正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
──“
世界政府が何のためか、700年もの間、世界各国から集められた犯罪者や世界政府の加盟を拒んだ国の民を連れて作らせるその巨大な橋で、大勢の人間が橋を逆走する。
「お、おい止まれ!! 橋の建設は……ブッ!!」
「うるせェ!! もう橋は作らねェよ!!!」
「世界政府がなくなったんだろ!!? だったらもう恐れるもんはねェ!!」
「今こそ反乱の時だ!!! おれ達はもう……誰にも縛られねェ!!!」
奴隷達が大挙して、橋の建設を監督していた権力者を倒して脱走する。
世界政府の崩壊は奴隷達に希望と反乱の意志を灯し、彼らに行動を起こすための勇気を与えていた。
それがどんな理由であれ……少なくとも、今の彼らにとっては秩序の崩壊は歓迎するものであったのだ。
そして、その橋の近海では──
「……驚いた……戦争に政府の崩壊もそうだけど……まさかあなたが……革命軍を率いて私の目の前に現れるなんて……」
「……なに……ちょっと……お前さんの顔が見たくなってな……」
「──青キジ」
一隻の船の上。周囲の人払いを行った甲板で、麦わらの一味の考古学者、ニコ・ロビンは意外な人物の登場に身を震わせる。
元々寒い地域であり、海の上というのもあって凍えるような寒さを感じてはいたが、青キジがやってきてから、それが増したように思えるのは気の所為ではないだろう。自然系、ヒエヒエの実の氷結人間である彼にとって、このような気候を作り出すことも、相手を凍死させることも造作もないはずだ。
そしてこの寒さも彼にとっては寒さを感じないものだ。正義の二文字が刺繍されたコートを着ていない青キジは、身体中に包帯を巻き、幾つもの傷を持つ痛々しい姿でロビンに話しかける。
「戦争が終わってすぐにお前さんがここにいるという報を聞いて……ガープさんにお願いして来た……まァついでに……増えた海賊達の始末もつけれたから……一石二鳥かもなァ……」
「……海軍の、大将が……」
「──もう海兵でも大将でもねェよ……ああ、いや……新政府で海軍が設立されるから……海兵ではあるかもな……それで、おれはその次期元帥だ」
寒いのに汗を掻く。青キジほどの強者、海軍本部の最高戦力を前にした海賊なら当然の反応だろう。
彼はここに来るまでに多くの海賊を始末してきたらしい。おそらく、おおよそ凍死させているため、その身体からはあまり血の匂いはしないが……それでもまだどこか剣呑とした、背筋が凍るような気配を漂わせている。
だが一方で、ロビンは青キジに対して、以前ほどの怖さを感じないでいた。ゆえに次の口は多少は軽かった。
「……私は戻らなくちゃいけない場所があるの。だからあなた達と共には行けないわ」
「……危ねェぞ。今の海は……平和の象徴“
「わかってる。今の海が……世界中が荒れているのも。でも私には──」
「──仲間がいる、か……フッ……本当にいい女になったな……お前は……」
ロビンの次の句を自分で口にし、青キジは薄く笑みを浮かべながらロビンの隣に、船の縁の柵に体重を掛ける。そうして海の方を向きながら、青キジは笑みをすぐに消して言葉を舌に乗せた。
「なあニコ・ロビン……おれァ……生き残っちまったよ……」
「…………」
それは海軍本部の大将に上り詰めた人間が言うようなことではない──弱音の言葉だった。
青キジはそれをあえてロビンにだけ聞かせる。かつて、彼女の大切な居場所を全て壊した関係者でありながら。
「おれは別に……世界政府だけが“正義”だなんて端から思っちゃいなかった。心の底ではそりゃあ……天竜人なんていない方が良いに決まってる……いなくなればどれだけいいか……なんて思ってた」
青キジは吐露する。ずっと心の内に秘めていたことを。
