正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
──デルタ島、東の港。
複数の船が停泊する港街を横切るように駆ける一団。幾つもの海賊団が百獣海賊団へ襲撃を掛けて戦う今のデルタ島に於いても、その一団は決して見劣りしない名の知れた海賊だった。その海賊の名を武器を持った百獣海賊団の戦闘員達が周りに知らせるように呼ぶ。
「おい!! “キャプテン”・キッドがそっちに行ったぞ!!!」
「“殺戮武人”キラーに“魔術師”バジル・ホーキンスもいやがる!!」
「既に傷を負ってるぞ!!」
「こりゃいい!! 討ちとりゃ名が上がるぜ!!」
「昇格のチャンスだ!! 逃がすな!!」
世間で広く名の知れた話題性の高い海賊達──昨年に現れた“11人の超新星”こと“最悪の世代”が3人。港町から南側の岬へ向かって真っ直ぐに走っている。立ち塞がる者を薙ぎ倒しながら。
「──邪魔だ!!!」
「ぎゃああ!!」
「ハァ……ハァ……!! キッド!! 数が多い!! 雑魚を相手にして立ち止まるなよ!!」
「分かってる!! クソ……!! まさか襲撃がおれ達以外にもいたとは……!!」
キッド海賊団の船長であるユースタス・“キャプテン”・キッドとその相棒である戦闘員キラーは仲間を率いながら百獣海賊団にその鉄の腕や得物である“パニッシャー”を振るって逃げ続ける。その姿は苦しそうだが、原因は追手の強さや数の多さではなく、その前に別の襲撃者にやられた傷が原因であり、ハメられたことが理由であり、こうやって今は逃げるしかないことが出来ない自分達が不甲斐ないと、怒りと悔しさを抱いているのがその1つだ。
キッドは同じ世代の海賊達と手を組んでカイドウとぬえの首を取ろうと目論んで計画を立てて襲撃を行ったが、いざ襲撃を行おうと地下へ忍び込んだところで裏切りに遭い……そしてまた別の者に襲撃され、手痛い傷を負わせられた。
そしてその相手は今現在──カイドウと戦っている。
敵の報告らしき声を聞いてそれを思うと……キッドは歯を強く噛み締めた。
「……!!」
「……気持ちは分かるが1人で突っ走るなよ!? お前やおれが大丈夫でも他が持たねェ!!」
「くっ……ああ……!!」
だがその火が付きそうになるような思いも、相棒と仲間達を思うことで何とか抑えつける。
地下での襲撃で仲間の殆どが負傷し、満足に戦闘を行えない状態。中には他の仲間に肩を貸してもらっている者もいる有様だ。
そんな状態で自分のワガママを貫き通せば──待ち受けるのは何も出来ずに全てを失うことだ。万全であるならばともかく……全力も出し切れない状態で勝てると思うほどキッドはバカではない。
ゆえに船長命令で逃げることを辛くも選択した。少なくとも重傷で今にも死にそうな仲間達を船まで連れて行かなければ気になって戦いに向かえない。逃げる手段を確保しておくのはこの状況で重要だった。何しろ──この島には敵も多く、追手も多い。
「──“
「!!!」
「キッド!!?」
「! ……この能力」
それを証明するかのように、奇襲が仕掛けられる。キッドの身体が突如、爆撃された。
爆炎に包まれるキッドを見てキラーがキッドを守るように声を掛けながら周囲を警戒した。同様に襲撃者に反応した彼らの同盟者バジル・ホーキンスもその能力を見て襲撃者に見当を付ける。彼らが同様に向けた視線の先──前方には立ち塞がるように1人の手の長い男がいた。
「アッパッパ……!! 逃げられると思うなよ……!!!」
「……アプー!!」
「ッ……あの野郎ォ……!!」
キッドとホーキンスの部下達がその名を呼び、爆発のダメージを負いながらもすぐに立ち上がったキッドが相手を憤怒の表情で睨みつける。この状況に自分達が陥った原因である張本人。自分達と同世代の“最悪”の海賊を。
「てめェ……何しに来やがったアプー!!!」
『“最悪の世代”百獣海賊団情報屋(オンエア海賊団船長)“海鳴り”スクラッチメン・アプー 懸賞金3億9000万ベリー』
「決まってんだろそんなこと!! おれの任務はお前らを捕らえること!! それを果たしに来たに決まってんだろォ!!! チェケラ~~!!!」
「……! やはり……最初からカイドウの部下だったのか……!!」
キッド海賊団とホーキンス海賊団と同盟を組んだオンエア海賊団の船長“海鳴り”スクラッチメン・アプーは自分の身体をその手長族特有の長い手で叩いて鳴らしながら本性を現す。
先の地下でも百獣海賊団の戦闘員に囲まれ、“大看板”ジャックが現れたところで彼もまた敵方についてこちらを叩こうとした。そのタイミングで同様にダグラス・バレットに叩き潰されたのだが、彼はこちらに比べて幾分か元気があった。腕に包帯を巻いているところから一応治療を受けてからこちらに来たのだろう。憎々しいとキッドとキラーはアプーを見て青筋を額に立てる。
「おいおいそんなに睨むなYO~~~!! お前らの傷はおれ達が負わせたものじゃねェ!! おれ達がやる前にあのバレットとかいうイカレ海賊がやったことだぜ!!? ──まあどっちにしろそうなってたことには変わりねェだろうけどな!!! アッパッパ~~!! そうだろキッドォ~~!!?」
「……!! 調子に乗ってんじゃねェよゴミ野郎ォ!!! てめェがここに来たなら好都合だ……!! 撤退する前にてめェだけでも潰してやる!!!」
「! 待てキッド!!」
アプーが人を小馬鹿にするような挑発でキッドを煽り立てると、元々苛ついていたキッドはまんまとそれに釣られる。キラーが制止を呼びかけたが、一度火が付いたキッドは止まらない。金属の手に覇気を纏わせてアプーを殴ろうとする。だが、
「そう来ると思ったぜ!!! 確かにおれ1人じゃお前ら3人はキツいが……誰も1人だと言った覚えはねェぜ~~~~!!?」
「……!!」
「!!?」
アプーが真っ直ぐ突っ込んでくるキッドを嘲笑った瞬間、横からまた別の影が突入し、キッドを襲った。
だが襲われたのはキッドを庇ったキラーの方で、
「……!! ウッ!!」
「──キラー!!! ……てめェ……!!」
「──悪いな。だがこれも任務だ」
キッドを咄嗟に庇い、奇襲を仕掛けてきた相手の攻撃を防御したキラーは吹き飛ばされ、近くの建物に激突して痛みに呻く。相棒が攻撃を加えられたことでキッドがまたしても苛立った。その相手もまた見覚えのある同世代の海賊で、今度は元々百獣海賊団についていた事を知る相手。
『“最悪の世代”百獣海賊団真打ち“赤旗”X・ドレーク 懸賞金4億5800万ベリー』
「大人しく投降しろ。そうすれば必要以上に痛めつけることはしない。命も助かるぞ」
