正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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鬼の跡目×赤の伯爵

 ──デルタ島某所。

 

「──ここがデルタ島ね。あの百獣海賊団がお祭りを開催してる場所!!」

 

「さて、来たはいいが……本当に大丈夫なんだろうな? バレたら死ぬぞ」

 

 地下に通じる路地裏の一角。鏡のある建物の部屋に一組の男女が突然現れていた。

 女性の方は周囲をキョロキョロと見回してニヤニヤと興味深そうにしているが、男の方は葉巻を咥えながら無愛想な表情を崩さない。島中から感じる強者達の気配に鏡の方へと話しかける。すると不思議と返事が返ってきた。

 

「──ゼハハハハ……ああ、直に事が起きるようだぜ? 大事にしなけりゃ問題ねェ。それにもし見つかってもお前らの能力なら逃げられるだろ?」

 

「ムルンフッフッフ……!! まァねェ」

 

「甘く見積もりすぎなんだよおめェら。百獣海賊団を甘く見るんじゃねェ。ぬえに見つかったら十中八九死ぬぞ」

 

「まァ気をつけな。上手くいかなかったらすぐ帰ってこい!! 命までは懸ける必要はねェ!!」

 

「既に命懸けだけどねェ。でも私はせっかくここまで来たんだからぬえさんのアイドルグッズが欲しいわ!!」

 

「助けねェぞ? 命が危なくなったらおれァ1人で逃げる」

 

「つれないわねェ」

 

「ゼハハハ!! 仲良くやりな!! 幸運を祈ってるぜ!!!」

 

 鏡の方から聞こえていた声はそれを最後に聞こえなくなる。2人の男女は取り残され、1人は()()()()。1人は姿()()()()()()()()()騒乱が起きている街の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 コロシアムでぬえがササキ対小紫の試合開始の宣言を差し止める少し前──港では暴れた海賊達が1人の女海賊の手によって鎮圧されていた。

 

「さすがはジョーカー様!!」

 

「ウチが誇る“大看板”の1人だ!! そこいらの海賊が敵うワケがねェ!!」

 

「ジョーカー様。暴れていた海賊達はこれで最後です」

 

「──あらそう。張り合いがなかったわね」

 

 百獣海賊団の海賊達は血に染まった日傘を差して、干乾びた暴徒達の上に立つジョーカーに称賛を浴びせる。メアリーズの1人がジョーカーに近づき報告を行うとジョーカーは息を吐いて残念がった。──思ったよりも収穫がなかったと。

 

「もう終わりならコロシアムに戻ろうかしら。あるいはジャックの方を手伝うのもアリだけど……もう終わってる可能性の方が高そうね」

 

「はい。少々お待ちを。すぐにジャック様の部隊のメアリーズと情報の共有を……、!!?」

 

「? どうしたの?」

 

 そしてジョーカーは部下の報告を待とうとした。メアリーズは百獣海賊団の一部隊だが、情報の共有のために各部隊に最低1人は必ずいる。メアリーズだからといってジョーカーだけの部下とは限らない。元々誰かの部下だがメアリーズとなっている者もいる。情報を集めて素早く共有するのにそれは必須だ。

 ゆえに地下へ向かったジャックの部隊とも交信は容易。電伝虫を使うよりも瞬間的には早いし面倒もない。だからジョーカーは部下のメアリーズの報告を待ったのだが……そこでメアリーズに異変が起きる。

 

『──こちらデルタ島“屋台村”!! 海賊達が暴れています!! ジョーカー様へ報告を!!!』

 

『──こちらデルタ島“ビーチ”!! 同じく海賊が突然暴れ出しました!! その数多数!! 抑えきれません!! 至急援軍を!!!』

 

『──こちら広場!! 各種コンテスト会場!! なぜか警備を任せていた海賊達が暴動を……!!』

 

『ハァ……ハァ……こヂら地下……!! ジャック様の……ゲホッ……!!』

 

「……!!? これは……」

 

 メアリーズが顔につけている情報共有用の目が描かれた紙から複数の声が連続する。

 そしてそのどれもが緊急性の高い切羽詰まった様子の声だった。紙からは向こうの状況──暴れる海賊達の吠える声や対応する百獣海賊団の戦闘員の声が聞こえる。

 それらを一度に聞いたこの場のメアリーズ。及びに戦闘員は混乱し、動揺した。一斉に、示し合わせたように海賊達が暴れ始めた。何が起こっているのかと。

 

「じょ、ジョーカー様……!! 各地から緊急の報告が多数……!! 各地で暴動が起きているようです……!!!」

 

「……聞けばわかるわ……!! ……これはやはり……」

 

 だがジョーカーは驚きながらも冷静だ。何が起きているのか。それは予想がつく。

 海賊達が複数、示し合わせたように暴れて襲撃を始めたのなら、この状況は誰かが計画していたものであり、百獣海賊団が関与しない警備まで暴れ始めたともなれば首謀者は明らかだ。やることもはっきりしている。この状況は既に予測していた。

 

「ジョーカー様!! 如何しましょう!?」

 

「……慌てることはないわ。すぐに襲撃に加わってる主力をリストアップして報告しなさい」

 

「はい!! 今のところ確認出来る戦力は“八宝水軍”に“ワールド海賊団”……!! 警備に雇われた新世界の海賊達が多数存在する模様!! すぐにリストアップします!!」

 

「お願いね」

 

「はっ!! ジョーカー様はどちらに!?」

 

「私は一度コロシアムに戻るわ。すぐに連絡して部隊を編成しなくちゃね……!!」

 

 部下のメアリーズの報告を聞くと、返事を待たずにジョーカーは動き出す。部下へ偵察業務を任せると一足で建物の屋根まで跳躍し、そのまま空を駆けてコロシアムへと急いだ。予想していたとはいえ気の抜けない事態。ジョーカーは電伝虫を懐から取り出し、コロシアムへと繋ぐ──敵の狙いは当然“カイドウ”か“ぬえ”の首だろうと予測して。

 

 

 

 

 

 ──デルタ島“コロシアム”。

 

「……? 一体どうしたんだ、ぬえさん」

 

