正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

121 / 173
大海賊エドワード・ニューゲート

 この戦争が始まるという情報が全世界に広がった時、人々の頭を一度はよぎった事がある。

 

 ──怪物“白ひげ”は死ぬのか? 

 

 人々は好き勝手に意見を口にする。「さすがの白ひげも海軍本部と王下七武海に勝てる筈がない」「そこらのジジイと一緒にするな。老いても奴は怪物だ」「どちらが勝ってもえらく死ぬ」──そうやって様々な意見が出るのは誰もが戦争後の世界を憂いていたからだ。

 いや、もしかすると誰もが感じ取っていたのかもしれない。世界が変わるという未来を。

 人々は不安を抱えながら戦争の推移を見守り、そして更なる動乱に胸をざわつかせる。

 その戦争を見ていた誰もが、その瞬間を見ていた誰もが思った──“白ひげ”はこのまま“百獣のカイドウ”と戦い、その生涯に幕を下ろすのだろうと。

 

 ──しかし、そうはならなかった。

 

「ゼハハハハハハハハハハ!!!」

 

「……!! “白ひげ”……!!」

 

 背後から胸を刺され、吐血する白ひげ。

 多くの人々が顔を青褪めさせ、そうならなかった者達も眉をひそめて汗を掻く。

 白ひげとカイドウの最後の決闘。その隙を突いて不意打ちを……横やりを働いたのは白ひげ海賊団もよく知る、この戦争に姿を現さなかった最後の七武海。

 

「ゼハハハハ……!! 獲ったぜ……オヤジィ……!!!」

 

 ──“黒ひげ”マーシャル・D・ティーチだった。

 

「白ひげがやられたァ~~~~~!!!」

 

「あれは……黒ひげ海賊団!!?」

 

「オヤジ~~~~~!!!」

 

 一瞬の静寂の後、マリンフォードが揺れる。

 白ひげが背後から刺される。その背後にいたのは白ひげ海賊団から仲間殺しを行い逃亡した“黒ひげ”とその仲間達──“黒ひげ海賊団”だったのだ。

 

「……!!? なんだあのガキ共……!!」

 

「“白ひげ”……!!」

 

「ティーチ……!! あの、野郎……!!!」

 

「! エース!!」

 

 その衝撃は白ひげの宿敵であった“金獅子”にも歯を食いしばらせ、“ビッグ・マム”すら驚き、目を見開く。

 そして最も因縁のあるエースは額に青筋を立てて怒りのまま来た道を戻って駆けて行った。ルフィがエースの名を呼び止めようとするも止まらない。

 全力で撤退を行っている海兵ですら目を剥くしかない。戦場に現れた黒ひげと共に現れたのは囚人服を着たインペルダウンの“LEVEL6”の死刑囚達──ここにいる筈のない連中だった。

 

「どいつも過去の事件が残虐の度が越えていた為に世間からその存在をもみ消された程の……世界最悪の犯罪者達……!!!」

 

「1人たりとも絶対に世に出してはいけない奴ら……!!」

 

「なぜあいつらがここにいるんだ!?」

 

 海兵達は予想外の事態と面子に驚愕する。海賊達も、これを見ている民衆達も同様に。

 だが唯一、本来起こっていたそれを知っていたぬえだけは気づいた。

 

()()()()()……!?」

 

「……?」

 

 ガープと戦闘中のぬえは沸き立つ怒りの前に他の者達とは別のことに驚く。本来いた筈の連中──それも少し前までいた筈の連中が消えている。

 目の前の戦いに集中するため見聞色で広範囲を知覚することは止めていたが、その間にどこへ行ったのかと。

 鍔迫り合うガープはぬえが内心驚愕していることを知らず、その反応に頭に疑問符を浮かべたが、それがどういった意味での反応なのかはわからなかった。その間にも、戦場に立つ黒ひげ海賊団の面々は戦場を見渡して反応を寄越しているが、それは重要ではない。

 問題は何よりも──黒ひげが白ひげを強襲したことだ。

 

「ティーチ……てめェ……!!」

 

「ゼハハハハ……!!! さすがのオヤジももう終わりだなァ!! このまま蜂の巣にして──」

 

「危ない!! 船長!!」

 

「!」

 

 黒ひげは、血を吐き今にも倒れそうな白ひげに更に追撃を行おうとするが──その前に、白ひげとは別の巨躯が影を落とす。

 

「!!!」

 

「おわ!!!」

 

 間一髪、先程まで黒ひげがいた場所の地面が割れる。

 怪物白ひげを不意打ちしたことに怒りの形相で金棒を振るったのは──“百獣のカイドウ”だ。

 

「てめェ……おれの戦いを邪魔しやがったな?」

 

「…………!!! お、おい待て!! カイドウ!! おれはお前にいい話を持って──」

 

「──そんなに死にてェなら白ひげよりも先に……まずてめェから殺してやる」

 

 カイドウは怒気に染まった表情で黒ひげに問いかけ、そして殺気を静かに、その意志を実現するのに最も最適である己の金棒に込め、それを目の前の邪魔者に向かって振り抜く。

 

「!!! ブ……グアアアアアアアアアア!!?」

 

「船長!!」

 

 黒ひげがカイドウの金棒に殴られて地面を転がる。顔から大量の血を流し、痛がる黒ひげを船員が心配するが黒ひげが気絶する様子はない。黒ひげ海賊団以外の面々からすれば予想外ではあるが、どうやら黒ひげはカイドウの攻撃に耐えうる体力を持っている様だった。

 

「ぐ……アア……!! 痛ェエ!! ちくしょう……やっぱダメか!! だったら……無理やりにでも奪って行くしかねェな……!!」

 

「!!」

 

