正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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百獣海賊団強化計画2

 頂上戦争から約半年が過ぎ──人々は徐々に“変化”に適応し始めていた。

 

「今日もまた大事件だ……ユースタス・“キャプテン”・キッド……!!」

 

「何でもあの“千両道化”の軍艦を3隻沈め、ナワバリを1つ落としたらしい……!!」

 

「毎日がこうだとさすがに感覚が麻痺する……昨日は“ホーキンス”……その前は“ロー”……!!」

 

「“四皇”傘下の超新星も続々と大事件を起こしてやがる……!!」

 

「“新政府”も新たな“三大将”を筆頭に本格的に動き始めたらしい……もしかしたら、この島も──」

 

「バカ野郎!! 政府なんてもう頼れるか!! つくなら海賊の下の方がよっぽど安全に決まってる!!」

 

「自分達の身は自分達で守るしかねェ……おれはもう海に出るぞ!! こんなとこにいたら家族共々飢え死んじまう!!」

 

「何をバカなことを……!!」

 

 世界に起きた幾つもの変化……秩序が破壊され、海賊が台頭する時代となった世界では、毎日が血生臭い闘争と動乱の日々。

 新聞では連日、世界中で起きた事件が報道されるが、そのほぼ全てが人々に恐怖をもたらし、“死”を連想させるもの。

 いつ巻き込まれるともわからない時勢は平和を生きてきた人にも暴力を決断させるのに十分なものだ。自分と大切な人の身を守るために、手を血に染める。後ろ暗い商売を始める。他人を貶め、自らが勝ち取る。

 それが今の世の理。弱肉強食。適者生存。力ある者が全てを得る世界。

 

「──それで、ここは一体どこなんだい?」

 

 ──そんな中……()()どこまで昇ることが出来たのだろうか?

 

「さァな……こっちが聞きてェくらいだ。──おいクソガキ。何か知らねェのか?」

 

「あァ!!? 誰がガキだ!! 私が知る訳ないでごんす!!!」

 

「この前会った時とまた語尾が変わってやがる……!? また変なブームかよ姉貴……!!」

 

「ぺーたんは何か知ってるでごんすか?」

 

「おれも知らねェよ。それとぺーたん言うな」

 

 ある少女は自問する。

 世界の頂点を知ったあの戦争で、私は私が挑むべき地獄の凄まじさを知ったと。

 

「……見たところ、おれ達の他には誰もいねェし船も見当たらねェな」

 

「まさか敵の罠でごんす!?」

 

「そうだとしたら五体満足ってのはおかしな話だけどねェ」

 

「おまけに身体に傷1つ見当たらねェ。どこかの組織の仕業だとしたら温いにも程があるな」

 

 “白ひげ”に“海軍本部”。“四皇”に“革命軍”。まさしく頂の上の戦いを垣間見た。

 そして実際に参戦し、縁のある相手とも戦ったが……私は討ち取ることも出来ず、格上の首を取ることも出来なかった。

 

「だな……それより、こいつはどうする?」

 

「あァ? ……チッ、まだ起きてねェのか……」

 

 ……こんな有様ではいけない。

 悲願を達成するためにはこの程度の強さで満足することは出来ない。

 強く、強く……より強くならなければならない。

 少しでも、頂点に牙を届かせるために──

 

「──おいクソガキ!! さっさと起きろ!!!」

 

!! ──けほっ!! けほっ!! っ……!!」

 

 ──そうして、私は衝撃を受けて覚醒する。

 腹部の痛み。誰かに腹を打撃されたのだと断ずる。私はすぐに立ち上がり、意識を覚醒させて眩しさを感じつつ目を細くしながらも周囲を見渡せば……そこにいる5人──腹を打撃した相手も含めて見知った者達を確認する。

 

「……なぜお揃いで……?」

 

「やっと起きたか」

 

「遅いお目覚めだねェ、小紫ちゃん♡」

 

「小紫の癖に起きるのが遅いでごんすね」

 

「タフだけが取り柄なお前にしては珍しいじゃねェか」

 

「おれの手を煩わせやがって……足手まといが……!!」

 

「……よく分かりませんが……申し訳ありませんでしたね」

 

 目を覚まして彼ら5人──私が所属する百獣海賊団の“飛び六胞”にそれぞれ声を掛けられる。眩しいのは雲1つない空からのものであり、熱く感じたのはそこが砂浜で夏島らしい場所だから。謝ったのは自分がおそらく……最後に目覚めた者だからだ。6人の中で。私が目覚めたことで百獣海賊団の真打ち最強の6人。飛び六胞のメンバーが勢揃いする。

 

『百獣海賊団“飛び六胞”小紫 懸賞金5億2910万ベリー』

 

「……とりあえず聞きたいのですが……ここは一体どこですか?」

 

『百獣海賊団“飛び六胞”ページワン 懸賞金6億6000万ベリー』

 

「そこからかよ……おれ達も今それを確認しているところだ」

 

『百獣海賊団“飛び六胞”うるティ 懸賞金6億9900万ベリー』

 

「見渡す限りの砂浜と青い海に青い空……見たところ夏島でごんすね!!」

 

『百獣海賊団“飛び六胞”ブラックマリア 懸賞金7億1200万ベリー』

 

「とはいえ……普通の夏島ではないようだけど……」

 

『百獣海賊団“飛び六胞”ササキ 懸賞金7億4400万ベリー』

 

「部下の姿も見当たらねェな。無人島か?」

 

『百獣海賊団“飛び六胞”フーズ・フー 懸賞金8億2800万ベリー』

 

「うちのナワバリにこんな島があるとは聞いたことがねェが……だがうちのシマには違いねェだろうな」

 

 6人はそれぞれ島を見渡しながら所見を述べる。誰もがこの状況とこの場所に不可解さを覚えている。

 わかるのはこの島が新世界の夏島でウチのナワバリであろうということくらいだ。何しろ敵の仕業にしては不自然だし、こうなる前のことを誰もが思い出している。

 

「……やっぱり()()()の仕業か……?」

 

