正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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折られた者達

 世界を揺るがす大事件の報は遠い海にも辺境にも空にも届いていた。

 偉大なる航路(グランドライン)には他の島と全く交流のない島も珍しくなく、未開のジャングルや空の上にある島など、特殊な環境の島が幾つも存在する。

 その一つ。空島にも──その新聞は届いていた。

 

「嘘……!!? 世界政府が……!!」

 

 小さな空島“ウェザリア”。その島で新聞を見たその美女は新聞を見て顔を青くする。

 彼女の名はナミ。“泥棒猫”の異名を持つ懸賞金1600万ベリーの海賊で、麦わらの一味の航海士を務める美女だ。

 シャボンディ諸島で海軍大将及び七武海に負け、その不思議な能力でこの島まで飛ばされたナミは、頂上戦争と世界政府崩壊。四皇同盟、新政府の発足。インペルダウンの崩壊など様々なニュースを知ったのだ。

 

「こんなことが起こるなんて……」

 

「……ふむ……世界中が混乱しているようじゃな。この島ももしかしたら危険かもしれん。一層注意せねばな……」

 

 ナミの呟きに頷きを返したのはこの島の天候学者であるハレダス。

 天候を研究する島の長でもある彼は、今後の海を憂いて低い声を出す。

 空島とはいえ、やってくる方法は幾つかある。絶対に安全とは言い切れないものだ。

 その証拠に──その時は思ったよりも早くやってきた。

 

「うわあ~~~!!?」

 

「! 何事じゃ!?」

 

 島に悲鳴が鳴り響く。そして小さな島であるその場所では、原因はすぐにわかった。

 

「ぎゃはは!! こんなところに空島があるなんてなァ!!」

 

「情報通りだぜ!! 高い金を払った甲斐があった!! ──おいジジイ共!! 金目のモンを出しやがれ!!」

 

「ひィ~~~……!!」

 

「どうか命だけはお助けを~~~!!」

 

 ウェザリアの住民は研究者である老人ばかり。

 彼らは荒事には向いておらず──突然やってきた略奪目的の海賊達にも怯え、命乞いをするのみだった。

 だが海賊達はそういった弱者に容赦はしない。

 

「ははは!! やなこった!! お前ら知らねェのか!? もうこの世は“暴力の世界”なんだ!!」

 

「おれ達海賊みてェな強い奴だけが勝ち、お前らみたいな弱ェ市民共はすべてを奪われるんだぜ!!」

 

「そ、そんな……!!」

 

 そう、既に世界の海の秩序は崩壊した。

 特に偉大なる航路(グランドライン)では既に、海賊達の活動が激しくなり、様々な島での略奪や破壊が相次いでいる。

 弱い奴は死ぬ。海賊達はその新たな世界のルールに則り、老人達から全てを奪おうとした。

 

「“サンダーボルト=テンポ”!!」

 

「ウギャアアア~~~~!!?」

 

「!! おお……娘さん……!!」

 

「──いいから逃げて!! 建物の中に!!」

 

「……! わ、わかった!! 娘さんも早く逃げるんじゃぞ!!」

 

 だがそんな時、黒い雲が海賊達の頭上にふわりと浮かび、そこから雷を落とす。

 水色の不思議な棒で落雷を引き起こし、老人達を守ったのは、他でもないナミであった。

 彼女は捕らえられたとはいえ、戦う術を持たない老人達を放置は出来ず、海賊達に1人で立ち向かう。この場で戦えるのは自分だけなのだと。

 

「っ……! この女ァ……!! 何しやがった……!!?」

 

「悪魔の実の能力者か……!? ふざけやがって……!! てめェもタダで済むと思うなよ……!! 海賊に楯突きやがって……!!」

 

「……生憎と、私も海賊なの」

 

「あァ!? お前がァ!?」

 

「あら、ご存じない? ──海賊“麦わらの一味”の航海士“泥棒猫”のナミって」

 

「!!?」

 

「……!! そういやこの女……どっかで見たような……」

 

 ──やった、とナミは脅しが上手くいきそうなことを内心で喜ぶ。

 そこそこ戦えるとはいえ、襲撃してきた海賊は数十名。ナミ1人では敵わない数だ。

 だからこそ、ナミは敢えて所属する麦わらの一味の名を出してこの場を収めることを思いついた。そう、彼らが小物であればこうすることで自分の身も……島だって守れる。

 まるで仲間である長い鼻の男が使うような手だと思い出しながら、

 

「そうよ。私に手を出したら仲間達が黙っていない。“麦わらのルフィ”に“海賊狩りのゾロ”……“黒足のサンジ”に“悪魔の子”にニコ・ロビン……何人もいる私の仲間達が滞在するこの島を、まさか襲う気?」

 

「麦わらのルフィだと……!!」

 

「おいおい……司法の島を落としたイカレ海賊じゃねェか……!!」

 

「インペルダウンや海軍本部にも乗り込んだという、あの……!?」

 

「まさかここは麦わらの一味のナワバリだってのか……?」

 

 ナミは海賊達が狼狽するのを見て、不敵な笑みを浮かべる。悪の女海賊の笑みだ。余裕そうに振る舞い、彼らに脅しを掛けることで引かせる作戦を継続する。

 

「その通りよ。だから引きなさい。今ならルフィにもゾロにも言わない。見逃してあげるわ──」

 

「──ガハハハハ!! だったら好都合だ!! よしおめェら!! 気合いいれろ!! 麦わらの一味の首を取って新世界に殴り込むとしようぜ!!」

 

「! おお……さすが船長!! 恐れを知らねェ!!」

 

「えっ」

 

 ──だがしかし、突如として馬鹿笑いを始め、船員達を鼓舞してこちらを襲おうとする船長にナミは間の抜けた声を出してしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!! いいの? 今なら見逃してあげるけど……」

 

「見逃してもらう必要はねェ!! おれに恐怖はねェぞ!! なにせおれの憧れはかの“四皇”!! “百獣のカイドウ”だ!! おれは新世界に行って、あの人の傘下となる!!」