「あの野郎、カイドウさん相手に何するつもりだ!?」

 

 黒ひげが地面を転がりながらも立ち上がり、カイドウに向かって対峙する。どうやら戦うつもりのようだが、カイドウを知る者からすればそれは自殺行為でしかないため、一体何をするつもりなのかとクイーンが疑問を言葉にする。

 だが黒ひげは理解している。たとえ格上が相手であろうと……闇の力は通用すると。

 

「“闇穴道(ブラック・ホール)”!!!」

 

「!!」

 

 黒ひげの身体から黒い靄の様なものが漏れ出ると、そのまま地面を真っ黒い闇で覆い尽くす。

 その闇はカイドウの足元を覆って捕まえ、動くことを許さない。

 そしてそのままカイドウの身体に触れれば、能力を使うことも出来ないのだ。

 

「ゼハハハハ!! カイドウ!! てめェの不死身の耐久力は能力の一端なんだろう!? おれの手にかかれば不死身のお前だって殺せるぜェ!!! どうだ!? 死んでみるか……」

 

「……!!」

 

 黒ひげはヤミヤミの実の闇人間。

 その能力は能力者の実体を正確に引き寄せ、能力者の実体に触れることで如何なる能力も封じることが出来る。

 ゆえに黒ひげはこの世全ての能力者に対し、防御不能の攻撃力を持っている。

 それは四皇さえも例外ではない。無敵と称される耐久力を持つカイドウですら動物系の能力者であり、その屈強な肉体は動物系の力のおかげでもある。

 だからこそ黒ひげの攻撃はカイドウにも通じた。それは間違いなく、黒ひげの拳にカイドウは僅かに眉を寄せる。

 しかし……それまでだった。

 

「“雷鳴八卦”!!!」

 

「!!!」

 

 黒ひげがカイドウに攻撃を加えた後、カイドウは闇の引力から足を肉体の力で無理やり引き抜き、そのまま踏み込んで黒ひげを覇気を込めた金棒で振り抜いた。

 黒ひげは過信していた。そして軽率でもあった。

 四皇に数えられ、一対一の戦いなら最強とまで称されるカイドウの力が能力だけに依存している筈がない。

 能力がなかろうともカイドウは戦闘において迫撃を得意としている。

 闇の力で如何に能力を封じようとも、近づいて殴り合うならカイドウより強い生物はこの世に存在しない──“最強生物”だ。

 

「お前如きが……誰を殺せるだと……?」

 

「あ……ア……!!!」

 

 カイドウに金棒で殴り飛ばされ、吹き飛んだ黒ひげ。

 だがカイドウや他の者達にとっても意外であったのは、カイドウに敵わず殴り飛ばされようともまだ気絶していないこと。

 

「やばい!! 船長がやられる!!」

 

「だから言ったんだ……四皇同士の戦いに割り込みやがって……!!」

 

 ゆえにカイドウはそのまま生きている黒ひげにとどめを刺すべく動く。それを見かねた黒ひげ海賊団の面々が止めに入ろうとした。だが──

 

「──よくもやってくれたわね」

 

「!! “妖獣”!?」

 

「私達の殺し合いに割り込んだんだから……あなた達にはその責任を取って貰わないとね……望み通り、先に殺してやる!!! 

 

「ぐ……!!」

 

「UFOの弾幕が一斉にこちらに……!!!」

 

 それを更に止めようとガープと戦闘中のぬえのUFOが一斉に彼らを狙う。白ひげ海賊団や海兵らを空から襲っていた筈のUFOもその殆どが黒ひげ海賊団に向けて弾幕を放った。

 

「許さねェ……!!」

 

 そして更にエースを筆頭に白ひげ海賊団の血の気が多い者達が黒ひげを狙おうと振り返る。彼らにとっても、黒ひげは仲間を殺し、このような状況を作った張本人でもあるのだ。許せる筈がない。

 しかし、それすらもまた──

 

「手ェ出すんじゃねェ!! お前らァ!!!」

 

 ──他ならぬ白ひげによって止められた。

 

 

 

 

 

「カイドウ……お前もだ……!! これはおれ達の問題……おれァこのバカの命を取ってケジメを付けなきゃならねェんだ……!!!」

 

「……!!」

 

 白ひげは黒ひげを狙うカイドウすらも止めた。

 もはや息子とは呼べないティーチの窮地を救う理由はない。だがそういう問題ではないのだ。

 息子を殺したこの男にケジメを付けるのは親父であり船長である自分の仕事だ。だからカイドウには悪いが、勝負を中断してでもこいつは殺さなきゃならない。

 それに、既に勝負はついているようなものだ。カイドウがそれをどう感じるかは知らないが、それで納得してもらうしかない。もう自分にはカイドウと戦えるだけの力はないのだから。

 

「ゼ……ゼハハハハ……!! オヤジ……オヤジにおれは殺せねェよ……!! 昔のアンタなら文句なしに最強だったが……アンタは老いた!!! 今やおれが心より尊敬し、憧れていた頃の怪物ではねェのさ!!! 今のオヤジじゃこの戦場で家族を守ることなんて出来ねェなァ!!! 全員死ぬぞ!!!」

 

「あの野郎……!!」

 

 そして黒ひげは老いて弱くなった白ひげも嘲笑ってみせる。

 そのことで白ひげの家族は再び振り返り、怒りに身を任せようとするが、まだ冷静な船員らがそれを止める。白ひげは止めてくれたことに密かに感謝しながら黒ひげに攻撃を加えた。

 

「ゼハハハ……!! 地震は起こせねェぞ!! 闇の前には全ての能力は……」

 

「…………」

 

「!!! ゴワアァア!!! 痛ェ……!! 畜生……!!!」

 

「過信……軽率……お前の弱点だ……」

 

