正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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聖地陥落

 その日起きた大事件の情報は瞬く間に世界中に広がった。

 

「号外!! 号外~~~!!!」

 

「おいマジか……!! 嘘だろ……!!?」

 

 “東の海(イーストブルー)”、“西の海(ウエストブルー)”、“南の海(サウスブルー)”、“北の海(ノースブルー)”、“偉大なる航路(グランドライン)”──届けられる情報は人と場所を選ばず、その世界を揺るがす変化は僅かな時間を経ておよそ全ての人の耳に届けられる。

 新聞や人伝に伝わったその情報とは……戦争の結果とそれによって生じた幾つかの変化についてだ。

 

「“頂上戦争”で“白ひげ”が死んだァ!!!」

 

「“海軍本部”と“王下七武海”が崩壊……!!?」

 

「勝者は……百獣海賊団!!! ビッグマム海賊団!!! 金獅子海賊団!!! 3つの海賊団の海賊同盟だと……!!?」

 

 情報を僅かに遅れて受け取った者達はその戦争の勝者に目を見開き絶句する。

 海軍本部マリンフォードで起こった白ひげ海賊団VS海軍本部・王下七武海の戦争は、途中多くの勢力が参戦し、混戦となった。

 最初に参戦したのは海賊“道化のバギー”と“麦わらのルフィ”率いるインペルダウンの脱獄囚。

 そしてその次に今回の戦争の勝者である“四皇”百獣海賊団とビッグマム海賊団に、かつての大海賊“金獅子のシキ”率いる金獅子海賊団が手を組んだ海賊同盟。

 そしてその途中、黒ひげ海賊団が参戦したがすぐに逃走。

 その時点で白ひげ海賊団も海軍本部もほぼ壊滅状態であり、その生き残りが決死の撤退を試みている途中、現れたのが赤髪海賊団に革命軍。

 最終的には赤髪海賊団と革命軍、そして“道化のバギー”らインペルダウン脱獄囚が手を組み海賊同盟と激戦を演じたが、白ひげ海賊団と海軍本部の数少ない生き残りの撤退と共に彼らも撤退した。

 これにより頂上戦争は終結。戦いは海賊同盟の勝利となったが……事件はそれだけに留まらなかった。

 世界各国が耳を疑うその情報は──

 

「“世界政府”……陥落……!!!?」

 

「天竜人が虐殺され……聖地は海賊の手に堕ちた……!!」

 

 ──世界政府陥落!!! 

 

 4つの海と偉大なる航路(グランドライン)、170ヵ国以上の加盟国を有し──

 

「世界はどうなるんだ!!?」

 

「海軍が壊滅したら海賊を抑えられないんじゃ……!!」

 

「海軍支部にすぐに確認しろ!! 我が国の防衛はどうなるんだ!!?」

 

 約800年前。20人の王により創設された巨大組織が、その歴史に幕を下ろすことになる。

 それを行ったのは海賊同盟。曰く──かつて世界中の海を恐怖させた“ロックス海賊団”の元船員達が手を組み築き上げた海賊同盟がそれを成したのだと新聞には書かれていた。

 

「ろ、ロックスじゃと……!!!」

 

「そ、村長!! ロックスとは一体……?」

 

 それは一昔前、当時の脅威を聞き、あるいは直接体験した者達だけが知る禁忌の存在。

 世界政府が統制していた世界の脅威となる情報だったが……今やその口や筆を封じる者はいない。

 ゆえにロックス海賊団についての情報もまた、そう遠くない内に人々の知るところになるが……今は起きた出来事による衝撃と不安に誰もが支配されている。

 “白ひげ”が死に、世界政府が滅びた──その変化はまだ小さいが、徐々に様々な場所で大きくなり始める。

 

「お……おい止まれ!! ここは軍の敷地内だぞ!!」

 

「がはは……知ってるよ。海軍の支部……ニュース見たぜ。本部が滅んで大変なんだってなァ?」

 

「おまけに世界政府まで滅んじまって……可哀想に。もうお前らには後ろ盾も何もなくなっちまったな~~~!!!」

 

 カモメを掲げる旗は“正義”の象徴であり、その旗がある場所での狼藉は決して許さないという秩序の目印でもあった。

 

「白ひげのナワバリはもう終わりだァ!!! 今日からこの島はおれが支配する!!!」

 

「もう金輪際このマークは通用しねェんだよ!!!」

 

 そして“新世界”にて、平和を愛する多くの島の秩序を守っていた“白ひげの髑髏”も──

 

「政府や海軍に怯え、逃げ隠れながら航海する平和な時代は終わりだァ!!! 今日から世界中の海が海賊の物になる!!!」

 

「“白ひげ”も最後に言った!!! “ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”は実在する!!! それを邪魔する海軍はもういねェんだ!!! 誰に憚られることもねェ!!! 探しに行くぞ!!!」

 

 ──秩序を意味する旗は全て……通用しない。

 

 白ひげと海軍が敗北し、世界政府が陥落したというその結末は、世界中に争いの火種をばら撒き、次第に芽吹き始める。

 正義と秩序を失くした海は大きく荒れ始め……人々に“恐怖”と“争い”をもたらし、徐々に“暴力の世界”へと変貌していった。

 

 

 

 

 

 一週間前──世界中に知れ渡ったその大事件の当日。

 

 世界を分かつ巨大な赤い壁──“赤い土の大陸(レッドライン)”の頂上に、この世界の“神”が住む聖地が存在する。

 800年前より、神によって巨大な組織の樹立と共にこの世界に定められた法はこうだ──神には決して誰も逆らってはならない。

 神は世界を支配し、外界の人々を権力で脅し、虐げ、苦しめ……悠々自適な、肉体的にも精神的にも何も不自由のない幸福な生活を謳歌していた。

 聖地“マリージョア”にはこの世界の神である“天竜人”が住んでいる一方で、その天竜人に従い恩恵を得る政府の役人や衛兵と、人権を失い、天竜人によって好き勝手に虐げられる奴隷達がいた。

 

「──さーて、始めよっか」

 

 だがしかし──“神の落日”と共に、力関係は逆転する。

 

「衛兵!! 衛兵!!」

 

「な、何をしているんだえ!! このグズ!! 早くあの汚らわしい下々民を殺せ!!」

 

「わちき達にもしものことがあったらどうしてくれるアマス!! お前らなどどうなっても構わぬからわちき達を逃がすアマス!!」

 

「し、しかし……ウッ!!」

 

「ひっ……!!?」

 

 天竜人は気づかなかった。

 聖地に島が落とされ、城が燃え、町が火の海になろうとも。

 彼らは鈍感だった。手遅れになるその時まで、自分達の窮地には気づかず、自分達だけは助かると本気で信じていた。それが世界の常識であり法だったから。

 ゆえにこそ彼らは初めての経験に身を震わせ、数少ない初めてではない者も同様に身体を震わせる。

 13年前の事件でもここまでは酷くなかったと。

 

「おい、いたぞ!! 天竜人だ!!」

 

「ギャハハハ!! おれ初めて見たぜ!!」

 

「……!! お、お前らなんだえ!! 無礼者!! 今すぐここから離れるえ!! そうしたら許してやらんこともないえ!!」

 

 恐怖という感情を思い知る。

 

「おい、殺すなよ。生け捕りにして広場に集めるのが任務だ」

 

「はい!!」

 

「ギャハハ!! 急げ!! ショーが始まるぞ!!」

 

「……!!」

 