「というかなんかさっきより街が騒がしくねェか?」

 

「祭りではしゃいでるだけだろ?」

 

 “百獣杯”も佳境。ベスト8、ササキVS小紫の試合。狂死郎が“赤鞘九人男”の1人だと露見し、その粛清のショーと試合が同時に始まろうというここ1番の盛り上がりの瞬間に、ぬえが声を止めたことを百獣海賊団の多くは訝しむ。

 中には街の方が騒がしいと言う者もいたが、今は年に一度の大宴会。それも初めての外部開催であるお祭りだ。騒がしくてもそれは不自然ではないし、多少暴れる者がいても海賊だ。気づける者はいない。

 事実、観客のギフターズ以下だけでなくカイドウや大看板のキングやクイーンもここに至るまで何が起きたのかを正確に把握してはいなかった。──もっとも、いつかは何かが起きるかもしれないと頭の隅に入れてはいたが。

 

「?」

 

「なんだ?」

 

「おいぬえ!! どうしたってんだ!!?」

 

 キングもクイーンもまだ頭に疑問符を浮かべる。ぬえの様子がおかしいことにカイドウが上座から立ち上がって声を出した。

 だがその背後で──既に事態は動き出している。

 

「──ああ……もう待てねェらしい……始めていいぞ……!!!」

 

 この祭りの企画者──ブエナ・フェスタ。彼の一声は子電伝虫により伝わるべき相手に伝わっている。

 直後。

 

「!!!?」

 

「わああああ~~~~!!?」

 

「何だァ!!?」

 

「コロシアムの一角が崩れたぞ!!」

 

 破砕音。壁が崩れ、観客の一部が吹き飛ばされ、悲鳴と驚く声がコロシアム内に鳴り響く。

 

「キャ──!! ぺーたん!! 何が起こったでごんすか!?」

 

「落ち着け姉貴!! ぐえっ!!? 首掴むな!!」

 

「何だってんだ!!?」

 

「……く……!!」

 

「……! おい、待ちやがれ狂死郎!!!」

 

 何が起きたのか、誰もがまだ気づかない。真打ちに飛び六胞、大看板、カイドウでさえも。

 だがその瞬間、ただ1人だけは正しくその事態の中心となる襲撃者を見ていた。

 

「──あはははは♡ 来たね……!!!」

 

「──カハハハハ!!! さあ勝負だ……!!! 貰うぞ……世界最強の首!!!」

 

 壊れたコロシアムの一角。土煙が舞うその中から乾いた笑い声と共に大男が空を駆けて現れるその瞬間を──ぬえだけは正確に捉えていた。

 その浅黒い肌と見覚えのある風貌。筋骨隆々としたその男はぬえだけでなく、目の当たりにした瞬間に誰もが気づく。キングやクイーンがその名と異名を目を見開いて叫ぶ。

 

「ダグラス・バレット!!?」

 

「え~~~!!? “鬼の跡目”!!? マジかァ!!?」

 

 ──元ロジャー海賊団“鬼の跡目”ダグラス・バレット。大海賊時代以前を知る者なら誰もが知る伝説の兵士が好戦的な笑みを向けていた。

 その視線の先。真っ直ぐに空中を、その驚くべき脚力で高速で駆けて一直線に向かうのは観覧席の最上階。百獣海賊団を束ねる者の場所。

 

 ──目的は“百獣のカイドウ”の首。最強生物を殺して世界最強になること。

 

 その目的を果たすため、バレットは一目散にカイドウ目掛けて吶喊する。

 だが、

 

「──妬けちゃうじゃない♡ 私は無視させないわよ……!!!」

 

「!!」

 

 一連の流れの中でぬえだけは鋭い見聞色の覇気でバレットの奇襲を予見していた。

 その強い気配を感じ取ってからその広大な見聞色の感知も全てバレットへ向ける。島中が騒然とし始めているのは感じているし、近くにいた傅ジローが自分を離れて逃走を試みていたがそれらも全て意識の外へ追いやった。

 バレットもすぐに気づいた。元より無視していた訳ではない。最優先がカイドウというだけでぬえもバレットの殺害対象であることには違いない。

 ぬえがその足に力を入れ、そのすさまじい脚力で一直線にバレットへと跳躍する。カイドウとバレットの間。その直線上へ割り込むようにその瞳を獣の目に変化させ、バレットの禍々しい覇気と同等以上の恐々とした覇気を立ち昇らせる。赤色と青色の6つの羽を広げ、UFOの照準をバレットに向けて戦闘態勢を取った。

 その物々しさにバレットも迎え撃とうと好戦的な目を向けた。どちらが先でも構わない。先にぬえと戦るための判断を済ませようとした。

 

「──相変わらず目の前のものに集中すると周りが見えないようだな、ぬえ」

 

「!!? あんたは……!!」

 

「貴様を殺すのはこの我だ……!!!」

 

「!!!」

 

 だが刹那。バレットとぬえが激突する前にぬえの横から別の影が横入りした。細長い長身の老人。ぬえに声を掛けたその男はバレットだけを見ていたぬえを覇気を込めて思い切り蹴りつける。

 ぬえの見聞色の覇気はその男に及ばずに攻撃はほぼ無防備に直撃した。コロシアムの外へ、街の方に向かって吹き飛び建物を幾つか貫通する。それを見てカイドウや百獣海賊団の船員達が反応した。

 

「ぬえ!!! てめェ……“孤高のレッド”か!!?」

 

「貴様も久しぶりだな、カイドウ……だが貴様の相手は()()我ではない。目の前に集中することだ」

 

「!!」

 

「おい、ぬえさんが吹き飛ばされたぞ!!!」

 

「ありえねェだろ!!? 何者だあの爺さん!!!」

 

「ぬえさ~~~~ん!!!」

 

「カハハハハハハ!!! カイドウもぬえもおれの獲物だ……!!!」

 

 百獣海賊団の戦闘員が驚き、ぬえを吹き飛ばした人物──“赤の伯爵”、“孤高のレッド”の異名を持つロジャー時代の大海賊、パトリック・レッドフィールドがぬえの吹き飛んだ方向へ追いかけるように消えていく。

