正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
デルタ島は3つの島によって構成されている島だ。
それぞれの島の間には海で出来た水路が流れ、船が往来している。各島への移動は渡し船や一部、橋などが掛けられそれによって行い、屋台や競技場、ビーチなど様々なレジャー施設へと繋がっている。
だが今はどの施設にいる人々も映像電伝虫の中継を見ていた。中継先は島の中央。水上に建てられた1つの小島にも匹敵する特設コロシアム──そこで行われている“百獣杯”だ。そこでは可愛らしい少女と巨漢のMCが声を響かせている。
『さあさあ!! 試合はどんどん進んでいくよ~~!! なぜかちょっと押してるからね!!』
『いや……そりゃああんたが歌ったから……』
『──何か言った?』
『よ~し野郎共!! ぬえさんの有り難い歌で気合いは入ったな!? どんどん試合を進めてけ~~~!!! 1回戦は一度に4試合だ!!! より注目されたきゃ勝ち進め!!!』
実況と解説席が併設された観客席の最上階。百獣海賊団のトップ達が集まるその場所で試合を実況、解説しているのは百獣海賊団の副総督である“妖獣のぬえ”と大看板“疫災のクイーン”だ。
いつも宴や祭りの時は圧巻のライブパフォーマンスやショー、トークで盛り上げる最強のアイドルとエンターテイナーの2人だ。会場にいる海賊達は大盛りあがり。百獣海賊団もそうでない者達も一様に強者達の本気の争いを見て歓声を上げる。
なお試合は4試合ずつ。巨大なコロシアムの舞台は今回のために特別に作られたもので、4つに分かれることが出来る。水上を浮かぶ大理石にも似たフィールドにはそれぞれ審判がいる。ユニフォームにも似た黒いスポーツシャツと短パンを着て首からホイッスルを掛けたぬえの分身が4人。全部がそれだ。試合の決着は全てぬえに委ねられている。
そんな中、また1つの試合が始まろうとしていた。
「──ふっ……おれの相手は新入りか……悪いことは言わない。棄権したまえ」
「ほう……随分な自信じゃな?」
舞台の1つで2人は対峙する。1人は顔に特徴的なパーツのある年寄りのような口調の男。
そして対するは──長い首を持つあの動物の能力者。ギフターズの真打ちに属する男であり、新入りである男に対して棄権を促す。男が目を鋭くするとキザったらしくキメ台詞を口にした。
『百獣海賊団“真打ち” ハムレット キリンのSMILE』
「当然だ。お前は“平凡”。だがおれは天に選ばれた“非凡”。お前はおれの踏み台になる運命なのさ!!!」
「なら試してみろ。わしには貴様に倒される運命は見えん」
「言われずともそうするさ!!! 見ろ!!! キリンの恐ろしきパワーを!!!」
試合開始のホイッスル。それと同時にハムレットは長い首に吊り下げられた状態で両手のサーベルを手に男に向かっていった。彼は二刀流の剣士。姿は間抜けでも真打ちに相応しい実力の持ち主だ。
だがしかし、男は動じず──ハムレットとは違った変型を行う。
「ほう……奇遇じゃな。わしの能力も似たようなものじゃ……!!!」
「!!? なっ……!! そんな……まさか……!!?」
「そのまさかだとしたらどうするつもりじゃ? ──“パスタマシン”」
男は自らの能力を解放し、姿を変える。動物系の能力。本物の悪魔の実の能力者である男が行った変型は、ハムレットに似たもの。だが確実に違うもの。
手足の長い人獣型のそれになった男は二振りの剣を持ち出してそれを振るう。元殺し屋である彼もまた──凄腕の剣士であった。
「“竜”……“逆鱗”!!!」
「キ……キリ~~~~~ン!!!」
『! おおっと、これはこれは~~~~!!?』
二刀の剣と斬撃を打ち出せる二本の足──合わせて四刀。
武装色の覇気を込めて放ったそれを食らい、ハムレットは珍妙な鳴き声を上げて吹き飛ぶ。勝負はそれだけで決していた。実況のぬえが気づいて驚いたような声を上げた。
