らは青雉の指揮により、白ひげ海賊団と協力して軍艦に向かって撤退を始める。

 だがその最中、青雉はもう1人の指揮官のことを気にして声を掛けた。赤犬──サカズキのことだ。

 

「おいサカズキィ!! おめェも早く──」

 

「……わしは行かん」

 

「は? おめェ、何をバカなこと──」

 

「行かんと言うとるんじゃ!!!」

 

「! だからバカなこと言ってんじゃねェってのよ……!! センゴクさんの命令を聞いてなかったのか……!!」

 

 青雉は赤犬に自身と同じ役割を促したが、返ってきたのは拒否──すなわち、撤退はしないという強い意思だった。

 命令違反とも取れるその激情からの言葉を、青雉は半ば憤りながらも言い返す。センゴクの命令を、最期の意志を無駄にする気かと。

 だが赤犬は口端から血を流し、息を荒くしながらも海賊達から目を離さない。青雉に背を向けながら返答をする。

 

「ふん……こんな時でも変わらんか……わしとお前は……意見を違えて喧嘩ばかりじゃ……!!」

 

「っ……んなこと言ってる場合かっての……!!」

 

 その言葉に青雉も思うところはある。何しろ、互いに折り合いはあまり良くはなく、作戦の方針などを巡って言い合うことも今まで少なくなかったのだ。

 とはいえ今はそれを振り返っている場合ではない。赤犬を説得し、撤退戦の指揮を取らせようとする。

 だがサカズキの方に、聞き入れる気がなかった。

 

「……ボルサリーノならわしらの間を取り持って上手いことやれたかもしれんがのォ……」

 

「……! それは……」

 

 そして次の言葉に青雉は先程よりも深く、その気持ちが理解出来た。

 先程殺された黄猿ことボルサリーノ。サカズキとクザンも新兵の頃から付き合いがあり、長いこと同僚として付き合ってきた仲だ。

 それだけに殺された恨みを晴らしたいという気持ちはある。師であるゼファーの分も含めて、クザンはその気持ちは理解出来た。だが──

 

「……! だがそれでも今は……!!」

 

「わかっちょるわい!! だがな……頭で理解しようが我慢ならんことがあるんじゃ……!! わしは……こんなクズどもから尻尾を巻いて逃げることなど出来ん……!! 1人でも多く焼き殺してやらねば気が済まん!!!」

 

「!」

 

 サカズキの激情がクザンに届く。その気持ちは痛いほど分かる。

 海兵として上の命令は絶対とも言っていいが、サカズキはそれを無視してでも敵を滅ぼすことを選んだ。

 そしてクザンは──

 

「……撤退の指揮は貴様ひとりで十分じゃろう……!! さっさと逃げろ。ここはわしが受け持っちゃる……!!」

 

「サカズキ……お前……」

 

「本望じゃろう。貴様はいつも部下や市民を生かしたがった……それが出来るんじゃ。海軍を立て直すのも、わしより()()()()()()()()()……!!」

 

 そしてサカズキは告げる。

 身体をグツグツの溶岩に変えてその身に秘める激情を燃やす。

 

「わしはどんな犠牲を払ってでも悪を根絶やしにする……!! 海賊という“悪”を滅ぼすためなら何でもする……!! “徹底的な正義”がわしの正義じゃ……!!」

 

 そう。だからこそ──

 

「だったらわし自身も犠牲にせにゃ……道理が通らんじゃろうがァ!!!」

 

「!!」

 

 そしてサカズキは、悪の進撃を止めるため──自分自身すら犠牲にする……捨て身の特攻に出る。

 

「ウオアアアアアアア!!!」

 

「あ、赤犬だ!!」

 

「ぎゃああああ~~~!!!」

 

「熱ィ!!」

 

 海賊達を根絶やしにし、少しでも同僚や部下を生き残らせるために。

 

