正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
やがて戦争の勝者が決するところであった上空のマリンフォードに、突如として現れた新たな勢力が2つ。
彼らは多くの者達に驚きをもって迎えられた。
「あ、赤髪海賊団だァ~~~~!!!」
「それに革命軍まで……!!!」
白ひげ海賊団。ビッグマム海賊団。百獣海賊団。
それらと肩を並べる海の皇帝“四皇”。その最後の一つ──赤髪海賊団の船が空に浮かんでいる。
だがその現象を起こしているのは赤髪海賊団側の誰かではなかった。
赤髪海賊団の船と同様に空に浮かぶ竜頭の船の所属は──革命軍。
世界政府と敵対する世界中の革命家達のリーダー。世界最悪の犯罪者──ドラゴンことモンキー・D・ドラゴン。
彼は赤髪海賊団の船をその能力で浮かしながら、赤髪海賊団の大頭──“赤髪のシャンクス”と共に戦場に降り立つ。
彼らに縁ある者達……ルフィとエースを救いながら。
「ドラゴン……!!」
「ドラゴンさん……!!」
「──久し振りだな。イワ。イナズマ。お前達には息子のことも含めて苦労を掛けたが……それは後だ。ゆっくりと話をしている暇はありそうにない」
「……ええ!! その通りッギャブル!!」
「はい。しかしまさか……」
ドラゴンは、傷つき疲労している革命軍の同志、イワンコフとイナズマにも声を掛ける。2人は革命軍全軍の内“GL軍”に所属する革命軍の幹部。イワンコフはGL軍の軍隊長であり、イナズマはその副官だ。
ゆえに、彼らは同志であり知り合いでもある彼らが来ていることに驚く。ドラゴンだけではない。革命軍の猛者達もまた、この戦場に降り立っていたのだ。
「クイーン様!! 革命軍の船が……!! どうします!!?」
「チッ……!! 面倒な連中が出てきてるが……関係ねェ!! “
「はい!! ……ウッ!!?」
革命軍や赤髪海賊団の登場に海賊同盟側も怯むが、追撃を中止しろという命令は下っていない。ゆえにクイーンは自身の裁量で逃げる白ひげ海賊団や海兵を殲滅するため、部下に疫災弾の発射を命じたが……それは上空からの謎の攻撃によって阻止された。
「武器が凍って……!!」
「これじゃ“
「……!! あれは……!!」
百獣海賊団の兵達の持つクイーン製の特殊な武器や弾薬が凍らされたことで、クイーンは上空を見て誰の仕業かと確認するが、こんなことが出来るのは革命軍において1人しかいない。
「見たかクイーン!! おれの新兵器はお前の悪趣味なウイルス兵器にだって負けてねェ!!」
「てめェ……!! やりやがったな……!!」
見覚えのある小柄なサングラスを掛け、武器を背負った猫のような顔の男にクイーンは忌々しそうに顔を歪める。
だがそれだけではない。追撃に出る海賊同盟を止めたのは。
「スナック様!! 白ひげ海賊団と海兵が港に向かってきます!!」
「誰一人通すなァ!! ママの命令は皆殺しだ!!」
「うわァ!!?」
「これは……油!!?」
「足元が滑る……!!」
港に到達しようが逃げられはしないが、ビッグマム海賊団の将星シャーロット・スナックはママの命令を忠実に実行するべく港で海兵達を足止めする。
彼らの足元に広がる油はスナックが能力によって生み出した油。彼はヌルヌルの実の油人間なのだ。
「全員こんがり揚げて殺してやる……!! ──“
「うわァ~~~~!!!」
「やべェ!! 焼かれた──あれ?」
「!! 油が止められた……!?」
だがその時、地面が不自然に押し上げられ盛り上がり、押し寄せていた油をせき止められる。
「や~だ~~!! ぬるぬる気持ち悪~~~い!! やめてよ男子~~~~!!」
「……!! あの気持ち悪い女装をした巨人は……!!」
スナックは目を見開き、額から汗を掻く。
それは地面から出てくる女装をした巨人の仕業であり、世界中に散らばる革命軍の幹部の1人。
「…………」
「うおわァ!!? なんだこの大量のカラス!!」
「……!! あいつは……」
空から逃げる兵を追撃しようとしていた百獣海賊団の飛行部隊を突然現れた大量のカラスが妨害する。
それを見た百獣海賊団の大看板キングはそれが嘴のようなマスクを被る1人の男の仕業だと気づいた。革命軍を率いる幹部の顔を知らない筈がない。