「だがそれでも……この秩序を維持することが……多くの人間を救うことになると思ってた……そうして今までやってきたが……今回、戦争で天竜人が皆殺しにされ……新たな政府として革命軍が立ち上がった……」
「……それで……?」
「ああ……別によ……それだけなら……良いことだとも、おれは思ってる。天竜人がいなくなり、まともな人間が上に立ち……おまけにおれはその組織で元帥を張って、これまで通り悪党共だけを相手してりゃあいい」
ロビンは問いかけや、無言の相槌だけに終始する。そこに掛ける言葉は見当たらない。これは青キジの独り言にも近い言葉だと理解しているから。
だからこそ、青キジは特に返答がなくても言葉を続ける。次の言葉は、力がない声で呟かれた。
「だけどよ……ちっとも嬉しくねェ……お前みたいに、仲間とまではいかねェし、誰かが死ぬことはいつでも覚悟してたし、見知った人間が死ぬなんてこれまでも幾らでもあったけどよ……さすがにこれだけ数が多いと、堪えるもんがあるってなァ……」
「…………」
「なァ……ニコ・ロビン……お前はあの時……どんな気分だったよ……
そして青キジはそんなことをロビンに問いかける。残酷な問いかけであった。当事者の1人として、それを口にして問いかけるのは配慮が足りているとはいえない、失礼な問い掛け。
「…………なんて、な。答える必要はねェ……悪いな。お前には酷な質問だった」
「……いいえ。気にしてないわ」
だがロビンは青キジを気遣う。本当に、今はそこまで気にしていなかったというのもある。当時を思い出したらそれは悲しいが、今のロビンには仲間がいる。1人ではない。それをわかっているから。
そして今の青キジに、ロビンは同情を、あるいは哀れみを覚えたのだ。だからこそ、ロビンはそこまで警戒せずに青キジに言葉を返せている。敵意を感じないというだけではない。
「……お前に会いに来たのは……ガープさんの故郷の海を掃除するついでと……何より、お前の身が麦わらの一味以外の誰かに渡らねェように守る意味合いもあったが……」
「……そう。でもその必要は──」
「わかってる。お前が元海兵のおれや……革命軍に心を許せないってのは……だが、放置することは出来ねェ。少なくとも、お前がきちんと麦わらの一味と合流するまではな」
「…………」
「悪ィが……保護させてくれ。お前さんはまだ知らねェだろうが……新世界の海賊にとって、古代文字を読めるお前は“古代兵器”だけじゃねェ、もっと別の価値がある。誰もが欲しがるような価値が……」
「! それってどういう──」
「今は知らなくてもいい。……いや、むしろ知っちまったらお前らの冒険の邪魔をすることになるからなァ……やめとけ。焦らなくても、良くも悪くもお前はいずれ、知る時がくる……」
「…………」
青キジの有無を言わせないような言葉にロビンは二の句を継げない。
どうやら新世界の海賊には何か……“歴史の本文”を求めるような理由があるのかもしれない。
だがそれは教えられないと言う。確かに、青キジの言うように一味としての冒険に水を差すことになるため、ロビンとしても問い詰めることは心情的に出来なかった。
ならせめて解放してほしいとも思うが……青キジの方は、少なくとも1人にする気はないらしい。
「安心しろ。まァおれなんかは信用出来ないだろうが……革命軍……ああいや、新政府の代表はドラゴン。お前の知るように“麦わらのルフィ”の父親で……祖父のガープさんだっている上……おまけに義理の兄までいるってんだからな。危害は加えねェし、危害なんて加えようもんならどやされちまう」
「! 義理の……兄……?」
そう言われ、真っ先に思い浮かぶのはルフィや仲間が話していた兄、ポートガス・D・エースのこと。
今回の戦争の本端。彼の処刑を政府が決定し、それを止めるために白ひげ海賊団は戦争に参戦し……その機を突いて、海賊同盟は両勢力を滅ぼした。
ルフィと揃って、何とか生き延びたらしいが……どうやら青キジの口ぶり的に、エースのことではないらしい。