『なんとなんと!! キリン勝負は一瞬で決着~~~!!! 人獣型の一撃がハムレットに直撃した~~~~!!!』
「……楽な相手じゃった。──ああ、そうじゃ。貴様に1つ、言いたいことがある。貴様の敗因についてじゃ──」
そして同時に男は舞台に落ちてきたハムレットに敗因を、そして彼なりに憤っていたことを告げた。彼のプライドとして、これだけは言っておかなければならないと──
「──そんなキリンはおらん」
「お前が言うんじゃねェよ!!! ──うおっ!?」
誰もが納得するツッコミに多くの人が頷く。首を押し込み、なぜか鼻が四角く長いキリンに似た謎の生物が言っていいことじゃない。
そしてそれを指摘した相手は隣の舞台にいた。試合中だが耐えられなかったのだろう。攻撃を食らってしまい、鼻の長いキリンはそれに気がついた。相手は元同僚である顔見知りだ。
「ん……なんじゃジャブラ。また突っかかってきおって。試合中じゃろう」
「てめェがボケたこと言うからだ狼牙!!! チッ……無駄な攻撃を食らっちまった……!!」
「戦闘中によそ見するからじゃ。──わしは先に戻っておるぞ」
「あ、おい!! クソ!! 先にやっちまいやがって……!!」
と、キリンの人獣型となっていた男は人型に戻り、舞台を後にする。先を越されてしまった隣の舞台の男は声を掛けるが、試合が終わらなければこれ以上文句を言うことは出来ない。試合相手もまた、その口を閉ざしに掛かった。
『百獣海賊団“真打ち” フォートリックス ニワトリのSMILE』
「静かにしろよ。強者は無口なものだ」
「てめェは存在がうるせェんだよ!! どいつもこいつも妙ちきりんな変型しやがって……!!」
「これは変型じゃない。おれの通常の形態だ。それすらも見抜けねェとは……だらしねェな」
「自慢気に言うことじゃねェよ!!! もうさっさと終わらせてやる!!!」
「それはおれも望むところだ」
身体が完全にニワトリと合体し、ニワトリの尻の方から顔が出ているキザな男、フォートリックスが薙刀を相手に突き刺そうとする。妙な相手と同僚に怒る男は本物の動物系の人獣型。狼男となって構えを取った。薙刀には防御もせずに力を入れる。
「“武装鉄塊拳法”!!」
「……!!」
薙刀が身体に当たって弾かれる。フォートリックスは言葉に出さずに驚いた。今のは覇気だけではない、別の技術も混ざっている。
しかもそれを用いながら相手は動いてみせた。薙刀が弾かれてがら空きになった身体に、狼男は拳を振るう。
「“天狼牙”!!!」
「コケ~~~~~!!!」
そして一撃で瞬殺。フォートリックスは吹き飛ばされ、狼男は雄叫びを上げる。試合終了のホイッスルと共にぬえの声が響いた。
『決まった~~~~~!!! “武装鉄塊拳法”!! 六式の技“鉄塊”を用いたまま動く“鉄塊拳法”に武装色の覇気で硬化した技かと思われますが、解説のクイーンはどう思うかな?』
『全部言われちゃ言うことねェんだが!!? 解説の仕事がねェ!!』
『ということです!! さすがは元政府の諜報員!! “
ぬえとクイーンがいつもの呼吸でやり取りを行い、観客席が沸き上がる。
一年前まであった政府の暗躍機関。存在しない筈の9番目のCP。百獣海賊団に入った3名の内2人の猛者の滅多に見れない戦闘を見れて会場は大盛りあがりだ。
だがしかし、2人の殺し屋はそれを無視して舞台を後にしていく。後から追いついた男が文句をつけて軽い言葉の応酬を行っていた。
『百獣海賊団“真打ち”元“CP9” カク 懸賞金2億4000万ベリー』
「なんじゃ。まだ文句があるのか。まったく……いい加減わしのキリン姿に文句をつけるのはやめんか。別に普通じゃろう」
『百獣海賊団“真打ち”元“CP9” ジャブラ 懸賞金2億2800万ベリー』
「どこがだ!! お前のおもしろキリン姿は別にいいがおれより先に勝ち進むんじゃねェよ!!」
「ウオオオオ~~~~!!!」
「カクさ~~~ん!!」