「言うまでもねェだろ……確かここで目覚める前は“グラン・テゾーロ”のVIPルームで招集されて……」

 

「あ!! そういえば大事な話があるって呼び出されたでごんすね!!」

 

「まあ、あの方ならこの現状も納得ね」

 

「ああ……それに……いや、()()は触れていいのかわからねェが……」

 

「…………」

 

 そして6人はそれぞれ砂浜の方向を見ながら同じ相手を思い浮かべる。目覚める前はその相手と一緒にいた筈だし、突拍子もないことをするのもその相手なら納得だ。

 それに何より……彼らは砂浜にある桟橋。その先にある水上のコテージが何よりの証拠だと彼らは何とも言えない顔でそれを見る。建物の上に飾られた看板。デフォルメされたその相手のマスコット絵が描かれたそれを見て、誰もが同じ声を内心で呟いた。

 

『♡ ぬ え ち ゃ ん の 海 の 家 ♡』

 

(絶対あの人だーー……!!)

 

 フーズ・フー、ササキ、ページワン、小紫はこれに触れていいものかと汗を掻き、ブラックマリアは平常。うるティは目を輝かせてその家を見る。他の者が戸惑う中、真っ先に動いたのもうるティだった。

 

「やっぱりあそこに行くでごんす!! “声”も聞こえるでごんすし!! ぬえ様~~~~♡」

 

「あ!! おい待てよ姉貴!!!」

 

「あらあら……うるちゃんは堪え性がないわね」

 

「ガキ共は何も考えず行っちまったが……どうする?」

 

「……まァ来いってことだろうな。“声”もその家から聞こえる」

 

「じゃあ行くか。──おい、小紫。てめェもちゃんとついて来い」

 

「……言われずとも」

 

 小紫は先に行ったうるティとそれを追いかけていったページワン。そしてその後にゆっくりと歩いていったブラックマリアを見て相談していたフーズ・フーとササキに命令され、後についていく。言うことを聞く義務はないが、どの道ついていかなくては話は始まらないだろうと。それを誰もが理解していた。

 そうして飛び六胞がコテージの中に足を踏み入れると……案の定、そこにいたのは黒の水着姿をした予想通りの相手。

 

「いらっしゃ~~~い♡ ぬえちゃんの海の家にようこそ~~~!!!」

 

「キャ──♡ やっぱりぬえ様でごんす~~♡ しかも水着にエプロン!! 可愛いでごんす!!」

 

「……何やってんだ? ぬえさん」

 

 うるティが黄色い声を上げ、ページワンが代表してツッコミを入れた相手。最早言うまでもない。そこにいたのは彼ら飛び六胞が忠誠を誓う2人の内の1人。百獣海賊団の副総督──封獣ぬえだった。

 今や世界最強の戦力を率いる2トップの1人。最強生物と肩を並べる最恐生物がなぜこんなことを──と、それ自体に疑問に思う者はいない。ぬえのこういった人を驚かせるような行動はいつものことだからだ。

 だがとはいえ、何をしているのか、という部分には疑問に思う。ページワンに続いてフーズ・フーら後から来た者もそれを問おうと口を開いた。

 

「……それに……一体ここはどこなんだ?」

 

「あんたの突拍子のない行動はいつものことだが……今回は一体どういう理由で?」

 

「まーまー!! その話はちゃんと追々するからまずは座って座って!! ──はい、6名様ごあんな~~~い♡」

 

 しかしぬえは自らのペースを崩そうとしない。水着姿にエプロン。そしてウェイトレスのように飛び六胞の6人を近くの席に案内して座らせると、どこから取り出したのか、急にメニュー表を差し出し、メモとペンを手に持ち出した。

 

「はい!! まずは注文をどうぞ!! ここは暑いし、皆お腹空いたでしょ!! 各種ドリンクにお酒、フードメニューも充実!! 海の家定番の焼きそばやかき氷なんかもあるよ!!」

 

「ツイストポテト盛り合わせとナチョスをお願いするでごんす!! 飲み物はぬえ様のおすすめで!!」

 

「なんでおれの分まで勝手に頼んでんだよ……別にいいが」

 

「なら私はみたらし団子と……白玉ぜんざいでお願いしますわ♡」

 

「あー……アスパラガスとベーコンのペペロンチーノ。白ワイン」

 

「カニのパエリアと赤ワインだ」

 

「(皆普通に頼むんだ……)……ざる蕎麦を……」

 

「はいは~い!! それじゃあ少々お待ちを~~~♡ ──注文入りました~~!!」

 

 皆の注文を聞いてぬえが裏の厨房らしき場所へ注文を届けに行く。小紫は他の飛び六胞の面々がメニューをちらりと見て普通に料理や飲み物を注文したことに内心だけで軽くツッコミを入れたが、ぬえのマイペースっぷりに慣れきっている彼らは付き合うつもりで注文した。しかも何気に自分達の好物を。それは小紫も例外ではない。彼女も地味に慣れてしまっていた。

 

「それにしても良い家ね……ここはぬえ様の別荘か何かで?」

 

「ふふん、良いでしょ。別荘兼海の家だよ!!」

 

「ウチのナワバリにこんな島があったなんて知らなかったぜ」

 

「ま、それは当然だよ!! 最近になって見つけてナワバリに加えた島だからね!! 私のお気に入りだよ!!」

 

「成程……道理で……」

 

 そして食事を待つ間、飛び六胞はぬえに質問を重ねる。返ってきた答えには一先ず納得出来た。ナワバリだとは思っていたが、飛び六胞の記憶にない島。それを不可解に思っていたのだが、最近になってナワバリに加えられたと。それなら納得だとフーズ・フーやササキは頷く。他の飛び六胞も例外ではないし、この島がぬえのお気に入りになったのも納得であった。

 百獣海賊団に入ってそれなりの年月が経てばカイドウやぬえの好みなどもわかってくる。だからどういう島が好みなのかも知っており、簡単に言えばカイドウは冬島が多く、ぬえは夏島の方が傾向として好みやすい。季節に関しての好みは割と逆だが、とはいえぬえの方は気まぐれでその時々によって変わりはするし、どれも好きだったりもするがあくまで傾向なので絶対にそうという訳ではなかった──が、それでも疑問に思うことはまだある。それをうるティが聞いた。

