正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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最強に挑む者達

 百獣海賊団が年に一度に行う大宴会──“金色神楽”。

 今年のその舞台になったデルタ島は祭りの賑やかなそれから戦の熱狂へと変化していた。

 

「この時を待ってたぜ……!! 」

 

「ああ……!! フェスタの奴には感謝だな……!!」

 

 祭りの警備を担当していた海賊達は一斉に目の色を変えて特徴的な格好をしている百獣海賊団を狙い、攻撃を開始する。銃撃が戦闘員を貫き、それを見たウェイターズが吠えた。

 

「おいおめェら!! 何のマネだ!!?」

 

「うるせェ!! お前ら百獣海賊団のおかげで……おれ達は迷惑してんだ……!!」

 

「ああ……!! 島も故郷も滅び、家族も兄弟分も仲間も恋人も死んだ……!!! お前らは殺しすぎなんだよ!!!」

 

「フェスタに雇われたおれ達は全員、お前らに恨みを持つ復讐者だ!!!」

 

「あァ!? 何だと……!?」

 

 百獣海賊団が警備の海賊達、荒くれ者達の恨み節を聞いて驚く。

 だが必要以上には驚かない。驚いたのはフェスタに雇われて結託したということのみ。復讐者であることは、さして珍しいものではない。

 弱者を虐げ、逆らう者を皆殺しにする百獣海賊団にとって復讐は日常茶飯事だ。彼らに恨みを持つ者などごまんといる。

 だがそれらを全て圧倒的な力で叩き潰し、そして諦めさせてきた。反逆する心を挫き、そして従う者にはそれなりの扱いを与える。百獣海賊団に入った海賊達の中にはそういった者も多く、彼らは皆とっくに“強者に従うこと”が楽であると気づいている。そして──カイドウやぬえが誰よりも強い暴力と恐怖を持つ尊敬すべき相手であることも。

 

「ギャハハ、復讐か!! そりゃ気の毒だったな!! 最初っからおれ達に逆らわなきゃ良かったのによ!!」

 

「お前ら新世界の海賊だろ!? 逆らったらどうなるか知らねェワケでもあるめェし、お前らの自業自得だ!!!」

 

「反逆者に与えられるのは“死”だ!! お前ら覚悟しろ!! おれ達は情けねェ命乞いなんて聞きやしねェぞ!!」

 

「全員遊ぶか売るか殺すかだ!!! ギャ~ハッハッハ!!!」

 

「……!! クソ野郎共が……!! 地獄に堕ちるのはてめェらだ!!!」

 

「やってみやがれ!!! 獣の餌にしてやる!!! こっちは“百獣”だ!!!」

 

「「オオオオオオオ~~~!!!」」

 

 そして戦いとなれば彼らは容赦なく牙を剥く。

 聖人だろうが悪人だろうが“暴力”という手段に訴えるなら望むところ。暴力の世界に望んで足を踏み入れた彼らは暴力を振るうことを躊躇しない。復讐者だろうが弱ければ殺すのみ。知ったことではない。彼らが痛かろうが自分達は痛くも痒くもなく、むしろ楽しさすらある。

 人間としての倫理から外れた獣に、復讐者の言葉は通じない。彼らを除くには殺すしかなく、道は交わらない。ゆえに鋼と火薬の鉄槌を与えるべく、争いの舞台へと飛び込んでいく。

 賑やかな祭りの場であったデルタ島は一瞬で戦火が広がる“戦場”へと変化した。──中には争いを今は望まない者がいたとしても。

 

「──どうにも騒がしくなってきやしたね……」

 

「イッショウさん!! どうしましょう……!?」

 

「さて……あっしらの任務は偵察ですが……このまま大人しく偵察をさせて貰えるかどうか……」

 

「なら一応船を確保しに港へ向かいますか?」

 

「ええ。──ですがその前に()()()()()が……」

 

「え……!?」

 

 デルタ島の港にほど近い街の中で、盲目の男とその部下達が周囲の争いを感じて船の確保へ動こうとする。

 だが盲目の男は周囲から感じる強い気配……近づいてくる気配を見て不穏な言葉を口にした。部下達が驚く。彼らの背後、10メートル先の路地から1人の巨漢が現れた。

 

「──てめェ……!! 新政府軍の大将がなんでここにいやがる……!!?」

 

「──へェ。よくご存知で。新参者でありやすが……一応席を頂いておりやす」

 

「知らねェハズがねェだろう……!!」

 

 凶悪な人相をした巨漢は盲目の男に気づいて近寄ってきていた。驚きを見せ、しかし強く相手を睨む。身体に傷を負ってはいるが、その殺意は一切揺るがない。

 そしてそれも当然だ。百獣海賊団にとって、目の前の盲目の男は“障害”の1人。

 今となっては大抵の相手を磨り潰せる百獣海賊団にとって、簡単には潰せない勢力の1つ──“新政府”。その軍において新たに就任した3人の“大将”。世界中から協力を求めて勧誘した重大戦力が彼だ。

 

『新政府軍“大将”イッショウ』

 

「有名なのはお互い様で。百獣海賊団の大看板……“旱害のジャック”」

 

「てめェらも一枚噛んでやがったのか。狙いはカイドウさんとぬえさんの首か」

 

「いえ、その首はあっしには役が勝ちすぎる。この騒ぎにもあっしらは関与してやせんが……参ったな……!! そちらさんは通す気はないようで……!!」

 

「当然だ……!!! 見つけた以上は野放しにはしねェ……!!!」

 

 杖をつき顔に傷を持つ盲目の男。新政府軍の大将であるイッショウは優れた見聞色の覇気で目の前の巨漢、百獣海賊団の凶悪な大幹部であるジャックが自分を逃がす気がないことを察する。

 ジャックは顔の横に付けてある象牙型の刀を抜いてイッショウを見下ろした。戦う気、殺す気であるのは誰の目から見ても明らかだ。覇気のない者や、目の見えない者ですら気づけるほどの威圧感。圧倒的な暴威に、しかしイッショウは杖にしていたその鞘から刃を僅かに覗かせる。彼もまた盲目ながらも大将に選ばれるほどの猛者。いつでも対応出来るようにしながら言葉を掛ける。

 

「そちらさんは怪我を負っている様ですが……どうしても戦りやすか? 追わねェならこっちも無理には──」

 

「──黙れ。何を企んでるか知らねェが厄介な男をここで殺せるなら好都合だ……!!! 部下を拷問して新政府のアジトも割り出せるかもしれねェしな……!!! 絶対に逃さねェぞ……!!!」

 

「……やはり猛獣に言葉は通じねェか……だったら少し“手合わせ”願いやしょう……!!!」

 

 だがジャックにその“談合”は通じない。

 新政府の大将が部下を引き連れてこの島にいた。何を企んでいるかもわからない。カイドウやぬえを狙うかもしれない。百獣海賊団に仇なすかもしれない。

 目の前の大将1人でジャックの尊敬する2人がどうにかなるとは微塵も思っていないが、手を煩わせる存在は潰す。害をなす可能性が少しでもあるなら殺して憂いを排除するのが懐刀として当然の働きだ。少なくともジャックはそう思っている。

 

「!!!」

 

「うわァ!!?」

 

「イッショウさん!!」

 

「おいやべェぞ!! ジャックさんが暴れてる!!!」

 

「相手は誰だ!!? ジャックさんと張り合ってるぞ!!?」

 

 ゆえにこの戦いもまた不可避だ。ジャックとイッショウの刃が激突し、周囲の空気が波となって周囲に押し寄せる。周囲の兵士、海賊達が驚く声を発しながらも動いた。

 新政府軍がどう動くにしろ撤退のための船は確保しておきたい。そのためにジャックという怪物を留めなければ部下も満足に動けない上、上手く行けば威力偵察にもなる。この戦い──戦争は新政府にとっても戦争後に勢力を拡大させた百獣海賊団の戦力を正確に測ることの出来る絶好の機会でもあった。

 ──そしてあるいは、

 

「──あるいはこの戦いで潰れちまうか……分は悪いがその可能性に賭けたいもんだ……!!」

 

「ぺらぺらとうるせェ口だ……!! すぐに喋れなくしてやる……!!!」

 

「そちらは断固として防がせて頂きやす……!!!」

 

 ──そんな可能性を感じて、イッショウはジャックの猛攻を防ぎ続ける。その“当たり”の目は確かにあるとイッショウは見ていた。少なくとも……絶対に“外れる”とも言い切れないほどには。

 

 

 

 

 

 ──デルタ島、東の島。

 

 比較的人の少ないその一帯は、2人の戦いによってより人が離れる激戦の地であった。

 だがその戦いを僅かだが確かに見守る百獣海賊団の船員は、その戦況に自身の目を疑った。

 