「アパパパパ~~~!! ナイスだぜドレーク~~~!!」
「クソが……!! どいつもこいつも……!!」
元海軍将校である“最悪の世代”の海賊、X・ドレークはその姿を人獣型──リュウリュウの実の古代種モデル“アロサウルス”の能力で変型した姿で二刀の武器を構えてキッド達を迎え撃つ姿勢を見せつける。
相棒が攻撃され、骨のある同世代の海賊だと認めていた連中が次々と敵として立ち塞がったことでキッドも更に苛立ちを募らせた。だが今度は突撃はしない。アプー1人ならともかくドレークまで現れた。“最悪の世代”の船長が2人。簡単に突破は出来ない。こちらも協力し、一戦交える覚悟を決めて立ち向かう。
──だがここは敵地。増援は止まらない。
「──あら……噂通り活きの良さそうなボーヤ達ね♡」
「!?」
「今度は……デカい女……!!」
男達の戦場に余裕があり色気もある女性の声が響き渡る。キッド達の背後に現れた身長8メートルを超える花魁姿の美女とその部下である和装の美女達や男達にキッド海賊団が驚いた。その先頭に立つ女にも見覚えがある。こちらは手配書でだが、百獣海賊団の真打ち最強の6人の1人を、新世界で生きる海賊達が知らない筈はない。
『百獣海賊団“飛び六胞”ブラックマリア 懸賞金7億1200万ベリー クモクモの実(古代種)モデル“ロサミガレ・グラウボゲリィ』
「でも少し元気がないみたいね。手伝いに来たのだけど……もしかしたらその必要はなかったかしら?」
「ブラックマリア!! 助かるぜ!! ──お前達もよく来てくれたなァ~~~~♫」
「ハチャチャ!!」
「ゴキキ!! ゴキキ!!」
「くにゅにゅ~~~♡」
「!!? 何だあの背後のデカい連中!!」
「巨人族よりデケェぞ!!」
「飛び六胞まで……!!」
“飛び六胞”ブラックマリアがその下半身をクモのそれに変えて、妖怪の如き姿を持つ爬虫類や昆虫の
「ハッ……!! 次はトラファルガーの野郎でも来ると思ったが……相手は女か!!」
「囲まれたぞ、キッド……!!」
「ああ……こうなりゃ戦って突破するしかねェ!! ──おいホーキンス!! やれるな!?」
「少し待て。…………“0%”」
「! てめェ、こんな時まで占いなんか……!!」
敵の軍団に周囲を囲まれ、追い詰められたキッドとキラーは戦うことを決めて同盟相手のホーキンスにも声を掛けた。──が、ホーキンスはカードを使った占いを行っている。いつもの事だが、こんな切羽詰まった状況でやりだすホーキンスにキッド達が急かそうとした。ホーキンスは占いの結果を見るなり、僅かに眉を落とし、そして残念そうに息を吐く。
「……そうか……残念だ」
「あァ!? 何を占ってやがる!!」
「……おれの、“逃走成功率”。そしてこの戦いの勝利の確率。死亡率……お前達のも含めて……結果が出た。ゆえにおれは
「……? 何を……!?」
ホーキンスが低い声で独り言のようにそう答え、立ち上がる。そして近くのキッド海賊団の船員に対し──刃で斬りつけた。
「!!?」
「……!! ホーキンス!!?」
「──おれは降伏する……!!! そちらに付かせてくれ……!!!」
「あ……!?」
その瞬間の驚きは敵味方関係なかった。ホーキンスの発言にキッド海賊団も百獣海賊団も……ホーキンスの部下でさえ驚きを見せる。
ゆっくりと両手を挙げながらアプー達に近づいていくホーキンスに誰もが虚を突かれ唖然としながらも、アプーは気を取り直しながら声を掛けた。本気なのかと確かめるように問いを投げる。
「お……おいおい……!! そんなこと言って騙し討ちするつもりじゃねェだろうな!? 本気かてめェ!?」
「当然だ……!! そんなことはしない……この戦い、どちらが勝つかは明白。逆らい戦ったところでおれに未来はない。アプー……お前には多少こうなった恨みもあるが……こうなれば飲み込もう。カイドウ
「マジかよ……!!」
「……!!」
「ま……待ってくれ!! ホーキンス船長!!」
「お、おれ達も……!!」
敵であり、裏切ったアプーですら困惑する。ホーキンスは害を加える様子もなく百獣海賊団側に歩いていき、すんなりと寝返った。無法者の集まりである百獣海賊団も、この変わり身の速さにはある種の不気味さを覚える──が、その思いはすぐに孤立したキッド海賊団への同情の笑いへと変わった。
「ギャハハハ!! おいマジかよ!! 何もしてねェのに瓦解しやがったぜ!!」
「なんて可哀想な人達……!!」
「これじゃあマリア姐さんが出なくても潰されてしまいそうね♡」
「……!! ホーキンス……!!!」
「てめェ……!!」
「悪いな、キッド、キラー。同盟は解消だ。敗けると分かった戦いに挑む程、おれは命知らずじゃない……!! 逃げることも不可能。おれにはこれ以外の道はない……お前達も投降したらどうだ? おれ程ではないがお前達がこの島から無事に逃げおおせる確率は低い……“5%”……」
「っ……! こ、の……!!」
「……分かってはいたがお前達は選ばないか……まァ運が良ければ逃げられるだろう。元同盟相手として幸運を祈ってるぞ。──もっとも、おれが寝返った時点で更に確率は低くなるとは思うがな」
「てめェら……覚悟しやがれ!!!」
淡々と占いの結果を口にし、投降すら促すホーキンスに対し、キッドの怒りが爆発する──その瞬間、周囲に広がるように生じたその覇気は百獣海賊団を僅かに怯ませる。
「!!」
「……! 今の覇気は……!!」
「……!! 驚いた……あなた……“覇王色”の素質を持ってるのね。カイドウさんやぬえさんと同じ♡」
「あァ……!!? おれが……!!?」
その覇気の名を……“覇王色の覇気”のことを知るブラックマリアを始めとする百獣海賊団はキッドが発したそれに驚愕し、ほんの少し汗を掻く。怯むのも当然だ。構成員8万人を超える百獣海賊団と言えど、覇王色の素質を持つ者は片手の指で足りる程しかいない。
それほど希少な選ばれた才能だ。密かにブラックマリアは、この場にやってきたことは間違いではなかったと思い知る。アプーやドレークだけでは手こずっていたかもしれないと。
「アッパッパッパッパ~~~!!! 今のは驚いたが有利なのはこっちだ!! さァ覚悟しなキッド~~~!!!」
「不憫だな……せめてもの情けだ。早めに終わらせてやる」
「怒った顔が素敵ね♡ キャプテン・キッド……そっちもマスクの下が気になるし、捕まえたら2人共私が飼ってあげるわ……!!!」
「黙れてめェら!!! こうなりゃ全員……全員おれ達だけでブチのめしてやる!!! ──行くぞ、キラー!!」
「ああ……!!」
──しかしどれだけ怒ろうと……“覇王色の覇気”を目覚めさせようと、状況は変わらない。