 自分達の威光が通じず、衛兵は殺され、縄で縛られ連れられていく。

 屈強な下々民──海賊達には力でも俊敏さでも敵わない。誰1人逃げること叶わず、1人、また1人と連れられていく。

 そうして連れられる場所は聖地マリージョアの広場であり、そこには聖地を踏み躙る多くの海賊達がいた。

 

「おい!! ゲストはまだか!!?」

 

「これでおそらく全員です!! クイーン様!!」

 

「早くしろドアホ!! ショーが遅れちまうだろう!! 奴隷の方は!?」

 

「こちらもおそらく全員です!!」

 

 そして広場に集められているのは天竜人だけではなく、奴隷もまた枷を解くことなく、広場に並ばされている。

 衛兵が殺され、町と城が燃える。それを行った海賊達が略奪に騒ぎ、酒や宝を手にし、しきりに“ショー”という単語を口にする。

 天竜人も奴隷も一様に嫌な予感しかしない──そんな中、とうとうショーを企画した発起人が不可思議な光の玉となって現れる。

 

「──お待たせ。準備出来てる?」

 

「! ああ、準備は勿論万全だぜ、ぬえさん!!」

 

「オッケー。……それで、捜し物の方は?」

 

「あ~……そっちの方は今のところは特に報告にもないみてェで」

 

「……そっか。まあ城になかったし、町にあるとは思ってないけど」

 

 天竜人や奴隷達が突如として現れた存在に毛穴から汗を流す。不思議な羽を持ち、宙に浮いているその小柄な少女を見て何の反応も起こさない者は皆無だ。

 何しろ、知らないのであれば屈強な海賊達がその少女に従っているのが不自然であり……逆に知っているのであれば、彼女を見て恐怖しない筈がない。

 

「ん、それじゃあ準備は終わってるみたいだし、気分を切り替えて……そろそろショーを始めよっか!!」

 

「OK!! 野郎共!! スタンバイ!!」

 

「映像電伝虫付けます!!」

 

「ぬえさん!! こちら、正面映像です!!」

 

「は~い」

 

「本番始めます!! 本番3秒前!!」

 

 そして少女の号令の下、海賊達が動き出し、ショーの開始前となると一斉に静かになり、映像電伝虫の後ろに立つ男が丸々太った男にも了解を取り、少女に向かって指でカウントダウンを取る。

 3だけは口に出し、2と1を指だけでカウントを取り──それを全て折り曲げて0にすると同時に映像電伝虫と照明が一斉に光り始めた。

 

「はーいどうも!! こんばんぬえ~~~~~ん♡ ──世界一のアイドル!! “四皇”百獣海賊団副総督“妖獣のぬえ”こと封獣ぬえで~~~~す!!! 今日も楽しくエキサイティングで残酷かつ可愛い配信を皆さんにお届けしまーす!!!」

 

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 

「こんばんぬえ~~~~~ん!!!」

 

「キャ──♡ ぬえ様~~~!!!」

 

 ショーの本番が始まると少女は映像電伝虫の前で身体を回転させ、ウィンクと共にピースサイン。可愛くポーズを取って挨拶をした。そして同時に周囲を囲む海賊達から歓声が響き渡る。

 それだけを見るならば賑やかなショーの始まりの光景であり、恐れる要素は一つも存在しない。

 だがその背景は燃える町。縄で捕らえられ怯える人々。殺された死体。肉片。部位。血。

 そして何より、その少女があの百獣海賊団の副総督“妖獣のぬえ”ということで誰もが恐怖する。

 彼女こそ四皇“百獣のカイドウ”の兄姉分であり、新世界を幾度となく血で染めてきた得体の知れない恐怖の化身。世界政府を落とした海賊達の親玉の1人だ。知らない者はその得体の知れない正体不明さに恐怖するが、知る者こそより恐怖する。知っていてもまた得体の知れない。そんな存在がぬえなのだ。

 

「そして今日は記念配信!! 皆はニュース見た? ……って、さすがにまだ届いてないかな? でもまあ察しが良い人なら気づくと思うけど……今日は──……なんと!! あの世界政府を滅ぼした記念すべき日!!! 私達は白ひげ海賊団と海軍本部を滅ぼし、戦争に勝利しました~~~~~!!! イェ~~~~イ!!!」

 

「うおおおおおおお~~~~~~~!!!」

 

「まあ途中、鬱陶しい連中も現れてそっちは決着つかなかったけど……それはともかく今日は勝利記念ということで今日の配信場所はあの“聖地マリージョア”!!! 滅多に見れないあの聖地だよ!!! 奥にあるのがパンゲア城でここは天竜人が住む町!! ……ま、全部炎上中だけど、それは許してね♡」

 

 そしてそのぬえがやるショーと言えば知る者ぞ知る──残虐なスプラッタショーだ。

 裏の世界ではその配信は特に有名であり、多くはアイドルライブやトークショー。エンターテイメント性のある可愛く愉快なノリの良い配信であるが、時に料理配信などの度が過ぎた残虐ショーを行うこともある。

 そしてそのショーは内容にもよるが、新世界の百獣海賊団のナワバリに住む人々や裏社会の帝王達、ブローカーなど闇の住人に向けて配信され、不定期にゲリラ配信としてテロのように無理やり見せつけることもある。

 ゆえにアイドルライブだけを見てファンになる者も多いが、ハマりにハマって裏の配信に辿り着くと彼女が行う残虐ショーに衝撃を受け、より恐怖してトラウマを得るか、あるいはその危険な魅力に魅入られてよりファンになるか──どちらにしても正気を失いかねないショーである。

 ……実のところ“天竜人”にもそのファンはいた。残虐ショーは彼らにとっては愉快な見世物。娯楽として需要のあるものである。

 

「でも天竜人なら全員ちゃんと捕まえてあるよ!!! 何を隠そう──今日のゲストは聖地に住むこの世界の神!! 天竜人とその奴隷達!!! 今日はこの大物ゲスト達を使った最高のショーを見せちゃいま~~~す!!!」

 

「……!!」

 

 だがその彼らの娯楽も──自分達が犠牲にならなければ、という但し書きが付く。

 自分達だけは絶対に犠牲にならない。そう思っているからこそ天竜人にとっては忌避する理由にならないのだ。

 人に対する残酷な仕打ちも、自分達は人間とは違う。自分達が尊い者だと信じるからこそであり、人を畜生と同じように考えているからこそ。

 ゆえに彼らはその畜生によって舞台に上がったところでようやく気づく──自分達もまた、その犠牲になりえるという現実に。

 

「ん~~~~~~!!!」

 

「わっ!! おい暴れるんじゃねェ!!」

 

「おっと!! 天竜人達がじたばたと暴れ始めた!! ここに来てようやく自分達の立場が分かったのかな? ──えい」

 

「っ!!!」

 

 それを理解した者から順に暴れ始める。縄で縛られてもなお、彼らは自分達の命の危機に全力で抗おうとする。生物としての本能だ。それを止めることは難しい。

 ──だが止まった。

 

「はい!! ぬえちゃんびっくりショー!! 天竜人の足が……綺麗サッパリ()()()()()()♡」

 

「~~~~~……っ!!!」

 

「ああっと。もがかないもがかない。痛いかな? まあ大丈夫。あなたは運良いよ。あなたはショーには使わないから──はい、これ裏持ってってー」

 

「はい」

 

「ジャギギ!! ジャギギ!!」

 

「ジュキ~~~!!」

 

「ハチャチャチャ~~~!!」

 

「あ、こらっ。あなた達、今は配信中だから静かに処理しなきゃダメよ。取り合いもダメ。後でちゃんと残り物上げるから我慢してね~。……ってことで、はい。配信中に暴れたり邪魔したゲストは強制的に退場させますから大人しくしてね?」