 

「しかしナワバリだというのに部下も傘下も誰もいないでごんすね」

 

「ああ、それはまあ……生半可な傘下や部下だとやられちゃうかもだし、逆に生半可な相手だとこの島をナワバリにして開拓なんて出来ないだろうからね。ここ無人島だし」

 

「……なら島から聞こえる“声”の殆どは動物ですか……」

 

「そうだよ。ここにいる生き物はちょっと特殊でねー♡ まあ島全体もそもそも()()なんだけど……私達があることをするのにちょうど良いんだよね」

 

「特殊……?」

 

「あること……?」

 

 再び誰もが疑問を思う。島が無人島だということも島から聞こえる“声”。見聞色の覇気で聞こえる気配が動物のものだということは覇気を使える飛び六胞の面々なら誰もが薄々分かっていたが、ぬえの口から“特殊”とまで言われると気になってしまう。何かをするのに最適だと言われれば尚更だ。

 そして勘の良い、あるいは察しの良い者は気がついた。フーズ・フーが組んでいた腕の1つを軽く上げながら言う。

 

「……つまりこの島で何かをすることが、おれ達が招集された理由だと?」

 

「そういうことだねー」

 

「おれ達は何をすりゃ良いんだ?」

 

「それはねー……ふふふ~♡ どうしよっかな~? そろそろ教えちゃおっかな~?」

 

「うわ面倒くさっ!! 勿体ぶらないで早く言えよ!!」

 

「おい!!!」

 

 ササキの問いに対してぬえが手で口元を隠し、ニマニマといたずらっぽい表情を浮かべるとうるティが辛辣に噛みつき、ページワンがそれを焦って止める。いつものことだ。うるティの噛みつきは他の飛び六胞も気が気でないし、弟であるページワンなら尚更だが、しかしぬえは表情を笑みのまま変えず、怒ったりもしない。禁忌とされるレベルの暴言でもないし、うるティの性格と実力、そして忠誠心を知っているためそれほど怒ることでもないのだ。相手がカイドウであっても同じことである。

 

「まあまあ勿体ぶって悪いんだけど急いでる訳でもないし、ご飯でも食べながらもうちょっとゆっくり話そうよ。料理もそろそろ運ばれてくるだろうしね♪」

 

「……そういや料理って一体誰が……?」

 

「──おれだ……!!」

 

「!?」

 

 飛び六胞がその声に驚く。厨房からやってきた声。ぬえの発言にふとページワンが疑問に思い、誰が料理を作ったのかと発言した直後の出来事だ。ちょうど、奥からぬえの操るUFOによって料理が運ばれてくるが、その後ろについてくるのは彼らも知る大男。背中に炎と黒い翼を持つ巨漢──大看板の1人。

 

『百獣海賊団大看板“火災のキング” 懸賞金19億9000万ベリー』

 

「手間取らせてくれたが、ようやく完成した……これでいいか? ぬえさん」

 

「うん。お疲れ様~!! キング!!」

 

「キング……!! やっぱりてめェの料理か……!!」

 

 奥の厨房からやってきた百獣海賊団の最高幹部。4人しかいない“大看板”の筆頭とも名高いキングがやってくると、フーズ・フーやササキなどの対抗心を燃やしている飛び六胞2人は軽くいきり立った。部下の様子が見えずに妙だとは思っていたが、キングは百獣海賊団において隠れ料理人として有名だ。料理を作ってくることに不思議はない。

 とはいえカイドウやぬえ限定ではあるため、まさか自分たちの料理を作ってくるとは、と驚きを見せる。その反応にキングは鼻を鳴らした。

 

「フン……ぬえさんの命令だから仕方なく作ってやったが、本来ならお前らのための料理なんて作らねェんだ。それを特別に作ってやったんだから精々感謝しろ」

 

「チッ……うるせェ奴だ……いつもお前がカイドウさんやぬえさんに作ってる料理の食材は誰が卸してると思ってる。お前こそ感謝しろ」

 

「全くだ。毎年最高の酒を飲ませてやってるのはこっちの方だぜ」

 

「あれ!? ということはこれウチの野菜でごんすか!?」

 

「いや、見たところ違うだろ姉貴……多分、この島で採れたものだ」

 

「そういえば……この木材はあまり見たことのない木ねェ」

 

「…………そういえば気にはなっていましたが、砂浜の砂にも違和感が……」

 

 キングと元海賊団の船長組である2人のやり取りを切っ掛けに、食材や木がこの島で採れたものだと看破される。小紫なども島の鉱物に多少の違和感を覚えていた。石工の血筋のせいか、小紫は多少だが鉱業に造詣がある。……他の飛び六胞ほど毒されてはいないが。

 だが指摘は正解だったのだろう。ぬえが運ばれてきた料理の1つを口にしながら喜びを見せた。

 

「おーさすがだね!! 皆鋭い!! 食材も家も何もかもこの島で採れたものだよ!!」

 

「当然だ。ウチの獣共と肉質が違ェ……この島の食材は少し硬いな」

 

「歯ごたえがあって美味しいでごんす」

 

(もう食ってる……)

 

 小紫は兜の下で微妙な表情を浮かべた。つい数秒前までキングに食って掛かっていたのに普通に食べてるフーズ・フーや他の面々にツッコミを入れる。キングも何も言わない。前々からそうだが、妙に職人気質がある者ばかりなため、小紫は毎回置いてけぼりというか、何とも言えない気分になる。──仇に対する何とも言えない不甲斐なさ。そんな連中と同列に並べられるしかない自分の情けなさ。二重に自嘲する思いが襲ってくる。一線を引き、染まりきれないがゆえの悩みだった。

 だが小紫が内心で自分の精神を摩耗している間にも、話は続く。他の者達の疑問は既に次の段階にシフトしていた。

 