圧倒的に不利な状況の中、キッドはキラーと自分の仲間だけを信じて敵へ立ち向かっていった。“海賊王”になるため、目の前の敵を何としても討ち倒す。その意気と才能は良し。
──だが彼らはまだ……その力の使い方を知らない……未熟な若者でしかなく、洗礼を乗り越える程の力も持ち得てはいなかった。
──コロシアム内部“貴賓用観覧席”。
「! ま~~ま~~~~!!」
「うわっ!! ど、どうしたんだ急に!!? なあムサシ、こういう時はどうすれば……!!」
「……感じたか……」
デルタ島の中心。コロシアムの窓のない観覧席に子供の声が響く。
観覧席というよりは客室のような内装で、ベッドやソファなどが置かれているその部屋にいるのは二本の角の生えた3人の家族だ。
その1人であるヤマトは腕の中に抱く自分の姪、オワリが突然喚き出したのを見て戸惑い、妹であるムサシに助けを求めたがムサシの方は冷静にオワリを見ながら言葉を返した。意味の分からない答えにヤマトは頭に疑問符を浮かべる。
「感じた?」
「ああ。オワリはどうも気配に敏感でな。特に強い相手となると我以上の鋭さを見せる。持って生まれた見聞色の覇気と……
「素質……やっぱりオワリも……」
「ま、血筋的には妥当と言ったところだが。──オワリ。この気配はイヤか?」
「んー……んー……」
ムサシがオワリにそう聞くとオワリは何とも言えずに唸る。まだ1歳にも満たない赤ん坊だが、既に単音で喋り、簡単な言葉なら理解するオワリだ。“イヤ”と声に出すことは出来るが、今回は応えない。
「何か唸ってるけど……」
「別にイヤでもないか、分からないってところだな。オワリは危険を感じる相手の気配を感じると露骨に嫌がる。──ほ~ら、オワリ~~ボールだぞ~~♡」
「! ぼーる!!」
「あっ!!」
代弁するようにムサシがヤマトの問いに代わりに答えると、ムサシはおもちゃ箱から複数のボールを取り出し、猫なで声を出しながら宙に投げてみせ、ヤマトの腕の中から飛び出していったオワリを満足そうに見つめた。宙に浮いたままボールを追いかけ、触れたボールを宙で動かして遊び始めたオワリを気に留めることはない。能力を手に入れてからは日常茶飯事な光景だ──だがヤマトの方はそうではないようで。
「……いつもながら慣れない光景だ……オワリもそうだが、猫なで声で喋るムサシも……」
「いい加減に慣れろ、姉上。我は一児の母だぞ? 子供にまで硬い言葉で喋るワケにはいかないし、姉上だって既婚者なのだからもう少し優しく接してみろ──だよね、オワリちゃ~~~ん♡」
「マーマー!!」
「……お、オワリちゃーん♡ そうやって高いとこに浮いて大丈夫でちゅか~~?」
「…………」
「不評のようだ」
「おい!!!」
相当恥ずかしかったのか、頬を赤く染めながらやらせたことをムサシに怒ってみせるヤマト。子供の扱いにおいてはムサシの後塵を拝しており、慣れていないことを自覚している。再び遊び始めるオワリを横目で見ながらヤマトはそっぽを向いた。
「……だから言ったんだ。僕に子守りは向いてないんだから下手なことをやらせないでくれ。そもそも結婚だって別に望んでしたワケでもなければ生活が変わったワケでもないんだからな!!」
「それでも外に出ることは叶っただろう。姉上が望む形でないことはさておき……あの男もそれほど悪い相手ではないようだが……先程も外に出て行ったがやはり報告を聞いて家族の為に戦いに行ったのだろう?」
「……ああ。妹を誘拐した相手の一味が来てるらしい」
「──“黒ひげ海賊団”だな……フン……奴が来てるなら我も向かいたいくらいだが、どうせ来てるのは一味の誰かだろう。奴は狡猾だからな……狙いが分からない以上、オワリの側を離れるワケにはいかない……業腹だがな」
「…………」
ヤマトの結婚の話になり、その相手の敵の話になるとムサシは忌々しそうに鼻を鳴らして眉をひそめる。メアリーズの報告で聞いた“黒ひげ海賊団”が襲撃に加わっているという話は、ムサシにとっても行動を起こすのに十分な理由であった。ヤマトの夫と同じく部屋を飛び出して行ってもおかしくはなかったし、昔ならそうしていただろう。
だが“黒ひげ”が狡猾であることは“白ひげ”の船で事件を起こした時から……頂上戦争で横槍を入れてきた時から知っているし、ここで行動を起こしてもあまり結果は変わらないと見てムサシは立ち止まった。
そしてヤマトの方は黒ひげがムサシにとっても世話になった相手の仇であり、認めてはいないが一応自分の夫である相手の仇でもあるとのことで適切な言葉が見つからずに無言になる。黒ひげが何をしたのかはヤマトも把握している。ヤマトにとっても気に入らない相手だ。
だがそれよりもヤマトには気になることがあり、そのことが再び気になってムサシに切り出す──自分の好きな侍の安否だ。
「……僕も……できれば今からでも飛び出したい……!! なあムサシ。やっぱり今からでも……!!!」
「──やめておけ、ヤマト姉上。状況がより悪くなるだけだ」
「……!! もし逃げ切れなかったらどうする!!? それにもしかしたら……今なら僕達も加勢すれば……!!!」
「…………」
ヤマトの切羽詰まったような声が部屋に響き渡る。言葉の相手であるムサシは無言で、数秒後にはオワリの「きゃっきゃっ」と遊ぶ声だけが響く静寂になった。
そしてムサシがややあって言葉を返す。ヤマトの思いを知りながらも彼女は冷静だった。冷静に戦況を見極め、それを改めて口にする。
「……ブエナ・フェスタが集めた海賊達は……かなりの戦力だ」
まずそう切り出す。この騒動を起こしたブエナ・フェスタの手腕とそれによって集った海賊達による戦力は確かに強力だと。
「作戦も悪くない。“真打ち”達が軒並み負傷して疲労しているこのタイミングで奇襲をかけたのは見事だ。各戦力を分断し、父達と一対一の勝負にまで持ち込んでみせた」
そして次に計画を評価する。主力である“真打ち”が負傷するであろう“百獣杯”で襲撃をかけるのは悪い作戦ではない。むしろ好機だ。これだけの機会は滅多に訪れないだろう。そこを突く作戦もこのタイミングを選んだのも見事だった。
「連合軍の戦力も戦争を仕掛けるには十分だ。特に……“鬼の跡目”ダグラス・バレットに“赤の伯爵”パトリック・レッドフィールドの実力は半端なものではない。その他にも油断は出来ない猛者が集っている」
そして今の戦況を成り立たせている戦力は──決して“四皇”に劣るものではないとムサシは評価する。
仮にこれが赤髪海賊団かビッグマム海賊団……バギー海賊団であれば分からなかったと。
だがそうじゃない。今相手をしているのが──“世界一の海賊団”でなければ。