 

「……!」

 

 ヤバい、とナミは焦りを感じる。

 この海賊達は引かない。麦わらの一味と聞いても戦う気でいる。

 実力はルフィやゾロ達に敵わない程度の筈だが、それでもナミからすれば脅威だ。曲がりなりにも偉大なる航路(グランドライン)の海賊。

 1人2人なら何とかなっても、この数は……かなり厳しい。

 

「麦わらの首はそのための良い手土産になるぜ!! まずは“泥棒猫”!! お前からだ!!」

 

「! いやあ~~~~~っ!!?」

 

 ナミは涙を流し、演技をやめてそこから逃げようと足を走らせる──が、相手の方が一枚上手だった。

 

「逃がすかよ!!」

 

「!!? 痛っ!!」

 

 相手は思ったよりも俊敏な動きでナミの足を狙い、その場に留める。こけてしまったナミはすぐにその場を立ち去ることが出来ない。海賊達が迫ってくる。

 

「ガハハハハ!! 死ね!! 女ァ~~~~!!!」

 

「……!! (マズい……!!)」

 

 こんな時にルフィ達、仲間がいれば……とナミは刃が迫る中でそう思ってしまう。

 救いはない。助けもない。今の世の中で人を助ける余裕のある者は少なく、弱者はただ全てを奪われて野垂れ死ぬのみ。

 だがそんな結末は認めない。自分1人でも何とかしてやると、ナミは麦わらの一味の1人として戦う覚悟を決めた──

 

「──何をしてなさる」

 

「!!?」

 

「あ……?」

 

 ──そんな時だ。

 大柄な男がナミの背後に現れる。筋肉質な男だ。

 古めかしい丁寧で粗野な口調で、その男は突如として現れ、笑顔で海賊達に向かって告げる。

 

「女人への乱暴は感心しないな」

 

「な……なんだてめェは!!?」

 

「ちょ、ちょっと待て……あいつ、どこかで見たような……!!」

 

 海賊達の1人が男に見覚えがあると戸惑う。そう、確か最近話題のルーキーの1人だと呟き──

 

「助ける義理はないが……こちらも今は療養するためにこの島を訪れた身。そこのお嬢さんの声で引かぬとあらば……私が相手になろう……!!」

 

「へ……ぶフ!!!?」

 

 ──海賊達をその豪腕で殴り飛ばす。

 

「せ、船長!!」

 

「嘘だろ!! 船長が一撃で……!!?」

 

 海賊達は動揺する。

 最も信頼する船長の強さを無情にも一撃で粉砕され、男の強さに恐れを抱く。

 だが男は笑顔を崩さないままで彼らを見下ろした。

 

「ふふ……まだやるつもりか?」

 

「っ……!! やべェぞ……逃げろ!!」

 

「思い出した……あいつは……!!」

 

 そうして海賊達はその場から一斉に船長を連れて逃げ出す。

 後に残ったのは大男と地面にへたり込むナミだけだ。

 

「──さて……麦わらの一味の航海士……“泥棒猫”のお嬢さんだったか。怪我はないか? 船長や他の仲間の姿はないようだが、まさかこのような場所で出くわすとは……」

 

「! あ、あんたは……!!」

 

 そしてナミもまたその男を思い出す。

 全身に包帯を巻きながらも笑顔を浮かべ、こちらに丁寧に声を掛けるその男は、ナミの仲間であるルフィやゾロと同列に語られる11人の超新星の1人。

 

「お初にお目にかかる。破戒僧海賊団を率いる僧正を務めさせて貰っているが……ふふふ、さすがに名乗る必要はないようだ……!!」

 

 ──“怪僧”ウルージだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──“シャボンディ諸島”。

 

「町の方はどこもかしこも騒がしいな……」

 

「そりゃあそうだろ……何せ海軍本部が……いや、世界政府が落ちたんだ。この島だけじゃなくてどこもかしこも大騒ぎだ」

 

「“海賊同盟”も暴れてるらしいぜ。ほら見ろよ新聞。未確定だが、あの“怪僧”が早々に戦って敗れたとか何とか……」

 

「マジかよ……おれ達も気をつけねェと……他人事じゃないかもな……」

 

 諸島の中でも無法地帯とされている“13番GR”の建物の外で白いツナギを着た男達が話し合う。

 町から外れたこの場所でさえ、島民の混乱と騒ぎが微かに聞こえてくる。誰もが今後の世界の行く末を、自分達の未来を案じているのだ。

 そしてそれは彼らとて同じ。11人の超新星に数えられるその海賊団“ハートの海賊団”の船員であるシャチやペンギンもまた、これからの世界。そして海賊の世界はどうなるのかという言いようもない不安を感じている。

 だが彼らが落ち着いているのは、彼らが無辜の市民ではない海賊であることと、彼らにとって、揺るぎない──絶対的な心の支えがあるからだ。

 その支えは今、建物の中でとある女店主から話を聞いていた。その女店主はバーのカウンターに背を預け、何かを思い出すように煙草の煙を吹かしながら語っている。

 

「──ロックス海賊団っていうのはね……簡単に言えば、無法者達のオールスターよ」

 

「…………」

 

 女店主──このぼったくりバーの店長でもあるシャッキーの前で、ハートの海賊団船長トラファルガー・ローは腕組みをしながら真剣な様子で聞き入る。

 偶然、この島に戻った折にこのシャッキーに出会った──彼が抱えている患者を匿うためならと、もう1人の男と共に受け入れられ、ローとハートの海賊団は13番GRに一時停泊している。

 そんな時にローはもう1人の男に尋ねた──今回の戦争で勝者となった“ロックスの残党”のことを。

 だがそれに答えるのは男よりもシャッキーの方が良いと言う。シャッキーは訳知り顔で新たな時代を担う海賊の1人であるローにロックスの事を教えていく。

 