 しかしその間にバレットがカイドウに肉薄しようとしていた。──が、今度は少し時間を掛けたことで状況に対応する者が現れ始める。

 

「そう簡単に通すと思うか……!!?」

 

「!」

 

 観覧席からバレットを超える巨漢が飛び出し、その姿を巨大な翼竜──プテラノドンへと姿を変える。

 そうしてカイドウを襲撃しようとするバレットを迎え撃ったのは百獣海賊団大看板“火災のキング”だ。懸賞金は20億近い怪物。突然の事態でも僅かな時間で状況を把握して襲撃者を始末しようと動いた。

 

「カハハ!! 大看板か……悪くねェ……!!」

 

 バレットもまたそれに気づき、不敵な笑みを浮かべる。バレットにとっても相手にするには不足ない。十分に楽しめる相手だ。

 だが、

 

「──だが足りねェ!!!」

 

「!!!」

 

 否定する言葉を吐き、裏拳で弾き返すように──バレットはキングを思い切り殴りつける。

 それを食らったキングは客席へと激突し、それを見た海賊達が騒然とした。

 

「キングさん!!」

 

「おいやべェぞ!!」

 

「あの野郎!! まさかカイドウさんを!!?」

 

「……!!」

 

 破壊の跡の中心でキングは当然、起き上がるが不意を突かれたことは否めない。相手の力量が自分を吹き飛ばすほどに高かったことに驚く。

 そして万が一はありえないとしても、非常事態が始まったと認識した。ダグラス・バレットにパトリック・レッドフィールドを含む海賊達。その襲撃。

 

「待ちやがれ!! てめェ!!!」

 

「カハハハハハハ!!!」

 

「……!!」

 

 怒り、止めようとするクイーンの脇をすり抜けて、バレットはカイドウの目の前まで到達する。カイドウは肉薄するバレットを睨み、防御態勢は取らなかった。バレットが覇気を込めて硬化した腕を思い切り振りかぶり──

 

「!!!」

 

「カイドウ様ァ~~~~~!!!」

 

「野郎共!! 武器を取れ!! 襲撃だ!!!」

 

 ──カイドウは殴り飛ばされる。

 背後の壁を破壊し、先程のぬえのように突き抜けて街へと吹き飛んだその瞬間……“熱狂”は始まる。

 

「さあ……ぬえ……カイドウ……貴様達の大好きな“殺し合い”だ……!!! 受けて貰うぞ……!!!」

 

「“世界最強”はたった1人だ!!! 始めるぞ戦争を……!!! この海は戦場だァ!!!」

 

 挑戦者となる伝説の海賊はそれぞれ怪物に向けて宣戦布告をする。

 真正面から挑戦状を叩きつける。奇襲に対してタイミングを合わせたものの、彼らに“共闘”の概念はなく、あくまでも自分のみが生き残る。目的のために最強へと挑む。

 そしてそれは2人の怪物の目の色を変えた。

 吹き飛ばされ、崩壊した街の瓦礫の中から小柄な影が飛び出し──また別の場所では巨大な龍となって現れ、彼らに獣の凶相を向ける。2人同時に。

 

「あはははは……上等……!!! 良いバカっぷり……!!!」

 

「ウォロロロ……良い度胸だ……酔いが醒めたぜ……!!!」

 

「「──ブチ殺す!!!」」

 

 ──最悪最強の義兄妹が相手を強者と感じ取り、喜々とした不敵な笑みを浮かべて戦闘態勢を取る。正面から挑戦を叩きつけた相手に対し、その挑戦を受け入れた。

 そうして“暴力の世界”が始まって以来、最初の世界を震撼させる最悪のお祭り──“STAMPEDE(スタンピード)”が始まった。

 

 

 

 

 

 デルタ島全体、各所で争いが巻き起こり、カイドウとぬえもまた島の北側と東側──それぞれで戦闘が始まると百獣海賊団もその緊急事態に誰もが武器を取っていきり立った。

 

「カイドウさんとぬえさんが吹き飛ばされた!!」

 

「まさかってことはあるめェが……!!」

 

「おい!! 島中で戦闘が起きてるぞ!! とにかく応援に急げ!!!」

 

「ナメやがって!! 誰に喧嘩を売ったか教えてやる!!!」

 

 コロシアムではその異変を感じ取り、戦いが始まったと戦闘員が外へと向かい出す。

 デルタ島は3つの島で構成された島。それぞれの場所で海賊が暴れだし、百獣海賊団に攻撃を始めたことを電伝虫やメアリーズの報告によって知ることになる。

 そしてそれはカイドウとぬえの代わりに戦闘員達の指揮を行う“大看板”の2人も同じだ。

 

「おいジャック!! 応答しろ!!! 地下で何があった!!?」

 

『……!! クイーンの兄御……!! ハァ……ハァ……バレットだ……!! 奴が仕掛けてきやがった……!!!』

 

「やられたのか!? こっちはとっくにもう大混乱だ!! お前も早く戻ってこい!!!」

 

『ええ……!! ですが、申し訳ありません……最悪の世代の連中も逃げ出した……!!! そっちはアプーが追ってる……!!』

 

 デルタ島の地下からコロシアムの最上階へ──クイーンからの電伝虫に応答し、ジャックは答える。

 ジャックは身体から血を流し、傷を負いながらも起き上がって地上へ戻ろうとしていた。バレットに部下ごとやられはしたが、とどめを刺された訳ではない。怪我の具合も重傷ではない。少し時間が経てば戦闘には支障はなく、地上のゴタゴタを察知して収拾に当たる。一部の無事な部下も向かわせた。逃げた“最悪の世代”を追いかけるアプーがそれだ。報告を聞いたクイーンは舌打ちを1つ鳴らす。

 

「チッ……そうか。そっちはアプーに任せるとして……今は暴れてる海賊共を抑えねェとな」

 

「──ぬえさんの()()()()になったな。まさかバレット程の大物が来るとは思わなかったが……」

 

「ああ。カイドウさんはバレットと……ぬえさんはレッドフィールドと島の方で戦闘を始めてる……てめェが防いでりゃここで抑えられたんだがな!!」

 

「対応すら出来なかったノロマなお前には言われたくねェな……」

 