 

「…………!!」

 

 配信外──映像電伝虫の外にぬえの手によって足を失った1人の天竜人が運ばれる。映像の外で怪物の様な鳴き声と異質な音が響くとぬえが注意している間、映像電伝虫の前に文字を書いた紙が映し出される──「この後スタッフが美味しくいただきました」その意味は配信を普段から見ている者にも見ていない者にも理解が及んでしまうものであり、実際にその場面を見ていた天竜人は一斉に暴れることを止めた。

 

「お待たせ~!! それじゃゲストも静かになったところで早速ショーを始めちゃいましょう!! まずは奴隷の方から~~……うーんと、それじゃそこの女の子!! 前にどうぞ!!!」

 

「っ……」

 

 そして配信が再開される──映像が止まっていた訳ではないが──ぬえは戻るなり、奴隷の集団を品定めし、その中から1人の少女を指差して選ぶと前へと出るように告げる。

 奴隷達を囲んでいる百獣海賊団の船員の1人が少女の背中を押した。奴隷の方は枷があるため縄で縛られてはいない。加えて口も自由だ。

 だが奴隷は声を上げようとせず、更には暴れたり逆らったりする様子も皆無だった。

 

「はいこんばんは。大人しく前に出てきてくれてありがと♡ お名前を教えてくれるかな?」

 

「…………フラン」

 

「フランちゃん!! なんだか親近感感じる素敵な名前だね!! もしかして名前の後ろの“ドール”が付いたりしない? もしくは“スカーレット”!!」

 

「……しま……せん」

 

「残念♡ それじゃ偶然私の知ってる可愛い女の子と同じ名前の金髪のただのフランちゃんは奴隷なんだよね?」

 

「……はい」

 

 その奴隷の少女は逆らおうとしない。ぬえが何やら知り合いに似ているのか、名前について質問を重ね、意味の分からない狂言じみた言い回しで質問しても頷くだけである。

 だがこれはこの少女でなかったとしても同じ。奴隷の性である。

 何しろ天竜人の奴隷とは、人間として心が壊れてしまっていることが多い。

 それはある種の自己防衛本能にも近い。精神を狂わせ、心を壊し、苦痛や恐怖を麻痺させたり、この少女のようにあらゆる言うことを反射的に聞いて自己を守ろうとする。

 逆らったら余計に酷いことが待っている──それを正しく最初から理解しているため、奴隷達は一切抵抗しなかったし、実際にそれは正しかった。

 

「そっかー。それじゃ今まで色んなことさせられてきたでしょ?」

 

「……はい」

 

「うんうん、そうだよねー。ちなみにどんなことされてきたか聞いてもいい?」

 

「…………それ、は……」

 

「あーごめんごめん。もういいよ。その反応で大体分かったからさ。野暮な質問しちゃってごめんねー?」

 

「っ…………」

 

 実際に逃げようとした奴隷は殺されていることを知る奴隷達はやはり逆らわない。言うことを聞き続ける。

 奴隷として過ごしてきた経験。そのトラウマは簡単には払拭出来ないし、完全に立ち直ることなどほぼ不可能なのだ。

 

「んー、それじゃ次は天竜人の方だね。──はい、このフランちゃんを飼ってた天竜人の方、前に進み出て来てくださーい!!」

 

「!!?」

 

 奴隷達が諦めて大人しくぬえの進行を待っていると、次は天竜人の方を向いて少女を飼っていた天竜人に前に出てくるように告げた。

 その言葉に天竜人は動揺する。特に、その呼ばれた張本人は。

 

「あれ? 出て来ないの? 出て来ないなら後ですごい()()()に遭うと思うけど……んー……しょうがない。それじゃあ諦めて別の──」

 

「……!!」

 

「あ、なんだいるんじゃん。次からはもっと早く出てきてね!! 次は問答無用で退場だからさ!! はい、それじゃ縄解いてー」

 

「はい!!」

 

 ぬえの呼び出しに身体が硬直し、一時は出ることを拒んでいたその天竜人の男だが、その後のぬえの言葉から感じる本能的な恐怖に頭が警鐘を鳴らし、すぐさま前へ進み出てくる。汗が滝の様に流れていた。男は百獣海賊団の船員の手によって縄を解かれ、自由の身になり、自分の足でぬえの方へと進み出てくる。

 

「はい。ということで天竜人とその奴隷。この世で最も偉い相手と最も人権のない最下層の人間が対面しました!! いやーこうなるとさすがのフランちゃんも内心穏やかじゃないよねー?」

 

「……っ」

 

「…………」

 

 ぬえの隣で数メートルの距離を空けて対面させられる奴隷の少女と天竜人の男。どういうつもりなのかはまだ分からない。2人は何も分からないままぬえの喋りを聞き続ける。

 そしてそのぬえの言うように、少女は内心が穏やかではない。目の前に天竜人。それも自身を日夜、毎日、年から年中苦しめる相手が目の前にいるとなれば心は恐怖で泣き叫ぶ。身体に現れようとするのを必死に抑える。これが奴隷の処世術。生き残り、少しでも苦痛を減らすための術だ。

 

「怖いよねー? うんうん、そりゃそうだよ。相手は天竜人。世界を支配してる神様みたいに偉いんだもんね? 逃げれないし、逃げたってどうも出来ない。逆らったら衛兵やら海兵やら殺される。世界そのものが天竜人の物なんだからどこに行ったってその恐怖はついて回る」

 

 そうだ。少女は心の中で同意する。どうしようもないことだと。

 だから逆らわないのだ。どうにも出来ないことだからこそ諦めて妥協する。抵抗を止め、少しでも苦痛を減らす方向へと自然に移行する。

 

「どうにか出来るもんならしてるよねー? ──ま、でもしょうがない。それは相手に権力という力があって、自分はそれをどうにか出来ないほど弱いのが問題なんだから」

 

 そう。どうにか出来るならとっくにしてる。出来ないからこそ諦めた。

 世界は残酷で救いなどない。秩序を守るはずの世界政府も、正義を謳い民衆を守る筈の海軍も運の悪い弱者を救ってはくれない。

 この世は持って生まれた地位や権力が全てだ。生まれた場所が全てだ。

 天竜人や王族、貴族でもない。裕福な家の出でもない。世界政府加盟国の民ですらない、貧しい非加盟国の荒れた町で生まれ育ち、親も兄弟も亡くなった自分を救う者など誰もいない。

 あるいはせめて力があれば良かった。その全てのしがらみを跳ね除けるほど強い力があれば。

 ……だがそんな力はこの世に存在しない。多少強い力がある程度であればすぐに潰される。この世は力だけでどうにか出来る世界ではない。生まれついての強者は何もせずとも強者であり、それ以外の者は従う他ない。

 

「不公平だよねー? あなたは必死に生きようとして、もがき苦しみながら努力してるのに、相手は生まれた時から何の不自由もしてない。努力なんて必要ない。何もせずとも豪華な家に住んで、美味しい食べ物を幾らでも食べて、気に入った異性がいれば好きなだけ連れ込む。自分の欲求を満たすためだったら相手の都合なんて全部お構いなし。言うこと聞いてくれる部下に命令してはい終わり。努力も行動もせずに言葉一つで世界中が思いのまま。……そんな状態が、生まれた時からついて回るのなんて異常だよね?」

 