「──だが敗ける。この戦力では……決して勝てやしない!!!」
「……!」
ムサシは断言する。──それが自分達が動かずにここでじっとしている理由だと。
光月家家臣である傅ジローを助けに向かおうとしたヤマトを止めて説得したのはムサシだ。今ここで動いても状況がより悪くなるだけ。今動いても何も結果は変わらないと言って聞かせた。
「今や百獣海賊団は四皇の枠組みすら超える“世界一の戦力”の持ち主……!!! 真打ちに“飛び六胞”……“大看板”という強力な幹部を一時的に止めたところで意味はない。それは“大前提”の話だ……!!! 百獣海賊団を倒すには大前提として、協力して幹部を倒せるだけの大量の戦力がいる。我らが加勢したところで……精々1人か2人、倒せれば良い方だ」
「っ……!」
それをもう一度言って聞かせる。この戦力では、“世界一の戦力”を誇る百獣海賊団は倒せないと。
計画したフェスタや襲撃に参加する海賊達より身内であるムサシが誰よりもその強さを分かっている。ヤマトも本当は分かっている筈だと。
2人がこの機に立ち上がっても、戦力も不十分。味方は一時的にタイミングを合わせただけの即席の連合軍だ。息も合わなければ協力も出来ない。
そして何より、最も勝てないと断じる理由がある。それは──
「そして何よりも……あの2人に“
「! それは……」
メアリーズの報告で聞いたその現在の状況に、ヤマトも苦い表情を浮かべてしまう。それを否定したいヤマトにとっても納得がいってしまう理由だったのだ。
ヤマトもムサシも……肉親であるがゆえにその底知れない強さを知っている。彼らが自分達の想定すら超える“怪物”であることを。
「どうやらそれなりに傷を負わせてはいるそうだが……それでも“最低限”だ。そこから勝利を得るのはまた難関。ましてや
「……っ……なら諦めろと……!?」
「……赤鞘のことなら……まだ助かる道はある。だが失う覚悟だけは決めておくしかない。もはや何の犠牲もなく“百獣”を倒すことは出来はしない」
「……信じて良いんだろうな……?」
「ああ……我は小紫の奴ほど極端に考えるつもりもない。救える者は救い……時期までに“機会”と“同志”を集めるように動く──いずれ来る戦いに挑む……“新世代”が集うまでに……!!!」
「…………」
ムサシが強い言葉で言い切る。この部屋にも床や壁や天井、近くにはメアリーズはいない。
もっともいてもいなくてもその狙いはバレている可能性は高いが、それでも2人の意志は変わらない。
百獣海賊団を止める。そのためには我慢しなければならないと、ヤマトが拳を強く握って血を滲ませるのをムサシは感じながらも、動くことを是とはしなかった。
──この戦いで“百獣”と“妖獣”を討てる可能性は……限りなく0に近いだろうと知っていたから。
とある島で採掘出来る頑強な素材で作られたコロシアムは、戦いの余波によって次々と破壊されていた。
「ハァ……ハァ……!!」
「カゲカゲの実は厄介だな。モリアの奴を思い出す……奴も逃げるのが得意だった……!!」
「……!」
舞台と観覧席が広がるコロシアムの内側で、長い刀を持った2人の影が行き交う。
そのどちらもが剣豪で、新世界で名の知れた強者であった。1人はインペルダウンの所長、現新政府の大将である“マゼラン”と同格の2枚看板と称された黒ひげ海賊団の戦闘員“雨のシリュウ”。
もう1人は百獣海賊団の大看板“火災のキング”であり、2人の戦いは互角と思われた──否、最低でも多少の有利がキングに付く程で、シリュウは決して戦えない相手ではない。
無能力者であった頃からマゼランとタメを張っていたシリュウがカゲカゲの実を得てそれを使いこなした戦闘を行っている。今も、キングの刀の振り下ろしにシリュウは自分の影と入れ替わることで回避を行う。カゲカゲの実は自身の影を操って戦闘に参加させることも、それを変化させて武器とすることも、影と入れ替わって回避の手段とすることも出来る戦いの手札の多さに秀でた能力だ。
「また逃げたか」
「チッ……どうすりゃ良いってんだ……!!」
それにシリュウの剣術を合わせれば戦えない筈はない。覇気もそれほど劣っている訳でもない。キングの武装色は強力で、一度受けそこねるとその怪力も相まって一撃で戦闘不能になってしまう程に強く、斬撃がコロシアムの舞台を真っ二つに斬り裂く程に鋭い。先程まで名だたる真打ち達が戦い、傷一つ付かなかった舞台が。
ゆえに回避を優先的に選択し、戦闘を行うことはシリュウにとって至極当然の答えだ。そもそも
敵地でそんな相手に1人で真正面から打ち合うことを選択するほどシリュウは真っ当な人物でもバカでもない。カゲカゲの実には影を切り取ることで相手を一撃で昏倒させ、日に浴びせることで灰にする一撃必殺の手段もある。そちらを狙うのが遥かに賢い。
「──こちらに逃げたな……!!! ならおれが仕留めてやる……!!!」
「……!!」
「“
「!!!」
──だが、それすら叶わない状況にシリュウは陥っていた。
コロシアム内部にいる怪物は1人だけだと思っていた。だが、そうではない。
影で移動した先、そこにいたもう1人の長身の男がそれを見聞色の覇気で先読みし、覇気を込めた拳を飛ばしてシリュウを思い切り殴りつける。
その相手もまたシリュウと互角以上に戦うことが出来る新世界の怪物だ。だと言うのに──
「──どうした? 逃げてみろ」
「……!!」
「逃げねェのなら真っ二つだ!!! ──“
「!!!」
──もう一方も攻撃を止めてはくれない。
拳で殴られ、激突した壁の横にはキングがいた。炎を纏った刀を上段から思い切り振り下ろし、逃げることも受けることも出来ないシリュウの腹を掻っ捌く。
「グ……!! アァ……!!」
「フン、こんなもんか。目論見が外れて残念だったな。おれ1人でもこうなるのは時間の問題だったが……運悪くここにはおれ以上にお前達にブチ切れてる男がいた」
口から血の塊を吐き、焼け焦げた床を転がるシリュウを見下ろし、キングはほぼ決着が付いたとそこで立ち止まる。
すると今度はまた1人近づいてくる男がいた。痛みに喘ぐシリュウを見下ろして、しかしキングよりも容赦なくその腹を踏みつける。拷問好きのキングよりも容赦がない。
だがそれも当然だった。キングが言及した自分よりもブチ切れてる男がその男。同盟相手で唯一祭りに招かれていたシャーロット家の次男にして“4将星”最強の猛者。
『ビッグマム海賊団“スイート4将星” シャーロット・カタクリ 懸賞金13億5700万ベリー』
「──ようやく終わったか……手間取らせやがって……!! “黒ひげ海賊団”……!!!」
「……!」