「ジャブラ~~~~!!」
「おい!! なんでおれが呼び捨てでお前がさん付けだ!?」
「どうでもいいじゃろ、そんなこと……下っぱに何と呼ばれようが」
「そうだがお前らだけってのが納得いかねェんだよ!!」
2人が控え室に戻りながら喧嘩をしている。それを見て、ぬえが何とはなしに背後を向いて言った。クイーンだけでなく、他の大看板達も並んでいるその場で、
「……なんか仲間内でああいう喧嘩する奴、割といるよね。キングとクイーンみたいなさ」
「このカスがしょうもねェからな!!」
「バカの相手は苦労する……こいつは肝心な時に使えねェからな」
「「あァ!!?」」
「毎度よくやるわね。貴方達飽きないの? カイドウさんとぬえさんの前でやめなさいよ」
「こいつがいつも一言多いからだ!! 変態のくせに……!!」
「こいつが無能のくせにいつもしゃしゃり出てくるからな……!!」
「何だとてめェ!!?」
「消し炭にしてやろうか……!!」
「あはは!! 見てる分には面白いよね!! ジャックはどう思う? 兄貴分達の喧嘩」
「! ……いや……」
「おいやめねェか、ぬえ。ジャックが困ってるだろう……お前らも祭りの日くらい喧嘩は我慢しやがれ」
「喧嘩するほど仲が良いって言うしね!! でも喧嘩は祭りの華とはいえ金色神楽の時くらいは仲良くするのも良いんじゃない?」
「「「「…………いやまァ」」」」
「あれ? 何この空気」
「どうした、急に静かになりやがって……」
最上位の観覧席が一瞬で静かになる。カイドウにぬえ、大看板が集まるそこではぬえの発言を切っ掛けにキングとクイーンがいつも通り喧嘩を始め、ジョーカーがそれを窘め、ジャックがいたたまれずに静かにして気を使っていたが、喧嘩を止めに口を出したカイドウとぬえの発言には全員が息を合わせた。彼らの心は1つ──「あんたら2人には言われたくないんだが……」というもの。宴の席だろうがなんだろうが何か切っ掛けがあれば些細なことで兄妹喧嘩を勃発させ、天災の如き被害を出す2人には大看板は苦労させられている。それに比べればキングとクイーンの張り合い染みた口喧嘩など些細なものだ。精々ジャックや部下達がいたたまれなくなるくらいのもの。実害が伴う2人とは比べるべくもない。それを遠回しに口にしたが、今日のぬえとカイドウは息もぴったりで同時に頭に疑問符を浮かべて首を傾げていた。喧嘩をするような空気ではなく、その種もないため安心だった。
そして最上階で百獣海賊団のトップ層達が賑やかにやり取りをしている間に──突然、会場が更に大きく盛り上がる。
「!」
「うお……!! 容赦ねェな……!!」
『! おおっと!! あれはあれは~~~~~!!?』
ぬえが再びマイクを口に、その試合の1つに注目をする。1番大きな画面を映す映像電伝虫を乗せたUFOを移動させ、その舞台の1つを大きく取り上げれば──画面はその多くが赤い色で占められた。
「──さて……さっきは何と言っていた? おれを血祭りにあげると言っていたように聞こえたが……もう一度言ってみろ。──誰を血祭りにあげるって?」
「グ……あァ゛……ぐゥ……も、もうやべでくれ……!! し……死んじばう……!!」
「……!! あのホールデムが……赤子のように……!!」
「どんだけ強ェんだよあの野郎!!」
観客席で百獣海賊団のウェイターズが戦慄する。今舞台の上で首を掴まれ、全身に傷を負って血祭りになっている男の名は“真打ち”ホールデム。
大看板ジャックの部下であり、新鬼ヶ島の博羅町を管理している男。本物の悪魔の実、ネコネコの実モデル“ライオン”の能力者であり、その強さは誰もが知るところだ。クイーンから支給された絡繰刀もある。
だがそのホールデムが……その男の前では赤子同然。首を捻るように凄惨かつ一方的な勝負を演じられた。──その男のことを、ぬえは大声で実況する。