 そう、そうだ。自分は努力した。努力して、必死に生き抜こうとした。

 恵まれない生まれであっても腐らず、頼れる相手がいなくとも1人で懸命に知恵を絞って動き、力をつけて何とか一日一日を生きようとした。

 だが今の世界はそんな必死に生きようとする人を、その努力を容赦なく摘み取る。

 卑怯だ。あまりにも。

 奪われることは確かにそれ以外にもある。だが、その相手は自らの得た力でそうしていた。

 自ら血を流し、汗を流し、最前線で自らを危険に晒し、生きるためにリスクを常に背負って行動している。

 奪う際も自己責任だ。人に恨まれ、反撃される恐れがある。それを防ぐために身を隠したり、力を付けなければならない。

 人に命令だけして美味しい思いをする者も同様に気に食わないが、それもそこに上り詰めるまでの苦労があれば納得が出来る。

 努力し、行動し、実力を身に着けたからこそ人に命令出来る地位に立ち、それまでの苦労と現在の実力に見合った美味しい思いをする。

 それであれば自分が虐げられてもまだ納得が行く。だが──

 

「今の世界は不自由で不平等だね」

 

 そう。不平等だ。

 あまりにも納得がいかない。なぜ運良く生まれが良かっただけの生き物が美味しい思いをし、それ以外が下に付かなければならないのか。知能ある人間なのにそんなことも分からないのか。

 それに比べれば人間以下である獣の方がまだ正しい理で生きている。群れで生きる獣の多くは生まれではない、その個体の実力で長を決める。爪が鋭い者。噛む力が強い者。俊足な者。より強い者。力が強い者が上に立つ。そしてそれは別種の生き物同士でもそう。より強い者が上に立つ。

 無論、生まれた時から力の強い生き物だっている。それもまた不平等かもしれないが……それでも運だけの愚図がのさばり全てが支配する世の中よりは何倍もマシな筈だ。

 そうあればいいな。そうなってほしい。そう、だから──

 

「──平等にしてあげる」

 

「え……?」

 

 ──そう出来るようにする。

 自らが持つ……自らに渡された牙の鋭さを幼き少女は確認した。

 

「これが何か分かる?」

 

「…………これは……ナイフ」

 

「そう、ナイフ。その辺の、どこにでもある何の変哲もない普通のナイフよ……とはいえ、鋭さは十分」

 

 自分に武器があることに少女は気づいた。誰かから渡された借り物の、天からの贈り物とも言える他人の力。

 だがその力は自ら研ぎ、扱いを学び、鍛え、振るうことが出来る。

 

「今ここには何の法も縛りもない」

 

「何の……法も……?」

 

「人を傷つけてはいけない。人を殺してはいけない。ありとあらゆるルールよ。今ここは無法の地。理不尽な法を敷いた世界政府は今さっき()()()()()()

 

 少女は今のこの場所について教えられた。ここには何のしがらみもない。誰かを殺し、殺されても罰はない──無法の地。

 

「あるのはただ一つ──恐竜や太古の生物が生きていた時代からの掟……弱肉強食の理」

 

 少女は理を知る。強き者が生き、弱き者は死ぬ……そんな獣の世界の理を。

 

「あなたは目の前の相手を──殺してもいいし殺さなくてもいい」

 

 何をしたってもいい。それを縛る者は何もない。

 あるのは強弱。自分の判断と自己責任。

 相手が強く、勝てないと認め生きるために従うのならそれでもいい。それは生きるための生き物としての賢い選択だ。何も恥じることはない。

 

「でもあなたの目の前にいるのは……何の爪も牙も生きるための知恵すら持たない──欲だけはいっちょまえで、自分の体を脂肪ででっぷり太らせた……ただの肉塊よ」

 

 だが相手が弱く、何の力も持たない弱者であったら? 

 己の方が強く、相手は己より弱い癖に自分より良い思いをしている。気に入らない。自分の方が強いのだから良い思いをしていい筈。奪える。己の爪と牙で。力に見合わない。ムカつく。弱いのに。圧倒的に弱い癖に強い自分を踏み躙っている。刺せ。殺せる。法はない。自分より強い者がそれを許している。殺せる。

 

「今もうこの世界は──“暴力”がものを言う世界よ」

 

「……!! お、おいよせ!! やめるえ──」

 

 ──死ね。

 

「──良いね♡」

 

 牙はあっさりと獲物へと喰らいつく。

 脂肪だらけの身の程を弁えていない豚の鳴き声が耳へと届く。

 脂肪が厚いだけに一刺しでは死なない。牙はあっても自分はまだ非力だ。

 なら何度も──諦めず、何度も刺して殺す。

 何のことはない。死ぬまで刺せばいい。身体を動かせばいい。

 そうするだけで今まで受けてきた仕打ちを、怒りを、悲しみを、何もかもを発散出来る。

 刺して刺して刺して──死んでもなおしばらく己の衝動が消えるまで、何度も刺す。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 そうして気づけば鳴き声は聞こえず、己の身体は返り血で真っ赤になっていた。

 まるで狂気に取り憑かれ、正気に戻ってしまったかのように自らがしたことに動揺する。

 そしてなおかつ、それでもまた己のトラウマは完全に失っていない。

 一度付けられた傷を完全に治すことは難しいものだ。それが念入りに付けられた古傷であれば尚更。

 己の心の傷を、完全に吹っ切ることの出来る者など──

 

「よくやったね♡」

 

「……!!」

 

 ──この世にたった1人しかいない。

 ゆえに怪物。得体の知れない。正体不明。妖怪の如き人物。妖獣。

 陸海空、全ての生きとし生けるもの達の中で最恐の生物と称される海賊──“妖獣のぬえ”は血でべっとりと汚れた少女を抱きしめる。

 おおよそ初めての人殺しをして動揺している子供に取る行動ではない──まるで初めてのおつかいを果たした子供を褒めるような、純粋な可愛がりである。

 

「あなたはこの天竜人の男より強かった。だから死んでも当然よ」

 

「……で、でも……」

 

「人を殺すのはいけないことって思ってる? んー……まあ悪いことではあるかもしれないけどしょうがないんじゃない? 強いあなたをムカつかせた相手の弱さが悪いんだしさ♡」

 

 ぬえは血で濡れた少女の頬を撫で、手に付いた血を舌先でぺろりと舐め取る。そこに狂気は見えない。ぬえは至って正気。狂っても壊れてもおらず、自分の意志で自分のやりたいことをしていた。

 

「それに今日からこの世界は“無法”よ」

 

「無法……」

 

「そう。暴力だけが全ての世界。強ければ生きて何かを得ることが出来るけど、弱ければ全てを奪われて死ぬだけ。と~っても平等で自由な世界!!!」

 

 ぬえは本気でそう思っている。

 善悪の区別をしっかりと付けながら、それがいい、そうした方がいい、そうしたいと自らの考えで意志を成そうとしている。

 

「──というわけでみんな。ちゃんと見てたかな~~?」

 

 ゆえに考えは変わらない。誰かの説得も不可能。

 本物の海賊は己の意志を旗に掲げている。

 

「これがこれからの世界の縮図──生まれも何も関係ない!!! “力”こそが全てな……“暴力の世界”!!!」

 

 “暴力”こそが“百獣”の旗に掲げる意志。

 かつて兄姉と共に互いに同調して掲げた野望。夢。それを止めることは叶わない。

 

「これから始めるのは今までの世界の象徴だった天竜人と奴隷の殺し合い♡ 勝者だけが生き残れる平等なショーを皆にお見せしちゃいまーす!!! これからは世界の至るところで争いが起きて、こういうことも増えるだろうしー……まあその予行演習として、普段争いをしない、好まないって人も生の殺し合いを見て楽しんでね!!! ──ま、争いは起こんなくても私達が起こすんだけどね!!!」