「おいおい……どうなってんだ……!?」

 

「速すぎて見えねェが……!! もしかして、ぬえさんが押されてる……?」

 

「そんなワケねェだろう!! あの人はカイドウさんと肩を並べる化け物だぞ!? 相手がたとえロジャーや“白ひげ”だろうとそんな一方的にやられるハズがねェ……!!」

 

「おお……だよな。多分遊んでるんだ……ははは、あの人はエンターテイナーだからな……!!!」

 

 その勝負は一瞬で片がつく戦いだと誰もが見ていた。

 だが、そうなってはいない。高い建物や瓦礫となったもの、まだ無事な建物が点在するその町中で常人には見えない高速戦闘は確かに一方に傾いていた。

 

「……!! あっ、あー痛い……!! 痛いなぁ……!!!」

 

「本当に痛がってるようには見えんな。大根役者め──そら、また見え見えだ。潰させてもらう」

 

「……!!」

 

 ──“赤の伯爵”……パトリック・レッドフィールドの方に。

 人型で飛び回り、レッドフィールドに攻撃を加えようと槍を構えて肉薄しようとする“妖獣のぬえ”はその動きを読まれてレッドフィールドに叩き落され、建物をまた1つ瓦礫に変える。

 だが痛みはさほどない。傘の先端に塗られた毒もそれほどまだ効果はない。どちらも多少かゆいだけ。ダメージはあるが、ぬえにとって多少の痛みは痛みとならない。彼女にとっては殴られる痛みも劇薬を塗られた痛みも、気持ちいい痛みには程遠いかゆみだ。ゆえに動きは早い。吹き飛ばされても痛みを感じて怯む時間は常人より少なく、すぐさま起き上がって敵に襲いかかる。獣の目は常に獲物を捉えている。決して見逃さない。

 

「随分余裕ぶってるわね……!! 一発でも喰らえば大変よ?」

 

「なら全て躱せばいいだけだ」

 

「ウッ!!」

 

 レッドフィールドの鋭利な傘の先端がぬえの首の中心を突く──刺さらない。

 ぬえの強靭な肌にはそんじょそこらの業物や覇気では見える傷を与えることは難しい。多少の跡は付くが、それだけだ。痛みも多少。衝撃でのけぞり、後方に押される。

 

「硬さはさすがだな……どれ、本当に傷がつかないか試してやろう」

 

「!」

 

 そうして仰け反ったぬえの上空に既にレッドフィールドが移動し、傘を引いて覇気を込めていた。

 

「“赤朽葉”」

 

「……!!」

 

 傘を用いた連続突きがぬえの全身を襲う。傘の扱いはレッドフィールドの十八番だ。彼は何十年とその傘と自らの肉体を用いた体術。それと覇気のみでこの海を渡ってきた。

 ゆえにその次に繰り出す技も体術によるもの。鉄くらいなら容易に貫通する傘の突きもぬえには刺さらないが、それでも衝撃に眉をひそめたぬえの腹を靴の先端で思い切り蹴りつける。

 

「“赤翡翠”!!!」

 

「!!! イッ……!!」

 

 ぬえの身体がくの字に曲がる。レッドフィールドの長い足がぬえの腹に突き刺さり、地面に向かって激突。小さくないクレーターをそこに作る。

 レッドフィールドは空中から地面へ素早く降りて、次の動きを読んでいた。そこいらの海賊程度なら今の一連の攻撃で少なくとも気絶くらいはするものだが、瓦礫に埋もれて倒れるぬえは意識をはっきりとさせて口元を三日月の様にして笑っていることにレッドフィールドは気づいている。

 

「化け物だな……さすがに……倒すのに時間が掛かりそうだ」

 

「──“忿怒のレッドUFO襲来”!!!」

 

 瓦礫の中にいるぬえの声と共に上空に赤いUFOが数十機ほど出現する。ぬえの得意とする技の1つ。正体不明のUFOを生み出して弾幕を放つ厄介な技だ。

 

「だがそれも読めている……!!」

 

「──いったいなぁ~~……!!! こんなに可愛い娘を何度も足蹴にして……調子に乗ってるようだけど、そろそろこっちも反撃するわよ……!!!」

 

「! 変型か……!!」

 

 土煙の中から聞こえる声。声を発するその姿が急激に膨れ上がり、さしものレッドフィールドも読めてはいながらその姿に驚いた。

 

「小回りが利かなくなるぞ……!!」

 

「どの道攻撃を受けるんなら同じことよ……!!!」

 

 ぬえの姿が可愛らしい少女の姿から、巨大な獣へと変化する。

 だがそれはただの獣ではない。百メートル級の巨躯を持つ……虎の手足、蛇頭の尾、獅子の胴体、鳥と思われる赤と青の不思議な羽。

 そして頭は熊。──だがそれらはぬえの意思によっていつでも別の姿へ変化する。

 

「やべェ……!! おい逃げろ!!! ぬえさんが変型した!!!」

 

「巻き込まれたら死ぬぞ!!!」

 

「いつ見ても恐ェ……!! とんでもねェ姿だ……!!!」

 

 見た者は誰もが恐れる妖怪の“鵺”。見た者の誰もが正体の判らないワノ国の怪物。

 龍となったカイドウと同等に語られ、その姿での2人の喧嘩はもはや“天災”か“神話”か。そのレベルで語られる。

 

「ここなら好きなだけ暴れても良さそうだしね……!!!」

 

「ここまで巨大で異様な……!!! 複数の獣の特徴を持つ姿……!!! 動物(ゾオン)系幻獣種……!!! やはりその能力は我が是が非でも手に入れてみせる……!!!」

 

「──それは無理な相談よ!!!」

 

「!」

 

 ぬえの虎の手がレッドフィールドに向かって思い切り叩きつけられる。地面を叩き、地面にヒビを入れるその一撃は破壊範囲が圧倒的に増している。

 同時にレッドUFOも不規則に動き出し、炎弾が地上へ降り注いだ。その摩訶不思議。異様な宇宙的な光景の中で、更にぬえは天災の如き力を振るい始める。

 

「“正体不明の落雷”!!!」

 

「!!!」

 

 曇天となっていた空から雷が降り注ぐ。弾幕も雷もぬえには当たらず、地上を破壊する。ぬえに踏み潰され、弾幕と雷で地上の町の大部分は崩れていった。

 

「身体の下が死角だ……!!!」

 

「!?」

 

 だが初見の技もレッドフィールドは未来視で読み取り、正確な判断を取る。

 弾幕から逃れるための安置を獣型となって巨大になったぬえの懐にあると見たレッドフィールドはそこへ素早く移動し、勢いよく跳躍してぬえの腹に傘を突きつける。

 

「“赤蜻蛉”!!!」

 

「!!!」

 

 ぬえの巨体が僅かに浮く。それほどの威力。思わず怯み、後退りしてしまうほどの一撃にぬえは軽く咳き込み、そのレッドフィールドの戦い振りを称えた。

 

「ケホッ!! あー痛い痛い。やるなぁ。久し振りにこんなにボコボコ殴られてるよ」

 

「……まだまだ、か。だが毒も直に貴様の身体を蝕む。その余裕がいつまで保てるか……いや、できればその余裕のまま朽ち果て倒れてくれることが理想だな。精々自分の実力を過信しているが良い」

 

「……過信ねぇ。してるつもりはないんだけどなー」

 

「フン、貴様もカイドウも貴様の部下達も……強いとはいえ敵を作りすぎたな。今や貴様達に恨みを持つ者はごまんといる。徒党を組んで包囲網を形成されては辛いだろう。貴様も貴様の部下も倒れるのは時間の問題だ……!!!」

 

 そしてレッドフィールドは自分が一方的に押している相手──僅かな間、タイミングを合わせるという一点だけ協力し、襲撃に加担した者達の気配を感じてそう評する。

 バレットがカイドウを倒せば──レッドフィールドがぬえを倒せば──あるいは他の誰かが幹部達を倒し、戦闘員を倒し、こちらに加担する可能性もあるのだ。

 レッドフィールドにとってそれは好ましくはないが、それを止められるほどでもない。結果的にぬえから全てを奪えれば容認は出来る。

 勝てれば問題ないと、レッドフィールドはぬえ達を煽ってみせた。挑発だ。時間稼ぎもある。毒が回ればこちらの勝機だ。

 無論それにぬえが乗るとは思えないが──しかし、ぬえは余裕からか乗ってみせた。レッドフィールドの予想がすぐに外れる。未来視でそれを先に読みながらもその言葉を大人しく聞いた。

 

「……あはは!! 随分と甘く見てくれるわね……!!!」

 

 ぬえが笑う。自分を倒し、カイドウを倒し、部下も倒れるというその節穴な予想に楽しそうに──そして自信を持って不敵な啖呵を切る。

 