「さァお前達!! ここが運命の別れ道だ!! ここで奴らの一人勝ちを許せば世界中の罪なき人々が死ぬ!! それを許せるか!!?」
「許せる筈がねェ!!」
「悪いが少しは痛手を受けてもらうぜ!!」
「……!! なんだこいつら……雑兵の癖に妙に強ェ……!!」
「……!! 革命軍の軍隊長の能力ね……また面倒な……」
そして地上に降り立った船から出てくる革命軍の兵士達を率いて先頭に立つその女性がもたらした効果を大看板のジョーカーがすぐに看破する。
戦場において、これほど厄介な能力はないものだが……思う。
「──無事か? エース」
「……!! え…………お前……!!! 嘘だろ……!!? な、なんで生きて……!!!」
「嘘じゃねェよ。──遅くなって悪かったな……エース」
まさか、革命軍の全軍が集結しているとは……と。
「革命軍の軍隊長達だァ~~~~~!!!」
革命軍“南軍”軍隊長──リンドバーグ。
革命軍“西軍”軍隊長──モーリー。
革命軍“北軍”軍隊長──カラス。
革命軍“東軍”軍隊長──ベロ・ベティ。
そして革命軍“参謀総長”──
“GL軍”の軍隊長であるイワンコフに、革命軍のリーダーであるドラゴンも含めて──革命軍の全軍が戦場に集結していた。
計算外であった者達の登場に、私は驚きと怒りと喜びがない混ぜになった複雑な心中となり、僅かな間だけ動きを止めた。
目の前では私と戦っていたガープ……傷だらけの彼の後ろにドラゴンがやって来ている。
「苦戦しているようだな……親父」
「ドラゴン……まさかお前が……しかもあの“赤髪”と共に来るとは……一体どうなっておる」
「新世界で不穏な動きがあったからな……念の為、備えておいただけに過ぎない。“赤髪”とは利害が一致したため、一時的な共闘を結んだが……どうやらそれは正解だったようだな」
ガープの質問にドラゴンが答え、そして私を睨みつける。──意志の籠もった強者の目だ。覇気を滾らせ、私を威圧している。
「……ふ~ん。なるほどねぇ……」
「! ──ぬえ!!」
そして動いたらこちらも動く──そんな脅しを掛けていたのだろうが、私はそれに構わず軽く指を振って空に浮かぶUFOを動かし、マリンフォードから脱出しようとしていたジンベエと麦わらのルフィを狙う。
「私がその程度で怯むと思ったら大間違いだよねぇ……!!」
「くっ……!!」
「ルフィ!!」
ドラゴンとガープが息子を、孫を心配しこちらから目を逸らしたので、その間に私は彼ら2人の前からカイドウの近くに行って一旦彼らの前から離れる。
幾ら私でもこの状況で何の話もなく戦い続けることはしない。赤髪にも話を聞きたいし、カイドウやリンリンとも方針を決める必要がある。
なので彼らの目を逸らすためにも一度彼らを狙った……というのが理由の一つであるが、もう一つの理由の方が比重としては大きい。
「これだけ大きな戦争に参加してくれたのに軽傷で帰すのも何だし……ちょっとくらい死にかけて貰わないとね♡」
「UFOが動いた!! ジンベエとルフィが狙われてるぞォ!!!」
ルフィを知る赤髪海賊団の面子も慌てだしたが……生憎ともう遅い。
空中ではさすがのジンベエも回避も防御も出来ないだろう。UFOを円状に集結し回転させ──そこから地上を破壊する光線を落とす。
「“正体不明の
「……!! ジンベエ……ハァ……ハァ……上……!!」
「く……ダメじゃ……!! 逃げられん……!!」
「うわあああ~~~っ!!!」
──と、いうことでカイドウの“熱息”にも匹敵する私の攻撃を食らってもらう。
ま、どうせ即死はしてないだろうし治療すれば助かるのだ。後は彼らの運次第。
「おう、ぬえ。ジンベエとあのガキを始末したか」
「どうだろうねぇ……ま、これで死ぬようならどうだっていいし、死んでなくてもどっちだっていいかな。それよりも今は──こっちのゲストの対応を決めないとね」
「──違いねェな」
「…………」
カイドウが顔の斜め上に移動した私に問いかけてきたのでそれに答える。そうしながらも意識は目の前から切らない。
何しろ私達の前には老いた白ひげやガープ達とは違う本物の猛者。
世界中を見渡してもそうはいない私達と張り合える本物の怪物──四皇“赤髪のシャンクス”がいるのだから。
「赤髪……!! なぜここに……!!?」
「……お前達を逃しに来た」
「何……!?」