「覚悟しちょれよ貴様ら!!! わしァ簡単には死なん!!! 1人でも多く道連れにしちゃるからのお!!! 地獄に行く覚悟が出来た奴からかかってこんかい!!!」

 

 そうしてサカズキは地面を右手で思い切り叩き、能力を全開で発動する。

 サカズキの能力はマグマ。触れるもの皆燃やし尽くすそれは敵も味方も関係ないもの。

 ゆえに周囲の被害を考えなければ……それはクザンやボルサリーノのような大規模な殲滅を可能とするのだ。

 

「“溶岩海”!!!」

 

「!!」

 

「うぎゃあああ~~~~!!!」

 

 地面から大量に生み出し、流れ出すそれは──マグマだ。

 周囲の熱気が高まり、マグマが触れた場所から炎が燃え盛り、戦場を一瞬で地獄の様相に変えていってしまう。

 そしてその流れ出すマグマを海賊達に放ち、サカズキは海賊達の行く手を阻むように立ち塞がる。誰一人、ここを通すつもりはない。ここにいる者は皆殺しにしてやると言わんばかりに。

 

「早く行かんかい!! クザン!!!」

 

「……!! わかった……!! だが……簡単には死ぬんじゃねェぞ!! サカズキ!!」

 

「ふん……!! 誰に言っちょるんじゃ……!!」

 

 振り向くことないサカズキの戦う姿に、クザンもまた覚悟を決めて撤退を行う。

 だがそれもまた茨の道だ。おそらくは残ることを決めたサカズキよりも。

 海兵を生かし、己の正義を貫く……悪から未来を守ることを決めたクザンの道は他の誰にも出来ない重すぎる大役だった。

 

 ──だが白ひげや海軍の猛者達が殿に残ったとしてもなお敵の数は多い。

 

「ムサシ!! 逃げるぞ!!」

 

「……いや、我は残る!!」

 

「何!? 何でだ!! このままじゃお前も……!!」

 

 ムサシは元スペード海賊団のデュースらの呼びかけに応えず、1人その場に立ち止まるとデュースの言葉に決心した表情でこう答えた。

 

「忘れたのか? 我は元々は百獣海賊団……()()()()()()()()だぞ」

 

「! ……だが、それは……」

 

「ふっ……安心しろ。捕まることはあっても我なら殺されることはない。だが……お前達や、エースは違う」

 

 そう、ムサシの出自を考えればこの戦争がどうなろうとムサシは死ぬことはない。

 自らが悩み、あえて口にしてこなかった真の生まれを口にし、だからこそ出来ることがあるのだとムサシは強い言葉で言い放つ。

 

「我のこの生まれが……エースやルフィ達、お前達の助けになるなら本望!! ここは我に任せてお前達は逃げろ!! ここはワノ国が誇る天下無双の剣士!! ムサシが引き受けた!!!」

 

「!!」

 

「! ムサシ!! てめェ……!!」

 

 ムサシの刀がフーズ・フーの部下を斬りつけて倒す。フーズ・フーが驚き、憤った表情を見せる中、ムサシは不敵な笑みを浮かべた。

 

「デュース……エースに伝言を頼む──」

 

「! …………わかった……」

 

「頼んだぞ……さあ行け!!! 鳥カゴはなくなった……どうにか逃げ切ってみせろ!!」

 

「っ……!! ああ!!」

 

 ここにムサシを残し、自分達だけ逃げることに逡巡したデュースらだったが、ここにいても自分達は死ぬだけでムサシの負担を増やすことになると判断し、苦渋に満ちた表情でその場から駆け出す。背後でムサシと百獣海賊団の声が遠ざかるのを耳にしながら。 

 

「チッ……ドフラミンゴの野郎……肝心な時に使えねェな……!! おい、ムサシの方はおれが相手する!! お前らは他の連中を追え!! 絶対に逃がすな!! カイドウさんやぬえさんの手を煩わすんじゃねェぞ!!」