「い……え!!? オイやべろ!!!」

 

 闇の能力を過信していた黒ひげに薙刀で一撃を加え、そのままもんどりを打って倒れる黒ひげの首根っこを押さえる。

 そうして最期の力をそこに込めた。

 

「ぎゃあ~~~!! やべろォ!!! オヤディ!!! おれ゛は息子だど本気で殺スン……ああああああ……!!!」

 

「!!!」

 

 地震の力で地面ごと、ティーチの頭を割るつもりで能力を解放する。だが、

 ……もうここまでか……。

 黒ひげは死んでいない。もはや己の力は最も強かった頃の見る影もない。たとえ黒ひげが予想以上に力を付けていたとはいえ……裏切り者の部下1人を殺せないほどに弱まっており、立っているだけで精一杯の状態だった。

 

「この……“怪物”……がァ!!! 死に損ないのクセに!!! ……黙って死にやがらねェ!!!」

 

 黒ひげと黒ひげの部下達の向ける銃口が自身を捉えたと白ひげは知覚したが、それを止める力はない。

 

「やっちまえェ!!!」

 

「!!!!」

 

 ──集中砲火。

 もはや感覚のない身体に幾つもの銃痕が、刀傷が、刻まれていく。

 周囲から家族の慟哭と黒ひげの高笑いが聞こえる。

 だがそこに来て、思い出すのは走馬灯だ。

 

『……違う!! おれは“ゴール・D・ロジャー”!!!』

 

『時々会うな。“D”を名に持つ奴ら……ウチにもティーチってのがいる。“D”ってのは何なんだ……』

 

『おお、知りてェか。よし教えてやろう……遥か昔の話だが……』

 

 かつて自分が自首する前のロジャーと話した“D”についての……過去の話を。

 

『ギハハハハ……おいニューゲート……おめェ、運命って信じるか?』

 

『運命?』

 

『そうさ。あるかどうかも定かじゃねェ。確かめる術なんてねェが……おれはそれがあると睨んでる。それで、おれはその運命とやらを壊してェ。決まりきった未来の結末をな』

 

『……そんなものが……?』

 

『言われただけじゃ信じられねェか!! ……ならちょっとだけ教えてやる。おれの知る結末ってやつをよ……』

 

 ロックスが最期の戦いに赴く前の夜。ロックスが知り、壊したいと願った運命の……未来の話を。

 

「……んあっ。弾切れだ……」

 

「──お前じゃねェんだ…………ハァ……ハァ……」

 

「!! ……まだ生きてんのかよ!!!」

 

「ロジャーが……いや、()()()()が待ってる男は……少なくともティーチ。お前じゃねェ……」

 

「あ!?」

 

 それらが頭に浮かんだ時、自然と言葉は出てきた。

 

「ロックスの意志を継ぐ者達がいる様に……ロジャーの意志を継ぐ者だっている……この先、“血縁”を絶とうが何をしようが……あいつらの炎が消える事はねェ……」

 

 思い描く人物は2人の義兄弟。

 

「──そうやって遠い昔から脈々と受け継がれてきた…………!! そして未来……いつの日か、その数百年分の“歴史”を全て背負って、この世界に戦いを挑む者が現れる…………!!!」

 

 そしてもう片方もまた……2人の義兄妹だ。

 

「カイドウ……ぬえ……たとえお前達が世界を破壊し、支配しようともまだ終わりじゃねェ……世界中を巻き込む程の“巨大な戦い”の時は……必ず来る!!!」

 

「…………!!」

 

「……白ひげ……」

 

 世界政府が倒れてもその時は来るのだ。

 ここで意志を継ぐ者達が消えたとしても、いずれまた新たな意志を継ぐ者達が現れ、必ずその時はやってくる。

 

「興味はねェが……あの宝を誰かが見つけた時……世界はひっくり返るのさ……!! 誰かが見つけ出す……そして雌雄を決する時は必ず来る……」

 

 言う。

 この炎もまた、受け継がなければならないから。

 

「“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”は──実在する!!!」

 

「!!!?」

 

 世界中にその種をばら撒く。

 たとえ世界が崩壊しようとも、その火が消えないように。

 

 ──許せ息子達……とんでもねェ状況を招いちまった……おれはここまでだ。

 

 そして息子達に謝罪をする。

 

 ──お前達には全てを貰った。

 

 思い出すのは自分が欲するそれを船員に口にしたあの日のこと。

 

『おかしいぜ。海賊が財宝に興味ねェなんてよ。お前一体何が欲しいんだァ? おいニューゲートォ!!』

 

『…………ガキの頃から欲しかったものがある』

 

『おお!! あるのか、教えてみろ!』

 

『……………………家族

 

『何だそりゃあ、ギャハハハハ……』

 

 ──感謝している。さらばだ、息子達…………!! 

 

 そして最期に感謝を告げる。

 そうして彼の意識は闇に溶けていく。

 

「…………ん? ……あ……!!」

 

「……し……死んでやがる…………立ったまま!!」

 

「……!! ……オヤジィ……!!!」

 

 そして“白ひげ”は死亡する。

 

 死してなおその体は屈する事なく──心臓を失いながらも敵を薙ぎ倒すその姿、まさに“怪物”。

 この戦闘によって受けた刀傷。実に──三百二十と六太刀──。

 受けた銃弾百と九十四発──受けた砲弾──六十と二発──さりとて──その誇り高き海賊人生に。

 

「逝ったか……白ひげ」

 

 一切の“逃げ傷”なし!!!  