話しかけてきたマルコに赤髪は迫真に迫った表情で答えたが、やはり彼も意識をこちらから逸してはいない。油断も隙もないというか……相変わらずからかい甲斐もない可愛げのない相手だ。
「そのために態々私のUFOを突破してまでやって来るとか……よくやるわね。毎度毎度飽きもせずにちょっかい掛けてきて……そのしつこさにはびっくりよ。ひょっとして私のこと好きなの?」
「ああ……お前の戯言くらいには安い相手だった」
「…………言ってくれるねー。UFOも弱くないんだけどなぁ」
シャンクスはあっさりと私のUFOを全滅させて来たと告げる。……まあそれは分かってたけど実際無傷なのは傷つくなぁ……足止めには成功したとはいえ船の被害もそれほど出てるようには見えないし……やっぱ赤髪海賊団丸ごと相手にするならもうちょっと力入れた方が良かったかな?
と、そんな風に船の方を見ていると──また見覚えのある顔がそこにいることに気づいてちょっと笑いそうになる。ま、まさかそこにいるのは!!
「……!! お、おい……!! まさかあそこにいるのは……!!」
「! いや……おれは信じてたぜ……!! アンタは必ずここに戻ってくるってな……!!」
「──キャプテン・バギー!!!」
戦場に残っていた囚人達が赤髪の船から顔をひょっこりと出していた赤鼻を見て、空に向かって一斉に叫んだ。……どうでもいいけど、囚人達ここまでちゃんと生き残ってるの結構強くない?
──数時間前。
白ひげ海賊団VS海軍本部・王下七武海の戦争に百獣海賊団・ビッグマム海賊団・金獅子海賊団の海賊同盟が参戦し、マリンフォードがドフラミンゴの鳥カゴに覆われてしばらく……マリンフォード近海に一隻の小船が浮かんでいた。
「ちくしょう……!! 何とかあのおっかねェ戦争から逃げ出したのはいいが……やっぱ1人で船を動かすのは厳しいぜ……おまけに
軍艦に積まれていた緊急脱出用の小舟に乗り、1人海の上で悪態をつくのは“道化のバギー”。
彼は鳥カゴに覆われ、地獄よりも恐ろしい激戦が続く海軍本部から逃げ出すことに何とか成功していた。
囚人を扇動し、ハッタリで白ひげとも同盟を組み、何とか戦争で名を挙げようと試みたバギーだが、さすがにカイドウにビッグ・マム、ぬえやシキなどが参戦する戦場で名を挙げれるなどとは思っていないし、あのまま戦場に居続けて生き残れる自信もない。
だからこそバギーは逃げた。自分についてきたMr.3や囚人達を放って逃げることにさすがのバギーも多少の罪悪感を覚えたが……全て二の次だ。
「チッ……このまま海の上で漂流しちまうくらいなら……いや、だがあのままあの場所に居続けたら確実に死んじまうからな……あの鳥カゴとやらから逃げ出せるのもおれ1人しかいなかったんだ。悪く思うなよ……!!」
そう、自分の命には代えられない。
名声や財宝も大事だが、死ねば何もない。海賊にとって何より重要なのは生き残ることなのだ。
それを理解しているため、若干の後味の悪さを感じつつもバギーは自らの選択を後悔していなかったし、それどころか既に切り替えてこれからのことを考え始めている。
すなわち──この状況からどうやって脱するかをだ。
「偶然船の一隻でも通りかかってくればいいんだが……今海軍本部の近くを通ってる船なんてある訳がねェ。戦争があるってのに態々近くまでやってくる奴なんざよっぽどのバカか気が狂ってる奴だけだ…………ん?」
そしてバギーが小舟の上に胡座をかき、自身の顎を撫でつけながら首をひねっていた時。
ふと頭上に影が差したことでバギーは何事かと上を見上げる。するとそこには──
「……! って、おおおおおい!! 船じゃねーか!!!」
バギーの乗る小舟より遥かに大きな船。それも海賊船があった。
出来れば商船などが理想であったが、この際贅沢は言えない。海賊でも戦争に参加している四皇やら七武海に比べれば雲泥の差だろう。何とかなりそうに思えるし、どうにか下手に出て助けてもらうしかない。
「おい!! 誰かいねェか!!?」
「……ん? おい、誰かいるぞ」
「1人みてェだな。漂流者か……どうする?」
「お頭に報告するか」
バギーは立ち上がり、腕を振りながら、船の上に居た下っ端の海賊に向かって助けてくれと叫ぶ。
するとバギーに気づいた船員達がその対応に迷っていたが、バギーは放置されないように更に必死になって叫んだ。
「おい頼む!!