『まさに血祭り!! 凄惨!! 弱肉強食~~~~!!! より強い者を決める舞台の上で獅子は新たな強者に取って代わられた!!! ──だけどそれは意外じゃない!!! あの男こそ政府に見切りをつけ、“闇の正義”を天職とする殺しのスペシャリスト!!! CP9史上最も強い殺人者!!! 今やメアリーズの真打ち!!! ジョーカーの腹心として活躍するその男の名は~~~!!!』
試合終了のホイッスルを審判役、分身のぬえが鳴らす。それを聞いてようやく男は手を離した。それが鳴らなければとどめを刺していたかもしれない──そう思わせるほどの冷徹な表情を浮かべる男の名をぬえが呼び、会場が湧き上がる。
『──元CP9最強の男!!! ロブ・ルッチ~~~~~~~~~!!!』
「ウオオオオオオオオオオ~~~~~~~~~!!!」
『百獣海賊団“真打ち”元“CP9” ロブ・ルッチ 懸賞金4億3000万ベリー』
「フン……命拾いしたな」
「ウ゛……(た、助かった……!!)」
「……チッ……ルッチの奴、目立つなって言ってた癖におれ達以上に目立ってやがるぜ」
「あの戦いっぷりじゃ仕方なかろう……ここじゃ“強さ”は何よりも称賛される」
司法の島エニエス・ロビーの不落神話を支え、政府の為に多くの非情な殺しを行ってきたCP9最強の男、ロブ・ルッチは観客の盛り上がりにも一切応えずに舞台を後にしようとする。一緒に百獣海賊団に入ったジャブラやカクもその凄惨な試合運びに内心、戦慄した──また強くなっている、と。
1年前に政府が倒れてからこの世界最強の海賊団で様々な任務を行ってきて、3人は覇気を身につけて強くなり、懸賞金も新政府に懸けられたが……やはりその中でもルッチだけは別格だった。
今やメアリーズを指揮する大看板ジョーカーにも信頼され、真打ちのメアリーズも含めた指揮の一部を任されているほどである。性質上、あまり表に出ず、ルッチもまた表に出たがる人物ではないため、その成長と強さを知らないホールデムには舐められていたが、この試合でおおよそ全ての者にルッチの強さは伝わっただろう。ルッチは髑髏のマークが襟元に刺繍された赤いスーツのポケットに手を入れ、肩に止まった鳩と共に舞台を後にしてカク達に追いつく。
「待たせたな」
「いや……つーかお前、殺したら負けだぞ。そこんところ分かってんのか!?」
「フン……審判を副総督が務めている以上、そんなことで落とされるとは思えないがな……」
「一理あるのう。とはいえ、万が一もあるぞ?」
「分かっている。きちんと手加減した」
ルッチ、カク、ジャブラと3人のCP9は連れ立って橋を渡って選手控え室へ戻ろうとする。背後の試合にチラリと目を向けながら、
「それにしても……まさか
「わ~はっはっは!!! おい女ァ!! おれも元CP9!!! その元長官!!! そしてぬえさんの直属の部下(使いっぱしりだが)!! 能力も得て目出度く真打ちとなり、おれの愛剣と合わせて能力は2つ!!! そんなおれ様と戦うのは怖ェだろう!!? 土下座して謝るならほどほどで許してやるぜ!!! “産まれてきてすいません”ってなァ!!!」
「っ……“リエール”……!!」
「あ──痛たたたたた!!? お、おいやめろ……!! おれ様を誰だと……クソ……いきなり卑怯だぞてめェ!! まだ剣も抜いてね──ぎゃああああ~~~!!! や、やべろ!! き、棄権だ!! 棄権するからやめろ!!!」
『だーめ♡ ほら、スパンダム頑張れー!! まだ1ダウンだよ!! 私の部下を名乗るなら後10回はダウンしてもっと会場を盛り上げてから負けてね♡ ほらほらまだ戦えるよー!!!』
「そ、そんな……ぎゃあああああ~~~!!! いや待て!! せめて解放してから……あぶぶぶぶっ!!?」
「何をやっとるんだあの男は……」
「……一応待って話でもしてみるか?」
「──放っておけ。構う必要はない」