 

 

 

 

 

 その瞬間を、私は他の大勢と同じ様に息を呑んで見ているしかなかった。

 かつてこの海で“海賊王”と渡り合った伝説の男……白ひげ海賊団船長“大海賊”エドワード・ニューゲート。

 “白ひげ”と呼ばれ、善性を持ちながらも私達と同様の恐れを抱かれ、その畏怖は留まることを知らなかった彼が──死亡した。

 

「…………」

 

 その瞬間、私は戦うことも忘れてただ黙って思いに耽っていた。

 覚悟し、理解していたことだ。白ひげがここで死ぬことは。

 他の者達とは違う。私だけはここで死ぬことを知っていたし、そうでなくともここで殺す覚悟をしてきてこの決戦に臨んだのだ。

 途中までは予想外でありながらも理想だった。

 白ひげは私に刺されながらも戦う気勢を衰えさせず、カイドウと殴り合うことまでした。

 私の一撃で死ななかったことに対する残念さは不思議となく、死してなお戦う不条理に対する文句もない。

 私は“白ひげ”がここまで、まだ、私達の想像を超えてくることに驚き──そして歓喜した。

 きっとそれはカイドウも同じだ。私との戦いで死ぬと思っていたカイドウもまた、己と死闘を演じられる怪物と対峙したことに歓喜し、血を沸き立たせただろう。

 だから敬意を払った。

 敵ではあっても──ではない。私達と戦える数少ない“敵”だからこそ、本気で真正面から討ち倒す。

 白ひげは確かに老いたが、それでもなおここまで戦り合えるならやはり“怪物”だ。

 老いさらばえ、晩節を汚したとは言わせない。私達が直接戦い、殺すことでその凄まじい“白ひげ”という男に最高の死に様を与え、人として完成させようとした。

 カイドウはそう考えているだろうし、私もそうなればいいと思っていた。偉大な男にはそこらの老人の様な、老衰で死ぬようなチンケな死に様では不釣り合いだ。偉大なる死を与えてやる必要がある。

 

「そう思っていたのに……」

 

 だが……白ひげは私の記憶通りに殺された。

 途中経過はどうあれ、最期の結末だけは同じだった。

 この賭けるには分の悪い戦場。今から横槍を加えて掻っ攫うには自殺行為だと思える状況でさえ──黒ひげは仕掛けてきた。

 私が意識から外したのを読んでいる筈がないが、偶然ではない。

 おそらくは私達が戦いに集中していることを読んでいたのだ。私の様な見聞色を極めた強者でさえ、同等の強者と戦っている時は目の前に集中しているため、自身に関与しない事柄にまでは意識は及ばない。

 つまるところこの混戦の中であれば、隙を突いていけると判断した。賭けに出た。この後も、逃げられると。

 こんな時に仕掛けてくる筈がない。それはただの自殺行為だとそう思い、黒ひげの軽率さを見誤り、そして思ったよりもこの戦争で余裕がなく、放置したからこそ……私は黒ひげの横やりを阻止出来なかった。

 

「やっぱ計算向いてないなぁ……」

 

 まあ読み間違えは仕方なかったかもしれない。私は特別頭が良いわけじゃないからなぁと自嘲する。

 だからこうなったのもやはり……“力”が足りなかったせいだろう。

 物語ではない。人生なのだから上手くいかないことだってある。

 

「待て!! エース!!」

 

「止めるな!! ティーチ……あの野郎ォ……殺してやる!!!」

 

 白ひげに偉大なる死を与えられなかったことに対する後悔はある。自らに対する苛立ちも。

 だがやはり結局──やるべきことは変わらない。

 

「──邪魔よ」

 

「!!」

 

「エース!!」

 

 前方から黒ひげを殺ろうと猛追してくる子供を拳で吹き飛ばす。思わず投げやりにかなり手加減してしまったが、それでも鼻や口から血を出し地面に背を打ち付けているエースに、それを支えるルフィ。

 この子達も戦場にいる以上は殺す相手ではあるが、私自身が殺りたい相手ではない。

 少なくとも今は。

 

「後先考えないガキが……私の邪魔をするな。アイツは……私が殺す……!! 私の獲物よ……!!!」

 

「……!!!」

 

 逃げたいなら、逃げれるなら逃げればいいと私は振り向かずに威圧するだけに留める。

 何をするにもまずは黒ひげを殺してからだ。無茶な賭けをしたツケは払ってもらわないといけない。わからせる。それ以外は後回し。それが終わってから他の奴らを殺す。

 もはやショーをする気分でもない。黒ひげをさっさと見せしめに殺し、それまでにこの戦場に残ってる連中もさっさと皆殺しにする。

 それまでに気分が戻っていればいいが──

 

「ハァ……ハァ……へへへ!! よしお前ら、持って帰るぞ!!」

 

「させると思ってんの?」

 

「!!! 畜生……!! やっぱダメか!!」

 

 ──とりあえず、殺すだけ殺してから考える。

 私は目的を持って不敵に笑う黒ひげに向かって、空中から強襲した。

 

「私が殺すって言ってるんだから……大人しく殺されなさいよクソガキが……!!!」

 

「チッ……しょうがねェ!! 今は妥協するしかねェか……!! 野郎共、逃げるぞ!!!」

 

「逃さないっつってんでしょうが……!!!」

 

「!!? ギャアア!! 痛ェ!! アアア……!!」

 

 黒ひげの目的であろう白ひげの死体の前に移動し、私は逃げようとする黒ひげに向かって遠距離からレーザーを放つ。

 だがそのレーザーは黒ひげへの致命傷にはならない。ダメージは受けているが……無駄にタフだ。ここは確実に頭を潰してやるのがいいだろうと槍を構える──これで串刺しにしてやる。そう思い、黒ひげに狙いを定めたが──

 

「ハァ……ハァ……バカめ!! おれが何の策も無しに出てくると思ったか!! ──おい、さっさと()()()逃げるぞ!!!」

 