「そうね……今のあなた達、“超新星”って呼ばれてる子達が全員、同じ海賊団に入るようなものかしら。“白ひげ”……“ビッグ・マム”……“カイドウ”……“ぬえ”……“金獅子”……もう40年以上昔、彼らは皆同じ船に乗っていたのよ」

 

「……到底まとまりそうにないな」

 

「ええ、その通り。かつてこの海で名を馳せていた海賊達を一纏めにしたロックス海賊団は船内で仲間殺しも絶えない凶悪な一味だった……」

 

「……それをまとめた奴ってのが──」

 

「ええ──ロックスよ」

 

 一息。その名を出すだけで場が静まり返る。

 ローには知る由もないが、その名前を出すだけでもこの場にいる面々にとっては色んな感情が思い起こされるものであった。

 

「彼はかつて、海賊島ハチノスで一つの儲け話を持ち掛け、ロックス海賊団を結成した。それからの日々は……世界にとって、恐怖の毎日」

 

「……それほど有名な奴ならもっと有名であってもおかしくないだろう。なのに、おれ達はそんな名前を一度も耳にしたことがない」

 

「……政府に揉み消されたのよ」

 

 シャッキーは言う。世界政府がなくなった今、もはやその話を誰に言うも自由だ。自分の意思次第……殊更語りたいことでもないが、こうなった今ではもはや諦めもつく。

 

「船長ロックスの野望は“世界の王”になることだった。ロックスは凶悪な船員達を圧倒的な力で束ね、世界政府に牙を剥いた……だけど」

 

「?」

 

 話の途中で言葉が止まった。そのことに対してローが訝しむ。

 だがその代わりに、シャッキーの話を引き継ぐように話し始める者がいる。ここから先の話は、抜けていったシャッキーよりも当事者である彼の方が適任だからだ。

 

「──我々が止めたのだ」

 

「! ……“冥王”……いや、ロジャー海賊団が……?」

 

 バーの席の一つに腰掛ける白髪の老兵。

 だがその雰囲気は衰えていない。海賊王ゴールド・ロジャーの右腕、副船長であった“冥王”シルバーズ・レイリーは、強い酒の入ったボトルを傾け、シャッキーが止めたその先を語り始める。

 

「そう。36年前、我々は“ゴッドバレー”という島でロックス海賊団と激突した」

 

「ならロジャー海賊団がロックス海賊団を壊滅させたってことか……」

 

「そうだが、我々だけではない。海軍のガープも共に肩を並べて戦った」

 

「!? ガープだと……!!?」

 

 ローは驚愕する。なぜ海軍の英雄が海賊王と手を組んでロックスと戦ったのか。

 その詳細は複雑だが、レイリーは簡潔に思い出すようにしながらそれらを口にする。

 

「ああ……ルフィ君の祖父……ガープは任務で天竜人を守ろうとし……我々はロックスと決着をつけるため、偶然にもその場に居合わせたのだ」

 

「天竜人……!?」

 

 と、レイリーは告げる。幾つもの怪我を負い、疲労が溜まっている“麦わらのルフィ”は今、ローによってジンベエと共に治療を受けている。

 ジンベエがルフィを連れて海に逃げた先、それを拾ったのがロー率いるハートの海賊団であり、彼は気まぐれで2人を助けた。

 そしてその偶然がレイリーとも再び会うことになり、今はロックスについての話を聞いている──彼の目的のために。

 

「我々ロジャー海賊団とガープ率いる海軍は手を組み、ロックス海賊団と争い……そして我々は勝利した」

 

 そしてその功績はガープのものとなった──とレイリーは語る。政府お得意の情報操作。それにより、ロックス海賊団を止めたのはガープとなり、ガープは海軍の英雄と呼ばれるようになったと言う。

 だが重要なのはそこからだった。

 

「それからだ。ゴッドバレーという島は跡形もなくなり……世界の禁忌に触れすぎたロックス海賊団に関する情報は政府によって葬られた……そして元ロックス海賊団のメンバーはそれぞれが別の道を行き、新たな仲間を集めてこの海で名を挙げていった」

 

 “白ひげ”、“金獅子”、“ビッグ・マム”……と、レイリーは1人ずつこの海で名を挙げたロックスの残党達の名を出していくが、その声のトーンは僅かに落ちる。語られる名前も、今となってはもう僅かしかいないのだと。

 

「その中でも“カイドウ”と“ビッグ・マム”は犬猿の仲だった……と、聞いている。“ぬえ”が間に入ったとはいえ、両者が手を組むことは政府にとっても寝耳に水で、痛恨の失敗だっただろう……結果、800年の歴史を持つ世界政府は崩壊し、秩序は破壊された」

 

 と、言いながらレイリーは今日の世界経済新聞の一面を開き、そこに書かれた内容、その見解について真剣な表情で呟く。

 

「君達もこの先の海を行くなら気をつけた方がいい。先日、新たな秩序を作り上げるためにと革命軍と海軍が中心となって設立された“新政府”は、海賊を抑止するために今後も懸賞金制度を継続し、賞金稼ぎや各国の軍隊と協力しながら秩序の回復に全力を尽くすと書いてあるが……おそらく、この程度では止まるまい。海賊同盟も……暴力の世界も」

 

「…………」

 

 そこまで語ったところでレイリーは再びボトルを呷る。時代の残酷さを憂い、友の懸けた未来を弔うように。

 ローはその話に何を思ったのか、ただ無言を貫く。ロックスにカイドウ、ビッグ・マム、ぬえ。それらの情報を理解し、どうするべきかを考える。

 そしてややあって結論づける。このまま新世界に入っても良い的になるだけ。それならば──

 

「あっ!!? お前~~~!!! 何でここに!!?」

 

「!」

 

「あら、モンキーちゃんもう起きていいの?」

 