「分かってるよな……!? 殺されたくなければさっさと吐け!! おれの
妹を攫われたことで、ビッグマム海賊団の誰よりも怒り、その首を取ろうと熱心になっているシャーロット家の最高傑作がそこにはいた。
シリュウにとってはその男がコロシアムにいて、自分達がいるという報告を聞いた途端、戦いに参戦してきた──それこそが何よりも手痛い誤算。
キング1人でも手に余る。そこに更にカタクリも同時に相手にするとなれば……自身の命運が尽きるのも納得の状況だ。
「……言やァ……命は助けてくれるのか……?」
「それは黒ひげの態度と妹の安否次第だ……!!!」
「おい、拷問ならおれがやる。お前は下がってろ」
「黙れ。これはウチの問題でもある……!! 指図される謂れはねェ……!!」
「……と、こういう有様だ。面倒だがビッグマムにだけ情報を渡さねェワケにはいかねェ。こいつの身柄はビッグマムに渡すとして……そっちはどうだ?」
『ええ──こっちももう終わったわ』
キングはシリュウの胸ぐらを掴み、自ら拷問してでも妹を助け出そうとするカタクリの怒りを見て息を入れるとやってきたメアリーズの真打ち“バオファン”に向かって声を掛ける。するとその顔の文様から返事が返ってきた。
──それはコロシアムの内部。ヤマトやムサシがいる部屋の回廊からの通信だ。
「ムルンフッフッフッ……!! そっちも随分な悪女ね……!!! アタシが化かし合いで負けるなんて……!!」
「相性が悪かったわね♡ まあ一対一でもいずれは同じことではあるけれど……ここは貴方達にとって、敵の本拠地……!! 自分が化かされてることにも気づくべきだったわね」
「──海楼石の手錠で拘束しました。ジョーカー殿」
回廊で1人、倒れるのは黒ひげ海賊団の戦闘員であるカタリーナ・デボン。最悪の女囚と呼ばれ、相手を化かすことでは海賊の世界で屈指と言われた彼女は背後からの攻撃で深手を負っていた。
それを行ったのは今は前方にいる百獣海賊団の大看板“戦災のジョーカー”であり、その要因となったのはこちらを部下の忍びに拘束させたジョーカーに化けていた顔の長い1人の男。ジョーカーの信頼するメアリーズの真打ちであり、元お庭番衆の隊長である──悪魔の実の能力者。
「ご苦労だったわ、福ロクジュ。おかげで楽に仕留められた……!!」
『百獣海賊団“真打ち”(元お庭番衆隊長)福ロクジュ イヌイヌの実(幻獣種)モデル“化け狸”』
「いえ、それも能力を授けてくださったカイドウ様やぬえ様のおかげで御座います」
「フフフ♡ わかるわ。あの人達のおかげで今がある……きちんと感謝して働かないとね。裏切り者は態度で示さなくちゃ♡」
「はっ。承知しております」
長い頭の上に葉っぱを載せていた忍びの頭領、福ロクジュはジョーカーに丁寧な口調で頷き、部下を動かしてデボンを拘束した上で運ばせる。
デボンとの戦闘が一瞬で終わった理由がこの福ロクジュだった。福ロクジュはデボンと同じ……“化ける能力”でジョーカーに化け、デボンの目を欺いた。その隙に本物のジョーカーが背後から奇襲を仕掛ける。それだけで戦闘の趨勢はついてしまった。
つまり戦う前からデボンは負けていたのだ。デボンは最初から化けていたことを見抜かれ、相手が別の能力で化けていることを見抜けなかった──それが敗因。
「さて……貴方はウチで引き取るから覚悟しなさい。ビッグマム海賊団も恐ろしいけれど、ウチには拷問好きが多いのよ」
「……構わないけれど、指名出来るならぬえさんを指名したいわねェ……!!」
「あら珍しい。ぬえさんの拷問を希望するなんて……普通は1番嫌がるものよ。まあぬえさんは忙しいし気まぐれだから希望通りに行くとは限らないけれど……」
『担当は後で決めればいい。それより他の場所はどうなってる? クイーンのバカはどうでもいいが、ジャックの奴はどうした?』
「ジャックはさすがに苦戦しているみたいね。ダグラス・バレットに一度やられてすぐに新政府の大将の相手だから……それでも戦闘中という報告は来ているから頑張ってはいるようだけど」
『フン……あいつなら死ぬようなことはねェだろうが新政府の大将は厄介だ。手が空いてる奴から応援に回せ』
「了解。クイーンの方は?」
『──知るか。どうせあのバカは勝手に動いて勝手に対処する。放置してろ』
「相変わらず冷たいのね。フフ……でも、そうね……表もそれほど長くは持たないハズよ」
メアリーズ越しにキングとジョーカーがやり取りを行い、各地の戦況を見極めながら指示を行う。“大看板”はジャックが多少苦戦しているとの報告が入っているが、他は概ね問題はないとジョーカーは見ていた。コロシアムの周辺を担当しているクイーンもそろそろ対処を終えるだろう。
こうなれば後は徐々に押し潰してしまえばいい。数が数だけに少し時間は掛かるが、逆に言えば時間の問題でしかないものだ。
……だが辛うじて、部下達が気にする問題があるとすれば。
「カイドウさんとぬえさんは……結構やられているみたいだけど」
『問題ねェ。部下共には戦いの邪魔だけはさせねェように他の敵の対処をさせろ』
「変わらずね。わかったわ」
と、一応キングへ確認を取ってから変わらない対応を改めて部下へ告げるジョーカー。そう、これは全くもっていらない心配なのだ。
戦いを見ているという部下達からは心配や不安、戸惑いの声が聞こえてくるが全く問題ない。この程度を問題とするような相手ならそもそも自分達は部下になどなっていないし、2人ともとっくの昔に──死んでいるだろうと。
コロシアム周辺。百獣海賊団の主力が集まるそこを攻め落とそうと多くの海賊達が集う激戦区。
その最前線で戦うのは今回の計画で集った海賊達の中でも1、2を争う程の凶悪な破壊者──バーンディ・ワールドだった。
「“モアモア100倍速”!!!」
「! 消えた!!?」
真打ち達が集まる地上から一瞬で消え、再びコロシアム外周部に向かって距離を詰めようとするワールド。
モアモアの実で100倍まで高めた“剃”の速度は百戦錬磨の真打ち達でも捉えられないほどの凄まじい速さであり、ワールドの肉体にも負荷が掛かる。そう長い間使えるような技ではない。
だがここにいる相手はそれを使わなければならない相手なのだ。そうしなければ仕留めることなど出来ない。それを理解しているがゆえにワールドは躊躇うことなく全力で突撃する。だが、
「──随分速いじゃないか……!! だが貧乏人は地上へお帰り願おう……!!!」
「!」
それを撃ち落としたのは大看板のクイーンではなく──その横にいた”黄金帝”ギルド・テゾーロ。彼はその右腕に能力で生み出した黄金のガントレットを着けて覇気を込めてワールドの顔を殴りぬく。
「“