 

「は!!」

 

「パパ……フーズ・フーが相手では中々複数の足止めは難しいが……それでも1人でも多くこの場に釘付けにしてみせようぞ!! 推して参る!!!」

 

 フーズ・フー率いる部隊をムサシが足止めをすると白ひげ海賊団や海軍が逃走を始め、クロコダイルなどもいつの間にかその場から消えている。

 だが周囲は全て海賊同盟側の戦闘員に囲まれており、突破すべき障害は山程存在した。

 

「全く……戦いの最中に逃げるなんて無粋なことするんだねぇ」

 

「う!?」

 

「何だこれ!! クモの糸か!!?」

 

 我先にと湾内の白ひげ海賊団の船へ向かおうとした海賊達の足が何やら粘ついたものに取られて動けなくなってしまう。

 そうして現れたのは和服姿の女性達、百獣海賊団の船員だ。

 そしてそれらを率いて中央に立つのは白ひげやカイドウにも匹敵する巨体を持った和服の美女であり、今は足元を8本足の生き物に変化させている百獣海賊団の猛者。

 

『百獣海賊団“飛び六胞”ブラックマリア クモクモの実(古代種)モデル“ロサミガレ・グラウボゲリィ”』

 

「うふふ♡ 悪いけど、誰一人逃がすなってのが命令だからねぇ。全員エサになってもらうよ♡」

 

「ブラックマリアか……!!」

 

「クソ……!! この糸抜け出せねェ!!」

 

 巨大な古代クモに一部を変化させ、艶のある笑みを向けるブラックマリアとその部下達。

 誰もが能力で面妖な姿に変化し、白ひげ海賊団と海兵を足止めしようと立ち塞がった。

 だがそれだけでなく、空からも逃走を阻止しようとする脅威が襲いかかる。

 

「可愛い部下達も頑張ってるみたいだしね!! 応援のUFOおかわりよ!!」

 

「!!? UFOがまた増えやがった!!」

 

「また弾幕が激しくなって……!!」

 

 ぬえが遠隔操作のUFOを再び大量に生み出し、行く手を阻むべく弾幕を作り出す。

 その攻撃は無視出来るようなものではないが、無視するしかない。ここにいては袋の鼠。どれだけ粘っても囲まれたままでは磨り潰されてしまう。強引にでも突破して逃げるしかないのだ。

 

「エースさん!! ルフィ君!! 先に行け!! お前さん達は特に狙われとるんじゃ!!」

 

「……じいちゃん……!! おっさん……!!」

 

「……ああ!! わかってる!! 覚悟を無駄にァしねェ!!!」

 

 そしてルフィとエース。

 この戦場において金獅子のシキという大物に狙われている2人をジンベエは守るようにして走る。

 何しろ追いかけてくるのは膨大かつ強大な敵達だ。

 

「おいおい……お前ほどの男がおれ達を甘く見すぎじゃねェか? ジンベエ……お前達に出来るのは戦って死ぬか、逃げて死ぬかだ……!! 都合よく戦わずに逃げて生き延びられると思われちゃあ……たまらねェな……!! すぐに撥ね殺してやる!!!」

 

「バカね。湾内は凶暴な動物だらけよ……!! 外側も固めてる。逃げ場なんてないわ」

 

 百獣海賊団の“飛び六胞”。トリケラトプスに変身して逃げようとする敵を轢き倒していくササキと、大看板のジョーカーが彼らの背中を追いかける。

 だがエースは心残りがあるようで何度も広場の中心を振り返る。

 何しろそこには最も強大な敵を足止めする“白ひげ”の姿があったからだ。

 ゆえに今そこに行けば必ず足手まといに……迷惑を掛けることになる。

 しかし放置出来ないという気持ちを未だ抱え続けてもいた。エースは迷い、結果足を進めながらも何度も白ひげの方に振り向く。

 それを感じ取ってか──白ひげはエースの方を向かずにふと大声を出した。

 