 ──と、ローが結論を内心で反復しようとしたその時、バーの扉が勢い良く開かれ、そこから1人の少年が入ってくる。

 全身に包帯を巻き、満身創痍な状態ながらも活力に満ちたその男の名は……モンキー・D・ルフィ。

 彼は背後にもう1人、治療中の魚人の男を連れて、中へ入るなりローの姿を見て驚く。

 

「すみません船長! 安静にしてろって言ったのにこいつ、聞かなくって……!!」

 

「何でお前らがいるんだ!!?」

 

「それは何度も言っただろ!! おれ達ハートの海賊団がお前を治療して助けたってよ!!」

 

「ハートの……ああ、それトラ……トラ男の海賊団だったのか。悪い、ありがとな!!!」

 

「トラ男って何だよ!!」

 

「…………」

 

 ……そして入るなり、ハートの海賊団の船員と騒がしいやり取りを行うルフィをローが何とも言えない表情で見守る。

 安静にするように注意するか迷っていると、そのローの前に別の男──ジンベエが進み出てきた。膝を突き、ローに向かって頭を下げる。

 

「トラファルガー・ロー……かたじけない。お前さんがおらにゃ……わしもルフィ君も、今頃海の藻屑じゃった!!」

 

「あ、そうだ!! トラ男!! ありがとうな!!」

 

「…………礼はいらねェよ。ただの気まぐれだ……それより、あんまり動いてると死ぬぞ」

 

「大丈夫だ!! 肉食ってりゃ治る!!!」

 

「いやいや、どんな身体だ!!?」

 

 シャチとペンギン、ベポがルフィにツッコミを入れる。身体の傷の具合や疲労の具合に反し、ルフィは元気そうであった。そんなルフィを見て、シャッキーやレイリーの表情にも自然と笑みが浮かぶ。

 

「ルフィ君……元気そうだな。だが彼の言う通り、しばらく安静にして置いた方がいい。せっかく兄を救ったのにそのせいで君がそんな状態では兄も悲しむぞ」

 

「! レイリーのおっさん……わかった」

 

「……ルフィ君。こんな状況じゃが、お前さんにも礼を言わにゃならんな……今回は本当に──」

 

「──船長!! 大変だ!!」

 

「!」

 

 レイリーがルフィを案じ、ジンベエが今度はルフィに礼を言おうとしたその時──外からハートの海賊団の船員が慌てた様子で駆け込んでくる。ローは冷静に応じた。

 

「どうした」

 

「外に……七武海……いや、元七武海が!!」

 

「!!? 何……!!」

 

 元七武海──そう言われ、ローの頭には真っ先にニヤついた笑みの仇である男の顔が浮かび、一瞬で表情が固くなり青褪める。ジンベエや他の者達も同様に警戒した。一体誰だと。

 

「──どけ。わらわの道を塞ぐな」

 

「そ、それは困ります……♡ ぐあっ!!」

 

「! お前は……!!」

 

 そして、ローやジンベエが外に出て迎え討つかどうするかを悩んでいる間に、その人物はハートの海賊団の面々を無理やりどかし、室内へと堂々と足を踏み入れた。

 その姿を見て、ローは僅かに安心するが、逆にジンベエなどは警戒したままだ。

 何しろ彼女は、政府を裏切り百獣海賊団についた者。ルフィや自分を狙ってもおかしくはない相手であると。

 

「ボア・ハンコック!!?」

 

「ハンコックちゃん……?」

 

「……シャッキーにレイリー……ジンベエに……そっちはトラファルガー・ロー……じゃったか……」

 

 真剣な表情のまま、居並ぶ面々を確認していくその女──“海賊女帝”ボア・ハンコック。

 レイリーやシャッキーにとっては親交のある相手でもあるため、そこまで警戒はしていないが、それでも今の彼女の立場から笑顔で再会という風にはいかない。それはこの後、彼女が何を言うかに掛かっていた。

 

「ハンコック~~!! 良かった!! お前無事だったんだな!!」

 

「! ルフィ……」

 

「お、おいルフィ君!! そいつは……!!」

 

 だがそんな中でも、ルフィは笑顔でハンコックを出迎える。ジンベエが戸惑い、思わず差し止めようとするがルフィにとっては止まらない。出迎えない理由がない。

 彼にとってはハンコックもジンベエと同じく、自分達を助けてくれた恩人の1人だからだ。

 ──しかし、ハンコックは恋する相手が笑顔で出迎えてくれたのにも拘わらず……青褪めた顔を崩しはしない。

 

「……ルフィ……わらわがここに来たのは……提案があるからじゃ」

 

「ん? 提案?」

 

 そして無事に一命を取り留めたルフィを見て僅かに安堵し、呼吸を整える。もし死んでいたら──と考えるとそれだけで正気でいられなかったハンコックにとって、ルフィが無事である姿は何よりも救いとなるもの。

 だが、だからこそ……ハンコックはルフィにお願いしに来たのだ。そう、彼女が最も恐れる者達から、ルフィを守るために──

 

「…………百獣海賊団に……入ってはくれぬか……?」

 

「……え……!!?」

 

 ──恐怖に震えた声で、そう告げた。

 

 

 

 

 

 ──新世界、とある島。

 

「…………」

 

 広い草原。穏やかな風が吹き、気候も波も安定したその島に、失意に囚われる男が1人──墓の前にいた。

 丘の上にあるその墓は他のどんな墓よりも巨大で、大きかった。

 まるで生前の背中の大きさを、その偉大さを証明するかのようにその墓は悠然と建てられている。

 得物である巨大な薙刀を地面に刺し、男が掲げたかつてこの海で最も偉大であった旗を結ぶ。

 その周りにも墓があった。幾つもの墓だ。そして、幾つもの剣が、槍が、まるで墓石の代わりになるように刺さっている。

 

「……まだここにいたのか……エース」

 

「…………」

 

 そしてその墓の前に腰掛けて項垂れ続ける男がいる。

 その男もまた、背中に墓に結ばれた旗と同じ髑髏を背負っていた。

 しかしその背中は驚くほどに小さい。身体のサイズの話ではない。

 今の男……失意に満ちたポートガス・D・エースという男の背中は、かつて仲間達を引っ張っていたあの大きな背中の何倍も小さい──それが今、彼を見て声を掛けたデュースやマルコの感じたことだ。