「あァ!!?」

 

 対応を口にしながらいつの間にか飛行して戻ってきたキングと会話し、いつものやり取りを行うクイーン。キングはバレットの攻撃を食らったが、その程度で倒れる筈がないとクイーンも分かっているため起き上がってきたことに対しては言及することもない。それなりに効いてはいるが、これくらいでは動物(ゾオン)系古代種の能力者であり大看板という猛者を戦闘不能には追い込める筈もなかった。

 そしてキングの返しに怒りの反応を見せたクイーンとさり気なくディスってみせたキングに横から声を掛けたのは街から戻ってきたもう1人の大看板だ。

 

「──喧嘩してる場合じゃないわよ」

 

「! ジョーカー!! 戻ってきたか!!」

 

「状況はどうなってる。港の海賊達は抑えられたのか?」

 

「ええ、そちらは問題ない。ただ島中で同じようなことが起きてるわ。襲撃を掛けてきた主な戦力は警備の海賊達に、ダグラス・バレット……パトリック・レッドフィールド……ワールド海賊団、八宝水軍……!! 他にも新政府の幹部を見たという報告も上がってる……それらは示し合わせて暴れだした。十中八九、この襲撃の首謀者はブエナ・フェスタよ……!!!」

 

「あの野郎……!! 事が起こったらいつの間にか逃げやがったぜ!!」

 

「フン……だろうな。奴は昔から口の上手さで生きてきた海賊だ。バレットやレッドが他の海賊と手を組む筈もねェ。おそらく、目的のある連中を集めて一時的な共闘を計画したってところか」

 

 首謀者はフェスタ。その結論には誰もが頷けるものだった。

 ブエナ・フェスタという海賊はその頭脳と口の上手さで昔から裏社会を渡り歩き、武器商人や裏社会の大物、海賊達とコネクションを持って騒動を巻き起こしてきた“最悪の戦争仕掛け人”。誰かと手を組むとは思えないバレットやレッド。繋がりが見えないワールド海賊団や八宝水軍。その他海賊達を、一瞬でも協調に導かせたのはフェスタの手腕だろう。フェスタのフェスティバル海賊団。警備に雇った海賊達も暴れだしている。この祭りを計画した時からそのつもりだったのだろうことは明白だ。

 

「──“飛び六胞”!! 応答しろ!!」

 

「!」

 

 だがそれも覚悟出来ていたことだ。改めてぬえへの尊敬を高めつつ、キングは電伝虫で“飛び六胞”へと指示を出す。

 

「見ての通りの事態だ。島の各地で海賊達から攻撃を受け、カイドウさんとぬえさんはそれぞれ戦闘を始めた……そちらは問題ねェが、他は放置出来ねェ。お前らは島の各所に向かってそれぞれ襲撃の主要戦力を撃破しろ!!!」

 

「真打ちの野郎共ォ!!! お前らも動け!! 大会は中断だ!!!」

 

「チッ……傷が痛むが仕方ねェ……!!」

 

「オオオオオ!!!」

 

「とんでもない事態になったな……」

 

「ああ。報告ではキッドやキラー、ホーキンスもいるらしい。そちらはアプーが追っているらしいが……お前はどうする?」

 

「……そうだな。ならおれは──」

 

 キングが飛び六胞に指示を出す中、同時にクイーンの命令がコロシアムに響き渡る。百獣海賊団の主戦力である真打ちはほぼ全員がコロシアムに集結している。試合で負傷している者も多いが、治療を受けて戦闘が出来る程度には回復してる者もいる。彼らもまた部隊を率いてコロシアムの外、デルタ島の各所へ応援に向かった。

 そして真打ちの中には“最悪の世代”に数えられるドレークやローもおり、同世代としては気になっている。ドレークはローにそちらへ向かうか、どうするかと尋ねるが……ローの答えは決まっていた。

 

「メアリーズはブエナ・フェスタを捜索。見つけ次第報告し、可能ならば捕らえなさい。各部隊に所属するメアリーズは通常通り連絡と偵察よ」

 

「はっ!!」

 

「わしらも動かんとな……どうする?」

 

「おいルッチ!! もう動けんのか!?」

 

「ハァ……ハァ……問題ない……!! 任務を遂行する……!!」

 

 そしてジョーカーの命令によりコロシアムにいたメアリーズ達も動き出す。元CP9の面々、それなりに負傷しているルッチも含めてフェスタの捕縛任務を遂行しようとした。

 更に“百獣杯”参加者の生き残り、主に飛び六胞がいる控え室や部隊の上では飛び六胞がキングの指示を聞いて既に動き出していた。

 

「逃さねェぞ……狂死郎……!! おれを裏切ったことを後悔させてやる……!! ──お前らついて来い!!!」

 

「はい!! ササキ様!!」

 

「…………また……逃げるつもりですか……傅ジロー……」

 

 舞台の上にいた“飛び六胞”ササキはぬえの拘束から解かれるなり即座に会場から逃げ出す狂死郎を見てそれを追跡することを選ぶ。会場にいたササキの部下達は号令に従ってそれに続いた。

 試合が中断され、小紫は行ってしまった傅ジローとササキ達を追いかけずにただ見ていた。鬼面の下で呟く言葉は小さく、周囲の喧騒に掻き消される。

 

「えっ!? ぺーたんの試合は!?」

 

「大会中断だって言ってただろ!! 後回しだ」

 

「え~~!! せっかく横断幕とメガホン用意して応援の準備してたのに!!」

 

「やめろ!! おれはもう行くぞ!!」

 

「や・め・ろ!? ──あ、ぺーたん待って!! 私も行くでごんす!!」

 

「あら……うるちゃん達行っちゃった。私も適当なところに網を張ろうかねェ──行くよ、あんた達」

 

「はい、マリア姐さん!!」

 

「昇格争いの邪魔しやがって……よっぽどの死にたがりが集まってるらしいな──行くぞ野郎共」

 

「はっ!!」

 

 そして他の飛び六胞も同様に動き始めた。うるティとページワンは部下を率いず2人で。ブラックマリアとフーズ・フーはそれぞれの部下を率いて島の各地に散らばっていく。残る幹部は“大看板”。それに加えて──