 

 そしてそのショーを見ていた、あるいはそのショーの内容を耳にした善良な者達の誰もが恐怖し、そうでない者達もまた覚悟する。

 どうあれこの先、この時代では……平和が存在しない──これまでより遥かに多くの人々の血が流れる時代になるだろうと。

 

 

 

 

 

「んーっ!! 終わった終わったー」

 

 ショーライブが終わり、両手を上げて思い切り伸びをする。

 普通ならこれくらいの行動で疲れるほど柔な体力はしてないが、さすがに今日は色々と濃い一日だったため体力的にも精神的にも削られた感覚がする。

 頂上戦争にマリージョア襲撃。言葉にすればそれだけだが、言葉以上に大変なことを成し遂げた。

 

「よ~~~~し!! 野郎共!! 宴会を始めるぜ~~~~!!! “FUNK”!!」

 

「うおおおおおおおおおお~~~~~~!!!」

 

 そして巨大な戦争の勝利の後であるため、それだけ部下達も高揚している。

 部下達はクイーンの乾杯の挨拶と共に天に向かって吠えた。

 傷ついた身体を癒やしながらも手に入れたモノを掲げて酒を呑む。生き残ったことを喜び、勝利に酔いしれる。

 海賊にとって宴は欠かせないものであり、それはウチも例外ではない。海賊とは酒好きで騒ぐのが大好きなのだ。

 普段なら真っ先に私も飛び上がり、OPがてら一曲歌って踊るところなのだが……。

 

「結局、赤髪海賊団に革命軍は白ひげと海軍の生き残りを連れて逃げちゃったし……おまけに聖地には五老星やその上の存在もなし。宝も……金銀財宝は盛り沢山だけど肝心な()()()()は何もないし……幾ら明るくて楽しいどんな時でも笑顔な可愛いぬえちゃんでも憂鬱になるよねー」

 

「“CP0”も居ませんでした。私の裏切りも、バレているものかと」

 

「あーうん。いいよいいよ。ジョーカーはよくやってくれたし、それに次の布石も打ってあるんでしょ?」

 

「ええ、勿論♡」

 

「それなら良しだね……っと」

 

 私は戦争の結果について軽く息を吐きながら隣にいるジョーカーに愚痴を呟く。内容は主に戦争の結果。赤髪海賊団と革命軍がまんまと逃げおおせたことだ。予想外の激戦を楽しいとも言えるが、結果的に逃げられたことについてはイラッとくる。赤髪から受けた傷もそろそろ回復するとはいえ地味に痛むしさ。

 だからこそステージでは次にクイーンのライブが始まっているが、今はちょっぴりアンニュイな気分でもあるし、やることもまだあるのでここで大人しくバーベキュー。焼き肉をしながら的に向かって針を投げるダーツ遊びに興じている。

 ちなみに肉を焼いているのは私ではない。すっかりと老いてしまったかつての仲間だ。

 

「全く……おれにこんな肉を焼かせるとは……」

 

「えー総料理長はこの肉初めてなの? 美味しいよ?」

 

「生憎と“神”を調理するのは初めてだ」

 

 やや呆れながら私の希望のお肉を焼いているのはビッグマム海賊団の総料理長であり元ロックス海賊団の料理長。“美食騎士”ことシュトロイゼンだ。

 普段ならキングに頼むところだけどキングはキングで忙しかったから料理専門の人に頼んだ。ということでうってつけなのがシュトロイゼンであり、私が持ってきた珍しいお肉に文句を言いながらもきちんと調理しているのはさすがでしかない。私の背後ではしゃいでいるナンバーズも喜んでいる。

 

「んー♡ 美味しい!! ねえねえシュトロイゼンも食べてみなよ。神の味がするよ!!」

 

「遠慮させてもらう」

 

「え~~!! 食わず嫌いはよくないと思うけどなぁ」

 

「……食わず嫌いではなく、味を知ってるから遠慮してるだけだ」

 

「品種が違うと結構違う味になるよ? 性別とか体型とか筋肉と脂肪の付き方でも変わってくるし。──ちなみにこのお肉は油が多くて甘い味だね。人によってはちょっとくどいくらいには」

 

 歳がいってる老人には結構キツいかもしれないね、と言って私はお肉を口に運ぶ。口の中で肉の旨味と油がとろけた。

 

「ん~♡ 美味しい~♡ ご飯と酒が進むね!!」

 

「…………予想だにしなかったな」

 

「ん? 何が?」

 

 私が特上のお肉に舌鼓を打っているとシュトロイゼンがふと私を見て目を細める。

 その瞳は過去を思い出し、そして苦々しい思いを感じているような、そんな表情のままシュトロイゼンが率直に思ったことを告げてくる。

 

「あの見習いの子供がこれほど強く厄介な存在になるとは……あの頃の船員の誰も……()()()()()()予想していなかっただろう」

 

「!」

 

 思わず、言われたことに箸が止まる。

 それは元仲間からの率直な驚きと感心。そして下剋上を成されたことによるちょっとした反骨心の表れだ。

 あの頃、ただの見習いである私を下に見ていた多くの仲間達にとって、私がここまで成長したのは予想外であり、リンリンに野望を託しているシュトロイゼンのようなものからすれば感心もあるが僅かに苦々しくも思うのだろう。

 そしておそらく、ロックス船長ですら予想はしていなかっただろうとシュトロイゼンは言っている。

 

「…………もしそうなら──」

 

 ……まあそれはどうか実際には分からない。

 ただ、あの人の想像を超えるような成長が出来ていたならば──

 

「──嬉しいねっ!!」

 

「…………そういう部分は昔から変わらんな」

 

「えー何でため息吐くのよ。こんなに可愛いぬえちゃんが更に可愛い笑顔を提供してあげたって言うのにさ。──えいっ」

 

 どう見えているかは分からないが、私的にはちょっと恥ずかしいくらいに純真な笑顔を浮かべてしまったつもりだったが、シュトロイゼンは眉を顰めて溜息を吐くのみ。うーん、やっぱギャップを感じて恐ろしく感じてるのかな? 私みたいな可愛くて人助けもしちゃうような女の子が強くて平然と酷いことも行えるとなると恐ろしいし危ない魅力を感じるものだよね!! 私は無自覚ではなく自分のセールスポイントはちゃんと理解しているため売り出し方も完璧なのだ。さすが私。アイドルの鏡ね。

 

「──ママママ……もうやってるみたいだねェ」

 

「あ、カイドウにリンリン。おかえりー」

 

 と、そうやって自分の魅力を再認識しながら肉と酒と娯楽を楽しんでいるとカイドウとリンリンも戻ってきたので挨拶をしつつ感想を尋ねる。

 

「どうだった?」

 

「弱くはなかったが……つまらねェ相手だった。──おい、その首は後で晒しとけ」

 

「はい!」

 

「ハ~ハハハ!! 残ってるのは雑魚ばかりで退屈だったねェ!!」

 

 と、カイドウは持ってきた首の一つを部下に晒すよう命じる。なんてことはない。肩書きだけは立派な老兵をまた1人、カイドウが終わらせたというだけだ。世界政府全軍総帥なんて言っても大したことはないし、それ以外の兵についても私達の敵じゃない。

 そしてその2人もドカッと腰を落ち着け、酒や料理、あるいは菓子を口にし始める。

 

「ぬえは美味しそうなものを食べてるねェ。おれは食べたことないがどうなんだい? 味は」

 

「美味しいよ!! 普段はキングに焼かせたり自分で焼くんだけど久し振りにシュトロイゼンの味付けが食べられて懐かしいね!!」

 