 そんな彼を見て、マルコは溜息を一つ吐く。“白ひげ”の葬式を行ってからもう既に3日が経つ。その間、彼はずっとこの調子だ。

 

「……今後のことを話そうと思ったんだが……エース。いつまでそうしてるつもりだよい?」

 

「…………話し合いなら……お前達だけでやってくれ」

 

「……! おいエース……!!」

 

 エースのそのかき消えそうな程の小さな声に、デュースは見ていられずに数歩近づく。

 今のエースはあまりにも弱々しい。例えるなら、吹けば消えるほどのロウソクの火程度にしか、気力を感じられない。

 数日はまだ立ち直れないだろうと思い、そっとしていたが……戦争から既に2週間以上が経ち、葬式を終えてもう3日が経つ。

 そして飲まず食わずでずっと墓の前にいる──そんなエースを見ていられなかった。放っておいたら、そのまま消えてしまいそうで。だが、

 

「……1人に……してくれ……」

 

「……! いい加減にしろエース!! そのままじゃお前も死んじまう!! 辛いのは分かるが……救ってもらった命を無駄にするようなことをするんじゃねェ!!!」

 

「…………ああ……そうだな……救ってもらった……」

 

 エースはデュースの怒声を間近で聞いてなお、顔を俯いたまま上げようとしない。

 それどころか、デュースの言葉に対して、何も感じていないかの様に応えてみせた。

 

「……辛いのが分かるって……お前には分からねェよ……」

 

「何……!?」

 

 デュースが頭に疑問符を浮かべる中、エースは自嘲するような笑みを浮かべて心中をゆっくりと呟く。

 

「助けてくれたお前らには……助けられたおれの辛さなんて分からねェ……おれは……助けられたんだ。おれのせいで……オヤジが、仲間が死に……お前らが傷つき……世界中がメチャクチャになってる……」

 

「! それは……」

 

 デュースが怯む。確かに、その苦しみはデュースには分からない。

 エースの痛み、苦しみ。身体の傷なんかよりも何倍も深いそれは……心の傷だ。

 

「おれのせいで……色んな人が苦しんでるんだ……」

 

 そう、しかもそれはエースがずっと気に病んでいた謂れのない罪──実の父親のことではない。

 エース自身が起こしたこと。怒りに身を任せ、黒ひげを追い、黒ひげに負け、海軍に捕まり、処刑台に上げられ、狙われ──結果、世界は崩壊し、オヤジを含めた大勢の仲間の死を招いた。

 いつか語られた、オヤジの命には船員と傘下の海賊だけじゃない……白ひげの名に守られる領海の人々、数十万人もの命が懸かっていると。

 それをエースは、破壊した。自分の起こした行動で。

 実の父親が遺した罪ではなく──自分の行動の結果で。

 

「……おれはもう……無理だ……」

 

 だからエースは失意に堕ちる。

 

「この先……海賊なんて続けられねェよ……あいつらに……勝てる保証もねェし……おれのせいでまた誰かを傷つけたくもねェ……!!」

 

 甘い見積もりで今まで突き進んできた。

 どんな相手にも勝てると信じ、身勝手に行動してきた。我慢してこなかった。皆が止めるのも聞かず、自分が正しいと思う行動をしてきた。

 ──その結果がこれだ。

 

「悪いがおれは……ここで終わりだ……マルコ……皆に伝えといてくれ……」

 

「…………」

 

 マルコは無言でそれを聞き続ける。エースの選択を。その苦しみを。

 

「悪いなデュース……冒険譚なら……別の奴についていって……また書いてくれ……」

 

「……!! お前……!!」

 

 そしてデュースは理解する。エースは本当に、ここで折れてしまったのだと──。

 

「やっぱりおれは……生まれてきていい人間じゃ──」

 

「……!!! この──!!」

 

 だが──それは聞き捨てならなかった。

 デュースはエースの言葉を聞いた瞬間、何かが欠き切れた様に沸騰し、衝動のままに動いた。

 

「バカ……野郎がァ!!!」

 

「!!!?」

 

 ──拳が振り抜かれる。

 エースの頬、そこにデュースの右拳がぶち当たり、エースを吹き飛ばした。

 

「……!!? デュースが……エースを殴った……!!」

 

 それを見てマルコは驚く。本来、デュースがエースを殴れる筈がない。

 しかし今、殴った。そして、その原因は単純だ。エースが、呆然としながら呟くように──

 

「……デュースが……()()、を……!?」

 

「ハァ……ハァ……覇気が……あろうがなかろうが……今のお前なんて、おれでも殴れるってんだよ!!!」

 

「!!」

 

 デュースはエースをもう一度、ぶん殴る。

 だがデュースの拳は弱い。そもそも元スペード海賊団の船員の中でも戦闘が得意ではなく、白ひげ海賊団に合流してからも役割は専らマルコが率いる一番隊、医療部隊で船医をしていた。

 時折エースやマルコから戦い方を教わりもしたが、そこまで劇的に強くはならない。数年前よりは荒事に慣れたとはいえ、未だに覇気も使えず、看護婦や船医を纏める若先生としての役割を全うする。

 “白ひげ”の身体だってマルコと共に見ていた。あの身体で戦争に向かうなんて無茶にも程があるが、それでも“白ひげ”は心臓を貫かれてなおあの怪物達と最後の最後まで戦い抜いた。

 ──それに比べれば、今の自分も……エースも、なんてことない。

 

「ふざけたこと言うなよエース!!!」

 

「……っ!」

 

 エースを殴り倒し、デュースは息も絶え絶えになりながら叫ぶ。

 