「私達の可愛い部下をナメんじゃないわよ……!!!」

 

「!!?」

 

 そこらの有象無象が寄り集まったところで私達に敵うものか──ぬえは自分も自分の部下達の実力も正確に評価して信頼している。仮に負けたとしてもそう簡単に負けたりしないし、何度でも立ち上がる。敵に痛手を与えている。生き残る。どう転がっても自分達の負けだけはないと。

 そしてその絶対の自信を覗かせる笑みに、レッドフィールドは誰かの影を見た。忌々しくも懐かしい思い出にレッドフィールドは眉間に皺を寄せる。

 

「……貴様のような悪辣な化け物でも部下を信頼するか。まったくもって理解が出来んな……()()()()()()()()を思い出す……」

 

「! ──あはははは!!! 嬉しいこと言ってくれるじゃない♡ でも手心は加えないわよ。ちゃんと殺してあげるのが“海賊”が“敵”に出来る最大の敬意よ……!!! まあとはいえ部下になるって言うなら許してあげるけどね♪」

 

「フン……奴みたいなことを言う……だがそんな余裕を見せたからこそ奴は世界を獲る前に死んだ。ロジャーを部下にすることを諦め、最初に出会った時に殺していれば、今頃は奴の天下だっただろう……!! 世界を獲るのに、情けや信頼する部下など不要なのだ……!!!」

 

 そしてそれをレッドフィールドは否定する。“孤高のレッド”というのが彼の若い頃の異名。たった1人でロジャーや“白ひげ”の時代……そしてそれ以前の“ロックス”の時代でもロックスを相手に引かなかった海賊であり、海賊王になるために仲間や情も含めたあらゆる犠牲を払うことで戦い続けてきた男の“意志”だ。

 かつての強敵達が死に、本当にたった1人になった今でもその意志だけは変わらない。

 

「あなただって取れてもいないのに偉そうに言うじゃない……!!! そういう調子に乗ったセリフ集は私に実際に勝ってから言うことね!!! じゃないと後で恥をかくことになるよ!!!」

 

「無論、貴様も“ロックス”と同じとこに送ってやるさ……!!! 今のうちに再会の言葉でも考えておくんだな……!!!」

 

 ぬえやカイドウの見習い時代の船長であるその男の名を出し、レッドフィールドは再びぬえへ少しずつダメージを与えていく。毒は確実にぬえの身体を回っており、このまま何もなければ自分の勝利。それを信じて、レッドフィールドはミスの許されない勝負を続行した。

 

 

 

 

 

 ──デルタ島、ビーチ。

 

 西の島の中央に続く水路から広がるそのリゾート地。美しい砂浜と水上レジャーやレストラン、ホテルが建ち並ぶビーチには8つの船が上陸し、船員達が足を踏み入れて百獣海賊団を襲っていた。

 

「おい、来たぞ!! 敵だ!!!」

 

「ありゃ“西の海(ウエストブルー)”の八宝水軍じゃねェか……!! こりゃいい!! 討ちとりゃ名が上がるぞ!!」

 

「大会は中断されたが……ギフターズのおれ達にとっちゃあ手柄を立てるのが真打ちへの昇格手段だ!! 絶好の機会だぜ!!」

 

 砂浜を踏み越え、リゾート街で待ち受けるのは百獣海賊団の戦闘員……ギフターズやプレジャーズ、ウェイターズといった大会に関係ないコロシアムの外で宴会を楽しんでいた者達だ。

 彼らは真打ちという幹部以下の戦闘員だが、決して弱くはない。下っ端でも泣く子も黙る“四皇”の船員。最強の百獣海賊団に所属する戦闘員だ。そこいらの海賊──ましてや“偉大なる航路(グランドライン)”の外の4つの海の海賊になど負ける道理はない。

 だが星の数ほどいる4つの海の海賊団の中でも……彼らは例外だった。

 

「──たわけ!! ひよっこ共が……!!!」

 

「!! やべェ!! また来るぞ!!!」

 

「ドイサ!!! “武頭”!!!」

 

 百獣海賊団のギフターズの1人が危険が迫っていることを警告する。多くの戦闘員が弾き飛ばされたその場所。空中へ跳躍した丸い禿頭が特徴の巨大な老人がいる。

 襲撃を受けて既にこの老人に何十人とやられている。あの頭の一撃は食らう訳にはいかないと誰もがそちらに注力した。

 

「こっちを無視してんじゃねェやい!!!」

 

「修行不足だ!! 出直しな!!!」

 

「ギャアアア!!!」

 

「何だあの技……!!」

 

「盾が砕けたぞ!?」

 

 だがそれは致命的な隙。老人に注意した戦闘員達を2人の男が、それぞれ蹴りと拳でウェイターズをその手に持った武器や防具ごと粉砕して地面へ沈める。薙刀と斧をそれぞれ持つ武道家らしき2人で、その謎の技に驚く海賊達。そして前線では、

 

「うわあああ~~~!!!」

 

 黒く硬化した頭が地面に激突し、戦闘員を吹き飛ばす。巨大な老人の技であり、それもまた特殊な技。防御不能の衝撃を操る──“八衝拳”。

 そしてそれを操る彼らは“西の海(ウエストブルー)”花ノ国のギャング。国に仕える由緒正しい海賊、“八宝水軍”を率いる達人達。

 

『花ノ国のギャング 八宝水軍副棟梁 ブー 懸賞金9800万ベリー』

 

「能力者が多いが……肝心の武技がなってねェ!!!」

 

『花ノ国のギャング 八宝水軍第13代棟梁 サイ 懸賞金1億6000万ベリー』

 

「だが加減はしねェぞ!! おめェらのせいで迷惑してんやい!!!」

 

『花ノ国のギャング 八宝水軍第12代棟梁(隠居人)首領・チンジャオ 懸賞金5億4200万ベリー』

 

「ひやホホ!! 未熟者共が!!! この程度で世界最強を名乗ろうとは片腹痛いわ!!!」

 

 現棟梁と副棟梁であるサイとブーの兄弟に、先代の棟梁でありロジャー時代の伝説の海賊である首領・チンジャオにギフターズも含めた戦闘員が次々と倒されていく。彼らもその看板に腰が引けていた訳ではないが、実力の前には戦意の有無は関係なかった。武器を構えながらも達人達に悪態をつく。

 

「クソ!! 止まらねェ……!!」

 

「ジジイ1人に押されちゃ“百獣”の名折れだ!!」

 

「なんとしても止めろォ~~~!!!」

 

「意気やよし!! それに免じて一思いに叩き潰してやるわァ!!!」

 

「ウギャア~~~!!!」

 

 しかし真打ちがまだ到着していない百獣海賊団側は八宝水軍に押され続ける。

 戦線が押され、建物を破壊しながら戦闘の被害が拡大する。百獣海賊団にとってこの島がどれだけ壊れようが構わないが、それでも戦闘員がやられ続けるのは当然看過出来ない。

 とはいえ1000人の船員を抱える八宝水軍を倒すには骨が折れる。数は上回っているのもあり、戦意は衰えないがそれでも苦しい戦況が続いている。

 

「……ん!? この建物は……!!」

 

「あ……!!? や、やりやがったなてめェ~~~~!!?」

 

「お、おいおいマジかよ……!!!」

 

 ──だがふと、チンジャオが破壊した建物を見て戦闘員が顔を青褪めさせる。

 建物や島の施設が幾ら壊れても良いのは本当だが、その店だけは別だ。もし見られたらとんでもないことが起こるとウェイターズが驚愕と怒り、怯えが混じった声をチンジャオに向けた。

 

「その建物は……ぬえさんのTDやグッズが売られてるファンショップだぞ!!? 正気かジジイ!!!」

 

「見られたらおれ達まで巻き添えを食らうかもしれねェ……み、見られてねェよな……?」

 

「……!! フン!! 何かと思えばぬえの店だと……!?」

 

 そう、それは百獣海賊団の副総督。今この海で最も恐ろしいと言われる大海賊“妖獣のぬえ”のアイドル活動によって生み出されたTDや各種グッズが売られている店だ。

 アイドルとしての活動にも力を入れているぬえのそれは百獣海賊団にとっての禁忌だ。その歌を扱き下ろしたり、グッズを破壊したり、ファンを傷つけたりするのはぬえの逆鱗に触れる行為である。店を壊すなど以ての外だ。ゆえに海賊達はぬえがこの惨状を見てないかを心配した。

 だがチンジャオはそれに気づきながらも──地面に落ちたぬえの写真を足で踏みつける。

 

「!!? てめェこのバカ!! 命知らずめ!! ぬえさんの写真を踏みつけるとは……!!」

 