「そうかい!! おれも後で味見してみようかねェ。……それより、やっぱ近くで見るといいねェ……ナンバーズと言ったか。その古代巨人族の失敗作、一匹くらいおれにくれないかい? 何かと交換でもいいよ」

 

「ジュキ!!?」

 

「ダメ!! この子達は私のお気に入りなんだから!! リンリンが珍しい生き物好きだってのはわかるけど渡さないよ!!」

 

「ハ~ハハハマママママ!! 冗談さ、ぬえ!! 欲しくなったら自分で手に入れるよ。今回は逃げられちまったが、ベガパンクでも手に入れるか……もしくはもう一度研究させるのもいいねェ!!」

 

「おいリンリン!! ベガパンクは手に入れたら分け合う約束だ。手に入れたからって隠すんじゃねェぞ?」

 

「わかってるさ。今更抜け駆けはしねェよ!! だからお前達も仲良く進もうぜ。昔みたいにな……!! おれにとってお前ら2人は可愛い弟と妹のようなもんさ。マママママ……!!」

 

「だったらいいがな」

 

「あはは、リンリンも変わらないね!!」

 

 私達3人は互いの部下達が集う宴会場の真ん中で仲良く宴を楽しむ。会話のノリが懐かしい。この空気感は私達独特というか、他では味わえないものがある。仲間同士で殺し合いをしてた頃を思い出すね。あの頃は会話一つで殺し合いに発展することもよくあったし、誰も遠慮しないからはたから見れば物騒過ぎる会話が頻発していた。

 そして今も私達は遠慮しない。遠慮せずにお互いの欲を丸出しにしながら平然と肩を組み笑い合う。

 今までにどれだけいがみ合っていようが、目的が同じであれば協調することが出来る──海賊の流儀だ。

 

「ママ!! のんびり宴会なんてしてていいのか!?」

 

「ペロス兄の言う通りだ、ママ!! 一刻も早くブリュレを助けねェと……!! 早く“黒ひげ”を追いかけさせてくれ!!」

 

 だがそんな楽しんでいる宴の席で、ビッグマム海賊団の幹部。リンリンの子供達は少し焦っている。ブリュレを攫われたから早く取り返しに行きたいのだろう。子供達の中で一番年上のペロスペローが進言し、カタクリも特にブリュレが心配なのだろう、同調して助けにいきたいと申し出ていた。

 しかしリンリンは顔を一旦険しいものに戻し、家長として逸る子供達を諌めた。

 

「落ち着きな、お前ら!!」

 

「だが!!」

 

「闇雲に探したところで見つかりゃしねェよ!! 待ってりゃそのうち尻尾を出す。その時になったら落とし前つけてやりゃあいいのさ!!」

 

「……! それは……そうだが……!!」

 

「ハハハハ……まあ家族を心配する気持ちは分かるが慌てたって事態は急には動かねェ。お前達もどっしり構えて宴会でも楽しんでな!!」

 

「…………」

 

 リンリンのその言葉に子供達は言葉を失う。反論は出来ない。家長であり海賊団の頭。道理もリンリンにある。冷静な判断だ。

 とはいえ子供達も簡単には飲み込めないのだろう。特にカタクリなどは拳を強く握りしめ、どうすることも出来ない自分やこの状況に苛立っている。とても宴会で楽しくお酒を飲む気分ではなさそうだ。

 だがそれはビッグマム海賊団の事情であり、こちらには関係がない。そう思っていたらウチの一番の部下が鼻を鳴らした。

 

「フン……足引っ張りやがって……」

 

「あァ!!? 何だとキングてめェ!!」

 

 キングの呟きにシャーロット家の子供達が反応する。熱くなって即座に声を上げたのはダイフクやオーブンなどの血気盛んなお兄ちゃん達。

 だがそんな彼らにビビって言葉を慎むようなことを当然キングはしない。

 

「あの女がみすみすと攫われなけりゃ補給も失うこともなく、“黒ひげ”を逃がすこともなかった」

 

「……! ブリュレが攫われたのはお前らの護衛がトチったからだろうが!!」

 

「それはお前らもだろう。……まァ元々お前らの働きに期待はしていなかったがな」

 

「何だと!!」

 

「てめェ……!!」

 

 キングが更に相手を苛立たせる失望の言葉を重ねるとオーブンらはいきり立ち、普段は冷静なカタクリでさえキングを睨み、一歩前に出る。キングもそれに反応した。

 

「何だやる気か? そんなに上下関係を分からされてェか……!!」

 

「それはこっちの台詞だ……!! 同盟は対等だが、ここらでどっちが上か決着つけてやってもいいんだぞ……!!」

 

「そうだ!! やっちまえカタクリ!!」

 

「バカか!! キング様が負けるかよ!!」

 

 そして遂にキングとカタクリが対峙し、周りもそれを囃し立てる。……と、まあ面白い状況だけどさすがにそれは看過出来ないと私は声を上げてそれを止めに出た。

 

「こらこら、何喧嘩してんのよ。やめなさい、キング。カタクリも」

 

「……ええ」

 

「チッ……」

 

 私が注意するとキングは頷き、カタクリも舌打ちをしながらも戦意を落とす。どっちも納得はいってない様子だが、言われれば止めざるを得ないという感じだ。うーん、私的には仲良くしてほしいんだけどなぁとその気持ちを口に出す。

 

「同盟なんだから互いに仲良くね? どっちも今日は頑張ってた功労者なんだから。どうせならお互いに褒めあってみたら?」

 

「……出来る訳がねェだろう」

 

「……申し訳ないがぬえさん。それは無理だ。クイーンの馬鹿と同じでこいつに褒めるところなんてねェ」

 

「──おい聞こえてんだよ!! なんでおれに飛び火した!!?」

 

 互いに取り付く島もない……そしてキングの罵倒にステージの上からクイーンが叫んで反応した。さすがウチの宴会部長。これで空気は多少……まあ良くはなってないけど!! 私が面白いからさすがだね!! 

 

「カイドウさん、ぬえさん報告が……」

 

「? どうしたジャック」

 

「お肉でも焼く? それとも遊ぶ? どっちも楽しいよ!!」

 

 と、そうして喧嘩を諌め終わると今度はジャックが近づいてきてカイドウと私に声を掛けてくる。こういう時は仕事の報告だろう。こんな時でも気を使って動く働き者だ。後でご褒美あげないとね。

 

「ウチに入りたいと言う海賊団がいるそうで……」

 

「え、もう? 随分と目端が利くというか時勢が読めるねーそいつ」

 

「名のある奴か?」

 

「ええ、それなりには」

 

 ふーん、それは良いことだね。早速私達の下に付きたい、勝ち馬に乗りたい奴らが集まってきてるらしい。

 まあ頂上戦争は中継してたし、それを見てすぐに決めたのかもしれない。これからは海賊の世界になるし、もっと言うなら私達が一番の大勢力。赤髪や革命軍を逃したとしてもそれは変わらないのだ。

 

「フフフ、既に次の時代に向けて幾つもの組織が動き始めている。情報では幾つかの海では既に戦争を始めようとする動きもあるそうで」

 

「世界政府という枠組みが壊れた瞬間それだから面白いよね。──えいっ」

 

 ジョーカーが電伝虫や伝書バットを使って既に幾つか情報を得ているようだ。政府の情報網もまだ完全に消えている訳ではないため、ジョーカーはそれをこちらの情報網として完全に取り込もうとしているのだろう。

 それにもしかしたら……調略もあるのかもしれないし。

 