「てめェ今……なんて言おうとしやがった……!! それだけは……それだけは言っちゃならねェ!! エース、てめェが海賊を引退しようが、何をしようがお前の勝手。自由だが……だがそれでも!! 自分のことを生まれてきちゃならねェなんて言うことは許さねェ!!!」

 

「……!!」

 

 デュースの拳が再びエースを捉える。

 それを無防備に食らい、倒れ、しかしすぐに身体を起こしたエースは思った。燻っていた怒りの炎を燃やすように。

 

「……だってそうだろ!! おれが……おれが迷惑掛けたせいで皆死んだんだ!!! おれが居なけりゃこんなことにはならなかったじゃねェか!!!」

 

「お前のせい……!? エースお前……自惚れんじゃねェぞ!!!」

 

「!?」

 

 エースの顔を再びデュースが殴る。今度は倒れない。だが言葉にエースは驚愕した。

 

「お前のせいで“白ひげ”が死んだと思ってんのか!!? そう思ってんなら言ってやる!! そうじゃねェ!! 白ひげは……オヤジは、元々寿命だった……!! 遅かれ早かれ死ぬ運命にあった……!!!」

 

「っ……!! だとしても、死期を早めたのはおれじゃねェか!!!」

 

「いいや、お前じゃねェ……エース。オヤジが死んだのはオヤジ自身のせい……あの戦いに出向くことを決めたオヤジのせいだ……!!!」

 

「……!!」

 

 デュースは医者として知っている。白ひげの身体が、とうに限界に近かったことを。

 安静にしていれば確かに、後もう少しは生きられる。そして白ひげもそれは理解していた。多くの人の命を背負う白ひげは、それを理解しているからこそ、自分の命を大切にした。

 だがそれでも家族の命には代えられないと戦うことを決めた。そうなれば、白ひげ自身、果たして生きて帰れると思っていただろうか? 

 

「てめェ、もういっぺん言ってみろ!!! そんなふざけたこと──」

 

「ああ、何度だって言ってやる!! オヤジが死んだのはオヤジの自己責任だ!!! 断じてお前のせいじゃねェ!!!」

 

「……!! この……!!!」

 

「!!」

 

 エースは怒り、デュースの頬を殴る。その強さはデュースの比ではない。若くして白ひげ海賊団の2番隊隊長に上り詰めた実力はデュースなどとは比較にならない。その1発だけでデュースはフラフラになって気絶してしまいそうになる。

 そして……だからこそそこでデュースは僅かに笑みを浮かべた。

 

「何だ……まだ燃えるじゃねェか……エース……!!」

 

「! あ……悪いデュース……!! 大丈夫か……!!?」

 

 デュース自身も戦争で怪我を負っている──それを思い出し、エースはデュースを殴ってしまったことを後悔して心配する。

 だがデュースの方はそんなこと気にならなかった。草原にドカッと腰を落ち着け、苦笑いのまま言葉を続ける。

 

「まったく……お前についていくのは昔っから一苦労どころじゃねェな……」

 

「……だったら……おれなんて見捨てちまえばいい。おれは……どうしようもねェ無鉄砲なガキだ」

 

「そうかもな。……だけどよ……甘く見るなよ、エース。おれだってもう……とっくに一端の海賊なんだ。掲げる相手を途中で変えたりはしねェ……」

 

 デュースが言う。昔のことを思い出し、

 

「あの日……無人島でお前に出会い、救われた時から……おれはお前のために生きて、生き抜いて……死ぬ。そうやってくいのない人生を送ると決めたんだ」

 

 その時から、デュースのやりたいことは決まっていた。

 スペード海賊団の仲間も同じ。彼を、支えることを決めたのだ。

 

「おれの……おれ達の冒険譚は……お前抜きじゃ完成しねェんだ!!! エース!!!」

 

「! デュース……お前がお前らが……おれなんかの……ために……?」

 

「お前なんかじゃねェよ、エース……お前は自分で思うより価値のある人間だ……お前を想って、慕ってる連中はそれこそ沢山いる……おれも、元スペード海賊団の仲間も……白ひげ海賊団も……オヤジだって……皆、どうしようもねェ無鉄砲なガキなお前が……好きなんだ」

 

「!!!」

 

 ──それは、エースが幼き頃から求めていたもの。

 大罪人の息子であったエースは、生まれた時から周りから謂れのないことで責められてきた。

 自分は生まれてきていい人間じゃないと、世界中がそれを責めてきた。

 だからこそそれを求め……そして海に出た。海に出て、海賊王を超えることで……自分の存在を世の中に認めさせようとした。

 だがそうじゃない。エースが本当に欲しかったものは──

 

「なあエース。今回の戦いで……色んなものを失ったよな」

 

「…………ああ」

 

「だけどよ……お前にはまだ残ってるものが沢山ある」

 

「!!」

 

 墓の前にいるエースに向かって、大勢の人間が近づいてくる。

 

「おれ達……元スペード海賊団の皆……」

 

 デュース、スカル、ミハール、イスカ、コタツ……総勢21名と1匹の元スペード海賊団。

 

「白ひげ海賊団……」

 

 マルコ、ビスタ、イゾウ……白ひげ海賊団の隊長やその船員──約1000名。

 

「それに……お前がよく話してくれる兄弟だって……まだ生きてる!!!」

 

「……!! ルフィ……サボ……!!!」

 

 そして、この場にはいないが、確かにこの世界に生きている義兄弟。

 幼き頃、エースは彼らだけが家族──兄弟として、助け合い、共に笑い、戦い、生きてきた。

 

「エース……おれ達は……お前を助けに行ったことに、後悔はない」

 

「ああ。世界は大変なことになっちまったが……そんなのはまた後から考えればいい。残念なことはあっても……今は、お前が助かったことが嬉しい」

 

「死んだオヤジや仲間達だってきっとそう言う……だからエース。自分を責めるな!!!」

 

「お前ら……!!」

 

 仲間達は言う。生きて帰ってくれて良かったと。

 エースを助けたことを喜び、誰もが祝福してくれている。喜ばない理由はない。

 葬式は終わった。喪に服す時間も終わった──なら後は、持ち帰ったものを喜ぶ時だ。

 