「準備は出来てるぜ!! 船長!!」

 

「……!!? あれは……」

 

 だが、またしても私にとって予想外のことが起きる。

 黒ひげが息を乱しながらも不敵に笑い、部下に命令する。そうして取り出して見せたのは巨大な鏡と──

 

「!!? ──()()()()!!!」

 

「……!!」

 

 カタクリが血相を変えて叫ぶその先──黒ひげ海賊団が持つ鏡の中に映っていたのは、口を押さえられ、手足を縛られたブリュレと、それを捕まえている黒ひげ海賊団のここにはいなかったメンバー達だった。

 

「……!! やられた……!!!」

 

「ゼハハハハ!!! お前らの船でも奪えねェかと様子を見てみたら面白ェモンが見えてな!!! ありがたく使わせてもらうぜ!!! 逃げるのにこれほど使える能力はねェからよォ!!!」

 

 黒ひげが鏡の中に半ばほど入り、勝ち誇った様子でこちらを煽る。更に怒りが沸き立ち、追撃を試みるもわかってしまう──()()()()()()

 

「ぬえ様!!」

 

「! ソノ……!!」

 

 そうして歯噛みしていると、今度は味方の、それも今一番話が聞きたかった者が現れ、声を掛けてくる。血塗れだが何とか生きて逃げてきたであろうその人魚は、後方支援を任せていたウチの真打ちであるソノだ。

 

「ハァ……ハァ……報告が遅れて……申し訳、ありません……“鏡世界(ミロワールド)”が襲撃され……ブリュレ様が奪われてしまいました……!!」

 

「……!! なるほど、こいつらが態々私達の怒りを買うことを覚悟してまで出てきたのはそういうことね……!!」

 

 得心する。最初から逃げる算段がついていたからこそ、危ない橋を渡ってきたのだと。

 

「ゼハハハハハ……!! じゃあな!! 元ロックス海賊団の残党共!! 今回の勝ちはてめェらに譲ってやるが覚悟しな!! いずれ最高の悪夢を見せてやる!! 白ひげが死んだ今!! これから先の時代は──おれが必ず手中に収めてやる!!! 

 

「…………!!!」

 

 そしてその調子の良い生意気な発言に、私もカイドウもリンリンもシキも、眉をひそめる。

 ただの負け惜しみだ。結局黒ひげは白ひげを横やりで殺しただけで、何も成していない。

 だが一方で、してやられた気分があるのも事実であり、それが私達に少なくない怒りの感情を抱かせた。

 しかしそれらの敵意も殺意も──直接ぶつけることはすぐには叶わない。

 

「……!! クソ……ブリュレ……!!」

 

「ブリュレ姉さんが攫われちまった!!」

 

「あのガキ……!! よくもおれの娘を!!」

 

 黒ひげは鏡の中へ消えていった。“鏡世界(ミロワールド)”の出入りはブリュレがいなければ不可能である。

 ゆえに黒ひげを捕まえるには別の鏡の場所──どこかに出てきてから殺るしかない。

 カタクリやシャーロット家の兄妹。そしてリンリンも怒っているが、手出し出来ない場所に逃げられたことでその怒りのやり場もない。

 そしておそらく──私だけがまだ分かることだが、黒ひげは妥協すると言っていたことから、白ひげとは別の収穫物も持ち去っていったのだろう。

 加えて黒ひげの出来ることを考えるとブリュレも危ない。早く追いかけて私達に喧嘩を売った代償を払って貰わなければならないが……それを行うには今のこの状況を終わらせなければならない。

 怒りの矛先が変わったからといって、この海賊団の命運を懸けたデカい作戦を途中で止める訳にはいかないのだ。

 だから、これは八つ当たりになっちゃうんだけど──

 

「急げ!! ルフィ!! エース!! 今のうちに逃げるんじゃ……!!!」

 

「じいちゃん!!」

 

「ジジイ……!!」

 

「全海兵、急いで軍艦に乗り込め!! この隙を逃すんじゃないよォ!!!」

 

「は、はい!!」

 

「……!! お前らも……おれ達から逃げられると夢見てんじゃないよォ~~~~~!!!」

 

「こうなりゃさっさと殲滅するしかねェな……!! あのガキ共の始末はその後だ!!!」

 

 そう──さっさとこの場の掃除を終わらせて、それからまたやること考えるしかないよね。

 

 

 

 

 

 ──黒ひげの乱入により混乱し、停滞していた戦場が再び動き出す。

 

「急げ!! オヤジの願いを無駄にするな!!」

 

「海に逃げろォ~~~~!!!」

 

 白ひげ海賊団は“白ひげ”の死によって動揺しているが、その最期の命令を無駄にしないために涙を堪えて船へ走る。立ち止まっている暇などない。

 

「さっさとあの世に行きなセンゴクゥ~~~~!!! おれァ娘を攫ったあの黒ひげとかいうガキを殺さなきゃならねェんだ!!! お前らの代わりにこの海は平和にしてやるから、安心して死ぬんだねェ!!!」

 

「ぐ……あ……!!!」

 

「センゴク元帥!!」

 

 何しろ背後には──怒れる“四皇”が逃げ遅れた兵を蹂躙し、殲滅している。

 

「赤犬……白ひげが死んだ今、この戦場におれを満足させられる奴はいねェ……死にかけのお前も含めてな……!!!」

 

「ウ……!! ぐ……抜かしよる……!! ハァ……ハァ……貴様もぬえも……!! クズのくせにいっちょまえなこと言いおって……!! 貴様らに白ひげはもったいない……わしらで十分じゃ……!!!」

 

「……まだ息があることだけは褒めてやる。だが……これで終わりだ」

 