背後では舞台の1つで元CP9長官でありなぜか“真打ち”となっているスパンダムが仮面を付けた真打ちの女“ドゥラーク”を相手にして、植物で執拗にビンタをされたり、手足を締め付けられたり、舞台に叩きつけられたりして苦しんでいた。それを見てぬえや会場が笑い盛り上がっているのだが、ルッチは無視をする。カクとジャブラが相変わらずの元上官を見て呆れているが、別に接したい相手でもないため今度こそ会場を後にしようと前を向いた──
「──やるじゃねェか」
「!!?」
──その瞬間、ルッチ達の横を長身の男が横切る。すれ違い様に声を掛けた相手にルッチ達は背後に気を取られていたとはいえ気づけず、目を見開いた。相手は既にこちらの背後を歩いている。自分達よりも身長が1メートル以上も高い長身で、胸に刺青を入れた赤いスーツ。鬼を思わせる赤いヘルメットを被って顔を隠している男だ。
「さすがは政府の元殺し屋だ。よく鍛えられてる……どうだ? おれの部下にならねェか? 歓迎するぜ──ロブ・ルッチ」
「……断る。お前の部下になる必要性を感じない」
「ハッ……せっかく群れに加えてやろうと思ったのによ。そしたら少しは手心を加えてやったんだが……だったらしょうがねェな」
ニヤリ、と去り際にルッチに言葉を送り、煙草を咥えた口で笑みを浮かべるその男は圧倒的な自信を覗かせていた。不遜とも言える口ぶりだが、それもその筈。彼はこの“百獣杯”に参加する猛者達の中でも……優勝候補とされている男。
「……試合を見ていかんのか?」
「……必要ない。見ても
カクがルッチに試合を見ていかないのかと声を掛けている間に、会場では男が現れたことで歓声が上がり、ぬえの実況と共に試合が始まる。会場がズシンと大きく揺れた。
「バホホホホ!!! 行けェワダツミ~~~!!! 優勝候補だが飛び六胞だギャ知らねェがぶっ潰せ!!!」
「やってやるんら~~~!!! デッケン船長~~~~!!!」
「……随分とデカいな。ナンバーズ以上……魚人か」
「その通りら!!! おれはトラフグの魚人!!! チビな人間なろ相手にならん!!!」
「──声もでけェ……耳障りだ」
「ん……? ──!!!?」
「……え……!!?」
相手は舞台の殆どを占めるほどの巨体だった。傘下に入り、真打ちとなった海賊バンダー・デッケンの部下であるトラフグの魚人、大入道ワダツミは男を踏み潰そうとして見失い──次の瞬間には多くの海賊達が気づかない間に、決着がついていた。
「!!!」
「──だが、仕留めやすいのは助かる……ウォーミングアップにはちょうどよかったぜ……!!!」
「!!? わ、ワダツミ~~~~!!?」
一瞬。背後に通り抜けた男は手に持っていた刀を抜き、ワダツミの巨体の前面に斬撃を浴びせていた。
バンダー・デッケンが頭を抱えて叫ぶ中、観客達も唖然とした。元々が優勝候補。大看板に最も近いと言われる男だが……まさか一瞬で決着がつくのかと。
修行に出ていたと聞いているが、一体どこまで強くなっているのか。その実力はまだ分からないが……しかし、誰もがその成長を理解し、そしてややあって熱狂する。
『一閃!!! そして試合終了~~~~!!! 古代巨人族にも匹敵する巨体!! 大入道ワダツミを一瞬で斬り伏せたのはこの半年間修行に出ていた今大会の優勝候補の1人!!』
『……ムハハ……!! また随分と生意気になってやがる……!!!』
ぬえが声を張り上げ、クイーンが不敵な笑みを浮かべた。
野心を覗かせるその男の勝利はぬえや大看板にとっても当然の勝利だ。その男の実力。そして半年間での成長を考えればこのくらいはやって当然。
そして大看板に挑もうというのならこれくらい、出来てもらわないと話にならない。──その男は実力主義のこの百獣海賊団で最強の真打ちに数えられる6人の内の1人。
『勝者は…………百獣海賊団“飛び六胞”!!! フーズ・フ~~~~~~~~~~~!!!』
「ウオオオオオオオオオ~~~~~~~~!!!」
「さて、次はお前の番だ……ロブ・ルッチ……!! おれの部下になるのを断ったんだ……生憎と、今おれは血に飢えててな……死んでも文句は言えねェぞ……!!!」