「エース……おれ達は、元から嫌われ者なんだよい。海賊なんて、元から皆そんなもんだ……だから、誰から……世界中の人間から嫌われようとも気にすんじゃねェよい!!!」

 

「マルコ……!!」

 

 白ひげ海賊団の一番隊隊長。先程からずっとエースとデュースのやり取りを見守っていた彼も言う。

 元々、報告をしようと思って来ていた。マルコは、白ひげ海賊団の生き残り、そのまとめ役として、決断するべきことがある。

 

「確かに、今回失ったものはデカい……オヤジに仲間達……多くのものを失った」

 

 そしてそれは、先程皆で話し合い……既に決まっていた。

 

「でもおれ達は……立ち向かう。裏切り者のティーチや海賊同盟に、落とし前をつけるために……!!」

 

 そう、それがマルコ達が決めたこれからの方針。

 船長代理としてマルコが就任し、白ひげ海賊団を動かしていく。

 ──だがそれは、エースが立ち直らなかった時の話。

 

「…………だが、それはお前が断ったらの話だよい」

 

「……え……!!?」

 

 マルコは言う。そして皆も真剣な眼差しをエースに向ける。

 白ひげ海賊団の船員約1000人。白ひげと親子の盃を交わし、世界最強の海賊団として長らく君臨してきた一団。

 エースよりも何年も、新世界で海賊として活動してきた彼らが皆、エースを見つめ、そして列をなしている。

 

「おれ達で話し合った……もしお前がこの話を受けるなら……今後の方針も活動もお前に任せる」

 

「……!! それは……いや……ありえねェだろ!! 皆納得したのか!!?」

 

「──したよい。皆の目を見ても分からねェか? エース……これがお前の……人徳だよい」

 

「っ……!!」

 

 エースの目から涙が溢れる。

 ありえないことだ。自分が……無鉄砲でバカなガキである自分に向かって、誰もが意志のある瞳を浮かべている。

 

「バカ野郎……!! どいつも……こいつも……!!!」

 

「──決まったか。無駄足にならずに済んだ様で良かった」

 

「!!? え……?」

 

 突然の声にエースが振り返る。白ひげ海賊団が立ち並ぶ場所とは別の道から歩いていくる男がいる。

 それはエース達を助け、ここまで送り届けた人物。新世界の海に君臨する四皇。その1人。

 

「“赤髪”……!!? もう島を出たんじゃ……!!?」

 

「……ちょっと用があってな。それが済んだから戻ってきた……今度はこっちの用を済ませねェとな」

 

「え……?」

 

「立会人だよい。襲名式の」

 

 エースの前にやってきたその人物──“赤髪のシャンクス”は小さく笑みを浮かべてみせる。襲名式のために、敵である彼もまた戻ってきたのだ。

 

「……エース。おれがここに来たのは……お前がロジャー船長の忘れ形見だから……ってだけじゃない」

 

 そしてシャンクスもまた告げる。エース自身の価値があると。

 

「数年前に会った時は……正直、器じゃないと思ったけどな……ただ今なら、もしかしたら、お前も“白ひげ”の様な偉大な男になれるかもしれない。その可能性は決して0じゃないとおれは思ってる」

 

「“赤髪”…………本当に、おれが……」

 

 ……だが、それでもエースは迷う。

 本当に自分なんかでいいのか。また失敗したりしないか。そうしてまた多くの味方を、愛する者達を失いはしないか。

 そう思うと足が竦む。情けない。オヤジならこんなことにはならない。オヤジみたいに……自分はなれない。

 

「……エース。それと……こんな時で悪いが、お前に伝言だ」

 

「……伝言?」

 

「…………ムサシからだ」

 

「……!!」

 

 そうしてエースが自らの弱さに再び打ちひしがれそうになった時、デュースは伝言があるとエースに告げる。

 そしてその伝言の相手は……ムサシ。

 百獣海賊団の総督“百獣のカイドウ”の実の娘でありながら、エース達、スペード海賊団に入り、白ひげ海賊団に味方した彼女。

 今はおそらく、既に百獣海賊団に囚われているであろう彼女の伝言を聞きたいと思い……エースはデュースに向かって促す。

 

「……ムサシはなんて……?」

 

「……ただ一言だ──」

 

 一息。デュースが告げる。

 

「──“次に会う時は……海賊の高みだ”」

 

「!!!」

 

 そしてそれは奇しくも……エースがかつて弟に、別れ際に約束した言葉。

 海賊の高みを目指していることを知るムサシからの……最大のエール。それに気づいているデュースがまたエースに言葉をつなげる。

 

「……なあエース。確かに、このまま戦い続けてたらまた傷つくかもしれねェけどよ……それでも、ムサシやお前の兄弟はこれからも戦う。お前がいなくても、あいつらに立ち向かう」

 

「…………そう、だろうな」

 

 エースは首肯を返す。確かにそうだ。

 あのムサシやルフィ……そして生きていたサボがこの先、戦わない訳がない。

 どんな世界であろうと、彼らは抗い、夢を叶えるために立ち向かう。

 彼らだってやられた。次もやられるかもしれない。だと言うのに──

 

「……そうだよな……いや、そうだった……」

 

 ──彼らを……助けてやりたい。

 

「……おれはもう……愛する人を失いたくねェ……!!!」

 

 そのためなら……強くなるしかない。

 戦って、戦い続けるしかないのだ。

 

「……決まったか」

 

「ああ……決まりだよい──」

 

「……エース……おれ達の命……改めてお前に預けるぜ」

 

 シャンクス、マルコ、デュースらが口々に告げ、笑みを浮かべる。

 だがそれも一瞬のこと。誰もが鋭い表情を浮かべ、マルコの口上を心に留める。

 

「おれ達、白ひげ海賊団隊長、船員、傘下……その全員から賛同を得た」

 