「!!!」

 

「サカズキ大将~~~~~!!!」

 

 殿に残った者達も1人、また1人と四皇の暴威の前に倒れていく。

 たとえ味方を生かすために残ったサカズキが、カイドウの金棒に思い切り振り抜かれ、倒れたところを何度も殴られる──そんな残酷な光景を目にしても、戻ることは出来ない。

 たった1人でも、多くの人が生き残ることがここに残った者達の願いだ。

 

「イナズマさん!!」

 

「イワ様ァ~~~~~っ!!!」

 

 逃げる猛者達も“意志”の炎を守るために次々と追撃を食い止めようとするが……どうあっても止まらない。

 もはや何もかもが手遅れなのだ。彼らはこの戦場にいる者達を殺し尽くすまで止まらない。

 

「ハァ……ハァ……ルフィ……エースよく聞くんじゃ……!!」

 

「!」

 

「え……?」

 

 ゆえに、それを察している海軍の英雄は孫達に向かって迫真の表情で告げる。

 

「この先の海は危険じゃ……もうわしでも守りきれん。何かあったら……ルフィ。お前の父親を、わしの息子を頼れ」

 

「!!? な……なに言ってんだよじいちゃん!! 一緒に逃げるんじゃ……!!」

 

「ジジイ……!!」

 

「……ジンベエ。ルフィとエースのことを頼んだぞ」

 

「……!! ああ……わかった……!!」

 

 それもまた、別離の……孫達に向けた最期の言葉だった。

 ルフィやエースの声を無視し、ジンベエに2人のことを頼むとガープは再び戦場へ戻る。

 彼もまた、白ひげと同じように家族を守るためにこの場で死力を尽くす意志を固めていた。

 だが……それでもなお──

 

「──“グングニル”!!!」

 

「!!!」

 

 この地獄から逃げることは難しい。

 

「うわァアアアアア~~~~!!」

 

「地面が割れた……!!」

 

「ぬえの仕業だ……!! やべェぞ!!」

 

 槍を放ち、地面を割ったその人物はガープの前に立ち、冷たい表情で声を送る。

 

「ガープ……悪いけど、あなたがここに残ったところで、あなたの孫達は逃げられないわよ」

 

「……まだそうと決まってはおらん。希望はまだある……貴様がわしを殺し、どれだけ多くの人に恐怖を与えようとも……支配に抗い、抵抗する者達は必ず現れる!!! ぬえ……貴様がかつて抵抗したようにな……!!!」

 

「!!」

 

 ガープの言葉にぬえはやや目を見開く。それはぬえの過去を知るガープだから言えることであり、実際にどん底から這い上がってきたぬえを納得させるのに十分な理屈だった。

 

「……ご忠告ありがとう。覚えておくわ……それで、遺言はそれでいいかしら?」

 

「ふん……生憎と、まだ死ぬつもりはないわい……!!!」

 

「──じいちゃん!!!」

 

「く……!!!」

 

 ガープが死を覚悟し、ぬえとの戦いに挑む姿をルフィやエースは四方に別れた地面の向こうから見ていた。ガープだけでなくルフィとエースもまた、分断されてしまっている。

 

「ルフィ君!! エースさん!! 今は逃げるんじゃ!!!」

 

「でも……!!」

 

「お前さんらが行っても何も出来ん!! 追いかけてくるのは世界最強の海賊達……!! ここで立ち止まっていては残っていった者達の想いが無駄になる!!!」

 

「……!!」

 

 そしてジンベエはルフィとエースに現実を突きつける。

 2人には強い意志がある。自信がある。どんな困難も自分の実力を信じ、意志を押し通し、乗り越えてきた。周りの人の助けや、運にも恵まれてきた。

 だがそんな全ての要素を、敵は無情にも砕いていく。

 2人がどれだけ自分のエゴを叶えたいと願い、全力を賭し、天運に恵まれようとも……この戦場ではただのちっぽけなルーキー2人。何も出来やしない。

 

「──ムハハハ!! 見つけたぜ“火拳”!!!」

 

「!」

 

「“クイーン”だ……!!」

 

 エースを追い詰めようと回り込んできた百獣海賊団の兵隊。

 その中心に立つ大看板“疫災のクイーン”はエースを指差し、立ちはだかる。

 

「お前はウチじゃ大罪人だ!! 逃さねェぜ!! ──なあ()()()()!!」

 

「…………さっさと……終わらせましょう」

 

「相変わらずそっけねェな!! でもそんなクールなところも可愛いぜ~~~!!」

 

「…………」

 

「“飛び六胞”まで……!!」

 

 何か思うところでもあるのか、それともそれが素なのか、少ない口数でクイーンに追随する小紫も刀を抜く。今度は閻魔ではなく、抜いたのは外無双だった。

 エースの方に現れた敵にルフィもジンベエも心配になるが、こちらもまた追手が現れる。

 

「──誰一人……逃さねェよ……!!」

 

「!? ドフラミンゴ!!」

 

 血を流し、フラフラになりながらも現れたのは先程白ひげに殴られて戦闘不能になったはずの元七武海、ドフラミンゴ。

 彼はまるで幽鬼の様に揺れながら、余裕のない決死の表情で彼らに飛び掛かる。

 

「ハァ……ハァ……逃がす訳にはいかねェ……!! これ以上失態を犯しちまったら……おれは破滅だ……!! 世界の終わりが目の前に見えてるってのに……こんなところでドジ踏む訳にはいかねェんだよ……!!!」

 

「……何という執念じゃ……!! これはマズい……!!」

 

 ジンベエがドフラミンゴに対応する構えを見せるが、この状況でドフラミンゴが復活するのはマズい。再び鳥カゴを張れるかわからないが、張られたらいよいよ逃げ切れなくなってしまう。