「そういやぬえさん。この際だからついでに報告しておくが……ついこの間“ホーキンス”のガキがウチの領海(シマ)で暴れて真打ちが1人やられ……船が沈められた」

 

「あーそうなんだ。最近多いねー。“最悪の世代”の海賊達……この間は“キッド”が暴れて、その前は“ウルージ”。リンリンのところの“ベッジ”も活躍してるし、ウチの3人も暴れててよく新聞に載ってるし……特に“ドレーク”はこの間、私が言った任務もちゃんとこなしてくれたしさ」

 

「この間言っていた任務と言うと……“新鬼ヶ島”に残る反抗勢力の討伐を?」

 

「それだね!! ちゃ~~んと侍を殺して村を滅ぼし、可愛い女の子1人とその家族一名を連れて来てくれたよ♡」

 

 フーズ・フーが損害の報告を行い、しかしぬえはそれを聞いても機嫌が良いまま最近活躍している“最悪の世代”について話を移す。約半年前──あの“頂上戦争”前に現れた11人の億超え超新星は今や“最悪の世代”と呼ばれて持て囃されている。大物達が覇権を争う今の海で、新人(ルーキー)ながらに頑張っている連中としてモルガンズが名付けたキャッチコピーだ。彼らは今の海を良くも悪くも掻き回している。

 だが百獣海賊団にとってマイナスな存在という訳でもない。最悪の世代の内、3人の船長は新たに百獣海賊団に加わり、それぞれ任務をこなしている。きちんと百獣海賊団にとって利になることをしているため、当然ぬえも喜んでいた。“飛び六胞”の面々にとっても悪くはないことだが……今後の出世を争うライバルと考えると呑気に喜んでもいられない。まだ眼中にはないが、将来を考えると新人の成長速度は中々に面倒だ。危険を感じてはいないが、精々生意気な性根が矯正されることを望んでいる。最悪の世代はどいつもこいつもアクが強い者ばかりなのだ。出世しても言うことを聞かない相手というのは扱いづらい──今のフーズ・フーやササキのように。

 

「ああ、でも“狂死郎”は失敗しちゃったみたい。酒天丸には逃げられたんだってさ」

 

「! ……そうか」

 

 そして戦争が終わった後に入ってきた新人達の中にはワノ国の侍や忍者も存在する。オロチ政権下のワノ国に仕えてきた侍達。見廻り組やお庭番衆などがそうだ。彼らは百獣海賊団の戦闘員“ウォリアーズ”となったり、“メアリーズ”に編成されたりして戦力の一助として役に立っている。

 だがそのオロチの配下の侍の中で1、2を争う強者でありオロチ政権下でもその忠誠心と実力、器量から頭角を現していた“狂死郎”が任務に失敗した。そのことに少なからず驚いたのはその実力を良く知る親友のササキであった。任務に狂死郎を推薦した手前、少しバツも悪いが、それよりもやはり気になったのは盗賊の首領である酒天丸が狂死郎から逃れるほどやり手であるという事実だった。

 ……とはいえ、狂死郎の正体を知る者からすればさもありなん──といった様子である。小紫はその報告とササキの僅かに残念そうな様子を鼻で笑った。

 

「……()()に媚びを売ることしか能のない男には当然の結果ですね。──まあ約一名はその能無しと随分と仲良くしているようですが……」

 

「あ? てめェ……小紫……今のはおれに言った言葉か?」

 

「私は狂死郎を貶しただけのつもりですが……それに怒る辺り、やはり随分と狂死郎を買っているようですね……」

 

「チッ……口の減らねェガキが……!! てめェは降格の心配でもしてろ。人の付き合いに一々口出すんじゃねェ」

 

「あ、喧嘩? いいよやれやれー!! 今なら誰の邪魔も入らないよ!!」

 

「ぬえさん、煽らねェでくれ」

 

 小紫の生意気な口と友人を貶されたササキがテーブルの上で睨み合うと、ぬえが嬉しそうにそれを煽り、キングが真顔でやめてくれと告げる。キングも個人的には飛び六胞同士の内紛など知ったことではないし、小紫を消すなら自分も参加したいくらいだが、今後の戦力が減る可能性もあるし、何よりもこれからやらせることを考えると今は止めざるを得ない。今は大事な時期なのだ。それをキングは説明する。

 

「殺し合いなら半年後の“金色神楽”で行われる“百獣杯”でやれ。それなら多少やりすぎても問題ねェ。お前らも知ってるだろうが、最近は“新政府”も“赤髪”、“千両道化”の連合も戦力を整えてる。この間も加わったばかりの兵力を消されたんだ。今はこれ以上戦力を減らす訳にはいかねェからな……!!」

 

「……わかってる。一々言われなくてもな」

 

「…………ええ」

 

 キングはここ半年で起きた変化とそれによって生じた被害を憂いていた。革命軍が前身で海軍の残党が加わった“新政府”ではついに新たな“三大将”が任命され、海賊の蛮行に対する徹底抗戦を宣言した。特に百獣海賊団とビッグマム海賊団による世界の支配には全力で抵抗すると名指しで宣言されている。

 そしてこれまた厄介なことに、赤髪海賊団はあの戦争で頭角を現したバギー海賊団との同盟を強化し、戦力を整えている。これまで少数精鋭で勢力を維持していた赤髪海賊団に、バギー海賊団の兵力と科学力が加わっていた。

 どちらの勢力よりも百獣海賊団とビッグマム海賊団の方が戦力は上としても、考えなしに真正面から戦いを挑むには少々厄介だ。小競り合いは幾つも起きているが、その戦いでさえ油断すればこちらが手痛い目を見る。百獣海賊団を差配するキングはそれを理解しているがゆえに内紛は戦力が一堂に集結する“金色神楽”の場などにしろと命令した。その時ならばカイドウとぬえの許可も得ている──というより、他ならぬぬえによってイベントが企画されているのだ。

 昇格や挑戦権を争って戦い合う“百獣杯”。それは挑戦される側である“大看板”のキングにとっても他人事ではない。黙ったササキと小紫に代わり、フーズ・フーが口を開く。

 