「黙れ!!! こんなものに恐れるか!!! 我らはカイドウとぬえの首を取りに来たんじゃ!!! 写真や店程度でゴタゴタと言ってる暇があるなら“力”で来い!!! それが貴様らの望んだ世界じゃろう!!!」

 

「……!! この隠居ジジイが……!! ぬえさんの怖さも知らねェで……!!」

 

 恐れ知らず。首を取る覚悟でやってきた花ノ国の伝説の海賊であるチンジャオはそんなことを恐れない。覇気を立ち昇らせ、髭が逆巻くその姿は修羅の如く。

 そんなチンジャオの姿に百獣海賊団の戦闘員は気圧されたが……しかし、そこにまた恐怖の存在がやってくる。

 

「──ぬ、ぬえ様のショップ……」

 

「──チッ、情けねェ。雑魚共が随分とやられて……おい姉貴!! やるぞ!!」

 

「げっ!!?」

 

「ぺ、ページワン様に……うるティ様~~~!!!」

 

 リゾート街のその場所に走って応援にやってきた2人は百獣海賊団の真打ちであり、その中でも最強の“飛び六胞”。ページワンとうるティの姉弟だった。

 ページワンはビーチから街に侵入して部下達を討ち倒す八宝水軍を見て舌打ちを鳴らす。そして横で壊れた建物を眺めている姉に声を掛けた──が、返事が返ってこないことに訝しみ、もう一度声を掛ける。

 

「おい姉貴!! 聞いてんのか!!?」

 

「……許さない……!!! よくもぬえ様のグッズの数々を!!!」

 

「あ、おい!!」

 

 だがうるティは弟のページワンの声すら今は無視し、突然爆発するように怒りという名の覇気を立ち昇らせて加速した。その原因にページワンは少し遅れて気づく。

 百獣海賊団では周知の事実。うるティはブラコンでページワンに何かあれば激高し、誰が相手でもカミつく。それが1つ目の地雷ポイント。

 そして2つ目の地雷ポイントがぬえに関することだ。

 何しろ彼女は──百獣海賊団にいるぬえのファンの中でも……特に彼女にハマっている大ファンなのだ。

 

「このジジイ~~~~~~!!!」

 

「ぬ!? 貴様は……!!!」

 

 そして店を破壊した張本人であるチンジャオに真っ直ぐに向かっていく。チンジャオもその強い覇気に気づき、頭を黒く硬化させて迎え撃つ。

 うるティもまたそのでこに怒りを込めて黒く変化させ、チンジャオへ向けて力の限り思い切り叩きつけた。

 

「“ウル頭銃(ズガン)”!!!」

 

「“無錐龍無錐釘(むきりゅうむきりくぎ)”!!!」

 

「!!!?」

 

「うわァ!!!」

 

「ギャアア~~~!!!」

 

 鋼を更に鈍くしたような音が響き、黒い雷のような衝撃波が発生し、地面と周囲の人々を弾き飛ばす。

 どちらも頭突きを得意とする覇気使い。互いに相手を睨みながら一歩も引かず、その意志は衝突して雷鳴の如く音となって轟く。

 

「ウ、ヌゥ……!!!」

 

 だが時間にして数秒。引いたのはチンジャオの方だった。

 

「……!! ひやホホ……!! この私に頭突きで張り合うとは……それに()()()()……カイドウとぬえも骨のある部下を従えておるようじゃな……!!!」

 

「うるせェ!!! よくもぬえさんのお店を……!! お前はタダじゃ殺さないでごんす!!! その頭が割れるまで地面に叩きつけて土下座させて殺してやる!!!」

 

「! ようやく厄介な相手が出てきたか……!!」

 

 チンジャオは目の前の自分の4分の1程度しか生きていない小娘を見て、しかし眉を立てて警戒する。己に対して全く恐れず、強い覇気をこちらにビリビリと浴びせてくるその小娘はチンジャオの頭突きに打ち勝ち、後退りさせるほどのパワーを持っている。おそらく全力で戦っても──厳しい相手だと。

 

「ジジイ!! そいつ、飛び六胞だ!! 気をつけろやい!!!」

 

「てめェもな……!! 八宝水軍の跡継ぎ……!!!」

 

「!?」

 

「アニキ!!」

 

 そして相手が危険なのを悟ったのはチンジャオだけではない。孫であるサイが注意を口にしたが──その瞬間に人獣型の恐竜がサイに素早く肉薄し、その爪を横腹に叩きつける。

 咄嗟に弟のブーが割って入り、追撃を阻止したが、それでも斧は容易く受け止められてピクリとも動かない。動物(ゾオン)系の古代種の能力を持つ鍛え上げられたその肉体、圧倒的なパワーは“西の海(ウエストブルー)”からやってきた拳法の達人達を容易に力で叩き潰す。

 

「首領・チンジャオにサイ。それにブーだったか……!! 花ノ国の八宝水軍といやァウチが勧誘を掛けてたハズだ。その返事でもしに来たか……?」

 

「っ……!! 誰がてめェらの部下になんざなるかよ!!! てめェらのせいで国がどうなったか……!!! 知らねェとは言わせねェ!!!」

 

「知らねェな。おれ達が欲しいのはお前らの戦力と財宝だけだ……!! それ以外が()()()()()()知ったことじゃねェよ……!!!」

 

「く……!!」

 

「こ、の……仁義の欠片もねェ外道共がァ!!!」

 

 斧の刃を手で掴み取り、横から飛び込んできたサイの薙刀も防ぐ“飛び六胞”ページワン。人獣型の尻尾が薙ぎ払いを行い、周囲の八宝水軍に打撃を与える。それだけで瓦礫が宙を舞った。

 現頭領と副頭領を2人まとめて相手にするページワンに、サイとブーは驚愕する。“飛び六胞”は真打ち最強とはいえ大看板ではない一幹部。そのたった1人を相手にこれほどの差があるのか……!!? と。ページワンはスピノサウルスをかけ合わせた自身の膂力で2人の刃を受け止めながら怒りで周りが見えていない姉に声を掛ける。

 

「姉貴!! 一応こいつらは生け捕りにしろよ!?」

 

「あァ!!? 生け捕り~~~~!!? でもぺーたん!! こいつ、ぬえ様のお店を!!!」

 

「それも含めてぬえさんに後で聞きゃいいだろ!! こいつらは財宝を持ってる!! 殺すのはその情報を吐かせてからでも遅くはねェ……!!!」

 

「!! てめェら……ウチの財宝を奪う気か……!!」

 

 ページワンの提案。うるティに言ったその企みにサイが額に青筋を立てる。八宝水軍が代々集めた大量の財宝。それを手に入れるには情報と手段が必要な上、捕らえて心を折れば戦力になる。百獣海賊団のお決まりの処遇だ。

 それに八宝水軍に勧誘を掛けたのはそのぬえだった筈だとページワンは思考し、百獣海賊団の利益と自分達の手柄を得るために動く。──そして財宝と聞けばうるティもまた方針を変えた。

 

「それは良いでごんすね……!!! その財宝で弁償してもらうでごんす!!! ありがたく使ってやるからさっさと倒れろ!!!」

 

「……!! 我が一族の財宝……!!! あれは……あれは全て我が一族のものだ……!!! 貴様らには絶対にやらん!!!」

 

 チンジャオは富を奪うと言ううるティの言葉に目を鋭くし、怒りと嘆きの籠もった怒声を吐いた。

 彼にとってはもう手に入れられない宝だが、手の届かない場所にあろうともそれは自分達の物。他者に奪われるなどありえない。命を賭してでも守ると先ほど込めた覇気よりも更に強い覇気でうるティに攻撃を加える。

 しかし、その必死の抵抗もうるティは押し返す。周囲に破壊が広がる中、八宝水軍は修行を終えて強くなった飛び六胞2人と圧倒的な数を誇る百獣海賊団の戦闘員との戦いに、不退転の決意で臨んだ。

 

 

 

 

 

 ──デルタ島、屋台村。

 

 幾つもの出店が建ち並び、島の中で最も賑やかかつ人の出入りが多いその一帯では百獣海賊団とフェスタの集めた海賊連合の激しい戦いが繰り広げられていた。

 だが、それが主に行われているのは大通りとその周辺であり、そこから少し外れた裏通りには人気も少ない。

 

「……! 囲まれたか……」

 

「あァ……面倒な連中に嗅ぎつけられたな……」

 

 そんな中で、2人の海賊は周囲に現れた影に目を細め、警戒を強くする。

 路地裏で人目から隠れるように動いていた2人は事が始まってもあまり人に見られることもなく暗躍を続けることに成功し、運悪く通りがかり目撃した者は路地裏の染みにすることでそれを継続していた。