 ゆえにここで何とか倒してしまうしかないと、ジンベエはルフィに先に行くように指示し、自分も残ろうとする。ルフィをドフラミンゴの攻撃から庇おうとした。だが──

 

「ムハハ……そっちも頑張るじゃねェか。だが空にも地上にも、敵は幾らでもいるぜ?」

 

「!!? しまった……!!」

 

 クイーンが言う先、空には百獣海賊団の飛行部隊。そしてぬえの生み出した幾つものUFOがルフィを狙っており、

 

「“正体不明の火空兵器(フー・ファイター)”」

 

「ウ……うわアアアアアアア!!!」

 

「! ルフィ!!」

 

 多くの熱線が降り注ぎ、ルフィを貫く。

 内臓を焼かれ、地面をのたうち回ったルフィをエースやガープが心配するが、彼らもまた目の前の敵に足止めされており、助けに行く余裕はない。

 そして更には──

 

「ジハハ……ジハハハハ……!!! 舐めやがって……!!! 白ひげを闇討ちしやがった黒ひげも……てめェらガキ共も……!!!」

 

「!! 何だ!?」

 

「島が揺れて……!!」

 

 不意に起きた地震に海賊達も海兵達も困惑する。白ひげは既に死に、グラグラの実の脅威は終わったはず。なのに何故地震が起きているのか。

 だがその答えは明白だった。島の揺れの正体は白ひげではなく“金獅子”であり──

 

「要はあのガキ共を追いかけて、こいつらも逃さなきゃいいんだろ……簡単な話だ……!!!」

 

「……!! クソ……そういうことか……!!」

 

 白ひげ海賊団で金獅子の能力をよく知る者達がそれに気づく。

 どこに逃げていったかは分からないが、どちらにせよ新世界に戻る必要のある海賊同盟だが、まずは先に白ひげ海賊団と海兵を逃さずに殲滅する必要がある。

 そのために金獅子が行ったことは単純だ。それは、

 

「島を丸ごと……浮かしてやがる……!!!」

 

「!!?」

 

 ──シキのフワフワの実の能力で、島も船も海も……()()()()()()()()()移動してしまうことだ。

 

「ジハハハハハハ!!! これでわかっただろう!! お前らはおれ達の支配からは逃げられねェ!!! あの黒ひげとかいう身の程知らずのバカもどこにいようが必ず追い詰めてブチ殺してやる!!! 世界はおれ達の物なのさ!!!」

 

「クソ……どうする!!?」

 

「仕方ない……!! エースさん!! わしはどうにかルフィ君を連れて海に落ちる!!! そちらもどうにか──ウッ!!」

 

「ジンベエ!!!」

 

「だから逃さねェって言ってんだろうが……いい加減諦めろ……!!!」

 

 地面に倒れたルフィを拾い、エースに声を掛けながら浮き始めた島から飛び降りようとしていたジンベエを、背後からドフラミンゴが強襲する。

 

「クザンさん!! 軍艦が下に……!!」

 

「……!! 諦めるな!! おれがどうにかする!!! とにかく島の縁まで走れ!!」

 

「は、はい……!!」

 

 そして海兵もまた、島に取り残されつつあることに気づき、現実から必死に目をそらしながらも逃げ続ける。何しろ逃げ場所などもうどこにもない。

 

「後は掃除するだけだな……!!」

 

「カイドウ様の勝負を邪魔した黒ひげとかいう奴……!! 絶対に許さねェ!! 頭かち割ってやる!!」

 

「ブリュレを救わねェとな……!! おい、今の内に新世界に連絡をしておけ!! 終わり次第、黒ひげの捜索にも出るぞ!!」

 

「はっ!! 直ちに!!」

 

 島の縁は既に百獣海賊団とビッグマム海賊団、そして金獅子海賊団の猛者達によって囲まれてしまっている上、島の中心には四皇を始めとする怪物達。彼らもまた殿に残った者達を殺せばすぐに殲滅に動くだろう。

 

「ジハハ!! 後は残った連中を殺し尽くせばこの戦争も終わりだ!!!」

 

 シキが逃げ場所に困窮し、絶望の淵にある白ひげ海賊団と海兵達を見下し、勝ち誇るが、彼の目的はまだ達成されていない。ゆえに今だ広場に残るエースに対し、こう問いかけた。

 

「だが……お前だけはおれの仲間になるってんなら生かしてやる!!! さあどうだエース!!! おれの仲間になれ!!! 仲間になればあの黒ひげとかいうバカの仇討ちにも参加させてやる!!!」

 

「……!」

 

 シキはエースを脅しながらも、巧妙にメリットをも提示してみせる。

 仲間になれば生き延びられるだけでなく、白ひげを殺した黒ひげの仇討ちも行うことが出来ると。

 それは確かに、エースにとっては実のある話だろう。乗る価値がないとは言い切れないものだ。

 

「……フザけんな……!!」

 

「あァ?」

 

 だが、それでもなおエースは肩を震わせながら答える。

 自分だけが生き残ることなどメリットでもなんでもない。そして何より──

 

「おれは……誰が何と言おうと白ひげの息子で……!! 白ひげ海賊団の一員だ!!! 家族を捨てて1人だけ生き延びるなんて……おれは──死んでも御免だァ!!!」

 

「……!!」

 

「エース……!!」

 

 金獅子の表情が歪み、白ひげ海賊団も別の意味で顔を歪める。

 エースは覚悟を決めた。死ぬかもしれなくても、この誇りを捨てはしないと。

 

「勝負だ“金獅子”!!! お前を倒しておれが皆の逃げ道を作ってやる!!!」

 