「──ならその時ならお前やクイーンがやられても問題はねェってことだな?」

 

「ああ──出来るものならな」

 

 そしてそれを知りながらもキングは動じない。

 野心を隠そうとしない真打ちや飛び六胞。その筆頭であるフーズ・フーにそう言われてもキングが狼狽える理由も何か行動を起こす理由もない。──挑んでくるなら叩き潰すだけだ。飛び六胞の実力は知っているが、何も問題はない。彼らよりも、自分の方が強いと絶対の自信を持っている。キングの立ち振舞にはそれが見て取れた。

 だがそれを知って引き下がる飛び六胞ではない。大看板が一筋縄ではいかない相手だというのは十分に理解しているが、それでも彼らは自分達の牙の鋭さを知っている。決して届かない相手ではないと。

 それは大看板に飛び六胞……いや、百獣海賊団に所属する者達の多くが共通する思いだ。絶対に勝てない。殺せない。届かない相手というのはこの世にたった2人しかいない。

 

「うんうん!! 活きが良くて何よりだね!! ──というわけでそんな“飛び六胞”に朗報~~~~!!! この島にあなた達を集めた理由を発表するよ!!!」

 

「!」

 

 2人の内の1人──最恐の獣が最恐に似つかわしくない明るい笑顔で声をあげる。

 しかしその似つかわしくない風貌こそが人に恐れを抱かせる。正体不明の大海賊は遂に彼ら飛び六胞をこの島に呼び寄せた理由を告げた。それは──

 

「あなた達6人に私から送るプレゼント!! あなた達にはこれから──この島で!!! 修行を兼ねたサバイバル生活を送って貰うよ!!!

 

「!!?」

 

 ぬえがイベントで見せるようなテンションで言うと、飛び六胞は驚いた。

 修行にサバイバル。後者は無人島であれば向いているし、必要かはともかく理解は出来る。だが前者については不可解であり、その疑問を驚きの反応を見せたうるティの後にページワンが聞いた。

 

「修行でごんすか!?」

 

「修行って……いや、修行は構わねェがぬえさん。なぜこの島で……? 別に新鬼ヶ島でも良いんじゃねェか!?」

 

「いや~ここの方がおもしろ──じゃなくて効率良さそうだからね!! 百聞は一見にしかずってことで、まずはこれを見て!!」

 

「! これは……石?」

 

 ぬえがどこからか取り出して見せたこぶし大の石塊を見て小紫が呟く。それは見る限り、ただの石だ。

 だがぬえはその石を軽くうるティに投げ渡し、修行にうってつけだというのを証明するべく、うるティにぬえが命令した。

 

「うるティちゃん。その石、割ってみて」

 

「お安い御用でごんす!! ふん!!!」

 

 うるティがその細腕に力を込める。見た目は年若き少女の細腕だが、そこらの小娘とは違うのは誰もが分かっている。真打ち最強の6人。飛び六胞の1人。動物(ゾオン)系古代種の悪魔の実を食べたうるティのパワーはそこらの石など豆腐のように粉々に握り潰せる。同じことをこの場にいる全員が出来るだろう。それも誰もが知っている。

 ゆえに楽な命令だと6人は認識していた。どういう意味があるのかと。だが、

 

「……おいどうした姉貴?」

 

「ん!? おかしいでごんすね……ふんっ……!!! んん~~~~~!!!」

 

「……まさか砕けねェのか……!?」

 

「ハァ……ハァ……クソ!! ムカつく~~~!!! こうなったら思いっきりかち割ってやる!!! この石!!! “ウル()”──」

 

「いやいや待てバカ姉貴!! 建物壊す気か!!?」

 

「だってぺーたん!! この石!! 石のくせに生意気でごんす!!!」

 

「……おい、ちょっと貸してみろ」

 

 割れない。握り潰せない。うるティが必死に力を込めても。その様に驚く。

 苛ついたのかうるティが石に向かって思い切り覇気を込めての頭突きをしようとするが、それは行う前に弟のページワンの手によって止められた。文句を言ううるティに代わり、今度はフーズ・フーがその石を寄越せと手を出す。うるティが渋々それを渡して悪態をついた。

 

「どうせ割れねェからな!! 失敗するがいいでごんす!!!」

 

「ちょっと黙ってろクソガキ。──ぬえさん。刀を抜いて構わねェか?」

 

「どうぞ♡」

 

「なら斬らせてもらうぜ……!!!」

 

「!!」

 

 そして今度はフーズ・フーがぬえに許可を取った上で刀を抜いた。フーズ・フーは剣士でもある。石は当然として鉄も簡単に斬ることが出来る。覇気使いの剣士であれば当然だが──

 

「!!? 斬れねェ……!!?」

 

「! おいおい……マジか……!!?」

 

「……!!」

 

 しかし、そのフーズ・フーの刀ですら石は完全には斬れなかった。

 刃は石の中心近くで止まってしまっている。斬れはした。だが、剣士としてこれを“斬れた”と言うことは出来ない。

 だがそれ以上に異常だ。覇気を込めた刀で石が斬れない筈がない。フーズ・フーの実力なら失敗する筈もない。6人はありえない事態に驚く。

 可能性があるとすれば、この石に何か秘密があるのだろう。そう頭に過ぎったタイミングで、ぬえはイタズラが成功した時のようにけらけらと笑った。

 

「あはははは!! 驚いたでしょ!! この島の物はみんなメチャクチャに硬いんだよ!!!」

 

「この島の石……? ぬえさん。それは……」

 

「ま、割れないこともないんだけどね。──こんな感じで……ね!!!」

 

「!!?」

 

 種明かしをしながらもまだピンとこない6人のためにぬえはその石を掴み上げて実践してみせる。中指を折り曲げ、親指に引っ掛けた上で溜めを作り、力を込めて中指で打撃する。この世の人間の誰もが知るその行為は子供がやる可愛らしい遊びのもの。

 だがぬえがやれば──人の命を奪うほどの破壊力を秘めた一撃となる。もはやそれは遊びでやるものではない。

 