「……!! 面白い……!!」
──フーズ・フー。飛び六胞で1、2を争う実力者。
そして次のロブ・ルッチの相手であり……彼らは互いに次の“獲物”を見定めて鋭い牙を覗かせた。狩るか狩られるか──勝者はただ1人だけだ。
──デルタ島、屋台村。
多くの出店が建ち並び、料理や酒を手にしてモニターを眺め見るのは百獣海賊団や招かれた者達も含めた多くの海賊達。
だがその中には企みを持って潜入している者も存在した。建物の陰でモニターを見上げていたのは最悪の世代に数えられる海賊達。
「……なるほど。あれに出ているのが幹部共か……確かに、面倒な幹部が大会に集中してるならまたとない機会だな……!!」
「キッド。そろそろ行くぞ。アプー達が地下で待ってる」
「ああ。確か、アプーの話だとこの島の地下はあのコロシアムの中枢に繋がってる。呑気に酒を飲んで試合を観戦してる連中に奇襲を仕掛けるにはうってつけだ……!!!」
“
既にアプーとホーキンスは地下で合流しているらしく、後はキッド達が向かうのみ。3つの海賊団の船員の数は4桁にもなるが、その殆どは地上でことが起きる少し前に騒ぎを起こして連中の目をそこに釘付けにするのが狙いだ。主力は全員でカイドウとぬえを強襲する。そこまで行けば──後はキッド達の実力次第だ。他の真打ちが戦闘後の疲労や怪我で万全でない中、大看板を部下に足止めさせてトップとやり合う。
それを想像してキッドは顔を凶相に歪めた。海賊王になるためには避けて通れない相手。その相手を討ち取り、首を船首にでも飾り付けられればどれだけ気分が良いだろうかと。
「──さあ行くぞキラー。おれは今日……“四皇”の首を取る……!!!」
「──ああ。ここまで来たんだ。やってやろう……!!!」
覚悟はとうに決まっている。2人はモニターをちらりと見て、そこに映る同世代の海賊を見かけながらもそれには言及せず足を進めた。内心のみで言う──吠え面かかせてやる、と。
だが、
「……今の気配は……」
「? どうかしましたか?」
そんなキッド達に気づいた者が偶然にも──2組いた。1組の内、1人はそれを見ることなく気づき、部下と思われる男にどうかしたのかと問われる。問われたのは杖をついた男で、比較的大柄な男だ。彼は目を閉じたまま気配の方向をしばらく見ていたが、ややあって踵を返して部下の質問に答える。
「……いや、いいでしょう……今日は偵察……下手な行動は厳禁だ」
「? え、ええ。勿論。さすがに全戦力が集まってるこの場所で仕掛けるバカはいませんよ。命知らずにもほどがあります……!! 今こうしてるだけでも生きた心地がしない……!!」
「……その命知らずなバカが大勢いるようで……」
「え?」
「いや、何でもありやせん──さて……世界最強の海賊団のお手並み……拝見させてもらいやしょうか……それと、何だ。あの祭り屋が何を企んでいるかも……」
盲目の男はモニターを見ず、島の中心や周囲から感じる気配を見聞きして独り言のように呟き、そして思う──何も起こらなければいいが、それは恐らく叶わないだろうと。
そしてもう1組、別の路地で葉巻を咥えた男が乾いた笑い声を漏らす。
「クハハハハ……!! どうやらおれ達以外にもこの祭りで良からぬことを考えている奴らがいるらしい……面白ェことになってきたな……!!」
「消しますか?」
「いや、いい……相手にするには少々面倒だ。騒ぎを起こすのも好ましくねェ。──それに周りを利用すりゃこっちも動きやすくなる。精々手伝ってもらうとするさ……!!!」
「了解」
左手の義手のフックを残った右手で撫で擦り、男が砂塵に塗れて消えると傍らの男もまた短い返答と共に路地に消えていった。
彼らもまた、野心を秘めた猛者達。賑やかな祭りの音色に隠れて幾つかの企みが進行し、にわかにも不穏な気配を醸し出していた。