「……言葉はいらねェぞ!! エース!!! 一つ聞かせろ……!!」

 

「! オヤジ……!!」

 

 そして問いかける。

 白ひげがずっと燻ぶらせ続けていたその本当の気持ち、迷いを晴らすために、エースの本心が聞きたいと。

 

「……おれが親父で……良かったか……?」

 

「……!! 勿論だ……!!!」

 

「……グララララ……!!」

 

 エースはその問いに一瞬驚いたが、すぐに歯を噛み締め、戻ろうとする足を止めて本心からの肯定だけを大声で口にする。

 そうすれば白ひげは豪快に笑った。死にかけの老体とは思えない笑みを浮かべ終えると、再び覚悟を決めたという様に最後の活力を漲らせ、不敵な笑みを目の前の怪物に向ける。

 

「それだけ聞けりゃ十分だ……!! ──さあカイドウ!! てめェの相手はおれだ!!!」

 

「……! まだ動けるってのか……?」

 

 そしてその衰えぬ戦意を見たカイドウは僅かに驚いた様子で疑問を投げかける。

 カイドウから見た白ひげは既に死んでいる。ぬえに刺され、幾つもの傷を負った白ひげが未だ戦える道理はない筈。

 だが先程自分を望外のパワーで殴り飛ばした──そして今なお立ち続けている……その不死身とも言える有り様にカイドウが疑問を覚えるのは自然なことだった。

 しかし白ひげは言う。戦える理由はあると。

 

「怪物の相手は怪物にしか務まらねェだろう……!!!」

 

「…………」

 

 そう、カイドウの相手は……白ひげにしか務まらない。

 

「だったらよ……愛する息子達の未来のために……怪物のおれはまだやらなきゃならねェ……!!! あいつらに希望を残してやらなきゃ……おれァ死ぬ訳にはいかねェじゃねェか……!!!」

 

「!!」

 

 消えつつある命の灯だが……それで少しでも愛する息子達を守れるなら本望。

 

「来いよ……カイドウ……!!! てめェ、最強が欲しいんだろ……!!? ──だったらおれの首直接取って……証明してみやがれ!!!」

 

「……!! “白ひげ”……」

 

 そして最強の海賊、怪物“白ひげ”としての自負と誇りを賭けて。

 安っぽい挑発であっても構わない。これを無視出来る筈がないのだ──“最強生物”が。

 

「ウォロロロロ……!!!」

 

 白ひげは直に、放っておいても死ぬ。

 ゆえに放置して逃げる奴らを追いかけるのが賢い選択だ。

 だがそれを理解しながらも……怪物カイドウは口元をニヤリと吊り上げ、その選択を即座に切り捨てた。

 真に最強の座を手に入れるなら、手負いであっても白ひげの首を無視する理由はない。

 それにたとえ意味がなかったとしても──

 

「ウォロロロロロロ!!! いいだろう!!! 白ひげ!!!」

 

 ──今の白ひげを……無視出来る筈がない!! 

 

「死んでも死にきれねェってんならおれが最期まで相手してやる!!! 怪物“白ひげ”の正真正銘……最期の死力を見せてみろ!!!」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 そうして──最初で最期、2人の最強がたった一つの座を求めて激突する。

 互いの攻撃は互いに防御を行うことなく──凄まじい衝撃と轟音を周囲に伝えながら……交差した。

 

「ち、近づけねェ……!!」

 

「か、怪物だ……!! どっちも……!!」

 

 怪物の激突を遠巻きに見守る──見守ることしか出来ない海賊達が顔を青褪めさせながら息を呑む。

 それだけ2人の怪物の戦いは凄まじく、何よりも恐ろしかった。

 最強の海賊“白ひげ”の地震のパワーと覇気を込めた一撃がカイドウを殴れば──

 