 

「ヤマトぼっちゃんにムサシお嬢様。それに……オワリお嬢様はどうする?」

 

「前者2人は放っといても問題ねェだろう。オワリお嬢様は今バオファンが見てる……お前が護衛で残れ。コロシアム付近の敵はお前がいなくても問題ない」

 

「フン!! 確かに……おれ達がいりゃコロシアム付近は問題ねェな」

 

「別におれはお前を当てにしてないが」

 

「それ一々言う必要あったか!!?」

 

 カイドウの息子や娘の監視、孫に対する護衛はジョーカーに任せ、キングとクイーンはコロシアム周辺の敵を部下に指示を出しながら殲滅することにする。島の中央であるここならより厄介な敵が出ても向かいやすく対処がしやすいし、まだここにはいないジャックもいる。ジャックなら気を利かせて既に各地の敵を潰しに回っているだろう。

 これでおおよその海賊達は対処出来る。問題があるとすれば、行方の知れないフェスタと大物である2人の海賊だが──それも自分達のボスが相手している以上は問題は全くないと言っていい。

 

「カイドウさんとぬえさんが終わらせる前に、こっちも始末をつけてェところだな……!!!」

 

 と、キングは島の北側で戦闘を始めたであろうカイドウやぬえの方向を見て言う──雷鳴が轟いた。戦闘が始まった頃だろうと。

 

 

 

 

 

 デルタ島全域に暗雲が立ち込める。

 その暗雲の中心はデルタ島の北側の島であり、その空にいる巨大な龍であった。

 

「ウォロロロロ……!!! 懐かしいな……ダグラス・バレット……!! 確かロジャーの船で見かけた時以来か……」

 

 水色の巨大な龍。全長数百メートルにも達するデタラメな大きさの怪物こそこの世における最強生物──“百獣のカイドウ”が変型した姿。

 規格外のその巨躯を見ただけで新世界にやってきた“海賊王”を目指そうという多くの者は戦意を挫かれ、膝を屈することになった。それほどの怪物。戦っても無駄だという諦観を覚えてしまうほどの威圧感。見れば生物としての本能が警鐘を鳴らすのが自然。実際百獣海賊団では新入りに良く聞かれる質問として“どういう経緯で下ったか”というのがあり、新入りはそれを話し、古参の者達もそれを聞いて“自分も昔は~~”という話をするのがよくある光景でもあった。新世界ではよくあること──“四皇”のデタラメさに膝を折るというのは差して珍しい話でもなかった。

 だがその怪物“カイドウ”に見下され、好戦的な笑みを浮かべる大男がいた。カイドウに比べれば豆粒のような大きさだが……それでも彼の纏う覇気は決して弱々しいものではない。むしろ──カイドウに匹敵するほどに禍々しいそれを放っている。

 

「お前がロジャーの船を降り、バスターコールを掛けられてインペルダウン送りにされた時はぬえと残念がったぜ……!! おれはいつかお前も部下にしてやりたかったからな……!! ウォロロロ!!!」

 

 しかしカイドウはそんな強者──ダグラス・バレットに対しても部下にしてやろうと息巻いて笑っていた。思い出話をしながら目の前の男を懐かしむ。カイドウにとってバレットとは既に過去となった男だったが……こうやって目の前に現れて勝負を挑んできたのならば好都合だった。戦力になる。最強の海賊団を作り上げるに当たってバレットほどの戦力は貴重であり、カイドウが何よりも欲しがるものであった。

 

「もう一度聞いてやる……部下になるなら殺さねェが、ならねェのなら殺す。さあよく考えて──」

 

「──言いてェことはそれだけか?」

 

「……あァ?」

 

 ゆえに選択を与えようとした。襲撃を掛けてきたことは本来許されることじゃないが、それも部下になるのならばなんてことはない。活きの良い奴として歓迎してやると──最初に吹き飛ばされて起き上がった時に聞いたのと同じ質問を再度投げかけたが、それはすぐにバレットによって拒否される。

 

「おれは誰の部下にもならねェし、部下もいらねェ。おれが目指すのは何よりも強いたった1人の強さ……!!! 誰よりも強く、誰も成し得たことのない“世界最強”だ……!!!」

 

「世界最強……? お前が……?」

 

「そうだ!! そのためにてめェもぬえも皆殺す……!!! 強ェ奴は全員殺す……!!! おれが1人で、この手でな……!!!」

 

 そう、バレットが目指すのはたった1人での“世界最強”。

 部下や仲間はいらない。それらはバレットが嫌う“弱さ”を生み出すだけ。それによって得る強さは儚く脆いことをバレットは知っている。

 ゆえに最強とはたった1人で成し遂げるものだとバレットは気づいた。世界最強を成し遂げるには1人で“四皇”を、世界中の強者達を皆殺しにすることだと気づいた。

 だからカイドウを殺す。ぬえを殺す。百獣海賊団の猛者という猛者を殺し、後にこの場にいる猛者を皆殺しにし、後に他の四皇や新政府も殺す。

 そのための最初の、一対一の相手としてカイドウを選んだのだ。まずはこの男を殺せば世界最強に大きく近づけると。その意志をカイドウに向かって言い放つ。それを聞いたカイドウは大笑いした。

 

「ウォロロロロ!!! 面白ェ!!! ならやってみろ!!! おれを殺せば“世界最強”だ!!!」

 

 1人での強さが最強という意志をカイドウは認めはする。面白いと。

 だがその大言壮語は──実力が伴ってこそだ。それを口にされればこちらとしては黙ってられない。お前程度がと馬鹿にしながらも挑戦を受ける手形代わりの一撃をお見舞いする。

 

「もっとも……お前程度にそれが出来るとは思えねェがな!!! ──“熱息(ボロブレス)”!!!」

 

「!!!」

 

 カイドウの放った技はカイドウの代名詞とも言える技──“熱息(ボロブレス)”。一息で山も城塞も人も何もかもを燃やし尽くす灼熱の光線。

 それを瓦礫の上に立つバレットに挨拶代わり放ち、バレットを見極めようとした。カイドウはそれほど見聞色は得意ではない。相手は直接試して見極める。この程度でやられる相手ならそれまでだと。