 だがしかし、彼らはふと周囲に複数の統制された気配を感じて立ち止まる。

 建物と建物の間に出来た広い空き地。その周囲の屋根や窓、木箱や陰に降り立ち、2人を囲むそれらは唸り声を上げて威嚇を行っている。

 四足でそれを行う者もおり、その特徴は明らかに人ではない獣のものであるが──彼らはそのどちらにも属する集団だった。その特徴を見て、スーツを着た坊主頭の男が静かに声に出す。

 

「やはり全員が能力者……!!」

 

動物(ゾオン)系……それも全員がネコ科の能力者だ。天然も人工も交じってるが……全く、獣臭くて敵わねェぜ……!!」

 

「──言ってくれるじゃねェか。人のナワバリに入って騒ぎを起こしておきながらその言い草はねェだろう」

 

「!」

 

 坊主頭の男の言葉に傍らの葉巻を咥えた左手が鉤爪の男が周囲の連中の文句で返すと、それに反応してまた1人の影が現れる。

 2人が見る空き地の正面。自分達がやってきた方向とは反対側の通りから長身の男がやってくる。シルエットはスマートで、頭の2つの角が特徴的だ。周囲の者達と違って完全に人の見た目をしている。

 だが漂ってくる気配は周囲と同じ種別でありながら、圧倒的に強かった。赤いスーツを身に着け、上半身の前を開けている。胸板には男を示すタトゥーが刻まれており、左右には周囲と同じ特徴を持つ美女が侍るように並んでやってきて、片方は男の得物である長い刀を持っている。

 そして周囲の気配はその男の指示を待って行動を起こさず、自分達の本能を抑えていた。それが示すのは──やってきた男が彼らの長であるということ。

 それもその筈。男は百獣海賊団の幹部“真打ち”最強の6人“飛び六胞”の1人であり、元々この海で海賊団の船長として名を馳せていた強者。鉤爪の海賊もまたその男を知っており、逆もまた然りだ。葉巻の煙と煙草の煙が路地裏の中空を揺蕩い、2人の挨拶がその下に響く。

 

『元“王下七武海”海賊“サー・クロコダイル 懸賞金5億8100万ベリー』

 

「久し振りだな、化け猫野郎。この薄汚ェ路地裏がお前らの住処か?」

 

『百獣海賊団“飛び六胞”フーズ・フー 懸賞金8億2800万ベリー』

 

「戦争以来か、ワニ野郎。あの時はゆっくり話す暇もなかったが……元“七武海”サマが一体何の用だ? お前のことだ、何か企んでるんじゃねェか?」

 

「教えると思うか?」

 

「だろうな。じゃあ身体に聞くしかねェが……先に聞いといてやる」

 

 元王下七武海サー・クロコダイルと飛び六胞フーズ・フー。2人の猛者が路地裏で対峙する。

 クロコダイルの背後には彼の部下である“殺し屋”ダズ・ボーネス……バロックワークス時代から付き従う殺しのプロが背後を固めて周囲のフーズ・フーの部下達──ネコ科の動物(ゾオン)系の能力者達を警戒する。そして冷静に分析した──仮に戦闘になればこちらは不利。百獣海賊団で上から数えた方が早いフーズ・フーの強さも然ることながら、フーズ・フーの部下達も鍛えられており、普通のギフターズよりも練度は高い。元々からフーズ・フーの部下である彼らは天然の能力者だろうと人工の能力者であろうと実力はそれなりにあり、仮に一対一でダズが勝ろうとも複数で掛かられると苦戦を強いられることは確実。すぐに襲われないのは長であるフーズ・フーの号令を待っているからで、彼らは狩りの態勢を崩してはおらず、クロコダイルとダズ・ボーネスに無遠慮な視線を浴びせていた。

 だがクロコダイルはその状況でも動じない。視線をフーズ・フーにだけ合わせて言葉を耳にする。答える言葉もまた淀みない。

 

「クロコダイル……お前、ウチに入る気はねェか?」

 

「──ねェな。考えただけで虫酸が走るぜ……あのイカレ兄妹の使いっぱしりなんざ死んでもごめんだ」

 

「貶してくれるじゃねェか……政府の犬として忠実に働いてた男の発言とは思えねェな」

 

「ペットとして良い子に働いてる野郎に言われたくねェな」

 

「へっ……相変わらずムカつく野郎だ。格下の癖に口だけは回りやがる」

 

「…………」

 

 クロコダイルの生意気で貶し続ける発言に、周囲のフーズ・フーの部下達は「ガルル……!!」と唸り声を上げたり、睨みつけることで敵意を向けたが当のフーズ・フーはニヤリと笑って気にした様子はない。煙を蒸しながら“格下”とクロコダイルを蔑む。クロコダイルはそこで初めて言葉を返さずに無言になった。フーズ・フーの言葉に視線だけを返し続ける。

 

「だが強者ならウチは多少生意気でも許されるぜ? 強ェ奴はその分見返りもデカく優遇される……七武海なんかよりよっぽど快適だ」

 

 フーズ・フーはクロコダイルを百獣海賊団に勧誘するための売り文句を口にする。

 彼もまた一船の船長として活動し、それから百獣海賊団に加入した外様の海賊。尤も、外様の中では古参と言える所属年数になってきたが、だからこそ他所と百獣海賊団の良さを説明出来るし、クロコダイルは百獣海賊団の水が合うとも考えていた。

 

「……そのために尻尾を振って傘下に入れってか」

 

「賢いお前なら現実が分かるだろう。他の“四皇”や新政府が、ウチを潰せると思うか? カイドウさんやぬえさんに勝てると思うか? ──無理だろう。たとえ徒党を組もうがウチは潰せねェ……海賊王を決めるレースは近い内に終わる……!!! その時に重要なのは、より上の“地位”だ……!!!」

 

「…………」

 

「そのためにも力と手柄を得るのが何よりも重要だ。おれに協力しろ、クロコダイル。頭の回るお前がおれに協力して動けば、より手柄を持ち帰ることが出来る。おれが“大看板”になった暁にはお前にもそれなりの見返りを──」

 

「──もういい」

 

「! ……あ?」

 

 しかし、その売り文句は途中で打ち切られる。

 クロコダイルは短い言葉でそれを止めさせ、代わりに自分の思いを口にした。興味深い話ではあったが、あまりにもくだらない──考慮することすら値しない話だと。

 

「おれを誘ってどんな壮大な計画が飛び出すかと思えば……ただのゴマすりの提案か。黙って聞いて損したぜ……!! 下らねェ。乗る価値は微塵もねェな」

 

「…………ハッ、だったらどうするつもりだ? まさか“海賊王”を目指すなんてバカな事言わねェよな?」

 

「──てめェには関係ねェだろう……おれが何を計画し……()()目指そうとな……!!!」

 

「!?」

 

 海賊王争いはもうじき終わる──そう断言したフーズ・フーに対し、クロコダイルは不敵な笑みを浮かべて腰を落として構えを取った。その行動から見える答えは明白。口にこそしなかったが、クロコダイルはフーズ・フーにかつて失った筈の意志を見せつけた。

 そしてその行動にフーズ・フーは虚を突かれ、笑みを消す。目の前のクロコダイルという男を知るからこそ、その言動が理解出来なかった。

 

「……血迷ったか? お前程の男が……“海賊王”という言葉の重みを知らねェハズがねェ。負けが込んで現実が見えなくなったんじゃねェだろうな? おれ達が殺した“白ひげ”に負け、“最悪の世代”のガキにも負けたお前とカイドウさんとじゃ、海賊の格が違う……!!」

 

「今度はボスの威を借りた脅しか? てめェの魂胆は分かってる。無駄な体力を使わずにおれを下して利用したいようだが……生憎とおれはそんなつまらねェ誘いには乗らねェ。当てが外れて残念だったな」

 

「チッ……そうかよ。だったらしょうがねェか……!!!」

 

 クロコダイルの減らず口に舌打ちを鳴らし、フーズ・フーは変型する。動物(ゾオン)系の人獣型。ネコネコの実の古代種、サーベルタイガーの能力を持つフーズ・フーの人獣型は、本人の鍛え上げられた肉体と合わさってクロコダイルの倍以上の巨躯となる。

 

「そこまで分かってるならいい……おれはてめェなんざ眼中にねェんだ……!! てめェはおれ達の“餌”に過ぎねェ……!!!」

 

 そして傍らの部下の女性から刀を渡され、フーズ・フーはそれを抜いて構えた。長い牙を露わに威圧すると、周囲の部下達も戦闘を始める態勢に入った。クロコダイルの背後のダズ・ボーネスが全身を覇気で硬化させて攻防の構えを取る。

 一触即発。フーズ・フーとクロコダイルの動きを合図に戦闘が始まる。その前の最後のやり取りを2人は行った。

 