『さあ!! 残りの試合はまたまた大勝負!!! ベスト16を決める最後の試合は先程勝ち進んだドレークと同じ!! “最悪の世代”の筆頭が登場!!!』
『対戦相手はドレスローザのコロシアムチャンピオン!! Mr.ディアマンテだ!!! これはまた面白い勝負になるぜ~~~~!!!』
「おお……!!」
──“百獣杯”の試合はこれまで、何の問題もなく進んでいた。
大会はますます盛り上がりを見せ、観客は熱狂している。つい先程からベスト16を決める試合が始まり、シードを得ている“飛び六胞”などの実力者も登場した。そうして勝ち進んだ百獣海賊団の猛者中の猛者達は試合の観覧が可能な控え室で戦意を高めていた。誰もが分かっている、ここからが本当の勝負なのだと。
そしてそれは入場ゲートから現れるその青年もまた理解していた。因縁のある相手を見定め、彼はぬえの口上と共に刀を担いで現れる。
『“
「! フッフッフッ……!! 出てきたな……懐かしい顔だ……!!!」
そしてVIPゲストが集まる観覧席ではドフラミンゴがその男を見てニヤついた笑みを浮かべる。ドフラミンゴにとって、何年も待ち望んだ相手だ。
だが試合会場に現れるその彼にとっては因縁の相手。──しかしそれをおくびにも出さず、彼は無言のまま対戦相手のディアマンテを真っ直ぐに見据えた。ディアマンテもまた彼を見てニヤつく。まさか再会がこんな形で叶うとは思ってもみなかったと。
だが彼らの因縁もまた、ぬえは無視する。マイクとカメラを通して会場に、世界に向かって高らかに可愛い部下であるその男の紹介をした。
『──“死の外科医”!!! トラファルガー・ロ~~~~~~~~!!!』
「ウオオオオオオオオオ~~~~~~~~!!!」
『“最悪の世代”百獣海賊団“真打ち” トラファルガー・ロー 懸賞金4億8000万ベリー』
「──おれの相手はお前か……ディアマンテ」
「ウハハハ……会いたかったぜ、ロー……!! 久し振りだな……!!!」
──トラファルガー・ローはニヤつき続けるディアマンテに軽く眉間にシワを寄せるだけで反応した。因縁の相手、しかし、ローにとって真に因縁があるのは利用されてるだけのこんな小物じゃない。
「フッフッフッフッフッ!!! 実力の差を見せつけてやれ……
「……! (ドフラミンゴ……!!)」
上の観覧席にいるドフラミンゴを見上げれば、そのつもりがなくても表情は変わる。ローにとっての全てだ。これまでの行動も今ここにいるのも全てはそのため──決着をつけるためだった。
──そしてまた1つ、因縁とも言える戦いが迫っていた。
「次の試合に勝てばベスト8……このおれと対戦だぜ、狂死郎!!!」
「……お前は良いのか? おれを応援して。“飛び六胞”の席を2人で取り合うことになってしまうが……」
「ああ、問題ねェ。ベスト8まで残れば飛び六胞になれる可能性はまだあるんだ。おれとお前が勝ち上がれば2人とも飛び六胞にはなれるぜ。──もっとも、幾ら兄弟分でも勝ちを譲る気はねェからな……!!!」
「……そうか」
選手用の控え室の1つ。1人の侍は友人という関係の男に肩を叩かれ、激励を受けていた。
だが侍は心ここにあらずと言った様子。今まで一度もボロを出さずに完璧な侠客を演じてきた男が、今は険しい顔つきで手を震わせていた。その様を見てさすがに友人は気づく。友人もまた強者なのだ。それも百獣海賊団の飛び六胞の1人──ササキともなればその機微に気づかない筈がない。
「? どうした。柄にもなく緊張してんのか?」
「……ああ……まあ、な」
「わはは、また昼行灯か? 心配ねェよ!! あいつはタフだがおれ達の間じゃ1番格下だ。お前なら勝てない相手じゃねェ。能力と怒った時の覇気にだけ気をつけな。特にあの“閻魔”とかいう刀は──」
「……知っている。あの……光月おでんの刀だろう」
「──まァそりゃ知ってるか。あの刀だけは脅威だぜ。何せカイドウさんの肉体に傷を付けた業物だ……!!」