「どんどん戦力も傘下も増えそうだし良いことだね!!」

 

「ウチもリンリンのところもどんどん勢力が拡大出来そうだな」

 

「ええ。……そういえば、戦力や傘下と言えば……()()()()()はどうするおつもりで?」

 

 と、喜ぶ私達、特に私に向かってジョーカーが言う。

 私がダーツ遊びをしている──的の方に視線を向けながら。

 

「ウッ……!」

 

「ハァ……ハァ……」

 

「…………」

 

 そこにある3つの的──今回の戦争での戦犯3人の処遇をジョーカーは質問したのだ。

 私はそれに答えてあげる。まず真ん中にいる男、元七武海──ドンキホーテ・ドフラミンゴにダーツを投げながら。

 

「ん~……ミンゴは別に……裏切った訳じゃないし、これは単に鳥カゴを解除したただのお仕置きだからね。別に処遇も何もないかな。──ミンゴもそう思うでしょ?」

 

「……ああ……わかってる……!!」

 

「だよね~。しかもお仕置きもとっても優しいイージーモード!! 別に覇気も込めてないし手加減して投げてるだけのダーツなんて大した痛みもないし怪我も大したことないでしょ? 子供のお遊びレベルだしさ!! ──あ、お腹空いたなら言ってね!! バーベキュー幾らでも食べさせてあげるからさ!!」

 

「…………!! ……ああ……」

 

 ドフラミンゴは何かを堪えるように頷く。うんうん、結構良い感じのお仕置きになってるみたいで良かった。

 実際痛みも怪我も大したことないだろう。ダーツもちょっと身体の表面に刺さってるだけだし、それなりには強いドフラミンゴがこの程度で音を上げることなんてない。

 ──ただまあ……磔にして目の前でバーベキューして針を投げるってしてるとちょびっと彼のトラウマを刺激するかもね? というそれくらいだ。

 

「あと何投かしたら解いて上げるからそうしたら宴会に参加していいよ!! ミンゴも大事な戦力なんだから勝利を喜ぶ権利はあるからね!!」

 

「……フ……フッフッフッ……ああ……そうさせてもらう……!!」

 

 と、ドフラミンゴは笑ってそう言ってるが気勢がないね。内心煮え滾ってはいるみたいでそれは良いことなんだけど、それ以上に私達への恐怖が勝っている。うーん、中々バランスというか比率が難しい。ドフラミンゴは追い詰められた方が実力を発揮するから程々にストレスを感じて頑張って欲しいんだけど……あんまりやりすぎると壊れちゃうからそこの塩梅が中々ね。最近は彼の部下も含めてすっかり腑抜けだし、そんなんじゃこれからの暴力の時代を生き抜けない。私達の下で暴力の時代を生き抜くなら、私達を食うくらいの野望と勢いが欲しいものだ。

 そして次、右側にいるのもまた元七武海。

 私達に与しながらも“麦わらのルフィ”のために私達の邪魔をした“海賊女帝”──ボア・ハンコックだ。

 

「──で、ハンコックちゃんは……どうしよっかな~?」

 

「ウッ……!!」

 

 私はハンコックにもほんの少しだけドフラミンゴよりも強くダーツを投げながら考える。こっちはただヘマしただけの外様のドフラミンゴとは違い、はっきりと私達の邪魔をしている。

 ちなみに、部下ならそもそもヘマしたくらいでお仕置きはあんまりしない。ドフラミンゴは部下じゃなくて一応は協力者だから虐めるけど部下になってくれるのならこんなことしないし、なんなら超高待遇で迎えてあげる。

 でもドフラミンゴもハンコックも……どっちも私達の誘いに乗ってくれないんだよね。そうなってくるとこっちとしても心を折って部下になるように説得しなきゃならなくなる。

 

「一応、“麦わらのルフィ”が逃げてからはちゃんと私達と協力して赤髪海賊団や革命軍と戦ってくれたけど……とはいえ、それまでの邪魔を完全に帳消しには出来ないからねー」

 

「ハァ……ハァ……わかって……おる……」

 

 そしてハンコックの方はドフラミンゴよりも堪えている様子だ。やはり過去を思い出すからなのか、こうやって虐げられていることに怯えている。

 おまけにここは聖地マリージョア。ハンコックにとっては決して立ち入りたくない場所だろう。克服して欲しいんだけどさすがに難しいかな? ハンコックはこう見えてメンタル弱いし。そろそろ本格的に追い詰めたいところだ。

 

「それで考えたんだけど……」

 

「……なんじゃ……?」

 

 だから言う。私の良い考えを。

 

「近いうちに……女ヶ島、お引越ししよっか!!!」

 

「!!? え……!!?」

 

 そして言うとハンコックは絶句した。何を言っているか分からないというように。

 だが分かってほしい。私達の出来ることを知ってるのなら簡単なことだ。

 

「カイドウか私の能力で女ヶ島を“新世界”に丸ごと持っていこうかなって。それであなた達の島を私達のナワバリにするの」

 

「そ……そんな馬鹿なことが……」

 

「あ、それともウチ入る? 選んでいいよ。私達百獣海賊団に正式に入るか、女ヶ島を私達のシマにするか。それで裏切ったことは水に流してあげるね!!」

 

「……っ!!」

 

 と、私はとても優しい選択をハンコックに突きつける。こんなに優しいことはないだろう。本来なら裏切りなんて真っ先にぐちゃぐちゃにして殺すか、ウチに問答無用で入ってもらうかだ。

 なのにナワバリを貰うだけで許してあげるって言ってるんだからこんなに優しいことはない。

 

「いいよね? カイドウ」

 

「ああ。ハンコック。てめェの強さはおれも買ってる。お前がウチに入れば水に流してやるが……それも嫌だって言うんなら仕方ねェ。ナワバリの献上だけで許してやる」

 

「そういうこと!! 私もハンコックちゃんは好きだし、だから特別だよ!!」

 

「……それ、は……」

 

「それと、ありえないとは思うけどそれも断るんなら……どうなるかわかってるよねぇ?

 

「!!」

 

 ハンコックに近づき、彼女の綺麗な顔を見上げて囁く。顔色が悪くなったね。恐怖の色が濃くなった。

 本当は彼女の綺麗な肌を傷つけたり、その顔を恐怖に歪めることなんてしたくないんだけどなぁ。でも断るならそれもしたいことに変わるからしょうがない。私はどっちでもいいのだ。ハンコックの心をぐちゃぐちゃにして無理やり部下にしてみるってのも面白そう!! 