「ぐ……!! オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 今度は最強生物カイドウの一撃が白ひげの肉体に直撃し、足をよろめかせる。

 どちらの攻撃も一発一発が衝撃波を周囲に撒き散らし、天と地を揺らすもの。

 おおよそ人同士の争いとは思えないその戦いぶりは──まさしく怪物。

 

「ハァ……ハァ……まだだァ!!! この程度じゃおれは死なねェぞォ!!!」

 

 覇気の源となる戦意、殺意、敵意……それらを昂ぶらせ、吠え、敵を屠るべく全力を込めて人外の膂力で以て殴り合う。

 意地と気力で立ち続ける白ひげと、その心意気に応えて全てを受けるカイドウ。その戦いは一秒一秒が濃密で……他の全てが霞んで見えるほどだった。

 ほんの僅かな時間しか経っていなくとも、まるで何時間も戦っているかのように錯覚させられるその戦いを、白ひげは鬼気迫る表情で踏ん張り続け、カイドウは喜々とした表情で見届け、付き合っていった。

 

 

 

 

 

 ──だがしかし。

 

「……!! 今だ……!!」

 

「──あ……?」

 

 その戦いの終わりは──あまりにも唐突に訪れる。

 混戦の中、殴られた衝撃で怪物が僅かに下がったその時、背に近づいた──()()()()()()()

 

「!!!?」

 

 白ひげの背を再び凶刃が貫き──多くの者達が表情を一変させて絶句する。

 死闘を繰り広げていた多くの猛者達も。

 

「……し、“白ひげ”が……!!」

 

「……!! マズいな……!! 早く行かねば手遅れになるぞ!!」

 

 シャボンディ諸島や各地で見ていた市民。あるいは()()()()()()

 そして……目の前で最期の戦いを楽しんでいたカイドウでさえも。

 多くの人々が白ひげの最期の気力が失われていくのを目の当たりにし──

 

「ゼハハハハ……!! 獲ったぜ……オヤジィ……!!!」

 

「……ティー……チ……!!!」

 

「……!!!」

 

 ──その瞬間、世界は一度静まり返った。




エース&ルフィ→シキを相手に逃げる。
シキ→逃がす気はない。そろそろ何かを……?
ハンコック→ジャックと交戦中。
ジンベエ&イワンコフ→追いかけてくるササキ&ジョーカーと戦いながらルフィ達を守る。
ソノ&ブリュレ→後方支援担当。かなりずるい
ジョズ→ぬえちゃんにやられて戦闘不能。生死不明。
ドフラミンゴ→白ひげに殴られて鳥カゴ消失。でもバカ耐久だから……?
マルコ→キング&カタクリを足止め。
ムサシ→デュースに伝言を頼み、彼らを逃がすためにフーズ・フー率いる部隊と戦闘。成長した。
ブラックマリア→逃げる奴らを蜘蛛の糸で止める。何気に強い気がする。
サカズキ→海賊達の足止め。覚醒みたいな技を使いだす。
クザン→海兵を率いて撤退の指揮。
センゴク→元帥命令で海兵達に撤退の指示を出し、自らは残る。
ビッグマム→センゴクと交戦。
白ひげ→死ぬ気で家族を逃がすためにドフラミンゴを気絶させ、カイドウとの最期の戦いに挑む。原作よりも怪物感マシマシ。
カイドウ→白ひげと最期の戦いに挑み、楽しむ。
ガープ→ぬえちゃんと交戦。
ぬえちゃん→ジョズを倒してガープと交戦。可愛い。
黒ひげ→過信……軽率……お前の弱点だ(震え声)

今回はこんなところで。戦争編は切りのいいところまで書くのに1万文字じゃ効かないから多少分量や投稿速度遅れるのは許してほしい。
次回は黒ひげが生き残るために特大の地雷を踏んだところからです。戦争編も佳境ですが、まだまだ色々あります。お楽しみに。

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