「!!!」
地上へ叩き落とされ、大地を砕くテゾーロの一撃。ワールドはその大地の上で僅かに額に血を滲ませながらも、戦意を落とさない。なおも戦おうと立ち上がろうとするが──地上は敵だらけだ。
「海外の海賊については詳しくねェが……お前は討ち取れば大手柄になりそうだ……!!」
「!?」
「侍……!! 大丈夫かワールド!!?」
「こんなもの掠り傷だ……!!」
地上へ落ちたワールドを真っ先に、ワールドが気づくのが遅れる速度で斬りつけたのは尻尾と鋭い爪を持つ人と獣の特徴を持った1人の男。ワールドを心配するビョージャックが言うように、その男は侍で
『百獣海賊団“真打ち”(元見廻り組総長)ホテイ リュウリュウの実(古代種)モデル“ヴェロキラプトル”』
「悪いが
「……! 真打ち風情が……邪魔をしやがって……!!」
「真打ち風情? イキってるようだがその真打ちにすら出し抜かれるお前はどこの雑魚海賊だ? 海外の海賊は相手の強さすら見抜けねェのか」
「ムハハ!! 全くだバカめ!! お前なんざおれが相手するまでもねェ!!!」
「クイーン……!!!」
ホテイとクイーンの煽りに額に青筋を立てるワールド。特に高みの見物を未だに決め込むクイーンには苛立っていた。
だがそのクイーンに未だに届かないのもまた事実。真打ちや傘下の海賊に阻まれ、ワールドは未だに地上で戦うしかない。少しずつ、身体に傷を負いながら。
「わははは!! バカが!! 背中ががら空きだぜ!! 思い知れ!! おれの能力はこの剣と!! より強靭な爪と牙を持ち!! 俊敏となった──」
「邪魔だ!!」
「ブベッ!!?」
「スパンダムさん!!」
背後から真打ちの1人がワールドを襲う──が、それを裏拳で叩き落とし、ワールドは再び前進した。落ちていた武器の中から刀を手に取り、それを巨大化させて振り上げる。
「“モアモア100倍斬り”!!!」
「うお!! デケェ!!?」
「怯むな!! あいつを討ち取れば昇格のチャンス!!」
「おうよ!! 敗者復活戦だぜ!! だよな!? クイーンさん!!」
「──その通りだ野郎共ォ!!! そいつを討ち取った奴は特別に“飛び六胞”に挑ませてやる!!! 真打ちだろうがそうじゃない奴だろうが平等になァ!!!」
「ウオ~~~!!! 勝ち取ってやる!!!」
「あの程度、なんてことないわ!!!」
「……!!」
そしてその巨大な刀にギフターズ以下の戦闘員が怯むが、それでも真打ち達は昇格を勝ち取るために恐れずワールドを討ち取ろうと一斉に襲い始める。彼らにとって“世界の破壊者”は恐れる対象ではない。実際に破壊したのはワールドではなく自分達だという自負があるのだ。
そんな真打ち達を相手にワールドも立ち向かう。その巨大な刀を振り下ろして道を切り開こうとした。
「──“
「!!!」
「おお!! あの巨大な刀が蹴り砕かれた!!?」
「さすがだぜハンコック様~~~♡」
「惚れ惚れするわ……♡」
「……! “海賊女帝”……!!!」
「ふん……男など何人やられようが構わぬが、貴様に好きに暴れられてはわらわの妹達も危険じゃ。さっさと石にしてやろう」
だが今度は女の蹴りによって砕かれ阻止される。元王下七武海“海賊女帝”ボア・ハンコックだ。その美しく長い足で刀身を押し返し、そのまま石にして蹴り砕く。しかもそれだけで終わらず、ワールドの腹を今度は地面に向かって蹴り落とした。
「ガハッ……!!!」
「ワールド!!」
「弱いな。この程度が“世界の破壊者”とは……昔の大海賊と言うのも大したことないのじゃな」
「おおよし!! また倒れたぞ!!」
「首を寄越せ!! 飛び六胞になるのはおれだ!!!」
「オイオイあっけねェぞ!! おれを殺すんじゃねェのか!!? ムァ~~ハッハッハ!!!」
ハンコックがワールドを地面へ叩き伏せると、今度は再び真打ち達が一斉に武器を構えて群がって来る。誰もが
ワールド以外の他の海賊達もいるが、それらは圧倒的な戦力を前に押され続け、徐々にその数を減らしていた。その戦況をワールドの兄であるビョージャックが危惧する。
「マズい……このままだと……!!」
「……! まだだ……!! まだ終わらねェ……!!! まだ
「! ワールド……!! いや、だがアレは……!!」
そして再び立ち上がったワールドが全身を覇気で硬化しながら自身の切り札のことを口にする。ビョージャックはそれを耳にして懸念した。その切り札は対カイドウとぬえに使うとワールド自身が言っていたものだ。それを今ここで使ってしまえば、後の戦いが厳しくなる。
とはいえここを切り抜けなければ後も何もない。そう考えれば──
「……わかったワールド!! そうと決まれば一旦引くぞ!!!」
「ん~~? 何かする気か? おれ達に通じるとも思えねェが……さっさと叩き潰せ!!! ここからも逃がすんじゃねェぞ!!!」
「おお!!」
クイーンがワールドとビョージャックのやり取りを見聞きして部下に指示を出す。何をするにしても膨大な戦力を切り抜けてからだと言わんばかりに。百獣海賊団の猛者達は容赦なく彼らを追い立てようとする。ワールド達としても正念場だ。切り札さえ使えれば雑魚も幹部も一網打尽に出来る。そうすればカイドウとぬえとの戦いにも邪魔もなく挑めるだろうと。ここを切り抜ければ。
──だが両軍が別の動きを見せた……そんな時だ。
「うお!!?」
「!」
「何だ!!?」
コロシアムが──デルタ島が揺れた。
戦場の多くの者達が足を取られ、その場でたたらを踏んだりしゃがんだり立ち止まったりする。そうでない者達も一様に気を取られた。
「……! 始まったか……!! じゃあな……化け猫野郎……!!」
「! ぐ……何だってんだこの揺れは……待ちやがれ!!!」
──東の屋台村。その路地裏ではクロコダイルが傷だらけになったダズを連れてフーズ・フーから逃走を図り、その他の地域でも様々な動きが見られた。
「! 何だ!!?」
「こいつは……どうやらとんでもねェ事が起こりそうで……!!」
──だが殆どの者達がその地震の正体に気づけない中、真っ先に気づいたのはジャックと戦っていた新政府軍大将のイッショウだ。彼は北から感じる気配に強大な覇気と能力の広がりを感じた。周囲一体を取り込む程の──いや。
「まさか
「! い、イッショウさん!!?」
「! 逃げる気か……!!? 待ちやがれ……!!!」
そしてその正体を察知するなり、イッショウは部下を率いて即座に島の外周部へと急がせる。隠しておいた船を能力で浮かせてその範囲からの退避を図った。
そして──
「……これは……」
「ほう……我にもよく分からんが……これは……いや、成程……どうやら奴の切り札という奴らしいな……!!!」