「どんな算段があるかは知らねェが……慎重なお前にしては迂闊だったな、ワニ野郎。お前の失敗はこの島におれ達がいると知りながらまんまとやってきたことだ……!!! お前じゃおれに勝てねェよ……!!!」

 

「部下をこれだけ集めといてよく言うぜ……おれにビビってる証拠だろう」

 

「へへ……羨ましいか? 部下を失ったお前には辛いだろうが、安心しな。お前はおれ1人で相手してやるからよ……!!!」

 

「! ……口には気をつけな。化石に戻されてェのか?」

 

「やってみな“格下”……!!! 精々逃げ回ってみろ!!!」

 

「……!! 来るぞ、ダズ!!」

 

「ええ……!!」

 

 フーズ・フーがクロコダイルに飛びかかるのを合図に、フーズ・フーの部下達が一斉にダズ・ボーネスへ襲いかかる。短い意思疎通の後、鉤爪と刀が激突し、屋台村裏通りの戦いは始まった。

 

 

 

 

 

 デルタ島、コロシアム及びコロシアム周辺は島の各所と比べて激しい戦いが繰り広げられていた。

 その原因は突如襲撃を掛けてきた海賊達のせいもあるが──他と比べて圧倒的に違うところが1つ。

 

「ちくしょう!! 四方八方から攻めてるのに……!! 全く打ち崩せねェ!!」

 

「主力とはいえその大半は試合後で疲れてるハズだろ!?」

 

 襲撃を掛けた海賊達は実質、本丸であるそこを攻めながらも攻めきれない。

 そしてその原因も明らかだった。コロシアムから出てくる百獣海賊団の主力──その多くが動物(ゾオン)系の能力者で構成される……“真打ち”達だ。

 

「おいおいどうした!! もう疲れたのか!!? こっちはまだ元気が有り余ってるぜ!!」

 

「パオパオパオ……!! おれ達に喧嘩を売ったこと思い知らせてやる!!!」

 

「捕まえて新しい奴隷にしてやるれすよ!!! ──あ、してやらないれす!!!」

 

「名のある奴はさっさと出てきな!! 首を取って手柄にしてやる!! 昇格争いはまだ終わってねェぜ!!」

 

「今から土下座してカイドウさんとぬえさんに忠誠を誓うなら許してやらなくもないけどね♡」

 

「ワハハハハ!!! おい木っ端海賊共!! そっちに能力者は何人いるんだァ!!? こっちは能力者1000人の無敵の軍団だぞバカめ!!! ──ちなみにおれ様は能力を2つ持っている!!! (1つは剣だが!!)」

 

「……!! クソ……コロシアムから出てくる能力者の兵が途切れねェ……!!!」

 

 百獣海賊団に様々な理由で狙いをつけ、襲撃に加わった海賊達の数は2万人近い大連合となり、その大半を主力がいるコロシアムに向けていた。質もそれなりで数は十分。大半の海賊はこのフェスタがかき集めた海賊連合の前にすり潰されるだろう。

 だが例外も存在する。その筆頭が彼らが相手をする百獣海賊団だ。

 世界最強の戦力を有すると公言する彼らの総戦力は戦争後も更に増している。その数……実に8万人。 

 その大半はウェイターズやプレジャーズで占められ、旧ワノ国の侍達であるウォリアーズ。偵察部隊メアリーズも含めて大部分の数はそれらだが……問題は1割にも満たないギフターズと真打ち達だ。その圧倒的な兵力を──コロシアムの外周部。内部から指揮を執るクイーンは高らかに相手に聞かせる。敵の戦意を更に挫いて絶望させるために。

 

「ムハハ!! 人工悪魔の実“SMILE(スマイル)”の能力者が約900人!! 天然の悪魔の実の能力者は約100人!!! 実に1000人の能力者軍団だ!!! 復讐がしたけりゃ好きなだけ戦ってみろ!!! 1人でも討ち取れれば褒めてやるぜ!!! やる前に死ぬのがオチだろうがなァ!!!」

 

「……!! 畜生!! あの野郎ォ……!!!」

 

「ム~ハッハッハッ!!! 悪いこと言っちまったか!? ──なら詫び代わりに良いものくれてやるぜ!!!」

 

「!!? 何を……!!」

 

「バカ!! おそらく“疫災”だ!! 躱せ!!」

 

 クイーンは眼下の海賊達を煽りながら、大砲のようなもので空中に何かを発射する。クイーンの異名から海賊の1人が“疫災”だと注意を呼びかけ、それを躱そうと試みるが──それは遅い。空からはキラキラした何かが降り注いだ。

 

「何だこいつは……!?」

 

「粉か……いや、金粉……!?」

 

「あいつ、何を……!?」

 

 だがそれは“疫災”ではない。空中から降り注ぐのは金粉。

 ある男が能力を行使するために必要な金が、敵の海賊達に降り注いだ。それを合図にクイーンは傍らにいた男の1人に声を掛ける。

 

「やれ、テゾーロ!!」

 

「──ええ」

 

「ぐわァ!!」

 

「何だ!!? 急に拘束され……!!」

 

「金が動いて……!!」

 

「……!! あいつだ……“新世界の怪物”……ギルド・テゾーロ!!」

 

 その金の粒子は男の意思で自在に動き、浴びた者達の動きを金で固める。

 こんなことが出来る者は1人しかいないとそれを知る者達は感づいた。金を生み、金を操る“ゴルゴルの実”。その能力を持つ“黄金帝”──ギルド・テゾーロ。

 

「ハハハ……!! 良い眺めだ、愚かな貧乏人共……!!! 私が戦う義理はないが……せっかくのお祭りだ。観客である君達に私の能力を見せてやろうと思ってね。どうだ? 楽しんでくれてるかな?」

 

「く……!! 動けねェ……!!」

 

「怯むな!! 向こうは籠城するしかねェんだ!! 金を浴びた奴を押しのけて進むぞ!!!」

 

「おお!!」

 

 テゾーロの金粉を浴びた者達は一様に金で固められて動けなくなる。それらを押しのけて海賊達が怯まずコロシアムの入り口に殺到した。

 だがそこには百獣海賊団の主力たる真打ち達がいて──更にはこの海で最も美しいと言われる海賊もいた。

 

「“メロメロ甘風(メロウ)”!!!」

 

「!!!」

 

「!? マズい……!! この能力は……!!」

 

「“海賊女帝”……!! 貴様ァ~~!!」

 

「ふん……脆弱な男が攻めたところで無駄じゃ。その程度では百獣海賊団は打ち崩せん……さっさと石になるがいい」

 

 百獣海賊団の傘下として新世界で暴れている悪名高き元“七武海”──“海賊女帝”ボア・ハンコック。

 男も女も魅了する彼女の美貌。魅了した者を石に変える“メロメロの実”の能力は非常に強力で、海賊達を歯牙に掛けない。なんとか戦意を維持している海賊達もテゾーロとハンコックの登場で額に汗を掻く。覚悟して分かってはいたが、大看板や真打ち、元七武海や怪物がいるコロシアムを落とすのはかなり厳しい。それが大半の海賊の認識だ。

 

「──どけ」

 

「!」

 

「ん? あいつは……!!」

 

 だが、中にはそれらに全く恐れを抱かない猛者もいる。

 怯む海賊達を押しのけ、前に出てきたその大男は肩に小さな老人を乗せながら手に持った銃をコロシアムの入り口に向けた。銃1つで何とかなる訳がない──が、その海賊の容姿に見覚えのある真打ち達が反応する。嫌な予感がすると。その瞬間。

 

「“モアモア100倍(ガン)”!!!」

 

「!!!」

 

「は……!!?」

 

「でけェ!!? 嘘だろ!!?」

 

「うわァ~~~!!!」

 

 銃弾が真打ち達に激突する。たった一発の、しかし能力で100倍に大きくした弾が。

 そしてそれを行った海賊は上を見上げて今度は“大看板”のクイーンに目をつけた。クイーンもまたその男に見覚えがある。インペルダウンから脱獄した大海賊の1人。かつてその能力“モアモアの実”の力でこの海で破壊の限りを尽くした男。

 

『ワールド海賊団船長“世界の破壊者”バーンディ・ワールド 懸賞金6億ベリー』

 

「雑魚共を幾ら潰してもつまらねェ……!! カイドウやぬえをやる前に、まずはてめェらからだ……“大看板”……!!!」

 

「! バーンディ・ワールド……!! ムハハハハ!! まだ生きてやがったか!!」

 

「“モアモア10倍速”……!!!」

 

「! 消えた!?」

 

 ワールドは自身の速度を“10倍”にして跳躍し、六式の“月歩”を用いてクイーンに迫った。下の海賊達がその姿を視認出来ないほどの速度。だが笑うクイーンは余裕の表情を崩さない。

 

「何言ってやがるバカめ!! お前にカイドウさんとぬえさんは殺せねェし……おれも殺せねェよ!!! この名前負け野郎!!!」

 