()()()()……!!?」

 

「──と、まあ私の力なら別にこうしなくても粉々に出来るけど……今回はあんまり力を入れずにやってみたよ。……覇気は込めたけどね♡」

 

 と、ぬえはデコピンで粉々にしてみせた石の残骸を見せて言う。あまり力を込めてないとは言うが、確かにそうなのかもしれない。衝撃波は発生しなかった。あくまで普通のデコピンのように、軽い力で石を打ち抜き、石を割ってみせる。

 それでも普通の人間の力と違って、普通の石を割るくらいの力は込めていただろうが、それで出来るなら飛び六胞の2人が割れない筈がない。

 そこまでやってみせた上で、ぬえは言った。手に軽く高レベルの覇気を纏わせながら、

 

「つまり──あなた達にはこの武装色の覇気をもう一段階進化させて欲しいのよね♡」

 

「……!! それは確か……」

 

「そう、知ってる人は知ってるだろうけどね。武装色の覇気は扱いを極めれば……身体に流れる不必要な覇気を特定の場所に流し、あらゆるものを弾き、貫通させる鎧になる」

 

 武装色の覇気。世界でも限られた人物が使う高レベルの技をぬえは使ってみせ、説明する。

 そして存在だけならフーズ・フーやあるいは小紫なども知っていた。かつて自分達が征服して滅ぼしたワノ国の侍にはこの技術を得意とする侍が居たという。だが、自分達は習得するには至っていない覇気の高等技術。それをぬえは習得している。ぬえならばそれくらいは出来るのだろうという思いはありながらも、当のぬえはそれを使ってみせた指で料理を手に取り食べ始めながら得意気に語った。内容はぬえの考えと修行の必要性を説くものだ。

 

「いや~、これ結構強いんだよねぇ。この技を超極めてる相手だと私やカイドウにもダメージ入っちゃうしさ……で、私は考えたんだけど……今にして思い返してみれば昔“ロジャー”や“白ひげ”……後は“おでん”とかの強い人ってみんな覇気が極まってたんだよね」

 

 ぬえは昔を思い出しながら言う。海賊王ロジャーにそのライバル白ひげ。その両者の船に乗っていたワノ国の侍おでん。あるいは名前は出さなかったがかつての船長であるロックス。あるいは海軍のガープなど、強者が持つこの覇気こそが強者達を化け物足らしめている理由だった。自分やカイドウ、リンリンとは違う。達人の技を持つ強者達。

 今でこそ自分達は扱えるが、昔は彼らの強さが理解出来ないほどに不可解で……そして強かった。不死身の肉体を持つ自分達よりも。今もそれは変わらないとぬえは言う。

 

「“赤髪”なんかもそうだけどさ。肉体が純粋に持つ強度なんかは私やカイドウには足元にも及ばないのに、私達と対等に戦える強さを持ってる……!! その理由はやっぱり──“覇気”なのよね……!!!」

 

 ぬえは再び、今度は最近のことも思い出しながら言う。“赤髪のシャンクス”率いる赤髪海賊団も、シャンクスを筆頭に高レベルの覇気使いが集うアベレージの高い少数精鋭の海賊団だ。

 頂上戦争ではこちらが押していたが、それでも赤髪海賊団にはしてやられた。革命軍もドラゴンを筆頭に厄介ではあったが、結局殲滅に失敗した理由を思い返せば、一番の理由は“赤髪のシャンクス”。次いで“ドラゴン”。その次に世界最強の剣士“鷹の目のミホーク”だろう。防戦に徹する彼らを押しきれず、ドラゴンの能力で追跡が難しかった。おまけに戦場はドラゴンの風の能力に弱いシキに依存しており、島を浮かせるのを引き継ぐにも降ろすにもその余裕がなかった。

 そしてそれらを総合すると結局のところ理由は──“力”が足りないこと。これに尽きるのだと反省し、そしてその力はなんなのかと省みてみれば……それはやはり覇気であり、戦力の総合力がまだ足りないことだった。

 

「“見聞色”に“武装色”……そして“覇王色”。勿論、覇気だけが戦闘の全てじゃないけど、覇気が強ければそれだけ強い……“力”ある存在には違いないわ」

 

「……つまり……覇気をより鍛える為に修行をしろと?」

 

「ま、言ってしまえばそういうことだね」

 

 そしてだからこその覇気の修行。フーズ・フーの言葉にぬえが頷く。

 何年も戦力を強化するため、世界最強の軍隊を作るための活動に勤しんできた。兵力の増員。武器と兵器開発。悪魔の実の取り引き。勿論、自分達が強くなることも含めて、あらゆることをやってきた。

 その中で、次にやること。出来ることはやっておいた方がいいとぬえは思いついた。前々から行っていたこと──上位幹部の戦闘力の強化。それを今から新たに行うのだ。

 

「ウチは今や世界最強の海賊団だし、カイドウや私も最強。大看板や飛び六胞であるあなた達も含めて……真正面からの戦闘なら誰にも負けないと思ってるし、純粋なパワーとタフネスで私達に敵う連中なんていないと思ってる。──でも、覇気の強さや能力の拡張性とか劣るところは正直あるからね」

 

 それは自戒を、自分達も含めての話だ。ぬえとカイドウは己を鍛えて鍛えて鍛えてここまで昇りつめたし、客観的に見れば覇気の強さもシャンクスなどと比べて言うほど劣っているほどでもない僅かな差だが……それでも完全に勝ちきれないならまだ“弱い”ということだ。それをまずは認めなければならない。短所は出来れば補いたいのがやはり必然的な思考だ。

 

「まあウチは動物(ゾオン)系だらけだから能力の多彩さではリンリンのところとかには敵わないけど……覇気の強さなら少しでも補える筈だよね~~♡」

 

 そう、能力の性質上、動物(ゾオン)系の能力者はその能力で得た動物の特性以上の特殊な力は持たない。

 だが動物の力を得て純粋に肉体を強化出来るのが長所だ。幻獣種という例外はあるものの、それ以外は肉体での勝負。パワー、タフネス、スピードと身体能力を用いて相手を正面から叩き潰すのが動物(ゾオン)系の勝ちパターンである。