「って、言ってるが……どうする?」
「仕方ねェな……わかったよ!! 今ロープを下ろしてやる!! 上がってこい!!」
「! ありがてェ!!」
そしてバギーの必死の振る舞いが幸を成したのか、甲板から縄が下ろされる。
バギーはそれを掴み取ると船の上へと駆け上がった。
「ゼェ……何とか助かったぜ……どこの誰かは知らねェが恩に着る……!!」
「おお、別に構わねェが……お頭、こいつです。どうやら漂流してたらしく」
「! お前……バギーじゃねェか!!」
「ん? おれのことを知ってんのか? ギャハハ、だったら話が早ェ」
と、既に話が行っていたらしい、船長に向かっていつもの調子で自己紹介をしようとする。──見覚えのある
「そうとも!! このおれ様こそがあの“道化のバ──って、シャンクスうううううううううううううう!!?」
「──久し振りだな、バギー」
そこにいたのはかつて同じ船で──ロジャー海賊団で見習いをしていたバギーの憎き兄弟分……“赤髪のシャンクス”だった。
ドラゴンの能力で浮かんでいる赤髪海賊団の船、“レッド・フォース号“の甲板の縁からこっそりと顔を出しながら、バギーは先程の偶然の出会いと出来事を思い出す。
『なァにいィィィィ~~~!!? 戦争を止めに来ただとォ~~~~~!!!?』
『ああ。白ひげ海賊団と海兵が皆殺しにされると世界的にマズイことになる。だから革命軍とも協力して……』
『あーなるほどなるほど。確かにマズイことになりそうだからなァ。よし、ここはいっちょ、気合い入れて止めに──って出来るかァ!! てめェ正気か!!? カイドウにビッグマムにシキだぞ!!? 今戦場に行くなんざ自殺行為だ!! 引き返せ!! 今ならまだ間に合う!!』
『まァこっちも無事じゃすまねェだろうなァ……だが止まるわけにはいかねェ。向こうが止まらないならおれ達もやるしかねェさ……!!』
『バカ野郎!! あんな場所、命が幾つあっても足りねェ……!! ……い、いやそうだ。だったらおれ様だけ先に安全な場所に降ろせ!! てめェの無謀な特攻に付き合う義理はおれにはねェんだ!!!』
『いや……悪いがバギー。時間がねェんだ。この近くには島もない。後で送り届けてやるから今はとりあえずおれ達に付き合ってくれ』
『……!! ぐ、ぬぬぬぬ……!!!』
シャンクスに真剣な表情で頼み込まれ、バギーは歯を食いしばりながら仕方なくこの場所に戻ってきた。
さすがのバギーも兄弟分とはいえ、シャンクスの──自分に向けられたものではないとはいえ、その何とも言えない凄みに異を唱えることが出来なかったし、変に頑固な部分があることをバギーは知っている。こうなったらこちらの頼みを聞き入れることなどないだろうと。
(……クソ……結局戻ってきちまったが……まあいい。こいつらと一緒ならこいつらが生き残ってる限りはおれも無事に逃げられる……こうなりゃあいつの用事が終わるまで、おれは目立たず船で隠れて──)
「──おいバギー!! こいつら、お前の仲間か?」
「おいコラてめェェェェェ!!! おれの名をここで気安く呼んでんじゃねェよ!!! 目立っちまうだろうが!!!」
「そんな大声で叫ぶ方が目立つだろ……」
しかしシャンクスがふいに、近くにいた囚人達を指してバギーに話しかけたことで目立たずにいるという目論見が一瞬にして消え去る。近くにいた赤髪海賊団の船員がやや呆れながらツッコミを入れるが、バギーの耳には届かない。その代わり、届いたのは戦場に残っていた囚人達の声だ。
「やっぱり!! キャプテン・バギーだ!!!」
「キャプテン・バギー!! やっぱりアンタ、この戦争をどうにかしようと水面下で動いて……!!」
「へ?」
戦場で何とか生き残り、港を死守し続けていた囚人達は赤髪海賊団の船の上に見えたバギーに向かって尊敬の眼差しを向ける。