 ──だが、

 

「カハハハハ……!!! 行くぞ……!!!」

 

「!? ──グオォ!!!」

 

 ──バレットの動きは、その重みは予想以上だった。

 戦闘態勢を取って素早く跳躍。そのまま空を駆け、“熱息(ボロブレス)”を紙一重で躱すとバレットは龍となったカイドウの腹に挨拶代わりの一撃をお見舞いする。地上の残っていた街が吹き飛ぶが、そんなことはカイドウもバレットも気にはしない。バレットはのけぞり、吹き飛ぶカイドウに向かって野獣の様に吠える。

 

「カハハハ!!! どうした!!? 世界最強ってのはそんなもんか!!?」

 

「……!! そういや……てめェも“覇王色”だったか……!!!」

 

「カハハ!! だったらどうした!!?」

 

「……覇王なんて……」

 

 カイドウはバレットの一撃を受けてすぐにバレットが“覇王色”の持ち主であることを思い出す。

 以前にぬえに聞いた。そして戦う前の覇気の放出にもそれが見て取れた。人を従えないこの男もまた“覇王”の器を持っている男。

 それをバレットはどうだっていいと意に介さないが、カイドウとしては気に食わない。この程度で“覇王”を名乗るなど。

 

「何人もいらねェんだよ!!! ──“壊風”!!!」

 

「!」

 

 息を大きく吸ったカイドウが再び息を吐き出し、今度は熱線ではない──かまいたちを起こしてバレットを攻撃する。

 バレットはそれを見て即座に回避を選択した。覇気を強く込めて防御も出来なくはないが、この鎌風はかなりの鋭さであり防御よりは回避した方が良い。真っ向から全て受けるだけが戦闘ではない──バレットの戦闘センスは幼少の少年兵時代から磨かれており、常に的確な判断を自然と行う。

 

「温いぞ!!!」

 

「ウ、オオ……!!!」

 

「おいおい……嘘だろ……!!」

 

「カイドウさんに効いてる!!?」

 

 複数の鎌風を躱し、カイドウに肉薄すると今度はカイドウの頭を上から下に向けて思い切り殴りつけ、大地へ叩きつけようとする。カイドウは痛みを訴えるような声を上げて地面へと高度を下げた。──遠くにいる百獣海賊団の戦闘員達が巻き込まれないように逃走を図りながら、バレットの攻撃がカイドウに効いてることに驚愕した。

 だがカイドウも当然、多少は効いてはいてもあっさりと倒れる筈もない。高度を下げ、地面へ墜ちる直前でとぐろを巻くと至近距離にいたバレットを吹き飛ばすように荒れ狂う風を発生させる。

 

「“龍巻”!!!」

 

「!!! ウ……!!」

 

 災害の如き“龍巻”。強風が発生し、さしものバレットも予想外だったのか腕で顔を抑えながらたじろぐ──その隙をカイドウは見逃さない。

 

「調子に乗るんじゃねェぞ……!!!」

 

「!!」

 

 怯んだバレットにすかさず熱線。口から放ったそれがバレットのいる場所を焼き尽くす。間違いなく、今度は直撃した。ダメージにはなっただろう。

 

「まだ温ィ……!!!」

 

「!!?」

 

 だが──バレットもまたその程度でやられるほど柔ではない。

 熱線が直撃し、身につけていた軍服が多少焼け焦げようともその好戦的な笑みは絶やされず、カイドウに向かって高速で飛翔し、両の拳に覇気を込めていた。

 

「グアアアアアアア!!!」

 

「てめェこそナメてんじゃねェぞカイドウ!!! この程度なら……早々に決着をつけてやる!!! “世界最強”は……このおれのものだ!!!」

 

 バレットの連打がカイドウに直撃する。その意志の籠もった覇気はカイドウの鱗を打撃し、確かな“痛み”を与えていた。

 

 

 

 

 

 デルタ島、東の島。

 南側にいけば屋台村。各種コンテスト会場がある島の北側に……不思議な赤と青の羽を生やした浮遊する少女と細長い体躯の老人がいた。

 

「──久しぶりね、レッドフィールド。デザイア島以来かな? あれから全然出会えなくて寂しかったよ♡」

 

「──我は清々していたよ。貴様のような気味の悪い化け物を見ると気分が悪くなるからな」

 

 1人は少女で1人は老人。どちらもそれだけを言葉にすれば“弱者”にも思える2人だが、実際に目の当たりにすれば抱く感想は全くの逆──圧倒的な強者の気配を漂わせる2人。

 

「あはは、言ってくれるじゃない……!!! 私はずっとあなたに会いたかったってのにさ……!!!」

 

「ほう? 一体何の用があったのだ?」

 

 得体の知れない少女。見た目は黒髪で赤い目をした可愛らしい少女であるその人物は、この海で最も恐れられているものの1つ。

 

「決まってるじゃない。私はずっとずっと──あなたを殺したかったの♡」

 

 “最強生物”カイドウの兄妹分にして“最恐生物”と恐れられる百獣海賊団の副総督──“妖獣のぬえ”が、その可愛くもどこか妖しい雰囲気と根源的な恐怖を覗かせる笑みで老人に強い感情を向ける。

 その瞳は獣のものであり、既に狙いをつけていた。もし気づかなければ幸せだが……気づかなければ一寸先は“死”だ。弱者か強者かどうかも一見すると分からない。生と死の堂々巡り。終わらない恐怖を与えてくる目の前の怪物は少女の皮を被ったおぞましい妖怪でしかない。

 そしてそのことを老人は──知っていた。

 

「ああ……そうだろうな。だからこそ、我もまた貴様の前に姿を現さず──今こうして()()()()姿()()()()()のだから」

 

「……どういう意味かな?」

 

「言葉通りだ。貴様も気づいているだろう──」

 

 そう、この老人──“赤の伯爵”の異名を持つロジャー時代の大海賊、パトリック・レッドフィールドは知っている。

 かつてたった1人でこの海を渡り、ロジャーや“白ひげ”、そしてカイドウとぬえと邂逅した時に……彼は禁忌とも言える“秘密”を知ったのだ。

 