 

「…………わかっ……た……」

 

「あ、そう!! それじゃ決まりだね!! 近いうちに暇が出来たらお引越ししようね!!」

 

 と思っていたけどハンコックはあっさりと承諾する。まあ誰だって嫌な思いはしたくないから納得だ。縄を解いてあげると、ハンコックはふらふらとしながらも地に足を付けてみせた。

 

「ママママ!! 可哀想に、カイドウんとこが嫌ならウチに来るかい? すぐに縁談を組んでやるよ!! ウチの息子達もお前ならと希望が殺到しそうだ!!」

 

「! “海賊女帝”と結婚……!!」

 

「……! 遠慮させてもらう……!!」

 

「ハ~ハハハハ!! そいつは残念だねェ。ま、気が変わったらいつでも言いな」

 

「ウチの傘下を隙あらば引き抜こうとするんじゃねェよ、リンリン」

 

 そんなハンコックを見かねてリンリンが傘下に入るかと勧誘するが、ハンコックは僅かに期待したシャーロット家の男兄弟達の視線を受けてにべもなく断る。下心を見せたシャーロットブラザーズが肩を落とした。うーん、やっぱ戦場で裏切った時点で分かってたけど私が知ってる通り“麦わらのルフィ”にホの字みたいだね。

 ただこれでハンコックがビッグマム海賊団に鞍替えする可能性は0と言っていいかな。元々男嫌いだからありえないことだけど、惚れてる男がいるなら尚更別の相手と結婚することなどしないだろう。

 さて、後は1人……こっちは身内だ。

 

「それで……ムサシはまあ……普通に連れ帰るかな」

 

「…………そうか」

 

 ムサシが真顔で応答する。こっちは結構な拷問もしてるけど、正直なんも応えてないし恐怖すらしていない。怪我もすぐに回復するだろうからあんまり意味がない行為だ。

 

「鬼ヶ島にいた頃より成長してるみたいだし、それなりの戦力にはなるかな。将来も楽しみだね!!」

 

「…………素直に協力すると思うのか?」

 

 と、ムサシがこちらを見ずに言う。その態度は反抗的だが……まあ実際そうなんだよね。

 

「それは確かに。あんたはヤマトとは違うからね。私達のことを怖がりもしないし……」

 

「チッ……バカ娘が……いい加減にしやがれ!! また殴られてェか!!!」

 

「……殴りたいなら好きにすればいい」

 

「……!!」

 

 カイドウの一喝にもムサシは動じない。恐れない。

 それは子供だから──というだけではない。

 

「マママママ!! 反抗期かい? 子育てに苦労してるようだね。躾けの仕方でも教えてやろうか?」

 

「黙ってろリンリン!! これはウチの問題だ!!」

 

「…………ま、ムサシのことは鬼ヶ島に帰ってからおいおいかな。見張りはしっかりしといてね。逃した奴は処刑するから」

 

「はい。わかってますわ」

 

 ムサシにだけは純度100%の海楼石の錠を付けてこのまま連れ帰る。親に似ちゃったのか逃げるのが上手いからね。隙を見せたらどこから逃げるかわかったものじゃない。

 ……まあでも──

 

「……ムサシ。一つ言っとくけど……」

 

「……何だ?」

 

「あんたには──そっちの道は向いてないよ」

 

「……!!」

 

 と、私は告げてやる。

 昔から知っているムサシの性質。その欲求を踏まえた彼女の適正を。

 

「あんたは私達と同じなんだからさ」

 

「……!! 一緒に……するな……!! 我は……」

 

「……ま、今は幾らでも否定してればいいんじゃない? ──自覚はしてるだろうしね♡」

 

 ムサシの顔が歪む。眉を顰め、それを必死に否定しているかのようだ。

 ……“白ひげ”でも、結局矯正は出来なかったみたいだね。

 まあそれならそれでいい。カイドウは子供のことになるとせっかちだから色々言うだろうが、私は長い目で見ている。

 最終的に自分の欲求を理解するのであればそれでいい。そうすれば自ずと良い方向に転んでくれるだろうと。

 

「……とまあ処遇についてはこんなところかな。後の細かい部分はお任せで」

 

「ええ、計らっておきます」

 

 ウチは手柄があれば褒美があるし、しくじれば罰もある。信賞必罰は組織に必須だが、まあ細かいあれこれは大看板にお任せでいいだろう。

 そもそも今回の戦争は参加したほぼ全員が功労者みたいなものだ。特にしくじった者は少ない。強いて言うなら死んだのがしくじった者だが死人に罰を与えることは当然ないのだ。

 

「後は同盟の今後の動きだけど、それはちょっと様子を見つつ煮詰めていけばいいかな?」

 

「ああ、そうするか……だが、強いて言うなら──」

 

「──まだ1人相談する相手が残ってるねェ」

 

「あ、そうだった──おーい!! シキー!! そんな離れたところで1人寂しく飲んでないでこっち来なよー!!」

 

「…………あ?」

 

 そして最後。私達海賊同盟の今後の動きについての相談を行う。

 カイドウとリンリンもそれには賛成の様で、事前に決めていたことを行うために私は海賊同盟を構成する最後の1人に視線を向ける。

 屋根の上。燃え盛るマリージョアや死体。あるいは夜空を見つめて黄昏れるその男──金獅子海賊団船長の“金獅子のシキ”に手を振り、声を掛ける。

 するとシキはさすがに気づいたようですぐにフワフワ浮いて降りてきた。

 

「何だ。そろそろ次に行くのか? 宴はまだ終わってねェだろう」

 

「いや、ちょっとシキに相談があったからさ。聞いてくれる?」

 

「相談? 何だってんだ」

 

 と、シキは訝しみながらも素直にそれに応じて聞く態勢を取る。

 彼も同盟の今後の動きについては話し合いたいと思っていただろうし、実際にそう思っているだろう。葉巻を咥えながらも自然体で待つシキに私は笑みがつい零れてしまう。

 やはりかつての大海賊。ロジャーや白ひげとも肩を並べ、私とカイドウにとっては目の上のたんこぶでもあった男の風格はさすがのものだ。余裕を持っている。

 おまけにノリが良いし、頭も回る。執念深く、用心深い。本物の海賊として持つべきものを持っていて、その流儀を理解している。

 そしてカイドウやリンリンは分からないが……私としては、親しみを持っている相手だ。

 元ロックス海賊団としてシキはちゃんと仲間だと思っている。

 

「相談っていうのは……まあ、お願いなんだけどね?」

 

「……お願いだと?」

 

「うん、お願い♡」

 

 そう、仲間と思っているのだ。

 だからこそ──

 

「──シキ。私達の…………()()()()()()()()()()?」

 

「…………あ?」

 

 ──不意打ちなんてせず、正面から誠意を持ってお願いし、シキ自らに決めてもらう。

 

「なってくれたら歓迎するよ♡ 私、シキとも今まで通り仲良くしたいんだもん♡ だからお願い!! ね?」

 

「……てめェ……何を言って……!!」

 

 ──私達とはもう……“同格”ではないと自ら認め、勇退してもらうために。

 

「でも断るなら──残念だけど……」

 

 ──そのために、私が親しみをもって可愛らしく……昔みたいに下手に出て、両手を合わせて首元に添え、笑顔でお願いする。

 でも要求に手心は加えない。

 それが大海賊としていきていたシキへの礼儀だ。最期まで全力で潰してやるのが手向けだ。

 だからこそ可愛らしくお願いしながらも、私は容赦なく告げる。

 

「──死んでもらうよ♡」

 

「!!!?」

 

 ──私達の……()()()()と。




聖地マリージョア→マリンフォードを落とされ火の海
天竜人→ショーによって皆殺し。
奴隷→フランちゃんという名前の親近感。二度と出ません。
世界政府全軍総帥→カイドウに殺され死亡。
役人→大体死亡。一部裏切り有り
シュトロイゼン→神の料理中。
カタクリ→ブリュレが心配
ドフラミンゴ→ヘマしたお仕置き。これからの時代に向けてぬえちゃんからの愛のムチです。
ハンコック→女ヶ島ごとお引越し。百獣マークのお引越しセンター
ムサシ→鬼ヶ島送還。絶賛成長中。
戦力→地味に増えます。早速誰かが……
シキ→次回
ぬえちゃん→ショーしたり元ロックスの仲間と楽しく会話したりお仕置きしたり躾けしたり宣告したり大忙し! 可愛い!

こんなところで。暴力の世界の始まりです。
次回はまた世界の変化や別の勢力の話も。被害状況もそのうち詳しくやる。そしてシキが……ということでお楽しみに。

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