バギーが間の抜けた声を出す中、囚人達は次々に気づき、ありもしないバギーの動きを口にし始めた。
「そうか!! キャプテン・バギーはこの戦争を止めるために“赤髪”を連れて……!!」
「これだけの面子が相手じゃ自分1人だけじゃ状況を覆すことは出来ねェ……それに気づいたキャプテン・バギーは赤髪と革命軍を呼び寄せるために1人行動を起こしていたのか……!!」
「確かに……さっき赤髪には“妖獣”の妨害があったって聞いたぞ。もしやそれの加勢に……!!」
「キャプテン・バギー!! やっぱりアンタはおれ達の救世主だ!!!」
「“四皇”赤髪に革命軍!!! そしておれ達のキャプテン・バギーがいれば奴らにだって負けやしねェ!!!」
「キャプテン・バギー!! おれ達、アンタに一生ついていきます!!!」
「指示をくれ!! キャプテン・バギー!!!」
「お前ら……!!」
囚人達の鳴り止まないバギーへの尊敬の声。歓声。忠誠を誓うバギーコール。
もはや尊敬を通り越して崇拝の域にまで達しているのではないかと疑ってしまうようなその光景に、バギーは面食らう。感動し、そして思った。表情を歪め、考え込む。
(待てよ……確かに、こいつらとシャンクス、そんで革命軍がいりゃあ結構な戦力だ……白ひげと海軍本部と戦った後で多少なりとも被害を受けてる奴ら相手ならいい勝負になるんじゃねェか……?)
バギーはバギーなりに戦力を分析し、そう思う。革命軍の戦力はおそらくだが四皇にも匹敵するであろうし、赤髪も……バギーとしては認めるのは癪だが、四皇に数えられるだけの力はあるだろう。
それに加えインペルダウンの囚人達。あれでも1人1人がバギーよりも懸賞金の高い凶悪な猛者であり、それなりの戦力にはなる。
戦場には殿に残っている海軍の英雄ガープにセンゴクもいる。それ以外は逃げるだろうし、白ひげ海賊団も同様であろうが……もしかしたら本当に止められるのかもしれない。
──そして、バギーは気づかなかったがそれ以外の戦力も残っていた。
「──よもや貴様まで参加するとは……いよいよ終末染みてきたな」
「! “鷹の目”……」
戦場に降り立った“赤髪のシャンクス”の前に、敵を斬り捨てて現れるのはこの戦場で未だ大きな傷もなく戦い続けていた世界最強の剣士“鷹の目のミホーク”。
面識もあり、縁もある。しかし、因縁もある相手の登場にシャンクスは真面目な表情のまま応対した。次第によっては、事を構えることも覚悟して。
「……お前はどうするつもりだ?」
「フン……言っただろう。今更片腕の貴様と決着をつける気はないし、手を組むこともない」
「……ならこのまま帰るのか?」
「戦いがこのまま終わるのであればな。だが終わらぬなら……結果的に
「! ……そうか」
ミホークの思ってもいなかった返答にシャンクスはやや驚いて眉を上げたが、それからすぐに口端を吊り上げて苦笑いを浮かべる。──まさかかつてのライバルと再び共闘することになるとはな、と。
そしてそのやり取りに海賊同盟側は眉をひそめた。赤髪と鷹の目。かつて新世界で最強の剣士と謳われ、伝説とされる決闘の日々を送った2人を相手にするのは中々に面倒だ。
加えて革命軍の存在もある。今残っている戦力を考えると海賊同盟側としても決して油断がならない。そのことを理解して、カイドウはシャンクスに忌々しくも称える言葉を作る。
「……やってくれるじゃねェか。てめェらも、おれ達と戦争する気か?」
「そいつはお前達次第だ」
「何だと!?」
てっきり雌雄を決しに来たと思っていたカイドウ達はシャンクスの言葉に虚を突かれる。戦争をしに来た訳じゃないなら、一体何の用で来たのかと。
「おれ達の要求は……白ひげ海賊団と海兵を見逃すことだ」