「我は……貴様の頭を覗き、その禁忌の一端を知っている。貴様の正体もまた同様だ」

 

「──ふふ、ふふふふ……!!!」

 

 ぬえの秘密を、正体を知っている──そう口にするとぬえの目から光沢が一瞬消えて、笑みが深くなる。

 怒っている訳ではない。ぬえにとって、それは決して看過できないものではあったが、生じた感情は“感嘆”と“面白さ”だ。

 衝動として殺意はあれど、それを見抜いたレッドに対して惜しみのない尊敬の念をぬえは抱く。極まった見聞色でそれを見抜いたのは見事。史上2人目の快挙だ。それは確かに凄い。拍手だってしてやろうと、ぬえは実際に二拍だけ手を叩いて形だけ褒めてみせた。

 

「……そっかそっか♡ それは凄いね、おめでとう。──でもそれを口にしちゃったらさぁ……殺すしかなくなっちゃうけど良かったのかなぁ? 言わなきゃまだ誤魔化せたかもしれないのに」

 

「貴様はそれほど蒙昧ではあるまいし、容赦も無かろう。我が貴様の目の前に姿を現した時点で口にすることに大した意味はない……どちらにせよ貴様は我を殺害しようと動く。違うか?」

 

「……ま、そうだけどねぇ。でもだったらなんで私の前に姿を現したの? もしかして……私に殺してほしくなったとか?」

 

「……愚問だな。貴様に殺されたい者などいるハズがないだろう」

 

「だったらなんで?」

 

 ぬえはレッドの答えがわからず疑問を投げかける。狙われるとわかっていて姿を現した理由がわからない。まさか許されると思っていた訳でもないだろうと。

 だがレッドにとってはそれは愚問だった。ぬえが分からない筈がない。この新世界の海にいて、未だに海賊として旗を掲げているのなら──理由はたった1つしかない筈。

 

「──“王”になるのだよ……()()()()に」

 

「!」

 

 ぬえの目が僅かに、純粋な驚きで見開かれる。

 だがレッドにとっては当然のことだった──“海賊王”になることを、自身は決して諦めていないのだから。

 

「だからこそ我は貴様の前に姿を現し、貴様を狙うことにしたのだ……貴様のその頭の中にあるものを全て奪い、そして殺し、その“バケバケの実”を手に入れて老いることのない厄介かつ最恐の力を手に入れる……!!! それが我の目的だ……!!!」

 

「!?」

 

 ──レッドの目的はぬえを殺し、その身に宿る全てを自分のものとすること。

 ぬえの正体を知り、その能力の厄介さと強さを知るレッドだからこそわかる。海賊王になるためには──“ぬえ”を手に入れることが何よりの近道であると。

 

「ふ、ふふふ、あはははは……!!!」

 

 そのために、この怪物を倒す。殺す。そのために他の海賊達を利用してまでこの一対一の状況にまで持ち込んだ。

 

「……私の能力って結構使いこなすのに苦労するんだけどなぁ。面倒くさいよ? 使いこなせると便利だけど、私も何年と掛かっちゃったし」

 

「その能力さえ手に入れば時間など些末なことだ。能力を手に入れる方法もある筋から聞いた……後は貴様をこの場で殺すのみだよ……ぬえ……!!!」

 

 そうして静かに、レッドフィールドは覇気を集中させて戦闘態勢を取る。

 彼は強者であり歴戦だが、相手はぬえだ。気を抜いていて勝てる相手ではないことは十分に承知している。

 しかしぬえからすれば──

 

「あはは、あははははは……!!! なるほど……なるほどね……!!!」

 

 ──可笑しくてたまらないと、ぬえは笑う。

 自分の頭の中にあるものを奪う? 自分の能力を奪う? 自分を殺す? ──そんなことが出来ると本当に思っているのかと。

 

「まあなんでもいいわ。どの道、私にとっては好都合……!!! あなたが挑んできてくれたおかげで、私はあなたと戦うことが出来る……!!! あなたを殺して、私の正体不明を取り戻さないとね……!!!」

 

 ぬえが獣の瞳でレッドフィールドを睨み、三叉槍を手にしてそこに覇気を込める。ぬえの見聞色の覇気でレッドフィールドの実力はある程度理解している。肉体の強さはそこそこ。覇気も見聞色以外は自分に敵うほどでもない。

 ゆえにぬえは一刻も早く目の前の自分の正体に気づいた者を殺そうと動いた。槍を振るって──

 

「“夜の恐怖を忘れた人間よ”……か。生憎と忘れたワケではない。わかった上で覚悟して来ただけのことだ……!!!」

 

「!!? ……!!」

 

 ──言葉も槍も、振るう前に蹴り飛ばされた。

 ぬえの身体は建物に激突し、ほんの僅かなダメージを負う。武装色の覇気はそれほどでもない。外傷もなくダメージはほんの僅かで戦闘に支障は全くない。この程度で倒れるほど柔でもない。

 だが攻撃を読まれて攻撃されたことに思い出し、気を引き締める。レッドフィールドがやったのはなんてことのない。自分も出来る見聞色の覇気の極まったそれであると。

 

「……ふふふ……!! 忘れてた……あなたもそこまで到達してたのね……!! 確かに、あなたの見聞色は()()()が自分よりも上だと認めるほどだったわ……!!!」

 

 そう──それは見聞色の“未来視”。

 見聞色の覇気は極めると少し先の未来を読むことが出来る。ぬえやビッグマム海賊団のカタクリなどが使うことの出来る見聞色の秘奥だ。相手の頭を触ることで相手の記憶を読み取ることが出来るほどの見聞色の使い手であるレッドフィールドが出来ない筈もない。

 

「──ま、でもそれだけなら私にも同じことが出来る……!!!」

 

 だが自分も使えばこれで互角だ。

 冷静になり、見聞色で未来を同様に読んで戦闘を行う。これだけで他のあらゆることで勝るぬえにレッドフィールドは手も足も出ない。

 

「さあ先読み勝負と行きましょうか……!!!」

 