「……それについては本部についてからだな。新政府の本部……おれも今回の件で初めて訪れたが、悪いところじゃねェ」
「……行くしかないってことね」
「まァ……お前んとこの船長の情報が入ったらすぐに知らせるし、すぐに合流出来るよう取りはからうとは思う。……ここは寒いだろ。部屋の中にでも入ったらどうだ?」
「……遠慮するわ」
「……そうか」
青キジは頷き、ロビンの横を通る。船内に戻るのだろう。ロビンはまだ心を許さずに外にいることを選んだ。
彼らが海軍じゃないとしても、新政府。どの道海賊では敵対する関係にあるのだ。おそらく安全とはいえ、完全には心を許せない。
そして青キジもそれを理解した。ゆえにその場から離れたのだが……去り際に、青キジは追加の言葉を告げる。
「…………お前に会いに来たのは、仕事と、仕事のついででもあったが……もしかしたら、
「!」
「本来なら新政府も、表向きには海賊は捕まえなきゃならん方針だが……お前らを狙うつもりはない。……仲間と自分の命、大事にしろよ。失ってからじゃ遅い……おれもお前も、誰かに貰った命だ……」
感情を覗かせる声でそう言って、青キジは階段を降りていく。
ロビンはそれを、驚きながらも無言で見送るしかない。大切な何かを失った気持ちは、ロビンにも理解出来るから。
「──クザンさん!!」
「! どうした?」
だがその時──革命軍の兵士が青キジ、クザンに慌てた様子で声を掛ける。
その手には新聞。おそらくは今日の世界経済新聞の記事だ。それを持って、兵士は青キジの下へ駆け寄る。
「見て下さいこれ!! あっ、ロビンさんも!!」
「私も……?」
「……悪いニュースじゃねェといいが……って、オイオイ……これは……!!」
先に青キジが新聞の一面を見て、顔を驚きのものに変える。どうやらよっぽどのことが載っていたみたいだ。
この時勢なら何が起きても不思議ではないが、青キジの表情を歪ませるほどの記事と見て、ロビンもまた僅かに鼓動を早くしながら記事を見る。するとそこには──
「──えっ……ルフィ……!!?」
その新聞の記事の一面──それを飾っていたのは、1人の女性ともう1人──“麦わらのルフィ”であった。
──事件は一日前に遡る。
「──嫌だ!! 入らねェ!!!」
シャボンディ諸島。シャッキーのぼったくりBARの室内で、“海賊女帝”ボア・ハンコックがモンキー・D・ルフィを百獣海賊団に誘い、室内の空気が止まったと思った瞬間。
ルフィはすげなくそれを断った。──彼を知る者であればそれは予想出来る答えであったが……それでも、それを口にしたハンコックは表情を歪ませて、ルフィを再度説得しようとする。
「……! ……ルフィ、聞いてくれ。このままそなたがこの先の海に……“新世界”に入れば……確実に
「洗礼……?」
「……新世界の海賊は……この前半の海ほど甘くはない。そなたも戦争で思い知ったじゃろう。“四皇”と呼ばれる海賊の……恐ろしいほどの強大さを……!!」
「!!」
ハンコックの言葉にルフィは思い出す。
“四皇”、“王下七武海”、海軍本部”──この海の頂点を争えるだけの強さを持つ彼らの強大さを。
このシャボンディ諸島でも、麦わらの一味は黄猿やくま、海軍の新兵器に歯が立たず、一味はバラバラになってしまった。
一歩間違えばそこで一味は壊滅し……更に何かが掛け間違えれば……戦争で自身や、あるいはエースが死ぬことになっていたかもしれない。
「もう感づいているじゃろうが……わらわは昔から、百獣海賊団の傘下におる。七武海に加盟していたのも、あやつらにとってそれが、好都合だったからじゃ……!!」
「……! そういう事情が……!!」
「…………」
その発言にジンベエは眉をひそめながらも非難はしない。