「あァ!!? バカ言うんじゃねェよ“赤髪”!! またつまらないバランサー気取りかい!!? あんまり舐めてると──」
「それさえ聞き入れてくれるならこちらは一旦手を引くし……
「!!」
「……ふーん?」
シャンクスの要求にビッグ・マムが怒りの形相で睨みつける。娘を攫われていることもあり、いつもよりも荒れている彼女を黙らせることが出来たのは、そのシャンクスの交換条件に考える部分があったからだ。
そしてぬえはそれを聞いて考える。シャンクスの交換条件。その言葉が意味するところはつまり──
「……つまり、世界政府を滅ぼすことには目を瞑ると?」
「そういうことだ」
「なっ……!!?」
「それは……!!」
ぬえの言葉とシャンクスの答え。そのやり取りを聞いていた群衆、取り分け海兵には動揺が走る。
800年もの間、この世界を統制し、秩序を敷いてきた世界政府を滅ぼす。
当然、海賊同盟が海軍を滅ぼした後にはそれを成されるだろうと思っていたが……実際にそうなることを口に出されると思った以上に動揺してしまっていた。
秩序の崩壊。それが意味することを誰も知らない筈がない。
ゆえにぬえはもう一度、改めて相手に問いかけた。
「……どういう意味か、わかって言ってるのよね?」
「当然だ。おれ達は海賊。政府に対して
「…………ふーん」
シャンクスのまっすぐな言葉にぬえは目を細めて訝しむ。その内心に真っ先に言葉が浮かんでしまう──どの口で言うんだ、と。
それはぬえしか知らないであろう情報であるため敢えて口にはしないが、シャンクスが政府を見捨てるというのは中々に考えさせられる出来事なのだ。
無論、他の海賊達にとっては当たり前の答え。海賊が政府を庇い立てする義理はない。
しかし繋がりを知るからこそぬえには裏があるように思えてしまう。生憎と、情報が足りないため答えは出ないが……それでもその交換条件は怪しまざるを得ない。
「……で、そっちもその条件は呑むってことね」
「ああ。元々、我々の目的は天竜人の打倒。あれらでも弑逆されることは出来れば避けたいが……この場を切り抜けられるなら犠牲を飲み込もう」
「ま、そっちはそうよね」
そして革命軍は世界政府と敵対しているため、世界政府が海賊に倒されるのを無視することは容易だ。
天竜人や政府関係者が虐殺されることは人道を重んじている革命軍からすると看過出来ないだろうが、それでも世界政府が倒れ、より守るべきものが守れるなら犠牲を飲み込むということだろう。
つまるところ、赤髪も革命軍も……今助けられる者達は助けたいということだ。
だがぬえは思う。それはかなり思い切った決断だと。
「……ざっと……
「…………」
ぬえは片目を瞑り、指を折り曲げて計算する──この戦場で生き残っており、彼らが守ろうとする声の数を。
「白ひげ海賊団に海軍本部の精兵……合わせて15万人はいたのに随分死んだねー。白ひげ傘下の海賊はほぼ全滅。隊長も半分くらい死んだかな? 海軍に至っては大将2人に中将もほぼ全滅。せっかく世界中からかき集めたのにねー? これだけ死んだら後が大変だよ」
言って、告げる。
彼らがやろうとしていることは、全て無駄なのだと。
「何せ……これじゃあもう世界の秩序は、正義は守れない。世界政府が滅びた後、世界は混乱し……変わる。──私達が望む“暴力の世界”にね」
「……!!」
不敵な笑みと共に告げた今後の世界の在り方に、センゴクとガープは歯を噛み締め、それを認めるしかない現実に拳を強く、血が滲むほど強く握りしめた。
天竜人の所業が横行し、どれだけ世の中が歪んでいようとも、血が流れないのであればそれは平和に他ならない。
だがこれからは……違うのだ。