「……! ワールド、気をつけろ……!! “大看板”の強さは“大将”にも匹敵すると──」

 

「黙れビョージャック!! おれは……百獣海賊団を“破壊”する!!! このおれをハメやがった……“CP(サイファーポール)”がいる百獣海賊団をな……!!!」

 

 クイーンが能力を解放し、ブラキオサウルスとなってワールドを迎え撃つ。口の中に収束させ、ビームを放とうとするクイーンにワールドの兄であるビョージャックが警告したが、ワールドは耳を貸さない。

 何しろ彼にとって百獣海賊団は恨みある仇敵なのだ。彼はフェスタから全て聞いた──自分が捕まる羽目になった事件の黒幕は“CP”であり、その“CP”は百獣海賊団に所属していると。

 ゆえに彼は破壊の対象を世界最強の海賊団に決める。たとえどれだけ実力が離れていようとも──復讐者の歩みを止めることは出来やしない。

 

 

 

 

 ──デルタ島、コロシアム内部。

 

『外の戦いが激しくなってきたな……!!』

 

「ええ。もっとも──面倒な事態なのは()()()()同じだけど」

 

 百獣海賊団の主力が集結していたコロシアムの内部で“大看板”ジョーカーは同じ“大看板”キングに傍らのメアリーズを通じて通信のやり取りを行う。

 外部の戦闘の音や状況は全体の指揮を執るキングや情報の共有と伝達を担うジョーカーにも伝わっており、各所で戦闘が始まったことは分かっていた。

 カイドウやぬえが戦闘を続けてることも分かっており、それを知りながらも2人は落ち着いている。そちらについては全く心配していない。それよりも全体や、目の前の事態を片付けることが最重要だと彼らはそれぞれ目の前の“敵”を見据える。

 

「──ムルンフッフッフッ……なんでバレたのかしらねェ?」

 

「──私達の情報力を甘く見たわね。人には見られてないと思って安心したのかしら? でも残念♡ 壁に耳あり、障子に目あり……貴方達の動きは私には筒抜けだったわ……!! 貴方が化けるところも、ちゃんと私達は覗いてる……!!!」

 

 ──コロシアム内部。とある部屋に続く広い廊下の前にジョーカーと1人の姿を化かしていた女海賊。

 

「見ろ。言わんこっちゃねェ……おかげでこっちは面倒過ぎる相手だ……」

 

「インペルダウンの元看守長……“雨のシリュウ”……!! 運が悪かったな。おれ達の前に姿を現したからには“黒ひげ”の居場所を吐いて貰う……!! カイドウさんとぬえさんはあの戦争で水を差した“黒ひげ”を殺したがってるからな……!!!」

 

 ──コロシアム内部。最上階にキングと1人の海賊。

 

 その2人は百獣海賊団でも捕らえれば莫大な報酬が約束されてる指名手配も同然の海賊だ。頂上戦争で横入りを行ったことで、カイドウとぬえの怒りを買ったその海賊団は、かつて“白ひげ”を裏切り、逃亡を続け、頂上戦争が起きる切っ掛けを作った海賊……“黒ひげ海賊団”。

 

『黒ひげ海賊団戦闘員“雨のシリュウ” 懸賞金8億4500万ベリー』

 

「……だ、そうだがどうする? 売れば命は助かるかもしれねェぞ?」

 

『黒ひげ海賊団戦闘員“若月狩り”カタリーナ・デボン 懸賞金7億9300万ベリー』

 

「ムルンフッフッフッ……そうねェ。別に売るのは問題ないけれど、それで助けて貰えるかは微妙よね。何せ相手はあのカイドウに()()()()だもの……!!」

 

 それぞれの場所で大看板と対峙し、黒ひげ海賊団に所属する2人は対応を話し合う。悪名高い2人だが、それだけに“黒ひげ”に対する忠誠心というのはないに等しい。

 インペルダウンの看守長でありながらかつては囚人を斬り殺し過ぎたせいでLEVEL6に投獄され、面白みを求めて黒ひげに寝返った“雨のシリュウ”に、海賊の世界では“最悪の女囚”と呼ばれるLEVEL6の囚人。美女の首をコレクションする猟奇的な趣味を持つことで“若月狩り”の異名を持つカタリーナ・デボンの2人にとって、黒ひげ海賊団というのは他よりも面白そうで自分達が良い思いを出来そうだから所属しているだけだ。

 だがとはいえ百獣海賊団に寝返ったところで無事でいられる保証もなく、また今“黒ひげ”を見限るべきか迷う部分もある。ゆえに2人はカイドウとぬえの懐刀である大看板の反応を見てそれを窺った。

 

「それで、どう? アタシは裏切っても構わないよ。アタシはぬえさんを尊敬してるからねェ♡」

 

「あらそう。でもきっとぬえさんは貴方を殺すわ、デボン。貴方は今まで美女の首を狩ってコレクションにしてきたようだけど……貴方自身がコレクションにされるんじゃないかしら」

 

「! ……ムルンフッフフフ……!!! さすがはアタシが唯一尊敬する女海賊ね……!! ゾクゾクするわ……!! アタシ以上に趣味の悪い人なんて見たことない……!! でもそれなら抵抗しないと損ね……」

 

 デボンはジョーカーの返答を聞いて武器である槍を取り出し、化けていた百獣海賊団の見た目から九本の尾を持つ人型に姿を戻す。イヌイヌの実の幻獣種モデル“九尾の狐”の能力を持つデボンは見た目を全くの別人に変えることが可能で、今までこの能力を用いて様々な場所に忍び込み、目当ての相手に近づき……美女の首を狩ってきた。今回もとある企みを成功させるべく忍び込もうとしたが……それはジョーカーの手によって阻止される。

 

「──交渉の余地は無さそうだな……全く、ついていく相手を間違えたぜ……!!」

 

「! その能力は……!! なぜお前が“カゲカゲの実”を……」

 

「フン……その情報も付けてやるってのはどうだ?」

 

「……いや、いらねェな。こっちにはそういうことを不思議と知ってる人がいる。たとえその人が知らずとも、お前から聞き出せば済む話だ……!!!」

 

「チッ……まいったぜ。拷問は御免被るな……幾ら慣れてるとは言ってもよ」

 

「される方は慣れてねェだろう? お前ならぬえさんも満足するだろうな……元看守長……!!!」

 

 そしてシリュウもまたこの場にいない“黒ひげ”に悪態をつきながら刀の鯉口を切る。それと同時に自分の影を操って同じ形の影を出すが、その能力を見てキングは僅かに目を見開いて驚いた。影を操る能力は既に死んだ元七武海ゲッコー・モリアが持っていた能力。

 それをシリュウが持っているということは、新たにシリュウが食べたことには間違いないが……問題はどういう方法を使ったか。

 シリュウはその情報も教えてやると告げるが、キングはそれを断る。その手の情報は彼の尊敬する2人の内の1人に聞けば大抵のことは返ってくるのだ。本人が言うには「()()()()()()()()、知らないよ♡」とのことだが、キングが知る限り、そうやって言いながらも出てくる情報に間違いがあったことはなく、また何をどこまで知っているのか……その底は側で見てきたキングにも計り知れない。

 

「──何を企んでここに来たのかもきっちり吐かせてやる……!! 覚悟するんだな……!!!」

 

「──まあもしカイドウさんとぬえさんが許すようなら部下にしてあげるわ♡ “黒ひげ海賊団”をきっちり皆殺しにした後でね……!!!」

 

「矛盾してるじゃねェか……!!! 悪いが程々にやったら逃して貰うぜ……!!!」

 

「ムルンフッフッフッ!!! それは良いわね♡ なら今のうちに幹部の席を1つ空けておこうかしら……!!!」

 

 キングとシリュウの刀が衝突し、ジョーカーが姿を変化させるのと同時にデボンも姿を更に変化させる──人外の猛者達の激闘がまた始まった。

 

 

 

 

 

 デルタ島の北側は世界最強の戦いが繰り広げられている。

 

「カハハハハハハハハ!!!」

 

「グオオオオ……!!!」

 

 世界最強の男は部下から圧倒的な信頼を受けている。

 強さに関しては他の追随を許さない。たとえ相手が“赤髪”や“ドラゴン”だとしても“一対一(サシ)”なら絶対に勝つ。

 これを覆せるのはたった1人──男の兄妹分しかいないと、誰もがそう思っている。

 

 ──だが押されているのは男の方だった。

 

 巨大な龍となった世界最強の海賊“百獣のカイドウ”は挑戦者である“鬼の跡目”ダグラス・バレットの拳打の連撃を受けて悲鳴を上げながら大地へ落ちていく。

 