あの戦争をメチャクチャにし、そしてジンベエ本人にとっても因縁ある百獣海賊団の傘下と聞いて思うところはあるが……自身もまた、七武海の身でありながら白ひげ海賊団に出入りしていたし、このハンコックは戦場でルフィのために百獣海賊団を裏切っていた。
それだけにこの提案は驚きではあった。どうやら百獣海賊団は、ハンコックの裏切りを不問にしたのかと。
ローもまた無言で聞き入る。話に入ることはないが、それでも聞くには値する話だと。
「……!! でもおれは!! 誰かの下についたり、誰かが下につくなんてごめんだ!! 自由でなきゃ海賊やってる意味がねェ!!」
「……そなたの命や……仲間の命に代えられるか?」
「……!!」
仲間の命、という言葉にルフィは言葉を失う。自分の命であれば怖くない。死んだら、自分はそこまでの男だったというだけのこと。
だけど仲間の命は何よりも大切だった。それを失うなんて死んでもごめんだ。
だからこそ、ルフィはそれを守る。命を懸けて大事にするし、これまでもそうしてきた。これからもそうする。
しかしルフィが言葉を継げなかったのは、先程のハンコックの言葉を、半ば認めているからだった。認めたくはない。認めたくはないが……それでも、ルフィの心の奥底にある不安と真実を、ハンコックは口にする。
「ルフィ……そなたは弱いのじゃ……!!!」
「!!! 弱くなんて──」
「いや、弱いのじゃ!! ルフィ……あまり言いたくはないが……そなたなど、四皇やその大幹部はおろか……わらわにすら敵わぬ。ちっぽけなただのルーキーでしかない……!!」
「! そんなこと──、!!?」
ルフィはその言葉にカチンとくる。おまけに、ルフィは突然、ハンコックに蹴り飛ばされた。
「ならば試してみよ……!! 新世界の壁を……そなたの弱さを、わらわが教えてやる……!!」
「くっ……言ったな……!! お前とは戦いたくねェけど……そこまで言うなら恨むなよ!!!」
「! 待てルフィ君!!」
「……動きすぎて死んでも知らねェぞ」
事実を突きつけられ、それを認めたくなく……そして今までの鬱憤もあってか、ルフィはハンコックのその挑発に乗ってしまう。
ジンベエの止める声や、ローの医者としての忠告も耳を貸さない。まっすぐにルフィはハンコックへ向かっていった。
しかし、
「“ゴムゴムの”……!!!」
「──ふん!!」
「ウッ!!?」
ルフィは一瞬で、ハンコックの踵落としで制される。
腕を伸ばそうとしたルフィの懐に一瞬で入り、そのまま足を高く上げて踏みつけた──言ってしまえばそれだけのことだが、高い身体能力と技術で行われれば弱者に為す術はない。
「痛ェし強ェ……なんなんだくそォ……どけよ……!!」
「どかぬ……!! そなたが、自分の弱さを認め……そして、百獣海賊団に入ると言うまでは……!!!」
そして力でも敵わない。男と女の差など微塵もない。あるのはただの実力差。圧倒的な力の差のみだ。
ハンコックは負傷した想い人に暴力を振るうことに酷く心を痛め、表情を歪めているが、それでもやらねばならないと決心して力を緩めない。
他ならぬ、彼を守るためにハンコックはルフィを抑えつける。
「そもそもなんでおれのことをお前が決めんだよ!!! おれは……おれは、あいつらになんて負けねェ……!! 絶対に勝って……“海賊王”に……!!!」
「黙れルフィ!!! そなた、まだわからぬか!!!」
「!!?」
ハンコックの剣幕。その怒声に、言い返していたルフィもさすがに言葉が止まる。
覇王色を出している訳ではないが、その強い意志の籠もった言葉は素質がなくても余人を黙らせるだけの迫力があった。
ルフィだけではない、他の誰もが声を出せない。緊迫した空気の中で、ハンコックはルフィに事実を突きつける。
「“四皇”の強さは圧倒的じゃ!!! 海軍本部や七武海ですら……もはやあやつらに……“カイドウ”や“ぬえ”……“ビッグマム”に敵う者など数えるほどしかおらぬ!!!」
言う。ハンコックは内情を知っている。だからこそ、その絶望的なほどの“暴力”の強さを知っている。