世界政府が滅び、弱き罪なき人々を守る海軍が無くなれば──その先にあるのは力ある者だけが生き残る弱肉強食の世界。
海軍の支部や各国、あるいは革命軍でも世界中の海を守ることは難しい。ましてやこれから増えると予想される無法者達。そして彼ら元ロックス海賊団の同盟からは。
ここで彼らを倒せない以上、どうあってもその未来からは逃れられないのだ。
しかしそれこそが最善の手であると判断している。
「日和ったわね。ここで私達を止めることすら選べないなんてさ」
そしてその選択を最善とする弱さをぬえは嘲笑う。
だがドラゴンはそのぬえの嘲笑に反論した。
「お前達に……自由を求める人々の意志が止められるか?」
「……なんかそれっぽいこと言ってるけど、負け惜しみも甚だしいわね。私達の相手がしたくなくてお願いしてる立場な癖にさ」
「やるなら相手になるさ。ただしその時は……そちらも相応の痛手を被ってもらう……!!」
「…………」
「さあどうする……? カイドウ、ビッグ・マム、ぬえ……!!」
シャンクスが彼らを睨みつけ、威圧する。彼もまた“四皇”だ。
実際に無傷の赤髪海賊団や革命軍を相手にすれば、さすがの百獣海賊団やビッグマム海賊団も無傷とはいられないだろう。鷹の目やセンゴク、ガープもいる。先程の白ひげ海賊団と海軍本部との戦争とは違い──今度はこちらにも負けの目があり得る。
「……と、言ってるけど……どうする?」
「…………」
そしてそれをカイドウやリンリン、ぬえ達も理解している。
このまま戦い続けて赤髪海賊団や革命軍を滅ぼしてやってもいいが、黒ひげを追いかけなければならないし、聖地への強襲も残っている。
ここでまた事を構えるのが良いのかどうか……大海賊団の長として、彼らは計算する。
「……おい、ぬえ……」
「……何?」
そこでカイドウは決断する。
無言のまま渋い表情で、隣の兄姉分に声を掛け──
「──やるぞ」
「……ん……オッケー♪」
「……!!」
意思疎通はその短い言葉だけで十分。
戦意を落とし、その言葉を受け入れるかに思えた赤髪海賊団と革命軍はしかし、それを見た。
──互いに不敵な笑みを、凶相を浮かべ、戦意を滾らせる2人の獣の姿を。
「!!!!」
──カイドウの金棒とシャンクスの剣が交叉し、天を割る。
──ぬえの三叉槍とドラゴンの拳が激突し、天を割る。
覇王色の激突。唐突な王の素質のぶつかり合いに多くの者が驚きながらも、獣と激突した2者はすぐに切り替えて戦闘態勢を取った。
「交渉は……決裂か」
「獣であり災害だな……人の言葉は通じんか……!!」
「何言ってやがる……!! 犠牲も何も……ここで海兵も白ひげの部下も逃がす義理はねェし、てめェらを殺せば大きな敵はもういねェ!!! 後は政府のジジイ共とあの黒ひげとかいう雑魚を殺して終わりだ!!!」
「そういうこと!!! 白ひげは気の毒だったけど……それでもあなた達を見逃す理由にはならないんだからね!!! ──さあやるわよ!! あんた達!! 第2ステージも気合いいれなさい!!!」
「う──うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
カイドウとぬえの号令に百獣の旗に集う獣達が吠える。
力こそが正義であり全てだ。戦いを忌避する理由はないし、長期戦になっても自分達の右に出る者はいない。
さっさと残党を滅ぼし、赤髪海賊団と革命軍も葬る──そうなれば後は自分達に敵はいない。
そのまま──“海賊王”だ。
「ハ~ハハハマママママ……!! しょうがないねェ!! 引いてやるのもアリだと思ったが……こうなったらとことんやってやるよォ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「チッ……引かねェか……しょうがねェ。エース!! お前達は先に逃げろ!!!」