 新たな船長を支えることを誓う。

 

「……ほら、()()。挨拶だ。何か言えよい」

 

「……おれは……」

 

 そして新たな船長もまた……偉大なる男の墓の前で宣誓する。

 

「おれは……ガキだ。頭もそれほど良くねェし、器用なことは出来ねェ。すぐに敵に向かっちまう見積もりの甘いバカなガキだ……!!」

 

「ははっ、オヤジだって昔はそうだったぜ!!」

 

「ああ!! そんなことは誰だって知ってる!!」

 

 ──だがそれでも皆を導いてくれた。

 

「でも……おれはそれでも、仲間がバカにされるのは許せねェし……仲間を傷つける奴は、この手でぶっ飛ばしてェ!!!」

 

「そんなもん皆同じだ!!」

 

「ああ、やろうぜ!! 船長!!」

 

「おれ達の仲間に手を出したらどうなるか……それを知らねェ奴なんてこの海にはいねェ!!」

 

 ──今までもそうしてきた。

 

「だから……おれは強くなる。強くなって……どこまで行けるか分からねェけど……守りたいものを守る!!!」

 

「当然でさァ!! エースの兄貴!!」

 

「いつまでもお前に守られてばっかじゃないぞ!!」

 

 ──だから……これからもその意志を継いで……そうする。

 

「そんなおれで良いんなら……おれからも頼む……!!! お前らの命……おれに預けてくれ……!!!」

 

「ああ!!」

 

 言葉を溜めた。そして、一瞬の後──マルコの口から宣言される。

 

「──白ひげ海賊団二代目船長は…………“赤髪のシャンクス”の立ち会いの下……ポートガス・D・エースに決まった!!!!」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ~~~~~!!!」

 

「……!!!」

 

 天まで届くほどの歓声。雄叫びが響き渡る。

 白ひげの旗の前で、彼らは新たな船長に忠誠を誓う。

 

「おれ達隊長以下──白ひげ海賊団1000人!! その命を新たな船長!! “火拳のエース”に捧げる!!!」

 

 火を灯し、新たな船長と新たな船出を祝う。

 

「お前らの命、預かった!! だが忘れるな!!! “白ひげ”の……オヤジの意志は生きていく!!! おれ達は家族だ!!! 家族を傷つける奴は──誰であろうと許さねェ!!!」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

「新しい白ひげ海賊団の誕生だァ~~~~!!!」

 

「これから頼むぜ!! エース船長ォ!!!」

 

 ……たとえこの先、どれほどの困難に見舞われるとしても。

 今だけはそれを祝い、先へ進むことに希望を見出す。

 

「……良い海賊団になりそうだな……」

 

 “赤髪のシャンクス”はエースの意志を決めた横顔にかつての船長の面影を見る。

 そしてだからこそ憂いた。この先の海は──今のエースや白ひげ海賊団では渡ることは難しいと。

 彼らは敵に違いない。だが彼は今は亡き船長の忘れ形見で、麦わら帽子を預けた少年の兄だ──出来れば、死なせたくはない。

 

「…………何とか保たせなきゃな……」

 

 シャンクスは密かに誓う──時間を稼ぐことを。

 そして願った──いずれ乗り越えてくれることを。

 

「ルフィ……エース……お前らが昇ってくるまでは……」

 

 そうして、襲名式と海賊達のバカ騒ぎを見届けて、赤髪のシャンクスはその場を立ち去った。

 

 ──そして後に、白ひげ海賊団の二代目船長ポートガス・D・エースの就任は世界中に報じられる。

 それは彼らを知る人々に僅かな希望を与え……多くに絶望を与えながらも、止まらない。

 暴力の世界は一秒を追うごとに加速し、全世界に広がっていった。

 白ひげ海賊団がこの先、何を起こし、何を残すのか……それはまだ、誰にも知りえない。

 

 ──()()()()()()()の彼女もまた、

 

「──へぇ……エースが白ひげ海賊団の船長ね……中々面白くていいじゃん。若くて勢いのある子が頑張ってるのって良いよね!!」

 

 ──それを知らない。

 ここから先は、彼女にとっても未知の領域。

 

「それで……あなたはどうする気なのかなー? ──ムサシちゃん♡」

 

「…………我は……いや、私は……」

 

 ──そして、彼女もまた新たな選択をする。

 

「──百獣海賊団に……戻る」

 

「……! ……ふふふ、そう……だったら挨拶、言わなきゃね──」

 

 ──おかえり♡ と獣がそう言って。

 

「……ただいま」

 

 ──新たな決意を胸にして……ムサシは最初の場所へ舞い戻った。

 

 ……“暴力の世界”へと。




麦わらの一味→まずはナミ。空島って言っても住民の話し振りじゃ普通に人が来ることもあるっぽい。とはいえレアエンカウント襲撃者。
ウルージさん→海賊同盟に早々に運悪くエンカウントしたウルージさん。逃げ切る。おーおー好き勝手やりなさる……!!
ロー→海でルフィとジンベエを拾ってシャボンディへ。途中で偶然レイリー達に遭遇。
シャッキー→ロックスの話をする。
レイリー→同上
ルフィ→原作よりは精神的に折れてないので比較的早めに復活。
ハンコック→ある決意の下、ルフィを百獣海賊団に誘う
白ひげ海賊団→生き残りは約1000名
デュース→地味に覇気覚醒。
エース→精神的にかなり折れた。デュースら白ひげ海賊団の想いで復活し、白ひげ海賊団の二代目船長に。
ムサシ→次回、色々と判明。
ぬえちゃん→次回の過去編で色々と判明。可愛い。

今回はこんなところで。本当はルフィ、エース、ムサシのそれぞれの話を今回で済ませるつもりでしたがムサシの話が長くなったので分割。次回はムサシ視点の主に百獣海賊団の回想に、鬼ヶ島帰還後の話。衝撃的なことが起きますと敢えて予告しておく。覚悟の準備をしといてください!

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