「同盟を組んだ今では、まさしく世界最強の戦力じゃ!!! そなた1人のちっぽけな力ではどうにもならぬ!!! 挑んでも何も成せず……ただ全てを奪われて死ぬのみじゃ!!!」
「……!!」
ルフィを踏みつけ、怒声を浴びせ続けるハンコックだが、そこでルフィは気づく。
ルフィに暴力を振るい、ある種の脅迫じみた説得をしながらも……ハンコックは涙をたった一粒、落としていた。
人前では泣けないと語っていたハンコックの、誰にも気づかれない程度の訴え。彼女の苦痛。悩み。それを凝縮したかのような涙が頬に落ち、ルフィにだけは、その迫真の表情が泣き顔に見える。
「知っておるかルフィ!! 百獣海賊団は……ただで殺すようなことはしないのじゃ!!! 叩き潰した相手を傘下に誘い……!! 断れば執拗に拷問を行い、心を念入りに折る!!! 何日だろうが、何年だろうが……!! 望む答えが得られるまで身体を傷つけ、仲間を傷つけ、仲間の身内や大切なものを傷つけ続ける!!!」
ハンコックは知っている。見てきたのだ。潰されて、それでも意志を曲げなかった者達の行く末を。
曲げれば助かる。だが、曲げない者──ルフィのような者が一度捕まれば……その先にあるのは破滅だ。
「それでも断り続けた者は、何もかも失って死ぬしかない!!! 死体は人とは思えないもので……最後には獣か、化け物の腹の中に収まる!!! 仲間や家族がそうやって死ぬところを見せつけ……!! 泣き叫び、許しを請う者の姿を見て、奴らは楽しむのじゃ……!!!」
百獣に逆らい続けた者は骨すら残らない──新世界の常識だ。
そしてビッグマムも似たようなものだろう。彼女もまた、反逆者や敵には容赦はしない。
見てきたし、その一端を体験もした。
「あやつらはもう止まらん……!! どう足掻いても逆らう者は全員破滅する!!!」
一端なら耐えられる。他人がどうなっても心は痛まない。
だが──
「だが……仲間になれば、救われる!!! ルフィ……そなたもそなたの仲間も……皆……全員……救われるのじゃ……!!!」
「!!」
──大切な人がそうなることは……耐えられない。
その未来を防ぐためなら、ハンコックは想い人にだって暴力を振るう。
そうすることで救われるなら構わない。自らも獣に堕ちることだって厭わない。
だがルフィだけは──
「──悪かった」
「……! え……?」
──ルフィの低い声が耳に届き、ハンコックは足の力を緩めてその場から一歩下がる。
耳を疑ったが、その言葉は確かに、こちらに謝るもの。それはつまり、
「やっぱお前、おれ達のことを考えてくれたんだな……それなのに弱いって言われて挑発されただけで……殴りかかろうとしちまって、悪かった」
「……や、やっとわかってくれたか……!! それなら──」
「──けどよ。やっぱりおれは……いつかその“四皇”の同盟を……百獣海賊団をブッ飛ばす!!!」
「!!?」
だが、結論は変わらなかった。
ルフィは百獣海賊団の勧誘を受けず、むしろブッ飛ばすと宣言する。その言葉に、真面目な表情を見せるレイリーやロー以外が驚きの表情を見せた。
特にハンコックは狼狽し、そして更に問い詰める。
「なぜじゃ!!! 自分の弱さを思い知り、その危険性を知ってなお、なぜそなたは立ち向かおうとする!!! 従えば犠牲になるものは何もない!!! 全部楽に守れるのじゃぞ!!!」
「──お前が犠牲になってんだろ!!!」
「!!!? え……」
ルフィはハンコックに勝るほどの剣幕で言う。覇王色を持つ彼女が気圧されるほどの圧力で、立ち向かう理由を口にする。
「お前、あいつらの仲間なんだろ!!! ハンコック!!! 今回の戦争で勝って……!! お前はおれの味方してくれたり色々あったけど……!! それでもまだあいつらの仲間なんだろ!!?」
「……そう、じゃが……」
「だったら──なんでお前が、苦しんで泣いてんだよ!!!」