 だがその特性ゆえにジャイアントキリングを起こしにくいとも言える。絡め手は超人系(パラミシア)などに比べて不得手と言っていい。

 勿論本人の資質や工夫、努力などでそれもどうにか出来ないことはないが……やはり動物(ゾオン)系の能力者であり、カイドウやぬえを奉じる百獣海賊団の正義は“力”だ。力を持つ者が強い。力で相手を正面から叩き潰すのが王道であり、強さで勝ちを得ない相手などは見下される傾向が強い。

 が、それは良いのだ。別に。ぬえは思想や価値観の矯正をしたい訳ではない。そんなことはどうでもいい。これは単に、自分達のどうしようもない変える気もない短所の確認。やりたいのは純粋な強化。海賊団をより強く──強くなることしか頭にない。

 

「それで修行方法を考えてて、カイドウと相談してたんだけどさ。その時にヒートアップして喧嘩して……さすがにまた新鬼ヶ島とかナワバリ壊すのはヤバいかなーって適当な島に来たんだけど……その時見つけたのがこの島よ!!

 

「ああ……そういや2ヶ月前くらいになんか喧嘩が起きたと報告があったな……」

 

「ああ──おれはそれを聞いてすぐに逃げた」

 

「私は新鬼ヶ島に帰らなかったわ」

 

「おれは姉貴と一緒に別の島にいたから安心したな……」

 

「飛び六胞が誰も新鬼ヶ島にいなくて呆れてました」

 

「喧嘩しすぎだろ!! バカか!!」

 

『バカはお前だ!! ヤバいところカミつくな!!』

 

「あァ!!? 誰がバカだ!!!」

 

 ぬえが手を広げて島の紹介をするが、島を見つけた理由は飛び六胞の記憶にも新しい数ヶ月前の喧嘩だったらしい。思い返して真顔でその場から逃走したことを告白する飛び六胞の面々に呆れる小紫だが、うるティのカミつきには全員でツッコミを入れる。毎度ながらうるティは怖いもの知らず過ぎだった。ぬえが中々怒らないから良いものの、もしかしたら怒って暴れる可能性を考えると気が気じゃない。ぬえは今回も怒らずに頷いた。

 

「でもこの島は掘り出し物よ!! 一見普通の夏島で無人島だけど、ここの島はあらゆる物が硬くて丈夫でさ!! 石も木も地面も植物も硬いし、そこにいる動物や鳥、魚もこの島の物を食べてるせいか皆カチカチ!! さっきのでわかったと思うけど、普通の石もあなた達が軽く攻撃したくらいじゃ中々壊れないからね!!!」

 

「……つまり、この島の物で修行が出来るということですね」

 

「そういうことだね!! 普通のサバイバル生活なんてあなた達には楽勝でしょ? でもこの島なら普通に生活してるだけで修行になるし、住んでる獣だって結構強いからね!!! まあ今は私に怯えて全然近づいてこないけどさ♡」

 

「この島で生活して覇気の修行しろってことか……」

 

 ここまで聞いてようやく飛び六胞の面々がこの島に連れ去られた理由を理解する。強くなるためにここで生活をすれば良いのだとページワンが口に出して頷いた。ぬえも頷き、笑顔で補足をする。

 

「まあでも強制ではないからね!! やりたくないなら帰っても良いけど……ま、1つ言っておくとここにある料理は全部この島で採れた物を使ってキングが作ったんだよ♪」

 

「!! ……それは……」

 

 そしてその補足でフーズ・フーを始めとする6人は目を見開く。確かに、料理はこの島で採れたものを使っていると言っていた。そして、この料理はキングが作ったのも明らか。島に料理人はキングしかいない──キングは認めないが──つまり、この島にある硬い食材を、覇気を用いて料理したということ。

 なら──大看板は……いや、最低でもキングは武装色の上位技術を既に習得していると見て間違いない。

 その事実に大看板を狙う飛び六胞の面々には忌々しい思いと野心という名のやる気に湧き上がった。

 

「──わかった。この島で生活すりゃ良いんだな?」

 

「確かに、強くなれるってんなら願ってもねェことだ……!!」

 

「それがカイドウ様とぬえ様の為になるならやるしかないねェ」

 

「私とぺーたんなら余裕でごんす♡」

 

「ぺーたん言うなや!! ……だがやってやるぜ!!」

 

「……強くなれるなら方法や手段は問いません」

 

「決まりだね!! ──よーし、それじゃあこの“スプリント島”でのサバイバル修行生活頑張ってね!!! 私は一週間くらいこの島でバカンスしたらキングと一旦離れるけど、あなた達も重要な任務とかシノギとかの時は離れてもいいからね!! 連絡用の電伝虫と移動用の船はここに置いておくよ!! でも終わったらこの島に帰ってくること!! それとこの家にはそれ以外の時に近づかないこと!! 島の獣達はこの家には近づかないようになってるからね!!! 後、協力はしてもしなくてもどっちでもいいけど、殺し合いは禁止!! ──ってな感じでよろしく!!!

 

 ぬえの最後の説明を聞いて、飛び六胞の面々がそれぞれ頷きを入れて了承した。修行の間、他に任せることの出来ない任務や部下への連絡はどうするのかと思ったが、どうやらその問題もないらしい。

 

 かくして──飛び六胞の強化サバイバル生活は始まった。

 

「……さて、それではまず何から始めれば……」

 

「──まずは家でも作りましょうか♡ 木を切り倒してからまずは設計図を……」

 

「おいブラックマリア。おれが獣を捕まえてくる間に適当な小屋でいい。畜舎を建てておけ。それとうるティは畑でも作ってろ。家畜を育てるには何にせよ餌が必要だ」

 

「あァ!? 土を調べてからじゃないとダメに決まってんだろ!!! 作物を育てるのに適した土を探して、そこを耕すのが先だ!!!」

 