「カハハハハハ!!! どうした!!? そんなもんかカイドウ!!!」

 

「……!!」

 

 龍となる獣型で殴られ蹴られ投げられ──ダメージを負うカイドウは地に落ちるなり人型に戻り、口から僅かに血を流しながらバレットを睨む。

 “世界最強”を目指すバカ。元ロジャー海賊団で一度は歯牙にもかけずに薙ぎ倒し、ロジャーの死と共に地の底に封じられていた生意気な若造。ガルツバーグという国家で地獄を起こした元兵士。

 この“金色神楽”という百獣海賊団の大宴会に他と共謀して乗り込み、自身を殺すと豪語し、何度も殺意の籠もった暴力を叩きつける生意気過ぎる相手に対し──

 

「……バレットォ……!!!」

 

「!」

 

 カイドウが感じたのは“怒り”ではなく──“楽しさ”だ。

 

「!!!」

 

「!!?」

 

 血の跡がついた口元をニヤリと笑みに変え、カイドウはその手に持つ金棒に覇気を込めて思い切り振り抜く。

 バレットは即座に躱した。見聞色の覇気で危険を感じたからこその回避を選択。何も全て受ける必要はバレットにはない。回避もまた戦闘であり強さの1つだ。

 それに加えて突然速度が跳ね上がり、金棒を振るってきたカイドウに驚いたのもある──が驚くのは一瞬。バレットもまたすぐに好戦的な笑みを浮かべてそれを迎え撃つ。

 

「カハハ!! やっと力を出してきたか!!?」

 

「成程……力も速さも想像以上だ……!!」

 

 バレットはカイドウの金棒を覇気で硬化させた拳で受け止め、本気を出してきた相手に喜び、カイドウはバレットの予想以上の強さに喜んだ。

 力はカイドウが上だが、バレットは速さと戦闘技術。そして覇気でカイドウに食らいついており、戦闘が成立している。簡単には崩せない。

 カイドウはバレットをそう簡単には倒せず、バレットもまた世界最強の強さを楽しみ、それを超えることが出来るとこの状況に喜んでいた。

 

「簡単には終わるなよ……!!!」

 

「!」

 

 そしてカイドウが再び金棒に覇気を込める。今度は更に強い。雷の様な強い覇気が金棒から漏れ出している。バレットもそれに気づき、見聞色を用いて回避を行おうとしたが──気づいた時には食らっていた。

 

「──“雷鳴八卦”!!!」

 

「!!!」

 

 ──カイドウの必殺の一撃。覇気を込める溜めの後に、雷の様な速度で踏み込んで金棒で殴りつけるその技に、バレットは直撃して吹き飛ぶ。

 それは直撃すればおおよそ殆どの生き物が倒れる大技だが、それでもカイドウは笑みを戻さなかった。

 

「ウォロロロ……!! いいぞ、辛うじて防御したか……!! やるじゃねェか……!!!」

 

「……!! ッ、カハハハハ……!!! さすがは世界最強!!! 骨があるじゃねェか!!!」

 

 まだ倒れはしない。互いの言葉は不遜なもの。攻撃と防御を褒め称える。

 戦闘継続の喜びは続き、バレットは防御の為に込めていた腕の覇気を硬化させ攻撃に使った。カイドウはそのまま受けて立つ。防御を行う姿勢は見せない。

 

「──“最強の一撃(デー・ステェクステ・ストライク)”!!!」

 

「!!!」

 

 再び拳の連打がカイドウに炸裂する。

 そしてこちらもまた先程よりも強い。武装色の覇気をかなり込めて何度もカイドウの全身を打撃し、そのまま討ち倒す勢いで放ち続ける。

 

「──だが足りねェぞカイドウ!!! そんなもんで終いか!!?」

 

「ウアアアアアア!!!」

 

 カイドウは痛がり、悲鳴をまた上げる。バレットは当然容赦しない。一撃一撃に殺意を乗せて殴り続ける。

 

「これならぬえの方がよっぽど楽しめるかもしれねェな!!! ──来い!! カタパルト号!!!」

 

「……!!」

 

 そして更に追撃を行う。バレットはぬえの名前を出しながらカイドウを挑発し、同時に自身の船であり武器である相棒──カタパルト号を地下から呼び寄せた。

 それが意味するのは、一気に攻め立ててカイドウを殺そうというものだ。

 

「この船!! カタパルト号にはありとあらゆる武器!! 兵器!! 鉄が仕込んである!!!」

 

 そして彼もまた本気ではなかったということ。

 彼はカイドウだけでなくぬえや他の幹部達もこの場で殺すつもりでいた。場合によっては、他の海賊達も全て。

 ゆえに力の配分を考えながら、その上で早く終わらせなければならない。バレットはタイミングだけは合わせたとはいえ、協力者を協力者とは思っておらず、また信用もしていない。ぬえや幹部達が戦いに割り込んでくる可能性は十分にあり、その覚悟もとっくに済ませていた。

 

「おれは“ガシャガシャの実”の“合体人間”!!! あらゆる物を合体させ、変型することが出来る!!!」

 

 超人系(パラミシア)悪魔の実“ガシャガシャの実”。

 バレットが最強と誇るその能力を解放し、一気に押し潰す──そのために必要なのがこの自分の船とこの島なのだ。

 

「自らの強さと最強の能力!!! カイドウ!!! てめェでそれを証明してやる!!!」

 

 バレットが倒れたカイドウから離れ、船の上に乗ると遂にその能力が真価を発揮した。

 

「“鎧合体(ユニオン・アルマード)”!!!」

 

「……!?」

 

 バレットのカタパルト号が組み替えられ、バレットの鎧へと変型していく。

 一隻の船と同等の質量を持った鋼の鎧は覇気を込めることが可能で、バレットの強さを飛躍的に上昇させた。

 

「さあ幾らでも立ち上がってみやがれ、カイドウ!!! おれの能力はまだまだこんなもんじゃねェ……!!! てめェを殺すまで何度でも押し潰してやる!!!」

 

「!」

 

 それこそが“中型バレット”であり“鉄巨人”型のバレットだ。

 だがそれですらまだ本気ではない。バレットは更に奥の手を持ちながらもカイドウに向かってその形態の拳を振り下ろし、カイドウを叩き潰す。

 

「うわああああああああ!!!」

 

 巨漢であるカイドウの何倍もある巨大な拳に殴られ、地面に叩きつけられたカイドウは叫ぶ。

 北側の島がひび割れる程の一撃を食らい、ダメージを負うカイドウのその様を見てバレットは更に笑みを深めた。

 

「カハハハハ!!! この海で全てを手に入れられるのは……最も強ェ奴……ただ“1人”だ……!!!」

 

「……!!」

 

 倒れるカイドウに追撃の重火器と言葉を浴びせ、バレットは己の意志をここに示す。

 “世界最強”とはこの世の全てを手に入れられる者であり、それを成した男を越えるもの。

 目の前の最強を殺せばまた1つ、真の“世界最強”に近づける。それを確信し、バレットはカイドウを殺すための攻撃を何度も何度も放った──かつての“海賊王”を超えるために。

 

 ──だが。

 

「ウオオオオ……!!!」

 

「うっ……ああ~~~!!!」

 

 ──その“海賊王(ロジャー)”も……それに並び立った“白ひげ”も……彼らを知る者達が()()()()()()()()

 

 今の彼らの強さの“上限”……幾度となく痛めつけ、地に伏せることで顕れる──“2人”の正真正銘の“本気”を。




イッショウ→威力偵察。VSジャック。
八宝水軍→復讐。VSうるティ&ページワン。頭突き対決。ちなみに本作のうるティちゃんは考察の結果“アレ”を持ってます。
クロコダイル&ダズ・ボーネス→海賊王になるための企み。VSフーズ・フー。昔からの知り合い同士。ちなみにフーズ・フーも本作では考察の結果、巷でも有名な“とある説”をほぼ採用してます。
ワールド海賊団→復讐。VSクイーン&テゾーロ&ハンコック。
シリュウ&デボン→企み。VSキング&ジョーカー。妖怪ぬえちゃんファン対決&監獄剣士対決。
レッドフィールドVSぬえちゃん→ぬえちゃん獣型解放。レッドフィールド優勢。
バレットVSカイドウ→人型カイドウと戦闘。中型バレット解放。なおも押してる。
カイドウ&ぬえちゃんテンションゲージ→60%(第二段階)。体力ゲージの減少に比例してなおも上昇中。

今回はこんなところで。マッチアップはほぼ終了。キッドとかアプーとかの最悪の世代は次回。ブラマリとかササキも。
次回からは戦闘。カイドウとぬえちゃんもダメージを負って島が大変なことになりそうです。戦闘も中盤。このまま押し切れれば勝てるぞ!! 頑張れバレット&レッドフィールド!!

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