「!!?」
──それは奇しくも、ハンコックがルフィに出会って間もない時……ルフィを助けた九蛇の民を石に変え、それを笑う周囲の者達に怒りを見せた時に似ていた。
その時のことを一瞬で思い出し、そして自分のことで怒っていることを思い……ハンコックは二粒目の涙を落とす。
「おれは仲間を大切にしねェ奴が嫌いだし、友達を泣かせてんのも許せねェ!!! だからブッ飛ばす!!!」
「……! ルフィ……!!」
ハンコックは目元を押さえた。人前では泣かない。涙を見せない。それは絶対のことだ。
だからそれを抑える。涙が出ないように、それを誤魔化すために。
そしてルフィが自身を泣いていると指摘しているが……それを注意は、出来なかった。
「それに“海賊王”になるのもおれだからな!! 四皇だかなんだか知らねェけどブッ飛ばす!!! そのために、まずは仲間と合流して……そのためにどうにかする!!!」
「適当じゃな……」
「フフ、モンキーちゃんったら……罪作りな男ね」
ルフィの力強い宣言に、ジンベエが軽く呆れ、シャッキーはその恐れ知らずな言葉に対してではなく、ハンコックの反応を見て笑みを浮かべる。
そして話を聞いていたローやレイリーも……人知れず、ニヤリと笑みを浮かばせた。
さらにハンコックも──
「……ふふふ……そなたは……こんな状況でも、変わらないな……」
「おう!! とりあえず、おれは入らねェから諦めてくれ!! それで……そうだな……とりあえず仲間がいねェことには新世界に行けねェし……傷が治ったらそれまで鍛える!!!」
「……フフフ……ならばルフィ君。私から一つ提案がある」
「え、なんだ?」
──そしてそこで、レイリーが微笑を浮かべながら提案を口にする。
その提案はルフィにとっては天の賜物であり……彼らの力不足を解消するには、うってつけの提案であった。
だが、ルフィがそれを受けても……悩みが一つあると、彼は言う。それは、
「君の仲間に伝える手段をどうするか……」
「どうにかならねェのか!?」
「ううむ……新聞の記事に載せるのが一番だと思うが……よほどの事件でなければこの時勢、写真付きの一面では載るまい……直接的なメッセージでは誰かしらに勘付かれてしまう……さて、どんな事件を起こして記者に撮らせるか……」
「う~~~~ん……肉死ぬほど食い逃げするとか……」
「…………なら、一つ思いついたんだけど良いかしら?」
「?」
「まあそのためには……ハンコックちゃんにも、協力してもらう必要があるけどね♡」
「え……?」
シャッキーのウィンクがハンコックやルフィ達に飛ばされる。彼らが皆、首をかしげる中、その思いつきは口に出され、
「ええっ!! 冗談じゃねェ!! 嫌だぞおれは!!」
「何も本当にしなくてもいいのよ、モンキーちゃん。あの“海賊女帝”ボア・ハンコックが
「……んー……まあ、それで仲間に伝わるならまあ……でもおれは断るからな!!」
「ふふ、決まりね♡ 覚悟はいい? ハンコックちゃん?」
「る、ルフィと……」
「……記事にされるためとはいえ、とんでもないことを思いつくものだな……」
そうしてひと悶着もあり──その末に、しかしその
──かくして、その一大事件は世界中に報じられる。
新世界──ワノ国、“鬼ヶ島”。
「──ぬえさん!! 大変です!! ハンコックの奴が……へぶっ!!?」
「うるさい!! 今考え中だから騒ぐな!!! あ~~……とりあえず、ムサシの子供については一旦後回しにして……今はオロチの仕込みとその部下と話して……その後で金色神楽で……」
「し、しかしぬえさん。ハンコックが……」
「……ん? ハンコック? ……あー、そういえばお引越しの件があったね。それで、どう? 決心はついたって?」
「そうじゃなくて……!! とにかく、この記事を見て下さい!!!」
「はぁ? さっさと口で答えなさいよ。つまんない記事だったら承知しないわよ。──どれどれ…………は?」