「っ……だが……!!」
「心配するな!! お前達が逃げたらおれ達も頃合いを見て引く!! 後で合流しよう!!!」
「……!! わかった……!!」
「……! 逃がすか……!!」
ビッグマム海賊団もまた“ビッグ・マム”の号令で再び戦意を滾らせる。
戦いが避けられないとわかったサボはエースに声を掛け、先に逃げるように促し、後でまた合流すると約束を結ぶ。サボが生きていることがわかり、サボもまた今までのことを話したい。
そしてルフィのこともある。エースは逡巡したが、白ひげの意志とルフィのために下がることを決め、サボはそのためにも生き残ることを覚悟した。
「こっちも行くぞ!!! 気合いいれてけ!!!」
「おう!!!」
「野郎共!! 戦闘の時間だ!!!」
「おおおおおおお!!!」
そして革命軍と赤髪海賊団。海軍の殿に鷹の目のミホーク。インペルダウンの囚人達は、未だ戦いの意志を衰えさせない海賊同盟の迎撃を開始する。
「ハァ……ハァ……傷が……!! このままじゃ、わしもルフィ君も力尽きてしまう……!!」
「──おい!! こっちだ!!」
「!!? お前さんは……!!」
──そしてマリンフォードの近海ではルフィを連れて泳ぐジンベエが何者かと遭遇する。
「もう終わりだな……世界政府は……」
「マリンフォードが島ごと移動してる……!!」
「海軍も……ここで終わりか……!!」
「この先の海は荒れるぞ……!!」
「何もかも……あいつのせいだ……!!」
「──“逃走成功率”……30%」
「大海賊“白ひげ”が死に……海軍本部と王下七武海は崩壊した……」
「新世界の均衡どころじゃねェ。世界の均衡が崩れたんだ……!! これから何が起こるか誰にも予想がつかねェ!!」
──次世代を担う海賊達は殺気立つ時代の流動を感じ取り、誰もが覚悟を決める。
「無駄だ……お前らがどこに逃げようと、抵抗しようと……世界は“恐怖”と“暴力”が渦巻く本物の海賊の時代となる……!!!」
戦争は終わらない。
たとえどちらが勝利しようとも、生き残ろうとも、世界中に広がった闘争の種は連鎖的に広がり続ける。
今日のこの日。大海賊“白ひげ”と世界政府が倒れて始まった時代の名を──世界の名は世界中に浸透し、誰もがこう呼ぶ。
「「始めよう──“暴力の世界”!!!」」
──世界中に“恐怖”の種が撒かれた。
―マリンフォード頂上戦争・戦死者及び行方不明者―
“白ひげ”エドワード・ニューゲート
海軍大将“黄猿”ボルサリーノ
海軍大将“赤犬”サカズキ
海軍中将以下省略
おつる、ジョン・ジャイアント、オニグモ、ドーベルマン、ストロベリー、モザンビア、ステンレス、コーミル、バスティーユ、メイナード、キャンサー、ダルメシアン、ラクロワ、ロンズ、T・ボーン、シュウ、ベリーグッド、シャリングル、スモーカー、ヒナ、フルボディ、戦桃丸
白ひげ隊長及び傘下
“ダイヤモンド”・ジョズ、ナミュール、ブレンハイム、クリエル、ハルタ、アトモス、スピード・ジル、リトル・オーズJr.、ドーマ、マクガイ、スクアード、ディバルカン兄弟、アイルワン、カルマ
王下七武海
ゲッコー・モリア、バーソロミュー・くま
その他
麦わらのルフィ、ジンベエ
ビッグマム海賊団
シャーロット・ブリュレ
金獅子海賊団
???
確実に死んだ人と戦争終了時に生きてるか死んでるか分からない人も含めています。だから可能性はある。まあ本文で死んだって書かれたら死んでるのでそれ以外は多少希望はある。ま、多少はね?
ということで戦争編終了です。次回からは戦争の結果。後の世界やら色んなところの描写やら色々。可愛いぬえちゃんの活躍はまだまだ続きます。次回をお楽しみに。
感想、評価、良ければお待ちしております。