「…………チッ……その無鉄砲なところもロジャーに似てやがる……!!! その返答は、今ここで殺してくれって意味でいいんだよなァ!!?」

 

「──てめェら全員叩き潰すって意味だよ!!!」

 

 奇しくも、エースは実の父親がかつてシキに返した言葉で啖呵を切る。

 エースが跳躍し、炎の拳を振り被り、シキが空中でエースを迎え撃とうと構えたのはほぼ同時だった。

 

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

「ハッ……実力の足りねェガキが生意気言いやがって……!!! だったら地獄でロジャーでも白ひげでも好きな方に会って言って来るんだな!!! ──“次の海賊王にはなれませんでした”ってよォ!!!」

 

 シキがエースを手に掛けることを決める。エースは強いが、まだ若く、実力もシキに敵う程ではない。強い言葉を口にしても、それを実現させるには圧倒的に力不足なのだ。

 ゆえにエースは死を覚悟した。勝てないのはわかっているが、勝てる可能性は0ではない。

 ならば諦める訳にはいかない。家族を、仲間を守るためには。

 

「おおおおおおおおおおおお!!!」

 

「──死ねェ!!!」

 

 そうして──シキの凶刃がエースを貫かんと迫る。

 だがもしそうなったとしても……弟や家族を少しでも守れるならくいはない。

 だからこそエースは受け入れたのだ──ここで少しでも時間を稼いで……()()()()()

 

 

 

 

 

 だが──その刹那。

 

「!!!?」

 

 シキの刃が、別の誰かの刃に受け止められる。

 

「…………!! …………え?」

 

「……!! あ、あれは……!!!」

 

 この場を見ている全ての者達が目を見開く。

 エースを襲うシキの刃を止めた相手──そして。

 

「なっ…………!!? なん……だと……!!?」

 

「…………え?」

 

「……! 今じゃ!! 海に飛び込むぞ!! ルフィ君!!」

 

「え……ま、待って……くれ……ジンベエ……!!」

 

「待てん!! 行くぞ!!」

 

 ルフィを襲おうとしたドフラミンゴの顔を掴んで地面に叩きつけ、一撃で倒してみせたその相手。

 この地獄の様な戦場に突如現れた2人。

 それは誰もが知る人物であり、この場にいなかった勢力のトップ。

 

「なんとか間に合ったか……」

 

「危ないところだったな……エース」

 

 ルフィを助けたその人物──黒いローブを身に着けた顔に入墨のある男に誰もが絶句し、イワンコフやイナズマなどは驚きつつも希望の色が目に戻る。

 そしてエースを助けたその人物──左目に3本傷のある赤髪の男にも誰もが言葉を失い、ルフィは目を疑う。

 加えて、まるでシキのフワフワの実の様に、風に揺られるようにして浮いた船から次々に人が降りてくるが、その人員もまた見たことのある者達ばかり。世界的にも有名な猛者達であった。

 その出現に、ぬえは思わず苦笑いして彼らの正体を口にする。

 

「……あー……そうくるんだ。あはは、なるほどねぇ……“赤髪”は読めてたけど……まさか“革命軍”まで来るとは思わなかったなぁ……!!!」

 

 そう──ぬえが言うように、現れたのはこの場に来ていなかった唯一の“四皇”の一味。

 そして世界政府と敵対する民衆の意志。そのための力、“革命軍”。

 その両トップが戦場に降り立ち、彼らは世界の秩序を守るため……己の意志を同時に告げてみせた。

 

『この戦争を──お前達の勝利で終わらせる訳にはいかない!!!』




黒ひげ海賊団→船でも奪って逃げるかどうするかとこっそり見に行ったところ、ブリュレ達の出入りする鏡世界を発見。ブリュレを攫って逃げる。サンファン・ウルフどうやって出入りしてんのっていうツッコミがあると思うけど、ウルフはインペルダウンに出入り出来ることを考えると大きさを普通の巨人サイズには変えられるはずなので予め鏡世界に入ってたってことで。
黒ひげ→カイドウに2発、白ひげに1発、ぬえちゃんに1発受けても気絶しない程度の耐久力。まあ四皇になれる強さはあるので、これくらいのHPはあるはず。汚いハ○ナス。白ひげは持って変えれませんでしたが別の死体は持って帰りました。
白ひげ→死亡。最期にロジャーに加えてロックスのことも思い出した。
ビッグマム海賊団→ブリュレを攫われ怒り心頭。
ドフラミンゴ→バカ耐久なので復活。必死に食い止めようとしてたが再び倒される。可哀想
ガープ→ルフィとエースに遺言を残して死ぬ覚悟を決める。
サカズキ→手が空き、萎え状態のカイドウに殴られる。
シキ→島を浮かせて逃走防止。移動させてそのまま新世界にマリンフォードをお持ち帰り。これでニューマリンフォード作れるな(白目)
ルフィ→もうそろそろ限界で倒れました。最後にチラッと何かを見たけどジンベエに連れられて逃走。
エース→ロジャーと同じことを言う。シキと戦い死ぬ覚悟を決めたが運良く死なず。
カイドウ→萎えた。八つ当たりで全員ぶち殺し作業モード。
ぬえちゃん→白ひげ死んだ上に黒ひげ逃げてイライラ発散八つ当たり屠殺モード可愛い。
最後の2人→遂に参戦。しかし既に白ひげ海賊団も海兵もほぼ壊滅……。

120ってワンピースの最終巻くらいの巻数になりそうですよねってことで今回で白ひげが死に戦争編もやがて終わる。でも新たな火種は沢山。黒ひげ逃亡。白ひげ死亡。赤髪と革命軍が参戦。次回は戦争編最終話。しかし戦争は終わりません。新たな世界が始まります。お楽しみに。

感想、評価、良ければお待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。