「いや待て姉貴!! 土を耕すにも何をするにもまずは農具が必要だし、おれはまず釣り竿を作って今日の飯を確保しなきゃならねェ!! まずは木を切り倒すぞ!!」

 

「しょうがねェ……おれが手伝ってやる。美味い酒を作るにはまず作物から育てねェとだからな……!! くくく……待ってろよ……美味い酒……!!」

 

「…………修行、なんですよね……?」

 

「あァ!!? 何言ってんだ小紫!! くっちゃべってねェでさっさと動け!! シバキ殺すぞ!!!」

 

「素人は黙ってろ……この能無しが……てめェはおれ達の命令を聞いて雑用でもこなしてろ」

 

「…………ああ……はい」

 

 小紫は仮面の下で死んだ目で頷いた。修行になるなら良いが、何日もこの5人と生活しなきゃならないのか、と。

 

 

 

 

 

 ──そして“飛び六胞”が去った後の砂浜。ぬえの別荘。

 

「行っちゃった。出来れば半年くらいで修行終わればいいなぁ……キングはどう思う?」

 

「戦力になるなら何でも」

 

「冷たいねー。でもま、飛び六胞なら大丈夫でしょ。この間拾った子達みたいにやられたりはしないと思うよ?」

 

「インペルダウンの獄卒獣か……覚醒した能力者なだけあってタフで使えるが、基礎戦闘力が心許ねェ。もっとも、雑兵としては十分だが……」

 

「結構かわいいと思うけどねぇ。脅したらすぐに従ってくれたしさ。……それとも、置いていった薄情なマゼランに愛想をつかしちゃったのかな? どうせなら殺って堂々と従えたかったね~♪」

 

「今やマゼランは新政府の大将の1人。あんたが負けるとは思えねェが、また1人で勝手に動かれると……」

 

「いやいや動かないよ!! そっちの信用はないなぁ……まったく……あ、着信。──もしもし? どうしたの?」

 

『た、たたた大変ですぬえさん!!!』

 

 海の家でまだ食事とお酒を楽しんでいたぬえは不意に鳴り響いた電伝虫を取り、用件を聞く。相手は新鬼ヶ島にいる部下だった。随分慌てている様子で、緊急の用件だと推測出来るが、ぬえは余裕を持って応対する。

 

「んー? 何があったの?」

 

『そ、それがですね……その……あの……ひ、非常に言いにくいんですが……』

 

「……勿体ぶるねー。いいからさっさと話しなよ」

 

『は、はははい!! 実は先程──』

 

 前置きでぬえの声色を窺うような部下の取り繕いに、ぬえが少しだけ低い声で催促すると相手がビビり、意を決して報告を行う。貧乏くじを引かされたのだろう。ぬえに対して、非常に言い難いことを部下は告げた。それは、

 

『う…………生まれました……』

 

「…………はあ!!?」

 

 ──その予定より早い予想外の報告に、ぬえは表情を一変させた。

 

 

 

 

 

 ──“新鬼ヶ島”。

 

「おいどうなってんだ!! 予定より随分と早ェじゃねェか!!」

 

「す、すみません!! ですが何分普通の子より不安定と言いますか、成長が早いようでして……」

 

「どうでもいい!! いいからあいつの場所に案内しろ!!! 部屋にいるのか!!?」

 

「は、はい!! 何分急のことでして、今は部屋のベッドで寝かせています!!」

 

 新世界に覇を唱える最強の海賊団。百獣海賊団の本拠地である旧ワノ国、新鬼ヶ島の屋敷は騒然としていた。

 部下が走り回り、汗を掻いてその報告を誰もが知る。トップであるカイドウの怒声が雷鳴の如く響き渡り、叱責された医療班は焦りながら次の命令をこなそうとする。

 原因は新鬼ヶ島中の海賊の皆が一様に理解していた。海賊活動に順調である百獣海賊団において、問題が起きるとすればそれはつまり──

 

「……父がここに来るようだな」

 

「はい。今しがた、部下にぬえ様への報告も行わせました。数日中には帰ってくるでしょうね……はぁ……」

 

「だ、大丈夫でやんすか? ムサシ様……」

 

「ふはは……大丈夫だお玉。どうせならそのぬえの驚きの声が聞きたかったところだな。父もその子を……お前を見たらどんな顔をするだろうな……なあ──()()()

 

 ──家族問題……それも、()()()()()の問題であった。




最悪の世代→これもなんとなくモルガンズが名付け親っぽいから変更せず。
キッド→能力的にバギー科学帝国特効なので活躍中。
ドレーク→任務成功。
狂死郎→任務失敗。
海の家→厳つい料理人一名。可愛いウェイトレスが水着にエプロンを着てお待ちしてます。
スプリント島→元ネタはアイドルが色々やる例の島。夏島。色々硬い。カイドウとぬえちゃんの喧嘩場所。
飛び六胞シノギ一覧
ページワン→漁業、用心棒
うるティ→農業、薬物
ブラックマリア→建築、風俗
ササキ→酒造、武器密輸
フーズ・フー→畜産、奴隷売買
小紫→(一応)鉱業。ジャックから引き継いだ。
キング→武装色の上位技術は既に使える。他の大看板も同様。硬いものを捌く。
獄卒獣→百獣海賊団に。
マゼラン→新政府の三大将の1人。
覇気→武装色のあれは妙に強い。戦桃丸の株が上がる。
修行?→素人は黙っとれ
最後の→オワリ。人名。
ぬえちゃん→水着エプロンでウェイトレスして強化計画考えて真面目で可愛い。なおバカンス中だったのに例の件でとんぼ返りする模様。

今回はこんなところで。遅れました。モンハ……いや、親戚の法事があってですね……おやすみしてました。
本誌はカイドウさんが新技でラグナロクをもじった引奈落(ラグならく)を使って、なんかうちのロックスと妙に関連しそうだったり、ぬえちゃんとも一緒に使えそうな合体技“覇海”が使われたりといろいろやばかったですね。本作に使えそうなネタ提供ありがたい。
次回はまた百獣杯についてのあれこれやら飛び六胞やら色々と。お楽しみに。

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