ササキは友人に善意でアドバイスを送る。彼にとっては対戦相手の現飛び六胞より兄弟分とも言える仲の男が勝ってくれた方が良い。2人で争うことになるが、殺しは厳禁の試合だ。負ける気はないが、どっちが勝っても恨みはない──と、ササキは本気でそう思っている。自分が勝つという自信はあれど、もし負けたのならそれも仕方ない。自分が弱かったのが悪いだけだ。親友だろうが仇だろうが関係ない。それが“力”を信奉する百獣の掟だ。友人の男もそれは分かっているだろうと。
「まあもっとも使い手があのガキじゃ宝の持ち腐れだがな……!!!」
「っ……!!」
だが……そのササキの思いとは裏腹に、男は歯を食いしばり、握った拳から血が染み出すほどに葛藤していた。いつもは受け流せるササキの発言に反応してしまうほどには脆くなっている。
だが運命は残酷で、不可避だ。既に退路は断たれている。
『棄権? ──あはははは!! いやいや、そんなの許す訳ないでしょ? 盛り上がりに欠けちゃうじゃない』
『……! ですが拙者にはまだ分不相応な……!!』
『うーん、どうしてもやらないなら……そうね……あなたの元部下を全員舞台の上で公開処刑してあげる。
『っ……!!』
──試合前。ぬえに辞退を申し出ようとしたが、その選択肢は即座に潰された。加えて、
『本気でやりなさい』
『そんなこと……出来る筈が……!!』
『貴方に勝てないようでは、この先の私に未来などないも同然。……再度言います──本気でやりなさい。さもなくば私はまた“身内”をこの手に掛けることになります』
『……!!』
──試合前。誰かに見聞きされる危険を冒してでも会いに行き、しかしそれもまた許されなかった。
今の状況はまさしく地獄。進むも退くも出血を伴う。
退けば部下を失う。何年も一緒に、どれだけ掛かるか分からない道についてきてくれた数少ない同志を。
「……あれがあんたの最近のイチオシか? “妖獣のぬえ”」
「ええ、
「ほう……だが、お前さんの目は
「あ、わかる? いや~10年くらい前までは成長も凄くて期待出来たんだけどね。ここ数年は伸びが悪くてさ。だから今回の大会で、もし結果が出なかったら──」
……そして進めば──
「──
──どちらかの道が
その選択肢を、決断を……狂死郎こと傳ジローは決めることが出来ないまま試合へ向かう。対戦相手は自らの主君である小紫こと……日和だ。
そしてその様を見下ろし、獣達は嘲笑っていた。復讐の修羅たる彼らは気づかない。どちらを選び、どう転んでも──その先には“地獄”という名の終わりしかないことを。
カク→不思議キリンパワー+覇気
ジャブラ→鉄塊拳法に覇気合わせて強い
ルッチ→1番出世してる。次の試合はフーズ・フー
ホールデム→地味に本物の能力者に。しかもライオン。強さは並。
スパンダム→地味に真打ち(最弱)。能力者になりました。剣も合わせてギフターズよりは辛うじて強い。ぬえの玩具。地味に因縁ある相手にやられる。
ワダツミ→デッケン一味は無事吸収されました。
大看板→麦わらの一味で例えるとキング(ゾロ)、クイーン(サンジ)、ジョーカー(ロビン)、ジャック(チョッパー)みたいな立ち位置の賑やか災害ズ。
喧嘩やめとけ→お前が言うな。
最悪の世代同盟→地下に行く。地下に何があるのかは察し。
盲目の人→王下七武海はもう要らねェ……!!(もうない)
フックの人→やってきたワニ!
ロー→百獣海賊団に。目的はお察し。VSディアマンテ
ササキ→狂死郎に勝ってほしい
狂死郎→進むも地獄。引くも地獄。
日和→雲行き怪しい。
フェスタ→次回のタイトル。黒幕?
ぬえちゃん→今回はMCとして活躍。かわいい。分身の新衣装は審判。
今回はこんなところで。色々出てきてまた登場人物が多いですが、短くまとめれるように削れるところは削っていきます。後半が本番なので。
次回は試合。小紫と狂死郎が主軸かな? そしてそろそろ奴が出そう。雲行き怪しいね。次回をお楽しみに。
感想、評価、良ければお待ちしております。