島の東側。ぬえとレッドフィールドもまたそれに気づく。
優れた見聞色を持つ2人はそれを誰が起こしたのかをすぐに理解し、その上で戦闘を止めることはしなかった。ぬえはその隙に、あわよくばレッドフィールドに攻撃を加えるため。レッドフィールドはそれを防ぎながら毒で動きが鈍ったぬえに決定的な一撃を与えるため。
──その交差の結果が出るより先に……その切り札は顕現した。
「──さあ……やっちまえバレット。世界中にお前の力を思い知らせ……大海賊時代も暴力の世界も超える……最高の“熱狂”を始めようぜ!!!」
──1人の男が隠れ家の頂上で腕を広げ、狂気に染まった目で熱狂を成し遂げる怪物の誕生に祝福した。
──それが現れたのは……島の北側。カイドウとバレットが戦う更地となった一帯だった。
「やるじゃねェか、カイドウ……!!! この状態のおれとやり合うとはよ……!!! カハハハハ……!!! 面白ェ……!!!」
「その程度で……おれを殺せると思うんじゃねェぞバレット……!!!」
大地の上に巨大な鉄巨人──自身の船や兵器と合体し変型した“中型バレット”と人型となって全身に出血しない程度の傷を負いながらも相手を睨むカイドウ。
互いに対峙し、覇気を込めながら殴り合う真正面からの戦闘は、分厚い鉄の鎧でその攻撃を届かせないバレットの優勢だった。
何度も覇気を込めた鋼で殴り、痛みに喘ぐカイドウを見下ろし──しかしそれでも倒れないカイドウにバレットはその怪物級の体力を称賛する。そのパワーも中型バレットに押し負けない程だ。戦意も全く挫けておらず、バレットにとってもこれだけ攻撃して倒れない相手は厄介で……そして何よりも面白い。
ゆえにバレットは自然と切り札を切ることを決めた。身体も温まり、カイドウとの戦いも退屈とは言わない。
だが──
「そろそろ……終わりにしてやる!!!」
「!」
──もうこれ以上は無駄だと。
己の勝ちが近いところにあると確信し、それを早めるためにバレットは己の能力を更に広げる。中型バレットから広がる紫色の波。その現象をカイドウも知っていた。
「“覚醒”か……!!」
「そうだ!! 悪魔の実の能力は稀に“覚醒”し、己以外にも影響を与え始める……!!!」
悪魔の実の“覚醒”。
だが驚くべきは──その能力によって得られる効果だ。
「やべェ!!? 何だあれ!!」
「逃げろォ~~~!!!」
「船が飲み込まれたァ!!!」
バレットを中心に広がるそれはデルタ島全体に急速的に広がり、そこにある全ての建造物を破壊して取り込み──島の沿岸部や港にある8割の船……島にあった数百の戦艦や海賊船を取り込んで変形していく。
それによって作り上げられるのは先程の中型バレットが小人に見える程の──圧倒的な巨体。
「カハハハハハハ!!! “覚醒”したおれの能力!!! 思う存分味わえ!!!」
島全体を荒野と化し、天を衝く程の巨大な人型はカイドウやぬえの獣型すら凌駕する“究極形態”。
──“究極バレット”とも言うべき……“大型バレット”だ。
「──さァカイドウ……これに勝ってみろ……!!!」
「!」
普通の人間の何倍も大きいカイドウもまた大型バレットと比べれば豆粒程の大きさだ。
1つの街に匹敵する程の巨大な拳が、強力な武装色の覇気を纏ってカイドウへ押し寄せる。
「潰れろ……!!! ──“ウルティメイト”……“ファウスト”ォ!!!」
「!!!!」
──その技は……仮に受けていたのが王下七武海や飛び六胞クラスの実力者なら──命を失うほどの究極の破壊力の籠もった一撃。
それを耐えられたのは……ひとえに常識外れの耐久力を持つカイドウだったからこそだ。
「ウワアアアアアアアアアアアアアアア~~~~~~~~~~!!!」
凄まじい悲鳴と共に潰れ──しかし途中から悲鳴は聞こえなくなる。
それほど巨大な質量で押し潰され、打撃され……カイドウもまた声が出せない。悲鳴が出ない程のダメージを負った。
“怪物”カイドウもまた……この一撃は決して無視出来ない。
「カハハハハハハ!!! どうだ!!? これぞおれの最強の……究極の力!!! おれだけが勝つための力だ!!! 部下を従え、己の力のみで戦うことを諦めた“四皇”に、おれが倒せるか!!?」
「…………!!」
カイドウは大の字で大地の上に倒れ、意識を保ちながらその言葉を聞く。
そしてその言葉に対する答えを思考する一方で──また1つの勝負に分岐路がやってきた。
「──勝負ありだな」
「……どこが? 私はまだ戦えるけど?」
大型バレットが現れ、1つとなったデルタ島の中心部近くでレッドフィールドはぬえへ向かって勝利宣言を行う。
ぬえは変わらず平気を装っているが、それでも戦っているレッドフィールドには如実にその弱体化が分かった──毒が身体に回り、ぬえの動きが鈍ったことを。
「もはや貴様は我の動きには追いつけない。その臨界点を超えた。我もそれなりに体力と覇気を削られたが……貴様の身体は直に動かなくなる。そうなった時点で貴様がどれだけ硬くともとどめを刺すことは容易い──我の勝利だ」
「だからそういうことは実際にそうなってから言いなさいよ……!!!」
「そう……
「!」
未だ速度の衰えないレッドフィールドがぬえとの距離を詰めてその傘の先端部を覇気で染める。赤く黒い……怪物の血で染まったその針で、怪物にとどめを刺すように。
「──“赤蜻蛉”!!!」
「!!!」
ぬえの心臓にその針は突き刺さり──そのまま衝撃で彼女を真っ直ぐに吹き飛ばす。
口にはしなかったが傘の先端が尖った細い針なのもまたそのためだ。刺突武器の方が硬い皮膚でも貫通出来る可能性は高い。
「そして何より……とどめを刺しやすい」
「……っ……!!!」
心臓を刺され、覇気の籠もった突きでダメージを負い、毒で身体を蝕まれるぬえは瓦礫の荒野の上を何度もバウンドするが、それでも出血を伴う傷はほぼ存在しない。口や胸から僅かに血を流していたが、殆どは痣や出血するほどじゃない薄い切り傷など。
ぬえにとっては──敵との戦いで受けた久し振りの無視出来ないダメージだった。
「少し吹き飛ばし過ぎたか……とはいえ直に終わる。これで能力を手に入れれば──次はお前の兄妹分のカイドウの番だ……!!! 能力の試しがてらやるのもまた一興だな……!!!」
「…………!」
そして吹き飛ばされて地面に大の字のまま転がったぬえはレッドフィールドの言葉を聞き取りながらその言葉に思わず戦う相手以外の事を考えて苦笑してしまう。勝負で熱くなってる最中に別の事を考えるのはあまりないのだが……それでもこんな偶然が起きれば話は別だ。
「…………あんなこと言ってるけど……どうする? ──カイドウ」