 ぬえが再び攻撃を仕掛ける。レッドフィールドもそれなりに速く、未来視も出来るが、こうなれば立ち回りで相手は苦しく──

 

「──どうやら我の方がまだ見聞色の覇気だけは大幅に勝っているらしいな……!!!」

 

「!!? なっ……!!」

 

 ──しかし攻撃される。苦しくはならない。

 いや、実際にレッドフィールドもまた少しだけ立ち回りが難しくなったことは確かだ。未来視の見聞色を操る自分よりも身体能力の高い相手。

 だが見聞色の覇気の一点だけ。その一点だけで勝るレッドフィールドは、ぬえの攻撃や動きを読み続けて常に有利に立ち回る。

 

「無論、貴様ほどでたらめな範囲はないがな……しかし通用してほっとしたよ。実際に相対して読まねばどうなるかはわからなかった……!! だが、私は貴様のことを知ってからインペルダウンに投獄されてからもずっと鍛え続けた……!!! 見聞色の覇気で貴様を上回れるならば、貴様の常識外れな耐久力を削ることは決して不可能ではない……!!!」

 

「……!! この程度の攻撃で、私が倒れるとでも……!!?」

 

「ああ、時間は掛かるだろうな。私の見聞色が持つかも分からない……だから一方的に、貴様の攻撃の手番も休む暇も与えない……!!! 常に貴様を攻め続ける……!!! 加えて──」

 

「!! ……これは……まさか毒!?」

 

 レッドフィールドの持つ傘の先端。棘となっているそこがぬえの肌に僅かに掠り、気づく。刺さりはしなかったものの、その強い毒は触れただけでも少しヒリヒリする。それを感じてぬえが言うとレッドフィールドはその正体を自ら明かした。

 

「強力な即効性の麻痺毒だ。新世界に存在する幾つかの動植物を組み合わせて調合した。触れるだけで海王類ですらすぐに動かなくなる。人間には耐えられる筈がない……ハズだが、貴様は化け物だ。毒にもある程度耐性があると聞いている。ある程度は耐えられるとして……しかしこれを受け続けて何十時間と戦闘が出来るほどではあるまい。動きも少しずつ鈍る。仮に貴様の体力が海王類の何十倍とあろうと……いつかは力尽きる……!!!」

 

「……! よく考えて来てるじゃない……!!」

 

「当然だ。傘の先端を海楼石にしようとも思ったが、その時間はなかった上……純度の低い海楼石で多少押さえたところで、貴様の馬鹿力の前では不安が残る。毒の方が確実だと判断した」

 

「……随分と安く見られたものね……!!!」

 

「不満か? 死地は貴様達の望むところだろう──望み通り死地を味わわせた上で、ちゃんと殺してやる……!!!」

 

「……!!」

 

 レッドフィールドの攻撃がぬえの行動を読んだ上で的確に与え続けられる。

 1つ1つの攻撃は大したものじゃない。蚊に刺されたようなダメージしかない。

 だが強力な毒を組み合わせて見聞色の覇気で常に先読みを行い、何時間と攻撃を与え続ければ──如何に人外の怪物とて無事である保証はない。

 

「……いえ、()()()()……!!!」

 

 そして──だからこそぬえは笑みを深めた。

 本気で自分を殺しに来てる。真正面からの戦闘だと不利だと判断し、事前に準備をして計画を立てて、万全を期して殺しに来ている。

 海賊の勝負に“卑怯”はない。生き残りを賭けた戦いで、本気で自分が生き残って勝利を得ようとしている。

 そんな本気の勝負を仕掛けてくる、きちんと意志も力量も伴っている海賊は──中々出会えない得難い存在であり機会だ。

 

「やってみなさい……!!! 私を殺せば私の全てはあなたのものよ……!!! あはははは!!!」

 

「ああ、やってみせるとも……!!! 貴様を殺して我が……新たに“恐怖”を司り、海賊の王になるのだ……!!!」

 

 レッドフィールドの攻撃がぬえを一方的に、目に見えない傷を少しずつ与える。全て目論見通りに行けばレッドフィールドの勝ち。少しでも計算違いが起これば負けな綱渡り──それでもぬえを相手に勝利の可能性があり、ぬえに“傷”を与える……()()に圧倒的に有利な戦いが始まった。

 




ゼハハハハ→ガチ潜伏中の人。
ムルンフッフッフッ→隠れぬえちゃんファン
元看守長→苦労人。能力者になった。
奇襲→成功率90%……やはりおれの占いはさすがだ……!!
コロシアム→キング、クイーン、ジョーカー、小紫、オワリ、バオファン
島の各所→ジャック、飛び六胞、ワールド海賊団、八宝水軍、新政府、砂ワニ、ゼハハ
島の北側→カイドウ、バレット
島の東側→ぬえ、レッドフィールド
武装色の強さ→カイドウ>ぬえ>>バレット>>大看板>飛び六胞>流桜(仮称)の壁>レッドフィールド
見聞色の強さ→レッドフィールド>>ぬえ>カイドウ>カタクリ>未来視の壁>>ジョーカー>バレット>大看板
覇王色の強さ→カイドウ≧ぬえ>>例のアレの壁>>>バレット
耐久力→カイドウ=ぬえ>>リンリン>>>>>>>>>>越えられない動物系覚醒&化け物の壁>>>>>>>>……
バレット→素手で龍カイドウをボコる。
カイドウ→獣型でバレットにボコられる。リアクションだけ見るとめちゃくちゃ効いてそう。
レッドフィールド→一対一に持ち込んで見聞色と毒でぬえを一方的に嬲り殺す作戦。
ぬえちゃん→人型でレッドフィールドに見聞色で負けてボコられて楽しそうで可愛い。

という訳で今回はこんなところで。スタンピード編ということで戦いが始まりました。カイドウもボコられてるしぬえちゃんもボコられてるし勝てそうだな! 頑張れバレット!! レッドフィールド!! 世界のハッピーエンドは近いぞ!!
次回は各飛び六胞やら大看板もそれぞれ戦闘開始です。マッチングはまあ予想してください。カイドウVSバレットもぬえちゃんVSレッドフィールドも序盤から中盤に入って第二形態になりそうです。お楽しみに。

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