──“
「ドラゴンさん!! サボさん!! “麦わらのルフィ”のとんでもねェ記事が……!!!」
「! マジか!! ははっ、やっぱり生きてやがった!! おい見せてみろ!!」
「親父。ルフィの記事が……」
「ルフィ……やはり生きておったか……」
「「「…………え?」」」
──“
「コイツら……馬鹿なのか……?」
「イカレてる……」
──新世界、海上。
「え、エース船長!!」
「おいエース!! お前の弟が……!!」
「…………はァ!!?」
──“
「る、ルフィ~~~~~!!!?」
「お、おめでとうと……言っていいのか……?」
──新世界。
「……キラー。この麦わらの行動……何か意味があると思うか?」
「…………いや、よくわからん」
──シッケアール王国跡。
「お前の仲間は退屈せんな……」
「はァ!!? 何やってんだあいつ!!?」
──ボーイン列島。
「る、ルフィ~~~!!? おめェマジか~~~!!?」
「な、何があったんだウソップン!!」
──“
「え~~~~~~!!!?」
──“
「どういうつもりなんだ……一体……」
「ふふ……伝え方が独特ね……でも、わかったわ
──未来国バルジモア。
「ルフィ……おめェって奴は……」
──空島ウェザリア。
「あいつ……伝え方ってもんがあるでしょうが!!!」
「これはこれは……ふふ、このご時勢ではあるが、祝言を寿がねばなるまい……更に、夕餉では赤飯をお出ししよう……」
「いらんわっ!!!」
──テーナ・ゲーナ王国。
「なんて……羨まシィ~~~~~~!!!」
──カマバッカ王国。
「る……る……る……ル~~~フ~~~~ィ~~~~……!!!」
──その新聞の記事は、世界中に衝撃を与え……そして、世界の約半分に涙を流させたという。
その衝撃の記事の内容に、ルフィの仲間達は隠されたメッセージを読み解く前に……まず一度は各々、驚愕の反応を見せた。
嘘か本当か、世間には分からない。おそらく本当寄りで信じられているだろうが、仲間や知る者には、記事を撮らせるための嘘とわかる……多分──だが、それでも方法が方法なだけに、親族や仲間の殆どの者達が間の抜けた表情を見せた。
──記事の見出しは、
──“海賊女帝”ボア・ハンコック!! “麦わらのルフィ”と結婚!!? 婚約か!!? シャボンディ諸島での突然の求婚!!
「ル~~~~~~~~~~フィ~~~~~~~~!!! てめ゛ェ、てめ゛ェはァ……!!! 絶対に許さねェぞォおおおおおおおおお~~~~~~~~~~!!!!」
その記事の内容と載っている写真に、極一部、一足早く怒りの炎を目と背中に宿し、鬼が宿ったかのように天に向かって絶叫するぐるぐる眉毛の男がいたが……概ね、その人目を引くための嘘の記事とその裏にある本物のメッセージは仲間達と一部に伝わり、そして世間に別の方向でのさらなる絶望と混乱を与えた。
テキーラウルフ→世界政府崩壊により橋建設も終了。奴隷が大量に逃げ出す。
東の海→青キジが掃除。
青キジ→東の海で海賊掃除。ロビンを迎えに行く。
ロビン→新政府本部へ。
ハンコック→ルフィの身を案じての提案。
ルフィ→百獣海賊団をブッ飛ばすことを決める。
レイリー→修行を勧める。
シャッキー→記事に撮られるための提案の発案者。元凶。
ビッグニュース→世界中が混乱。男が絶望する。鳥社長大喜び。
サンジ→怒りの炎を習得?
ぬえちゃん→荒れてる。2話連続で驚愕。そろそろヤバい。
ということで(嘘の)ビッグニュース。3D2Yの簡単な伝え方。無事に修行出来るかはわからないけど。結婚はしません。でもハンコック的には活力になるかも……?
次回は例の鬼やビッグマム。そして金色神楽。タイトルは“新鬼ヶ島計画”です。お楽しみに。
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