「ああ……こっちもおれの次はお前らしいぞ──ぬえ」
レッドフィールドの攻撃で吹き飛んだ先──そこにいたのはバレットによって叩き潰された男……カイドウだった。
互いに珍しい傷を負いながらも2人は意識を保ち、そしていつもの調子で会話を行う。
「というかあんた、ボコられすぎでしょ。どうせ相手を試したいから攻撃を全部受けたりしたんでしょ? その癖やめればいいのに」
「お前が言うんじゃねェ。試すのは一緒だろうが。面白がってやるお前の方が性が悪い」
「それこそ楽しんでるのはあんたも一緒でしょうに。遊んでないでさっさと倒しなさいよ。あんた船長でしょ? 今は総督だけど、こんな姿見られたら情けなくて幻滅されちゃうじゃない」
「それも同じだ。お前こそさっさと片付けろ。おれと同格だと言われてる奴が簡単に倒れるんじゃねェ」
「は? これからやろうと思ってたんだけど?」
「こっちもだ。言われる筋合いはねェぞ?」
カイドウとぬえは地面に倒れたまま互いに遠慮のない物言いで相手を貶すような会話をする。
だがこれは日常だ。昔から、酒を飲む時も敵を殺す時も部下の前でも喧嘩の前も後も変わらない。平常時のやり取り。相手のことはよく分かっている。長い付き合い過ぎて、次に言うことも何となく予想出来た。
「…………ま、でもそうね。そろそろ楽しくなってきたし……」
「…………そうだな。楽しくなってきた……!!! この分ならもっと楽しめる……」
そして次も競い合うように──立ち上がるのは同時。
2人の喧嘩ではよく見られる光景。熱くなるのも同じ。どちらもより楽しむために、すぐ終わらないように本気を出す機会を窺っている。
「「よし、やるか……!!!」」
ゆえに2人とも──本気を出すタイミングもまた同じだった。
デルタ島の中心には“大型バレット”が君臨している。
現在、島の戦況はメチャクチャで両軍共に把握仕切れておらず、一部の強い見聞色の覇気を持つ者がおおよその状況を理解しているのみだ。
だがそんな中でもバレットだけは目で見てその存在がどれだけ強大か理解出来る。
そして見えずとも、ある程度の覇気を持っていればその近くにまたもう1つの極まった力を持つ老人がいるのが分かる。
その2人は自然と、己の獲物がいる場所に向かっているため合流し、しかし協力など考えもせずそれぞれ2人を殺しに砕けた島の亀裂付近──クレーター状になった大地の上に来た。
「あ?」
「! これは……!!」
だがそこで──2人は気づく。
いや、2人だけではない。やはり覇気を持つ者はその膨れ上がった強大な覇気に気づく。
クレーターの中心。土煙の舞う中に2つのシルエットが立っている。
「──ウォロロロ……!!! 久し振りだな……敵を相手に
「──私は前にゼファーを瞬殺する時にやったけどね。……でもまあ、使うのに値する敵に披露するのは本当に久し振り……!!!」
その影は楽しそうに、しかし真っ直ぐにバレットとレッドフィールドに殺気を向けて会話していた。
それは言うまでもない。バレットとレッドフィールドの──いや、この襲撃に参加した者達のほぼ全員が狙っている首……カイドウとぬえだ。
だがその姿は彼らが知るカイドウとぬえではない。2人の姿は、彼らを知る多くの者達が知らない初めての姿。
「ああ。こいつらは本気だ……面白ェ……!!! ウォロロロロ!!! おい、ぬえ!! 前に戦った時はどれだけ戦ったか覚えてるか?」
「さあ。忘れたけど1ヶ月ちょっとじゃない? いつも通り、熱くなって気がついたら結構時間が経ってたから時間は後から聞いたし」
少しずつ土煙が晴れる。その恐ろしい
「ならこいつらはどれだけ持つと思う?」
──龍の硬い鱗を腕から体の前面に。背中の部分と足元にまで広げ、手には龍の爪。足もまた龍の骨格に変化し、背面から生える長い龍の尾を持つ。頭からは自前の2本の角に加え……新たに4本の角を生やした“最強生物”──“百獣のカイドウ”。
「あんまり早いと面白くないからね。それなりには持ってくれるんじゃない?」
──肘先と膝先を虎の、鋭い爪が生えた強靭な手足に変え、身長は伸びて2メートル以上に。より鋭さを増した赤と青の不思議な形の羽。2頭の頭を持つ蛇の尾。口元から2本の鋭い牙。犬か狐にも似た耳を頭からも生やす赤い獣眼の“最恐生物”──“妖獣のぬえ”。
「確かに。こいつらは強ェ。だが──」
「まあね。強いには強いよ。でも──」
両者ともに見たことのない姿だが、知識としては知る形態。
土煙が完全に晴れると──その大地は途端に魔界と見紛う程の禍々しいものへと変貌する。
原因は見るも恐ろしい最悪の兄妹。“百獣”と“妖獣”。暴力と恐怖の権化たる2人の魔獣が──
「──
「──
獣の如く好戦的な笑みと覇王の素質を纏いながら──遂に姿を現した。
ホーキンス→占いに従う確率100%。知ってた。
キッド→覇王色覚醒。新世界の洗礼。
オワリ→素質持ち。成長が早くもうちょっとした言葉なら喋れます。
ヤマト→侍助けたいがムサシに止められた。子守り難しい。
ムサシ→密かに計画進行中。倒すべき相手の強さが計り知れないことを知っている。
カタクリ→黒ひげ海賊団と聞いて参戦。シリュウは犠牲になりました。
シリュウ→キングとカタクリを相手は無理。
キング→技名はかけうどん。
福ロクジュ→能力はゲームから。レッドさんの相棒が持っていた奴。狸。
デボン→いつからそれがジョーカーだと錯覚していた?
ジョーカー→背後から不意打ち。
クイーン→戦うまでもない。
テゾーロ→映画ボスは結構強い。
ホテイ→肉食恐竜の能力を得て軽く凶暴化しつつ強化されました。
スパンダム→タフで素早くなって多少は強くなったけど一蹴される。能力は……
ハンコック→余裕。この戦いは見限っている。
ワールド→相手が格上ばかりで未だにクイーンと戦えず。切り札は船。しかし……
クロコダイル→撤退。
イッショウ→撤退。
フェスタ→熱狂中。
バレット→大型バレットに変形。見返したらやっぱりヤバかった。
レッドフィールド→最大の技で攻撃してとどめを刺しに行く。
人獣型→2人が本気で戦う時に見せる形態。最初からはあんまり出さない。ぬえちゃんは手足の分だけ身長が大きくなります。広がる羽のせいでそれよりも大きく見えるかも。
カイドウ&ぬえちゃん→相手が(兄妹よりは弱いけど)強いから楽しくなってきた!!!
今回はこんなところで。138話にしてカイドウとぬえちゃんが人獣型披露。次回は本気で大暴れします。うるティとチンジャオとかの一部戦闘も決着。そして2年後前の話も終わりで140話からは2年後原作開始。お楽しみに。
感想、評価、良ければお待ちしております。